2017年12月24日

2017年12月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • タシグナのレーベルに止め時が記載 
  • エーザイ/バイオジェン、中間解析は何もなし 
  • セルジーン、レブラミドのリンパ腫試験がフェール 
  • 新種の分子標的抗癌剤が承認申請 
  • AlnylamもhATTRアミロイドーシス治療薬を欧州申請 
  • ノバルティス、braf阻害剤とMEK阻害剤を黒色腫アジュバント用に適応拡大申請 
  • 参天のブドウ膜炎治療薬は審査完了に 
  • FDAがSpark社の遺伝子療法を承認 
  • FDA、アンジオテンシンIIを承認 
  • 新作用機序の緑内障用薬が米国で承認 
  • またまたSGLT2阻害剤が承認 
  • オプジーボ、黒色腫切除後アジュバント療法に適応拡大 
  • パージェタ、高リスク限定で乳癌切除後アジュバントに適応拡大 
  • ボシュリフ、一次治療に適応拡大承認 
  • アレセンサ、欧州でも一次治療承認 
  • ICSにLABAを併用しても支障はない 


【今週の話題】


タシグナのレーベルに止め時が記載
(2017年12月22日発表)

医薬品は使い方によって毒にも薬にもなるので何時、どのような患者にどのように投与するか、使い方に関する情報が極めて重要だ。もう一つ、治癒する疾患以外は止め時も重要なはずだが、教えてくれる人はいない。製薬会社にとっては患者が服用し続けるほうが都合がよいからだろう。

患者が少なく大きな需要は期待できなくても価格を高くすれば開発費を回収できる。腫瘍学でこの命題を証明したのがノバルティスの慢性骨髄性白血病(CML)薬、Gleevec(imatinib、和名グリベック)だ。ノバルティスによると、当時のCEOで妹を白血病で失ったDaniel Vasellaが開発部門の反対を押し切って開発を進めた。発売当時は私も大きな期待はしていなかったが、米国でCMLによる死亡者が減少するなど大きな成果を上げ、年商も超大型化した。

問題は、高価な薬をいつまで飲み続けなければならないのか、分からないことだ。研究者主導で様々な研究が行われたが、遂に、ノバルティスがGleevecの次に発売したTasigna(nilotinib、和名タシグナ)で、止め方に関する情報が米国のレーベルに記載された。

慢性期CMLで3年間治療を続け、所定の成果を上げた患者は服用を止めることができる。但し、定期的に検査を受ける必要がある。臨床試験では、止めた患者の1年無再発率は5割前後だった。

答えが自分に都合が良かろうが悪かろうが、情報があること自体が重要だが、それはそれとして、半々となると悩ましい。再発リスクと金銭や副作用面の負担を天秤にかけて当否を判断することになるのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

【新薬開発】


エーザイ/バイオジェン、中間解析は何もなし
(2017年12月21日発表)

エーザイとバイオジェンは、BAN2401の後期第二相早期アルツハイマー病試験の中間解析が行われが成功認定基準は満たされなかったと発表した。最終解析結果は来年後半にまとまる見込み。アルツハイマー病試験は成功確率が低いので、失望的だが意外感は小さい。

BAN2401はプロトフィブリルを標的とするヒト化モノクローナル抗体。脳細胞に悪影響を与えるのはアミロイドベータモノマーではなく可溶性アミロイドベータプロトフィブリルだという研究成果に立脚する。スエーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス社からエーザイが開発販売権を取得。バイオジェンはエーザイと複数のアルツハイマー病パイプラインを共同開発している。

今回の試験は、アルツハイマー性軽度認知障害または軽度アルツハイマー病の患者856人をBAN2401の5種類の用量用法に割付けて症状改善効果を検討するもの。アダプティブ・デザインが採用されており、途中で成績をチェックして良い群の割付けを増やしていく。二重盲検を維持しなければならないので、評価・割付けはスポンサーや医療従事者には知らせないはずである。

中間解析はADCOMSという新しい評価スケールを用いてベイジアン解析を行った。ADCOMSは、アルツハイマー病の代表的な病状評価スケールであるADAS-cog、CDR-SB、MMSEの構成項目の中から、感受性の高いものを過去の治験データに基づいて発掘し組み合わせたもの。後ろ向き研究なので、今回の前向き試験で仮説の妥当性を検証することになるだろう。アダプティブ・デザインやADCOMSの採用で、臨床試験に必要な症例数や期間を2~3割削減する狙いがあるようだ。

ベイジアン解析は、AとBを単純に比較するのではなく、違いが一定以上であるという仮説を検証する。通常の解析は、治療効果が小さくてもサンプル数を多くすれば統計的に有意という結論を導くことができる。治験論文の読者は、統計的には有意だが臨床的には無意と呟くことしかできない。ベイジアン解析なら、臨床的に意味のあるハードルを設定することができる。今回の試験では12ヶ月間のADCOMSの悪化が偽薬比25%以上小さいという仮説が真であるベイズ確率が80%以上なら成功、とされた。

最終解析はADCOMSやCDR-SBなどの18ヶ月間の変化を評価する。

アミロイド仮説に基づくコンパウンドの臨床試験は、ほとんど壊滅状態と言って良い状態だ。物事が上手く行かない時は勝負する戦域以外ではリスクを取らないのが賢明だ。局面を複雑にすると失敗した時に敗因が明確にならないからだ。今回の試験も、オーソドックスなデザインを採用すべきではなかったか、というのが私の感想だ。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: 201試験の治験登録
リンク: ADCOMSに関する論文(Wangら、J Neurol Neurosurg Psychiatry、オープンアクセス)

セルジーン、レブラミドのリンパ腫試験がフェール
(2017年12月21日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)を濾胞性リンパ腫の一次治療併用療法に用いる第三相試験、RELEVANCEがフェールしたことが発表された。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の維持療法試験もフェールしており、どうも芳しくない。偽薬対照試験も行われているので結果が注目される。

今回の試験は、Rituxan(rituximab)と併用する効果をR-CHOPなどの標準療法と比較したもの。共同主評価項目である寛解率(CR/CRu)も進行抑制延命効果(PFS)もフェールした。但し、少なくとも、標準療法より有意に劣ってはいなかった。

Revlimidはサリドマイドと同様にIMiDs(免疫調停薬)と呼ばれる抗癌剤で、多発骨髄腫や骨髄異形成症候群、マントル細胞リンパ腫に承認されている。

リンク: セルジーンのプレスリリース

【承認申請】


新種の分子標的抗癌剤が承認申請
(2017年12月20日発表)

Loxo Oncology(Nasdaq:LOXO)は、米国でLOXO-101(larotrectinib)のローリング承認申請を開始した。ニューロンの制御などに係るTRK(tropomyosin receptor kinase)を阻害する経口剤で、適応は、レガンドの刺激なしで活性化するNTRK融合蛋白陽性の成人・小児がん。米国の癌の0.5~1%、1500~5000人が該当するとのことだ。

発生部位は特定されていないが、臨床試験では唾液腺癌、幼児線維肉腫、甲状腺腫、結腸癌、肺癌、黒色腫、紡錘細胞肉腫、胆管癌、筋周皮腫などの患者が比較的多かった。NTRK融合蛋白陽性率が比較的高いのは唾液腺癌や分泌乳癌。

臨床試験ではORR(客観的反応率)が76%、うち完全反応12%、部分反応64%だった。小児試験ではORRが93%。有害事象は神経認知性副作用や好中球減少症、悪心、肝機能検査値異常など。

Loxoは先月、バイエルとの提携を発表した。頭金4億ドル、承認に係る達成報奨金が6.5億ドル、米国外の売上高に係る達成報奨金が5億ドル、開発費は折半という大きなもので、バイエルは米国で共同販促、海外は単独販売する。

リンク: Loxoのプレスリリース

AlnylamもhATTRアミロイドーシス治療薬を欧州申請
(2017年12月18日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)とサノフィ子会社であるジェンザイムは、ALN-TTR02(patisiran)を遺伝性トランスサイレチン調停アミロイドーシス(hATTR)の治療薬として欧州で承認申請したと発表した。加速審査を受けることが既に決まっている。米国でも今月、ローリング承認申請が完了。日本でもジェンザイムが申請準備中。

hATTRはトランスサイレチンの遺伝子に変異があり組織に沈着して神経細胞などにダメージを与える。罹患者は世界に5万人と推測されている。ALN-TTR02はトランスサイレチン遺伝子のmRNAを標的とするsiRNA(RNA介入)薬で、発現を妨げる。第三相試験では神経症状評価スコアやQOLが改善し、偽薬群の悪化と対称的な結果になった。

リンク: 両社のプレスリリース

ノバルティス、braf阻害剤とMEK阻害剤を黒色腫アジュバント用に適応拡大申請
(2017年12月22日発表)

ノバルティスは、Tafinlar(dabrafenib)とMekinist(trametinib)の二剤を併用で黒色腫の切除後アジュバント療法に用いる適応拡大を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は公表されていない。

夫々braf阻害剤とMEK1/2阻害剤で、転移性黒色腫などに併用することが承認されている。適応拡大の根拠となる第三相試験では、BRAF V600変異を持つステージIIIの黒色腫を完全切除した患者を組入れて再発予防効果を検討したところ、再発または死亡のハザードレシオが0.47と偽薬群より有意にリスクを削減した。全生存期間のハザードレシオも0.57、p=0.0006と、アルファの配布が小さく有意水準には達しなかったものの、数値的には良好な結果になった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


参天のブドウ膜炎治療薬は審査完了に
(2017年12月21日発表)

参天製薬はDE-109(sirolimus)を非感染性後眼部ブドウ膜炎治療薬として欧米で承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。有効性の裏付けが不十分と判定された模様だ。欧州も昨年5月に否定的評価を受け、申請撤回となった。当時のCHMPのリリースによると、単群試験で示された薬効が不明確であり、また、生産工程における減菌方法に懸念がある。

リンク: 参天のプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


FDAがSpark社の遺伝子療法を承認
(2017年12月19日発表)

FDAは、Spark Therapeutics(Nasdaq:ONCE)のLuxturna(voretigene neparvovec-rzyl)を両アレル性のRPE65変異関連網膜ジストロフィーの治療薬として承認した。患者に直接投与する遺伝子療法としては初。米国の一部の医療施設で来年、治療が開始される予定。欧州でも承認審査中。難病で治療やケアの費用が嵩むことから、100万ドルと著しく高い価格が付けられる見込み。

両アレルRPE65変異関連網膜ジストロフィーは、光を電気信号に変える過程に係るRPE65蛋白に変異があり、視力が弱い。米国の推定患者数は1000~2000人。Luxturnaは増殖能を持たないアデノ随伴ウイルスにRPE65の遺伝子を組入れた遺伝子療法で、1.5x10の11乗vg(ベクターゲノム)を片目ずつ、網膜下注射する。

臨床試験では、暗い部屋で矢印などに従って歩行する能力が偽薬比有意に改善した。評価方法が新しく治療効果は1.6点程度であったため諮問委員会が招集されたが、委員は臨床的に重要な差と判定した。

Sparkは希少小児疾患優先審査バウチャーを獲得する。患者が少ないため大きな売上を見込み難い希少小児疾患用薬の開発を促進するための制度で、次回承認申請する時に優先審査を受けることができる。転売も可能で、3.5億ドルの値が付いたこともあるが、最近は1.3億ドル程度が相場のように見える。

同社はフィラデルフィア小児病院(CHOP)の遺伝子治療研究を商業化するため2013年に設立された会社。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Sparkのプレスリリース

FDA、アンジオテンシンIIを承認
(2017年12月21日発表)

FDAは、La Jolla Pharmaceutical Company(Nasdaq:LJPC)のGiapreza(angiotensin II)を敗血症などの血液分布異常性ショックの治療薬として承認した。エピネフィリンやカテコラミンに十分に反応しない患者の三次治療に用いる。

La Jollaによると、米国では血液分布異常性ショックが年80万件発生し、うち30万件が三次治療の対象になるとのこと。審査期限が来年2月末であったためか、発売は来年3月の予定。

La Jollaは2000年代に全身性エリテマトーデス腎症用薬の開発がフェールし、会社清算に向けて株主総会を招集したり、逆合併を画策したりしたこともあったが、何とか立ち直ることが出来そうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: La Jollaのプレスリリース

新作用機序の緑内障用薬が米国で承認
(2017年12月18日発表)

Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)は、FDAがRhopressa(netarsdil mesylate)を緑内障治療薬として承認したと発表した。点眼用Rhoキナーゼ阻害剤で、小柱網による眼房水排出を促進する。臨床試験では一日二回投与もテストしたが忍容性があまり良くなかったため一日一回だけが実用化された。眼圧が26mmHg以上の患者は、代表的な緑内障降圧剤であるtimololを一日二回投与するのと比べて効果が不十分になる。

latanoprost配合剤のRoclatanも開発中で米国では18年に承認申請する計画。

リンク: Aerieのプレスリリース

またまたSGLT2阻害剤が承認
(2017年12月22日発表)

MSDとファイザーは、FDAがSteglatro(ertugliflozin)を二型糖尿病治療薬として承認したと発表した。SGLT2阻害剤で血液中のグルコースを尿とともに排出させる。metformin配合剤やMSDのDPP4阻害剤であるsitagliptin配合剤も同時に承認された。

同じ作用機序の製品が既に数多く存在し今更の感があるが、MSDはsitagliptinの販売チャネルを生かせる強みがある。SGLT2阻害剤とDPP4阻害剤の合剤は米国で初。元々はファイザーのパイプラインだが、MSDが利益の6割を得る形で開発販売提携(日本は除く)を結んだ。

リンク: MSDのプレスリリース

オプジーボ、黒色腫切除後アジュバント療法に適応拡大
(2017年12月20日発表)

BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を黒色腫完全切除後のアジュバント(再発予防)に用いる適応拡大が米国で承認された。リンパ節転移が適応になる。238試験のエビデンスに基づくもので、18ヶ月後のRFS(無再発生存率)が66.4%と、既承認薬であるYervoy(ipilimumab)の52.7%を有意に上回リ、ハザードレシオは0.65(95%信頼区間0.53-0.80)だった。

リンク: BMSのプレスリリース

パージェタ、高リスク限定で乳癌切除後アジュバントに適応拡大
(2017年12月21日発表)

ロシュは、FDAがPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)をher2陽性早期乳癌の切除後アジュバント療法として化学療法やHerceptin(trastuzumab)と併用する適応拡大を承認したと発表した。リンパ節転移やホルモン受容体陰性などの高リスク患者が適応になる。

エビデンスであるAPHINITY試験では、侵襲的乳癌再発・死亡のハザードレシオが0.81(95%信頼区間0.66-1.00)、p=0.045とギリギリ有意だった。3年無再発生存率は94.1%対93.2%と1ポイント改善するだけで物足りない。サブグループ分析ではリンパ節転移ありのハザードレシオが0.77、なしは1.13、ホルモン受容体陰性は0.76、陽性は0.86だったため、高リスク患者限定となった。

リンク: ロシュのプレスリリース

ボシュリフ、一次治療に適応拡大
(2017年12月19日発表)

ファイザーは、Bosulif(bosutinib、和名ボシュリフ)を慢性骨髄性白血病の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。臨床試験で12ヶ月時点のMMR(分子遺伝学的大寛解)達成率が47.2%と、同じsrc/abl阻害剤で一次治療薬として承認されているimatinibの36.9%を有意に上回った。再発治療は500mgを一日一回、経口投与するが、一次治療は400mg一日一回。

Bosulifはファイザーが買収したワイスの開発品。一次治療適応拡大は臨床試験の資金拠出や実施も含めてAvillion社にアウトソースしており、承認に伴い達成報奨金を支払う。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アレセンサ、欧州でも一次治療承認
(2017年12月21日発表)

ロシュは、Alecensa(alectinib、和名アレセンサ)をALK陽性局所進行性・転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。中外製薬が創製したALK阻害剤で、ファースト・イン・クラスであるファイザーのXalkori(crizotinib)の次に使う薬としてデビューしたが、日本で実施された一次治療直接比較試験が成功、今回の承認につながった。米国では11月に適応拡大承認。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


ICSにLABAを併用しても支障はない
(2017年12月20日発表)

FDAは、喘息症の代表的な発作予防法である吸入ステロイド(ICS)と長期作用性ベータ2作用剤(LABA)の併用療法に関して、喘息関連死リスクに関する枠付き警告を解除すると発表した。ICSだけより発作予防効果が高いものの、いざ発生したら症状が重く死亡リスクも高まるのではないかという懸念があったが、メーカーが実施した大規模試験により、懸念が払拭された。

具体的には、4本の試験合計35000人規模のメタアナリシスで、深刻な喘息関連イベント(死亡、気管挿管、入院)の発生数が併用群は116例、ICS単剤群は105例、ハザードレシオ1.10(95%信頼区間0.85-1.44)で、数値上は上回りリスクが1.43倍である可能性は否定されていないものの、有意に上回ってはいなかった。個々のイベントでは、入院が115例対105例、死亡が2例対ゼロ、気管挿管が1例対2例だった。

ICS/LABA併用が喘息のステップアップセラピーの一つとして普及する中、あたかも都市伝説であるかのように忘れ去られつつあった長年の懸案事項が解決した。いつものことながら、FDAの粘り強さには敬服する。

リンク: FDAの安全性情報







今週は以上です。

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