2024年4月20日

第1051回

【ニュース・ヘッドライン】

  • 選択的D1/D5阻害剤のパーキンソン病試験が成功 
  • リンヴォックは巨細胞動脈炎にも有効 
  • PCSK9阻害剤の3本目の第3相が成功 
  • リリー、GLP-1作用剤を睡眠時無呼吸に承認申請へ 
  • GSK、淋病治療試験のデータを発表 
  • lumateperoneの第3相鬱病治療試験が成功 
  • ロシュ、抗CD20xCD3抗体の2次治療試験が成功 
  • Vertex、新規作用機序の疼痛治療薬のローリング申請に着手 
  • ロシュ、皮下注用Ocrevusを欧米で承認申請 
  • GSK、5価髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンを承認申請 
  • ノバルティス、B因子阻害剤をIgA腎症に適応拡大申請 
  • 武田、エンタイビオ皮下注がクローン病にも承認 
  • FDA、アレセンサの術後アジュバントを承認 
  • 残存乳癌術中検査薬を承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


選択的D1/D5阻害剤のパーキンソン病試験が成功
(2024年4月18日発表)

米国ケンブリッジのCerevel Therapeutics(Nasdaq: CERE)はCVL-751(tavapadon)の第3相進行パーキンソン病試験、TEMPO-3が成功したと発表した。レボドパ治療を受けているが運動症状の日中変動を経験している成人患者507人を組入れて、5~15mgの間で滴定する群と偽薬群を比較したところ、ジスキネジアを伴わないオン時間が各群1.7時間と0.6時間増加し、有意な差があった。副次的評価項目のオフ時間も有意に減少した。早期パーキンソン病に単剤投与するTEMPO-1と-2の結果は24年下期に判明する見込み。

ファイザーがPF-06649751として第2相まで進めたドーパミンD1/D5選択的部分作動剤。Cerevelは18年にファイザーからスピンアウトした。アッヴィが、専ら統合失調症パイプラインに注目して、企業価値ベース87億ドルで買収に合意している。

リンク: Cerevelのプレスリリース


リンヴォックは巨細胞動脈炎にも有効
(2024年4月18日発表)

アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)を巨細胞動脈炎の治療に充てるSELECT-GCA試験が成功したと発表した。コルチコステロイドで治療し改善したら用量を漸減する標準療法に加えて、偽薬、7.5mg、または15mgを一日一回経口投与して、第12週から52週までの持続的寛解率を比較したところ、偽薬群の29%に対して15mg群は46%と有意に上回った。有害事象による治験離脱率は各21%と15%、深刻有害事象発現率は21%と23%だった。尚、7.5mg群はフェールし、数値は公表されていない。

Rinvoqはリウマチなど様々な自己免疫疾患に承認されているが、また一つ増えそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


PCSK9阻害剤の3本目の第3相が成功
(2024年4月18日発表)

米国のLIB TherapeuticsはLIB003(lerodalcibep)の第3相LIBerate-HR試験の成績をACC(米国心臓学会)で発表した。コレステロール治療を受けている心血管疾患または高リスク患者922人を組入れて偽薬または300mgを月一回皮下注する効果を比較したところ、LDL-Cが52週間で偽薬修正後56%低下した。共同主評価項目である第50週と52週の平均値も62%低下。HDL-Cは47%増加した。治療時発現有害事象発生率は両群同程度だった。ヘテロ接合型家族性高脂血症やホモ接合型家族性高脂血症を組入れた第3相も成功しており、24年内に欧米で承認申請する考え。

人フィブロネクチンの第10番3型ドメイン(10Fn3)由来の抗PCSK9アドネクチンに人血清アルブミンを結合して半減期や安定性を向上したもの。同じPCSK9標的薬であるアムジェンのRepatha(evolocumab)は月一回投与する場合は420mg/3.5mLを5分かけて皮下注するが、LIB003は300mg/1.2mLを数秒で皮下注できる。

同社はブリストル マイヤーズ スクイブから取得したパイプラインを開発している。

リンク: 同社のプレスリリース


GLP-1作用剤を睡眠時無呼吸に承認申請へ
(2024年4月17日発表)

イーライリリーはtirzepatideの第3相閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)試験が成功したと発表した。6月のADA(米国糖尿病学会)科学セッションで発表すると共に、年央に適応拡大申請する考え。

このGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)/GIP-1(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体アゴニストは、二型糖尿病治療薬Mounjaroとして22年に米欧日で承認され、23年には欧州では同名で、米国ではZepbound名で、肥満症治療に適応拡大した。心不全やNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)にも有益性が示されており、今でさえ供給不足が生じているのに、需要がどれだけ膨らむのか想像がつかない。

今回のSURMOUNT-OSA試験は米州、豪州、ドイツ、中国、日本などの施設で成人の中重度OSA患者を組入れて、15mgを目標とする漸増方式で週一回皮下注を52週間反復し、AHI(無呼吸低呼吸指数)の改善を偽薬群と比較した。結果は、OSAの標準的な治療法であるPAP(気道陽圧療法)を受けていない患者を組入れた試験では25.3回/時減少し、偽薬群の5.3回/時減少を有意に上回った。副次的評価項目のAHI減少率は各群50.7%と3.0%、体重減は17.7%と1.6%だった。PAPを受けている患者を組入れた試験でもAHIが各群29.3回/時減と5.5回/時減、率では58.7%減と2.5%減、体重は19.6%減と2.3%と、何れも有意に上回った。

OSAの患者の過半は肥満なので既存の適応とオーバーラップするが、体重が減るだけの薬よりも、合併症も改善する薬のほうが患者や医療保険運営組織に対する訴求力が高い。

尚、下記のプレスリリースの本文にはTreatment-Regimen Estimandベースの数値が紹介されているが、ここでは、表に併記されているEfficacy Estimandベースで示した。前者は試験薬自体の効果を知る上で有益だが、試験薬の投与を中止・中断した患者のその後の状況が反映されないなどの憾みがある。投与を止めた後に何もしなければリバウンドするだろうし、他の薬にスイッチすればまた改善するかもしれない。そこで、最後まで追跡して現実の医療において実現するであろう転帰を示すのがEfficacy Estimandベースの数値で、Mounjaroの米国のレーベルには、血糖治療試験などにおけるEfficacy Estimandベースの数値しか記されていない。

リンク: 同社のプレスリリース


GSK、淋病治療試験のデータを発表
(2024年4月17日発表)

GSKは米国政府の資金援助を受けてファースト・イン・クラスの抗菌剤GSK2140944(gepotidacin)を開発、単純性尿路感染症で2本の実薬対照非劣性試験を成功させた。今年2月には単純性泌尿器性器淋病におけるEAGLE-1試験の成功を発表したが、ESCMID(欧州臨床微生物感染症学会)でデータを公表した。約600人の患者を組入れて、750mg錠4錠を10~12時間おいて2回服用する便益をceftriaxone(500mg筋注)とazithromycin(1g経口)を併用する標準療法と比較したところ、3~7日後における微生物的奏効率が各群92.6%と91.2%となり、非劣性だった。

FDAが非臨床データの追加を求めたことなどから、新薬承認申請は25年ごろになる見込み。新規抗菌剤はいざという時のための取って置きとして取って置くことになりがちなので、発売が遅れても財務的な影響は大きくないだろう。

リンク: GSKのプレスリリース


lumateperoneの第3相鬱病治療試験が成功
(2024年4月16日発表)

Intra-Cellular Therapies(Nasdaq:ITCI)はCaplyta(lumateperone)の一本目の第3相鬱病治療試験がポジティブな結果になった発表した。二本目は今四半期中に判明する見込み。

ブリストル マイヤーズ スクイブからライセンスして開発した5-HT2A受容体・ドパミンD2受容拮抗剤。19年に米国で成人の統合失調症治療薬として、21年には双極障害I型やII型の鬱症状の治療にも、承認された。今回は、抗鬱剤治療に十分応答しない鬱病患者485人を偽薬群、または承認用途における用法と同じ42mg一日一回投与群に無作為化割付けして6週間追加投与し、MADRS総スコア(ベースライン値は約30点)の低下を比較したところ、各群9.8点と14.7点、治療効果-4.9点と、統計的に有意かつ臨床的に意味のある差があった。副次的評価項目のCGI-Sも統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を見た。有害事象はドライマウスなど。治療時発現有害事象により各群0.8%と5.8%の患者が離脱した。

精神疾患や疼痛に対する臨床試験は偽薬効果が大きく出てフェールすることが珍しくなく、Caplytaも承認用途における後期第2相と第3相の成績は両用途とも2勝1敗だった。薬がフェールしたのか、試験がやり方や実施状況などのせいでフェールしたのか、判定するために承認されている薬を投与する参考群を設定し、もしこちらもフェールなら試験薬のせいではないと判定する工夫が普及したが、Caplytaのフェールした統合失調症試験は偽薬群の成績が通常より良かったもののrisperidone群はそれを上回っており、また、成功した試験でも用量反応相関が見られなかった。解釈が難しい薬だ。

今回の第3相は2戦2勝となるか、新たな難題が生まれるか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


ロシュ、抗CD20xCD3抗体の2次治療試験が成功
(2024年4月15日発表)

ロシュはColumvi(glofitamab-gxbm)の第3相STARGLO試験で主目的を達成したと発表した。データは未公表。適応拡大申請に向かうことになろう。第3相一次治療多剤併用試験も進行中。

ColumviはB細胞腫瘍のCD20と細胞毒性T細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。23年に欧米で3次以上の治療歴を持つ難治再発びまん性大細胞型リンパ腫などに条件付き承認/加速承認された。今回の2次治療試験は自家幹細胞移植に適さない患者を組入れて、まず抗CD20抗体Gazyva(obinutuzumab)を一回投与してプリトリートした後に、gemcitabine及びoxaliplatinと併用で3週毎に最大8サイクル投与し、その後はColumviだけを最大4サイクル投与する。サイトカイン放出症候群が発現したらActemra(tocilizumab)で治療可。対照群は、gemcitabine、oxaliplatin、及び抗CD20抗体rituximabを最大8サイクル投与した。主評価項目は全生存期間。市販後薬効確認試験を兼ねているので、本承認切替も見込まれる。

第3相一次治療試験はPolivy(polatuzumab vedotin)、rituximab、cyclophosphamide、doxorubicin、そしてprednisoneを併用するPola-R-CHPレジメンに更にColumviを追加する便益を検討している。同社は抗CD20xCD3抗体Lunsumio(mosunetuzumab-axgb)も並行開発しており、Columviは、よりアグレッシブな治療向けと位置付けている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


Vertex、新規作用機序の疼痛治療薬のローリング申請に着手
(2024年4月18日発表)

Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)はVX-548(suzetrigine)のローリング承認申請に着手したと発表した。一刻も早く実用化するために承認申請に必要な3種類の資料を準備の整ったものから逐次提出し審査を始めてもらうもので、第2四半期中に申請完了を見込む。

末梢神経系の疼痛シグナル伝達に重要な役割を果たす電位依存性ナトリウム・チャネル、NaV1.8を選択的に阻害する経口剤。リード・インディケーションは中重度急性疼痛で、臨床試験は腹壁形成術後疼痛と、バニオン切除術後疼痛の二本を実施。初回は100mg、2~4回目は50mgを12時間おきに投与してNPRS疼痛尺度を計測したところ、偽薬比有意に改善した。但し、副次的評価項目であるhydrocodone bitartrateとacetaminophenを併用した群との比較では有意な差はなかった。術後ではない患者など様々なタイプの疼痛を治療した最長14日間の単群試験では良好な安全性と薬効を示した。

糖尿病性末梢神経痛でも今年下期に第3相を開始して70mg一日一回投与の効果をテストする考え。

リンク: 同社のプレスリリース


ロシュ、皮下注用Ocrevusを欧米で承認申請
(2024年4月17日発表)

ロシュは点滴静注用多発性硬化症用薬Ocrevus(ocrelizumab)の皮下注用新製剤を開発、欧米で承認申請した。EUは24年央、米国は24年9月に審査結果が出る見込み。

同社の同じ抗CD20抗体であるRituxan(rituximab)や抗her2抗体Herceptin(trastuzumab)の皮下注用製剤と同様に、Halozyme(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換え人ヒアルロニダーゼを同時投与して皮下組織を部分的に弱体化することにより薬剤の吸収を高めている。点滴静注用製剤は初回と2回目の投与時は3.5時間、3回目以降は2時間、かかるが、皮下注用は10分で足りるので、患者の拘束時間が短く、点滴設備のない医療施設でも使用できるようになる。

効果は血清濃度も、B細胞抑制力も、MRI疾病活動性評価も、今回発表された48週間の再燃リスクも、点滴静注用と非劣性だった。

リンク: 同社のプレスリリース


GSK、5価髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンを承認申請
(2024年4月16日発表)

GSKは米国でMenABCWY(髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン)を承認申請し受理された。審査期限は来年2月14日。髄膜炎菌A/C/W-135/Y群をカバーするMenveoとB群をカバーするBexseroを合体したワクチンで、現在は、CDC(米国疾病管理予防センター)が前者を11~12歳時と16歳時に、後者は医師と本人が相談した上で16~23歳時に1ヶ月おいて2回、接種するよう推奨しているが、一回目のMenveo接種を除き普及率は決して高くない。5価ワクチンは6ヶ月おいて2回で足りるので、ブースター接種とB株ワクチンの普及の一助になりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ノバルティス、B因子阻害剤をIgA腎症に適応拡大申請
(2024年4月15日発表)

ノバルティスは、昨年10月、経口可逆的B因子阻害剤Fabhalta(iptacopan)の第3相原発性IgA腎症試験が中間解析で主目的達成と発表したが、今回、学会発表と合わせて、米国で適応拡大を申請し受理されていることを明らかにした。優先審査を受ける。中間解析主評価項目である9ヶ月時点のUPCR(尿蛋白クレアチニン比)は偽薬調整後で38.3%低下した。このデータで加速承認を取得し、最終解析の主評価項目である2年間のeGFR変化で疾病進行抑制効果を確認した上で本承認切替を狙う。

Fabhaltaは補体系の暴走による様々な疾患に開発され、まず23年に米国で発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として承認取得、EUでも今年3月にCHMPの肯定的意見を獲得した。C3糸球体症でも第3相段階。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


武田、エンタイビオ皮下注がクローン病にも承認
(2024年4月19日発表)

武田薬品はアルファ4ベータ7インテグリンに結合する抗体医薬、Entyvio(vedolizumab)の皮下注用製剤が米国で中重度活性期クローン病の維持療法に適応拡大したと発表した。寛解導入期には静注用製剤300mgを30分かけて点滴し2週後に反復、その後の維持期は従来は同量を8週毎点滴静注していたが、患者本人が2週毎皮下注する選択肢が増えた。もう一つの適応である中重度潰瘍性大腸炎では昨年9月に承認済み。欧日では両用途とも既に承認されているが、米国はペンやそのレーベルにおける記載内容に関する指摘事項があり一旦、審査完了通知を受領したため、遅延した。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA、アレセンサの術後アジュバントを承認
(2024年4月18日発表)

FDAはロシュ/ジェネンテックのAlecensa(alectinib)をALK陽性早期非小細胞性肺癌の摘出術後アジュバント療法に用いる適応拡大を承認した。600mgを一日二回、食中に経口投与する。最大2年間、反復する。第3相ALINA試験で効果を白金ベース化学療法と比較したところ、ステージIBからステージIIIAの全被験者におけるDFS(無病生存)ハザードレシオが0.24、各群のメジアン値は未達と44ヶ月、2年DFS率は93.6%と63.7%となり、統計的に有意且つ臨床的に意味のある便益が認められた。

リンク: FDAのプレスリリース


残存乳癌術中検査薬を承認
(2024年4月17日発表)

FDAは米国の未上場企業Lumicellの Lumisight(pegulicianine)を残存乳癌術中検査薬として承認した。乳腺腫瘍摘出術の前に投与して、摘出後の空洞に残存腫瘍がないか、同時にPMA(市販前承認)された Lumicell Direct Visualization Systemなどの蛍光造影機器を用いて、チェックする。後日、再手術するリスクを抑制することができる。

臨床試験では357人中27人で一つ以上の残存腫瘍が検出された。感度は49%、特異度は86%、43%の症例で一つ以上の偽陽性があり、8%で偽陰性があった。

有害事象は着色尿など。アナフィラキシーなどの過敏反応が枠付き警告された。他の臨床的に重要なリスクは上記の偽陽性など。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年4月推ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24年4月推ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
24/4/30Neurocrine BiosciencesのIngrezza(valbenazine顆粒製剤、ジスキネジアなど)
24/5/9ファイザーのTivdak(tisotumab vedotin-tftv、難治/転移子宮頸癌に本承認切替)
24/5/12モデルナのmRNA-1345(RSVワクチン)
24/5/13Dynavax TechnologiesのHEPLISAV-B(血液透析中の成人のB型肝炎予防を追加)
24/5/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/5/16Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫)
24/5/23BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治リンパ腫)
24/5/25Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
24/5/31BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫)
24/6/4Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ)
24/6/7GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大)
24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
24/6/12アムジェンのAMG 757(tarlatamab、小細胞性肺癌3次治療)
24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、MTRK融合型固形癌に適応拡大)



今週は以上です。

2024年4月13日

第1050回

【ニュース・ヘッドライン】

  • ニトロソアミン対策で治験組み入れを中断 
  • ACC:スタチンOTCスイッチの秘策 
  • 類似企業の売買もインサイダー取引になりうる 
  • アブリスボは60歳未満にも有効 
  • ACC:ApoC-IIIアンチセンス薬がTGを44%削減 
  • ACC:ウゴービの心不全試験、二本目も成功 
  • ACC:ジャディアンスの急性心筋梗塞試験はフェール 
  • バース症候群用薬の承認申請が今度は受理 
  • PCT社のパイプラインの動向 
  • ニーマン・ピックC型治療薬を承認申請 
  • Syndax社のパイプラインの動向 
  • パーキンソン病の持続点滴用新製剤がまたも審査完了に 
  • ODAC:微小残存病変に基づいて加速承認しても可 
  • カービクティが二次治療にも承認 
  • PRAC、GLP-1作用剤の自殺リスクを否定 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


ニトロソアミン対策で治験組み入れを中断
(2024年4月9日発表)

ノバルティスはCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)の早期乳癌臨床試験の新規組入れを中断すると発表した。nitrosamineの摂取規制に対応するため。Kisqaliの承認用途における使用や供給には影響なく、欧米で適応拡大を申請している早期乳癌の術後アジュバント療法の審査は予定通りに進捗と想定している由。

nitrosamineは大気や水、食品などに広く分布しているが、癌原性の疑いがあるため、摂取上限が設けられている。医薬品に関しては、ACE阻害剤の一部に懸念が指摘されたり、FDAがカリウムイオン競合アシッドブロッカーのメーカーに対応を求めた事例がある。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


ACC:スタチンOTCスイッチの秘策
(2024年4月8日発表)

コレステロール治療薬のOTCスイッチはなかなか進まず、日本では2012年にEPA製剤エパデール(イコサペント酸エチル)が中性脂肪値150~300mg/dLの人向けに承認されたが、スタチンは第1号のlovastatinを始めとして開発行き詰まりが相次ぎ、当方の知る範囲ではZocor 10mgが2004年に英国でZocor Heart-Proとして承認・発売されただけだ。ボトルネックの一つがFDAがレーベル理解度試験の実施を求めていること。適応になるかどうか、禁忌や薬物相互作用は問題ないかを自己判定させるものだが、あまり良い成績が出なかった模様だ。この難題を今風の方法で克服しようとした試験の成果がACC(米国心臓学会)とその機関誌であるJournal ofAmerican College of Cardiologyで発表された。

判定用ウェブ・サイトにコレステロール値や血圧、服用薬、心筋梗塞などの既往の有無を入力すると、向こう10年間のアテローム性心血管疾患リスクなどに基づいてCrestor(rosuvastatin)5mgの適否を、使用可、不可、または(処方薬で治療すべきなどの理由で)医師に相談の何れかで判定するもの。アストラゼネカがスポンサーとなり、スタチンのアウトカム試験で数々の成果を挙げたSteve Nissen博士らが12000人以上の人を組入れて実施した。1200人弱が適応となり、薬を発注し6ヶ月間服用したが、発注段階における正解率(医師の判定と比較)は90%だった。

この試験の弱い点は、対象の約4分の3が大卒で米国全体の5割強より高いこと。OTC薬が狙うべき、通院や処方薬を嫌がる人達とどの程度オーバーラップするか分からない。だが、危機管理の要諦は最初からゼロを目指すのではなく、先ず3割削減、達成したら更に3割削減を繰り返すことだ。治療の普及率を上昇させる一歩にはなるだろう。勿論、副作用対策に十分配慮する必要がある。

リンク: Nissenらの治験論文アブストラクト(JACC)


類似企業の売買もインサイダー取引になりうる
(2024年4月5日発表)

SEC(米国連邦証券取引委員会)がMedivation社の元社員をインサイダー取引で告訴した裁判で、連邦カリフォルニア北部地裁の陪審が違法性を認定した。16年にファイザーが同社の買収で合意した時に、公式発表の4日前に期近のアウト・オブ・ザ・マネー・コール・オプションを購入して10万ドル以上の利益を上げたというものだが、ユニークなのは、取引対象がMedivationではなくIncyte社であること。シャドウ・トレードと呼ばれているらしい。連想買いを先回りする手法自体はごくありふれたものだが、インサイダー情報が絡む場合は要注意となる。。

白と黒の境界線は良く分からない。本件では、被告は投資銀行出身で事業開発のヘッドとして様々な投資銀行から各種提案を受けたり、ファイザーとの交渉に同席したりしていた。同社は内部取引ルールとして同社で得た未公開情報に基づき上場株などを取引することを、すべての企業に関して禁じていた。ファイザーのオファー価格は81.5ドルと、Medivationが拒否したサノフィのオファー、52.5ドルを上回り、株式市場における価格より大きく上回っていた。両社が注目したのはXtandi(enzalutamide)という伸び盛りの抗癌剤を開発販売していたことと、時価総額が100~200億ドルと投資対象として手頃であったことと推察されるが、この条件に当てはまり、次の買収ターゲットになりうるのは他にIncyteくらいしかなかった。

まだ陪審段階なので、今後、判事が修正したり、控訴審で差し戻されたりする可能性があるが、SECはシャドウ・トレードの摘発に注力しているようなので、『李下に冠を正さず』。

リンク: SECのプレスリリース
リンク: SECの告訴時のプレスリリース(21年8月17日付)

【新薬開発】


アブリスボは60歳未満にも有効
(2024年4月9日発表)

ファイザーはAbrysvoが第3相MONeT試験で良績を上げたことを明らかにした。60歳以上の人や、胎児の出生後のRSV感染による下部気道疾患を予防するワクチンとして23~24年に米欧日で承認されているが、対象年齢拡大申請に向かうのではないか。

18~59歳の、RSV感染時の重症化リスクが高くなりがちな基礎疾患を持つ863人を組入れて免疫原性を検討したもの。RSV-AとRSV-Bともに、免疫原性が高齢者試験のデータと比べて非劣性だった。高齢者は免疫原性と中重度下部気道疾患の予防効果に関する相関性が明らかになっているので、非高齢成人においても予防効果が期待できることになる。中和抗体価は接種前の4倍に上昇した。

高リスク基礎疾患の内容はCOPDや喘息症、高血圧以外の心血管疾患、糖尿病などの代謝性疾患など。罹患率は18~49歳では人口の9.5%、50~64歳は24.3%とのこと。

ライバルのGSKもAbrysvoと前後してArexvyが高齢者向けに承認され、日欧米で50~59歳の高リスク向けに承認申請中。

リンク: ファイザーのプレスリリース


ACC:ApoC-IIIアンチセンス薬がTGを44%削減
(2024年4月7日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)はolezarsenの第3相家族性カイロミクロン血症候群(FCS)試験、Balanceの結果をACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。18歳以上の患者66人を組入れて低脂肪食と標準療法に追加する便益を検討したもので、偽薬、50mg、または80mgを4週毎に皮下注して半年間のトリグリセライド値(ベースライン値は2630mg/dL)の変化を比較したところ、80mgは偽薬調整後で44%低下し、統計的に有意だった。50mgは22%に留まり有意ではなかった。

被験者の7割は過去10年間に急性膵炎を経験しており、本試験でも53週の治療期間中に偽薬群は23人中11人が発症したが、80mg群は22人中1人、50mg群も21人中1人に留まった。深刻有害事象の発生率は、各群、39%、14%、19%だった。

FCSは100万人に1~2人の超希少疾患。リポプロテイン・リパーゼの欠乏や機能低下によりカイロミクロンを分解できない。同社が創製したWaylivra(volanesorsen)が欧州などで承認されているが、米国は血小板減少症リスクなどから承認されなかった。olezarsenは類薬で、トリグリセライドの代謝を制御するApoC-IIIの発現を抑制する。低量で長期間作用するため安全性の向上が期待され、今回の試験でも臨床的に重要な血小板減少は見られなかった。

24年に欧米で承認申請する考え。同社はアンチセンス技術をもとに脊髄性筋萎縮症用薬Spinraza(nusinersen)など数多くの医薬品の創製に成功した実績を持つが、自社開発・販売するのはolezarsenが初めてになる。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Stroesらの治験論文アブストラクト(NEJM)


ACC:ウゴービの心不全試験、二本目も成功
(2024年4月6日発表)

ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤、semaglutideを駆出率保持心不全の治療に用いたSTEP-HFpEF-DM試験の結果がACCとNEJM誌で発表された。二型糖尿病を併発する患者にも有益であることが明らかになった。

BMIが30kg/m2以上で二型糖尿病の成人616人を組入れて偽薬または2.4mgを週一回、52週間に亘り皮下注したところ、KCCQ-CSS(カンザスシティ心筋症質問票臨床要約スコア)が各群6.4点と13.7点上昇し、有意な差があった。共同主評価項目である体重も3.4%減と9.8%減で有意。副次的評価項目の6分歩行テストも群間差が14.3メートルと好ましい結果が出た。

本試験と対をなす、二型糖尿病以外を組入れたSTEP-HFpEF試験も昨年8月に成功が発表されている。KCCQ-CSSの上昇は8.7点対16.6点、体重減は2.6%と13.3%、6分歩行テストは1.2メートル増と21.5メートル増で群間差20メートルと、まあまあ似たような成績になっている。

同社はこの二本の試験に基づき適応拡大を申請中。承認された場合、製品名はWegovy(体重管理用途における名称)になるのだろうか、Ozempic(二型糖尿病における名称)になるのだろうか?(いずれにせよ、やがて経口投与できるRybelsusに置き換わるのだろうが)。

リンク: Kosiborodらの治験論文アブストラクト(NEJM)


ACC:ジャディアンスの急性心筋梗塞試験はフェール
(2024年4月6日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT-2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)の心筋梗塞急性期試験、EMPACT-MIの結果もACCとNEJMで発表された。入院後14日以内の、心不全や死亡リスクの高い約6500人を偽薬群と10mg一日一回群に無作為化割付けして心不全による入院や全死亡を観察したところ、メジアン追跡期間17.9ヶ月における発生率が各群9.1%と8.2%と若干改善したもののハザードレシオは0.90で有意水準に届かなかった。死亡は各群5.5%と5.2%、心不全入院は3.6%と4.7%だった。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Butlerらの治験論文アブストラクト(NEJM)

【承認申請】


バース症候群用薬の承認申請が今度は受理
(2024年4月8日発表)

米国マサチューセッツ州の新興医薬品開発会社、Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は、MTP-131(elamipretide)をバース症候群の治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。フェールした第2/3相試験に基づくもので、FDA側は懐疑的だったが承認申請を断行。受理されなかったが、患者支援団体の支援を得て、セカンド・チャンスを掴んだ。但し、エビデンスが脆弱であることには変わりなく、優先審査指定されなかったところを見ても、承認の見通しが改善したとは考えにくいが、FDAの上層部が難病用薬の承認基準を引き下げる姿勢を見せているのが追い風だ。FDAは諮問委員会を招集する考え。

バース症候群はX染色体上の遺伝子変異が原因でエネルギー生成が追い付かず、心不全や不整脈、白血球減少などを発現する。ほぼ全員が男性で、罹患率は男性100万人に一人と推定されている。ミトコンドリア標的ペプチド(MTP)のMTP-131はミトコンドリアのcardiolipinに結合しミトコンドリア膜の構造を正常化、機能を改善すると考えられている。

第2/3相TAZPOWER試験で12人の患者を組入れて、偽薬または40mgを一日一回、12週に亘り皮下注射したところ、試験薬群(平均年齢23歳)の6分歩行テスト(6MWT)がベースライン値の400メートルから443メートルに改善したが、偽薬群(平均年齢16歳)も413メートルから444メートルに改善したため、フェールした。そこで、第3相SPIBA-001試験としてTAZPOWER試験(オープンレーベル延長試験も含む)のデータをジョンズ・ホプキンズの19人の自然歴データと比較したところ、6MWTの改善が80メートル超対1メートル足らずとなり、高度に有意な差が見られた。

今回の申請はTAZPOWER試験の長期追跡データが追加されているが、決定的なエビデンスではないだろうから、前回と大きな違いはなさそうだ。

治験成績の評価に難渋しているのはFDAだけではないようだ。上記数値はNIH(米国立衛生研究所)が管轄するClinicalTrials.govに基づくが、NIHの品質チェックを通過できず、3月に改めて提出されたようだ。通過しようがしまいが30日以内に公表されるので、まもなく、何か変更されたのか、それとも無修正か、明らかになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


PCT社のパイプラインの動向
(2024年3月28日発表)

PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)の最近の承認申請の動きを遅ればせながら報告する。まず、PTC923(sepiapterin)を3月にEUでフェニルケトン尿症(PKU)治療薬として承認申請した。米国は7-9月期に、日本やブラジルでも24年内に、承認申請する予定。PKU患者が欠乏するBH4の前駆体であるセピアプテリンを化学合成した経口剤で、2020年にCensa Pharmaceuticalsを5100万ドルで買収して入手したもの。尚、BH4を化学合成した経口剤がバイオマリンのPKU治療薬Kuvan(sapropterin)/第一三共のビオプテンである。

米国では3月にUpstaza(eladocagene exuparvovec)を常染色体性劣性遺伝性疾患であるAADC(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症治療薬として承認申請した。ドーパミンなどの生成に必要なAADCの遺伝子であるDDCをアデノ随伴ウイルス2型をベクターとして脳の被殻に導入する。EUでは22年7月に台湾で実施された臨床試験に基づいて例外的環境条項による承認を取得したが、米国は臨床試験で用いた薬剤と量産品の同等性をさらに確認するよう求められたため、遅れた。

Translarna(ataluren)は14年にEUでデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェ-ルしたため、24年1月にCHMPが条件付き承認の年次更新をしないよう勧告した。米国では承認すらされなかったが、驚いたことに、FDAからのフィードバックに基づき24年央に再承認申請する考えを発表した。

リンク: 同社のプレスリリース(PKU用薬申請、3/28付)
リンク: 同(AADC欠乏症用薬申請など、3/19付)


ニーマン・ピックC型治療薬を承認申請
(2024年3月26日発表)

米国テキサス州の未上場医薬品開発会社、IntraBioは、IB1001をニーマン・ピック病C型治療薬として1月に承認申請し、3月に受理された。優先審査を受け、審査期限は24年9月24日。欧州でも4-6月期に承認申請予定。

リソソームの機能などに関わるN-アセチル-L-ロイシンの経口剤。欧米豪の施設で4歳以上の中重度症状を伴う患者80人を組入れた試験で、第12週の運動失調評価尺度(SARA)がベースラインの15.8から1.97低下し、偽薬群の0.60低下を有意に上回った。有害事象は両群同程度だった。

ニーマン・ピック病のうちA型とB型は酸性スフィンゴミエリナーゼの欠乏が見られ、ジェンザイムのXenpozyme(olipudase alfa-rpcp)が適応になるが、C型はNPC1やNPC2の変異が影響していて、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのZavesca(miglustat)がEUや日本で承認されているが米国は臨床試験がフェールしたことなどから未承認。

リンク: 同社のプレスリリース


Syndax社のパイプラインの動向
(2024年3月26日発表)

遅報第3弾はSyndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)。SNDX-5613(revumenib)を成人小児の難治再発KMT2A再編成型急性白血病用薬として米国で承認申請し、3月に受理された。優先審査を受け、審査期限は24年9月26日。急性白血病の5~10%を占める、ヒストンメチル化酵素の遺伝子再編成のある患者にmenin阻害剤を投与して結合を妨げる。昨年10月の発表によると、第2相試験の二つのコフォートに94人を組入れ、評価可能57人における完全/部分的完全寛解率を調べたところ、23%でメジアン反応持続期間は6.4ヶ月だった。

UCBからライセンスしてIncyte社と共同開発している抗CSF-1R抗体axatilimabも昨年12月に6歳以上の小児と成人の慢性移植片対宿主病の3次治療薬として承認申請した。ピボタル第2相試験で0.3mg/kgを2週毎に投与した群のORR(客観的反応率)が74%、1.0mg/kg2週毎の群は67%、3.0mg/kg4週毎群は50%だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


パーキンソン病の持続点滴用新製剤がまたも審査完了に
(2024年4月8日発表)

Supernus Pharmaceuticals(Nasdaq:SUPN)はSPN-830(apomorphine点滴ポンプ)をパーキンソン病のオフ・タイム症状を抑制する医薬品・医療機器として承認申請したが、二回目の審査完了通知を受領した。最初の申請は受理されず、一回目の審査完了通知の一因であった生産委託先の査察は2月に完了したが、先方が企業秘密事項としてFDAに提出したドラッグ・マスター・ファイル関連の事項と、当社が追加提出したがまだ審査されていない品質関連の指摘事項が、未解決のようだ。FDAと協議する考え。

パーキンソン病はドーパミン製剤やドーパミン作用剤がよく効くが、次第に作用時間が短くなり、症状が現れるオフ・タイムが長期化していく。SPN-830は薬剤を皮下に持続点滴する機器で、US WorldMedsがBrittania Pharmaceuticalsと共同開発した。Supernusは20年にUS WorldMedsの中枢神経系製品・開発品群を買収して入手した。

類似した製品では、アッヴィのfoslevodopa・foscarbidopa持続皮下注入用も欧州(Produodopa名)と日本(ヴィアレブ名)では22年に承認されたが、米国はポンプに関する追加情報が必要として審査完了通知を受領し、昨年12月に追加申請したところ。医薬品と医療機器を組み合わせたハイブリッド承認申請は業際分野でもあるためか、スムーズにいかないことがしばしばある。

リンク: Supernusのプレスリリース


ODAC:微小残存病変に基づいて加速承認しても可
(2024年4月12日開催)

FDAがODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集しMRD(微小残存病変)に基づいて多発骨髄腫用薬を承認する妥当性について意見を求めたところ、12人全員が賛成した。新薬開発期間が著しく長期化したり、今より効果の高いレジメンが埋もれてしまったりするのを防ぐ効果がありそうだ。PFS(無進行生存期間)や全生存期間による評価がベストであることには変わりないが、一次治療などにおいては、MRDに基づいて加速承認しPFSで本承認に切替える事例が増えていくだろう。

多発骨髄腫はthalidomideを皮切りに新薬が続々承認され、昔は再発した時のために取っておかざるを得なかった薬を最初から多剤併用することも可能になった。プロテアーゼ阻害剤と免疫調節剤と抗CD38抗体とdexamethasoneによる治療歴を持つ患者の4次治療薬として承認された薬がプロテアーゼ阻害剤と抗CD38抗体とdexamethasoneによる治療歴を持ち免疫調節剤抵抗性の患者の2次治療に適応拡大、などという事例も出てきた。多剤併用で効果も高まっていくが、標準療法の効果が高ければ高いほど、それを上回るべき新レジメンの臨床試験の必要組入れ数や追跡期間が増加していく。ORR(客観的反応率)が100%に達したら、それを上回るレジメンはもう出てこない。完治率100%ならそれでも良いが、血液学の反応は長期持続しないので、さらに向上する余地がある。

対策がMRDだ。次世代シーケンサーを用いて、10万細胞中1個、あるいは100万細胞中1個という感度で腫瘍細胞の有無を判定する。過去の臨床試験のメタアナリシスで、9ヶ月前後の時点でMRD陰性だった患者は陽性の患者より無進行生存や全生存のオッズが数倍高かった。

昨年12月のASH(米国血液学会)ではサノフィの抗CD38抗体Sarclisa(isatuximab-irfc)の第3相IsKia試験におけるMRD評価が発表された。新患造血幹細胞移植適格多発骨髄腫における標準的レジメンであるKRdレジメン(carfilzomib、lenalidomide、dexamethasone)に追加する便益を検討したところ、インダクション、自家造血幹細胞移植、地固め療法を経て77%がMRD陰性(感度は10万細胞に1個)となった。標準療法群は67%で、オッズ比は1.67、p=0.049だった。もし適応拡大申請しているとしたら、MRDに基づく加速承認第1号になるかもしれない。

この方法の短所は、製薬会社がMRDばかり重視して、延命効果があるかもしれないがMRDにはあまり効かなそうなコンパウンドの開発を後回しにするかもしれない。対策として、FDAは、一本の試験でまずMRDを評価し、平凡ならそのまま、良好なら加速承認を申請して後にPFS解析が成功したら承認申請/本承認切替申請することを推奨している。

重大な短所は有害事象の追跡期間が短くなること。ORR(客観的反応率)が良いのにPFSは悪い、という場合は副作用が原因だろうから、一本の試験でMRDとPFSを評価するやり方は長期安全性を検証する上でも有効なのではないか。

リンク: FDAの諮問委員会に関する資料掲載頁

【承認】


カービクティが二次治療にも承認
(2024年4月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Carvykti(ciltacabtagene autoleucel)が米国で成人の再発難治多発骨髄腫の二次治療薬として承認されたと発表した。プロテアソーム阻害剤と免疫調停剤による治療歴とlenalidomideに抵抗性を示した患者が適応になる。BCMA標的型CAR-T療法で22年に米欧日で4次治療薬として承認されたが、2次治療や3次治療で使えるようになったため対象人口が12万人と6倍近くに増加する。

既存の多剤併用療法であるPVdレジメンやDPdレジメンと比較したCARTITUDE-4試験でPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.41、全生存の解析は未成熟だが34%到達時点でハザードレシオが0.78と好ましい方向を指していた。当初10ヶ月の死亡率が14%対12%と上回ったのは残念だが、投与前の死亡が上回ったようなので、アフィレーシスから薬剤投与まで時間がかかることや、投与前の前処理に用いる抗癌剤の影響もあるのだろう。患者にとっては気休めにならないが。

リンク: JNJのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、GLP-1作用剤の自殺リスクを否定
(2024年4月12日発表)

EMAのファーマコビジランス委員会、PRACは、GLP-1作用剤の自殺・自傷リスクを検討した結果、因果関係を示すエビデンスはないと結論した。昨年7月にアイスランドの動議により検討を開始したが、Nature Medicine誌で刊行されたTriNetX Analytics Networkの後顧的コフォート研究でも、EMAが行った分析でも、リスクの増加は見られなかった。

FDAも1月にリスク上昇は見られないという予備的検討の結果を発表している。

リンク: EMAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
24/4/30Neurocrine BiosciencesのIngrezza(valbenazine顆粒製剤、ジスキネジアなど
24/5/9ファイザーのTivdak(tisotumab vedotin-tftv、難治/転移子宮頸癌に本承認切替)
24/5/12モデルナのmRNA-1345(RSVワクチン)
24/5/13Dynavax TechnologiesのHEPLISAV-B(血液透析中の成人のB型肝炎予防を追加)
24/5/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/5/16 Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫)
24/5/22ロシュのAlecensa(alectinib、ALK+NSCLC術後アジュバント)
24/5/23BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治リンパ腫)
24/5/25Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
24/5/31BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫)



今週は以上です。

2024年4月6日

第1149回

【ニュース・ヘッドライン】

  • ALS用薬の承認返上を決定 
  • 鬱病治療用アプリが承認 
  • イミフィンジ、限局型小細胞癌の維持療法試験が成功 
  • アセクレジン点眼液を老視用薬として承認申請へ 
  • Jazz、抗her2xher2抗体を承認申請 
  • レケンビの維持用法を承認申請 
  • アベクマの3次治療が米国でも適応に 
  • エンハーツ、各種her2陽性固形癌に適応拡大 
  • Basileaの新規セファロスポリンが米国でも承認 
  • アストラゼネカのPNH用新薬が米国でも承認 
  • 向精神薬が発売の15年後に適応拡大
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


ALS用薬の承認返上を決定
(2024年4月4日発表)

米国の新興製薬会社Amylyx(Nasdaq:AMLX)は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬Relyvrio(sodium phenylbutyrateとtaurursodiolの合剤)の米加における販売承認を自主的に廃止する手続きを開始した。市販後に第3相PHOENIX試験で主評価項目も副次的評価項目もフェールしたため。新規患者向けの販売は即日中止、現在治療を受けている患者は、本人が医師と相談の上で継続を望むなら、無料プログラムに移行することができる。同薬の23年売上高は2.1億ドル、このうち1億ドルは第4四半期と急伸していたが、今年3月に第3相フェールが発表されて以来、多くの医師が処方を止め、医療保険も還元対象から外した模様だ。

Relyvrioは22年6月にカナダでAlbrioza名で条件付き承認され、米国でも同年9月に条件なしで承認されたが、共同CEOのJustin Kleesが、直前のFDA諮問委員会で、もし第3相がフェールしたら承認返上も含め患者にとって最善な対応を行うとコミットしていたため、承認返上は順当な成り行きだ。ALSのような難病に関しては米欧日など多くの国が新薬承認の要件を緩和する制度を設けている。今回は加速承認ではないが実質的に似たような格好になっており、加速承認案件も含めて、今後のモデルケースになりうるのではないか。Relyvrioの発売時の価格は年15.8万ドルと高価だったが、製薬会社が市販後薬効試験に真摯に取り組むように、加速承認段階では予定価格の半値で販売するなどの規制を導入するともっと良いだろう。

第3相試験の成績は今月のANN(米国神経学会)で発表される予定。なぜ第2相の成績が再現されなかったのか、注目される。第2相と第3相のデザイン上の違いは、組入れ数(約140人と約660人)、主評価項目(第3相はALSFRSの改定後のものを採用)など。FDAの審査担当者が22年3月の諮問委員会で指摘したのは第2相は追跡不能例が両群17~18%と高い比率で発生していること、試験開始後にALS用薬二剤のどちらかを開始した患者の比率が試験薬群は15%、偽薬群は4%と大きく偏っていること。そもそも、第2相試験のp値は0.034と、決して胸を張れるものではなかった。EUが承認しなかったのも、FDAが当初は第3相をやってから申請するようアドバイスしたのも、無理はなかった。おそらく、医師も患者も、薬効が不確かであることを認識していただろう。

リンク: 同社のプレスリリース


鬱病治療用アプリが承認
(2024年4月2日発表)

FDAはClick Therapeuticsが大塚製薬と共同開発した鬱病治療用アプリ、Rejoynを、22歳以上の鬱病(MDD)の補助療法として510(k)認可を行った。iOS用とAndroid用がある。鬱病用アプリの認可は初めて。

抗鬱剤による外来治療を受けている患者が、認知行動療法の一助として、6週間の治療セッションを受ける。400人弱を組入れた臨床試験で、主評価項目であるmITTベース(1回以上のセッションを受け、その後とベースライン時点のMADRS評価値がある354人)のMADRSが9.03低下した。シャム群は7.25低下で、差は1.78、p=0.0568だった。しかし、副次的評価項目であるITTベースの群間差は2.12、p=0.02、PHQ-9やCGI-Sのp値はどちらのベースでも0.01を下回った。

リンク: FDA Roundup

【新薬開発】


イミフィンジ、限局型小細胞癌の維持療法試験が成功
(2024年4月5日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)が第3相ADRIATIC試験で共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間)と全生存期間の延長を達成したと発表した。限局型小細胞癌の同時化学放射線療法を受けて進行しなくなった患者に1500mgを4週毎投与した試験で、偽薬比統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。

この試験はImfinziに加えて同社の抗CTLA4抗体Imjudo(tremelimumab)も4回だけ投与する群も設定されているが、継続追跡中。

Imfinziは進展型小細胞癌の一次治療に化学療法と併用することが米日欧で承認されている。エビデンスとなったCASPIAN試験ではImjudoも併用する群も設けられたが、フェールした。

リンク: 同社のプレスリリース


アセクレジン点眼液を老視用薬として承認申請へ
(2024年4月3日発表)

米国カリフォルニア州のLENZ Therapeutics(Nasdaq:LENZ)はLNZ100(aceclidine 1.75%)の第3相老視治療試験が二本とも成功したと発表した。年央に米国で承認申請する考え。

アセチルコリン受容体作動剤で欧州では緑内障の治療薬として半世紀の市販歴がある。第3相試験ではLNZ100またはbrimonidine配合剤LNZ101を一日一回点眼する効果を対照群(CLARITY Iはbrimonidine単剤、IIは偽薬)と比較した。主評価項目は点眼3時間後における奏効率で、奏効の定義は近見視力が3行以上改善し遠見視力は1行超悪化しないこと。CLARITY I試験では各群64%、49%、12%、IIでは71%、57%、8%となり、二試験薬群の何れも対照群比で統計的に有意な差があった。

LNZ100の奏効率は10時間後には27~40%に低下する。brimonidine配合剤は持続性が高いと予想されたが、37~39%と大差なかったため、LNG100だけを承認申請する考え。

老視治療薬は21年にアッヴィのVUITY(pilocarpine hydrochloride 1.25%)が、23年にはOrasis PharmaceuticalsのQlosi(同 0.4%)も、米国で承認された。視力検査方法や主評価項目の詳細が若干異なるが、治療効果(奏効率の偽薬群との差)はLNZ100のほうが高そうに見える。但し、こちらの数値は治療初日のもの、Qlosiは第8日、Vuityは第30日と評価時期が異なっている。反復投与するうちに効果が低下するようなこともあるだろうから、同時期のデータを見たいものだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


Jazz、抗her2xher2抗体を承認申請
(2024年4月2日発表)

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、米国でzanidatamabのローリング承認申請を完了したと発表した。適応は、治療歴のある切除不能、局所進行性、または転移性のher2陽性胆道癌。後期第2相のHERIZON-BTC-01試験でcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が41.3%、メジアン反応持続期間は12.9ヶ月だった。同社によると、標準療法の反応率は5~15%とのこと。有害事象による治験離脱率は2.3%、G4の有害事象や、G5治療関連有害事象はゼロだった。

胆道癌は5~19%がher2陽性。zanidatamabはher2の二つの異なったエピトープに結合する抗体医薬で、Zymeworks(NYSE:ZYME)から米欧日などにおける開発商業化権を取得し、中国などの権利を持つBeiGene(Nasdaq:BGNE)と共同開発している。

リンク: Jazzのプレスリリース


レケンビの維持用法を承認申請
(2024年4月1日発表)

エーザイと開発販売パートナーのバイオジェンは、早期アルツハイマー病用薬Leqembi(lecanemab-irmb)の維持用法と皮下注用新製剤を米国で3月までに追加申請する計画だったが、後者は遅延が発表された。

維持用法は追加申請された。現在は点滴静注用製剤を2週毎投与するが、維持期は月一回を予定。エビデンスは過去の臨床試験のデータに基づくモデリングとのことで、用量は公表されていない。また、維持用法にシフトするタイミング(アミロイド・ベータの除去が確認された後?)はFDAと協議中とのこと。

皮下注用は720mg週一回で開始、維持用量は360mg週一回という用法と推定されるが、FDAから維持用量の3ヶ月免疫原性データも提出するよう求められた。このため、一部のデータを先に提出するローリング承認申請を打診したが、皮下注用製剤で改めてファースト・トラック指定を得るよう求められた。3月に指定を申請、60日以内に回答の見込み。

Leqembiによる治療を受けるにはMRIなどの設備を持つ医療施設(多くの場合、遠くの病院)に通院する必要があり、健康に過ごせる残された期間の貴重さを考えると、月一回で済むならその方がよい。皮下注用新製剤も、何回か投与した後に自己注にシフトすることが認められるなら、利便性が向上する。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


アベクマの3次治療が米国でも適応に
(2024年4月5日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブと2seventy bio(Nasdaq:TSVT)は、FDAがAbecma(idecabtagene vicleucel)を成人の難治再発多発骨髄腫の3次治療に用いることを承認したと発表した。主要な3種類の薬(免疫調停剤、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体)を使い終わった患者が適応になる。KarMMa-3試験でPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)のメジアン値が13.3ヶ月と標準的多剤併用レジメンの4.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.49だった。全生存期間の解析は未成熟。

FDAはCD19を標的とするCAR-T療法に関してT細胞腫瘍のリスクが高まるという枠付き警告を導入しているが、今回、AbecmaのようなBCMA標的CAR-Tも追加した。

この適応拡大は日本では昨年12月、EUでも今年3月に承認されている。

FDAは死亡リスク抑制作用が明確でないことなどから3月の腫瘍学諮問委員会でジョンソン・エンド・ジョンソンのBCMA標的CAR-TであるCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)と共に意見を聞いたが、諮問委員の過半が支持した。Carvyktiは二次治療なので承認されればAbecmaより早く使えることになる。PDUFAは4月5日だが、今のところ承認されたという発表はない。

リンク: BMSのプレスリリース


エンハーツ、各種her2陽性固形癌に適応拡大
(2024年4月5日発表)

FDAは、第一三共がアストラゼネカと共同開発販売している抗her2抗体薬物複合体、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を成人の切除不能/転移her2陽性固形癌に用いることを加速承認した。前治療歴のある、他に妥当な治療オプションがない患者が適応になる。抗癌剤の適応は原発部位毎に決定されることが多いが、her2陽性という切り口で様々な癌種に承認されたのは今回が初めて。第2相のDESTINY-PanTumor02試験などに基づく。IHC2+以上の患者を組入れ、成績も良好だったが、承認は3+に限定されている。症例数の多い癌種に絞ってcORR(確認客観的反応率)を示したが、レーベルには症例数が少なすぎたせいかcORRがゼロだった癌種も表記されている。

Enhertuは、IHC法で3+またはISH法で陽性という『her2陽性』の定義を乳癌に関しては変えたが、癌種によって異なるのが面倒くさい。今回、レーベルで適応毎に定義が明記された。

部位別のcORR
部位症例数cORR
結腸直腸癌6446.9%
膀胱癌2737.0%
胆道癌2245.5%
非小細胞性肺癌1752.9%
内膜腫1656.3%
卵巣癌1566.7%
子宮頸癌1070.0%
唾液腺癌 966.7%


リンク: Enhertuのレーベル(FDAサイト、pdfファイル)

Basileaの新規セファロスポリンが米国でも承認
(2024年4月3日発表)

FDAはスイスのBasilea Pharmaceutica(SWX:BSLN)のZevtera(ceftobiprole medocari)を承認した。適応は成人の黄色ブドウ球菌菌血症、成人の急性細菌性皮膚皮膚構造感染症、生後3ヶ月以上の地域感染細菌性肺炎。何れも実薬対照試験で治癒率又は応答率が非劣性だった。尚、院内感染肺炎・人工呼吸器関連肺炎の試験で後者のサブグループにおける死亡率が実薬を上回ったため、前者を含め適応外とされた。

同社は承認までに販売提携先を見つける考えだったが、今回、年央までに決定と変更した。

07年にライセンシーだったジョンソン・エンド・ジョンソンが複雑皮膚皮膚構造感染症治療薬として承認申請し、08年にカナダとスイスで承認取得、EUでもCHMPが肯定的意見をまとめたが、FDAは治験実施施設の査察で49施設中10施設におけるデータの信頼性や検証可能性に関する瑕疵を発見したことから承認を見送り、カナダとスイスは承認を取消し、CHMPも否定的意見に転じた。

JNJがライセンスを返還した後、Basileaは13年に欧州の一部国で地域感染肺炎と院内感染肺炎(人工呼吸器関連肺炎は除く)で非中央手続きによる承認を取得、20年には中国とブラジルでも承認を取得したが、米国は初承認申請から17年近くを経て、やっと承認に漕ぎ着けた。抗菌剤の開発が、資金面など様々な理由で、なかなか進まない現実を表している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Zevteraの最小発育阻害濃度データ(FDA)


アストラゼネカのPNH用新薬が米国でも承認
(2024年4月1日発表)

アストラゼネカは、FDAがVoydeya(danicopan)を発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の成人の血管外溶血の治療薬として承認したと発表した。同社の抗C5抗体、Soliris(eculizumab)またはUltomiris(ravulizumab-cwvz)で治療しても脾臓や肝臓などにおける血管外溶血が残存する、PNHの1~2割程度の患者に、追加投与する。経口剤。日本では1月に承認、EUでも2月に肯定的意見を得ている。

抗C5抗体が古典的補体経路に介入するのに対してVoydeyaは副経路に関わる補体D因子を阻害する。臨床試験ではヘモグロビン値がベースライン時点の7.7g/dLから2.94g/dL増加、偽薬追加群の0.50g/dL増を有意に上回った。59.5%の患者で2g/dL以上増加した(偽薬追加群はゼロ)。

競合品はノバルティスのFabhalta(iptacopan)が昨年12月に米国で承認された。D因子はC3と細胞膜の結合体に結合した補体B因子を開裂するが、FabhaltaはB因子を阻害するので、Voydeyaより川上に介入することになる。抗C5抗体に応答不十分な患者を組入れた臨床試験では、Fabhaltaにスイッチした患者の82%でヘモグロビン値(ベースラインは8.9g/dL)が2g/dL以上増加した。抗C5抗体による治療を継続した患者ではゼロだった。Fabhaltaは抗C5抗体歴のない患者にも承認されていて、抗C5抗体不十分応答にはスイッチなので追加のVoydeyaより安く済みそうだ。。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


向精神薬が発売の15年後に適応拡大
(2024年4月2日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)はFDAがFanapt(iloperidone)を成人の双極障害I型の躁/混合症状の急性期治療薬として承認したと発表した。臨床試験でYMRS症状評価尺度がベースラインの29点から14点低下、偽薬群は10点低下で、有意な差があった。

Fanaptは09年に米国で統合失調症治療薬として承認された。EUは否定的意見だった。効果が小さい、作用が発現するまで2~3週間かかり急性期の治療には適さない、QT延長リスク、肝機能低下や薬物相互作用リスクなどが理由。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
24/4/30Neurocrine BiosciencesのIngrezza(valbenazine顆粒製剤、ジスキネジアなど
24/5/9ファイザーのTivdak(tisotumab vedotin-tftv、難治/転移子宮頸癌に本承認切替)
24/5/12モデルナのmRNA-1345(RSVワクチン)
24/5/13Dynavax TechnologiesのHEPLISAV-B(血液透析中の成人のB型肝炎予防を追加)
24/5/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/5/16 Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫)
24/5/22ロシュのAlecensa(alectinib、ALK+NSCLC術後アジュバント)
24/5/23BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治リンパ腫)
24/5/25Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
24/5/31BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫)



今週は以上です。

2024年3月30日

第1148回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • BMS、KRAS G12C標的薬の市販後薬効確認試験が成功 
  • 網膜色素変性症の遺伝子療法を承認申請へ 
  • SNRIの第3相ナルコレプシー試験が成功 
  • S1PR調節剤のクローン病試験がまたフェール 
  • 発作性上室性頻拍治療薬を改めて承認申請 
  • リジェネロンの二重特異性抗体は審査完了に 
  • CHMP、週一回投与型インスリンなどの承認を支持 
  • CHMP、レケンビの討議をドタキャン 
  • バフセオが米国でやっと承認 
  • MSD、肺動脈高血圧用新薬が承認 
  • ユルトミリスがAQP4自己抗体陽性NMOSDに適応拡大 
  • COVID-19感染予防用抗体医薬がEUA 
  • 高脂血症薬の心血管リスク削減効果が承認 
  • 肺動脈高血圧の合剤が承認 
  • アッヴィのADCが本承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


BMS、KRAS G12C標的薬の市販後薬効確認試験が成功
(2024年3月28日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、KRAS G12C阻害剤Krazati(adagrasib)の第3相KRYSTAL-12試験で主目的を達成したと発表した。第2相試験の反応率データに基づき22年に米国で、今年1月にはEUでも、成人のKRAS G12C変異のある局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として加速/条件付き承認されているが、本承認切替申請に向かうのではないか。

この試験は承認用途におけるPFS(無進行生存期間)をdocetaxelと比較した。副次的評価項目であるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)とともに、統計的有意かつ臨床的に意味のある差があった。

1月にMirati Therapeuticsを約48億ドルで買収して入手したコンパウンド。類薬であるアムジェンのLumakras(sotorasib)は同様なデザインの第3相でPFSがdocetaxelを有意に上回ったが、メジアン値の差は1ヶ月程度、全生存期間の解析は検出力不足やクロスオーバーの影響もあり大差なかったため、加速承認から本承認への切替は成就しなかった。Krazatiの治療効果はどの程度なものか、数値の公表が待たれる。

リンク: 同社のプレスリリース


網膜色素変性症の遺伝子療法を承認申請へ
(2024年3月26日発表)

米国テキサス州ダラスのナノスコープ・セラピューティクスは、MCO-010(sonpiretigene isteparvovec)の後期第2相進行網膜色素変性症試験で主評価項目と主要な副次的評価項目を達成したと発表した。FDAと相談し、下期に承認申請する考え。

同社は多特性オプシン (MCO) を用いた遺伝子療法技術を持ってる。MCO-010はAAV2ベクターとmGluR6プロモータ・エンハンサーを用いて網膜双極細胞において青、緑、赤を感受するオプシンを発現させ、低光感受性を誘導する。硝子体注射。

今回のRESTORE試験は進行網膜色素変性症で法的に盲人と見做される患者28人をシャム、低用量(0.9e11 gc/眼)、高用量(1.2E11 gc/眼)の3群に無作為化割付けして一回施行し、第52週のBCVA(最高矯正視力)をベースライン値と比較したところ、各群0.050、0.382、0.337 LogMAR改善した。各用量の偽薬比p値は0.029と0.021。副次的項目である第76週時点におけるBCVA改善は各群0.078、0.374、0.539 LogMAR改善となり、高用量だけp=0.0014と有意水準だった。同社は高用量を承認申請する考え。

尚、LogMARは少数視力値をLog変換して等差性を持たせたもので、数値が大きいほど視力が低い。EDTRS視力表の各行の文字は0.1LogMARだけ異なっている。

有害事象は軽中度の前房内細胞や高眼圧症など。治療関連深刻有害事象は発生しなかった。

5月のARVO(視覚と眼科学研究協会)で学会発表する考え。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


SNRIの第3相ナルコレプシー試験が成功
(2024年3月25日発表)

米国ニューヨークの新興製薬会社、Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、AXS-12(reboxetine)の第3相ナルコレプシー試験が成功したと発表した。プレスリリースには明記されていないが、おそらく、もう一本実施してから米国で承認申請するのではないか。

ファルマシアが鬱病治療薬として開発した選択的ノルエピネフィリン再取込阻害剤で、欧州で97年に承認されたが米国は承認されなかった。同社はファルマシアを買収したファイザーからS異性体のesreboxetine(AXS-14)とともにライセンス、ナルコレプシーの脱力発作を抑制する用途で開発している。権利取得前に実施された21人のクロスオーバー試験、CONCERTで、週間脱力発作回数がベースライン時点の30回から第2週に14.6回減少、偽薬の2.6回減少を上回った。

今回のSYMPHONY試験は脱力発作を伴うナルコレプシー患者90人を偽薬群と5mg一日二回投与群(但し第1週は一日一回)に無作為化割付けして5週間治療し、第5週の週間脱力発作回数をベースライン値(メジアン20回)と比較した。試験薬群は83%減少、偽薬群は66%減、率比0.49、p=0.018と、高度とは言えないが有意だった。脱力発作寛解率や日中の過剰な眠気などの指標でも有意な差があった。有害事象はドライマウス、悪心、便秘など。

同社の調査によるとナルコレプシーの患者の4割程度が抗鬱剤をこの病気を治療する目的で服用しているとのこと。reboxetineの特許は現時点でも2039年まで有効とのことだが、潜在的な競合は多そうだ。

第3相の結果は23年第2四半期に判明する見込みだったが、ほぼ一年遅れとなった。AXS-14の線維筋痛治療薬としての承認申請もかなり遅延しており、世の中は同社の思うようにはならないようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


S1PR調節剤のクローン病試験がまたフェール
(2024年3月28日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、S1PR1/5調節剤Zeposia(ozanimod)の第3相中重度活性期クローン病臨床的寛解導入試験がフェールしたと発表した。12週の治療でCDAIが150未満に低下した患者の比率を偽薬と比較したが、有意な差はなかった。もう一本の導入試験と寛解維持試験などが進行中。

再発性多発硬化症と潰瘍性大腸炎の治療薬として欧米で承認され、日本でも2月に後者の適応症で承認申請されたところ。潰瘍性大腸炎に有効な免疫調節剤はクローン病でも有効という先入観があるが、S1PR調節剤は例外のようだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


発作性上室性頻拍治療薬を改めて承認申請
(2024年3月28日発表)

カナダのMilestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)は米国でMSP-2017(etripamil、点鼻用)を発作性上室性頻拍(PSVT)の治療薬として再承認申請した。昨年10月に申請したが、有害事象のタイミングが不明確と見なされ受理されなかったため、指摘事項に対応した。

etripamilは短期作用性カルシウム・チャネル・ブロッカー。一本目の第3相偽薬対照試験は洞調律達成期限を5時間とゆるゆるにしたためかメジアン値では25分対50分と大きな差があったがp=0.12だった。そこで二本目のRAPID試験では30分に短縮したところ、洞調律達成率が64%と偽薬群の31%を大きく上回り、ハザードレシオ2.62、統計的に有意だった。様々な症状も改善した。主な有害事象は鼻の不快感や鼻詰まりなど。薬物関連深刻有害事象は発生しなかった。

PSVTは珍しくない疾患で、不快・不安以外に異常はないことが多いが、米国ではPSVTによる入院が年5万件と推測されている。上記試験二本のプール分析ではER入室リスクが39%抑制された(p=0.035)。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


リジェネロンの二重特異性抗体は審査完了に
(2024年3月25日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はCD20とCD3に結合する二重特異性抗体、REGN1979(odronextamab)を成人の難治再発濾胞性リンパ腫と難治再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として欧米で承認申請しているが、米国は審査完了通知を受領した。薬効や忍容性の問題ではなく、市販後薬効確認試験の組入れが十分に進捗していないことが原因のようだ。

承認申請のエビデンスとなる二本の試験は第1相と第2相試験。FDAは、加速承認の食い逃げを防ぐために、加速承認の時点で市販後薬効確認試験の患者組入れがある程度進捗していることを要求している。REGN1979の場合、複数の試験が多くは昨年11月と12月に開始されたばかり。FDAとの相談を踏まえて併用試験では至適用量決定フェーズと仮説検証フェーズの二段階に分けて実施することになったため、従来より時間がかかることになる。現況では前者のフェーズの組入れ中だが、FDAは後者のフェーズの組入れがある程度進むことを求めており、今後のタイム・スケジュールを明確にした上で再承認申請するよう求めた。

FDAは抗体医薬の至適用量検討が十分ではないという問題意識を持っており、今回の承認遅延に影を落とした可能性がある。病気が進行し適切な薬が存在しないunmet medical needの段階の患者の最後の手段を最初の目標適応症にすることで素早く加速承認を取り、市販後薬効確認試験は早期段階の併用試験で代用するという開発方針はごく一般的なだけに、幅広いインプリケーションがありそうだ。

同社はREGN5458(linvoseltamab)を難治再発多発骨髄腫の4次治療薬として第1/2相試験のエビデンスに基づき承認申請しているが、一部報道によると、こちらの市販後薬効確認試験には同様な問題はない模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、週一回投与型インスリンなどの承認を支持
(2024年3月22日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのAwiqli(insulin icodec)は成人の糖尿病に用いる週一回皮下注用インスリン。アルブミンに強力かつ可逆的に結合するため末端半減期が196時間と長く、注射頻度を大幅に減らすことができる。臨床試験でHbA1c管理が一日一回投与型インスリンを用いた群と非劣性だった。但し、一型糖尿病患者では低血糖が増加したため、便益が明白な場合にだけ用いる。米国でもEUと同時期に承認申請されたが、審査期限が7月頃に延長された模様だ。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのEmblaveo(aztreonam、avibactam)は点滴静注用新規組み合わせ製品で、活性成分のうち前者は30年以上前に発売されたグラム陰性菌用モノバクタム、後者はベータ・ラクタマーゼ阻害剤でceftazidimeと組み合わせた製品が欧米で承認されている。Emblaveoの適応症は複雑性腹腔内感染症、複雑性尿路感染症、院内感染症、そして多剤抵抗性で治療手段が限定的な好気性グラム陰性菌感染症となる予定。

EMAのプレスリリースによると、承認のエビデンスは各剤の薬効・安全性データと第3相の安全性及び補完的データ。第3相実薬対照試験二本で治癒率が非劣性、死亡率は少なくとも数値上は低かったが、何かノイズが見つかったのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース

ノバルティスのFabhalta(iptacopan)は経口可逆的B因子阻害剤。成人のPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)における溶血性貧血症の治療に用いる。抗C5抗体に十分応答しない患者を組入れたスイッチ試験や、未治療患者を組入れた単群試験で良好な成果を挙げた。未治療患者における抗C5抗体との優劣は不明だが、経口投与できる点は便利。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も肯定的意見を得た。

  • UCBのBimzelx(bimekizumab):成人の既存治療に応答不十分な活性期中重度化膿性汗腺炎。米国でも申請中。

  • 第一三共のNilemdo(bempedoic acid)とezetimibe配合剤のNustend:成人のアテローム性心血管疾患又はそのリスクが高い患者に、スタチン忍容なら最大忍容量と併用、不耐・禁忌の場合は単剤またはezetimibeと併用する。アウトカム試験の成果を反映。米国では3月に承認。

  • セルビエのOnivyde pegylated liposomal(irinotecan hydrochloride trihydrate):未治療の転移膵管腺腫に5-FU、leucovorin、oxaliplatinと併用する。

  • イーライリリーのRetsevmo(selpercatinib):RET融合陽性の進行固形癌。但し、多の薬を用いても臨床的便益が限られているであろう、あるいは、使い果たした患者に用いる。

  • アステラス製薬のXtandi(enzalutamide):サルベージ放射線療法が適応とならない、生化学的再発のリスクが高い、成人男子の非転移性ホルモン感受性前立腺癌。単剤、またはアンドロゲン枯渇療法と併用する。

  • 一方で、以下の適応拡大申請が撤回された。

  • 武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin):未治療CD30陽性末梢T細胞リンパ腫(PTCL)のうちNOS(他の分類に該当しない)型。様々なタイプのPTCL等を組入れた試験に基づく申請だが、CHMPはNOSの組入れ数が少なく、数や患者背景に群間の偏りがあり、他の型のPTCLにおける治験成績が外挿できるかどうか不確かであるため否定的に考えていた。米国では未分化大細胞リンパ腫などと共に18年に、適応拡大申請の11日後という光速審査で、承認された。

  • ポルトガルのBial-PortelaのOngentys(opicapone):オフタイムを伴わない早期パーキンソン病に申請したが、CHMPは臨床試験における効果が限定的であるため否定的に考えていた。

  • ブリストル マイヤーズ スクイブのOrencia(abatacept):他家造血幹細胞移植に伴う急性移植片宿主病の予防に申請したが、CHMPは、180日の試験中に効果が減衰していること、それ以上の期間の持続性が検討されていないこと、慢性移植片宿主病のリスクに悪影響を与える可能性があることから否定的に考えていた。米国では21年にHLA適合/1アレル不適合造血幹細胞移植を受ける2歳以上の患者に承認された。


  • CHMP、レケンビの討議をドタキャン
    (2024年3月22日発表)

    CHMPは3月の会合でエーザイが早期アルツハイマー病の治療薬として承認申請したLeqembi(lecanemab)に関する口頭説明を予定していたが、キャンセルした。3月11日に行われた『神経学における科学的諮問グループ(SAG)』での討議を踏まえて、3月19日にCHMPで検討という段取りだったが、ECJ(欧州司法裁判所)が3月14日に別の案件で示した判断の余波で、EMAがSAGの推奨を無効化、改めて招集することを決めたため。純粋に手続き上の問題のようだ。

    ECJの決定は、D and A Pharmaがアルコール依存治療薬としてsodium oxybateを承認申請したが肯定的意見を獲得できず、EMAを提訴した件に関わるもの。ECJはCHMPが諮問した専門家グループの一人における利益相反を認めるとともに、『精神疾患におけるSAG』に代えてアド・ホックな会議を開いて諮問することを審査手続き違反と認定した。具体的に何がLeqembiの審査手続きに影響したのかは不明。

    リンク: BioArcticとエーザイのプレスリリース
    リンク: 欧州司法裁判所の決定(3月14日付、pdfファイル)

    【承認】


    バフセオが米国でやっと承認
    (2024年3月27日発表)

    米国マサチューセッツ州ケンブリッジの新興医薬品開発会社、Akebia Therapeutics(Nasdaq:AKBA)は、FDAがVafseo(vadadustat)を3ヶ月以上透析を受けている慢性腎疾患の成人の貧血治療薬として承認したと発表した。承認申請から足掛け3年、EU承認から1年弱、日本での承認からだと4年近く遅れた。錠剤なのでESA(赤血球生成刺激剤)より簡便だが、この長所が最大に生きる保存期慢性腎疾患は、EUと同様、適応外とされた。1年早く承認されたGSKの競合品、Jesduvroq(daprodustat)も透析期限定で、死に至ることもある主要心血管イベントが枠付き警告されている点も同じだ。

    FDAは一巡目の審査で安全性に懸念を表明、追加試験を要求した。同社は透析前の患者も適応とする計画だったが心血管安全性試験でESA比非劣性ではなかった。薬物誘導性肝障害や高血圧、癲癇などのリスクが見られたこともネックになった。同社は公式紛争解決手続きの適用を請求し、却下されたものの、追加試験無しで再申請する道筋を示唆され、日本における数万人分の市販後安全性データなどを追加提出、ついに承認に漕ぎ着けた。

    米国ではCSLの子会社のVifor Pharmaが販売する。尚、日本では田辺三菱製薬が開発販売。

    リンク: Akebiaのプレスリリース


    MSD、肺動脈高血圧用新薬が承認
    (2024年3月26日発表)

    MSDはFDAがWinrevair(sotatercept-csrk)を成人の肺動脈高血圧症治療薬として承認したと発表した。activinの受容体を免疫グロブリンの固定領域と結合した融合蛋白で、血管の増殖に関わる促進シグナルと抑制シグナルのバランスを調停、血流を改善する。標準療法と併用で3週毎に皮下注する。

    WHO機能分類がII/III(通常/通常より軽い身体活動を行うと呼吸困難や疲労などの症状が発生)の患者324人を組入れて24週治療し効果を偽薬と比較した第3相で6分歩行距離が偽薬調整後で40メートル改善した。副次的評価項目である死亡/治療強化リスクが低下し(ハザードレシオ0.16)、主要な構成要素である増悪やそれによる入院、全死亡だけの解析でも、発生数が少なかった。WHO機能分類が一段階以上改善した患者数も偽薬群より多かった。有害事象は頭痛、鼻血、ラッシュ、毛細血管拡張症など。ヘモグロビンの増加や血小板の減少が見られるため少なくとも最初の5回は投与前に検査を行う。胚胎毒性あり、授乳は非推奨、男女とも妊娠能力に影響する可能性がある。

    21年に115億ドル(エクイティ・バリュー・ベース)で買収したAcceleron Pharmaの開発品。セルジーンと共同開発していた時期があり、セルジーンを買収したBMSが売上高の20%台前半の技術料を得る権利を持っている。

    企業買収や提携により入手した薬にはしばしば見られることだが、報道によると、Winrevairも年間の問屋取得価格が22~46万ドルと著しく高価に設定される。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ユルトミリスがAQP4自己抗体陽性NMOSDに適応拡大
    (2024年3月25日発表)

    アストラゼネカは、長期作用性抗C5抗体Ultomiris(ravulizumab-cwvz)を抗アクアポリン(AQP)4自己抗体陽性の視神経脊髄炎(NMOSD)に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。EUと日本では昨年5月に承認されたが、米国は副作用対策についてFDAが改善を求めたため周回遅れとなった。

    同日に類薬であるSoliris(eculizumab)のレーベルも変更されているが、変更点は、REMS(リスク評価・緩和戦略)の呼称がSoliris REMSからUltomiris and Soliris REMSに変わったことと、REMSの主要要件に、REMSで資格認定された薬局等は処方者が資格認定されていることを確認した上で交付するという項目が追加されたことくらいだ。Ultomirisの枠付き警告やREMS言及箇所はSolirisと同内容なので、おそらく、これが遅延の理由なのだろう。半年遅れても抵抗したいような変更ではないように感じられるので、FDAのほうが譲歩したのかもしれない。

    リンク: アストラゼネカのプレスリリース


    COVID-19感染予防用抗体医薬がEUA
    (2024年3月22日発表)

    米国マサチューセッツ州の新興医薬品開発会社、Invivyd(Nasdaq:IVVD)は、FDAがPemgarda(pemivibart)をCOVID-19の曝露前予防薬としてEUA(非常時使用認可)したと発表した。免疫力が低下する病気や治療を受けていて、ワクチンを接種しても十分な効果が期待できない、年齢12歳以上、体重40kg以上の人に4500mgを60分点滴静注する。効果は逓減していくので必要な場合は3ヶ月毎に反復投与する。アナフィラキシーが枠付き警告されている(臨床試験での発生率0.6%)。

    EUAの前提となる公衆衛生危機宣言は既に解除されたがEUAは未だ続いている。同社はADG20(adintrevimab)の第3相試験が成功、曝露前と後の発症リスク抑制に成功したが、流行株が同剤が苦手なBA.2にドリフトしたため、半減期の長いpemivibartにスイッチした。薬効のエビデンスは免疫ブリッジングで、pemivibartの中和抗体力価がadintrevimabと非劣性であることと、後者の感染・曝露前の人における臨床試験で発症リスク削減効果が見られたことから、薬効を認定した。比較はJN.1株に対する力価を用いた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    高脂血症薬の心血管リスク削減効果が承認
    (2024年3月22日発表)

    Esperion Therapeutics(Nasdaq:ESPR)はFDAがNexletol(bempedoic acid)とNexlizet(ezetimibe配合錠)の適応・効能を追加したと発表した。CLEAR心血管アウトカム試験に基づくもので、米国の対象患者数が数倍に膨らんだ。

    コエンザイムAと結合してコレステロール生合成パスウェイのカギとなる酵素であるATP citrate lyase(ACL)を阻害する、新規作用機序のコレステロール治療薬。20年に欧米でヘテロ接合型高脂血症とアテローム硬化性心血管疾患の患者のLDL-C抑制薬として承認された。CLEAR試験では心血管疾患リスクを持ちLDL-Cが100mg/dL以上の、二種類以上のスタチンに不耐な患者13970人を組入れて、心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的卒中/冠再建術のリスクをメジアン40.6ヶ月追跡したところ、発生率が11.7%と偽薬群の13.3%より低く、ハザードレシオは0.87、p=0.004だった。

    FDAは、心血管疾患又は高リスク患者でスタチンの推奨用量を服用できない成人患者に用いることと、ヘテロ接合型以外の原発性高脂血症の成人に用いることを承認した。

    上記の通り、第一三共が販売するEUでもCHMPが効能追加に肯定的意見をまとめた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    肺動脈高血圧の合剤が承認
    (2024年3月22日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンはFDAがOpsynvi(macitentan、tadalafil)を成人の肺動脈高血圧症の治療薬として承認したと発表した。エンドテリンA/B受容体拮抗剤Opsumitの活性成分と、イーライリリーのPDE5阻害剤Adcircaの活性成分を配合したもので、従来は前者を1錠、後者を2錠、一日一回服用する必要があったが、一錠で足りるようになる。カナダでは21年に承認、欧州や日本でも承認申請中。

    リンク: 同社のプレスリリース


    アッヴィのADCが本承認
    (2024年3月22日発表)

    アッヴィは22年に米国で加速承認されたElahere(mirvetuximab soravtansine-gynx)が本承認されたと発表した。1~3剤までの治療歴のある葉酸受容体アルファ陽性白金抵抗性卵巣癌の治療薬で、第3相単剤投与試験で全生存期間のハザードレシオがpaclitaxelなどから医師が選んだ薬を投与した群と比べて0.67、メジアン生存期間は各16.4ヶ月と12.7ヶ月だった。

    2月に買収したImmunoGenの製品。

    リンク: アッヴィのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
    24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
    24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
    24/4/2Vanda PharmaceuticalsのFanapt(iloperidone、双極障害一型追加)
    24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
    24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
    24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
    24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
    24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
    24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
    24/4/30Neurocrine BiosciencesのIngrezza(valbenazine顆粒製剤、ジスキネジアなど




    今週は以上です。

    2024年3月22日

    第1147回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 世界初、ブタ腎を人に移植 
    • SFTSの概要 
    • オプジーボとヤーボイの併用が肝細胞腫に有効 
    • 先端巨大用新薬、新患試験も成功 
    • GSKの抗PD-1抗体、内膜腫化学療法併用試験で良好な成績 
    • MSD、リムパーザのキイトルーダ併用試験がまたフェール 
    • エンスプリングの筋無力症における効果はそれほどでもない 
    • ALK阻害剤を米国でも承認申請 
    • HDAC阻害剤をデュシェンヌ型筋ジストロフィーに承認 
    • ETR阻害剤が難治高血圧症に承認 
    • アイクルシグが新患Ph+ALLに加速承認 
    • 異染性白質ジストロフィーの遺伝子治療が承認 
    • EMA、パキロビッドの薬物相互作用を改めて警告 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    世界初、ブタ腎を人に移植
    (2024年3月21日発表)

    マサチューセッツ総合病院は、世界で初めて、ブタの腎臓を末期腎不全の患者に移植したと発表した。異種移植に伴う強い拒絶反応を緩和するために、eGenesis社がCRISPR-Cas9技術で遺伝子編集したEGEN-2784腎臓を用い、術後の免疫抑制剤として抗C5抗体ravulizumab(アレクシオンのUltomiris)やEledon Pharmaceuticals(Nasdaq:ELDN)が開発している抗CD40リガンド抗体tegoprubart(USAN/INN)を用いている。EGEN-2784はグリカン抗原の生成に関わる3遺伝子をノックアウトし、拒絶反応の制御に関わる人の7誘導遺伝子を導入し、ブタ内在性レトロウイルスを不活化したもので、同社によると、これら三種類の改変は同社独自の技術とのことだ。

    ブタ臓器の異種移植は、昨年、University of Maryland Medical Centerで二件の心臓移植が施行されたが、1~2ヶ月後に一人はブタ・サイトメガロウイルス感染症で、もう一人は拒絶反応により、物故した。今回の患者は52歳の男性で、18年に死体腎移植を施行したが23年に透析を再開、バスキュラ・アクセスにおける血栓症などの治療が必要になっているとのこと。セカンド・チャンスがある分、心移植より条件がよさそうだ。

    eGenesisは日本企業とも協業している。

    リンク: マサチューセッツ総合病院のプレスリリース
    リンク: eGenesisのプレスリリース


    SFTSの概要
    (2024年3月21日作成)

    重症熱性血小板減少症候群(SFTS)はフレボウイルス属のウイルスによる感染症。中国や日本など、東アジアで報告されている。マダニが媒介する。人から人へ感染するリスクが指摘されて来たが、今回、感染者から医療従事者への感染症例が報告された。国立感染症研究所の解説などに基づき疫学的な特徴をまとめた。

    2010年前後に中国で報告・同定され、日本では2013年に4類感染症指定され、全数報告されるようになった。感染症発生動向調査によると、今年1月末までの報告数は939症例、うち死亡例は104人(11%)だが、報告後の死亡は含まれていないのでもっと多い可能性がある。実際、人口動態調査によると13~22年のSFTSによる死亡者数は155人、感染症発生動向調査の1.6倍となっている。感染報告数に関しても漏れがあっても不思議ではない。

    国立感染症研究所が感染症発生動向調査を元にまとめた資料を見ると、感染者の性別は男女ほぼ同数、死亡数も大差ない。メジアン年齢は75歳、死亡例では80歳。年代別には70代以上が7割近くを占め、死亡率は11%、50~60代は3割弱、死亡率6%、40代以下は5%で死亡はゼロ。季節は3~9月、特に5~8月の報告数が多い。地域別には九州が4割を占め、以下、中国地方が3割弱、四国が2割弱、近畿1割、中部2%、関東は1%未満。

    2013~15年は161人中41人(25%)が死亡したが、21~23年は359人中29人(8%)と、報告数が倍増した一方で死亡率は低下している。しかし、人口動態調査による死亡数を分子として試算すると概ね2割前後で推移しており、改善しているようには見えない。

    抗ウイルス薬の便益は確立していないが、中国ではribavirinが治療ガイドラインに収載されているようだ。favipiravirは新型インフルエンザが流行した時に備えて日本で承認され、中国でも開発されているが、北京の施設で2名に5日間投与したところ寛解したという症例報告があり、臨床試験中である模様。

    エボラほどではないが致死率が高いようなので、誰か治療薬の開発に手を上げないものか。



    注:上記の報告数や死亡数は発病年が不明なものを除外している。
    データ出所:報告数と死亡数は感染症発生動向調査、発病年ベース。SFTS死亡数は人口動態調査、死亡年ベース。

    リンク: 国立感染症研究所の解説ページ

    【新薬開発】


    オプジーボとヤーボイの併用が肝細胞腫に有効
    (2024年3月20日発表)

    抗PD-(L)1抗体の進行肝細胞腫試験は成功したり失敗したり区々で、同じような薬がなぜ違った結果になるのか理解に苦しむ。今回は朗報で、ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)を抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)と併用する便益を検討したCheckMate-9WD試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。全身性治療を初めて受ける患者を組入れて全生存期間をVEGFR阻害剤のsorafenibまたはlenvatinibを投与する群と比較したところ、統計的に有意なだけでなく臨床的に意味のある差があった由。数値は記されていない。

    sorafenib対照一次治療試験が成功した前例は、ロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevacizumab)の併用をテストしたIMbrave150試験が成功、全生存のハザードレシオは0.58だった。20年に米欧日で適応拡大が承認された。また、アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)と抗CTLA-4抗体Imjudo(tremelimumab-actl)の併用もHIMALAYA試験でハザードレシオ0.78だった。米日欧で22~23年に承認された。Imfinziだけを投与した群のハザードレシオは0.86で非劣性に留まっており薬効面では併用がよさそうだが、深刻有害事象発生率が41%、致死的有害事象発生率も8%と忍容性が厳しいので、どちらが良いかは悩ましいところではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース


    先端巨大用新薬、新患試験も成功
    (2024年3月19日発表)

    米国カリフォルニア州のCrinetics Pharmaceuticals(Nasdaq:CRNX)は、CRN00808(paltusotine)の第3相PATHFNDR-2試験が成功としたと発表した。維持療法試験も成功しており、今年下期に承認申請する考え。

    非ペプチド系のソマトスタチン受容体2型アゴニストで一日一回経口投与型であることが長所。今回の試験は先端巨大症の治療を初めて受ける、または止めていた患者111人を組入れて奏効率(IGF-1水準がULN<正常範囲上限>の1倍以下に低下)を検討したところ、56%と偽薬群の5%を大きく上回った。PATHFNDR-1試験では注射用の既存薬であるoctreotideまたはlanreotideによる治療が奏功した患者58人を組入れてCRN00808にスイッチする群と偽薬にスイッチする群の奏効率を比較したところ、83%対4%とこちらも大きく上回った。

    日本では三和化学がライセンス開発している。

    リンク: Crineticsのプレスリリース


    GSKの抗PD-1抗体、内膜腫化学療法併用試験で良好な成績
    (2024年3月16日発表)

    GSKは抗PD-1抗体Jemperli(dostarlimab-gxly)を化学療法と併用で進行/難治内膜腫のフロントライン・セラピーに用いる第3相試験、RUBYの追加データを公表した。一つは、carboplatinとpaclitaxelのレジメンにJemperliによる導入療法と維持療法を追加したパート1における全生存期間の解析。偽薬を追加した群と比べてハザードレシオは0.69だった。22年に公表されたPFS(無進行生存期間、担当医評価)のハザードレシオである0.64と大差ない。腫瘍細胞の遺伝子変異が多いdMMR/MSI-H型のサブグループにおける探索的解析では0.32、少ないMMRp/MSS型サブグループでは0.79と数値は悪くないが95%上限が1.044とはみ出している。PFSの解析では夫々0.28と0.76だった。

    JemperliはPFSのデータに基づき適応拡大申請されたが、欧米とも、dMMR/MSI-H型の患者に限定承認された。dMMR/MSI-Hにおける便益は全生存期間を見てもそれほどでもないので、限定が維持されるのではないか。

    もう一つの発表は、維持療法にPARP阻害剤Zejulaも併用したパート2の成績。メジアンPFSは14.5ヶ月、carboplatin・paclitaxel・偽薬群は8.3ヶ月、ハザードレシオは0.60で統計的に有意。MMRp/MSSサブグループでは各14.3ヶ月、8.3ヶ月、ハザードレシオ0.63と似たような結果になった。

    dMMR/MSI-H型は変な蛋白が多く作られ免疫の注意を惹きやすいため、抗PD-(L)1抗体に応答しやすい傾向がある。MMRp/MSS型はその逆なので、PARP阻害剤も併用したほうが良いのかもしれないが、すごく変わるわけではなさそうだ。

    アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)とLynparza(olaparib)を併用したDUO-EでもMMRp相手には併用のほうが見栄えがしたが、dMMRが相手ならImfinziだけでもLynparza併用でも大差ないように見えた。

    リンク: GSKのプレスリリース


    MSD、リムパーザのキイトルーダ併用試験がまたフェール
    (2024年3月21日発表)

    MSDはアストラゼネカのPARP阻害剤Lynparza(olaparib)を同社の抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)や化学療法と併用した第3相KEYLYNK-006がフェールしたと発表した。両社は17年にLynparzaなどの共同開発販売で提携したが、既にKEYLINK-008試験と去勢抵抗性前立腺癌におけるKEYLINK-010試験がフェールしており、なかなか成果が出ない。

    今回の試験はEGFR/ALK/ROS1阻害剤が適応にならない転移非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療としてKeytrudaとpemetrexedおよびcarboplatin乃至はcisplatinによる導入療法を施行し、疾病安定化以上の反応があった672人をKeytruda・Lynparza併用群とKeytruda・pemetrexed併用群に無作為化割付けして、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)と全生存期間をオープンレーベルで比較したもの。Keytrudaを使うことには変わりはない。本試験はMSDが主導したためか、アストラゼネカはプレスリリースを出していない。

    リンク: MSDのプレスリリース


    エンスプリングの筋無力症における効果はそれほどでもない
    (2024年3月21日発表)

    ロシュ・グループの中外製薬はEnspryng(satralizumab-mwge)の第3相LUMINESCE試験で主目的を達成したものの、期待ほどではなかった旨、明らかにした。4月にANN(米国神経学会)で詳細を発表する予定。

    Enspryngは同社のリサイクリング抗体技術を用いてIL-6受容体に結合・離散を繰り返すように改変した抗体医薬で、20~21年に日米欧で抗AQP4抗体を持つ視神経脊髄炎スペクトラム障害の再発リスク抑制薬として承認された。今回の試験は12歳以上の全身型筋無力症患者188人を組入れて標準療法に追加する便益を検討した。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)

    【承認申請】


    ALK阻害剤を米国でも承認申請
    (2024年3月18日発表)

    米国フロリダ州の未上場新興医薬品開発会社、Xcovery Holdingsは、X-396(ensartinib)を米国で成人のALK陽性転移非小細胞性肺癌に承認申請し受理されたと発表した。審査期限は24年12月28日。

    ALK阻害剤で、関連会社のBetta Pharmaceuticalsが中国で20年に承認を取得、今回の適応でも22年3月に承認された。第3相一次治療crizotinib対照試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.51、メジアン値は25.8ヶ月と12.7ヶ月だった。

    リンク: 同社のプレスリリース(Business Wire)

    【承認】


    HDAC阻害剤をデュシェンヌ型筋ジストロフィーに承認
    (2024年3月31日発表)

    FDAはイタリアのItalfarmaco GroupのDuvyzat(givinostat)を6歳以上のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬として承認した。HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害剤で、HDACの過剰による神経再生の抑制や炎症のトリガーを緩和する。空腹時に経口液を一日二回、服用する。歩行可能で4段昇段テストの成績が8秒以内の、ステロイド治療を受けている患者179人を組入れた試験で、18ヶ月後の変化が1.25秒と偽薬群の3.03秒を下回った。有害事象は下痢や悪心嘔吐など。血小板減少やトリグリセライド上昇が見られるため治療開始前に検査する。QTc延長リスクがあるため同様な薬と併用すべきではない。欧州でも承認申請中。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ETR阻害剤が難治高血圧症に承認
    (2024年3月20日発表)

    スイスのイドルシア(SIX:IDIA)はFDAがTryvio(aprocitentan)を成人の難治高血圧症に追加する薬として承認したと発表した。肺高血圧症治療薬Opsumit(macitentan)の類薬で、エンドテリン受容体AとBを阻害してアルドステロンの生成を抑制する、高血圧症治療では新規の作用機序を持つ。24年下期に発売する考え。

    3種類以上の降圧剤を服用しても血圧を十分に管理できない患者を組入れた第3相試験で4週後の最大血圧(医療施設の自動測定器で評価)が15.3mmHg低下、偽薬群の11.5mmHg低下を上回った。有害事象は浮腫や貧血症など。過敏反応やアレルギー性皮膚炎に注意する。Opsumitと同様に催奇性があるため妊婦は禁忌で、REMS(リスク評価・緩和戦略)が採用された。

    イドルシアはアクテリオン社が17年にジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にスピンオフされた。JNJはTryvioを共同開発していたが承認申請後に解消、ライセンス収入や売上ロイヤルティの一部を取得する権利だけを保有している。

    リンク: 同社のプレスリリース


    アイクルシグが新患Ph+ALLに加速承認
    (2024年3月19日発表)

    FDAは武田薬品のbcr-abl阻害剤、Iclusig(ponatinib)を成人の新患フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病に用いる適応拡大を加速承認した。imatinib対照化学療法併用試験で、完全反応率(微小残存病変も検出不能)が30%対12%で上回った。

    Iclusigは12年にチロシン・キナーゼ阻害剤抵抗性/不耐の慢性骨髄性白血病及びフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病の治療薬として加速承認されたが、重篤な動脈静脈血栓症のリスクが顕在化したため、FDAが部分的治験停止命令を発出し販売が一時停止されたことがある。その後、幾つかの適応で応答後に用量を減らすスキームが導入された。今回の適応では45mgではなく30mg一日一回で開始し、化学療法と併用による導入療法に奏功したら15mgに減量する。

    リンク: FDAのプレスリリース


    異染性白質ジストロフィーの遺伝子治療が承認
    (2024年3月18日発表)

    Orchard Therapeutics(Nasdaq: ORTX)はFDAがLenmeldy(atidarsagene autotemcel)を早発性異染性白質ジストロフィーの治療薬として承認したと発表した。報道によるとWAC(卸向け価格)は425万ドルと、米国で最も高価に設定される予定。欧州ではLibmeldy名で20年に承認されている。

    異染性白質ジストロフィーはアリールスルファターゼAの遺伝子の変異による常染色体性劣性遺伝病。脳や末梢神経、腎臓などにスルファチドが蓄積し、中枢・末梢神経に障害をもたらす。Lenmeldyはex vivo遺伝子療法で、患者のCD34陽性造血幹細胞と前駆細胞を採取し、レンチウイルス・ベクターを用いて正常な遺伝子を導入、培養した上で患者に戻す。臨床試験では、PSLI型(未発症乳幼児遅発型・・・生後30ヶ月以内に発症が予想される)ではデータのある14人全員が6歳時点で生存していた。自然歴における生存率は58%だった。PSEJ型(未発症早期若年型、30ヶ月超、7歳未満に発症と予想)とESEJ型(早期症候性早期若年型、30ヶ月超7歳未満に発症した)では運動機能の低下が自然歴より小さかった。有害事象は過敏反応など。臨床試験では確認されていないが、レンチウイルスを用いているため血液癌のリスクを15年以上観察するよう推奨されている。

    希少遺伝子疾患の遺伝子療法で実績のあるSan Raffaele-Telethon Institute for Gene Therapyが創製、GSKが他の薬と共に共同開発販売権を取得したが18年にOrchard社に資産譲渡した。Orchard社は昨年10月に協和キリンが買収した。

    リンク: Orchard社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    EMA、パキロビッドの薬物相互作用を改めて警告
    (2024年3月21日発表)

    EMAはCOVID-19治療薬Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)の薬物相互作用リスクに関するDHPC(直接的医療従事者向け通知)を発出した。カルシニューリン阻害剤(voclosporin、ciclosporin、tacrolimus)やmTOR阻害剤((everolimus、sirolimus)のような、Paxlovidと併用するとCYP3A相互作用リスクがあり、安全域が小さい薬と併用て、死亡を含む深刻な副作用に至った症例が報告されているため。

    Paxlovidがritonavirを同梱しているのは3A4阻害作用を通じて抗ウイルス剤nirmatrelvirの作用を長期化する目的であり、3A4で代謝される他の薬を同時使用するとそちらの曝露も増加してしまうリスクがある。初承認時から広く知られたリスクだが、患者がどのような薬を服用しているのか患者自身の記憶に頼らなくても知ることができるようなシステムの無い国では、このような事故が起きてしまうのだろう。

    リンク: EMAのDHPC(Paxlovid)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    24/3/31Esperion TherapeuticsのNexletolと配合錠(bempedoic acid、CVリスク抑制)
    24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
    24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
    24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
    24/4/2Vanda PharmaceuticalsのFanapt(iloperidone、双極障害一型追加)
    24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
    24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
    24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
    24/4/5ImmunoGenのElahere(mirvetuximab soravtansine-gynx、FRアルファ陽性白金抵抗性卵巣癌)
    24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
    24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
    24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
    24/4/30Neurocrine BiosciencesのIngrezza(valbenazine顆粒製剤、ジスキネジアなど



    今週は以上です。



    2024年3月16日

    第1146回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • アドセトリス、B細胞リンパ腫でも試験成功 
    • 抗IL-17A蛋白の乾癬性関節炎試験は結局、上手く行った? 
    • Nuplazid、最後の適応拡大試験もフェール 
    • トレムフィアを潰瘍性大腸炎にも申請 
    • FDA諮問委員会、BCMA標的CAR-Tの早期使用を支持 
    • FDA諮問委員会、テロメラーゼ阻害剤の承認を支持 
    • 初のNASH用薬が承認 
    • ブレヤンジがCLLに適応拡大 
    • 中華抗PD-1抗体が遂に米国で承認 
    • IBAT阻害剤が肝内胆汁鬱滞症に適応拡大 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    アドセトリス、B細胞リンパ腫でも試験成功
    (2024年3月12日発表)

    ファイザーはAdcetris(brentuximab vedotin)の第3相ECHELON-3試験が良好な結果になったと発表した。成人の2次または3次治療歴を持ち幹細胞移植/CAR-T治療に適さないびまん性大細胞型B細胞リンパ腫をCD30発現の有無を問わずに組み入れて、lenalidomideとrituximabのレジメンに追加する便益を偽薬追加群と比較したところ、統計的に有意な、そして臨床的に意味のある延命効果が見られた。副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)の解析も成功した。適応拡大を申請する考え。数値は未発表。

    Adcetrisは武田薬品と共同開発販売している抗CD30抗体薬物複合体。古典的ホジキン型リンパ腫における様々な用法や、全身性未分化大細胞リンパ腫などCD30陽性T細胞系リンパ腫に承認されているが、遂にB細胞リンパ腫にも進出してきた。

    リンク: ファイザーのプレスリリース


    抗IL-17A蛋白の乾癬性関節炎試験は、結局、上手く行った?
    (2024年3月11日発表)

    米国ロサンジェルスの新興医薬品開発会社、ACELYRIN(Nasdaq:SLRN)は、ABY-035(izokibep)の後期第2相/第3相乾癬性関節炎試験で主目的を達成したと発表した。試験薬配布ミスをどうカバーしたのかは明らかではない。

    izokibepはIL-17Aに結合する、抗体医薬の10分の1と小さいドメインとアルブミン結合ドメインを持つ蛋白。今回の試験は一剤以上に十分応答しない乾癬性関節炎患者を偽薬群、80mg4週毎投与群、160mg隔週投与群、160mg毎週投与群に無作為化割付けして第16週のACR50奏効率を比較したもの。今回の発表によると、ACR50奏効率は160mg隔週群が43%、毎週群が40%となり、偽薬群の15%を有意に上回った。副次的評価項目のPASI90奏効率も各58%、64%、12%と良好な結果になった。忍容性はおおむね良好だった。治療関連深刻有害事象に大きな偏りは見られなかった。

    二重盲検試験なので4週毎群や隔週群は試験薬と偽薬を交互に投与することになるが、CRO等のプログラミング・ミスにより順番の間違いがランダムに発生してしまったことが昨年11月に公表されている。どのようにしてこの瑕疵に対応したのかは明らかではない。もう一本第3相試験を行うだろうから、結果が出てから考えれば十分だろう。

    同社は化膿性汗腺炎でも後期第2相/第3相試験を実施したがフェールした。偽薬群の奏効率が治験の前半と後半で大きく異なるなど奇妙な点があったため乾癬性関節炎試験の実施状況をチェックしたところ上記のミスが発覚したという経緯だが、化膿性汗腺炎試験に関しては、延長試験のデータが好調に推移している旨のアップデートを発表している。新興企業によくある、チェリーピックしがちなところがあるのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    Nuplazid、最後の適応拡大試験もフェール
    (2024年3月11日発表)

    Acadia Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)はNuplazid(pimavanserin)の三本目の統合失調症試験がフェールしたと発表した。オレンジ・ブック収載特許は既に失効しており、これ以上の開発は行わない考え。

    2016年にパーキンソン病に伴う精神症状を治療する薬としてFDAに承認された選択的セロトニン・インバース・アゴニスト。アルツハイマー病などに伴う精神症状の治療にも開発・申請されたが承認されなかった。

    統合失調症用途は19年に第3相ENHANCE試験で陽性症状改善効果が見られなかったが、PANSS陰性症状サブスケールは名目p値が0.0474と、効かないとは結論できないものだった。向精神薬治療で陽性症状は管理できているが陰性症状が改善しない患者403人を組入れた第2相ADVANCE試験では26週間の治療でNSA-16(陰性症状評価-16)の低下が10.4となり、偽薬群の8.5を上回った(p=0.043)。20mgで開始、最初の8週間中に34mgまたは10mgに滴定可能という用法だが、34mgでフィニッシュした患者(被験者の54%)では11.6対8.5とさらに大きな治療効果が示唆された。

    今回の第3相ADVANCE-2も同様な患者454人を組入れて同様に26週間治療したが、NSA-16の低下は11.8対11.1で大差なかった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    トレムフィアを潰瘍性大腸炎にも申請
    (2024年3月11日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは米国でTremfya(guselkumab) を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に適応拡大申請した。第3相のQUASAR試験でバイオ薬やJAK阻害剤にも十分応答しない患者に投与したところ、第12週時点の臨床的治癒率が22.6%と偽薬群の7.9%を上回った。深刻有害事象の発生率は各群2.9%と7.1%だった。下記プレスリリースによると第44週の臨床的寛解率も良好な結果になった様子だ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、BCMA標的CAR-Tの早期使用を支持
    (2024年3月15日発表)

    FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、ジョンソン・エンド・ジョンソンとブリストル マイヤーズ スクイブ/bluebird bio社が夫々に承認申請したBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)の、現在承認されているより早い段階の多発骨髄腫における便益と危険について意見を聞いた。前者のCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)は11人の委員全員が、後者のAbecma(idecabtagene vicleucel)は8人が、便益が危険を上回ると判定した。前者の審査期限は4月5日と近いので、FDA内の手続きが間に合わない可能性がありそうだ。後者は昨年12月16日で、既に期限超過状態。

    CAR-Tは患者自身の免疫細胞に敵を教え込んで攻撃させる。理由は理解できていないが、反復投与の必要がないのが長所だ。新しい治療法にはありがちなことだが、市販後に様々なリスクが表面化してきた。例えば、23年12月にFDAが多くのCAR-T製品について二次性血液学的腫瘍のリスクを枠付き警告させた。

    今回の主題は、両剤の実薬対照試験でPFS延長効果が見られたものの、全死亡のカプラン・マイヤー・カーブ分析で最初の9~10ヶ月間の死亡率が実薬群を数値上、上回ったこと。Carvyktiは10ヶ月死亡率が14%、対照群は12%、Abecmaは9ヶ月死亡率が18%対11%となっている。メジアン生存期間はCarvyktiが未達対26.7ヶ月でハザードレシオは0.78、Abecmaは未だ目標死亡数の34%しか到来していない段階の解析だが32.8ヶ月対未達でハザードレシオ1.093と、PFSほど大きな差は出ていない。後者は対照群の患者の過半が進行後にCAR-T治療を受けたことで治療効果が希薄化されてしまった面もあるようだ。

    CAR-Tは投与前のプロセスに時間がかかり、製造が成功するとも限らないので、本試験でも薬が届けられる前に亡くなった患者がいたようだ。また、前措置に用いる化学療法薬も深刻な副作用を招くことがある。当初9~10ヶ月の死亡率上昇はこれらが原因と考えられているようだ。造血幹細胞移植と同様に、患者は、早死にする危険もあるが延命の便益のほうが超過する、という条件を受け入れざるを得ない。

    今回の適応拡大申請は、両剤ともEUでCHMPが肯定的意見をまとめ、Abecmaは日本とスイスで既に承認されている。

    リンク: JNJのプレスリリース
    リンク: BMSのプレスリリース

    FDA諮問委員会、テロメラーゼ阻害剤の承認を支持
    (2024年3月14日発表)

    米国カリフォルニア州のGeron(Nasdaq:GERN)は、多発骨髄腫に伴う貧血症の治療薬として承認申請したGRN163L(imetelstat)をFDA腫瘍学諮問委員会が検討し、14人の委員のうち12人が便益が危険を上回ると判定、2人が上回らないと判定したと発表した。FDAが用意したブリーフィング資料のトーンは警戒的だったが、承認に向けて一歩前進したのではないか。審査期限は6月16日。EUでも承認申請中。

    GRN163Lはテロメラーゼの活性部位を標的とするオリゴヌクレオチドにリピッドを結合したもの。第3相試験ではIPSS(国際予後予測スコアリングシステム)でlowまたはintermediate-1と判定された多発骨髄腫の成人で、赤血球生成因子による貧血治療に不応/不適であるため輸血に依存している178人を組入れて、8週間輸血不要奏効率を偽薬群と比較したところ、39.8%対15.0%と有意に上回った。24週輸血不要奏効率も28.0%対3.3%と有意差があった。安全性面ではG3/4の血小板減少症が61.9%対8.5%、同好中球減少症が67.8%対3.4%と上回り、輸血しなかったせいか貧血症も19.5%対6.8%で上回った。FDAは骨髄抑制副作用を特に懸念しているように見えるが、諮問委員は、多発骨髄腫に血球減少は付き物であり対処可能であること、多くは一時的・可逆的であることから、QOL改善の便益のほうが大きいと判断した。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    初のNASH用薬が承認
    (2024年3月14日発表)

    FDAはMadrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)のRezdiffra(resmetirom)をNASH(非アルコール性脂肪肝炎;欧米の関連学会はMASHに呼称変更している)の治療薬として承認した。NASHの病状の解消や線維症の組織学的評価に基づく加速承認で、54ヶ月の試験で臨床的便益を確認する必要がある。NASHの治療薬が承認されたのは初めて。本剤はロシュからライセンスした甲状腺ホルモン受容体ベータのアゴニストだが、類薬や様々な作用機序の新薬が第3相段階にあり、今後、ライバルが増えるだろう。

    中重度の肝線維症を伴うが肝硬変には至っていない成人患者に、食事・運動療法と併用で、体重100kg以上は100mg、未満は80mgを一日一回、経口投与する。体重に関わらず80mg群と100mg群が設定された第3相試験では、52週間の治療後にNASH解消且つ線維症が悪化しなかった患者の比率が各群26~27%と24%~36%になり、偽薬群の9~13%を有意に上回った。幅があるのは二人の病理学者の評価を併記しているため。今回初めて見たが、10%強の違いを受け入れるべきだとしたら治療効果の10~20%をどう評価したらよいのか、悩むのは私だけだろうか。

    線維症が改善しNASHが悪化しなかった患者の比率も各群23%と24~28%で偽薬群の13~15%を有意に上回った。

    警告・注意事項は薬物誘導性肝毒性と胆嚢関連副作用。様々な代謝酵素やトランスポーターに関わる相互作用があり、また、LDL-C低下作用があるため一部のスタチンは用量を減らす必要がある。

    NASH/MASHの診断でネックとなるのが生検だが、FDAは生検による診断を要求しておらず、非侵襲的な検査で足りそうだ。

    同社は年47400ドルで発売する考え。米国の潜在患者数は600~800万人とも言われるが、同社は現在治療を受けている31万人を当初のターゲットとする考え。全員に普及すれば年商150億ドルの巨大市場になる。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ブレヤンジがCLLに適応拡大
    (2024年3月14日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)を慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性白血病(SLL)の治療に用いることを加速承認したと発表した。BTK阻害剤とBCL-2阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ成人の難治/再発CLL/SLLが適応になる。第2相試験で完全反応率が20%、反応持続期間はメジアン値未達(95%下限15ヶ月)だった。CAR-Tに付き物のG3サイトカイン放出症候群の発生率は9%でG4以上はなく、G3神経学的イベントは20%、G4は一人(1%未満)だった。

    BreyanziはCD19標的型のCAR-T。米欧日で難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫に承認されており、米国で難治/再発性の濾胞性リンパ腫やマントル細胞腫に効能追加申請中。

    リンク: BMSのプレスリリース


    中華抗PD-1抗体が遂に米国で承認
    (2024年3月14日発表)

    BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE)はFDAがTevimbra(tislelizumab-jsgr)を成人のPD-(L)1阻害剤以外の全身性化学療法歴のある局所進行切除不能/転移食道扁平上皮腫用薬として承認したと発表した。米国のPD-(L)1阻害剤としては10番目。

    エビデンスは中国、米国、日本、欧州など11ヶ国で実施した第3相RATIONAL 302試験。200mgを3週毎点滴静注した群のメジアン生存期間が8.6ヶ月と、paclitaxelまたはdocetaxelなどを用いた対照群の6.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。中国では22年に、EUでも23年に承認されたが、米国はCOVID-19関連の渡航制限により現地査察ができなかったため遅れていた。

    FDAは中国だけで実施される臨床試験に疑義を抱いており、EUのCHMPが2月に肯定的意見をまとめた非小細胞性肺癌用途は米国では申請断念となった。一方、食道扁平上皮腫一次治療と胃・胃食道接合部腺腫一次治療化学療法併用はグローバル試験に基づき米国で申請中。

    リンク: 同社のプレスリリース


    IBAT阻害剤が肝内胆汁鬱滞症に適応拡大
    (2024年3月13日発表)

    Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)はFDAがLivmarli(maralixibat)を5歳以上のPFIC(進行性家族性肝内胆汁鬱滞症)における胆汁鬱滞性掻痒の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。9.5mg/mLの経口液で、285mcg/kg一日一回で開始し、570mcg/kg一日二回を目標に漸増する(上限は一日38mg)。第3相MARCH試験でPFIC2型の31人における重度掻痒が偽薬比有意に改善、他の型も含む全64人の解析も成功した。深刻な治療時発現有害事象が10.6%の患者で発生した(偽薬群は6.5%)。

    同社は2ヶ月児以上を対象に申請したが5歳以上に限定された。高濃度製剤を追加申請し年内の承認取得を目指す。

    Livmarliは頂端側ナトリウム依存性回腸胆汁酸トランスポータ阻害剤。胆汁の排泄を促し、この薬自体も殆ど吸収されず排泄される。18年にシャイアからライセンス、21年に米国で1歳以上のアラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒の治療薬として承認され、22年にはEUでも承認された。日本はシャイアの親会社である武田薬品が21年にライセンスした。

    リンク: Mirum社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
    24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
    24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
    24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
    24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
    24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
    24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
    24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
    24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)



    今週は以上です。

    2024年3月9日

    第1145回

    【ニュース・ヘッドライン】


  • ALS治療薬の薬効確認試験がフェール 
  • リリーの抗Abeta抗体は、急遽、諮問委員会上程へ 
  • GSKのADC、復活に向けて二の矢も構え 
  • テトラサイクリン系抗菌剤を肺炭疽に適応拡大申請へ 
  • セマグルチド、糖尿病性腎症の悪化を24%抑制 
  • ウコービの心血管リスク抑制作用が承認 
  • オプジーボが膀胱癌一次治療に適応拡大 
  • BTK阻害剤が適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 

  • 【今週の話題】


    ALS治療薬の薬効確認試験がフェール
    (2024年3月8日発表)

    Amylyx(Nasdaq:AMLX)は22年に米国とカナダで筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬として承認されたRelyvrio(sodium phenylbutyrateとtaurursodiolの合剤、カナダでの製品名Albrioza)の第3相試験がフェールしたと発表した。発症24ヶ月以内のALS患者664人を組入れて48週間投与し、ALSFRS-R(機能評価尺度)の悪化を偽薬群と比較したが、p=0.667と酷い結果になった。副次的評価項目も全て有意な差がなかった。同社は承認審査機関や患者コミュニティに対して治験結果や今後の方針(販売中止を含む)を説明する考え。

    配合成分のうちフェニル酪酸ナトリウムは尿素サイクル異常症の治療に、タウロウルソデオキコール酸は原発性胆汁性肝硬変の治療に、用いられているが、ALSにおいては前者は小胞体、後者はミトコンドリアから始まる神経変性経路を阻害し、神経細胞死を抑制すると考えられている。第2相のCENTAUR試験ではALSFRS-Rがベースラインの36から24週後に29に低下したが偽薬群の26.7低下より少なかった(治療効果2.32、p=0.03)。審査担当者はプロトコルや追跡状況、edaravoneなどの承認薬の使用状況の偏りなどに疑問を呈し、22年に召集された諮問委員会では10人の委員中6人が薬効が確立したとは言えないと判定した。

    しかし、当時の神経科学部門のヘッドだったBilly Dunn氏が難病用薬の承認審査にはフレキシビリティが重要と主張、半年後に再び諮問委員会を招集する異例の事態になり、AmylyxのCEOが第3相フェールなら承認返上も含めて患者にとって最善な対応を行うと明言したことや患者支援団体等の後押しもあり、9人中7人が承認に賛成という「十二人の怒れる男」並みの逆転劇が具現、承認に至った。カナダでは第3相試験の成功を条件とする条件付き承認だったが、FDAは本承認という大盤振る舞いだった。

    Billy Dunn氏が去った後のFDAが変わるか、変わらないか、注目されるところだが、FDAがどう判断したとしても、効果のない薬に年17万ドルも払う患者はいないだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    リリーの抗Abeta抗体は、急遽、諮問委員会上程へ
    (2024年3月8日発表)

    イーライリリーはアミロイド・ベータ(3-42)を標的とするIgG1型抗体医薬LY3002813(donanemab)を早期アルツハイマー病の治療薬として米国や日本で承認申請している。米国は今四半期中に審査結果が出るはずだったが、今になってFDAから諮問委員会召集を計画している旨の連絡を受けた。日程調整に1ヶ月以上、諮問委員会後の手続きに1ヶ月以上かかるだろうから、承認されるとしても5月以降に遅れるのではないか。

    同社は21年10月にローリング承認申請を開始、完了は22年第1四半期の予定だったが、一旦、年末に予定変更された後、同年8月に承認申請が受理された。優先審査指定されたが、12ヶ月曝露症例数の不足などから23年1月に審査完了通知を受領したため、同年第2四半期に第3相TRAILBLAZETR-ALZ2試験の継続追跡データを提出した。このような場合の審査期間は提出から半年だが3ヶ月延長され、今回、更に遅れることになった。

    イーライリリーのプレスリリースによると、FDAは、安全性や、上記試験のユニークなプロトコルと薬効の関係に関して理解を高めることを目的としている。前者は先に承認されたエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb)と比べてARIA(アミロイド関連造影異常)という抗アミロイド・ベータ抗体に特徴的な副作用の発現率が高いことに配慮しているのではないかと思われるが、異なった試験のデータを比較する時は真の差との誤差範囲を大きめに考える必要があり、承認を拒否するほど明確な差とは言えないように思われる。便益が不確かでも安全性が高ければ承認する余地があるので、リスクが偽薬並みではないことを併記しておく必要があっただけのことではないだろうか。

    上記試験のユニークな試みは、第一に、アミロイド・プラクが消失したら投与を中止すること。アミロイド・プラクを除去する薬なのだからリーズナブルな治療方針であり、これまでアルツハイマー病薬製薬会社が目を瞑っていた、いつ止めたらいいのかというunmet medical needに応え得る。一方で、何年かしたらまたプラクが蓄積するだろうから、離脱試験(プラクが消失した患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして転帰を比較する)を行って止めても大丈夫であることを確認すべきではないか、とも思われる。

    第二は、タウの凝集体蓄積量と薬効の関連性を意識していること。今回初めて気づいたが、治験論文の付表によると、スクリーニング対象8240人のうち1631人が基準より少ないという理由で除外されている。これは、アミロイド・プラクが基準以下で除外された患者数と大差ない。主評価項目は蓄積が軽中度である約1100人における症状評価尺度と、高度の患者も含む約1600人の同尺度。どちらも偽薬比有意な差があったが高度の患者だけ見ると大差なかったようだ。となると、医療現場でも、アミロイド・プラクだけでなくタウも事前に検査して軽中度の患者だけに使うほうが良いのかもしれない。一方で、もしそうなら、他の抗アミロイド・ベータ抗体は微小/高度タウ患者にも効くのか、という疑問がわく。

    FDAの側に注目すると、LeqembiやAduhelm(aducanumab-avwa)、そして上記Relyvrioの承認/加速承認を強力に後押ししたBilly Dunn氏がFDAを去ったのはネガティブな材料だ。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース

    【新薬開発】


    GSKのADC、復活に向けて二の矢も構え
    (2024年3月7日発表)

    GSKはBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)の多発骨髄腫二次治療試験、DREAMM-8が中間解析で主目的のPFS(無進行生存期間)を達成し、独立データ監視委員会の勧告に即して盲検解除したと発表した。データは未公表。再発売に向けて二つ目の良いニュースだ。

    多発骨髄腫の表面分子BCMAを標的とする抗体と細胞毒をリンカーで結合した抗体薬物複合体(ADC)。20年に米欧で主要4剤による治療歴を持つ再発/難治多発骨髄腫用薬として加速承認/条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験として位置付けられていたDREAMM-3試験がフェールしPFSがPdレジメン(pomalidomideと低量dexamethasoneの併用)に勝てなかったため、米国では23年2月に承認取消、EUでも承認が更新されない見込みだ。

    意外なことに、その後は朗報が続いた。昨年11月、二次治療のDREAMM-7試験が成功、Vdレジメン(bortezomibと低量dexamethasoneの併用)に追加する効果をdaratumumab追加と比較したところ、メジアンPFSが36.6ヶ月と対照群の13.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.41。全生存の中間解析はハザードレシオ0.57、p=0.00049と数値上は大変良い成績が出ているが、割り当てられたアルファが小さいため有意ではなく、継続追跡する。

    今回の試験も二次治療試験で、Pdレジメン(pomalidomideと低量dexamethasone)に追加する効果をbortezomibと比較した。比較するならBlenrep・bortezomib・低量dexamethasone vs. pomalidomide・bortezomib・低量dexamethasoneのほうが関心を呼ぶのではないかとも感じられるが、いずれにせよ、エビデンスは一本より二本のほうが良い。

    リンク: 同社のプレスリリース


    テトラサイクリン系抗菌剤を肺炭疽に適応拡大申請へ
    (2024年3月5日発表)

    米国ボストンのParatek PharmaceuticalsはNuzyra(omadacycline)の炭疽試験が良好な結果になり適応拡大申請に向けてFDAと相談する考えであることを発表した。肺炭疽は極めて稀だが致死性が高いためテロに用いられるリスクがある。治療はキノロン系抗菌剤のciprofloxacinや抗体医薬などが米国で承認されているが、バイオテロリストがこれらの薬に耐性を持つ細菌を開発するかもしれないので、複数の選択肢が必要だ。

    Nuzyraはテトラサイクリン系のaminomethylcyclineという新しいクラスに属し、テトラサイクリン抵抗菌にも活性を維持、グラム陽性、陰性、嫌気性菌など広いスペクトラムを持ち、経口剤と静注用がある。2018年に米国で本剤に感受する成人の地域感染細菌性肺炎と急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の治療薬として承認された。

    今回の試験は炭疽菌に曝露させた非ヒト霊長類に投与する、曝露後予防試験。偽薬群は全頭が10時間以内に死亡したが、試験薬群は全頭が30日以上生存し、60日生存率も90%超だった。

    肺炭疽は十分な症例数の臨床試験を行うのが困難で、且つ、偽薬対照試験は非倫理的であるため、動物試験に基づく承認申請が認められている(『アニマル・ルール』)。欧州のように動物愛護の観点から非ヒト霊長類の試験を禁じている地域もあり、実薬が存在するのだから、今後は実薬対照試験にシフトして犠牲を減らすことを検討しても良いのではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース


    セマグルチド、糖尿病性腎症の悪化を24%抑制
    (2024年3月5日発表)

    ノボ ノルディスクは、昨年10月、GLP-1作用剤semaglutideの後期第3相FLOW試験の独立データ監視委員会が目標達成を認定し繰上げ完了を推奨したことを公表したが、半年経って、ヘッドラインが判明した。

    この試験は慢性腎疾患を合併する二型糖尿病患者3533人を組入れて、標準療法にsemaglutide(1mgを週一回皮下注)を追加する便益を偽薬追加群と比較した。主評価項目は腎不全、eGFR半減、透析または腎移植、腎疾患死、心血管死の5項目の何れかが発生するリスク。同社のプレスリリースによると、リスクが24%小さかった。腎疾患関連の評価項目も心血管疾患関連もリスク抑制に貢献した。詳細は学会で発表する予定。

    報道によると、透析サービス大手のDaVitaは、昨年10月時点では、本試験の組み入れ条件に該当する患者は糖尿病性慢性腎疾患の1割足らずに過ぎず、上記5項目のうち一つだけでも事前に設定された条件を満たせば繰上げ中止するプロトコルであるため、詳細が判明するまで過大評価すべきではないとコメントしていた模様だ。他の糖尿病薬と同様にeGFRの悪化を抑制する効果が中心ならSGLT2阻害剤との比較も必要とのことだった。

    そこで、Farxiga(dapagliflozin)のDAPA-CKD試験のデータを見ると、主評価項目(eGFR半減、腎不全、心血管疾患死、または腎臓疾患死)のハザードレシオは0.61、eGFRだけでなく心血管疾患死でも0.81、腎臓疾患死は数が少なく解析不可能だが実数は2人対6人で1/3だった。こちらの試験は二型糖尿病以外の慢性腎疾患も組入れており、直接比較はできないが、結果が発表された当時、こんなに効くのかと驚いた覚えがある。

    リンク: ノボのプレスリリース

    【承認】


    ウコービの心血管リスク抑制作用が承認
    (2024年3月8日発表)

    FDAはノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)の適応拡大を承認した。心血管疾患で肥満またはオーバーウェイトの成人の心血管死や心筋梗塞、脳卒中を抑制する。心血管アウトカム試験SELECTでは、2.4mgを週一回、皮下注した群が心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の何れかを罹患する偽薬比ハザードレシオは0.80だった。平均40ヶ月の追跡期間中における発生率は6.5%、偽薬群は8.0%なので、1000人に3年超投与すると15人程度を救う計算になる。標準的な治療を受けている患者が対象であるためか、偽薬群の発生率も治療効果もそんなに高くない印象だ。

    ノボ ノルディスクのプレスリリースには心血管死のハザードレシオは0.85、全死亡のハザードレシオは0.81だったと記されているが、その後の長い記述をスクロールして末尾の脚注を見ると、前者の信頼区間は0.71-1.01で優越性は確認されていないこと、全死亡は0.71-0.93だが事前に設定された先行解析である心血管死が有意でなかったのでこちらも有意とは言えないことが明らかにされている。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: ノボのプレスリリース


    オプジーボが膀胱癌一次治療に適応拡大
    (2024年3月7日発表)

    FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療に用いることを承認した。cisplatin及びgemcitabineと併用で、60mgを3週毎に最大6サイクル投与し、その後はOpdivoだけを240mg隔週または480mg4週毎のスケジュールで投与する。エビデンスとなるCheckMate-901試験のサブスタディでメジアン生存期間が21.7ヶ月とOpdivoを併用しなかった群の18.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78だった。共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)も各7.9ヶ月、7.6ヶ月、0.72と有意に改善した。

    ライバルのKeytruda(pembrolizumab)は化学療法併用では承認されていないが、ファイザー/アステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)との併用が23年12月に米国で承認、日欧で申請中。メジアン生存期間は31.5ヶ月とcisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用した群の16.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.47、PFSのハザードレシオも0.45で、こちらのレジメンのほうが目を惹く。但し、深刻有害反応の発生率が50%、致死的有害反応は4%となっている。テレビドラマとは異なり、治験薬で3人が死亡したとしても30人が延命するなら許容される。

    リンク: FDAのプレスリリース


    BTK阻害剤が適応拡大
    (2024年3月7日発表)

    FDAはBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)のBrukinsa(zanubrutinib)を成人の二次以上の治療歴を持つ難治/再発濾胞性リンパ腫にobinutuzumabと併用することを加速承認した。ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、マントル細胞腫、辺縁帯リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫に次ぐ五つ目の適応になる。第2相ROSEWOOD試験でORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が69%、18ヶ月反応持続率は69%だった。obinutuzumabだけを投与した群のORRは45.8%だった。深刻有害事象発生率は35%。欧州でも1月に適応拡大が認められている。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: BeiGeneのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/4Vanda PharmaceuticalsのHetlioz(tasimelteon、入眠障害追加)
    24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
    24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
    24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
    24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
    24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
    24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
    24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
    24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
    24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
    24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
    24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
    諮問委員会
    24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
    24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
    24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



    今週は以上です。