2018年4月22日

2018年4月22日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AACR:キイトルーダは非小細胞性肺癌一次治療の標準療法に 
  • AACR:オプジーボとヤーボイの併用も有効だったが... 
  • Alkermes、FDAが申請拒否したのは間違いだった? 
  • BMS、オプジーボを小細胞性肺癌に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、大麻由来の抗癲癇薬を支持 
  • 協和発酵創製の希少疾患用抗体医薬が米国で承認 
  • RigelのSyk阻害剤が米国で承認 
  • BMS、腎癌でもオプジーボ・ヤーボイ併用が承認


【新薬開発】


AACR:キイトルーダは非小細胞性肺癌一次治療の標準療法に
(2018年4月16日発表)

MSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKEYNOTE-189試験の結果がAACR(米国癌研究会議)で発表された。転移性非扁平上皮性NSCLC(非小細胞性肺癌)の標準的一次治療である白金薬とpemetrexedの併用レジメンに更にKeytrudaを追加する効用を検証したところ、PD-L1発現状況を問わず、全生存期間もPFS(無進行生存期間)も偽薬を追加した群を有意に上回った。

この用法は米国では昨年5月に承認済みだが、第1/2相試験に基づく加速承認で、一次治療薬に求められる延命効果は確立していなかった。また、KeytrudaはモノセラピーでNSCLCの一次治療に用いることも承認されているが、対象はPD-L1高発現(TPS≧50%)のみである。また、ライバルのBMSのOpdivo(nivolumab)はNSCLCの試験ではなかなか結果を出せていない。189試験の成功は、様々な意味で、Kyetrudaの評価を高めた。

尚、この試験は幾つかの除外条件がある。まず、扁平上皮腫。pemetrexedが適応にならないため、407試験で別のレジメンとの併用を検討している。次に、EGFRやALKの活性化変異。白金レジメンではなくEGFR阻害剤やALK阻害剤が第一選択になるからだろう。今回初めて知ったのは、この試験だけでなくKeytrudaの複数の試験で、一定以上の放射線照射歴が除外条件になっていること。肺炎リスクが高まる由だが、この情報は広く共有されているのだろうか?

さて、主評価項目は元々はPFSだけだったが、昨秋、全生存期間も追加することが発表された。結果は、PFSはメジアン8.8ヶ月と偽薬併用群の4.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.52(95%信頼区間0.43-0.64)。全生存期間はメジアン未達、偽薬併用群は11.3ヶ月、ハザードレシオは0.49(同0.38-0.64)。

全生存ハザードレシオは、TPS≧50%の高発現サブグループでは0.42、1-49%は0.55、陰性でも0.59で、何れも95%上限が1を下回っており、この三剤併用はPD-L1発現状況を問わず有効であることが示された。

偽薬併用群は癌の進行が認定された後にKeytrudaなどの抗PD-1/PD-L1薬を用いた患者が多かったが、それでも延命効果に大きな差が出た。忍容性に配慮して一次治療は二剤併用で留めKeytrudaは二次治療に取って置く、という治療方針が否定されたことになる。

一方で、一次治療をKeytrudaだけに留める手法は必ずしも否定されていない。TPS≧50%に対するモノセラピーの効用を白金ベース二剤併用と比較した024試験では、PFSのハザードレシオが0.50、全生存期間は0.60と、今回とそんなに差のない数値が出ている。これらの点推定値が真実であったとしても、この程度の差で統計的に有意という答えを出すためには相当な症例数が必要なのではないか。また、モノセラピーは現状ではTPS≧50%だけが適応だが、将来的に50%未満に広がる可能性もありそうだ。

これらのことから、特にTPS≧50%に関しては、Keytrudaモノセラピーを第一選択にするケースも多そうだ。

抗PD-1/PD-L1は副作用の出方が化学療法と異なるので特別な配慮が必要だ。抗癌剤なので命に係わる副作用も少なくない。本試験では三剤併用群で治療関連死が3例発生した。何れも肺炎によるもの。上記のように、放射線治療歴を持つ患者に用いる場合は特に注意が必要かもしれない。

AACRでは黒色腫アジュバント試験の結果も発表されたので、簡単に記しておこう。ステージIII(AからCまで)の黒色腫を完全切除したが再発リスクの高い患者にKeytrudaまたは偽薬を投与したもので、無再発生存のハザードレシオが0.57(98.4%信頼区間0.43-0.74)、1年無再発生存率は各75.4%と61.0%だった。もうひとつの主評価項目であるPD-L1陽性サブグループの分析でもハザードレシオ0.54で統計的に有意な差があった。PD-L1発現状況やBRAF変異の有無を問わず、有効だった。

Opdivoも黒色腫アジュバントに承認されているが、臨床試験の組入れ基準はKeytrudaのほうが広い。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: 同(黒色腫試験について、4/15付)

AACR:オプジーボとヤーボイの併用も有効だったが...
(2018年4月16日発表)

AACRでは、BMSの免疫強化療法薬二剤をNSCLC一次治療に併用したCheckMate-227試験の結果も発表された。TMBという新しい遺伝子分析手法を用いてスクリーニングしたサブグループにおける有効性が明らかになったが、上記のKeytrudaのデータと比べて見劣りするだけでなく、このスクリーニング手法の有益性が曖昧であることや、解析計画が途中で複雑で分かり難いものに変更されたことによる不透明感も重なり、これで答えが出たという印象を持つことが困難である。

BMS/小野薬品とMSDの抗PD-1開発競争は、前者のほうが先行していたはずだが、米国承認はMSDが先んじた。非小細胞性肺癌の臨床試験では、MSDがモノセラピーや白金ベース併用試験を次々と成功させているのに対して、BMSはYervoy(ipilimumab)併用に重点を置いたことが黒色腫などと異なり肺癌では裏目に出ているような印象を受ける。

何れにせよ、MSDが10年以上前から臨床開発をスピードアップすべく取り組んできた成果が、抗PD-L1という開発すべき用途や併用法が滅茶苦茶多そうなテーマの出現で、顕在化したといえるだろう。

さて、227試験に話を戻すと、末期NSCLCの一次治療を受ける患者を組入れて、白金ベースの標準療法(扁平上皮腫はgemcitabine、それ以外はpemetrexedを併用;以下、標準療法)と、Opdivo(nivolumab;以下、モノセラピー)、Opdivo・Yervoy併用(以下、OY)、そしてOpdivo・標準療法併用(以下、OCT)の全生存期間やPFSを比較したもの。

3部に分かれており、パート1aはPD-L1発現癌を組入れてモノセラピーやOYを標準療法と比較、パート1bは陰性を組入れてOYやOCTを標準療法と比較、パート2では組入れ除外条件を緩和して様々なタイプの患者に対してOCTと標準療法を比較した。

今回発表されたのは、まず、パート1aと1bに組入れられた約1740人のうちTMBが10 mut/Mb以上と判定された299人のOY群と標準療法群のPFS解析だ(主評価項目)。ハザードレシオ0.58(97.5%信頼区間0.41-0.81)となり、PD-L1発現が1%以上のサブグループでも、1%未満でも、効果があった。

主評価項目ではないが、TMB≧10 mut/Mbグループの全生存期間の解析はハザードレシオ0.79(95%信頼区間0.56-1.10)で、上記のKeytrudaの数値と比べて点推定値が見劣りするだけでなく、信頼区間が1を跨いでいる(統計的に有意ではない)。

ここでTMBを説明しておくと、Tumor Mutation Burdenの略。腫瘍に関連する遺伝子変異の中には、EGFRやALKの活性化変異のように癌化に決定的な影響を持つ変異もある一方で、個々の変異の影響は小さくても多数重なると癌化するものがあっても不思議ではない。特定の遺伝子一つではなく、多数の遺伝子における変異の数に基づいて癌を分類するのがTMBで、メガバイト当りの変異数(mutation/Megabite)で表す。

閾値を10に設定したのは過去の試験のデータに基づくもので、通常は40~45%が該当するとのことだ。TMB検査はPD-L1検査より費用も必要な検体の量も数倍とのこと。

もう一つの主評価項目であるPD-L1≧1%のユニバースの全生存期間は今年遅くまたは来年初めに結果が出る見込み。BMSは、これを待たずに承認申請する考え。今後の解析で全生存期間で有意差が出ると良いのだが...

モノセラピーの効果に関しては、二次的評価項目として、TMB≧13 mut/MbかつPD-L1≧1%のサブグループのPFS解析が行われた。結果はハザードレシオ0.95(97.5%信頼区間0.61-1.48)とフェールした。

KeytrudaとOpdivoが異なる薬だと思っている人は少ないだろう。今回の試験を決定版と受け止めるのは早計のように感じられるが、同じことを何度も書くことはできず、どこかの段階で結論を出さざるを得ない。BMS/小野薬品に残された時間は少なくなってきた。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


Alkermes、FDAが申請拒否したのは間違いだった?
(2018年4月16日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、FDAがALKS 5461の承認申請を受理したと発表した。先週、受理せずと発表したばかりだが、薬効の立証が不十分なのでよくデザインされた試験を別途行うよう求めたのは、今回の承認申請とは直接関係ない事項に関するものであったらしい。おそらく、受理を拒否する理由としては不適切という話で、正式な承認審査が始まった段階で改めて取り上げられるのではないか。

ALKS 5461は、ミュー・オピオイド受容体に対してはアゴニスト、カッパ・オピオイド受容体にはアンタゴニストとして作用するbuprenorphineに、ミュー・オピオイド受容体アンタゴニストのsamidorphanを追加することで、カッパ・アンタゴニズムだけを生かすアイディア。第三相の最初の二本は主評価項目のMADRSがフェール、三本目は評価項目を10から6に減らしたMADRS-6の期中平均値に切り替えたところ、高用量二群が成功した。

抗鬱剤は試験で一敗、二敗しても二勝すれば合格といわれるが、ALKS 5461の場合は第三相だけでは足りないので第二相試験も含めた総合的な評価に望みを託することになる。承認申請は申請書類が概ね完全なら受理されるので、受理されたからと言って承認されるとは限らない。

buprenorphineはオピオイド依存治療薬として承認されている活性成分なので、申請書類の中には様々な文献データが引用されているだろう。合剤の場合、しばしば、単剤との比較試験が求められるが、単剤では抗鬱剤としての効果は不十分、という文献があったとしても、上記の理由で、一本や二本フェールしても、薬のせいなのか、治験がフェールしたのか、分からない。このため、改めて比較試験を行うべきとFDAは考えているのかもしれない。何れにせよ、単剤との比較よりも、合剤と偽薬の比較のほうが重要な論点になりそうだ。

リンク: Alkermesのプレスリリース

BMS、オプジーボを小細胞性肺癌に適応拡大申請
(2018年4月18日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)を小細胞性肺癌の三次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は8月16日。エビデンスとなる第1/2相CheckMate-032試験では、BICR(盲検独立中央評価)によるORR(客観的反応率)が11%で、TMB(Tumor Mutation Burden)高位のサブグループでは21%、中位と下位は各7%と5%だった。今回はモノセラピーだけのようだが、Yervoy併用群のBICR-ORRは22%だった。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: 同(032試験の学会発表について、17年10月16日付)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、大麻由来の抗癲癇薬を支持
(2018年4月18日発表)

FDAの末梢中枢神経系薬諮問委員会は、英国のGW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)がレノックス・ガストー症候群やドラベ症候群のアジャンクト(補助的追加)療法として承認申請したEpidiolex(cannabidiol)について検討し、投票権を持つ13人の委員全員が便益が危険を上回る(承認に値する)と判定した。審査期限は6月27日。承認されたら、大麻由来の医薬品もドラベ症候群の薬としても米国初。

GWは大麻の成分を医薬品として開発している会社で、合成テトラヒドロカンナビノールなどに加えて、大麻抽出物のnabiximols(USAN)をSativex名で欧州カナダなどで販売している。今回のカンナビジオール液は、幼小児期に発症する深刻な癲癇であるレノックス・ガストー症候群のアジャンクト試験で失立発作回数が治験前と比べて44%減少した(偽薬群は22%減少)。ドラベ症候群試験では痙攣発作頻度が39%減少した(偽薬群は13%)。

至適用量の検討が不十分と指摘されたので、承認後に追加試験を行うことになりそうだ。肝毒性が見られるためモニタリングが必要。大麻の成分には依存性のあるものもあるが、カンナビジオールはWHOもFDAも薬物依存のリスクは小さいと判断している模様。最終的には米国薬物管理庁(DEA)がFDAなどの評価に基づきスケジュール指定する。

欧州でも昨年、承認申請された。

リンク: GW社のプレスリリース


【承認】


協和発酵創製の希少疾患用抗体医薬が米国で承認
(2018年4月17日発表)

FDAは、Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)のCrysvita(burosumab-twza)をX染色体遺伝性低リン血症(XLH)治療薬として承認した。1歳以上が適応になる。

XLHはくる病の一種でX染色体上の遺伝子変異によりFGF(線維芽細胞増殖因子)23が過剰生産され、尿細管におけるリンの再吸収が減少、リン不足により骨の成長障害を合併する。CrysvitaはFDF23を標的とする完全ヒト化抗体で、臨床試験では9割以上の患者で血清リン濃度が正常化した。米国の患者は小児が3000人、成人12000人と推測されている。

Ultragenyxは正味価格で年20万ドル(小児は16万ドル)程度を計画している模様。また、今回の承認で希少小児疾患優先審査バウチャーを取得することができる。同社はチッカーシンボルが示すように希少疾患に特化しているためこのようなバウチャーは不要なはずであり転売するのではないか。昨年、ムコ多糖症7の治療薬としてMepsevii(vestronidase alfa-vjbk)が承認された時の同様なバウチャーは1.3億ドルでノバルティスに売却した模様。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 二社のプレスリリース

RigelのSyk阻害剤が米国で承認
(2018年4月17日発表)

Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)は、Tavalisse(fostamatinib disodium hexahydrate)が慢性免疫性血小板減少症の二次治療薬としてFDAに承認されたと発表した。第三相試験の成績が一本はp=0.03とボーダーライン上、もう一本はフェールしたので結果が危惧されたが、無事ゴールした。

マクロファージやB細胞のIgG受容体の細胞内シグナル伝達に係るSyk(spleen tyrosine kinase)を阻害する経口剤で、100mgを一日二回服用する。アストラゼネカと抗リウマチ薬として共同開発したことがあるが、副作用リスクなどが浮上し、提携解消となった。

主な有害事象は血圧上昇、肝機能検査値異常、下痢、好中球減少症など。

リンク: Rigelのプレスリリース

BMS、腎癌でもオプジーボ・ヤーボイ併用が承認
(2018年4月16日発表)

BMSは、中高リスク腎細胞腫の一次治療にOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用する適応拡大がFDAに承認されたと発表した。前者は3mg/kg、後者は1mg/kgを三週間毎に4回投与し、その後は前者だけを二週間に一回、維持投与する。維持投与期の用量・頻度は3mg/kgまたは240mg固定用量を2週毎、または480mg4週毎、の三種類の選択肢がある。

Sutent(sunitinib)と直接比較したCheckMate-214試験では、共同主評価項目のうちORRは41.6%対26.5%で有意に上回ったが、PFSはメジアン11.6ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.82でフェールした。しかし、第三の主評価項目である全生存期間のハザードレシオは0.63となり、統計的に有意。低リスク患者も含めた全ユニバースの解析でも有意差があった。

リンク: BMSのプレスリリース






今週は以上です。

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