2018年12月30日

2018年12月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 米国連邦政府機関が予算不足で部分閉鎖 
  • 降圧剤をエーラス・ダンロス症候群治療薬として承認申請 
  • 吸入用レボドパが承認 


【今週の話題】


米国連邦政府機関が予算不足で部分閉鎖
(2018年12月22日発表)

12月22日、米国連邦政府機関の一部が予算不足により閉鎖・職員帰休となった。トランプ大統領の公約であるメキシコ国境に壁を建設するための予算を上院が認めなかったため、大統領が連邦議会の予算案に拒否権を発動したことが原因。クリントン政権やオバマ政権でも発生した、お馴染みの茶番だ。

警察など重要な機能は維持される。また、民間が費用負担する業務の一部も影響を受けない。FDAの場合、約7000人の職員のうち41%は帰休となるが、食品安全性監視や、ユーザー課金制度を原資とする新薬、GE薬、バイオシミラー、一部の医療機器の承認審査は資金が続く限り継続される。

新規の承認申請は受理されないリスクが残るが、26日に2社が承認申請受理を発表した。Acer TherapeuticsのEdsivo(後述)は希少疾患用薬なので上記例外に該当するのだろう。よくわからないのがKala Pharmaceuticalsのドライアイ治療薬で、過去のユーザー課金の使い残しを流用したのか、あるいはFDAの担当者が門が閉まる前に駆け込むことに成功したのかもしれない。

トランプ政権下では18年1月にも部分閉鎖があったが3日間で終了したため影響は小さかった。オバマ政権では13年10月に16日間の部分閉鎖が発生した。少なくとも承認審査に関しては大きな影響はなかった模様だが、同月下旬に予定されていた細胞組織遺伝子療法諮問委員会が翌年2月にリスケ、薬品科学臨床薬理諮問委員会はキャンセルされた。特定の薬の承認審査に係るものではなかったようなので、おそらく、ブリーフィング資料の作成などの準備ができなかったのだろう。

今回、19年1月に承認審査期限を迎えるものとしては、大日本住友製薬の子会社であるSunovion Pharmaceuticalsがパーキンソン病オフタイム治療薬として承認申請したAPL-20277が29日、Alkermes(Nasdaq:ALKS)の鬱病治療用合剤、ALKS 5461が31日の予定。

諮問委員会に関しては、1月11日に関節炎諮問委員会が、帝人が創製し米国では武田が開発販売している痛風治療薬、Uloric(febuxostat)の心血管リスクを議論する予定。アウトカム試験の結果がネガティブだったので警告・処方制限がどの程度強化されるかが注目点になりそうだ。

更に、1月16日には骨・再生産・泌尿器薬諮問委員会がアムジェンが骨粗鬆症治療薬として新薬承認申請したEvenity(romosozumab、和名イベニティ)を、その翌日には内分泌代謝学薬諮問委員会がレキシコン(Nasdaq:LXRX)がサノフィと一型糖尿病薬として新薬承認申請したSGLT阻害剤、Zynquista(sotagliflozin)を、検討する予定。

18年の中間選挙の結果、下院は1月3日をもって民主党が多数を占めるようになるため、壁建設予算の成立を期待するのは極めて難しくなる。トランプ大統領が諦めれば、予算が成立し政府機能が回復するのだが...

リンク: FDAのプレスリリース


【承認申請】


降圧剤をエーラス・ダンロス症候群治療薬として承認申請
(2018年12月26日発表)

Acer Therapeutics(Nasdaq:ACER)は血管エーラス・ダンロス症候群治療薬Edsivo(celiprolol)の承認申請がFDAに受理され、優先審査指定されたと発表した。審査期限は19年6月25日。クリスマス休暇が終了し、連邦予算遅延の影響が懸念される中、平穏なスタートとなった。

血管エーラス・ダンロス症候群はコラーゲンの形成異常による疾患。celiprololはベータ1受容体アンタゴニストで、高血圧の治療に用いられている薬の転用。Greater Paris University Hopitalsから16年にライセンスしたもの。

リンク: Acer社のプレスリリース


【承認】


吸入用レボドパが承認
(2018年12月21日発表)

アコーダ・セラプティクス(Nasdaq:ACOR)は、Inbrija(levodopa)がFDAに承認されたと発表した。パーキンソン病の標準治療薬であるレボドパの効果が薄れる『オフタイム』の治療に用いる吸入用レボドパで、臨床試験では第12週時点でも吸入30分でUPDRSパートIIIが9.83ポイント改善し偽薬群の5.91ポイント改善を有意に上回った。有害事象は痰の変色などレボドパによるものと咳などで、吸入薬の要注意点である肺の副作用は大きな問題はなかった。

14年に5.25億ドルで買収したCivitas Therapeuticsの開発品。CMC(化学、生産、品質管理)がボトルネックとなり遅れたが、承認申請から足掛け1年半、承認にこぎつけた。

リンク: アコーダ社のプレスリリース








今週は以上です。

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2018年12月23日

2018年12月23日


【ニュース・ヘッドライン】

  • JAK阻害剤が相次いで円形脱毛症の後期臨床試験入り 
  • イクスタンジの適応拡大試験成功 
  • ロキサデュスタットはアストラゼネカの第三相も成功 
  • バベンチオ、卵巣癌試験がまたフェール 
  • ファイザーの黄色ブドウ球菌ワクチンもフェール 
  • FDAがBPDCN用薬を承認 
  • FDA、アレキシオンの長期作用性PNH治療薬を承認 
  • リムパーザ、適応拡大承認、別の適応拡大試験成功 
  • キイトルーダ、メルケル細胞腫に承認 
  • セルビエのアスパラギン枯渇剤が承認 
  • アストラゼネカ、COPDのFDCがEUでも承認 
  • FDAもフルオロキノロンの警告強化 


【今週の話題】


JAK阻害剤が相次いで円形脱毛症の後期臨床試験入り
(2018年12月23日発表)

イーライリリーに続いてファイザーがJAK阻害剤の後期第二相/第三相円形脱毛症試験をClinicalTrials.govに治験登録した。どちらも21年頃に成否が判明する見込みだ。POC試験の良好な結果が再現されるか、注目される。

円形脱毛症(AA)は自己免疫疾患で、細胞傷害性T細胞が毛包組織を攻撃する。米国の患者数は約50万人で、半数は20歳までに発症する。ファイザーのコンパウンドのPOC試験では被験者の平均年齢は36歳、7割が女性だった。finasterideなどの5アルファ還元酵素阻害剤が適応になる男子アンドロゲン性脱毛症とは対照的だ。

AAはウィッグで隠すこともできるし軽症なら自然に治ることもあるようだが、患者のニーズが強いようで、FDAはPatient-Focused Drug Development Initiativeの対象に選定、臨床試験のデザインの妥当性や薬効と副作用のバランスを検討する時の参考にすべく、新薬開発の早い段階で患者のヒアリングを行った。

JAK阻害剤は免疫細胞などのインターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達に係る酵素を阻害する。リウマチ性関節炎治療薬Xeljanz(tofacitinib)が複数の研究者主導試験で良好な成績を上げ、注目されるようになった。

イーライリリーは今年9月、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)でAAのP2b/3試験を開始した。インサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスしたJAK1/2阻害剤で、中重度リウマチ性関節炎治療薬として日米欧で承認されている。

ファイザーはPOC試験でJAK3阻害剤のPF-06651600やJAK1/TYK2阻害剤PF-06700841を24週間投与して効果や安全性を偽薬と比較した。主評価項目のSALT(severity of alopecia tool)スコアは偽薬比で前者が33ポイント改善、後者は49ポイント改善しどちらも統計的に有意だった。このスコアは完全脱毛が100、毛髪喪失無しが0、被験者142人の平均ベースライン値は88.1だったので、かなりの改善だ。

忍容性は有害事象による治験離脱が各2人と5人、偽薬群は2人で、JAK1/TYK2阻害剤が見劣りする。深刻有害事象である横紋筋融解症は各ゼロ、2人、ゼロとここでもJAK1/TYK2阻害剤が見劣りする。そのせいか、今回ステージアップしたのは、効果の面では数値が見劣りするJAK3阻害剤のほうだった。

P2b/3試験では、頭部毛髪50%以上喪失、全頭型、または汎発型の成人青年で直近の顕著な脱毛から10年以内の患者660人を組入れて、PF-06651600の5種類の用量用法を偽薬と比較する。主評価項目は24週後にSALTスコアが10以下に低下した患者の比率。ハードルを高く設定したのは偽薬効果(治療とは関係ない自然な改善)を抑制する意図なのではないか。

イーライリリーのP2b/3の主評価項目は36週時点の奏効率で、判定基準はAA-IGA(Achieving Alopecia Areata Investigator Global Assessment)が1以下に改善かつベースライン比2ポイント以上改善、となっている。

リンク: PF-06651600のP2b/3試験登録(ClinicalTrials.gov)
リンク: baricitinibのP2b/3試験登録(ClinicalTrials.gov)


【新薬開発】


イクスタンジの適応拡大試験成功
(2018年12月20日発表)

アステラスとファイザーは、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の第三相ARCHES試験の成功を発表した。転移性ホルモン感受性前立腺癌を組入れてアンドロゲン除去療法にXtandiを追加する効果を検討したところ、PFS(放射線学的評価による無進行生存期間)がアンドロゲン除去療法だけの群を有意に上回った。適応拡大申請に向かうだろう。データは学会発表の予定。

Xtandiはジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤Zytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)やXtandiを発明した医学者が次世代品として創製したErleada(apalutamide)と適応拡大競争を行っている。本試験は当初は2020年に開票の予定だったが、治験デザインを変更し前倒しした経緯がある。Zytigaは今回の用途で先に承認を取得したが、Xtandiもキャッチアップの見込みが立った。

リンク: 両社のプレスリリース

ロキサデュスタットはアストラゼネカの第三相も成功
(2018年12月20日発表)

アストラゼネカは、roxadustat(JAN:ロキサデュスタット)の第三相試験二本が成功したと発表した。末期腎障害の貧血を治療する試験で、一本は保存期の患者を組入れて偽薬と比較、もう一本は透析期患者にエポエチン・アルファと比較したところ、どちらもヘモグロビン上昇が有意に大きかった。

roxadustatは、酸素欠乏時に活性化される転写因子であるhypoxia-inducible factorのスクラップに係る酵素、HIF2-PHの阻害剤で、赤血球などの新生を促す。エポエチンと異なり経口投与可能。米国のFibroGenが創製、日欧中東アフリカなどではアステラス製薬と、それ以外の国ではアストラゼネカと、共同開発している。先ごろ、中国で承認。日本では来年3月までに承認申請される見込み。

エポエチンは使いすぎると心臓疾患のリスクが高まる懸念があり、roxadustatもFDAが07年にクリニカルホールドを命じたことがある。HIFは70以上の遺伝子の発現に係るので、安全性をしっかり確かめる必要があるのだ。エポエチン対照試験は中国で行われた試験でも効果が有意に上回ったが、両刃の剣と考えることもできるので要注意だ。アストラゼネカの今回の二本は何れも2000人以上を組入れており、他の試験も含めれば1万人規模に達する。来年上期に心血管リスクのプール分析を行って、米国での承認申請につなげる考え。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

バベンチオ、卵巣癌試験がまたフェール
(2018年12月21日発表)

ドイツのメルクと開発販売パートナーのファイザーは、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相JAVELIN Ovarian 100試験が中間解析で独立データ監視委員会に無益性認定されたため中止すると発表した。卵巣癌の一次治療試験で、carboplatinとpaclitaxelの併用に更にBavencioを追加する効果を検討したが、PFS(無進行生存期間)がcarboplatin・paclitaxel二剤併用群を上回る可能性は著しく小さいという結論に達した。

白金薬抵抗性難治性の卵巣癌を組入れた第三相もフェールしたことが発表済み。抗PD-1/PD-L1抗体は適していないのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

ファイザーの黄色ブドウ球菌ワクチンもフェール
(2018年12月20日発表)

ファイザーはPF-06290510(SA4Ag)の後期第二相試験を中止すると発表した。中間解析で独立データ監視委員会が無益性認定したため。

黄色ブドウ球菌の複数の抗原を配合したワクチンで、待機的脊椎固定術を受ける患者の術後侵襲性黄色ブドウ球菌感染症を予防することが期待されたが、実現しなかった。類薬ではMSDのV710などもフェールしており、開発が難航している。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認】


FDAがBPDCN用薬を承認
(2018年12月21日発表)

FDAは、Stemline Therapeutics(Nasdaq:STML)のElzonris(tagraxofusp-erzs)を芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)用薬として承認した。2歳から適応になる。集中化学療法と骨髄移植という標準療法に不耐の患者の充足されないニーズに応えた。

BPDCNは稀だが進行の早い血液癌。他の血液癌と類似しており、判別にはCD123(IL-3受容体アルファ)などの検査が必要。ElzonrisはIL-3と断片化ジフテリアの融合蛋白で、21日サイクルで最初の5日間、静注する。小規模な臨床試験で初めて治療を受ける患者13人のうち7人が完全反応または臨床的完全反応を示した。再発難治患者15人に投与した試験では2例だった。

命に係わる毛細血管漏出症候群が枠付き警告。肝機能検査が推奨されている。妊婦禁忌。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Stemline社のプレスリリース

FDA、アレキシオンの長期作用性PNH治療薬を承認
(2018年12月21日発表)

FDAはアレキシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のUltomiris(ravulizumab)を発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬として承認した。審査期限は来年2月だった。同社のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)と同様に補体系のC5に結合・阻害する抗体で、末端半減期が3-4倍長く、点滴静注頻度が3回目からは8週毎と、Solirisの2週毎より少ないことが長所。効果は直接比較試験で非劣性だった。

用量は体重に応じて三種類設定されているが、60-100kgの場合、年間薬剤費(WACベース)は58万ドル程度となりSolirisと大差ない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アレキシオンのプレスリリース

リムパーザ、適応拡大承認、別の適応拡大試験成功
(2018年12月19日発表)

抗PD-1/PD-L1ほどではないがホットな分野がPARP阻害剤だ。開発が難航し開発主体も変遷したが、卵巣癌や乳癌に効果が確認され、BRCA悪性変異型以外での有効性も散見されるようになった。

代表的な製品であるアストラゼネカのLynparza(olaparib、和名リムパーザ)は、末期卵巣癌で白金薬レジメンによる一次治療に完全または部分反応した患者の維持療法に用いることがFDAに承認された。11月に申請受理が発表されたばかりなのでサプライズだ。

BRCA遺伝子に生殖細胞系または体細胞系の悪性変異がある癌が適応になる。SOLO-1試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが偽薬比0.30、3年無進行生存率は60.4%で偽薬群の26.9%を上回った。

翌日、白金薬感受卵巣癌の三次治療におけるORR(客観的反応率)やPFSを化学療法と比較したSOLO-3試験の成功も発表された。

Lynparzaは米国では生殖細胞系BRCA有害変異のある卵巣癌の4次治療、白金薬に反応した卵巣癌の維持療法、生殖細胞系BRCA有害変異のあるher2陰性転移性乳癌で化学療法歴のある患者、に承認されている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: 同(SOLO-3試験成功、12/20付)

キイトルーダ、メルケル細胞腫に承認
(2018年12月19日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を難治性局所進行性または転移性のメルケル細胞腫の成人小児に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。進行癌に対する全身性治療歴を持たない患者50人を組入れた第二相試験で、完全反応率が24%、部分反応率は32%だったことに基づく加速承認で、今後の試験で延命効果を確認する必要がある。

メルケル細胞腫と言えばメルク/ファイザーのBavencio(avelumab、和名バベンチオ)の最初の適応症だ。今回の適応拡大はMSDにとっては小さな一歩だが、二度の世界大戦中に米国政府に資産凍結を受けるまでMSDの親会社であったドイツのメルクにとっては、上記の適応拡大試験フェールと合わせて、痛い。反応率はBavencioの試験のほうが低いが、二次、三次治療の患者が多かったので比較できないだろう。

MSDにとっては、非小細胞性肺癌の適応拡大申請のPDUFA(米国のユーザー課金制度に基づく承認審査期限)が4月11日に延期されたことの方が痛いだろう。モノセラピーの適応を現状のPD-L1著高発現(TPS≧50%)から1%以上に対象患者拡大するもので、追加データを提出したことが申請内容の大きな変更と判定されたようだ。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース(肺癌審査期限延期について、12/20付)

セルビエのアスパラギン枯渇剤が承認
(2018年12月20日発表)

セルビエの長期作用性アスパラギン枯渇剤、Asparlas(calaspargase pegol-mknl)がFDAに承認された。生後1ヶ月から21歳までの急性リンパ性白血病の多剤併用療法に用いる。類薬であるシャイアーのOncaspar(pegaspargase)などと薬効や安全性は大差ないが、投与間隔が3週毎と長く、有効期間も長い。

AsparlasもOncasparも元々はSigma-Tau Pharmaceuticalsの製品だったが、バクスターがアスパラギン枯渇剤ポートフォリオを9億ドルで買収、そのバクスターをシャイアーが買収、そのシャイアーが、武田薬品に買収を持ちかけられていた今年4月に、腫瘍学事業をセルビエに24憶ドルで買収したという経緯。

リンク: レーベル(Drugs@FDA収載、pdfファイル)

アストラゼネカ、COPDのFDCがEUでも承認
(2018年12月20日発表)

アストラゼネカは、Bevespi Aerosphere(glycopyrronium、formoterol fumarate)がEUでCOPDの維持療法薬として承認されたと発表した。長時間作用性ムスカリン受容体拮抗剤と長時間作用性ベータ2作用剤の固定用量合剤(FDC)で、加圧式定量吸入器(pMDI)を採用している。一日二回、吸入する。13年に買収したPearl Therapeuticsが多孔質粒子技術を用いて開発した。米国では16年に承認された。

グラクソ・スミスクラインのLAMA・LABA合剤、Anoro(umeclidinium、vilanterol、和名アノーロ)と直接比較した試験ではピークFEV1が非劣性、トラフFEV1は非劣性ではなかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDAもフルオロキノロンの警告強化
(2018年12月20日発表)

FDAは、フルオロキノロンが大動脈破裂・解離リスクを高めることを警告する安全性情報を発出した。大動脈瘤などの血管疾患、高血圧、高齢などの高リスク患者は、他に治療方法がない場合を除いて、使うべきではない。処方する時は、発症したらすぐ連絡するよう患者に伝える。

11月18日号で書いたように、EUはキノロン系合成抗菌剤の規制を強化し、キノロン系の一部は承認を停止、残りの製品やフルオロキノロンは深刻な疾患などに適応限定した。理由は深刻で不可逆的なこともある有害事象の懸念で、具体的には、腱炎、腱断裂、関節炎、下肢痛、歩行障害、知覚異常を伴う神経症、鬱病、疲労、記憶障害、睡眠障害、聴力や視力、味覚、嗅覚の異常が列挙されているが、大動脈破裂解離は言及されていない。

FDAによると、過去3年間に4本の疫学論文が刊行されていて、何れも、フルオロキノロン使用者は大動脈破裂解離のリスクが2倍前後高いと推定している。FDAの有害事象報告システムには15年12月時点で15例が報告されていた。18年4月までに56例が追加されたが殆どは訴訟代理人による報告とのことなので、診断・報告の信憑性や客観性は不確かということになる。そもそも、疫学的研究には様々な制約があるので、2倍程度なら誤差の範囲内かもしれない。

それでも、複数の集団における異なった手法での推定が皆同じような結果になったことは軽視できない。別の文献によると、一般人口における発症頻度は10万人当たり年9回だが、高リスクグループ(85歳以上など)では300回と急増する。このような人たちは、リスクがリアルであった場合に備えて、使わないのが生きる知恵なのかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

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2018年12月16日

2018年12月16日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • トレムフィアがコセンティクスに勝つ 
  • NBIX、valbenazineのトゥレット症候群試験はフェール 
  • イグザレルトを入院患者の血栓塞栓予防に適応拡大申請 
  • CHMP、持効性インターフェロン・アルファなどの承認に肯定的意見 
  • EMA、オメガ3脂肪酸の心筋梗塞再発予防効果を認めず 
  • シャイアの慢性便秘治療薬、米国でも承認 


【新薬開発】


トレムフィアがコセンティクスに勝つ
(2018年12月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン社は、中重度乾癬治療薬Tremfya(guselkumab、和名トレムフィア)の直接比較試験で奏効率がノバルティスのCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を上回ったと発表した。夫々の薬の過去の臨床成績から推測された通りの結果だ。

Tremfyaは乾癬の病理に係るIL-17の分泌に関与するIL-23のp19サブユニットを標的とする抗体医薬で、MorphoSys社との創薬提携の産物。一回100mgを最初の2回は4週毎、その後は8週毎に皮注する。Cosentyxは抗IL-17抗体。150mgを毎回2回ずつ、最初は毎週、6回目からは4週毎に皮注する。

今回のECLIPSE試験は1048人の患者を両剤に無作為化割付した二重盲検試験。主評価項目は48週時点のPASI90奏効率。結果はTremfyaが84.5%、Cosentyxは70.0%で有意な差があった。二次的評価項目のPASI75奏効率は84.6%対80.2%で、非劣性。

シーケンシャルに実施されたPASI75の優越性解析がフェールしたため、それ以降の解析は仮説検証的ではなく仮説探索的と評価されるが、12週時点のPASI75は89.3%対91.6%で、Cosentyxのほうが上回ったが非劣性。有害事象による治験離脱は5.1%対9.3%、深刻有害事象は6.2%対7.2%だった。

リンク: ヤンセンのプレスリリース

NBIX、valbenazineのトゥレット症候群試験はフェール
(2018年12月12日発表)

ニューロクリン・バイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)は、valbenazineの後期第二相トゥレット症候群試験がフェールしたと発表した。POC試験もフェールしており、意外感は小さい。

valbenazineは小胞モノアミントランスポータ2阻害剤で、ドパミンなどの神経伝達物質のシナプス前小胞への取り込みを減らし、不随意運動の発生に係るドパミン神経系機能異常を改善する。17年に米国で遅発性ジスキネジア治療薬として承認された。日本は田辺三菱製薬がライセンス。トゥレット症候群は平均6歳で運動性・音声チックを発症する希少疾患。

リンク: NBIXのプレスリリース


【承認申請】


イグザレルトを入院患者の血栓塞栓予防に適応拡大申請
(2018年12月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン社は、Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)をmedically ill患者の静脈血栓塞栓(VTE)予防に用いる適応拡大をFDAに申請した。

承認用途の一つである関節置換術などを受ける患者ほどではないが、心不全、脳卒中、呼吸器不全、感染症、炎症などの治療で入院中の要安静患者はVTEのリスクがある。治療ガイドラインはXa阻害剤などの抗凝固薬による予防を推奨しているが、今回の申請は退院後も投薬を続けるのが特徴だ。

申請の根拠となった二本の第三相のうち、MAGELLAN試験は、入院中及び退院後も最大35日間投与したところ、VTEリスクが低分子量ヘパリン(承認用法である入院中と退院後10日間の投与)より有意に小さかったが、出血リスクは増加した。MARINER試験は退院後の期間だけを比較したところ、フェールした。

このため、退院後35日コースは難しそうだが、入院期間中だけなら、他のXa阻害剤も承認されているので、承認される可能性がありそうだ。

リンク: ヤンセンのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、塩野義の新薬二品などの承認に肯定的意見
(2018年12月14日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会合で、塩野義製薬の新薬二品などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

塩野義製薬のlusutrombopagはトロンボポエチン受容体作動薬。待機的な観血的手技を受ける成人慢性肝疾患患者の血小板減少症を治療薬。日本では15年にムルプレタ名で、米国は今年8月にMulpleta名で承認された。製品名は現時点ではlusutrombopag Shionogiだが、後日変更されるのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

Rizmoic(naldemedine)はオピオイドの副作用であるオピオイド誘発性便秘症の治療薬。末梢ミューオピオイド受容体を拮抗してオピオイドから保護する。下剤による治療歴を持つ成人患者に用いる。日本はスインプロイク、米国はSymproic名で共に17年3月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

希少疾患用薬は二新薬が肯定的意見を得た。Besremi(ropeginterferon alfa-2b)は長期作用性インターフェロン・アルファで投与頻度は2週間に一回(長期維持療法では4週間毎も可)。適応は既存のPEG化インターフェロン・アルファと異なり、症候性脾腫を伴わない真性赤血球増多症の治療に用いる。ウイーンのAOP Orphan Pharmaceuticalsが2009年に台湾のPharmaEssentia社(TWSE:6446)から欧州の権利を取得して開発、承認申請したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

Trecondi(treosulfan)は他家造血幹細胞移植の前治療(『コンディショニング』)に用いるアルキル化剤プロドラッグ。2年無イベント生存率が向上する。ドイツのmedac Gesellschaft fur klinische Spezialpraparate mbHが承認申請した。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大が支持された主なものは、まず、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)が創製し欧州では武田薬品が開発販売している抗CD30抗体薬物複合体、Adcetris(brentuximab vedotin)。CD30陽性ホジキンリンパ腫の再発治療などに承認されているが、今回はステージIVの一次治療として、伝統的なABVD併用レジメンのうちbleomycinに代えてAdcetrisを用いる。ABVDと比較した試験で修正PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.77、p=0.035だった。米国では3月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のPARP阻害剤、Rubraca(rucaparib)。白金薬感受性卵巣癌の再発治療で白金薬レジメンに部分/完全反応した成人の維持療法に用いる。現在は三次治療に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、ノバルティスが心筋梗塞再発予防薬として適応拡大申請していた抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab)は、申請撤回となった。米国では10月に審査完了通知を受領している。CANTOS試験の成功が学会・論文発表された時は驚いたが、何か裏話があったのだろう。

EMA、オメガ3脂肪酸の心筋梗塞再発予防効果を認めず
(2018年12月14日発表)

EMAは、オメガ3脂肪酸(EPAとDHAの混合体)を心筋梗塞患者の心血管リスク削減に用いても十分な効果は認められないと判定した。欧州の一部の国で承認されている用途だが、適応取り消しになる。尚、高トリグリセライド血症の治療には引き続き使用できる。

当レポートでも何度か書いたが、オメガ3脂肪酸の近年の心血管アウトカム試験はフェール続きだ。承認の根拠となったGISSI Prevenzione試験の結果が再現できていないのだから、この試験の信憑性を疑わざるを得ないが、高力価スタチンの登場など医療全体の進歩で限界的な薬の限界効用が低下してしまったことが原因かもしれない。

尚、EPA・DHAを一日1gではなくEPAだけをもっと高量投与した試験は良好な結果になっており、今後の魚油ベースの治療の主流になりそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


シャイアの慢性便秘治療薬、米国でも承認
(2018年12月14日発表)

FDAはシャイア(武田薬品が買収予定)のMotegrity(prucalopride)を慢性特発性便秘治療薬として承認した。2mg(重度腎障害は半量)を一日一回経口投与する。腸の穿孔や閉塞、クローン病などの重度炎症性疾患は禁忌。自殺思慮・行動が警告注意事項になっている。

元々はジョンソン・エンド・ジョンソンが創製した5-HT4受容体作動剤で、Propulsid(cisapride)のリコールで懲りたのかMovetis社に導出、欧州で09年にResolor名で承認された。米国は04年に遺伝子毒性や癌原性懸念からFDAが治験許可を停止、開発が遅れた。

シャイアはリサーチ・アンド・サーチの先駆けで昔からインライセンスや企業買収に活発だ。2010年にMovetisを4.2億ユーロで買収、12年にFDAが治験再開を認めた後に米国の権利もJNJから取得し、心血管リスク評価などを行って今年3月に承認申請したもの。

リンク: Motegrityのレーベル(Drug@FDA収載)






今週は以上です。

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2018年12月9日

2018年12月9日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 光速承認の背景 
  • SABCS:カドサイラ、術後アジュバント試験成功 
  • ASH:luspaterceptの第三相成功 
  • ASH:ダラザレックス、Rd併用試験も成功 
  • ASH:イムブルビカの様々なCLL一次治療試験が成功 
  • イムフィンジ、頭頚部癌試験がフェール 
  • ASH:イグザレルト、高リスク癌患者の静脈血栓予防試験がフェール 
  • テセントリク、小細胞性肺癌の一次治療に適応拡大申請 
  • テセントリク、非扁平上皮非小細胞性肺癌の四剤併用一次治療が承認 


【今週の話題】


光速承認の背景
(2018年12月3日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を全身性未分化大細胞リンパ腫などのCD30陽性末梢T細胞リンパ腫の一次治療に用いる適応拡大をFDAが承認した時、光速承認と書いた(2018年11月18日号)。承認申請書類がFDAに届いてから11日後の承認だったからだ。これを可能にしたのがFDAが腫瘍学薬の承認審査に導入した、Real-Time Oncology Review(RTOR) Pilot Programだ。

報道によると、同社のCEOであるClay Siegall氏もこの制度について初めて聞いた時、光速と感じたそうだ。適応拡大試験が大成功で条件を満たしうるものだったため、FDAに適用を求め、結果、トップラインデータ発表の46日後に承認取得した。承認審査を前倒しする仕組みなので実際の審査期間は11日間より長いはずだか、申請書類作成期間も含めて1ヶ月半というのは大変な驚きだ。

RTORに即して承認されたのは3例目とのことなので、この機会に、当プログラムと過去3例を紹介しよう。

フローはこうだ。承認申請者は適応拡大試験のトップラインが判明した段階でFDAに相談し、このプログラムの適用を認められたら、トップライン・データを提出する。FDAは予備的な審査を行い論点を明確化、申請者に追加データ・分析を都度求める。Adcetrisの場合もデータのやり取りが繰り返されたが、FDAが設定した提出期限は常に24時間後だった由なので、FDAだけでなく申請側にも光速が求められることになる。全書類を提出し終わり正式に承認申請することには審査がかなり進行しているので、その後の審査期間を短縮できる。

RTORの適用条件は、既承認薬の適応拡大で、既存の薬と比べて大きな改善をもたらすものであり、臨床試験のデザインが単純で、評価項目の解釈が容易であること、等。評価項目の明快さは例えば無作為化割付試験の全生存解析。米国外だけで実施された試験や予防試験、また、製法変更、薬理学的・毒性試験データ、コンパニオン診断薬を伴うものなどは対象外。

パイロットプログラムの実施期間や本格採用あるいは腫瘍学薬以外での導入については未定。将来は適応拡大だけでなく新薬も対象になる可能性があるようだ。

RTORに加えて、Assesment Aid Pilot Programも導入された。FDAが用意するテンプレートに即して情報を提出、ページの片側に記された申請者の評価の横にFDA側の評価が併記されるため論点が明確になる。これも対象は腫瘍学。適応拡大だけでなく新薬も可。申請者が任意で利用する。

RTOR承認第一号であったノバルティスのKisqali(ribociclib)はこの両方を採用した。今年4月にFDAとRTOR協議を行い、同月、トップラインデータ(『申請前パッケージ』)を提出、6月に正式な承認申請を行い、PDUFA日は12月だったが申請の20日後、申請前パッケージ提出からだと85日後に承認された。内容は、ホルモン受容体陽性、her2陰性の末期・転移乳癌の一次治療(アロマターゼ阻害剤またはfulvestrant併用)と二次治療(fulvestrant併用)なので、複数の臨床試験のデータが対象となった。

第二号はMSDのKeytruda(pembrolizumab)。KeyNote-189試験に基づいて非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用を申請した。試験成功が発表されたのは18年1月16日、RTOR協議を経て申請前パッケージを提出したのは2月27日、正式な承認申請は3月23日で審査期限は9月23日に設定され、8月20日に承認された。通常の優先審査より1ヶ月早いがAdcetris、Kisqaliほどではない。

最後に、Adcetrisは適応拡大試験成功が発表されたのが10月1日、申請前パッケージの提出時期は不明、適応拡大申請は11月4日、承認は11月16日だった。前二回も通常よりは早かったが、光速と呼べるのはAdcetrisだけだろう。

リンク: FDAの制度紹介ページ
リンク: FiercePharmaの報道


【新薬開発】


SABCS:カドサイラ、術後アジュバント試験成功
(2018年12月5日発表)

ロシュの抗体薬物複合体、Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)の術後アジュバント試験、KATHERINEの結果がサン・アントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。再発死亡リスクがHerceptin(trastuzumab)群を有意に下回る、良好な結果だった。

この試験は、her2陽性早期乳癌で切除前にタクサン系抗癌剤とHerceptinによるネオアジュバント治療を行ったが病理学的完全反応に到達しなかった患者をKadcyla群とHerceptin群に無作為化割付して14サイクル投与し、侵襲性疾患の再発や死亡のリスクを比較したもの。結果は、ハザードレシオ0.50、p<0.0001だった。

3年無侵襲性疾患生存率は88.3%対77.0%で上回った。全生存のハザードレシオは0.70だったがデータが未成熟でpは0.08と未だ有意水準に到達していない。深刻有害事象の発生率は12.7%対8.1%で増加した。

ロシュは適応拡大申請に向かう予定。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: Minckwitzらによる治験論文(NEJM)

ASH:luspaterceptの第三相成功
(2018年12月2日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)とAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)は、ASH(米国血液学会)で、ACE-536(luspatercept)の第三相試験二本の結果を発表した。良好な内容で、19年上期に欧米で承認申請する予定。

luspaterceptはアクティビン受容体IIB型の細胞外領域とヒト免疫グロブリンG1型の固定領域を融合した蛋白。TGFベータ・スーパーファミリーが受容体に結合して赤血球の成熟を妨げないよう羽交い絞めにする。セルジーンは11年にAcceleronから共同開発販売権を取得した。

第三相の一本は環状鉄芽球陽性のMDS(骨髄異形成症候群)でリスク分類は超低、低、または中度、そして疾病装飾薬による治療は受けておらず、エポエチン不応不耐で輸血に依存している貧血症を組入れ、1.0mg/kgを3週毎に皮注したところ、奏効率(8週間以上赤血球輸血なし)が37.9%と偽薬群の13.2%を有意に上回った。

治療時発現有害事象は153人中5人で発生、偽薬群は76人中1人。急性骨髄性白血病(AML)が3人で発生したが、偽薬群も1人となっており、今回の試験だけでは二次性AMLのリスクを評価するにはデータ不足。

もう一本は、輸血依存ベータサラセミアを治療したところ、奏効率(第13-24週の輸血量がランイン期間中と比べて33%以上減少)が21.4%と偽薬群の4.5%を有意に上回った。深刻有害事象は15.2%と偽薬群の5.5%より多かった。メカニズム的に不可避なのだろうが、血栓性イベントの発生率も偽薬群を上回り、G3以上だけでも0.9%対0%となっている。

リンク: 両社のプレスリリース(MDS試験、12/2付)
リンク: 両社のプレスリリース(ベータサラセミア試験、12/1付)

ASH:ダラザレックス、Rd併用試験も成功
(2018年12月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の第三相新患多発骨髄腫試験、MAIA試験の成功をASHで発表した。自家幹細胞移植不適にRevlimid(lenalidomide)と低量dexamethasoneを併用するRd療法に更にDarzalexを追加したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオがRd療法群比0.56、ログランクp値<0.0001と効果が増強された。メジアンは未達、Rd療法は31.9ヶ月だった。

完全反応率は48%対25%で上回り、治療時発現有害事象による死亡は6%対7%で大差なかった。適応拡大申請に向かう予定。

Darzalexはジェンマブ社からライセンスした抗CD38トランスジェニックマウス抗体。多発骨髄腫のサルベージ療法として15年に米国で、16年に欧州で、17年には日本でも承認された。

リンク: ヤンセンのプレスリリース(pdfファイル)

ASH:イムブルビカの様々なCLL一次治療試験が成功
(2018年12月3日発表)

Bruton's tyrosine kinase阻害剤Imbruvica(ibrutinib)のCLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)一次治療試験三本の結果がASHで発表された。様々なタイプの患者に様々な薬と併用しており、エビデンスの充実がうかがわれる。

まず、iLLUMINATE試験。ロシュの糖鎖改変型タイプII抗CD20抗体Gazyva(obinutuzumab、和名ガザイバ)と併用する効果をGazyva・chlorambucil併用と比較したところ、PFSハザードレシオは0.23、p<0.0001だった。メジアンは未達、対照群は19.0ヶ月。有害事象による治験離脱は16%対9%だった。

Imbruvicaは一次治療として単剤投与することが承認されているが、副作用忍容力のある患者に対する併用は未だ。アッヴィは10月にこの試験のデータで適応拡大申請した。

リンク: アッヴィのプレスリリース(12/3付)

次に、Alliance for Clinical Trials in OncoogyとNCI(米国立癌研究所)が主導した第三相試験。高齢CLLの初治療としてImbruvicaを単剤あるいはrituximab併用で施行する効果をrituxanとbendamustineの併用と比較したところ、PFSハザードレシオがモノセラピーは0.39、併用も0.38となった。2年無進行生存率はモノが87%、併用88%、対照群は74%だった。

一方、2年生存率は各90%、94%、95%だった。95%信頼区間はオーバーラップしているので大差ないと受け止めるべきなのだろうが、奇妙な感じである。

グレード5有害事象の発生率は各群13%、12%、9%。要因は明確ではないが、New England Journal of Medicine電子版の治験論文によれば二次性腫瘍による死亡や説明不能・証言者不在の死亡がやや多い。グレード5症例はなかったがグレード3と4の心房細動も増加した。Imbruvicaが諸刃の剣であることを思い起こされる。

リンク: Woyachらの治験論文(NEJM、12/1付電子版)

最後に、これも研究者主導のE1912試験。70歳以下の新患CLL/SLLを組入れて、Imbruvicaとrituximabの併用をFCR(fludarabine、cyclophosphamide、rituximab)レジメンと比較したところ、PFSハザードレシオが0.35、全生存のそれは0.17と、有意な差があった。

リンク: アッヴィのプレスリリース(12/4付)

ASH:ニンラーロ、新患維持療法試験のデータを発表
(2018年12月3日発表)

武田薬品は、経口プロテアソーム阻害剤Ninlaro(ixazomib cirate、和名ニンラーロ)のTOURMALINE-MM3試験のデータをASHで発表した。大量化学療法と自家造血幹細胞移植に反応した多発骨髄腫656人を組入れてNinlaroを週一回、3回投与して1回休むペースで最長24ヶ月投与したところ、独立審査委員会評価に基づくPFS(無進行生存期間)がメジアン26.5ヶ月と偽薬群の21.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.72、p=0.002と有意な差があった。深刻有害事象の発生率は27%対20%、有害事象による治験離脱は7%対5%で若干増加した。

武田薬品は適応拡大に向けて各国の承認審査機関と相談する考え。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)

イムフィンジ、頭頚部癌試験がフェール
(2018年12月7日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1ヒト化抗体Imfinzi(durvalumab)の第三相頭頚部扁平上皮種試験がフェールしたと発表した。欧米や日本など24ヶ国の白金薬歴を持つ難治性転移性患者をPD-L1の発現を問わずに組入れて、モノセラピーやtremelimumab(ファイザーからライセンスした抗CTLA-4ヒト化抗体)併用の延命効果を標準療法と比較したが、有意な差はなかった。同社は両剤併用で一次治療試験も実施しており19年上期に開票の見込み。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ASH:イグザレルト、高リスク癌患者の静脈血栓予防試験がフェール
(2018年12月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の第三相CASSINI試験の結果を発表した。静脈血栓塞栓症のリスクが高い癌患者1080人を組入れて10mgを一日一回、180日間経口投与する効果を検討したところ、複合主評価項目である深静脈血栓、肺塞栓または静脈血栓塞栓による死亡の発生率が5.95%と偽薬群の8.79%を大きく下回りハザードレシオ0.66と良さそうな数字が出た。しかし、p値は0.101と有意水準に到達しなかった。

治験離脱が50.2%、偽薬群も43.7%、と高かったことが原因で、治療期間中(on-treatment)の解析は2.62%対6.41%で有意な差があった。但し、主評価項目ではないだろうから厳密には有意とは言えないだろう。ISTH基準に基づく大出血は1.98%対0.99%で、これは有意ではないとのことだが、検出力不足が原因だろうから、厳密には有意でないとは言えないだろう。

ヤンセンはon-treatmentの解析に基づいて当局と適応拡大に向けた相談を行う考えのようだが、現実の医療ではintent-to-treatが重要であることを考えれば、血栓事故が発生する前に死亡したり患者が服用を止めてしまうような治療は割り引いて受け止めたほうが良いのではないか。

リンク: ヤンセンのプレスリリース(pdf)


【承認申請】


テセントリク、小細胞性肺癌の一次治療に適応拡大申請
(2018年12月5日発表)

ロシュは抗PD-L1ヒト化抗体Tecentriq(atezolizumab)を進展型小細胞性肺癌の一次治療としてcarboplatin及びetoposideと併用する適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査で審査期限は3月18日。

IMpower133試験に基づくもので、メジアン生存期間が12.3ヶ月と上記二剤だけの群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、p=0.0069。PFSは差が小さく、メジアンは5.2ヶ月対4.3ヶ月、ハザードレシオは0.77、p=0.017だった。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


テセントリク、非扁平上皮非小細胞性肺癌の四剤併用一次治療が承認
(2018年12月6日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Tecentriq(atezolizumab)を転移性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。EGFRやALKに悪性遺伝子変異を持たない患者に、carboplatin、paclitaxel、Avastin(bevacizumab)と四剤併用する。PD-L1発現は問わない。

第三相IMpower150試験ではメジアン生存期間が19.2ヶ月と他の三剤を投与した群の14.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78、p=0.016だった。

非扁平上皮非小細胞性肺癌の場合、paclitaxelではなくAlimta(pemetrexed)を好む医師や患者もいるだろうし、抗体医薬二剤併用は高価に付きそうだ。それでも、同じ抗PD-1/PD-L1でも肺癌試験の成否は区々なので、再発治療だけでなく一次治療も承認されたことは競争面で価値が大きい。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年12月2日

2018年12月2日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • DRCでエボラの臨床試験開始も、アビガンは見送り 
  • オプジーボ、小細胞性肺癌の市販後薬効確認試験がまたフェール 
  • ティッシュー・アゴノスティック抗癌剤が承認 
  • amifampridineが新薬として承認 
  • アステラスのゾスパタが米国でも承認 
  • MSDの新規抗HIV薬がEUでも承認 
  • ポテリジオがEUでも承認 
  • シャイア、TakhzyroがEUでも承認 
  • 武田のALK阻害剤がEUでも承認 
  • FDAがIDH阻害剤の分化症候群リスクを警告 
  • FDA、Lemtradaの卒中・動脈剥離リスクを警告 


【今週の話題】


DRCでエボラの臨床試験開始も、アビガンは見送り
(2018年11月26日発表)

エボラは2014年にギニアなどで大流行し、1万人以上が死亡したのち、沈静化した。数年毎に流行する傾向があり、今年はコンゴ民主共和国(DRC)で400人以上が発症(疑い例も含む)、200人以上が死亡した。WHOやMSF(国境なき医師団)などが対応に当たっているが、今回も、紛争や公衆衛生・現代医療に対する知識不足・不信が障害になっているようだ。米国政府職員は危険地域への出張が禁じられており、CDC(疾病管理予防センター)の経験豊富な職員も足止めを食らっている。

2014年との違いは、薬やワクチンについてある程度の感触が掴めていること。ワクチンは、発症者の濃厚接触者にring vaccinationして感染を輪の中に封じ込めるために、MSDの遺伝子組換え型弱毒化生ワクチン、V920/rVSV-ZEBOVが用いられている。

薬はカナダ政府機関が創製しMapp Biopharmaceutical/LeafBioが開発生産するモノクローナル抗体混合薬、ZMappがデファクト・スタンダードになっている模様。他にも候補は多いが、臨床試験が終わらないうちに前回の流行が終わってしまったため、エビデンス不足の状態。ZMappの供給体制は十分とは言えないため、DRC政府は3種類の開発品の治療効果をZMappと比較する臨床試験を開始した。

まず、NIAID(米国立アレルギー感染症研究所)がDRCやスイスなどの研究組織と共同開発した、感染生存者から単離した抗体、mAb114。一つで済むなら生産性が向上する。次に、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)。Filovirus系ウイルスに有効と考えられている核酸医薬で、動物試験では感染の3日目に投与を開始する用法で生存率100%だった。最後に、リジェネロンのREGN-EB3。エボラウイルスに対する3種類の完全ヒト化抗体の混合体だ。

前回はフランスなど一部で富士フィルム富山化学のアビガン(favipiravir)も用いられ、現在も出動に備えて備蓄されているはずだが、今回の試験には採用されなかった。WHOが公開したエキスパート評価によると、患者に便益をもたらすかどうか、大きな不確かさ(considerable uncertainty)があるとのことだ。用量も明確ではない。フランスの国立研究機関の推奨量は日本でインフルエンザ治療に承認されている用量の初日は3倍、維持用量は2倍となっている。

これらのことから、上記4剤の何れも入手できない時のバックアップという位置付けに留められている。

リンク: WHOのプレスリリース


【新薬開発】


オプジーボ、小細胞性肺癌の市販後薬効確認試験がまたフェール
(2018年11月26日発表)

BMSは第三相CheckMate-451試験がフェールしたと発表した。進展段階の小細胞性肺癌で白金薬ベースの一次治療に反応または安定化した患者を組入れて、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)の二剤による維持療法の延命効果を検討したが、偽薬を有意に上回らなかった。

この併用は4月に米国で小細胞性肺癌の三次治療に用いることが承認されたが、加速承認で、19年7月までに全生存期間が向上することを示す臨床データを提出しなければならない。10月のCheckMate-331二次治療試験のフェールに続くセットバックで、最悪、承認取り消しの可能性も出てきた。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


ティッシュー・アゴノスティック抗癌剤が承認
(2018年11月26日発表)

FDAは、Loxo Oncology(Nasdaq:LOXO)のVitrakvi(larotrectinib)をNTRK融合蛋白陽性の切除不能転移性固形癌用薬として承認した。代替的治療法がない場合、または治療後に進行した、成人小児が適応になる。NTRK融合蛋白陽性でもこの薬剤に抵抗性を持つ変異は適応外。

抗癌剤の適応は原発部位や転移部位毎に決定されるのが一般的だが、癌原性遺伝子変異を標的とする分子標的薬は当該変異を持つ複数の部位の癌に有効性を示すことがある。her2やEGFRに対するモノクローナル抗体が一例だ。

Vitrakviは固形癌であれば発生組織は問わない、tissue agonosticな抗癌剤として承認された。同様な事例としてはMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)がマイクロサテライト不安定性が高い癌に承認されているが、最初の適応が組織不問なのはVitrakviが初めてだ。

NTRKはニューロンの制御に関与するtropomyosin receptor kinasesの遺伝子で、他の遺伝子と融合してレガンド結合ドメインを喪失すると、恒常的に活性化する。該当するのは癌の0.5~1%、米国で1500~5000人と稀。臨床試験では17種類の癌が組入れられたが、軟組織肉腫や唾液腺腫、幼児線維肉腫などが比較的該当率が高いようだ。

成人は100mgを一日二回、経口投与、小児は体表面積に応じて調整する。臨床成績はORR(客観的反応率)が75%、6ヶ月反応持続率は73%、1年持続は39%。有害事象は神経や肝臓、胚・胎児毒性。

報道によると、WAC(卸取得価格)は月32800ドル。バイエルが米国で共同販促、海外は独占販売する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Loxo社のプレスリリース

amifampridineが新薬として承認
(2018年11月28日発表)

FDAはCatalyst Pharmaceuticals(Nasdaq:CPRX)のFirdapse(amifampridine phosphate)をランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)治療薬として承認した。19年第1四半期に発売予定。価格がどの程度高騰するのか、12月のロンチ計画発表が注目される。

LEMSは電位依存性カルシウムチャネルが自己抗体に攻撃される自己免疫疾患で、筋力の低下や自律神経障害などを伴う。二人に一人は小細胞性肺癌などの腫瘍を併発しており、癌の治療に応答する。血漿交換やステロイドも有効である模様。米国の患者数は3000人と推定されている。

amifampridine(3,4-DAP)はカリウムチャネルブロッカーで、90年代にLEMSに有効であることが発見され、未承認のまま広く用いられるようになったが、品質や供給力に懸念が表明されている。今回のリン酸塩(3,4-DAPP)はフランスの研究所が創製したもので、欧州ではバイオマリン(Nasdaq:BMRN)が09年に発売した。

ここで、温故知新型新薬に付き物の問題が発生した。これまで3,4-DAPを用いていた患者は、3,4-DAPPにスイッチすると費用が数十倍に急増してしまうのだ。批判が大きかったのか、コスト意識が強い欧州では売れなかったのか、バイオマリンは12年に北米の権利をCatalystにライセンスした。

このような経緯があるので、Catalystが米国でどのようなプライシングを行うか、注目される。また、3,4-DAPを販売しているJacobus Pharmaceuticalsも正式に承認を取る方針である模様なので、競合品の動向も気になるところだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Catalyst社のプレスリリース

アステラスのゾスパタが米国でも承認
(2018年11月28日発表)

FDAは、アステラス製薬のXospata(gilteritinib、和名ゾスパタ)を再発・難治性FLT3変異陽性AML(急性骨髄性白血病)用薬として承認した。遺伝子内縦列重複変異(ITD)あるいはチロシンキナーゼドメイン変異(TKD)を持つ、AMLの3割程度が対象。FLT3阻害剤は昨年、ノバルティスのRydapt(midostaurin)がAMLの一次治療併用薬として承認されたが、再発治療の承認は初。

120mgを一日一回、経口投与する。臨床試験では21%の患者が完全寛解/部分的血液学的回復を伴う完全寛解を達成した。FDAは重要な有害事象として可逆性後頭葉白質脳症症候群やQT延長、膵炎の監視を勧告。稀に分化症候群が見られる。胚胎児毒性あり。報道によると、WAC(卸取得価格)は30日分が22500ドル。日本では9月に承認され、薬価は30日分が約175万円。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アステラスのプレスリリース(和文、29日付)

MSDの新規抗HIV薬がEUでも承認
(2018年11月28日発表)

MSDの新規非核酸系逆転写阻害剤、Pifeltro(doravirine)とlamivudine及びtenofovir disoproxil fumarateを配合したDelstrigoがEUで承認された。初治療に用いるのも可。同じNNRTIであるSustiva(efavirenz)より安全性が高いとされる。ギリアドが創製したTDFの合剤が用意されていることもポイントか。米国では8月に承認。

リンク: MSDのプレスリリース

ポテリジオがEUでも承認
(2018年11月26日発表)

協和発酵キリンの抗CCR4ポテリジェント抗体、Poteligeo(mogamulizumab、和名ポテリジオ)がEUで承認された。全身治療歴を有する成人の菌状息肉腫(MF)およびセザリー症候群(SS)に用いる。米国では8月に承認。日本では12年にCCR4陽性成人T細胞白血病で初承認、今年8月に上記用途も承認された。

リンク: 協和発酵キリンのプレスリリース(英文)

シャイア、TakhzyroがEUでも承認
(2018年11月30日発表)

シャイアの抗血漿カリクレイン抗体、TakhzyroがEUでも遺伝性血管浮腫の発作予防に承認された。二週毎に皮注、管理良好なら四週毎も可。第三相試験では発作を87%削減した。

15年に承認マイルストンを含め65億ドルで買収したDyax社の開発品。米国では8月に承認。シャイアと買収で合意した武田薬品にとっても重要な新薬だ。

リンク: シャイアのプレスリリース

武田のALK阻害剤がEUでも承認
(2018年11月28日発表)

武田薬品のALK阻害剤、Alunbrig(brigatinib)がEUでALK陽性非小細胞性肺癌用薬として承認された。ALK阻害剤の先輩であるcrizotinibに不応不耐の患者に用いる。臨床試験では確認ORR(客観的反応率)が53%、メジアン反応持続期間は13.8ヶ月、脳転移症例における頭蓋内ORRは67%だった。致死的有害事象の発生率は3.7%で、肺炎、突然死、呼吸困難など。米国では昨年4月に承認された。

医薬品開発拠点間の優勝劣敗は世界共通の現象で、例えばロシュはジェネンテック頼みの状態が続いている。武田薬品も日本の生産性低下をミレニアムのアウトプットや企業買収で補い、今回、現経営体制下では初めて大型買収に踏み切ることになる。それと比べれば小さいとはいえ、17年のAriad社買収も総額54億ドルと大きな買い物だった。Alunbrigはファーストインクラスのcrizotinibよりは良さそうだが競合品は数多いので、投資を回収するには工夫が必要だろう。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)


【医薬品の安全性】


FDAがIDH阻害剤の分化症候群リスクを警告
(2018年11月29日発表)

FDAは、Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)が開発しセルジーン(Nasdaq:CELG)が販売するIDH2変異型難治再発AML(急性骨髄性白血病)用薬Idhifa(enasidenib)に関して、分化症候群のリスクを患者も含めてきちんと認識するよう警告する安全性情報を発出した。今年5~7月の安全性報告で分化症候群に関連する死亡が5例報告されたことが引き金のようだ。

臨床試験では14%の患者で発生した。治療開始後、早いケースでは10日、遅い事例では5ヶ月程度で発生。症状は急性呼吸器不全や肺浸潤、胸水、リンパ節腫脹などだが、当初は心原性肺浮腫や肺炎、敗血症と酷似のこともある。

Agios社はIDH1阻害剤Tibsovo(ivosidenib)も今年、IDH1変異型難治再発AMLに米国で承認されたが、こちらも分化症候群のリスクがあるようだ。IDH阻害剤は分化を促すことで癌を抑制するメカニズムなので、分化症候群の発生は已むを得ないのかもしれない。問題は、これまで、急性前骨髄球性白血病用薬であるレチノイン酸くらいでしか起きなかった珍しい有害事象であるため、馴染みの少ない医療従事者がいても不思議はないことだ。

FDAが承認時から枠付き警告されているリスクを改めて念押ししたのは、このような懸念が背景かもしれない。画期的新薬はマスコミが良いことばかり書いて深刻な副作用を割愛しがちであることにも問題意識を持っているだろう。

FDAの研究者は土曜日に始まったASH米国血液学会でIDH阻害剤の分化症候群リスクに関する発表を行う予定。抄録によるとIdhifaの臨床試験では19%の患者で発生、5%が致死的だった由。

リンク: FDAの安全性情報
リンク: Norsworthyら(ASH抄録)

FDA、Lemtradaの卒中・動脈剥離リスクを警告
(2018年11月29日発表)

FDAは、サノフィのLemtrada(alemtuzumab)で稀だが深刻な卒中や動脈剥離が報告されていることを警告した。かってはMabCampath/Campath名でB細胞慢性リンパ性白血病用薬としても販売されていた抗CD52ヒト化抗体だが、年一回、5日連続で一日一回静注する多発性硬化症治療薬Lemtradaとして14年に米国で承認されて以来、世界で13例報告された。

うち、出血性脳卒中が7例、虚血性が2例、残りは頸動脈剥離などの複合例で、一人は死亡した。一例を除き投与後1日以内に発症。タイミング的にサイトカイン症候群と関連する可能性もあるが明確ではない。

深刻な自己免疫疾患や点滴箇所反応、甲状腺がんや黒色腫、リンパ増殖性疾患などのリスクもある難しい薬なので他の薬で再発を抑制できない難治性患者だけに使われているはずだが、出番が一層減ることになりそうだ。

リンク: FDAの安全性情報






今週は以上です。

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2018年11月25日

2018年11月25日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • メルク/ファイザーの抗PD-L1、卵巣癌試験がフェール 
  • 第一三共もFLT3阻害剤を承認申請 
  • FDA、血球貪食リンパ組織球症治療薬を承認 
  • FDA、ヘッジホッグ阻害剤をAMLに承認 
  • アッヴィのbcl-2阻害剤もAMLに適応拡大 
  • RPE65網膜ジストロフィーの遺伝子療法がEUでも承認 
  • FDA、ジレニア中止後の症状悪化を警告 


【新薬開発】


メルク/ファイザーの抗PD-L1、卵巣癌試験がフェール
(2018年11月19日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、抗PD-L1抗体Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相卵巣癌再発治療試験がフェールしたと発表した。抗PD-1/PD-L1の用途としては新しいだけに注目されたが残念な結果になった。卵巣癌の第三相はもう一本、一次治療三剤併用試験が進行中。

Bavencioはメルクがファイザーと提携して開発、17年に日米欧で承認された。抗PD-1/PD-L1としては後発であるためか、他社の開発があまり進んでいない転移性メルケル細胞腫がリード・インディケーションだった。希少疾患で、欧米の推定患者数は各2500人、日本は75人とのことである。その後、米国では転移性尿路上皮癌の再発治療も承認され、また、腎細胞腫一次治療axitinib併用試験が成功、承認申請の見込みである。

今回のJAVELIN Ovarian 200試験は、白金薬抵抗性/難治性の卵巣癌をモノセラピー、ドキソルビシン塩酸塩リポソーム注射剤(対照群)、両剤併用の3群に無作為化割付して全生存期間を比較したもの。PD-L1発現状況は不問。結果は、モノセラピーのハザードレシオが1.14、併用は0.89で、どちらも有意に上回らなかった。この患者層にBavencioが有効と考えた根拠はどの程度強固だったのか、改めて尋ねたくなるような結果だ。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


第一三共もFLT3阻害剤を承認申請
(2018年11月22日発表)

第一三共は、経口FLT3チロシンキナーゼ阻害剤quizartinib(キザルチニブ)を再発性難治性AML(急性骨髄性白血病)用薬として米国で承認申請し、受理された。審査期限は来年5月25日。AMLの3割程度を占める、FLT3の遺伝子の塩基配列繰返し箇所に重複変異があるタイプ(FLT3-ITD)が適応になる。第三相試験ではメジアン生存期間が6.2ヶ月と化学療法群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、統計的に有意な差があった。有害事象はQT延長など。

昨年、同じ作用機序を持つノバルティスのRydapt(midostaurin)がFLT3-ITD型AMLの一次治療化学療法併用薬として欧米で承認された。後期のようにAMLでは続々と新薬が承認されているので、生存競争は厳しい。quizartinibの試験ではRydapt歴を持つ患者も組入れたので、どの程度の効果があったのか注目される。

米国サンディエゴのAmbit Biosciences社が開発、09年にアステラス製薬が世界共同開発商業化権を取得したが、13年に戦略上の理由で解約、14年に第一三共がマイルストンを含めて総額4億ドルで会社ごと買収した。

日本では10月に、欧州でも11月に申請された。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)


【承認】


FDA、血球貪食リンパ組織球症治療薬を承認
(2018年11月20日発表)

FDAは、HLH(原発性血球貪食リンパ組織球症)の初めての治療薬となるGamifant(emapalumab-lzsg)を承認した。HLHは免疫細胞が異常に活性化、肝臓や脳、骨髄に障害をもたらす、高死亡率の超希少疾患。NKT細胞やCTLが分泌するインターフェロン・ガンマの著増が見られる。

GamifantはスイスのNovimmuneが開発・承認申請した抗インターフェロン・ガンマ抗体で、再発性、難治性、または従来の治療法に不耐の成人小児が適応になる。27人の幼小児を組入れた臨床試験で63%が反応し、70%の患者が幹細胞移植に進むことができた。主な有害事象は感染症や高血圧、点滴箇所反応、低カリウム血、発熱など。

Novimmuneは優先審査バウチャーを取得した。Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)が全世界での開発販売権を保有しており、将来的には事業を継承する予定。欧州でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

FDA、ヘッジホッグ阻害剤をAMLに承認
(2018年11月21日発表)

FDAはファイザーのヘッジホッグ阻害剤Daurismo(glasdegib)を75歳以上または強化化学療法が不適な新患AML(急性骨髄性白血病)用薬として承認した。低量cytarabineと併用で一日一回、経口投与する。ファイザーは12月に発売する予定。WAC(卸取得コスト)は30日分16925ドルの見込み。

ヘッジホッグ・パスウェイは胚形成時に重要な役割を果たす。成人では機能していないが、異常活性化すると癌の幹細胞の発達・生存に関与すると考えられている。承認の根拠となった第二相試験ではメジアン生存期間が8.8ヶ月と低量cytarabineだけの群の4.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.46、統計的に有意だった。深刻有害事象の発生率は79%で、熱性好中球減少症や肺炎、出血、敗血症などが見られた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

アッヴィのbcl-2阻害剤もAMLに適応拡大
(2018年11月21日発表)

アッヴィは、bcl-2阻害剤Venclexta(venetoclax)をAML(急性骨髄性白血病)に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。75歳以上または併存症により強化化学療法の対象にならない新患に、azacitidine、decitabine、または低量cytarabineと併用する。

承認の根拠となった第二相試験ではazacitidineと併用した患者では完全寛解率37%、decitabine併用では54%だった。

リンク: アッヴィのプレスリリース

RPE65網膜ジストロフィーの遺伝子療法がEUでも承認
(2018年11月23日発表)

ノバルティスは、EUがLuxturna(voretigene neparvovec)を両アレルRPE65調停性遺伝性網膜ジストロフィーの治療薬として承認したと発表した。20万人に一人の希少疾患で、視力低下や失明をもたらす。Luxturnaは増殖しないよう操作したアデノ随伴ウイルスをベクターにしてRPE65遺伝子を導入する、in vivo遺伝子治療。米国では昨年12月に承認。スパーク社の開発品で、ノバルティスは米国外での開発販売権を持っている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、ジレニア中止後の症状悪化を警告
(2018年11月20日発表)

FDAはGilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)の安全性情報を発出した。投与を中止した後に多発性硬化症の病状が大きく悪化するリスクがある、というもの。米国で承認されて以来の8年間で35例が報告されている。治療前の状態よりも悪化した事例もあるようだ。転帰は回復6例、部分的回復17例、回復せずあるいは永続的障害が8例。副作用や効果不足により投与を中止する場合は十分に注意し患者にもリスクを伝えるよう勧告している。

リンク: FDAの安全性情報





今週は以上です。

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2018年11月18日

2018年11月18日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダ、食道癌の二次治療試験成功 
  • イミフィンジ、肺癌一次治療試験はやっぱりフェール 
  • イーライリリー、片頭痛治療薬を承認申請 
  • MSD、エボラワクチンを承認申請 
  • アストラゼネカ、リムパーザの卵巣癌維持療法を承認申請 
  • ロシュ、テセントリクをトリプルネガティブ乳癌に適応拡大申請 
  • CHMPがJNJの前立腺癌用薬などの承認を支持 
  • FDA、アドセトリスの適応拡大を2週間足らずで承認 
  • FDA、旅行者の下痢の治療薬を承認 
  • EMA、キノロン系抗生剤の規制強化を決定 


【新薬開発】


キイトルーダ、食道癌の二次治療試験成功
(2018年11月14日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)の第三相食道癌二次治療試験、KEYNOTE-181試験が成功したと発表した。末期/転移性食道・胃食道接合部腫瘍の患者をKeytruda群または化学療法群に無作為化割付して、PL-L1高発現(CPS≧10)サブグループの全生存期間を比較したところ、Keytruda群が有意に上回った。次に、扁平上皮種サブグループやIntent-to-treatベースの解析も行ったところ、方向は好ましかったが有意な差はなかった。詳細は学会発表の予定。

MSDは適応拡大申請する考え。Keytrudaは化学療法併用で食道癌一次治療試験も進行中。

リンク: MSDのプレスリリース

イミフィンジ、肺癌一次治療試験はやっぱりフェール
(2018年11月16日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)の非小細胞性肺癌一次治療試験の全生存解析がフェールしたと発表した。モノセラピーも、抗CTLA-4抗体CP-675,206(tremelimumab)併用群も、標準療法群を有意に上回ることができなかった。

このMYSTIC試験のデザインは期中に幾度が変更された。元々の主評価項目はPFS(無進行生存期間)だったが全生存期間を共同主評価項目とした。BMSのOpdivoの類似試験がフェールした後にモノセラピー群の割付数を増やし、PD-L1発現25%以上のサブグループの解析も行うことにした。

昨年7月、最初に結果が出た併用群のPFS解析がフェールしたことが発表された。事前に計画されていなかったモノセラピーのPFS解析は、数値自体もフェールだった。そして今回、全生存の解析もフェールした。PD-L1発現25%以上のサブグループでは併用群のハザードレシオ0.85、モノセラピー群は0.76でどちらも有意ではなかった。

モノセラピー群の点推定値は悪くなく、多くの解析を盛り込んだためアルファが分散されてハードルが高くなったことが敗因の可能性がありそうだ。様々な抗PD-1/PD-L1抗体の治験成績は必ずしも一致しておらず特に非小細胞性肺癌では取りこぼしが目立つが、実際の効能に差異があると考える理由はなく、治験のデザインや偶然によって差が出てしまったのかもしれない。

尚、tremelimumabはファイザーからライセンスしたもの。固定領域がIgG2型でBMSのYerviy(ipilimumab)のIgG1型ではないせいか、メラノーマの試験がフェールしてファイザーは開発中止。今回の試験でも併用群のハザードレシオのほうが数値が悪く、失望的だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


イーライリリー、片頭痛治療薬を承認申請
(2018年11月14日発表)

イーライリリーはlasmiditanを片頭痛発作の治療薬としてFDAに承認申請した。三叉神経パスウェイで発現する5-HT1F受容体に選択的なアゴニストで、ファースト・イン・クラス。選択性が高いためトリプタン系のような血管収縮リスクが小さい。第三相試験では奏効率が偽薬群を10-17%上回った。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

MSD、エボラワクチンを承認申請
(2018年11月13日発表)

MSDはエボラワクチンのrVSV-ZEBOVをFDAに承認申請した。コンゴ民主共和国などでは既に用いられているが、FDAが承認すれば米国の寄付金や助成金で購入・提供したり、承認審査機関を持たない国でも使えるようになったり、アベイラビリティが高まる。

水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一部の遺伝子をザイール種エボラウイルスの一つの遺伝子と置換した弱毒化生ワクチン。カナダ公衆衛生庁(PHAC)が開発、米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)がライセンスし、14年にMSDに世界独占開発生産販売権を供与したもの。

リンク: MSDのプレスリリース

アストラゼネカ、リムパーザの卵巣癌維持療法を承認申請
(2018年11月12日発表)

アストラゼネカはLynparza(olaparib、和名リムパーザ)を卵巣癌の一次治療後維持療法に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は19年第1四半期。

BRCAに有害変異を持つ末期卵巣癌で、白金レジメンによる一次治療に部分/完全反応した患者に300mg錠を一日二回、最長2年間にわたって投与したSOLO1試験では、PFSの偽薬比ハザードレシオが0.30、3年無進行生存率60.4%(偽薬群26.9%)と有意な差があった。最長2年という制限を患者に納得させるのは難しそうだが、終了時点で完全反応の患者は投薬を中止しても再発しなかった由。

LynparzaはPARP阻害剤。MSDと共同開発販売している。

リンク: 両社のプレスリリース

ロシュ、テセントリクをトリプルネガティブ乳癌に適応拡大申請
(2018年11月13日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を切除不能局所進行性転移性トリプルネガティブ(エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、そしてher2の何れも陰性)乳癌の一次治療薬として承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は来年3月12日。

Abraxane(nab-paclitaxel)と併用する。因みに、ロシュが通常のpaclitaxelではなくAbraxaneを様々な試験で用いているのは、溶剤による過敏反応リスクが小さいため、ステロイドによるプリトリートに伴う免疫抑制を回避できることが理由のようだ。

承認申請の根拠となったIMpassion130試験では、PFSがメジアン7.5ヶ月とAbraxaneだけの群の5.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62、95%信頼区間は0.49-0.78だった。PD-L1陽性サブグループの解析でもハザードレシオ0.62だった。

延命効果の解析は未だ中間段階でハザードレシオ0.84、p=0.0840と有意ではなかった。PD-L1陽性サブグループでは0.62、95%信頼区間0.45-0.86と良好な数字が出たが、これらはシーケンシャル解析なのでIntent-to-treatの解析がフェールした段階でその後の解析は仮説検証ではなく探索的な解析に留まる由。全生存の最終解析結果を待つ必要がある。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがJNJの前立腺癌用薬などの承認を支持
(2018年11月16日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、11月の会合で、ジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Erleada(apalutamide)はアンドロゲン伝達阻害剤。Xtandi(enzalutamide)を創製した医学者が第二世代として開発したもの。対象は、去勢抵抗性前立腺癌で、まだ転移は見られず症状も悪化していないがPSA値が急上昇し始めた、高リスク患者。臨床試験では無転移生存のメジアン値が40.5ヶ月と偽薬群の16.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.28、統計的に有意だった。全生存期間は中間解析だったがハザードレシオ0.45、pは0.0001を下回った。

米国では昨年10月に承認。日本では今年3月に承認申請された。米国承認段階では上記適応を持つ薬は初めてだったが、Xtandiも直ぐ追いついた。しばらくは適応拡大競争が続きそうだが、どこかの時点で薬効の優越性を示すことができない限り、後発の不利がありそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

サノフィが承認申請したFexinidazole Winthropはガンビアトリパノソーマという寄生虫によるアフリカ睡眠病の治療薬。サブサハラ・アフリカで集中的に発生する風土病。fexinidazoleはヘキストが1970年代に創製したが80年代に開発中止となった。21世紀に入ってDNDi(顧みられない病気のための新薬イニシアティブ)が病原虫に対する活性を発見、ヘキストの事業を受け継ぐサノフィと09年から共同開発した。

錠剤なので医療インフラが不十分な地域でも使いやすく、血液脳関門を通過して神経障害を起こす寄生虫にも効果がある経口剤は初めて。

リンク: サノフィのプレスリリース(pdf)

適応拡大で印象的なのは、一度は否定的意見を受けたが復活し今回、肯定的意見を獲得した二剤。まず、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用で中高度リスク末期腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。CHMPは当初、Yervoyの必要性が確立していないことに懸念を示したが、専門医の意見や他の癌の併用成績に基づき、便益が危険を上回ると判断した。

米国では今年4月、日本でも8月に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: BMSのプレスリリース

次に、アムジェンのBlincyto(blinatumomab、和名ビーリンサイト)。フィラデルフィア染色体陰性、CD19陽性の前駆B急性リンパ性白血病で一回目または二度目の完全寛解を達成したが少しだけ癌が残る(MRD:minimal residual disease)患者の治療に用いる適応拡大が一転して支持された。

癌が残るなら完全寛解ではないのではないかと突っ込みたくなるが、アムジェンのプレスリリースによると完全寛解とMRDは判定方法が異なるようだ。前者は顕微鏡検査で癌細胞の比率が20分の1未満だと検出できない可能性がある。後者は高感度検査に基づく判定で1万分の1でも検出できる。結局、完全寛解ではないことになる。

CHMPは当初、MRDを治療する臨床的な効用が確立していないことを危惧したが、専門医の意見や、MRDは再発リスクが高いにもかかわらず治療手段がないこと、BlincytoのMRD奏効率が高いこと、臨床試験の長期フォローアップ結果が出れば延命効果など臨床的な便益を確認することができることなどから、肯定的意見に転じた。

治療の意義は米国でもFDA諮問委員会の意見が賛成8人、反対4人と別れたが、FDAは3月に承認した。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: アムジェンのプレスリリース

一方、ロシュがTecentriq(atezolizumab)の適応拡大申請を10月に撤回していたことが公表された。Avastin併用でPD-L1発現1%以上の局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療に用いるというもの。IMotion151試験に基づく申請だが、ロシュの撤回通知を読むかぎりでは、宿題になっていた全生存などの解析が意外な結果だったのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: ロシュの申請撤回通知(pdf)

【承認】


FDA、アドセトリスの適応拡大を2週間足らずで承認、
(2018年11月16日発表)

FDAは、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を全身性未分化大細胞リンパ腫などのCD30陽性末梢T細胞リンパ腫の一次治療に用いる適応拡大を承認した。

ECHELON-2試験では、伝統的な標準療法であるCHOPレジメン(cyclophosphamide、doxorubicin、vincristine、prednisone)のvincristineをAdcetrisに代えたレジメンをCHOPレジメン群と比較したところ、PFS(担当医評価)のハザードレシオが0.71(p=0.011)、全生存は0.66(p=0.0244)と良好な結果だった。

驚かされるのは承認の早さだ。同社が承認申請を発表したのは今月5日、ブレークスルー・セラピー指定を受けたと発表したのは15日なので、光速承認といえる。7月に導入されたばかりのリアルタイム腫瘍学審査パイロット・プログラム(Real-Time Oncology Review Pilot Program)の寄与の模様だ。FDAが承認申請前にデータの大枠をチェックすることでその後の審査をスムーズに進めるというもの。Adcetrisは4例目とのことだ。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース
リンク: ブレイクスルー・セラピー指定時のプレスリリース(11/15付)
リンク: 承認申請時のプレスリリース(11/5付)

FDA、旅行者の下痢の治療薬を承認
(2018年11月16日発表)

FDAは、Cosmo Pharmaceuticals N.V.(SIX:COPN)の子会社が申請したAemcolo(rifamycin)を旅行者の下痢の治療薬として承認した。非侵襲性大腸菌を原因とする、発熱や血便を伴わない患者に、3-4日間経口投与する。広域半合成非吸収性抗生剤で、MMX技術を用いて胃や小腸での吸収・作用を抑制、大腸局所的に作用させる。

感染症治療薬の開発インセンティブであるQIDP指定されており、優先審査バウチャを獲得する。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、キノロン系抗生剤の規制強化を決定
(2018年11月16日発表)

EMAはキノロン系抗生剤の一部の承認を停止し、残りの製品も適応を制限すると発表した。承認停止はcinoxacin、flumequine、nalidixic acid、pipemidic acid。フルオロキノロンの適応停止は、自然治癒が見込まれるあるいは深刻でない感染症、非細菌性感染症、旅行者の下痢や下部尿路感染症の予防、軽中度細菌感染症(他の広く推奨されている抗菌剤が使えない場合を除く)。

規制強化の理由は、深刻且つ長期間続く不可逆的な副作用を伴うことが判明したため。腱炎、腱断裂、関節炎などである。フルオロキノロンによる深刻な副作用を経験した患者は使用を避けるべき。高齢や腎疾患、臓器移植、コルチコステロイドの同時使用も、腱傷害のリスクを高めるので、使用を避けるべき。

リンク: EMAのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年11月11日

2018年11月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AHA:EPAの心血管アウトカム試験の詳細が明らかに
  • トルリシティが心血管リスクを抑制 
  • アヴェオ、VEGFR阻害剤の腎細胞腫三次治療試験が成功 
  • 第一三共、FLT3阻害剤をEUでも承認申請 
  • SGEN、アドセトリスを適応拡大申請 
  • テラバンス、ネブライザ用LAMAが承認 
  • MSD、キイトルーダが肝細胞腫に承認 
  • BMS、エムプリシティが適応拡大 


【新薬開発】


AHA:EPAの心血管アウトカム試験の詳細が明らかに
(2018年11月10日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(icosapent ethyl)の心血管アウトカム試験、REDUCE-IT試験の詳細がAHA米国心臓協会科学部会とNew England Journal誌で発表された。リスクを25%削減、NNT(number-needed-to-treat)は102人/年という高い治療成果をを示した。

持田製薬のエパデールも日本の心血管アウトカム試験が成功しており、一方、EPA・DHA混合体の近年の同様な試験は一つも成功していない。結局、EPAだけを高量摂取することが重要なのだろう。

REDUCE-IT試験は、心血管疾患既往または糖尿病などのリスク因子を持ち、LDL-Cはスタチンで41-100 mg/dLにコントロールできているが空腹時トリグリセライド(TG)は135-499 mg/dLの患者8179人を、Vascepaを2gずつ一日二回服用する群と偽薬(ミネラルオイルが入っていた)群に無作為化割付して、心血管イベントの発生状況をメジアン4.9年間追跡した。主評価項目は心血管死、心筋梗塞、脳卒中、冠再血行術、不安定狭心症の複合評価項目。

結果は、Vascepa群の発生率が17.2%であったのに対して偽薬群は22.0%、ハザードレシオは0.75(95%CI:0.68-0.83)だった。二次的評価項目の三点MACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)も各11.2%、14.8%、HR0.74(0.65-0.83)と良好な結果になった。一方、有害事象では心房細動による入院(3.2%対2.1%)や深刻出血イベント(2.7%対2.1%)が増加した。

さて、学会発表も査読誌掲載も活発な意見交換の呼び水になる。REDUCE-IT試験にも慎重な意見が出た。ミネラルオイルが足を引っ張って、偽薬ではなく悪薬と比較する結果になってしまったのではないかという懸念だ。Vascepa群のLDL-Cは1年でメジアン3%上昇したが、偽薬群は10%も上昇したからである。ミネラルオイル自体の影響、あるいは、スタチンの作用を阻害したのかもしれない。

尤も、過去のアウトカム試験で見られたLDL-C低下幅とリスク削減効果の相関性を考えれば、7%程度の群間差では心血管リスクを25%も削減することはできないだろう。多少オーバーステートされているとしても、リアルと受け止めるべきではないか。

Vascepaは米国で2012年に承認されたが、適応は重度高TG血症(空腹時TGトリグリセライドが500 mg/dL以上)だけだった。その後、スタチンを服用してもTGが200~499 mg/dLの混合異脂血症にアドオンする適応拡大を申請したが、このユニバースにおける効用は確立していないため、REDUCE-IT試験が成功するまでお預けとなった。アマリンは19年初めに適応拡大申請する考え。

Vascepaは2030年までの特許があるがGE薬メーカーの特許挑戦を受けている。そのせいか、持田製薬から新規EPA製剤の導入を決めた。

リンク: アマリンのプレスリリース
リンク: Bhattらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

トルリシティが心血管リスクを抑制
(2018年11月5日発表)

イーライリリーは、GLP-1作用剤Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)の心血管アウトカム(CVO)試験、REWINDが成功し、リスクを偽薬比有意に抑制したと発表した。データは来年のADA米国糖尿病学会で発表される見込み。

REWIND試験は、二型糖尿病で心血管疾患(CVD)の既往またはリスク因子を持つ9901人をTrulicity群と偽薬群に無作為化割付して再発・初発リスクを比較したもの。主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合評価項目。解析計画は、偽薬群の発生率が年2%、試験薬群のハザードレシオは0.82、9600人を6.5年追跡して検出力90%。

ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤のVictoza(liraglutide)とOzempic(semaglutide)、そしてベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤のJardiance(empagliflozin)もCVD抑制効果を示している。本試験は初発予防が69%と他の試験と比べて多く、その分、長期間追跡しており、再発初発予防の必要性が高い二型糖尿病患者に適した薬のエビデンスが更に充実したことになる。

血糖治療薬の開発会社がCVO試験を行うようになったのはFDAや諮問委員会の要求によるもの。糖尿病患者はCVDで死亡する人が多いため、治療薬がリスクを高めないことを確認することが当初の目的だった。ところが、結果は意外の連続だった。それまでの試験ではインスリンもSU剤もmetforminも有意に抑制できなかったが、複数の製品が増やさないだけでなく減らすことに成功したのだ。

また、一部の薬では心不全や下肢切断が増加した。一方で、動物の毒性試験で浮上した懸念の幾つかについては、ある程度安心できる結果になった。糖尿病患者も人口全体と同様に癌で死亡する人が多い。癌のリスクを高めないことを確認するためには、CVO試験では足りずもっと多くの患者を長期間追跡する必要があるが、やらないよりはやった方がはるかに良い。検出力を高めた結果、ノイズを拾うリスクが高まってしまったが、これまでの成果を見て、FDAや諮問委員会の判断が正しかったと認めない医療従事者や患者はいないだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

アヴェオ、VEGFR阻害剤の腎細胞腫三次治療試験が成功
(2018年11月5日発表)

アヴェオ・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:AVEO)は、Fotivda(tivozanib)の高度難治性末期・転移腎細胞腫試験が成功したと発表した。主評価項目のPFS(無進行生存期間)がメジアン5.6ヶ月とNexavar(sorafenib)を投与した群の3.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.74、p=0.02だった。全生存の解析は未成熟だがハザードレシオ1.06。来年8月頃に行われる最終解析で正しい方向に転換するか、注目される。

FotivdaはEUでは17年に腎細胞腫の一次治療とVEGFR阻害剤歴を持たない患者の二次治療用途で承認されたが、米国は、PFSではsorafenibを有意に上回ったものの全生存ハザードレシオが1.245、p=0.105と、有意ではないものの悪い方向であったため、諮問委員会もFDAも支持しなかった。アヴェオは今回の試験のデータで一次治療から三次治療までの承認申請を行う考え。過去の経緯を考えると、もし全生存ハザードレシオの最終解析が1.06のままだったら、承認されるかどうか微妙だろう。

FotivdaはVEGFRの1、2、3とc-KIT、PDGFRなどを阻害する小分子薬。07年にキリンからアジア以外での権利を取得したもの。11年にアステラス製薬が共同開発販売権を取得したが、14年に返還。欧州ではEUSA Pharmaが販売している。

リンク: アヴェオのプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


第一三共、FLT3阻害剤をEUでも承認申請
(2018年11月6日発表)

第一三共は、quizartinibを再発難治性AML(急性骨髄性白血病)用薬としてEUで承認申請した。経口FLT3チロシンキナーゼ阻害剤でAMLの3割程度を占めるFLT3-ITD(遺伝子内縦列重複)変異を持つ患者が対象になる。日本では10月に申請された。米国でもローリング承認申請中。第三相試験ではメジアン生存期間6.2ヶ月と化学療法群(cytarabineなどを使用)の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、統計的に有意な差があった。有害事象ではQT延長が見られた。

米国のAmbit Biosciencesが創製し09年にアステラス製薬が共同開発商業化権を取得も13年に戦略上の理由で返還。その翌年、同社を第一三共が3.15億ドル及び後発債務0.95億ドルで買収した。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)

SGEN、アドセトリスを適応拡大申請
(2018年11月5日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)をCD30陽性末梢T細胞リンパ腫のフロントライン治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。
臨床試験では、代表的な一次治療法であるCHOPレジメンのうちvincristineをAdcetrisに代えたレジメンをCHOPと比較したところ、担当医評価PFSのハザードレシオが0.71、p=0.011、二次的評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.66、p=0.0244となった。

Adcetrisは抗CD30抗体と細胞毒を結合したADC。ホジキン型リンパ腫などに承認されている。北米以外では武田薬品が開発販売。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース


【承認】


テラバンス、ネブライザ用LAMAが承認
(2018年11月9日発表)

テラバンス・バイオファーマ(Nasdaq:TBPH)とマイラン(Nasdaq:MYL)は、FDAがYupelri(revefenacin)をCOPDの維持療法として承認したと発表した。一日一回で足りるネブライザ用気管支拡張剤はCOPDでは初めて。

同社はグラクソ・スミスクラインとCOPD/喘息症用薬で広範な共同研究開発提携を結んでおり、revefenacinも一旦はGSKがライセンスしたが、ドライパウダー・インヘイラーに適さないことなどから返還。そこで、吸入用ジェネリック薬の開発で実績のあるマイランと手を結び、17年11月に承認申請したもの。マイランが販売する。COPD患者の9%はネブライザを好むとのことであり、長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)を必要とする患者には貴重な選択肢になる。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、キイトルーダが肝細胞腫に承認
(2018年11月9日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を肝細胞腫の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。一次治療薬として承認されているNexavar(sorafenib)歴を持つ患者が適応になる。加速承認の根拠となった第二相試験ではORR(客観的反応率)が17%、うち完全反応率は1%だった。深刻有害事象の発生率は15%。治療成績は、昨年5月に同様な適応拡大が承認された、BMSのOpdivo(nivolumab)と同様だ。

リンク: MSDのプレスリリース

BMS、エムプリシティが適応拡大
(2018年11月6日発表)

BMSは、Empliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)を多発骨髄腫の三次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。セルジーンのPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと併用する。

Revlimid(lenalidomide)やプロテアソーム阻害剤による治療歴を持つ患者を組入れた第二相試験ではPFSが10.3ヶ月とPomalyst・dexamethasoneのPdレジメン群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54、統計的に有意だった。

EmplicitiはSLAM7(CS1糖タンパク)を標的とするヒト化抗体で、プロテイン・デザイン・ラボ(PDL)が創製、08年にBMSにライセンスした。PDLはその後、アッヴィに買収された。

リンク: BMSのプレスリリース








今週は以上です。

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2018年11月4日

2018年11月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • SB623の外傷性脳損傷試験が成功 
  • BMSのアタッチメント阻害剤がヴィーヴでデビューへ 
  • サノフィ、デング熱ワクチンを米国でも承認申請 
  • FDA諮問委員会、産後鬱治療薬の承認を支持 
  • ローブレナ、米国でも承認 
  • キイトルーダ、扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療承認 
  • EUがbcl-2阻害剤とrituximabの併用を承認 
  • イクスタンジ、EUでハイリスクnmCRPCに承認 


【新薬開発】


SB623の外傷性脳損傷試験が成功
(2018年11月1日発表)

サンバイオは、SB623の第二相外傷性脳損傷(TBI)試験で主目的を達成したと発表した。日米の医療施設でTBIから12ヶ月以上経ち安定的な運動障害を被る患者をSB623の三用量群とシャム(穿孔だけ)に無作為化割付して24週後のFugl-Meyer運動スケールの変化を比較したところ、試験薬(三群プール)は平均8.7低下し、シャム群の2.4低下と有意な差があった。

このスケールは関節を動かす能力などを夫々0、1、2の3段階で評価する。同社によると、TBIの障害部位は患者によって区々だが、もし歩行障害だとすると、8ポイントの差は歩けなかった患者が歩けるようになった位の差を示唆するという。

SB623は他家骨髄間葉系幹細胞に神経成長に係るNotch-1の細胞内ドメインの遺伝子を導入したもの。障害部位の近くに頭蓋内投与する。20年1月期までに日本で再生医療等製品として承認申請する予定。

SB623は慢性期脳梗塞でも第二相試験中で、この用途は北米の共同開発販売権を大日本住友製薬が保有している。日本の同用途の権利は帝人が保有していたが今年2月に返還された。

リンク: サンバイオのプレスリリース(pdfファイル)

BMSのアタッチメント阻害剤がヴィーヴでデビューへ
(2018年10月31日発表)

ヴィーヴ・ヘルスケアは、fostemsavirの第三相試験の48週データを発表した。HIV/AIDSで6種類の抗ウイルス剤クラスのうち4種類以上に耐性、不耐、かつまた禁忌の患者を組入れて、最適なバックグランド・セラピーとfostemsavirを投与したところ、48週ウイルス抑制成功率(<40コピー/mL)が54%(272人中146人)となった。CD4陽性T細胞数は139個/mL増加。一方、深刻な有害事象が35%の患者で発生。7%が有害事象を理由に中止した。ヴィーヴは19年に承認申請する考え。

16年にBMSから取得した抗HIV薬パイプラインの一つで、アタッチメント・インヒビターtemsavirのプロドラッグ。HIVエンベロープのgp120に結合してウイルスがCD4陽性T細胞に結合・侵入するのを妨げる。BMSのアタッチメント・インヒビターに関する長年の研究が、GSKと塩野義製薬、ファイザーのHIV合弁会社であるヴィーヴによって、結実することになる。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

【承認申請】


サノフィ、デング熱ワクチンを米国でも承認申請
(2018年10月30日発表)

サノフィは、デング熱ワクチンDengvaxiaを米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年5月1日。

デング熱は蚊が媒介するデングウイルス感染症で、東南アジアや中南米の一部、米国領ではプエルトルコやヴァージン・アイランドで風土病となっている。感染しても症状が出るとは限らない一方で、重篤なデング出血を合併することもある。

Dengvaxiaは弱毒化黄熱病ウイルスに4血清型全てのデングウイルスの抗原を導入した生ワクチンで、08年に買収したAcambisがセントルイス大学のライセンスに基づいて開発した。15年のメキシコを皮切りに幾つかの国で販売承認され、フィリピンでは無料キャンペーンで70万人以上が接種したが、16年になって、未感染者が接種すると感染した時の病状が重くなるリスクが顕在化。政府がサノフィに損害賠償を求める事態になった。

「キプロスの蜂」と呼ばれる現象と同じような話である模様だ。デングウイルス感染は二回目の感染時に免疫機構がパニックを起こして過敏反応してしまうことがあり、ワクチンが初めての暴露である患者でも、同じことが起きる可能性がある。分からないことも多く、一回目と二回目の血清型が異なると発生しやすいとか、誘導された抗体力価が特定の水準以上である場合が危険とか、様々な指摘がされている。

WHOは抗体検査で陽性だった人だけに接種するよう勧告している。10月に肯定的意見をまとめたEUのCHMPも同様。武田が行っているTAK-003(DENVax)の第三相試験も同様。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、産後鬱治療薬の承認を支持
(2018年11月2日発表)

FDAの精神薬理学薬諮問委員会と薬品安全リスク管理諮問委員会の共同会議は、Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)が難治性産後鬱治療薬として承認申請したZulresso(brexanolone)を検討し、18人の委員のうち17人が承認を支持した。薬効は18人全員、安全性は16人が支持した。

米国では年40万人が産後鬱を経験すると言われている。Zulressoはニューロステロイドであるallopregnanoloneの特許性製剤で、GABA-A受容体の陽性アロステリック調整作用を持つ。60時間点滴静注した第三相試験では、HAM-DトータルスコアやCGI-Iが偽薬比有意に改善した。

意外なのは、140人の投与実績のうち6人で失神・前失神・意識喪失が見られたこと。乳児を抱かないようにしたり、速やかに対処できるよう投与完了後数時間経つまで監視を受ける必要があり、リスク評価・緩和戦略が導入される。

同社は類似した作用機序を持つ経口剤を開発、鬱病治療薬として第三相試験を開始する予定で、日本では塩野義製薬がライセンスした。失神リスクは作用機序に伴うものである可能性があるので、現在進行中の第二相産後鬱試験の結果を注視したい。経口剤なら患者は自由に行動できる。意識喪失が起きた時の転倒や交通事故のリスクが高いので、安全性の要求水準が高くなる。

リンク: Sageのプレスリリース


【承認】


ローブレナ、米国でも承認
(2018年11月2日発表)

ファイザーは、Lorbrena(lorlatinib、和名ローブレナ)がFDAにALK陽性転移性非小細胞性肺癌用薬として承認されたと発表した。同社のXalkori(crizotinib)を含む二剤以上のALK阻害剤歴を持つ場合、あるいはAlecensa(alectinib)またはZykadia(ceritinib)による一次治療歴を持つ患者が適応になる。ファイザーはXalkoriを第一世代、他社の二品を第二世代、そしてLorbrenaは第三世代と呼んでいる。日本では9月に承認。

臨床試験では32%の患者で深刻な有害事象が発生した。肺炎、呼吸困難、発熱、精神状態変化、呼吸不全などだ。致死的有害事象の発生率は2.7%だった。

リンク: ファイザーのプレスリリース

キイトルーダ、扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療承認
(2018年10月30日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療にcarboplatin及びpaclitaxel(nab-paclitaxelでも可)と併用する適応拡大がFDAに承認されたと発表した。Keytrudaの適応はPD-L1検査値との関係が複雑だが、今回の適応では不問とされた。

KEYNOTE-407試験に基づくもので、三剤併用群のメジアン生存期間は15.9ヶ月、二剤だけの標準療法群は11.3ヶ月、ハザードレシオ0.64と良好な成果を上げた。治療関連有害事象による死亡は各群10人(3.6%)と6人(2.1%)だった。

リンク: MSDのプレスリリース

EUがbcl-2阻害剤とrituximabの併用を承認
(2018年11月1日発表)

ロシュは、Venclyxto(venetoclax、米国名Venclexta)を再発性難治性CLL(慢性リンパ性白血病)の再発治療薬としてMabThera(rituximab、米国名Rituxan)と併用する適応拡大がEUに承認されたと発表した。

ジェネンテックがアッヴィと共同開発・販売している経口bcl-2阻害剤。rituximab併用でbendamustineとrituximabを併用する標準療法と全生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.48、有意な差があった。効果は高いが副作用リスクも高いので注意が必要。

ロシュは、持病を持つCLLの初度治療にVenclyxtoとGazyva(obinutuzumab)を併用した第三相CLL14試験の成功も発表した。PFS(無進行生存期間)がchlorambucilとGazyvaを併用した標準療法群を有意に上回った。データは学会で発表する考え。適応拡大申請を行う考え。

リンク: ロシュのプレスリリース(EU承認)
リンク: 同(一次治療試験成功)

イクスタンジ、EUでハイリスクnmCRPCに承認
(2018年10月29日発表)

アステラス製薬は、経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)をハイリスクのnmCRPC(非転移性去勢抵抗性前立腺癌)に用いる適応拡大申請がEUに承認されたと発表した。

PROSPER試験に基づくもので、未だ転移はしていないがPSA値が急上昇(10ヶ月以内の期間に倍増)している高リスク患者をXtandi群と偽薬群に2対1割付して無転移生存期間を比較したところ、メジアン36.6ヶ月対14.7ヶ月、ハザードレシオ0.29、p<0.001だった。

リンク: アステラスのプレスリリース(pdfファイル)







今週は以上です。

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2018年10月28日

2018年10月28日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アムジェン、米国でレパーサを6割値下げ 
  • ESMO:リムパーザがBRCAm卵巣癌に大きな効果 
  • ESMO:キイトルーダ、頭頚部癌の一次治療試験が成功 
  • ESMO:テセントリクも肺癌一次治療試験が成功 
  • ESMO:タカラバイオのHF10は日本のP2試験が今一つ 
  • バイエル、非転移性去勢抵抗性前立腺癌の第三相が成功 
  • CTAD:BAN2401の追加解析は説得力が弱い 
  • ルンドベック、新規向精神薬の最初の第三相がフェール 
  • FDAがゾフルーザをインフルエンザ流行前に承認 


【今週の話題】


アムジェン、米国でレパーサを6割値下げ
(2018年10月24日発表)

アムジェンは、コレステロール治療薬Repatha(evolocumab、和名レパーサ)の米国における価格を年14,520ドルから年5,850ドルに引き下げると発表した。トランプ大統領が医薬品の高価格を批判していることに応えたり、メディケア患者の自己負担緩和に加えて、同社やリジェネロン/サノフィの抗PCSK9抗体の売上が伸び悩んでいるのを梃子入りする狙いもあるのではないか。

高薬価批判に対する製薬業界の反論の一つは、医療保険や薬品給付管理組織における『薬価差益』だ。製薬会社は優先使用薬リストに収載してもらうためにリベートを払っているが、加入者の自己負担額は定価に基づいて決定されるので、リベートが還元されない。そこで、製薬会社は、薬を買うだけの余裕のない患者にクーポンを提供しており、Repathaの場合、月5ドルで足りる。

ここで問題になるのが、米国にはメディケア/メディケイドという民間の共助組織とは性格も考え方も異なる制度が存在することだ。最恵国待遇条項があるため最も有利な条件と同等以上の条件を要求できるが、民間の契約形態が変化していく中で、何がリベートで何が違うのか、何がOKで何が禁止なのか、色々な意見の食い違いが発生している。最近も、複数の製薬会社が司法省との和解に応じ、巨額の和解金を支払った。

民間保険加入者にクーポンを提供するならメディケア加入者にもそうするのが公平だが、メディケアは。自分たちの得にはならないせいか、禁じている。このため、自己負担に耐えられない高齢者や、65歳になって民間保険からメディケアに移行した患者が、Repathaの処方箋を貰っても薬を買わないケースが多いようだ。

今回の新価格は、65%のHMO/PBMに対するリベート控除後の価格と同じとのことだ。年5,850ドルなら日本や英国の保険薬価と大差ない。要するに、今までの定価が、値引きを大きく見せかけるために下駄をはかせた『通常価格』だったのである。

WAC(問屋取得価格)と正味価格の格差を縮小する動きは他社でも見られるようになった。製薬会社が高い薬価を付けてHMO/PBOが薬価差益で潤う、Win-Winの関係は変わりつつある。

リンク: アムジェンのプレスリリース


【新薬開発】


ESMO:リムパーザがBRCAm卵巣癌に大きな効果
(2018年10月21日発表)

アストラゼネカとMSDは、Lynparza(olaparib、リムパーザ)の第三相SOLO1試験の結果をESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表した。3年PFS(無進行生存)率が倍増という大きな成果を上げた。

この試験は、BRCA遺伝子変異を持つ末期卵巣癌で白金薬レジメンによる一次治療を受けて部分反応以上だった患者391例を組入れて、300mg錠を一日二回服用する維持療法群と偽薬群のPFSを比較したもの。結果はハザードレシオが0.30、36ヶ月PFSは60.4%と偽薬群の26.9%を大きく上回った。2年経って完全反応の患者は投薬を中止するプロトコルが導入されており、抵抗もあった模様だが、中止後の経過は良好のようである。アストラゼネカは適応拡大申請に向かう考え。

BRCAはDNA損傷の修復に係る蛋白の遺伝子で、有害変異を持つ患者は卵巣癌や乳癌のリスクが高まる。LynparzaはPARP(ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ)阻害剤。DNA損傷の修復メカニズムを妨げるのでBRCA有害変異細胞は遺伝子損傷や複製ミスを修復できず、大きな打撃を受ける。アストラゼネカは06年にKuDOSを買収して入手、14年に欧米で初承認された。その間には、買収時に発生した無形資産の減損を計上したり、米国では審査途中で適応が大きく変わったり、紆余曲折の連続だった。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:キイトルーダ、頭頚部癌の一次治療試験が成功
(2018年10月22日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKEYNOTE-048試験の結果をESMOで発表した。難治性転移性扁平上皮頭頚部癌の第三相一次治療試験で、Keytrudaモノセラピーと白金薬・5-FU・Keytruda併用レジメンを白金薬・5-FU・Erbitux(cetuximab)を併用するEXTREME試験レジメンと比較したところ、中間解析で成功認定された。

モノセラピー群のOSは、CPS(腫瘍や腫瘍浸潤免疫細胞のPD-L1発現度)が20以上のサブグループ分析でOSのハザードレシオ0.61、同じく1以上のグループでは0.78と統計的にも臨床的にも有意な結果になった。次に、Keytruda併用群のOSは、PD-L1発現度を問わない全ユニバースの解析でハザードレシオ0.77となった。

奇妙なことに、PFSはどの解析でも有意差がなかった。OpdivoやTecentriqの効果とTMB(腫瘍変異負荷)の関連性を検討した試験ではPFSと異なりOSでは関連性が見られなかった。これらの事例が示唆するのは、抗PD-1/PD-L1の真価を探るにはPFSではなくOSを重視すべきということだ。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:テセントリクも肺癌一次治療試験が成功
(2018年10月22日発表)

ロシュはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower130試験の結果をESMOで発表した。非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療試験で、carboplatinとnab-paclitaxelの標準療法と、Tecentriqを追加する三剤併用の効果を比較したところ、共同主評価項目のOSとPFSのどちらも成功した。

OSはハザードレシオ0.79、p=0.033、メジアンは18.6ヶ月で標準療法の13.9ヶ月を上回った。PFSはハザードレシオ0.64、p<0.0001、メジアンは各7.0ヶ月と5.5ヶ月だった。

抗PD-1/PD-L1のうちOpdivo(nivoluman)は非小細胞性肺癌の試験成績が見劣りする。Opdivo自身の問題なのか、検出力や除外基準など治験デザインの違いが原因なのか、事例が積み重なるにつれて明らかになっていくだろう。

尚、Tecentriqの併用試験でしばしばnab-paclitaxelが採用されているのは、免疫を抑制するステロイドでプリトリートする必要がないからであるようだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

ESMO:タカラバイオのHF10は日本のP2試験が今一つ
(2018年10月19日発表)

タカラバイオが開発している腫瘍溶解性ウイルス、HF10(canerpaturev)の日本で行われた第二相試験の結果がESMOで発表された。黒色腫の二次治療としてYervoy(ipilimumab)と併用したところ、最良客観的反応率(ベストORR)が7.4%(27例中2例)だった。通常の薬効確認試験で用いられるORRはベストORRより低く出ることが多いので、この併用療法の効果はこれ以下ということになる。

米国で実施された第二相Yervoy併用試験は43例のベストORRが49%、うち完全反応は18%だった。類似した薬であるアムジェンのImlygicはYervoy併用でORR39%だったので、同程度の効果があるかもしれないと思っていた。

日米の成績の差異はYervoyが犯人である可能性も指摘されている。今回の試験では9割の患者がOpdivoによる治療歴があったが、日本における藤沢らの後顧的研究によれば、Opdivo歴を持つ患者にYervoyを使った症例のベストORRは3.3%、60例中2例だけだった。

しかし、Yervoyという薬は伝統的な免疫強化療法と同様に延命効果はあるがORRは海外でも低い。米国承認の根拠となった試験では、Yervoy単剤投与群のベストORRは10.9%だったが、Yervoyとgp100を併用した群では5.7%だった。gp100単剤投与群は1.5%だったので、Yervoyの効果は3.2~10.9%の範囲という計算になる。単剤投与群と併用群の95%信頼区間の重複に注目すると、6.3~8.4%の範囲と推定することもできる。

何れにせよ、今回のベストORRだけでは併用の必要性は感じられない。OpdivoをYervoyと併用するのと比べて効果もエビデンスの質も見劣りする。もっときちんとした試験で延命効果を確認すべきである。

HF10は名古屋産業科学研究所の技術を用いて開発した弱毒化自然変異株HSV-1。承認のハードルが低い再生医療等製品として承認申請される見込み。国内の開発販売権は大塚製薬が保有している。

リンク: タカラバイオのプレスリリース

バイエル、非転移性去勢抵抗性前立腺癌の第三相が成功
(2018年10月24日発表)

バイエルは、BAY-1841788/ODM-201(darolutamide)の第三相試験が成功したと発表した。非転移性の去勢抵抗性前立腺癌(nmCRPC)を組入れてdarolutamide群(600mgを一日二回経口投与)と偽薬群に2対1割付して無転移生存期間を比較したもので、データは後日発表予定。

オライオン(OMX:ORNAV)から共同開発販売権を取得したアンドロゲン受容体阻害剤。前立腺癌は次々と新薬が登場しており、nmCRPCではジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide)が今年2月に、アステラス/ファイザーのXtandi(enzalutamide)の適応拡大が7月に、米国で承認された。

リンク: バイエルのプレスリリース

CTAD:BAN2401の追加解析は説得力が弱い
(2018年10月25日発表)

エーザイは、抗アミロイド・ベータ抗体BAN2401の第二相早期アルツハイマー病試験の追加解析をCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表した。この試験は主評価項目である12ヶ月時点のベイズ確率による進行抑制効果の解析がフェール。18ヶ月時点の伝統的な手法による解析は最高用量群が成功したが、伝統的な考え方では主評価項目がフェールしたら事後の解析は仮説検定的と見做すべきでない。

内容的にも、最高用量群は治験の途中で欧州の承認審査機関がApoE4陽性患者の組入れを止めるよう要請したため、偽薬群や他の用量の群と比べて当該症例数が少なく、患者背景に偏りがある。

今回の追加解析では、偽薬群の患者はApoE4陽性でも陰性でも疾病進行スピードに大差なかったことが示された。ApoE4陽性は老人性アルツハイマー病のリスク因子だが、進行スピードに大差ないなら、最高用量群のApoE4陽性比率が30%と偽薬群の71%と大差であったとしても、大きな影響はなかったのかもしれない。

一方、最高用量はApoE4陽性サブグループの進行を63%抑制し、ApoE4陰性群は7%のみという解析は説得力が弱い。ApoE4陽性サブグループの解析対象は、最高用量群は10例に過ぎず、残りの、無作為化割付数の8割に相当する多くの患者が対象外になっているのだ。偽薬群の解析対象は113例で打ち切りは35%だけである。

もし忍容性に難があり8割がドロップアウトするなら普及しないだろう。ApoE4陽性の新規組入れ中止を伝えられた医師が心配して既に組入れられた患者を早めに離脱させたのだとしたら、試験結果にバイアスが生じていることになる。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文)
リンク: エーザイの学会発表スライド(pdfファイル)

ルンドベック、新規向精神薬の最初の第三相がフェール
(2018年10月25日発表)

ルンドベックは、Lu AF35700の一本目の第三相難治性統合失調症試験がフェールしたと発表した。薬物療法に十分に反応しない患者をrisperidoneまたはolanzapineで治療するランインを行い、不応例を継続投与群と試験薬群(10mg群と20mg群)に無作為化割付けしてPANSS総合スコアの10週後の変化を比較したが、有意な差はなかった。

Lu AF35700はD2受容体と比べてD1受容体選択的で、5-HT2Aや5-HT6受容体にも作用するため、D2受容体選択的な向精神薬に反応しない患者や、錐体外路症状に不耐な患者に適していることが期待される。FDAが難治性統合失調症用途でファーストトラック指定している。

リンク: ルンドベックのプレスリリース


【承認】


FDAがゾフルーザをインフルエンザ流行前に承認
(2018年月日発表)

FDAは、Xofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)を12歳以上の合併症のないインフルエンザ感染症の治療薬として承認した。ロシュやジェネンテックが塩野義製薬から導入したCap依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤で、一回経口投与で足りる点が最大の長所。インフルエンザ罹患期間を短縮する効果はタミフルと大差なさそうだがウイルス量減少は有意に早いので、もし他者にうつすリスクが小さいなら、学生や高齢者施設入居者などに特に適しているだろう。

インフルエンザの治療方針は国により濃淡があり、米国は日本同様に前向きなほうだが、治療薬の承認審査では高リスク患者(喘息症や糖尿病などの持病を持ち合併症のリスクが高い)とそれ以外を区分けしている。Xofluzaは高リスク患者試験も成功したのので、早晩、対象患者拡大が認められるだろう。

トランプ大統領に言われるまでもなく、米国は薬価が高い。ゾフルーザは日本の一日薬価は約4700円だが、米国のWACは150ドルと3倍に跳ね上がる。タミフルなど既存薬の日米格差が影を落としている。こうなると、ロシュの分も含めて世界年商30億ドル以上という塩野義の野望が現実味を帯びてくる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ジェネンテックのプレスリリース





今週は以上です。

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2018年10月21日

2018年10月21日


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:テセントリク、トリプルネガティブ乳癌の第三相成功 
  • ESMO:ノバルティスのPI3K阻害剤の第三相成功 
  • ESMO:PARP阻害剤はBRCA変異前立腺癌にも有効 
  • ESMO:METエクソン14スキップ変異肺癌にMET阻害剤が有効 
  • ECTRIMS:中外、新規抗IL-6受容体抗体の第三相視神経脊髄炎試験が成功 
  • ロシュ、カドサイラのアジュバント試験が成功 
  • キイトルーダ、レンビマではなくインライタ併用試験が成功 
  • アイガー、ベスタチンのリポジショニングを断念 
  • ノバルティス、SMAの遺伝子療法を承認申請 
  • アッヴィ、ImbruvicaをCLL一次治療に適応拡大申請 
  • ノバルティス、イラリスの心血管適応はペンディングに 
  • オプジーボ、高TMB肺癌の承認審査が遅延 
  • FDA諮問委員会、シャイアの5HT4受容体作動剤の承認を支持 
  • FDA諮問委員会、元々はノバルティスの5HT4受容体部分作動剤の承認を支持 
  • CHMPがシャイアの新薬などに肯定的意見 
  • FDA、ファイザーのPARP阻害剤を承認 
  • リジェネロン、デュピクセントが喘息症に適応拡大 


【新薬開発】


ESMO:テセントリク、トリプルネガティブ乳癌の第三相成功
(2018年10月20日発表)

ロシュは7月にTecentriq(atezolizumab、テセントリク)の第三相トリプルネガティブ乳癌試験の成功を発表した。PD-1/PD-L1阻害剤は様々な腫瘍に有効だがトリプルネガティブ乳癌にPFS(無進行生存期間)延長効果を示したのは初めて。今回、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で具体的な内容が公表された。

このIMpassion130試験は、エストロゲン受容体とプロゲスチン受容体、her2の全てが陰性の切除不能局所進行性/転移性乳癌の初治療として、nab-paclitaxelと偽薬またはTecentriqを併用して、治験医判定によるPFSと全生存期間を比較したもの。結果は、PFS中央値がITTベースで各5.5ヶ月と7.2ヶ月となり、ハザードレシオ0.80、95%CI0.69-0.92、PD-L1陽性のサブグループ分析では各5.0ヶ月、7.5ヶ月、0.62、0.49-0.78となった。

全生存解析はまだ中間解析段階で有意差は出ていない。ITTベースでは各17.6ヶ月、21.3ヶ月、0.84、0.69-1.02。PD-L1陽性のみの解析では15.5ヶ月、25.0ヶ月、0.62、0.45-0.86となっている。

深刻な有害事象の発生率は18%対23%で増加した。

ロシュは適応拡大申請の予定。

リンク: ロシュのプレスリリース

ESMO:ノバルティスのPI3K阻害剤の第三相成功
(2018年10月20日発表)

ESMOでは、ノバルティスのアルファ特定的PI3K阻害剤、BYL719(alpelisib)の第三相試験のデータも発表された。ホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌を組入れた試験で8月に成功発表されている。

アロマターゼ阻害剤による治療歴(CDK4/6阻害剤併用の有無を問わない)を持つ患者を、fulvestrantとBYL719(300mgを一日一回、経口投与)を併用する群と偽薬を併用する群に無作為化割付して、PFSを比較したところ、主解析対象であるPIK3CA変異コフォートでメジアン11.0ヶ月と偽薬併用群の5.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65、95%CIは0.50-0.85だった。主な有害事象は高血糖、ラッシュ、下痢など。有害事象による治験離脱は5%対1%で若干増加した。

PI3Kは代表的な腫瘍関連蛋白で様々な阻害薬が開発されたが、成果は芳しくなく、最近もロシュがRG7604/GDC-0032(taselisib)を第三相試験の成功後に開発中止している。データを見比べると、BYL719はハザードレシオがRG7604より良いこともさるながら、それ以上に、有害事象治験離脱が少ないことが目立つ(RG7604は17%)。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ESMO:PARP阻害剤はBRCA変異前立腺癌にも有効
(2018年10月19日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、Rubraca(rucaparib)の第二相転移性前立腺癌試験の結果をESMOで発表した。16年にBRCA1/2変異を持つ卵巣癌に承認されたポリ(ADP-リボーゼ)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤だが、BRCA変異のある前立腺癌にも有効である可能性が示された。

この試験は、生殖細胞系または体細胞系BRCA1/2変異などの遺伝子署名を持つ転移性去勢抵抗性前立腺癌で抗アンドロゲンとタクサン系の治療歴を持つ患者を組入れた単群試験。中間解析でcORR(確認客観的奏効率)が25例中44%、cPSA(確認前立腺特異抗原)反応率が45例中51%だった。この試験に基づき、FDAからブレークスルー・セラピー指定された。

BRCAとPARPは、遺伝子複製時の複製ミスを修復する二つの異なったメカニズムに夫々関わっている。BRCA1/2悪性変異があると修復されず癌化リスクが上昇する。癌化細胞は複製転写が活発でその分新たな変異が起きやすいので、PARPを阻害することで正常な(?)複製転写を妨げることができる。

卵巣癌のうちBRCA1/2変異を持つのは、生殖細胞系変異で約18%、体細胞系は約7%とされる。今回の試験では、循環腫瘍DNA検査で12%が該当した。腫瘍標本に基づく判定と比較したところ、74%の症例で一致したとのことだ。

Rubracaは世界で最初に臨床入りしたPARP阻害剤で、11年にファイザーからライセンスしたもの。

リンク: Clovisのプレスリリース

ESMO:METエクソン14スキップ変異肺癌にMET阻害剤が有効
(2018年10月19日発表)

ノバルティスは、ESMOでINC280(capmatinib)のMETエクソン14スキップ変異末期非小細胞性肺癌の第二相試験の結果を発表した。独立放射線学的委員会が盲検で査読したORRが治療未経験者で72.0%、経験者で39.1%と良好。G3/4の有害事象発生率は33.1%だった。

第二相なのにわざわざ盲検査読を行ったところを見ると、このデータに基づいて承認申請する意図なのではないだろうか。非小細胞性肺癌のうち当該変異を持つのは3-4%とのこと。

INC280は2009年にインサイト(Nasdaq:INCY)から導入したc-MET受容体チロシンキナーゼ阻害剤。同時に導入したJAK阻害剤は11年にJakafi(ruxolitinib)として承認されており、両方承認されたら、大変な成功率だ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ECTRIMS:中外、新規抗IL-6受容体抗体の第三相視神経脊髄炎試験が成功
(2018年10月15日発表)

中外製薬は、SA237(satralizumab)のSAKURASky試験の結果をECTRIMS(欧州多発性硬化症学会)で発表した。抗AQP4抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)または視神経脊髄炎の83例をSA237群(120mgを最初の3回は2週毎、その後は4週毎に皮注)と偽薬群に無作為化割付して再発までの期間を比較したところ、ハザードレシオ0.38、p=0.0184、48週無再発率は各群88.9%と66.0%だった。深刻有害事象は各群大差なく、死亡やアナフィラキシー例はなかった。

SA237はリサイクリング抗体技術を適用してActemra(tocilizumab)が結合離散を繰り返すように改良、作用を長期化したもの。日韓台湾以外ではロシュがRG616として開発している。

リンク: 中外のプレスリリース

ロシュ、カドサイラのアジュバント試験が成功
(2018年10月15日発表)

ロシュは、Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)の第三相KATHERINE試験が成功したと発表した。her2陽性早期乳癌でネオアジュバント治療によっても病理学的完全反応を達成できなかった患者を組入れて、浸潤性腫瘍の再発リスクをHerceptin(trastuzumab)と比較したところ、有意に低かった。データはサン・アントニオ乳癌シンポジウムで発表する考え。

KadcylaはHerceptinの抗her2抗体に細胞毒を繋げたものなので、Herceptinを上回ったのは順当な結果だ。第一三共のDS-8201など類薬が複数、開発段階にあるので、迎え撃つために積極的に適応拡大を行う必要がある。

リンク: ロシュのプレスリリース

キイトルーダ、レンビマではなくインライタ併用試験が成功
(2018年10月18日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の第三相KEYNOTE-426試験が成功したと発表した。末期/転移腎細胞腫の一次治療としてKeytruda(200mg 3週毎点滴静注)とInlyta(axitinib、5mg一日二回経口投与)を併用してSutent(sunitinib)単剤と全生存期間や無進行生存期間を比較したところ、中間解析で両方成功した。

MSDといえばエーザイのLenvima(lenvatinib)やアストラゼネカのLynparza(olaparib)の共同開発販売権を大金を払って取得している。ファイザーのInlytaでなく同じVEGFR阻害剤のLenvimaと併用したほうが収益にプラスなはずだが、この試験を開始した当時はまだ提携話が煮詰まっていなかったのかもしれない。

リンク: MSDのプレスリリース

アイガー、ベスタチンのリポジショニングを断念
(2018年10月16日発表)

アイガー・バイオファーマシューティカル(Nasdaq:EIGR)は、ubenimexの第二相下肢リンパ浮腫試験がフェールしたと発表した。開発は中止し、研究者主導試験の支援だけに留める。

ubenimexは日本化薬がベスタチンとして四半期以上前に発売した成人性急性非リンパ性白血病用薬の活性成分。アイガーは15年にロイコトリエンB4加水分解酵素が関与する疾患における欧米などの開発販売権を取得、肺動脈高血圧症などのPOC試験を実施したが成功しなかった。

リンク: アイガーのプレスリリース


【承認申請】


ノバルティス、SMAの遺伝子療法を承認申請
(2018年10月18日発表)

ノバルティスは、脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子療法薬、AVXS-101を日米欧で承認申請したことを18年第3四半期決算発表と合わせて明らかにした。5月に87億ドルを投じて買収したAveXis(Nasdaq:AVXS)がNationwide Children's Hospitalのライセンスで開発したもので、SMN遺伝子の二重連鎖DNAと連続的プロモータをrAAV9カプシドシェル・ベクターで導入する。

リンク: ノバルティスの決算発表プレスリリース

アッヴィ、ImbruvicaをCLL一次治療に適応拡大申請
(2018年10月17日発表)

アッヴィは、Imbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病の一次治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受ける。iLLUMINATE試験に基づくもので、ロシュのGazyva(obinutuzumab)との併用をGazyvaとchlorambucilの併用と比較したところ、PFS(無進行生存期間、独立委員会が査読)が有意に上回った。

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ノバルティス、イラリスの心血管適応はペンディングに
(2018年10月18日発表)

ノバルティスは、抗IL-1ベータ抗体のIlaris(canakinumab、和名イラリス)を心筋梗塞歴を持つ高感度CRP値が高い患者の二次予防薬としてFDAに承認申請したが、審査完了に終わったことを決算発表リリースで明らかにした。原因は不明。第三相のCANTOS試験が成功したが、p値はそれほど低くなく、治療効果が十分かどうかも意見が分かれるかもしれない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

オプジーボ、高TMB肺癌の承認審査が遅延
(2018年10月19日発表)

BMSは、高TMB(腫瘍変異負荷)転移性非小細胞性肺癌の一次治療にOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用する適応拡大を欧米で承認申請しているが、審査が遅れることを明らかにした。

発端は、低TMBサブグループの全生存期間解析結果を追加提出したことのようだ。高TMBサブグループはメジアン23ヶ月と化学療法群の16.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.77だったが、95%信頼区間は0.56-1.06で有意ではなかった。一方、低TMBサブグループは各16.2ヶ月、12.4ヶ月、0.78、0.61-1.00となっており、データ上は、TMBの多寡で区別しなければならないようには感じられない。

リンク: BMSのプレスリリース

FDA諮問委員会、シャイアの5HT4受容体作動剤の承認を支持
(2018年10月18日発表)

FDA胃腸薬諮問委員会は、シャイアが慢性特発性便秘治療薬として承認申請したResolor(prucalopride)を検討し、10人の委員全員が承認を支持した。審査期限は12月21日。

ジョンソン・エンド・ジョンソンから欧州の権利を取得したMovetis社を2010年に4.2億ユーロで買収して取得した5HT4受容体作動剤で、欧州では09年に承認されたが、米国はFDAが癌原性懸念から治験停止を命じ、開発が遅れていた。

癌原性懸念は解消した模様。心血管疾患リスクについては、シャイアが英国などでの市販後監視データを分析、既存の治療法と比べてリスクが高まらないことを明らかにした。

リンク: シャイアのプレスリリース

FDA諮問委員会、Sloanの5HT4受容体部分作動剤の承認を支持
(2018年10月17日発表)

FDA胃腸薬諮問委員会は、Sloan PharmaがIBS-C治療薬として再発売承認申請したZelnorm/Zelmac(tegaserod)を検討、12人の委員のうち11人が承認を支持した。元々はノバルティスが開発し米国では2002年に承認を取得したが、鬱病や心血管イベントの懸念から、07年に一部の国を除いて販売中止。その後、15年にUS WorldMedsの子会社であるSloan Pharmaが治験許可を継承、18年に再発売に向けて再承認申請したもの。

諮問委員会は低心血管疾患リスクの女性に用いるべきと判断。重度症候性患者に限定すべきという意見もあったが、実効性に対する疑念などから、少数意見に留まった。

CHMPがシャイアの新薬などに肯定的意見
(2018年10月19日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、10月の会合で、シャイアの遺伝性血管浮腫治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

肯定的意見を受けたのは、まず、シャイアのTakhzyro(lanadelumab-flyo)は血漿カリクレインに結合する完全ヒト化抗体。遺伝性血管浮腫で発作を防ぐためルーチン予防が必要な患者に用いる。2週間または4週間に一回の皮注と、競合薬と比べて投与の手間や頻度が小さい。

15年にヒト抗体をバクテリオファージに作らせるファージディスプレイ技術を持つDyaxを59億ドルと達成報奨金6.4億ドル相当で買収して入手したコンパウンド。米国では今年8月に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: シャイアのプレスリリース

サノフィのDengvaxiaはデングウイルスの4価ワクチン(弱毒化、生)。デングは初回感染は軽いが二回目は重くなると言われている。Dengvaxiaは未感染者が摂取するといざ感染した時に深刻な状態になるリスクがあることが判明。公費で接種キャンペーンを行ったフィリピンで大きな問題になった。

CHMPは、WHOと同様に、風土病地域に住む9-45歳の未感染者に絞って承認を支持した。抗体検査は手間暇がかかるので、未感染者であることを確認しない国や地域もあるかもしれないので、この限定の有効性は曖昧だ。尚、EU居住者のほとんどが対象外となる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

CSLベリングのOptaflu/Flucelvaxは犬の腎細胞で培養したインフルエンザワクチン。今回、鶏卵ベースのワクチンと同様な、A型とB型のインフルエンザウイルス各二種類を配合した4価ワクチンの承認が支持された。

アストラゼネカのBevespi Aerosphere(glycopyrronium、formoterol fumarate)は長期作用性ムスカリン拮抗剤と長期作用性ベータ2作用剤の固定用量合剤で、COPDの治療に用いる。13年にPearl Therapeuticsを5.6億ドル及び達成報奨金5.9億ドルで買収して入手した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Lupin Europe GmbHのNamuscla(mexiletine hydrochloride)は、非ジストロフィー性筋緊張障害(欧州で7500人の希少疾患)の初めての治療薬。活性成分は欧州で70年代に承認された抗不整脈薬。非ジストロフィー性筋緊張障害では筋細胞のNaイオンチャネルを阻害し、筋収縮を抑制、こわばりを緩和する。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)を黒色腫の完全切除後のアジュバント療法として単剤投与することが支持された。リンパ節に及ぶ患者が適応になる。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


FDA、ファイザーのPARP阻害剤を承認
(2018年10月16日発表)

FDAはファイザーのTalzenna(talazoparib)をBRCA変異陽性転移性乳癌に承認した。生殖細胞系または体細胞系BRCAに有害または有害と疑われる変異を持つ、her2陰性の局所進行性/転移性乳癌が適応になる。再発治療か否かは問わない。臨床試験ではPFSがメジアン8.6ヶ月と、対照群(capecitabineやeribulinなどから医師が選択)の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54、統計的に有意だった。

重要な有害事象はMDS(骨髄異形成症候群)やAML(急性骨髄性白血病)、骨髄抑制、胚胎児毒性など。

同じPARP阻害剤ではアストラゼネカのLynparza(olaparib)も類似した適応に承認されている。コンパニオンダイアグのスティックはどちらもMyriadのBRACAnalysis。WAC(卸向け販売価格)は月13886ドルの見込みで、これもLynparzaと同程度。

ファイザーが16年に買収したMedivationがその前年にバイオマリン社から資産取得したもの。ファイザー自身のPARP阻害剤は上記のようにClovis Oncologyが開発してRubraca(rucaparib)として販売しており、複雑だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Myriadのプレスリリース
リンク: バイオマリンのプレスリリース

リジェネロン、デュピクセントが喘息症に適応拡大
(2018年10月19日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)を喘息症の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。中重度の好酸球性または経口コルチコステロイド依存の12歳以上の患者が適応になる。200mgまたは300mgを二週毎に皮注する。日本や欧州でも審査中。

IL-4受容体のアルファサブユニットに結合するトランスジェニックマウス由来の完全ヒト化抗体で、アトピー性皮膚炎治療薬として欧米で17年に、日本でも18年1月に、承認された。慢性副鼻腔炎の適応拡大試験も成功、第三の適応症になりそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース







今週は以上です。

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2018年10月14日

2018年10月14日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ジレニア、遅ればせながらフェーズIVコミットメント終了 
  • オプジーボ、小細胞性肺癌二次治療試験がフェール 
  • JNJ、S-ケタミンを欧州でも承認申請 
  • ノバルティス、SPMS用薬の承認申請受理 
  • FDA諮問委員会、救急用合成オピオイドの承認を支持 
  • G蛋白偏向MORアゴニストは委員の評価が分かれた 
  • ADA-SCIDの酵素補充療法が米国で承認 
  • イグザレルト、CAD/PADに適応拡大 
  • イグザレルト、TAVR試験が途中で打ち切りに 


【新薬開発】


ジレニア、遅ればせながらフェーズIVコミットメント終了
(2018年10月10日発表)

ノバルティスは、再発寛解型多発硬化症治療薬Gilenya(fingolimod、和名はノバルティスがジレニア、田辺三菱はイムセラ)のASSESS試験のヘッドラインを発表した。承認用量である0.5mgを投与した群は年率再発率が0.153とCopaxone群の0.258を下回り、p=0.0138と有意な差があった。0.25mg群も数値上は下回ったが有意差はなかった。

ノバルティスはGilenyaが米国で2010年に承認された時にこの試験の結果を15年7月までに提出するコミットメントを行ったが、組入れが順調に進まず、3年遅れとなった。GilenyaもCopaxoneも標準療法なので、集客不振は半量投与群の設定がボトルネックとなったのだろう。

FDAが半量試験を求めたのは、不整脈や感染症などのリスクに鑑み、至適用量をもう一度検討させる意図と推測される。その意味では、今回の結果はノバルティスに都合の良いものであった。用量設定の妥当性と、競合薬に対する優位性が明確になり、FDAに対してもテバに対しても胸を張ることができそうだ。

本試験で用いられたCopaxoneの20mg製剤(一日一回皮注)は既にGE化したが、米国での需要は40mg製剤(週3回皮注)にシフトしている。40mgの効果が20mgより高い訳ではないので、今回の結果を40mg製剤に当てはめてもよいのではないか。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

オプジーボ、小細胞性肺癌二次治療試験がフェール
(2018年10月12日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)のCM-331試験の結果を発表した。小細胞性肺癌の二次治療における延命効果をtopotecan(承認されている地域ではamrubicinも可)と比較したが、優越性を確認できなかった。

Opdivoは8月に米国で小細胞性肺癌の三次治療に用いることが承認された。加速承認なので、19年7月までに延命効果が既存の薬より優れていることを示すエビデンスを提出する必要があり、ちょっと困ったことになった。BMSだけでなく、最近気前よく加速承認しているFDAも、規律を示すために強く出るべきか、気長に待つか、悩まざるを得ないだろう。

小細胞性肺癌ではロシュのTecentriq(atezolizumab)の三剤併用試験が成功、今後、承認・普及していくだろう。一次治療で抗PD-L1抗体を用いた患者に二次治療で抗PD-1抗体を用いる意味があるかどうか、不明なので、BMSなど他の会社は、改めて薬効確認試験をロンチするか、Tecentriqのレジメンが承認されていない国でTecentriqと同様な二剤併用対照試験を行うか、適応拡大を断念するか、開発方針を練り直す必要がありそうだ。

普通の薬なら非劣性試験でもよいはずだが、抗癌剤はあまり見ない。深刻な副作用リスクがあるので薬効が非劣性であるだけでは同等と言い難いことが理由かもしれない。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、S-ケタミンを欧州でも承認申請
(2018年10月10日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、JNJ54135419(esketamine)を抗鬱剤としてEUに承認申請したと発表した。麻酔薬ケタミンのS異性体で、NMDA受容体を非競合的、活性依存的に拮抗し、ドパミンの再取込を阻害する。一日二回、点鼻する。難治性患者向けとされ、EUでは、二種類の薬による治療歴を持つ患者の三次治療薬という位置付けのようだ。米国でも9月に承認申請。

リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

ノバルティス、SPMS用薬の承認申請受理
(2018年10月8日発表)

ノバルティスは、BAF312(siponimod)を二次進行型多発性硬化症(SPMS)の治療薬として欧米で承認申請し、受理されたと発表した。SPMSは再発寛解型が進行して寛解期が無くなった状態。BAF312は同社のGilenya(fingolimod)と同じスフィンゴシン1燐酸(S1P)受容体アゴニストだが、免疫細胞などで発現するS1P1や神経細胞などのサバイバルに関与するS1P5に選択的で、S1P3作用が小さいため血管や筋細胞に対する毒性が小さい可能性がある。

臨床試験ではEDSSに基づく障害進行ハザードレシオが偽薬比0.79と有意な差があった。深刻な有害事象は18%と偽薬群の15%より多く発生した。血球、肝臓、心臓など様々な疾患が増加した。

米国は、ウルトラジェニクスから1.3億ドルで買収した優先審査バウチャーを使い、審査期限は19年3月となった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、救急用合成オピオイドの承認を支持
(2018年10月12日発表)

FDAの麻酔鎮痛薬製品諮問委員会は、AcelRx Pharmaceuticals(Nasdaq:ACRX)が承認申請したDsuvia(sufentanil舌下錠)を検討し、13人の委員中10人が便益が危険を上回ると判定した。審査期限は11月3日。

Dsuviaは、高力価合成オピオイドであるsufentanilをディスポーザブル・プリフィルド・シングルドース・アプリケータに収めたもの。救急医療ではオピオイドを静注や硬膜外投与し、戦場では筋注することもあるようだ。Dsuviaは効果発現まで15分、1時間後にピークと通常の経口オピオイドより早いため、代替的な選択肢になりうる。米軍が開発資金を助成した。

EUでは今年6月にDzuveo名で承認された。

リンク: AcelRxのプレスリリース
リンク: 同社HPのDsuviaの解説(アプリケータの写真付き)

G蛋白偏向MORアゴニストは委員の評価が分かれた
(2018年10月11日発表)

同委員会は、Trevena(Nasdaq:TRVN)のTRV130(oliceridine)に関しては、賛成7人、反対8人と票が分かれた。静注オピオイドが必要な中重度疼痛の成人の治療薬として承認申請されたが、実薬対照試験が実施されておらず効果や安全性を比較できないことがボトルネックになった模様だ。米国ではオピオイド乱用が深刻な社会問題になっており、効果や安全性面で特に優れている薬でないかぎり冷淡に受け止められてしまうようだ。

TRV130はMOR(ミュー・オピオイド受容体)アゴニストで、MORの細胞内シグナル伝達経路のうちG蛋白をベータ・アレスチンより優先的に刺激するため、オピオイドにつきものの呼吸抑制や胃腸障害が起きにくいと考えられる。作用のオンセット・オフセットが早いという特徴もある。臨床試験でこれらの長所が確認されれば承認の道が開けるのではないか。

リンク: Tevenaのプレスリリース


【承認】


ADA-SCIDの酵素補充療法が米国で承認
(2018年10月5日発表)

FDAはLeadiant BiosciencesのRevcovi(elapegademase-lvlr)をADA-SCID(アデノシン・デアミナーゼ欠損による重症免疫不全症)の成人・小児の治療薬として承認した。

ADA-SCIDはアデノシン・デアミナーゼの遺伝子異常によりデオキシアデノシンがデオキシイノシンに変換されずに細胞内に蓄積。リンパ球が障害を受け重度の免疫不全を生じる。Leadiant社は酵素補充療法のAdagen(pegademase bovine)を販売しているが、Revcoviはウシ小腸由来ではなく遺伝子組換え品。

同社は希少疾患用薬のスペシャリストで、昨年2月にSigma-Tau Pharmaceuticalsから社名変更した。

リンク: Leadiantのプレスリリース

イグザレルト、CAD/PADに適応拡大
(2018年10月12日発表)

バイエルは、Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を慢性冠動脈疾患や末梢動脈疾患の再発予防に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。低量アスピリンと併用で、2.5
mgを一日二回服用する。COMPASS試験では、MACE(主要有害心血管イベント)のリスクがアスピリンだけの群より24%小さかった。主に心血管死と虚血性脳卒中が少なかった。大出血は増加した。

尚、この試験は抗血小板薬併用(Dual Antiplatelet Therapy)が必要な患者は除外しており、二剤併用同士の優劣は検討されていない。

リンク: バイエルのプレスリリース


【医薬品の安全性】


イグザレルト、TAVR試験が途中で打ち切りに
(2018年10月3日発表)

バイエルがXarelto(rivaroxaban)の未承認用途に関するヘルスケア・プロフェッショナル・レターを発出していたことが判明した。TAVR(経カテーテル的大動脈弁置換術)後の血栓性疾患予防効果をclopidogrelと比較したGALILEO試験で死亡率などに群間の偏りが生じたというもの。

この試験は10mgを一日一回投与して、全死亡や脳卒中、全身性塞栓、心筋梗塞、肺塞栓症、深静脈血栓症、症候性弁塞栓などをclopidogrel(75mg一日一回)と比較した。最初の90日間は両群ともアスピリン(75~100mgを一日一回)を併用した。Xarelto群は中間解析で全死亡(6.8%対3.3%)や血栓塞栓、出血などの発生率が高かったとのことである。

リンク: バイエルのDear Healthcare Professional Letter(アイルランドの医療用製品規制局のサイト、pdfファイル)





今週は以上です。

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