2018年2月25日

2018年2月25日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ノボ、経口GLP-1作動剤の第三相が成功 
  • Aimmune、ピーナツアレルギー減感作療法薬の第三相が成功 
  • テムセル、米国試験が成功 
  • elagolix、子宮筋腫試験も成功 
  • シャイア、lanadelumabの米国承認が受理 
  • 2月のCHMP会合の結果 
  • CHMP諮問グループはClovisのPARP阻害剤に好意的 
  • クラリスロマイシンを心臓疾患患者に用いるのは要注意



【新薬開発】


ノボ、経口GLP-1作動剤の第三相が成功
(2018年2月22日発表)

ノボ ノルディスクは、OG217SC(semaglutide)の最初の第三相試験が成功したと発表した。他の試験の結果などを待って2019年に承認申請する考え。皮注用製剤やVictoza(liraglutide)との棲み分けをどうするか、マーケティング戦略が注目される。

OG217SCはEmisphere Technologies社のEligen技術を適用して開発した経口投与用の錠剤。SNACというキャリアを結合して、受動的細胞内輸送を利用して吸収されるようにした。第三相では、3mg、7mg、14mgをテストしている。今回の試験では、26週間の投与で、全用量、HbA1cが偽薬比有意に低下した。体重に関しては14mg群だけが偽薬比有意に減少した。

上記は、FDAや統計学者が支持する新しい解析方法に基づくもの。従来と同じ方法、つまり、服用中止・打ち切り例や血糖管理不良により薬剤を追加した患者に関しては最終観測値までのデータしか使わない解析方法では、HbA1cがベースライン値の8.0%から各群0.8%、1.3%、1.5%低下した(偽薬群は0.1%)。体重は88kgから1.7kg、2.5kg、4.1kg減少した(偽薬群は1.5kg)。

GLP-1作用剤の代表的な有害事象である悪心の発生率は5~16%(偽薬群は6%)、有害事象による治験離脱は2~7%(2%)だった。

皮注用製剤は0.5mgまたは1mgを週一回投与する。効果を見比べると、14mg錠は皮注用の二用量の中間くらいに相当しそうだ。

リンク: ノボのプレスリリース

Aimmune、ピーナツアレルギー減感作療法薬の第三相が成功
(2018年2月20日発表)

Aimmune Therapeutics(Nasdaq:AIMT)は、AR101の第三相試験成功を発表した。深刻な有害事象も見られるようなので、リスクと便益のバランスを確認する必要があるだろう。

AR101はピーナツ蛋白を配合する減感作療法用薬。FDAからファースト・トラック指定とブレークスルー・セラピー指定を受けている。昨年10月には、アトピー性皮膚炎治療薬Dupixent(dupilumab)を開発したリジェネロン(Nasdaq:REGN)及びサノフィと、併用法の開発で提携した。

今回の第三相試験では、エントリー時点では30mg超を忍容出来なかった患者499人に1年間投与したところ、600mgに忍容出来た患者の比率が67.2%と、偽薬群の4.0%を有意に上回った。FDAは95%信頼区間の下限が15%を上回ることを求めている由だが、53.0%と楽々クリアした。これらのデータは、主評価項目の解析対象である4~17歳の症例のもの。

案外だったのは薬自体の忍容性。治験完了率は79.6%、有害事象による治験離脱は12.4%。深刻な有害事象の発生率は2.4%(偽薬群は0.8%)で、主として胃腸系や全身性アレルギー性過敏反応。元々、抗体が多い人は深刻なアレルギー反応のリスクがありそうだ。

昨年、神奈川県立こども医療センターで牛乳アレルギー急速免疫療法の外来治療を受けていた患者が重篤な有害事象に見舞われた。重篤なアレルギー発作を防ぐための治療で重篤なアレルギー発作が起きるのでは患者はやり切れない。

AR101は年内に米国で承認申請、その後欧州でも申請される予定だが、実用化の前に、どのような患者が危険なのか、よく調査検討してほしいものだ。

リンク: Aimmuneのプレスリリース

テムセル、米国試験が成功
(2018年2月21日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB、Nasdaq:MESO)は、MSC-100-IV(remestemcel-L)の第三相試験が成功したと発表した。他家造血幹細胞移植後に急性GVHD(移植片対宿主病)が発生しステロイドが奏功しなかった小児55人を米国の施設で組入れて、4週間に8回投与したところ、26日時点の奏効率が69%と、ヒストリカルコントロールの45%を有意に上回った(p=0.0003)。

完全反応例や無効例は8回で治療を完了し、部分反応例には更に4週間、週一回追加投与して、転機を追跡したところ、100日死亡率は22%となり、ヒストリカルの70%を大きく下回った。Mesoblastは承認申請する考え。

健常ドナーから採取したヒト間葉系幹細胞の細胞性医薬品で、日本ではライセンシーの日本ケミカルリサーチが15年に急性GVHD用薬テムセルHSとして承認取得したが、本家のオサイリス・セラピューティクスは開発が難航し経営が悪化、13年に事業資産をMesoblastに売却した。オサイリスが米国でローリング承認申請を開始したのは09年なので、もう9年も経ったことになる。

リンク: Mesoblastのプレスリリース(Nasdaq GlobalNewswire)

elagolix、子宮筋腫試験も成功
(2018年2月21日発表)

アッヴィは昨年9月にABT-620(elagolix)を子宮内膜症の疼痛治療薬として米国で承認申請し、優先審査を受けているが、子宮筋腫を治療する第三相試験も一本目が成功した。生理出血抑制奏効率が68.5%と偽薬群の8.7%を有意に上回った。

ニューロクリン・バイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)からライセンスした経口GnRHアンタゴニストで、メカニズム的には成功しても全く驚きはなく、順調な進捗と言えるだろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認申請】


シャイア、lanadelumabの米国申請が受理
(2018年2月23日発表)

シャイアは、抗血清カリクレイン完全ヒト化抗体lanadelumabをHAE(遺伝性血管浮腫)発作予防薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は8月26日。

臨床試験では2週間に一回の皮注で発作を87%削減した。15年に59億ドルで買収したDyaxのパイプラインで、承認されたら更に6.46億ドルを払うことになる。

リンク: シャイアのプレスリリース


【承認審査・委員会】


2月のCHMP会合の結果
(2018年2月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、2月の会合で、下記の新薬や適応拡大の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

率直に言って、今月の新薬はあまり新味がない。もう一つの特徴は、否定的意見や撤回が多かったこと。

肯定的意見を受けた新薬は、まず、Alpivab(peramivir)。バイオクリスト(Nasdaq:BCRX)の注射用ノイラミニダーゼ阻害剤で、非複雑性インフルエンザの治療に用いる。経口剤に適さない患者には向いているかもしれない。日本は塩野義製薬が導入し2010年にラピアクタ名で承認。米国は2014年にRapivab名で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのMylotarg(gemtuzumab ozogamicin)はCD33陽性AML(急性骨髄性白血病)の新患にdaunorubicin及びcytarabineと併用する。ADC(抗体薬物複合体)の先駆けで、AMLの80~90%が発現するCD33に結合するヒト化抗体と、カリケアマイシンという二重連鎖DNA切断作用を持つ細胞毒を結合したもの。

欧州は未承認だが米国では2000年に、日本でも2005年に承認された経歴を持つ。米国は市販後薬効確認試験で安全性懸念が浮上したためFDAが販売中止を要請。その後、用量用法を変えて研究者主導試験が行われ、EFS(イベント・フリー・サバイバル)がメジアン17.3ヶ月とdaunorubicinとcytarabineの二剤だけの群の9.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.56、という良績を上げた。このため、米国は2017年に改めて承認した。

FDAや医学者が傍観していたら、Mylotargの正しい用量用法は発見されず、副作用で死亡する人がもっと多く発生しただろう。日本も見習うべきである。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース(後述のBosulifにも言及)

フランスのAMMTeK社のAmglidiaはポピュラーなSU剤であるglibenclamide(米国の一般名はglyburide)の新製剤・対象年齢拡大。新生児糖尿病治療薬として新たに経口液を開発し、10人の臨床試験で生物学的同等性を確認した。希少疾患用薬指定を受けている。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、Kineret(anakinra)をスチル病に用いることが支持された。遺伝子組換え型IL-1受容体アゴニストで、2000年代始めに欧米でリウマチ性関節炎治療薬として承認されたが、普及せず、アムジェンは08年に関連資産をSwedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)に売却した。

スチル病は全身性若年性特発性関節炎(sJIA)や成人発症性スチル病(AOSD)の総称。Kineretの適応は、中高度活性期の、または非ステロイド抗炎症薬で治療しても疾病活動が継続している、8ヶ月以上の患者となる予定。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのBosulif(bosutinib、和名ボシュリフ)を慢性期Ph+(フィラデルフィア染色体転座陽性)CML(慢性骨髄性白血病)の新患に用いることも支持された。abl阻害剤で、欧州では13年に二次治療薬として承認された。

一次治療の開発に当たって、ファイザーはAvillion社に第三相試験を委託。Avillionは費用も負担し、見返りとして、適応拡大達成時に報奨金を獲得できる。

アムジェンのXgeva(denosumab、和名ランマーク)は癌の骨転移治療薬として承認されているが、多発骨髄腫の臨床試験で好ましくない現象がみられたため、欧米では日本と異なり固形癌に限定されていた。その後、ビスフォスフォン酸対照試験で効果が非劣性であることが確認され、米国では今年1月に適応拡大承認。今回、CHMPは、固形癌限定解除を支持した。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)錠を再発性プラチナ感受性卵巣癌の維持療法に用いることも支持された。14年に初承認された時はカプセル剤でBRCA変異型に限定されていたが、錠剤に関しては限定なし。どちらも一日二回服用だが、カプセルは一回に50mgを8個飲むのに対して、錠剤は100mgまたは150mg錠一つで済むので楽。用量が若干違うせいか、CHMPは承認内容を別扱いしており、カプセル剤のBRCA変異限定は維持する考えだ。

リンク: EMAのプレスリリース

Shield Therapeutics(LSE:STX)のFeraccru(ferric maltol)は鉄欠乏性貧血症治療薬。現在は炎症性腸疾患患者限定だが、限定解除が支持された。慢性腎疾患患者の鉄欠乏性貧血症を治療する第三相偽薬対照試験がフェールしたことを2月11日号で取り上げたばかりだが、案に反する結果になった。

一方、否定的意見となったのは、まず、Puma Biotechnology(Nasdaq:PBYI)のNerlynx(neratinib)。日本の施設も参加して実施されたher2陽性早期乳癌の延長アジュバント試験、ExteNETが成功し米国では昨年7月に承認されたが、CHMPは、治験の再現性が不確実であることや下痢の副作用を懸念した。

CHMPの諮問グループの「トレンド・ヴォウト」が否定的な結果であったことをPumaが1月に発表しているためサプライズではない。Pumaは再審査請求する考え。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Pumaのプレスリリース

ファイザーのVEGFR阻害剤、Sutent(sunitinib)を難治性腎細胞腫の摘出術後アジュバント療法に用いる適応拡大も、否定的意見。効果が確信できない由。米国では昨年11月に承認されたが、諮問委員会は賛成6人、反対6人と二分された。反対派は、この用途におけるDFS(無病生存率)の有用性が確立していないこと、延命効果が未確認であること、先行して実施されたASSURE試験がフェールしていること、などの難点を指摘していた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)がZydelig(idelalisib)の適応拡大申請を1月に撤回していたことも発表された。難治性の低悪性度非ホジキンリンパ腫や慢性リンパ性白血病に承認されているPI3Kデルタ阻害剤で、今回は、再発性慢性リンパ性白血病にrituximab及びbendamustineと三剤併用する用法を申請したが、CHMPは、臨床試験の追跡期間が短く効果や副作用を十分確認できないとして、承認に懐疑的だった。

リンク: EMAのプレスリリース

CHMP諮問グループはClovisのPARP阻害剤に好意的
(2018年2月21日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、ファイザーから導入して開発したPARP阻害剤、Rubraca(rucaparib)をBRCA変異陽性卵巣癌の三次治療薬として開発し、16年に米国で承認取得した。欧州は申請が遅れたが、今回、CHMPの諮問機関から好意的な評価を受けたことが公表された。

この機関はInter-Committee Scientific Advisory Group for Oncologyで、CHMPの諮問事項について検討し、Trend Voteと呼ばれる票決を行い、報告する。CHMPは拘束されない。

CHMPは3月の会合で意見をまとめる予定。Rubracaはプラチナ感受性卵巣癌の二次治療後地固め療法としての試験が成功しており、Clovisは、欧州で承認された段階で適応拡大申請する考え。

リンク: Clovisのプレスリリース


【医薬品の安全性】


クラリスロマイシンを心臓疾患患者に用いるのは要注意
(2018年2月22日発表)

FDAは、心臓疾患患者にclarithromycin(クラリスロマイシン)を用いると何年も後に心臓障害や死亡のリスクが高まる可能性があるので、他剤の使用を検討するよう勧告した。米国のレーベルに警告と臨床試験データを掲載した。

きっかけは、安定期冠状心疾患の再発予防としてclarithromycinの2週間コースを施行したCLARICOR試験の長期フォローアップスタディ。1年以上後になって死亡例の増加が見られるようになった(ハザードレシオ1.27、95%信頼区間1.03-1.54)。特に、心血管死が増加した(同1.45、1.09-1.92)。どのような作用機序で死亡が増加するのか不明。

10年間追跡した研究結果が15年に刊行されたが、ここでも全死亡のハザードレシオは1.10だった(95%信頼区間1.00-1.21)。心血管死が増加したのは最初の3年だけだった。

観察的研究も行われた。冠状心疾患に限定していないものも含めて6本のうち、2本では長期的なリスクが見られたが、残りの4本では見られなかった。

CLARICOR試験の長期フォローアップ論文がBMJ誌に刊行されたのは2006年、FDAが警告を発したのは2005年なので、既に広く認知されているリスクだろう。

リンク: FDAの安全性情報
リンク: Jespersenらの臨床試験論文(BMJ 2006;332:22、オープンアクセス)
リンク: Winkelらの長期追跡試験論文(Int J Cardiol. 2015 Mar 1;182:459-65、リンクはPubMed)





今週は以上です。

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2018年2月18日

2018年2月18日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • バベンチオも肺癌試験がフェール 
  • MSD、BACE1阻害剤のアルツハイマー病試験がまたフェール 
  • バイオジェン、アルツハイマー病試験の組入れ拡大を発表 
  • Agios、FDAがIDH1阻害剤のNDAを受理 
  • アミカス社、FDAがmigalastatのNDAを受理 
  • ファイザー、新規ALK阻害剤を承認申請 
  • リツキサン、尋常性天疱瘡に適応拡大申請 
  • ヴァーテックス、嚢胞性線維症の新薬が米国で承認 
  • FDAが第二世代アンドロゲン受容体阻害剤を承認 
  • FDA、アストラゼネカの抗PD-L1抗体の適応を追加 


【新薬開発】


バベンチオも肺癌試験がフェール
(2018年2月15日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、両社が共同開発販売している抗PD-L1完全ヒト化抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相末期非小細胞性肺癌試験がフェールしたと発表した。PD-L1陽性サブグループの全生存期間をdocetaxel群と比較したが、ハザードレシオは0.90、p=0.1627に留まった。

抗PD-1/PD-L1抗体の臨床試験の注目点の一つは効果とPD-L1発現の関連性だ。本試験では、中高度発現(50%以上で発現、被験者の約4割)サブグループのハザードレシオは0.67、p=0.0052、著高発現(80%以上)サブグループではハザードレシオ0.59だった。主評価項目がフェールしたのでこれらは探索的解析に過ぎず、また、他の抗PD-1/PD-L1抗体のデータは一筋縄ではいかなかったため即断は危険だが、更に探求する余地はありそうだ。

尚、標準療法と同程度なのだから悪くないと思う人もいるかもしれないが、この試験はあくまで優越性検証試験であり、同程度であることを証明するためにはもっと大規模で厳格な試験が必要だ。

対照群は癌が進行した後にBavencioのようなチェックポイント阻害剤による治療を受けた患者の比率が26.4%と、Bavencio群の5.7%や過去のdocetaxelの臨床試験より高く、三次治療の違いが結果に影響した可能性がある。

このJAVELIN Lung 200試験は盲検ではないので、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)などが承認されている国では、docetaxel群に割り付けられた患者が早めに進行認定を受けてOpdivoにスイッチするようなことがあったかもしれない。被験者は命が懸かっているのだから。二次治療の施行期間は決して長くないので三次治療でも効果は大差ないかもしれない。

Bavencioは非小細胞性肺癌の一次治療試験も進行中。当初の計画ではPFS(無進行生存期間)を主評価項目として17年にもデータベース・ロックの予定だったが、Opdivoの類似した試験のフェールが発表された後に全生存期間を共同主評価項目とする変更を行い、目標症例数が増えたため、開票が2019年に遅れることとなった。薬の効果は一次治療試験のほうがハッキリと出るだろうが、後治療でチェックポイント阻害剤を使うノイズが再び撹乱要因になるかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、BACE1阻害剤のアルツハイマー病試験がまたフェール
(2018年2月13日発表)

MSDは、MK-8931(verubecestat)の第三相前駆アルツハイマー病試験を中止すると発表した。データ監視委員会が中間解析で無益性を認定したため。

MK-8931は09年に買収したシェリング・プラウがライガンド・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:LGND)との共同研究を通じて創製したBACE1阻害剤。一年前には軽中度アルツハイマー病の第2/3相試験が無益性で打ち切りになった。今回の試験は、PET検査でアミロイド蓄積が確認された患者だけを組入れてCDR-SBを主評価項目とする、最近の試験の典型的なデザインを採用している。

周到な臨床開発を行うことで定評のあるMSDが、過去に第三相がフェールした他社の開発品よりプロファイルの良いBACE阻害剤として満を持して第三相入りさせたコンパウンドなので、BACE阻害剤全体の評価に影響がありそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース

バイオジェン、アルツハイマー病試験の組入れ拡大を発表
(2018年2月15日発表)

バイオジェンは、投資銀行主催のヘルスケア・カンファレンスで、BIIB037(aducanumab)の第三相試験の目標症例数を二本合計で510人追加することを明らかにした。MK-8931のフェールが発表された直後であることや、元々懐疑的な意見が珍しくなかったことなどから、株価が7%急落したが、悪材料と呼ぶほどではないように感じられる。

BIIB037はアミロイドベータの立体配座エピトープを標的とするIgG1型完全ヒト化抗体で、07年にスイスのNeurimmune社からインライセンスした。エーザイ提携の対象で、日本でも先駆け審査指定されている。

第三相は早期アルツハイマー病(アルツハイマー性軽度認知障害や軽度アルツハイマー病)の患者二本合計2700人を組入れて78週間治療し、CDR-SBの変化を偽薬群と比較するもの。事前に計画された検出力再評価の結果、データのばらつきが前提より大きいことが判明。検出力を90%に維持するためには症例数を増やす必要が生じた。

第三相のような仮説検証試験は、前提に誤りがあると検出力不足だけの理由でフェールしてしまうリスクがある。この誤りは臨床的に重要である場合も、誰も気にしない程度の違いに過ぎない場合もありうる。従って、今回の発表を悪材料と呼ぶのは不適切だろう。

私自身は、BIIB037でも、他のコンパウンドでも、アルツハイマー病試験が成功するといいな...でも多分フェールするんだろうな...と思っている。

リンク: Bloombergの報道


【承認申請】


Agios、FDAがIDH1阻害剤のNDAを受理
(2018年2月15日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、FDAがAG-120(ivosidenib)の承認申請を受理し、優先審査指定したと発表した。審査期限は8月21日。IDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)を阻害する経口剤で、IDH1変異を持つ再発性難治性AML(急性骨髄性白血病)の治療に用いる。エビデンスとなる第一相試験では、CR(完全反応)率が21.6%、CRh(血液学的反応が部分的であること以外は完全反応)を含めると30.4%だった。

Agiosは2010年以来、セルジーン(Nasdaq:CELG)と癌代謝領域で戦略的協業を行っており、最初の成果であるIDH2阻害剤、Idhifa(enasidenib)は昨年8月にIDH2変異型再発性難治性AMLの治療薬としてFDAに承認された。一方、AG-120はセルジーン提携の対象ではない。

IDH2型はAMLの8~19%、IDH1型は6~10%を占めるとのこと。AMLは様々なタイプの寄せ集めで、今後も特定のサブタイプに適した治療手段が開発されていくだろう。新薬が高価であることは人類の不幸だが、希少疾患に関しては、もし高い値段で売ることができなかったら製薬会社は開発を諦めざるを得ないだろう。私たちとしては、Idhifaのような薬が続々と誕生することを望むばかりである。

リンク: Agiosのプレスリリース

アミカス社、FDAがmigalastatのNDAを受理
(2018年2月12日発表)

アミカス・セラピュティクス(Nasdaq:FOLD)は、FDAがmigalastatの承認申請を受理し優先審査指定したことを発表した。審査期限は8月13日。欧州では16年5月に承認。日本でも昨年6月に承認申請され、3月1日に薬食審・医薬品第一部会で審議される予定。

「がんばれ!!小さき命(いのち)たちよ」と言えば神奈川県立こども医療センターの新生児科部長、豊島先生のブログだが、「小さな命が呼ぶとき」という映画のモデルになったのが、アミカス社のCEOであるJohn Crowleyだ。ポンぺ病の娘さんのためにBMSを退職し、有望なアイディアを持つ研究者を発見し、臨床開発に必要な巨額の資金を集め、遂にMyozyme(alglucosidase alfa)の実用化に成功した。

Myozymeは酵素補充療法なので点滴静注が必要だが、05年にCEOに就任したアミカスは、ファーマスーティカル・シャペロンという不思議な現象を利用した経口治療薬を開発している。遺伝子変異が原因で翻訳後装飾時の折り畳みが上手く行かず、立体構造が違うせいで本来の機能が果たせないタンパクを、小分子薬で補正するもので、最初に第三相に進んだのがmigalastatだ。

ファブリー病の治療薬で、アルファ・ガラクトシダーゼAのGLA遺伝子変異のうち、amenable mutationと呼ばれる269種類に効果がある。患者の35~50%が該当するようだ。

開発は順調ではなかった。07年に共同開発提携したシャイアも、10年提携のGSKも、去った。欧州はバイオマーカーに基づいて薬効を認定したが、FDAは認めず、胃腸症状改善効果を検討する第三相を実施中だ。

流れが変わったように感じられたのがトランプ大統領の登場だ。昨年2月の施政方針演説でCrowley父娘と面談したことに言及し、患者が有望な新薬を早く使えるようFDA改革を行うと宣言した。16年にSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のExondys 51(eteplirsen)がデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として承認された頃から顕在化した、臨床的な効用が曖昧でもバイオマーカーが改善するなら承認する事例が、昨年は増加したように感じられる。

アミカスの場合も、FDAが承認申請に前向きな姿勢を示したのは昨年7月なので、やはり、トランプ効果なのだろう。

リンク: アミカスのプレスリリース

ファイザー、新規ALK阻害剤を承認申請
(2018年2月12日発表)

ファイザーは、PF-06463922(lorlatinib)を承認申請しFDAに受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は今年8月とだけ公表された。前後して日本や欧州でも承認申請済み。

ALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤で、ALK活性化変異を持つ非小細胞性肺癌で他のALK阻害剤による治療歴を持つ患者に用いる。第二相試験では、同社のXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)歴を持つ患者の7割弱が反応した。第三相は、変異ALK陽性非小細胞性肺癌の一次治療Xalkori対照試験が進行中。Xalkoriはファースト・イン・クラスだったが今日では競合が増えたため、PF-06463922も差別化が課題だろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

リツキサン、尋常性天疱瘡に適応拡大申請
(2018年2月14日発表)

ロシュは、Rituxan(rituximab、欧州名MabThera、和名リツキサン)を尋常性天疱瘡の一次治療に用いる適応拡大を米国で申請し、受理されたと発表した。10万人に3人の希少疾患で、希少疾患用薬指定とブレークスルー・セラピー指定を受けており、今回、優先審査指定された。

承認申請の根拠となるPEMPHIX試験では、24ヶ月の治療で46人中89%が完全緩解した。prednisoneだけによる治療を行った群は34%に留まった。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


ヴァーテックス、嚢胞性線維症の新薬が米国で承認
(2018年2月13日発表)

米国でヴァーテックス・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:VRTX)のSymdekoが嚢胞性線維症治療薬として承認された。病理に係るCFTR遺伝子変異のうち、F508欠乏のホモ接合型や、ヘテロでももう一つの遺伝子の変異がSymdekoに応答するタイプ(27種類)である場合に、適応になる。

CFTR蛋白チャネルの開口時間を長期化するCFTRポテンシエイターで12年に商品化されたKalydeco(ivacaftor)の活性成分と、CFTR蛋白が細胞表面に移行するのを助ける新開発のCFTRコレクター、tezacaftorの合剤で、朝はこの合剤、夕方はivacaftorだけを経口投与する。

第三相試験では、ホモ接合型では予測一秒量が絶対値で偽薬比4ポイント程度改善した。ヘテロは変異型によりかなり異なる。報道によると、WAC(問屋取得価格)は年29万ドル程度とのこと。

同社は患者支援団体とともに治療薬の開発を進め、変異型毎に様々な単剤、合剤を商品化することに成功した。まだ全ての患者には対応できていないが、VX-561とCTP-656の併用などパイプラインは豊富なので、マス目が着々と埋まっていくだろう。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

FDAが第二世代アンドロゲン受容体阻害剤を承認
(2018年2月14日発表)

ジョンソンエンドジョンソンのErleada(apalutamide)が米国で承認された。審査期限は4月なので2ヶ月早かった。FDAによると二つの初がある。まず、適応症。前立腺癌でアンドロゲン枯渇療法を受けている患者のうち、まだ転移はしていないがPSA値が急上昇し始めた段階の、「非転移性去勢抵抗性」前立腺癌に用いる薬が承認されたのは初。

次に、薬効のエビデンス。第三相試験の主評価項目は無転移生存期間で、メジアン40.5ヶ月、偽薬群は16.2ヶ月、ハザードレシオは0.28だった。副次的評価項目である全生存期間の解析はまだ中間解析に留まっている。無転移生存期間に基づく承認は前立腺癌では初。

ファイザー/アステラスのXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を創製した医学者が第二世代品としてリリースしたアンドロゲン受容体阻害剤で、bicalutamideと異なり、状況によってはアゴニストとして作用してしまうことがない。240mgのカプセルを一日一回、服用する。

Xtandiも同様な内容の試験で同様な成績を上げている。この用途での承認はErleadaが先行したが、前立腺癌用薬としての発売は6年遅れなので、競争条件は決して良くないだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

FDA、アストラゼネカの抗PD-L1抗体の適応を追加
(2018年2月16日発表)

FDAは、アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を切除不能非小細胞性肺癌の一次治療後維持療法として承認した。ステージIIIで、白金ベースの化学療法と放射線療法に反応・疾病安定化した患者に用いる。PD-L1発現は不問。日米欧などで実施された第三相試験では、中間解析でメジアンPFSが16.8ヶ月と偽薬群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.52、統計的に有意だった。

Imfinziは抗PD-L1完全ヒト化抗体。17年に局所進行性/転移性尿路上皮細胞腫の二次治療薬として米国で承認された。肺癌は抗CTLA-4ヒト化抗体(BMSのYervoyと類似)併用試験のPFS解析がフェール。まだ全生存の解析が残っているが前途に雲が掛かっていた。ステージIII切除不能は非小細胞性肺癌の1~2割を占め、対象患者数が多く、維持療法の承認は初なので、朗報だ。抗PD-1/PD-L1抗体は数が多いので独自の適応を持つことは重要。

リンク: FDAのプレスリリース




今週は以上です。

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2018年2月11日

2018年2月11日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO GU:イクスタンジの次世代品のデータ発表 
  • ASCO GU:イクスタンジも負けてはいない 
  • BMS曰く、オプジーボとヤーボイの併用はTMBが重要 
  • ASCO GU:テセントリク・アバスチン併用腎細胞腫試験が成功 
  • Shield社、経口鉄の適応拡大試験がフェール 
  • ギリアド、新規HIV/AIDS治療薬が米国で承認 
  • JNJ、ザイティガの適応拡大が承認 
  • ノボ、オゼンピックがEUでも承認 
  • EU、ulipristalに関する暫定的対策を発表 


【新薬開発】


ASCO GU:イクスタンジの次世代品のデータ発表
(2018年2月8日発表)

ファイザー/アステラス製薬のアンドロゲン受容体阻害薬、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を創製した医学者が第二世代品として送り出したErleada(apalutamide)の第三相SPARTAN試験の結果がASCO GU(米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。

前立腺癌でアンドロゲン枯渇療法(ADT)を受けていて、まだ転移はしていないがPSA値が急上昇し始めた、非転移性無症候性CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)患者1207人にErleada(240mgを一日一回経口投与)または偽薬を追加投与して転移・死亡リスク削減効果を検討したところ、メジアン無転移生存期間が各40.5ヶ月と16.2ヶ月となり、ハザードレシオは0.28、統計的に有意な差があった。

全生存期間のデータは未だ成熟していないが、中間解析でハザードレシオ0.45、p値は0.0001を下回っており、正しい方向を指し示している。深刻な有害事象の発生率は各25%と23%、有害事象による治験離脱は11%と7%となっており、忍容性は悪くなさそうだ。

13年にAragon Pharmaceuticalsを6.5億ドルと達成報奨金最大3.5億ドルで買収してapalutamideを入手したジョンソンエンドジョンソンは、17年10月に今回の試験の用途でFDAに承認申請。優先審査指定を受けたので、今年4月までに結果が判明する見込み。

後述のように同学会ではXtandiの類似した内容の試験の結果も発表されたが、大差ないように見える。Xtandi陣営にしてみれば、競合相手が現れたが先行の利は生かせそう、というところか。

さて、ADTを受けている患者は効果が低下してPSA値が急上昇したり転移性・症候性に移行した場合は治療方法を再検討するが、PSA上昇だけの場合は治療強化のタイミングが難しく、方針は国によっても異なるようである。先端的な医療施設では新しいPET造影法を用いて転移を早期発見する手法を探索している模様。

前立腺癌のステージングは既に十分、複雑だが、判定方法が変化するなら薬の効果もそれに合わせて再検討することになるかもしれない。ファイザー/アステラスとジョンソンエンドジョンソンの開発競争は今後も続くだろう。

リンク: ジョンソンエンドジョンソンのプレスリリース
リンク: Smithらの治験論文(N Engl J Med.、2018)

ASCO GU:イクスタンジも負けてはいない
(2018年2月5日発表)

ファイザー/アステラス製薬のアンドロゲン受容体阻害薬、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の第三相PROSPER試験のデータがASCO GUで発表された。成功したことは昨年9月に公表済みだが、数値も中々良かった。

この試験は、非転移性無症候性CRPCの患者約1400人にXtandi(160mgを一日一回経口投与)または偽薬を追加投与して転移・死亡リスク削減効果を比較したところ、メジアン無転移生存期間が各36.6ヶ月と14.7ヶ月となり、ハザードレシオは0.29、統計的に有意だった。全生存はまだ中間解析で、ハザードレシオ0.80だが信頼区間が1を跨いでいる。今後のアップデートを待ちたい。

リンク: ファイザーのプレスリリース

BMS曰く、オプジーボとヤーボイの併用はTMBが重要
(2018年2月5日発表)

BMSは、非小細胞性肺癌の一次治療におけるOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用療法の有効性を検討したCheckMate-227試験で、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)が達成されたと発表した。解析対象が治験登録と異なっているため警戒的な世評が多いが、もし盲検解除前に変更したのなら大きな問題にはならないだろう。Tumor Mutation Burden(TMB)という新しい反応予測手法の有効性を示すエビデンスになることを期待したい。

この試験は元々複雑で、パート1aはPD-L1陽性患者をOpdivo単剤群(以下、O群)、Opdivo・Yervoy併用群(OY群)、化学療法群(CT群)に割り付け。パート1bはPD-L1陰性患者をOY群、Opdivo・化学療法併用群(OC群)、CT群に割り付け。パート2は組み入れ条件を広げてOC群とCT群に割り付けた。

臨床試験の評価項目は多ければ多いほど偶然に有意差が出てしまうリスクが高まるので、主評価項目は一つ、二つに絞り込み、残りは順番をつけて解析がフェールしたら以降は仮説検証的解析ではなく探索的解析と位置付けるのが一般的だ。悪い輩が、結果が出揃った後で成功した項目を主評価項目に仕立て上げるのを防ぐため、プロトコルだけでなく治験登録にも明記が望まれるが、無視する会社や研究者も少なくない。

CheckMate-227試験の治験登録も、全生存期間とPFSが共同主評価項目と書いているだけで、解析対象どころか、パートに分かれていることすら記されていない。治験登録の趣旨を冒涜しているように感じられる。

さて、今回のBMSの発表で最大のサプライズは、主評価項目の一つであるPFSの解析対象がパート1a(PD-L1陽性)ではなく、パート横断的な高TMBサブグループだったこと。尚、もう一つの主評価項目はPD-L1陽性患者を対象とした全生存の解析で、未成熟なのだろう、データ監視委員会が続行勧告した由。

解析対象を高TMBに変更するらしいという噂は昨秋には流れていた模様なので、禁じ手である後出しじゃんけんではなく、許容することが可能な盲検解除前の変更なのではないか。当惑させられるのは、全生存の解析対象が異なることだ。結果的に、高TMBサブグループの全生存期間やPD-L1陽性患者のPFSが主評価項目と同様な重要性を持ってしまうので、多重性リスクを冒すことになる。

それはそれとして、TMBをスクリーニングに使う手法は興味深い。非小細胞性肺癌の病理に係る遺伝子変異のうち、EGFRやALKなどの活性化変異は決定的に重要で、だからこそEGFR阻害剤やALK阻害剤に顕著に反応するのだが、他の変異の関与は判然としない。ジノムワイドアソシエーションスタディや後ろ向き研究では様々な関連性が浮上しているが、上記の多重性リスクを内包しているので、前向き試験で確認する必要がある。

TMB分析は癌に関連する可能性のある遺伝子変異の多寡を応答性予測因子として使うもの。今回の試験ではロシュ・グループのFoundation Medicine(Nasdaq:FMI)のFoundationOne CDxという、癌細胞の標本からEGFRなど300を超える遺伝子の変異や反復異常を纏めて探知できるラボラトリー・アッセイを使った。閾値は、メガベース当り10変異(10mut/mb)を超えるものを高TBとした。よく用いられる、20mut/mbを閾値とする方法は1割強しか該当しないが、今回の定義だと40~45%である由。

これまでに、OpdivoやロシュのTecentriq(atezolizumab)の肺癌試験のTMB分析結果が学会発表されている。Opdivoの非小細胞性肺癌一次治療モノセラピー試験(CheckMate-026)では、高TMB(変異が243箇所以上)サブグループのメジアンPFSが9.7ヶ月と化学療法群の5.8ヶ月を上回った。但し、全生存期間では18.3ヶ月対18.8ヶ月、ハザードレシオ1.10となった。

結果が食い違うのは症例数が少ないせいかもしれないが、227試験のPFS解析対象を高TMBに絞り込んだのは、このデータが影響したのかもしれない。

PD-1/PD-L1阻害剤の応答予測因子はPD-L1が有効だろうと想像していたが、治験結果は区々で、各社が採用したアッセイが異なることもあって、当初考えていたほど単純ではなさそうだ。TMBも百点満点ではなさそうだが、今後、様々な薬の様々な癌におけるデータが集積すれば、少なくとも一歩前進できるだろう。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: CheckMate 227試験の治験登録
リンク: GoodmanらのTMBバイオマーカーに関する後ろ向き研究(Mol Cancer Ther.、2017)
リンク: Kowanetzらのatezolizumbの臨床成績の高TMBサブグループ分析(J Thorac Oncol. 、2016)

ASCO GU:テセントリク・アバスチン併用腎細胞腫試験が成功
(2018年2月6日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)とAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)を併用で末期・転移性腎細胞腫の一次治療に用いるIMmotion151試験の結果をASCO GUで発表した。共同主評価項目のうち、PD-L1陽性患者のPFS(担当医評価)はメジアン11.2ヶ月となり、標準療法であるSutent(sunitinib)群の7.7ヶ月を上回った。ハザードレシオは0.74、p=0.02。もう一つの、PD-L1陰性も含めた全生存期間の解析は未成熟で有意差はないが、ハザードレシオ0.81で正しい方向を向いている。

二次的評価項目であるPD-L1陽性患者の全生存解析はハザードレシオ0.68、intent-to-treatのPFSは0.83で、どちらも正しい方向を向いている。G3/4の有害事象発生率は40%とSutent群の54%を下回った。ロシュは、データを世界の医薬品審査機関に提示し討議する予定。

ところで、この試験の主評価項目と二次的評価項目の捩れ方は上記の227試験とよく似ている。それだけ製薬会社や研究者に迷いがあり、それだけに、取りこぼしてライバルに追い抜かれないため二股かけることが必要なのだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

Shield社、経口鉄の適応拡大試験がフェール
(2018年2月5日発表)

Shield Therapeutics(LSE:STX)は、Feraccru(ferric maltol)を慢性腎臓疾患患者の鉄欠乏性貧血症の治療に用いた第三相試験がフェールしたと発表した。ヘモグロビン値の改善が0.45g/dLに留まり、偽薬群の0.15g/dLと大差なかった。

Feraccruは経口鉄で、塩ではないので吸収が良い可能性がある。16年にEUで炎症性腸疾患患者の鉄欠乏性貧血症の治療薬として承認された。臨床試験ではヘモグロビン値が2.2g/dL上昇。一方、偽薬群はベースライン値に留まった。昨年9月に、炎症性腸疾患以外の患者にも使えるよう適応拡大申請したが、今回のセットバックで見通しが不透明になったのではないか。

承認用途では静注用製剤(ferric carboxymaltose)対照の非劣性試験が進行中で18年下期に判明する見込み。

リンク: Shield社のプレスリリース


【承認】


ギリアド、新規HIV/AIDS治療薬が米国で承認
(2018年2月7日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のBiktarvy錠がFDAにHIV/AIDS治療薬として承認された。新開発のインテグラーゼ・ストランド・トランスファー・インヒビターであるbictegravirを代表的な核酸系逆転写阻害剤であるemtricitabine及びtenofovir alafenamide fumarateと組み合わせた合剤で、一日一回一錠服用で足りる。新たに治療を受ける患者だけでなく、薬物療法によりウイルス抑制に成功している患者のスイッチも認められた。

ギリアドは3~4種類の薬剤を配合する合剤を次々と投入しHIV/AIDS分野のトップランナーになったが、シェアが高まれば高まるほど耐性ウイルスの脅威が増加するので補完的な選択肢が必要になり、ヴィーヴ・ヘルスケア(GKS、ファイザー、塩野義の合弁)との競合が激化してきた。

BiktarvyはヴィーヴのTriumeq(dolutegravir、abacavir、lamivudineの合剤)との直接比較試験が複数実施され、奏効率の非劣性解析は成功したが優越性は見られず、数値上は少しだけ下回った。そのせいか、ギリアド社のプレスリリースは使いやすさの面での競争力を強調している。腎機能やHLA-B遺伝子多型、服用タイミングに関する制約が小さいことや、治療前のウイルス量やCD4カウントに基づく制限がないことなどだ。

もう一つ、正面からぶつかる覚悟を示すのが優先審査バウチャーを使ったこと。ヴィーヴ陣営も別の薬で同じ手を使っており、競争に負けないための手段としてすっかり定着した格好だ。

リンク: ギリアドのプレスリリース

JNJ、ザイティガの適応拡大が承認
(2018年2月8日発表)

ジョンソンエンドジョンソンのZytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)の適応拡大がFDAに承認された。テストステロンの合成を阻害する経口剤で、前立腺癌用薬として11年に承認後、一歩ずつ早い段階で使う適応拡大を進めてきた。今回は、転移性でホルモン療法未経験の高リスク患者にアンドロゲン枯渇療法とZytiga及びprednisoneを併用するもの。

日本の施設も参加した第三相LATITUDE試験のエビデンスに基づくもので、アンドロゲン枯渇療法だけの群と比べて、全生存のハザードレシオが0.62、p値は0.0001を下回った。

この適応拡大は、欧州でも昨年12月に承認。日本は、今月、第二部会を通過した。

リンク: JNJのプレスリリース

ノボ、オゼンピックがEUでも承認
(2018年2月9日発表)

ノボ ノルディスクは、Ozempic(semaglutide、和名オゼンピック)がEUで承認されたと発表した。二型糖尿病の血糖治療に用いるGLP-1作用剤で、皮注用だが週一回の投与で足りることと、心血管安全性確認試験のポストホック分析でMACE(主要有害心血管イベント)が対照群より有意に少なかったことが長所。GLP-1作用剤のクラスイフェクトである体重抑制作用や悪心嘔吐副作用も持っている。

米国では昨年12月に承認。大規模試験で網膜有害事象の増加がみられたが、FDAの諮問委員会は重視しなかった。初めて聞いたが、血糖治療の最初の数年間は糖尿病性網膜症の合併症が増加するものらしい。日本は今月、部会を通過したところ。

ペン型ディバイスの新型を承認申請する計画で、欧州発売は承認後の今年下半期になる見込み。

リンク: ノボのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EU、ulipristalに関する暫定的対策を発表
(2018年2月9日発表)

EMA(欧州薬品庁)のPRCA(薬物監視リスク評価委員会)は、Gedeon Richter社のEsmya(ulipristal acetate)の肝臓安全性に関する検討を昨年11月に開始したが、今回、暫定的な対策を発表した。治療中で便益を受けている患者は、肝臓障害を示唆する兆候症状に注意するとともに、定期的に肝臓検査を受ける。新規に治療を開始してはいけない。尚、同じ活性成分を含有するレイプ後緊急避妊薬、ellaOneには今回の措置は適用されない。

Esmyaは選択的プロゲスチン受容体調節剤で、12年にEUで子宮筋腫治療薬として承認された。摘出術前の最大3ヶ月間の使用だけでなく、休薬期を挟みながら長期使用することも認めらた。13年にはカナダでFibristal名で承認されたが、用法は手術までのつなぎだけだ。

昨年11月のEMAの発表によると、これまでに深刻な肝障害が4例報告され、うち3人は肝移植を受けた。投与実績は67万人とのことなので発生頻度は低い。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Richter社のプレスリリース






今週は以上です。

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2018年2月4日

2018年2月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • サノフィ、西アフリカ睡眠病治療薬を承認申請 
  • アラガン、複合セファロスポリンが適応拡大 
  • FDA、オベチコール酸の用法遵守を警告 


【承認申請】


サノフィ、西アフリカ睡眠病治療薬を承認申請
(2018年1月31日発表)

サノフィは、fexinidazoleを西アフリカ睡眠病(ガンビア・ヒト・アフリカ・トリパノソーマ症)の治療薬としてEMA(欧州薬品庁)に承認申請し受理されたと発表した。EU域外だけで販売する予定だが、医薬品審査のリソースを持たない国々に代わってEMAが意見を表明する制度がある。

アフリカ睡眠病はツェツェバエが媒介する寄生虫感染症で、中枢神経に侵入すると髄膜脳炎を起こし、昏睡状態を経て死に至る。原因寄生虫は二種類あるがガンビア種による西アフリカ睡眠病が9割以上を占める。WHOが予防・治療対策を再開した後は減少傾向にあり、年間死者数は3000人以下に減った。

fexinidazoleは1970年代にヘキスト(現在のサノフィ)が創製したが商品化には至らなかった。05年にDNDi(顧みられない病気のための新薬イニシアティブ)がガンビア・トリパノソーマに対する活性を発見、09年にサノフィと共同開発を開始した。

西アフリカ睡眠病の治療は中枢神経症状の有無に応じて選択するが、fexinidazoleはどちらにも有効で経口投与可能なので利便性が高い。

リンク: サノフィのプレスリリース


【承認】


アラガン、複合セファロスポリンが適応拡大
(2018年2月1日発表)

アラガン(NYSE:AGN)は、Avycaz(ceftazidimeとavibactamの合剤、欧州名Zavicefta)をグラム陰性菌による院内感染肺炎(人工呼吸器関連肺炎を含む)の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。

30年前に発売された第3世代セフェム系抗生物質と新開発の非ベータラクタム系ベータラクタマーゼ阻害剤を組み合わせた複合剤で、2時間点滴静注する。第三相試験では28日全死亡率が9.6%となり、meropenemによる治療を受けた群の8.3%と比べて統計的に非劣性だった(群間差の95%信頼区間は-2.4、5.3%)。

Avycazは米国では15年にグラム陰性菌による複雑腹腔内感染症と複雑尿道感染症の治療薬として初承認。翌年、欧州で院内感染肺炎を含む三適応症で承認された。

リンク: アラガンのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、オベチコール酸の用法遵守を警告
(2018年2月1日発表)

FDAは、インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)のOcaliva(obeticholic acid)に関する安全性情報を発出し、肝機能低下患者に用いる場合は投与頻度を減らす必要があることをレーベルで枠付き警告したことを通知した。通常は5mg一日一回で開始し3ヶ月後に効果が不十分なら10mg/日に増量できるが、Child-Pugh分類でBまたはCの患者は、5mg週一回で開始し、最大でも10mg週二回に抑えなければならない。

Ocalivaは胆汁酸誘導体で16年に欧米で原発性胆汁性肝硬変(PBC)の治療薬として承認された。市販後に死亡報告が19件あり、うち7例は肝機能低下にも関わらず毎日5mgを服用していた。PBC患者のうち、Child-Pugh分類でBまたはCは2~3%である模様。

Ocalivaは非アルコール性脂肪性肝炎でも第三相段階。一日25mgを投与する群も設定されるので安全性監視が重要だ。もし許容範囲内であったとしても、臨床試験の成績は選ばれた医療施設が選りすぐられた患者に通常以上の注意を払って治療・フォローアップした結果なので、現実の医療では治療効果はもっと低く、副作用や用法違反はもっと多く発生すると考えるべきである。

リンク: FDAの安全性通知






今週は以上です。

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