2018年2月11日

2018年2月11日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO GU:イクスタンジの次世代品のデータ発表 
  • ASCO GU:イクスタンジも負けてはいない 
  • BMS曰く、オプジーボとヤーボイの併用はTMBが重要 
  • ASCO GU:テセントリク・アバスチン併用腎細胞腫試験が成功 
  • Shield社、経口鉄の適応拡大試験がフェール 
  • ギリアド、新規HIV/AIDS治療薬が米国で承認 
  • JNJ、ザイティガの適応拡大が承認 
  • ノボ、オゼンピックがEUでも承認 
  • EU、ulipristalに関する暫定的対策を発表 


【新薬開発】


ASCO GU:イクスタンジの次世代品のデータ発表
(2018年2月8日発表)

ファイザー/アステラス製薬のアンドロゲン受容体阻害薬、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を創製した医学者が第二世代品として送り出したErleada(apalutamide)の第三相SPARTAN試験の結果がASCO GU(米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。

前立腺癌でアンドロゲン枯渇療法(ADT)を受けていて、まだ転移はしていないがPSA値が急上昇し始めた、非転移性無症候性CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)患者1207人にErleada(240mgを一日一回経口投与)または偽薬を追加投与して転移・死亡リスク削減効果を検討したところ、メジアン無転移生存期間が各40.5ヶ月と16.2ヶ月となり、ハザードレシオは0.28、統計的に有意な差があった。

全生存期間のデータは未だ成熟していないが、中間解析でハザードレシオ0.45、p値は0.0001を下回っており、正しい方向を指し示している。深刻な有害事象の発生率は各25%と23%、有害事象による治験離脱は11%と7%となっており、忍容性は悪くなさそうだ。

13年にAragon Pharmaceuticalsを6.5億ドルと達成報奨金最大3.5億ドルで買収してapalutamideを入手したジョンソンエンドジョンソンは、17年10月に今回の試験の用途でFDAに承認申請。優先審査指定を受けたので、今年4月までに結果が判明する見込み。

後述のように同学会ではXtandiの類似した内容の試験の結果も発表されたが、大差ないように見える。Xtandi陣営にしてみれば、競合相手が現れたが先行の利は生かせそう、というところか。

さて、ADTを受けている患者は効果が低下してPSA値が急上昇したり転移性・症候性に移行した場合は治療方法を再検討するが、PSA上昇だけの場合は治療強化のタイミングが難しく、方針は国によっても異なるようである。先端的な医療施設では新しいPET造影法を用いて転移を早期発見する手法を探索している模様。

前立腺癌のステージングは既に十分、複雑だが、判定方法が変化するなら薬の効果もそれに合わせて再検討することになるかもしれない。ファイザー/アステラスとジョンソンエンドジョンソンの開発競争は今後も続くだろう。

リンク: ジョンソンエンドジョンソンのプレスリリース
リンク: Smithらの治験論文(N Engl J Med.、2018)

ASCO GU:イクスタンジも負けてはいない
(2018年2月5日発表)

ファイザー/アステラス製薬のアンドロゲン受容体阻害薬、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の第三相PROSPER試験のデータがASCO GUで発表された。成功したことは昨年9月に公表済みだが、数値も中々良かった。

この試験は、非転移性無症候性CRPCの患者約1400人にXtandi(160mgを一日一回経口投与)または偽薬を追加投与して転移・死亡リスク削減効果を比較したところ、メジアン無転移生存期間が各36.6ヶ月と14.7ヶ月となり、ハザードレシオは0.29、統計的に有意だった。全生存はまだ中間解析で、ハザードレシオ0.80だが信頼区間が1を跨いでいる。今後のアップデートを待ちたい。

リンク: ファイザーのプレスリリース

BMS曰く、オプジーボとヤーボイの併用はTMBが重要
(2018年2月5日発表)

BMSは、非小細胞性肺癌の一次治療におけるOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用療法の有効性を検討したCheckMate-227試験で、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)が達成されたと発表した。解析対象が治験登録と異なっているため警戒的な世評が多いが、もし盲検解除前に変更したのなら大きな問題にはならないだろう。Tumor Mutation Burden(TMB)という新しい反応予測手法の有効性を示すエビデンスになることを期待したい。

この試験は元々複雑で、パート1aはPD-L1陽性患者をOpdivo単剤群(以下、O群)、Opdivo・Yervoy併用群(OY群)、化学療法群(CT群)に割り付け。パート1bはPD-L1陰性患者をOY群、Opdivo・化学療法併用群(OC群)、CT群に割り付け。パート2は組み入れ条件を広げてOC群とCT群に割り付けた。

臨床試験の評価項目は多ければ多いほど偶然に有意差が出てしまうリスクが高まるので、主評価項目は一つ、二つに絞り込み、残りは順番をつけて解析がフェールしたら以降は仮説検証的解析ではなく探索的解析と位置付けるのが一般的だ。悪い輩が、結果が出揃った後で成功した項目を主評価項目に仕立て上げるのを防ぐため、プロトコルだけでなく治験登録にも明記が望まれるが、無視する会社や研究者も少なくない。

CheckMate-227試験の治験登録も、全生存期間とPFSが共同主評価項目と書いているだけで、解析対象どころか、パートに分かれていることすら記されていない。治験登録の趣旨を冒涜しているように感じられる。

さて、今回のBMSの発表で最大のサプライズは、主評価項目の一つであるPFSの解析対象がパート1a(PD-L1陽性)ではなく、パート横断的な高TMBサブグループだったこと。尚、もう一つの主評価項目はPD-L1陽性患者を対象とした全生存の解析で、未成熟なのだろう、データ監視委員会が続行勧告した由。

解析対象を高TMBに変更するらしいという噂は昨秋には流れていた模様なので、禁じ手である後出しじゃんけんではなく、許容することが可能な盲検解除前の変更なのではないか。当惑させられるのは、全生存の解析対象が異なることだ。結果的に、高TMBサブグループの全生存期間やPD-L1陽性患者のPFSが主評価項目と同様な重要性を持ってしまうので、多重性リスクを冒すことになる。

それはそれとして、TMBをスクリーニングに使う手法は興味深い。非小細胞性肺癌の病理に係る遺伝子変異のうち、EGFRやALKなどの活性化変異は決定的に重要で、だからこそEGFR阻害剤やALK阻害剤に顕著に反応するのだが、他の変異の関与は判然としない。ジノムワイドアソシエーションスタディや後ろ向き研究では様々な関連性が浮上しているが、上記の多重性リスクを内包しているので、前向き試験で確認する必要がある。

TMB分析は癌に関連する可能性のある遺伝子変異の多寡を応答性予測因子として使うもの。今回の試験ではロシュ・グループのFoundation Medicine(Nasdaq:FMI)のFoundationOne CDxという、癌細胞の標本からEGFRなど300を超える遺伝子の変異や反復異常を纏めて探知できるラボラトリー・アッセイを使った。閾値は、メガベース当り10変異(10mut/mb)を超えるものを高TBとした。よく用いられる、20mut/mbを閾値とする方法は1割強しか該当しないが、今回の定義だと40~45%である由。

これまでに、OpdivoやロシュのTecentriq(atezolizumab)の肺癌試験のTMB分析結果が学会発表されている。Opdivoの非小細胞性肺癌一次治療モノセラピー試験(CheckMate-026)では、高TMB(変異が243箇所以上)サブグループのメジアンPFSが9.7ヶ月と化学療法群の5.8ヶ月を上回った。但し、全生存期間では18.3ヶ月対18.8ヶ月、ハザードレシオ1.10となった。

結果が食い違うのは症例数が少ないせいかもしれないが、227試験のPFS解析対象を高TMBに絞り込んだのは、このデータが影響したのかもしれない。

PD-1/PD-L1阻害剤の応答予測因子はPD-L1が有効だろうと想像していたが、治験結果は区々で、各社が採用したアッセイが異なることもあって、当初考えていたほど単純ではなさそうだ。TMBも百点満点ではなさそうだが、今後、様々な薬の様々な癌におけるデータが集積すれば、少なくとも一歩前進できるだろう。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: CheckMate 227試験の治験登録
リンク: GoodmanらのTMBバイオマーカーに関する後ろ向き研究(Mol Cancer Ther.、2017)
リンク: Kowanetzらのatezolizumbの臨床成績の高TMBサブグループ分析(J Thorac Oncol. 、2016)

ASCO GU:テセントリク・アバスチン併用腎細胞腫試験が成功
(2018年2月6日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)とAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)を併用で末期・転移性腎細胞腫の一次治療に用いるIMmotion151試験の結果をASCO GUで発表した。共同主評価項目のうち、PD-L1陽性患者のPFS(担当医評価)はメジアン11.2ヶ月となり、標準療法であるSutent(sunitinib)群の7.7ヶ月を上回った。ハザードレシオは0.74、p=0.02。もう一つの、PD-L1陰性も含めた全生存期間の解析は未成熟で有意差はないが、ハザードレシオ0.81で正しい方向を向いている。

二次的評価項目であるPD-L1陽性患者の全生存解析はハザードレシオ0.68、intent-to-treatのPFSは0.83で、どちらも正しい方向を向いている。G3/4の有害事象発生率は40%とSutent群の54%を下回った。ロシュは、データを世界の医薬品審査機関に提示し討議する予定。

ところで、この試験の主評価項目と二次的評価項目の捩れ方は上記の227試験とよく似ている。それだけ製薬会社や研究者に迷いがあり、それだけに、取りこぼしてライバルに追い抜かれないため二股かけることが必要なのだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

Shield社、経口鉄の適応拡大試験がフェール
(2018年2月5日発表)

Shield Therapeutics(LSE:STX)は、Feraccru(ferric maltol)を慢性腎臓疾患患者の鉄欠乏性貧血症の治療に用いた第三相試験がフェールしたと発表した。ヘモグロビン値の改善が0.45g/dLに留まり、偽薬群の0.15g/dLと大差なかった。

Feraccruは経口鉄で、塩ではないので吸収が良い可能性がある。16年にEUで炎症性腸疾患患者の鉄欠乏性貧血症の治療薬として承認された。臨床試験ではヘモグロビン値が2.2g/dL上昇。一方、偽薬群はベースライン値に留まった。昨年9月に、炎症性腸疾患以外の患者にも使えるよう適応拡大申請したが、今回のセットバックで見通しが不透明になったのではないか。

承認用途では静注用製剤(ferric carboxymaltose)対照の非劣性試験が進行中で18年下期に判明する見込み。

リンク: Shield社のプレスリリース


【承認】


ギリアド、新規HIV/AIDS治療薬が米国で承認
(2018年2月7日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のBiktarvy錠がFDAにHIV/AIDS治療薬として承認された。新開発のインテグラーゼ・ストランド・トランスファー・インヒビターであるbictegravirを代表的な核酸系逆転写阻害剤であるemtricitabine及びtenofovir alafenamide fumarateと組み合わせた合剤で、一日一回一錠服用で足りる。新たに治療を受ける患者だけでなく、薬物療法によりウイルス抑制に成功している患者のスイッチも認められた。

ギリアドは3~4種類の薬剤を配合する合剤を次々と投入しHIV/AIDS分野のトップランナーになったが、シェアが高まれば高まるほど耐性ウイルスの脅威が増加するので補完的な選択肢が必要になり、ヴィーヴ・ヘルスケア(GKS、ファイザー、塩野義の合弁)との競合が激化してきた。

BiktarvyはヴィーヴのTriumeq(dolutegravir、abacavir、lamivudineの合剤)との直接比較試験が複数実施され、奏効率の非劣性解析は成功したが優越性は見られず、数値上は少しだけ下回った。そのせいか、ギリアド社のプレスリリースは使いやすさの面での競争力を強調している。腎機能やHLA-B遺伝子多型、服用タイミングに関する制約が小さいことや、治療前のウイルス量やCD4カウントに基づく制限がないことなどだ。

もう一つ、正面からぶつかる覚悟を示すのが優先審査バウチャーを使ったこと。ヴィーヴ陣営も別の薬で同じ手を使っており、競争に負けないための手段としてすっかり定着した格好だ。

リンク: ギリアドのプレスリリース

JNJ、ザイティガの適応拡大が承認
(2018年2月8日発表)

ジョンソンエンドジョンソンのZytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)の適応拡大がFDAに承認された。テストステロンの合成を阻害する経口剤で、前立腺癌用薬として11年に承認後、一歩ずつ早い段階で使う適応拡大を進めてきた。今回は、転移性でホルモン療法未経験の高リスク患者にアンドロゲン枯渇療法とZytiga及びprednisoneを併用するもの。

日本の施設も参加した第三相LATITUDE試験のエビデンスに基づくもので、アンドロゲン枯渇療法だけの群と比べて、全生存のハザードレシオが0.62、p値は0.0001を下回った。

この適応拡大は、欧州でも昨年12月に承認。日本は、今月、第二部会を通過した。

リンク: JNJのプレスリリース

ノボ、オゼンピックがEUでも承認
(2018年2月9日発表)

ノボ ノルディスクは、Ozempic(semaglutide、和名オゼンピック)がEUで承認されたと発表した。二型糖尿病の血糖治療に用いるGLP-1作用剤で、皮注用だが週一回の投与で足りることと、心血管安全性確認試験のポストホック分析でMACE(主要有害心血管イベント)が対照群より有意に少なかったことが長所。GLP-1作用剤のクラスイフェクトである体重抑制作用や悪心嘔吐副作用も持っている。

米国では昨年12月に承認。大規模試験で網膜有害事象の増加がみられたが、FDAの諮問委員会は重視しなかった。初めて聞いたが、血糖治療の最初の数年間は糖尿病性網膜症の合併症が増加するものらしい。日本は今月、部会を通過したところ。

ペン型ディバイスの新型を承認申請する計画で、欧州発売は承認後の今年下半期になる見込み。

リンク: ノボのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EU、ulipristalに関する暫定的対策を発表
(2018年2月9日発表)

EMA(欧州薬品庁)のPRCA(薬物監視リスク評価委員会)は、Gedeon Richter社のEsmya(ulipristal acetate)の肝臓安全性に関する検討を昨年11月に開始したが、今回、暫定的な対策を発表した。治療中で便益を受けている患者は、肝臓障害を示唆する兆候症状に注意するとともに、定期的に肝臓検査を受ける。新規に治療を開始してはいけない。尚、同じ活性成分を含有するレイプ後緊急避妊薬、ellaOneには今回の措置は適用されない。

Esmyaは選択的プロゲスチン受容体調節剤で、12年にEUで子宮筋腫治療薬として承認された。摘出術前の最大3ヶ月間の使用だけでなく、休薬期を挟みながら長期使用することも認めらた。13年にはカナダでFibristal名で承認されたが、用法は手術までのつなぎだけだ。

昨年11月のEMAの発表によると、これまでに深刻な肝障害が4例報告され、うち3人は肝移植を受けた。投与実績は67万人とのことなので発生頻度は低い。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Richter社のプレスリリース






今週は以上です。

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