2018年1月28日

2018年1月28日


【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティス、アーゼラの販売を縮小へ 
  • アストラゼネカ、COPDトリプルセラピーの第三相成功 
  • アステラス、CMV予防薬の第三相がフェール 
  • アクトスのアルツハイマー予防試験がフェール 
  • CHMPがロシュの血友病薬などの承認を支持 
  • CHMPはPuma社のneratinibに否定的な傾向 
  • GEP-NETsの放射線療法薬が米国でも承認 
  • Synergy社、Trulanceが適応拡大 
  • EUでアドセトリスの適応拡大承認 


【今週の話題】


ノバルティス、アーゼラの販売を縮小へ
(2018年1月22日発表)

ノバルティスは、慢性リンパ性白血病薬Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の米国以外での販売を縮小する。デンマークのジェンマブ(OMX:GEN)が発表した。ノバルティスは、経過的措置として、現在治療中で便益を得ている患者が無償で引き続き使用できるように、CUP(人道的使用プログラム)導入に向けて当局と相談する。最終的には販売を中止するのではないか。

ArzerraはCD20を標的とする抗体医薬で、ロシュのRituxan(rituximab)とは結合するエピトープが異なり、キメラではなく完全ヒト化抗体で、適応も若干異なるものの、まあ似たような薬だ。前臨床試験ではrituximabより高い活性を示したが、臨床的な優越性は確認されなかった。Rituxanはバイオシミラーが登場。ロシュは糖鎖改変型など第二世代品を投入しており、Arzerraが注目を集めるのは難しくなっている。

Arzerraはジェンマブが創製、インライセンスしたグラクソ・スミスクラインが09年に米国で、10年にEUで、13年には日本でも、承認を取得した。ノバルティスは15年にGSKと事業交換を行い、Arzerraなどの腫瘍学製品・パイプラインを入手した。

リンク: ジェンマブのプレスリリース


【新薬開発】


アストラゼネカ、COPDトリプルセラピーの第三相成功
(2018年1月26日発表)

アストラゼネカは、COPD治療用の三剤配合新薬の第三相試験成功を発表した。この、PT010は、budesonide(コルチコステロイド)、glycopyrronium(長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤)、そしてformoterol fumarate(長期作用性ベータ2作用剤)を各320mcg、14.4mcg、9.6mcgずつ配合しており、一日二回、各二回ずつ吸入する。13年に開発販売目標達成報奨金を含めて11.5億ドルで買収したPearl Therapeuticsの開発品で、HFA加圧噴霧式定量吸入器を使っていることが特徴。

今回の試験は中度から超重度のCOPD患者に対するFEV1(一秒量)改善効果をBevespi(glycopyrroniumとformoterol fumarateの合剤)やSymbicort(budesonideとformoterol fumarateの合剤)、PT009(budesonidとformoterol fumarateの別の製剤)と比較したところ、対照薬や観察時点が異なる7種類の評価項目のうち6項目で有意に上回った。

Bevespiとの比較は24週時点のデータがトレンドに留まったものの、24週間のデータや第12~24週のデータは有意に上回った。三剤併用が二剤併用を上回るのは当たり前だが、今回の試験のように百点満点を逃すことは珍しくなく、まあまあな結果だ。

アストラゼネカは日本や中国で今年下期に承認申請する考え。欧米は増悪予防試験の結果が出る19年に申請する予定。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アステラス、CMV予防薬の第三相がフェール
(2018年1月22日発表)

アステラス製薬は、 Vical社(Nasdaq:VICL)と共同開発しているDNAワクチン、TransVax(ASP0113)の第三相試験がフェールしたと発表した。サイトメガロウイルス(CMV)抗体陽性の造血幹細胞移植患者のCMV感染・死亡リスク削減を狙ったが、主評価項目も、CMV血症だけの解析も、偽薬比有意な差がなかった。

TransVaxはCMVのpp65抗原とgB抗原の遺伝子を組み込んだ二つのプラスミドをポロキサマー・ベースのデリバリーシステムを用いて導入するもの。アステラスは11年に世界開発商業化権を取得した。

16年に腎移植患者を対象とした第二相試験がフェールしたが、造血幹細胞移植後のCMV血症予防は、第二相試験でワクチンでは初めて、良績を残した実績があるので、フェールしたは失望的だ。

リンク: アステラスのプレスリリース

アクトスのアルツハイマー予防試験がフェール
(2018年1月25日発表)

武田薬品とジンファンデル・ファーマシューティカルズは、Actos(pioglitazone、和名アクトス)の第三相アルツハイマー病予防試験、TOMMORROWがフェールしたと発表した。高リスク患者を組入れてMCI(軽度認知障害)の発症を遅らせる効果を検討したが、中間解析で無益性認定された。

糖尿病はアルツハイマー病のリスク要因の一つとも言われており、糖代謝障害が脳細胞ではアルツハイマー病の誘因になっているのかもしれない。pioglitazoneのようなPPARガンマ作動剤は免疫炎症反応にも関与しており、脳細胞に沈着したアミロイドの除去を促進する可能性が指摘されている。しかし、類薬であるrosiglitazoneの第三相アルツハイマー病治療試験はフェールした。

TOMMORROW試験の特徴は、老人性アルツハイマー病と関連するApoEやTOM40(translocase of outer mitochondrial membrane 40)の遺伝子多型と年齢に基づくアルゴリズムでスクリーニングした65歳以上の3500人を組入れて、Actos群と偽薬群のアルツハイマー性MCI発症リスクを比較したこと。進行中の他の予防試験は家族歴やMRI所見も考慮したり、主評価項目がアルツハイマー病発症、あるいは、YES/NOではなく症状評価スケールを用いて感受性を高めたりしている。

もう一つ、印象的なのは、0.8mgの徐放新製剤を用いたこと。二型糖尿病の治療における用量は一日15~45mgなので、だいぶ小さい。心不全のリスクや、一時期、膀胱癌のリスクが疑われたことに配慮したのかもしれないが、本当にこれで足りるのか?治験論文が発表されれば用量選択の根拠が明らかにされるかもしれない。

リンク: 武田のプレスリリース(英文)


【承認審査・委員会】


CHMPがロシュの血友病薬などの承認を支持
(2018年1月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、1月の会合で、ロシュの血友病薬などの新薬承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。一方、BMSがOpdivo(nivolumab)の大腸癌適応拡大申請を撤回したことが明らかにされた。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュのHemlibra(emicizumab)はA型血友病で出血リスクが高くルーチン予防的投与が必要だが第VIII因子のインヒビターを持っている患者のための、第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体。子会社の中外製薬が創製、昨年11月に米国で承認、日本でも昨年7月に承認申請された。既存薬であるバイパス剤は点滴だが、Hemlibraは皮注、週一回投与なので利便性も高い。

主な有害事象は注射箇所反応、血栓性微小血管症、発熱、下痢、筋骨格痛など。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

イタリアのChiesi FarmaceuticiのLamzede(velmanase alfa)は、軽中度アルファ-マンノシドーシスの成人・青少年のための酵素補充療法。13年に買収したデンマークの希少疾患用薬会社、Zymenexの開発品。

この疾患はマンノースを代謝できず糖蛋白が蓄積、知的障害や肝膵肥大、筋骨格異常などを齎す。世界で500人程度の超希少疾患。Lamzedeの臨床試験では血清オリゴ糖が正常水準まで減少した。運動能力や肺機能の改善も一部で見られた。脳血管関門を通過しないので神経学的効能は期待できない。

CHMPは、症例数が少なく薬効評価期間も一年と短いことに鑑み、例外的環境条項に基づく承認を勧告するとともに、6歳以下の患者に対する効能確認試験や患者登録制度による長期追跡試験を求めた。

リンク: EMAのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのShingrixは帯状疱疹ワクチン。帯状疱疹とヘルペス感染後神経痛を予防する目的で50歳以上に承認することが支持された。2ヶ月置いて2回接種する。

糖タンパクE抗原をAS01Bアジュバントでパワーアップしたもので、MSDの生ワクチンであるZostavaxより効果が高く、特に70歳以上で大きな差が出ている。対象年齢も60歳以上ではなく50歳以上と幅広い。主な有害事象は注射箇所反応、筋肉痛、疲労、頭痛など。

米国は昨年10月に承認され、政府のワクチン委員会がZostavaxより優先するよう勧奨した。日本は第一三共との合弁が昨年4月に承認申請した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

MSDが承認申請したSteglatro(ertugliflozin)は二型糖尿病の高血糖を治療するSGLT2阻害剤。ファイザーのコンパウンドだが開発販売提携パートナーであるMSDが利益の6割を得る取り決めだ。MSDはDPP-4阻害剤で高いシェアを持っており、販促シナジーを狙う意図だろう。Steglatroと同時に、metformin配合剤やsitagliptin配合剤も肯定的意見を得た。

SGLT2阻害剤は尿細管のトランスポーターを阻害してグルコースが尿から血液に戻るのを妨げる。主な有害事象は性器真菌感染など。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのLokelma(sodium zirconium cyclosilicate)は陽イオン交換剤。高カリウム血症の治療に用いる。昨年2月に肯定的意見を得たが、欧州委員会の審査手続き段階で工場のcGMP違反が表面化したため承認見送りとなった。違反が解消したため、今回、CHMPが改めて肯定的意見を纏めた。15年に27億ドルで買収したZS Pharmaの開発品。

リンク: EMAのプレスリリース

再審査が決定したのがPharmaMarのAplidin(plitidepsin)。再発性難治性多発骨髄腫に承認申請され、先月、否定的意見が出たが、再審査請求が認容された。CHMPの12月のプレスリリースによると、否定的意見の理由は、PFS(無進行生存期間)が偽薬比1ヶ月延びるだけで全生存の延命効果が不透明であること、深刻有害事象が増加すること、試験の実施方法や解析方法に疑念があることなど。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、否定的意見となったのが、先月、Allergan(NYSE:AGN)による買収に同意したRepros Therapeutics(Nasdaq:RPRX)が承認申請したEncyzix(enclomifene)。再生産医療に用いられるclomifeneの異性体で抗エストロゲン作用が強い。BMIが25kg/m2以上の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の治療薬として欧米で承認申請されたが、米国と同様に、CHMPもエビデンスが不十分と認定した。

具体的には、テストステロン量は増加したが骨や体重、インポテンツや性欲を改善する効果が検討されていない。副作用面では静脈血栓リスクが見られる。

リンク: EMAのプレスリリース

また、スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)のRaxone(idebenone)をデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に用いる適応拡大申請は再び否定的意見を受けた。%ピークフローの低下を偽薬比有意に抑制したが、筋力や運動機能、QOL指標は改善せず、治験実施・解析方法にも懸念があったため、昨年9月に否定的意見を受けた。再審査が認められたものの、結論は覆らなかった。米国で承認申請するための試験が進行中で19年下期に結果が出る見込みなので、好首尾なら再申請されるだろう。

idebenoneは武田薬品が日本でアバン名で発売したが薬効確認再試験がフェールし販売中止となった。欧州の一部の国ではまだ使われており、EUでは11年にレーバー遺伝性視神経萎縮症治療薬として承認された。

リンク: Santheraのプレスリリース(1/24付け、pdfファイル)

次に、否定的意見が正式にまとまる前の段階で申請撤回となったのがPierre FabreがArray Biopharma(Nasdaq:ARRY)から欧州などの権利を取得して承認申請したBalimek(binimetinib)。MEK阻害剤で、NRASにQ61変異を持つ転移性切除不能黒色腫の治療薬として欧米で承認申請されたが、米国同様に、CHMPも、効果が小さく有害事象が増加するため否定的意見に傾いていた。

BRAF阻害剤のLGX818(encorafenib)併用試験が成功、米国で昨年6月に承認申請されたので、EUも、併用に切り替えるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース

BMSはOpdivo(nivolumab)をdMMR(ミスマッチ修復不十分/マイクロサテライト不安定性高)の結腸直腸癌の四次治療薬として欧米で適応拡大申請を行い、米国では昨年8月に承認されたが、EUは12月に申請撤回していたことが明らかになった。CHMPは、エビデンスとなる試験が対照試験ではないこと、dMMRの判定方法に疑義があることなどから、否定的意見に傾いていた由。

ライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)も米国では承認されたがEUは未承認。今週はFDAとCHMPの評価が重なる事例が多かったが、この種の代理マーカーによる評価は米国のほうが積極的になったように感じられる。

リンク: EMAのプレスリリース

CHMPはPuma社のneratinibに否定的な傾向
(2018年1月23日発表)

Puma Biotechnology(Nasdaq:PBYI)は、乳癌の術後延長アジュバント療法として承認申請したNerlynx(neratinib)がCHMPでnegative trend voteを受けたことを明らかにした。エビデンスとなる臨床試験が一本だけであることや、リスク抑制効果が限定的で副作用リスクと釣り合わないことなどが理由のようだ。2月の会合で正式採決するとのことだが、申請撤回の可能性もあるのではないか。

Nerlynxはファイザーが買収したワイスのパイプラインで、Pumaは11年にライセンスした。CEO兼社長兼取締役会会長であるAuerbach氏はCougar Biotechnologyを設立して前立腺癌用薬Zytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)の臨床開発に成功し、会社ごとジョンソンエンドジョンソンに売却した実績を持つ。

承認申請の根拠となったExteNET試験は、her2陽性の早期乳癌を切除しHerceptin(trastuzumab)などによるアジュバント療法を終えた患者を組入れて、Nerlynxの1年コースの再発予防効果を検討した。2年経過後に浸潤性乳癌を再発せずに生存していた患者の比率は93.9%で偽薬群の91.6%を有意に上回ったが、差は2ポイント程度で、感受性分析の結果も頑強ではなかった。それでも、米国では諮問委員会に支持されて昨年7月に承認された。

リンク: Pumaのプレスリリース(1/23付け)


【承認】


GEP-NETsの放射性医薬品が米国でも承認
(2018年1月26日発表)

FDAは、フランスのAdvanced Accelerator Applications(Nasdaq:AAAP)が承認申請したLutathera(lutetium Lu 177 dotatate)をソマトスタチン受容体陽性胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NETs)用薬として承認した。

ソマトスタチン類縁体をルテチウム177で標識した放射性医薬品。欧州では昨年9月に承認された。日本は15年に富士フイルムRIファーマが導入。

AAA社はノバルティスに39億ドルで買収される予定。

リンク: FDAのプレスリリース

Synergy社、Trulanceが適応拡大
(2018年1月25日発表)

Synergy Pharmaceuticals(Nasdaq:SGYP)のTrulance(plecanatide)をIBS-C(便秘型過敏性腸症候群)の治療に用いる適応拡大がFDAに承認された。uroguanylinというナトリウム利尿ペプチドの類縁体で、GC-C受容体を作動しCFTRクロライド・チャネルを開口する。昨年、慢性特発性便秘治療薬として初承認された。

3mgを一日一回、経口投与する。6mgも申請されたが承認されなかった。第三相試験の一本では総合反応率が21%と偽薬群の14%を上回り、もう一本も30%対17%で上回った。有害事象は下痢など。

前臨床で若年マウスに脱水が見られたため、6歳未満は禁忌、6~18歳は使用を回避すべきとの枠付き警告が記されている。

リンク: Synergyのプレスリリース

EUでアドセトリスの適応拡大承認
(2018年1月23日発表)

シアトルジェネティクス(Nasdaq:SGEN)が創製し欧州では武田薬品が販売するAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を再発性CD30陽性皮膚T細胞リンパ腫に用いる適応拡大がEUで承認された。米国でも11月に承認されている。

Adcetrisは抗CD30抗体に細胞毒を結合した抗体薬物複合体。ホジキンリンパ腫や全身性異形成大細胞リンパ腫の再発治療薬として承認されている。皮膚T細胞リンパ腫の5割がCD30を発現している。

リンク: 武田のプレスリリース


今週は以上です。

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2018年1月21日

2018年1月21日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダ、肺癌一次治療化学療法併用試験が成功 
  • ウベニミクスの新用途探索試験がフェール 
  • PharmaMar、lurbinectedinの第三相卵巣癌試験がフェール 
  • シャイアー、アディノベイトがEUでも承認 
  • ジオトリフ、適応となるEGFR変異型が増加 


【新薬開発】


キイトルーダ、肺癌一次治療化学療法併用試験が成功
(2018年1月16日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第三相KEYNOTE-189試験が中間解析で成功したと発表した。3ヶ月前に解析計画が変更され完了見込み時期が19年に先送りされた経緯があるので、サプライズ。データは今後、学会発表される見込みで、現時点では効果のほどが不明だが、肺癌領域におけるBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)との差をまた一歩、広げることになりそうだ。

189試験は進行性・転移性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療を受ける患者614人を組入れた。EGFRやALKの活性化変異を持つ患者は対象外。PD-L1発現は不問。

介入方法は白金薬(cisplatinまたはcarboplatin)とAlimta(pemetrexed)を併用する標準療法にKeytrudaを追加する三剤併用療法、対照群は標準療法のみ、2対1割付。主評価項目はPFS(無進行生存期間)、そして、全生存期間が昨年10月に追加された。

この適応・用法は米国では第1/2相試験の結果に基づいて昨年5月に承認されており、189試験は薬効確認試験という位置づけになる。欧州は承認されず申請撤回となったので、今回の試験が承認申請用試験となる。主評価項目に全生存期間を追加したのは、エビデンスを頑強にする意図だろう。

抗PD-1/PD-L1抗体はMSD、BMS/小野、ロシュ、アストラゼネカ、ベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーなど多くの製薬会社が開発・販売に鎬を削っている。様々な癌に有効で、併用レジメンも様々な作用機序の薬との組み合わせが考えられるため、競争に勝つためには適応症と併用法の優先順位決定が重要だ。

BMSはYervoy(ipilimumab)を持つ強みを生かしてYervoy併用レジメンに重点を置いているが、免疫性副作用が増強されるのが難点だ。アストラゼネカはYervoyと類似した薬の開発権をファイザーから取得し併用試験を行ったが、これも今一つだった。

MSDは、様々な会社と協業してその会社の製品・開発品と併用試験を行っている。今回の189試験はAlimtaを販売するイーライリリーと共同で実施した。少なくとも非小細胞性肺癌に関しては、抗CTLA4抗体ではなく白金系併用レジメンと併用する戦略に軍配が上がったと言えよう。

今後の課題は、PD-L1スクリーニングの妥当性だ。一次治療化学療法併用は不問、単剤投与する場合は強発現のみ、再発に単剤投与する場合は強度でなくても陽性なら良しと、区々だが、本当にこれで良いのか?それとも、もっと良い閾値があるのか?知りたいところだ。

リンク: MSDのプレスリリース

ウベニミクスの新用途探索試験がフェール
(2018年1月16日発表)

アイガー・バイオファーマシューティカルズ(Nasdaq:EIGR)は、ubenimexの第二相肺動脈高血圧症試験がフェールしたことを明らかにした。肺血管抵抗性も6分歩行テストも改善しなかった。サブグループ分析でも有効性は示唆されなかった。並行して実施されている第二相リンパ浮腫試験の結果を待って開発続行の当否を決めることになるのではないか。

アイガーはスタンフォード大学の研究成果を活用して有望な作用機序を特定、薬は既存のものを再利用することで開発時間やリスクを抑制する戦略。現在は四品の第二相試験を実施中。この中から幾つ第三相入りするか、ステージアップやドロップの補充を上手く進めて第二相四品というスケール感を維持できるか、が今後の注目点になる。類似の戦略を取るメディシノバはステージアップ実績だけでなくパイプラインの補充の面でも期待外れだった。

ubenimexは日本化薬が成人性急性非リンパ性白血病薬ベスタチンとして販売しているロイコトリエンA4加水分解酵素阻害剤。この酵素により産生されるロイコトリエンB4が肺動脈高血圧症に関与するというスタンフォード大の基礎研究に基づき、15年にこれらの疾患向けに欧米の開発販売権を取得したもの。

リンク: アイガー社のプレスリリース

PharmaMar、lurbinectedinの第三相卵巣癌試験がフェール
(2018年1月18日発表)

スペインのPharmaMar社は、PM1183(lurbinectedin)の第三相白金薬抵抗性卵巣癌試験、CORAILがフェールしたと発表した。主評価項目であるPFS(無進行生存期間)がtopotecan群やPLD(ドキソルビシンのリポソーム製剤)群を有意に上回らず、同程度だった。一方、安全性は対照群より良好だった。

同社は海洋生物の分泌物などを元に抗癌剤を創製・開発しており、アルキル化剤のYondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)を卵巣癌用薬として商業化した実績がある。PM1183も天然の海洋物質を雛形にして合成したアルキル化剤。日本は中外製薬が16年にライセンスした。

PharmaMarは小細胞性肺癌や内膜腫でも第三相試験を実施しており、元々、この二用途のほうが期待が大きいようだ。

リンク: PharmaMarのプレスリリース(pdfファイル)


【承認】


シャイアー、アディノベイトがEUでも承認
(2018年1月15日発表)

英国のシャイアーは、Adunovi(rurioctocog alfa pegol、米国名Adynovate、和名アディノベイト)がEUで承認されたと発表した。遺伝子組換え型血液凝固第8因子で、PEG化により半減期を既存製剤の1.4~1.5倍に長期化、投与頻度を週3-4回から2回に削減した。12歳以上のA型血友病患者の出血の治療または予防に用いる。シャイアーが16年に買収したバクスアルタ社の製品。

リンク: シャイアーのプレスリリース

ジオトリフ、適応となるEGFR変異型が増加
(2018年1月16日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、FDAがGilotrif(afatinib、和名ジオトリフ)の適応拡大を承認したと発表した。不可逆的EGFR/her2阻害剤で、13年にEGFRのエクソン19欠損またはL858R置換を持つ非小細胞性肺癌の一次治療薬として承認。16年には白金薬治療歴を持つ扁平上皮非小細胞性肺癌にEGFR変異の有無を問わず用いる適応拡大が承認されている。

今回の適応は、EGFRにL861Q、G719X、またはS768I変異を持つ転移性非小細胞性肺癌の一次治療。肺癌のEGFR変異は13年に承認された二つのタイプが多く、今回の三種は一割程度を占めるだけである模様だが、予後が比較的悪いとのことだ。

Gilotrifは様々な第三相試験が実施されたが、今回の承認はこれらの治験のサブグループ分析に基づくもの。

リンク: ベーリンガー社のプレスリリース






今週は以上です。

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2018年1月14日

2018年1月14日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • Ionis、FDAがhATTR用薬の承認申請を受理 
  • アムジェン、欧州でも抗スクレロスチン抗体を承認申請 
  • FDA諮問委員会は経口テストステロンに厳しい評価 
  • FDA、アストラゼネカのPARP阻害剤を乳癌に適応拡大 
  • ロシュ、OcrevusがEUでも承認 
  • アストラゼネカ、協和発酵由来の喘息治療薬がEUでも承認 


【承認申請】


Ionis、hATTR用薬の承認申請をFDAが受理
(2018年1月8日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、FDAがIONIS-TTRRx(inotersen)の新薬承認申請を受理し、優先審査指定したと発表した。審査期限は7月6日。欧州でも昨年11月に承認申請済み。

hATTR(先天性トランスサイレチン調停アミロイドーシス)の治療薬で、トランスサイレチンの発現をアンチセンスすることによって、末梢神経や心臓などに蓄積して線維化が進行するのを抑制する。172例を組入れて15ヶ月間投与した試験では、病状評価スコアやQOLスコアの悪化が偽薬群より有意に小さかった。深刻な有害事象は血栓性血小板減少症や腎障害。早期に発見し介入するプロトコルを導入後は減少した由。

グラクソ・スミスクラインがインライセンス・オプションを保有していたが、血栓性血小板減少症リスクが表面化したためか行使を見送った。Ionisは販売パートナーを探索している。

Alnylam(Nasdaq:ALNY)も昨年12月にALN-TTR02(patisiran)をhATTR用薬として承認申請している。各々の臨床成績を横目で見比べるとpatisiranのほうに軍配が上がりそうだ。

リンク: Ionisのプレスリリース

アムジェン、欧州でも抗スクレロスチン抗体を承認申請
(2018年1月18日発表)

アムジェンとUCBは、EUでEvenity(romosozumab)を骨粗鬆症治療薬として承認した。骨粗鬆症の閉経後女性と男性で骨折リスクの高い患者に用いる。Wntなどのパスウェイに関わるスクレロスチンを標的とする抗体医薬で、造骨を促進し破骨を抑制することによって骨密度を改善、骨粗鬆症性骨折のリスクを削減する。臨床試験のデザインを見る限りでは、1年コースを想定しているように感じられる。

第三相試験のうち、ARCH試験では1年間の心血管深刻有害事象発生率が2.5%とアレンドロン酸群の1.9%を上回った。そのせいか、16年7月に承認申請された米国では、審査完了に留まった。

UCBが買収した英国のセルテックが創製、アムジェンは前臨床段階でインライセンスした。日本はアムジェンとアステラスの合弁会社が16年12月に製造販売承認申請した。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会は経口テストステロンに厳しい評価
(2018年1月10日発表)

FDAのBRUDAC(骨再生産泌尿器用薬諮問委員会)は、Lipocine(Nasdaq:LPCN)が承認申請したテストステロン補充療法用経口剤、Tlando(testosterone undecanoate)を検討し、19人の委員中13人が便益がリスクを上回るとは言えない(承認反対)と判定した。前日には類薬であるClarus Therapeutics社のJatenzo(testosterone undecanoate)も19人中10人が反対している。諮問委員会は決定権を持たないのでFDAが承認する可能性はゼロではないが、かなり低そうだ。

Clarusは14年に、Lipocineは15年に夫々承認申請したが第一巡の承認審査は審査完了に終わった。前者は諮問委員会で討議されたが21人中17人が反対した。問題は大きく二点ある模様だ。第一はテストステロン補充療法がアンチエイジングの名目で乱用されている現実。両社は性腺機能低下などによるテストステロン欠乏症の治療薬として承認申請しているが、経口剤が発売されればオフレーベル使用に拍車がかかる懸念がある。

第二は経口剤の薬物動態上の問題。脂溶性を高めることで肝臓による代謝を回避しているが、食中服用だと食物中の脂肪量により血清テストステロンが変動する。どちらも一日二回服用だが、朝食と夕食だと脂肪摂取量はかなり異なるのが普通だろう。また、治療の目的はテストステロンを正常レンジに上げることだが、少なからぬ患者でレンジを超過してしまう。テストステロンはゲル製剤なども存在するので、不完全な薬を敢えて使う必然性はない。

この二点の背景は、テストステロン補充療法には心血管リスクが高まる懸念があることだ。二剤の試験では血圧や心拍数、ヘマトクリットの上昇やHDL-Cの低下が見られた。このため、心血管アウトカム試験の実施を求める諮問委員もいた。

Clarusは未上場で財務状況などは不明だが、Lipocineは厳しい状況にあるため、株価が暴落した。

リンク: Lipocineのプレスリリース


【承認】


FDA、アストラゼネカのPARP阻害剤を乳癌に適応拡大
(2018年1月12日発表)

FDAはアストラゼネカのLynparza(olaparib、和名リムパーザ)を転移性乳癌の再発治療に適応拡大した。生殖細胞系BRCA有害変異を持ち、her2が陰性で化学療法歴(ホルモン受容体陽性は内分泌療法歴も)を持つ患者が適応になる。BRCA変異型卵巣癌の再発治療や地固め療法に承認されているPARP阻害剤で、PARP阻害剤が乳癌に承認されたのは初。

BRCAは遺伝子修復に係る遺伝子で、機能低下変異を持つ患者は卵巣癌や乳癌のリスクが高い。乳癌のうちBRCA変異型は5~10%。

MSDが開発販売提携しており、今回、達成報奨金をアストラゼネカに払うことになる。Lynparzaのコンパニオン診断はMyriad Genetic社の血液検査システム、BRACAnalysis CDxで、この適応拡大も承認された。

日本でも昨年11月に第二部会を通過したので、早晩承認されるだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ロシュ、OcrevusがEUでも承認
(2018年1月12日発表)

ロシュはOcrevus(ocrelizumab)がEUで活性期再発型および早期段階の一次進行型の多発性硬化症の治療薬として承認されたと発表した。CD20と標的とするヒト化抗体で、再発型の臨床試験では再発リスクと障害進行がRebif(interfeon β-1a)より小さく、一次進行型試験では障害進行が偽薬より小さかった。3月に承認された米国のレーベルには、乳癌のリスクが存在するかもしれないと記されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

アストラゼネカ、協和発酵由来の喘息治療薬がEUでも承認
(2018年1月10日発表)

アストラゼネカは、Fasenra(benralizumab、和名ファセンラ)がEUで承認されたと発表した。好酸球性喘息症で高量吸入ステロイドと長期作用性ベータ2作用剤を併用しても喘息発作を十分に管理できない患者に追加する。

協和発酵がPOTELLIGENT技術を用いて開発した、好酸球のIL-5受容体アルファチェーンを標的とするヒト化抗体。皮注用薬で最初の3回は4週毎、その後は8週毎に投与する。米国では昨年11月に承認されている。日本は昨年11月に第二部会を通過したので早晩承認されるだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース






今週は以上です。

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2018年1月7日

2018年1月7日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • Progenics社、傍神経節腫用薬の承認申請が受理 
  • GW社、経口カンナビジオール液を承認申請 
  • Achaogen社、新規抗生物質を承認申請 
  • ChemoCentryx、ANCA関連血管炎治療薬をEUに承認申請 
  • ランマークを多発骨髄腫に用いることが米国でも承認 


【承認申請】


Progenics社、傍神経節腫用薬の承認申請が受理
(2017年12月29日発表)

米国NYの新興医薬品開発会社、Progenics Pharmaceuticals(Nasdaq:PGNX)は、FDAがAzedra(iobenguane I 131)の承認申請を受理し審査期限を18年4月30日に設定したと発表した。ノルエピネフィリン再取込トランスポータの基質にiodine-131を標識した放射線療法薬で、悪性/再発性の切除不能な、褐色細胞腫などの傍神経節腫に用いる。

後期第二相試験では、25%の患者が降圧剤を半減することができた。二次的評価項目であるRECISTベース疾病安定化率は92.2%、完全反応はなかったが部分反応率は23.4%だった。

リンク: Progenics社のプレスリリース

GW社、経口カンナビジオール液を承認申請
(2017年12月28日発表)

英国ロンドンのGW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)は、Epidiolex(cannabidiol)を欧米で承認申請し、米国の審査期限は18年6月27日に設定されたと発表した。大麻の成分の一つであるカンナビジオールの経口液で、幼小児期に発症する難病であるレノックス・ガストー症候群やドラベ症候群の治療に用いる。

レノックス・ガストー症候群の171人(平均15歳)を組入れた第三相試験では、20mg/kg/日を投与した群の失立発作頻度が44%減少し、偽薬群の22%減を有意に上回った。ドラベ症候群試験(120人、平均10歳)では痙攣発作頻度が各39%と13%減少し、これも統計的に有意。主な有害事象は下痢、傾眠、食欲低下、発熱、嘔吐など。

リンク: GW社のプレスリリース(米国申請、12/28付け)
リンク: 同(欧州申請、12/29付け)

Achaogen社、新規抗生物質を承認申請
(2018年1月2日発表)

米国サンフランシスコのAchaogen(Nasdaq:AKAO)は、FDAがACHN-490(plazomicin)の承認申請を受理したと発表した。多剤耐性菌にも活性を持つアミノグリコシド系抗生剤で、複雑性尿道感染症(腎盂腎炎を含む)やカルバペネム耐性腸内細菌などによる菌血症で、他に治療方法がない、あるいは限られる患者に用いる。

複雑性尿道感染症の第三相では奏効率がmeropenem比で非劣性だった。カルバペネム耐性腸内細菌による菌血症では、全死亡率が11.8%とcolistin群の40.0%を有意に下回った。前者の試験では腎臓有害事象が増加したが、後者はcolistin群のほうが多かった。

EUでも2018年に承認申請する予定。

リンク: Achaogenのプレスリリース(pdfファイル)

ChemoCentryx、ANCA関連血管炎治療薬をEUに承認申請
(2018年1月4日発表)

ChemoCentryx(Nasdaq:CCXI)は、CCX168(avacopan)をEUで承認申請し受理されたと発表した。C5a受容体を選択的に阻害する経口薬で、ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎の治療に用いる。第二相のCLEAR試験などに基づいて条件付き承認を求めている。米国は16年に開始した第三相試験の結果を待って承認申請する考え。

ANCA関連血管炎は自己免疫疾患の一つで、欧米の患者数は9万人と推定されている。C5a受容体は補体カスケードに係る受容体の一つ。CLEAR試験では、rituximabまたはcyclophosphamideによる標準療法に加えてprednisone(開始用量60mg/日)、prednisone(半量)とCCX168(20mgを一日二回投与)の併用、またはCCX168だけを投与したところ、12週時点の奏効率が各70%、86.4%、81.0%となり、CCX168の二群ともprednisone群比非劣性だった。

CCX168はドイツのフレゼニウス(Xetra:FRE)とスイスのVifor Pharmaの合弁会社が米国や中国以外の商業化権を保有している。

リンク: ChemoCentryx社のプレスリリース


【承認】


ランマークを多発骨髄腫に用いることが米国でも承認
(2018年1月5日発表)

アムジェンは、FDAが抗RANKL完全ヒト化抗体のXgeva(denosumab、日本は第一三共のランマーク)を多発骨髄腫の骨合併症予防に用いる適応拡大を承認したと発表した。

第三相の482試験に基づくもので、骨関連事象(骨折や骨の放射線治療あるいは手術など)がゾレドロン酸群と非劣性だった。副次的評価項目として優越性解析も行われたが有意差はなかった。

一番良かったのは死亡者が増えなかったこと。ハザードレシオ0.90、95%信頼区間は0.70~1.16だった。過去に行われた試験で浮上した疑惑が払拭されたことになる。

リンク: アムジェンのプレスリリース





今週は以上です。

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