2017年11月26日

2017年11月26日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、Tecentriqの肺炎試験成功 
  • ロシュ、Hemlibraの血友病試験成功 
  • サイトキネティックス、ALSの第三相はフェール 
  • バイエル、吸入用抗生物質の第三相がフェール 
  • Acorda、A2A受容体阻害剤の開発を中止 
  • JNJ、ダラザレックスの適応拡大を申請 
  • HIV/AIDSの二剤合剤が承認 
  • JNJ、抗IL-23抗体がEUで承認 


【新薬開発】


ロシュ、Tecentriqの肺炎試験成功
(2017年11月20日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab)の第三相肺癌試験、IMpower150のPFS(無進行生存期間)解析が成功したと発表した。データは未公表。欧米の承認審査機関に結果を提出する予定。

TecentriqはPD-L1を標的とするヒト化抗体で、定常領域の最適化も行われている。16年に米国で転移性尿路上皮癌の一次治療、そして非小細胞性肺癌の二次治療に承認された。日本でも後者の適応で薬食審医薬品第二部会を通過したところ。

IMpower150試験は、末期非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療を受ける1202人を組入れて、carboplatin、paclitaxel、Avastin(bevacizumab)の三剤併用レジメンと更にTecentriqも使う四剤併用のPFSと全生存期間を検討したもの。全ユニバースの解析と、Teffと呼ばれる遺伝子署名を持つサブグループの解析の両方が成功した。

共同主評価項目である全生存期間の解析は未成熟だが数値は好ましいものである模様。次の解析は18年上期に行われる。

この試験では、carboplatin、paclitaxel、Tecentriqの三剤を用いる群も設定されたが、アルファが配分されていない模様で、検出力なしとのこと。

それでも、一群400例程度なので治験の規模としては十分。全生存の次回解析が有意でなくても良い方向に向かっているようならば、米国だけでなく欧州でも承認される可能性があるのではないか。

扁平上皮非小細胞性肺癌を対象とした第三相試験は別途進行中。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、Hemlibraの血友病試験成功
(2017年11月20日発表)

ロシュは、Hemlibra(emicizumab-kxwh)の第三相試験成功を発表した。7月に日本で、11月には米国でも承認された抗第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体で、現在の適応はA型血友病で遺伝子組換え型第VIII因子に反応しないインヒビター(抗第VIII因子抗体)保有患者だが、今回のHAVEN 3試験はインヒビターを持たない12歳以上の患者における出血予防効果をルーチン予防を行わない群と比較したもの。適応拡大申請に向かうだろう。

承認されている用量用法は最初の4回は3mg/kg、その後の維持用量は1.5mg/kgを週一回皮注だが、今回は維持用量が3mg/kgを二週間に一回投与する群も設定された。出血リスクが高いのに何もしない群が相手なので当然と言えば当然だが、両用量とも出血頻度が有意に減少した。

第VIII因子によるルーチン予防を前から施行していた患者は維持用量1.5mg/kgを週一回の第4の群に割付けられたが、第VIII因子を使っていた頃より出血頻度が減少した。直接比較試験ではないので第VIII因子より予防効果が高いかどうかは分からない。

インヒビターを持たない患者は遺伝子組換え型第VIII因子という予防手段が既に存在するので、インヒビターを持つ患者よりも普及のハードルが高そうだ。もし直接比較試験で効果や忍容性が優れているようなら、追い風になるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

サイトキネティックス、ALSの第三相はフェール
(2017年11月21日発表)

サイトキネティックス(Nasdaq:CYTK)は、CK-2017357(tirasemtiv)の第三相ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験がフェールしたと発表した。主評価項目である24週肺活量(SVC)だけでなく、二次的評価項目も全てフェールした。中高用量群に割付けられた、よく忍容して減量しなかった患者は偽薬との差が最も大きかったが、それでも有意水準には達していないとのことなので、判断が難しい。

CK-2017357は速筋トロポニン活性化剤。同社は第二世代品のCK-2127107の第二相試験を行っており、今後はこちらにスイッチすることになりそうだ。CK-2017357より忍容性が良いとのことなので、ドロップアウトや減量による治療効果の希薄化が小さいかもしれない。

同社はアステラス製薬と速筋トロポニン活性化剤の研究開発提携を結んでおり、CK-2127107の共同開発販売権とCK-2017357のライセンスオプションを供与している。

リンク: サイトキネティックスのプレスリリース

バイエル、吸入用抗生物質の第三相がフェール
(2017年11月24日発表)

バイエルは、Amikacin Inhale(amikacin吸入用エアロゾル液)の第三相グラム陰性ベンチレータ関連肺炎試験がフェールしたと発表した。アミノグリコシド系抗生物質の肺分布をネクター社(Nasdaq:NKTR)のPDDS技術で大きく改善した薬剤だが、30日生存率は標準療法と偽薬の群と大差なかった。

リンク: バイエルのプレスリリース

Acorda、A2A受容体阻害剤の開発を中止
(2017年11月20日発表)

NY州の医薬品開発会社、Acorda Therapeutics(Nasdaq:ACOR)は、SYN115(tozadenant)の開発中止を決めた。パーキンソン病で第三相段階だったが、無顆粒球症や敗血症による死亡が複数発生。当初は、血球計算の頻度を週一回に増やすことで対処しようとしたが、ワークしなかった。

SYN115は選択的アデノシンA2A受容体阻害剤。16年にフィンランドのBiotie社を3.6億ドルで買収して入手した。15年に進行パーキンソン病患者のオフタイム削減効果を検討する第三相試験を開始したが、後期第二相とあわせて累計300人年の投与実績に対して敗血症が7例発生、5人が死亡した。7例中4例では無顆粒球症が見られた。

作用機序との関連は明確ではない。A2A受容体拮抗剤はMSDやVernalisも開発していたことがあったが、無顆粒球症リスクは見られなかったようだ。開発に成功したのは協和発酵キリンがノウリアスト(イストラデフィリン)をパーキンソン病治療薬として日本で販売しているだけなので、そのデータも検討する必要があるのではないか。

リンク: Acordaのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、ダラザレックスの適応拡大を申請
(2017年11月21日発表)

ジョンソンエンドジョンソンは、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)を多発骨髄腫の一次治療に用いる適応拡大を欧米で承認申請した。

ジェンマブからライセンスした抗CD38完全ヒト化抗体で、15年に米国で多発骨髄腫の四次治療薬として承認された。日本でも今月、薬価収載。

一次治療のエビデンスはALCYONE試験。自家造血幹細胞移植に適さない多発骨髄腫のフロントライン治療として、JNJ/武田薬品のVelcade(carfilzomib)とmelphalan、prednisoneを併用するVMPレジメンと更にDarzalexも併用する群のPFS(無進行生存期間)を比較したもので、中間解析でハザードレシオ0.50、95%信頼区間0.38-0.65となり成功認定された。

リンク: JNJのプレスリリース(米国申請)
リンク: JNJのプレスリリース(EU申請)


【承認】


HIV/AIDSの二剤合剤が承認
(2017年11月21日発表)

ジョンソンエンドジョンソンは、FDAがJulucaをHIV/AIDSの維持療法として承認したことを発表した。欧州でも承認審査中。

塩野義製薬が創製し欧米ではViiVヘルスケア(GSK、塩野義、ファイザーのHIV/AIDS合弁)が販売するインテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤、Tivicay(dolutegravir)と、ジョンソンエンドジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine)の活性成分の合剤で、標準的な3~4剤併用療法を受けてウイルス抑制に成功した患者が適応になる。二剤合剤で他の薬を併用しなくても良いレジメンは初。

リンク: JNJのプレスリリース

JNJ、抗IL-23抗体がEUで承認
(2017年11月23日発表)

ジョンソンエンドジョンソンは、Tremfya(guselkumab)がEUで中重度乾癬治療薬として承認されたと発表した。IL-23のp19サブユニットに結合する完全ヒト化抗体で、臨床試験では奏効率がTNF阻害剤のHumira(adalimumab)より有意に高かった。米国は7月に承認。日本でも4月に承認申請された。

リンク: JNJのプレスリリース






今週は以上です。

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2017年11月19日

2017年11月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アルナイラム、hATTR治療薬を承認申請 
  • 大塚、米国でトルバプタンの適応拡大に再挑戦 
  • ムコ多糖症VII型の治療薬が米国で承認 
  • 日本発の抗体医薬が再び承認 
  • ポテリジェント抗体が米国で承認 
  • スーテント、腎癌アジュバント療法が承認 
  • センサー付き医薬品が承認 
  • FDA、フェブリクの心臓疾患死リスクを通知 


【承認申請】


アルナイラム、hATTR治療薬を承認申請
(2017年11月16日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTR02(patisiran)のローリング承認申請を開始した。適応は遺伝性TTR調停アミロイドーシス(hATTR)の治療。同社初の承認申請で、RNA介入薬の承認申請も初。

臨床試験では、偽薬群は神経症状が悪化したがpatisiran群は若干改善した。深刻な有害事象は下痢、心不全、起立性低血圧、肺炎、心室ブロックなどで、下痢は試験薬関連有害事象とされた。死亡や有害事象による治験離脱の発生率は偽薬群より小さかった。

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)の子会社であるAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)も前後してIONIS-TTRRx(inotersen)を欧州で承認申請、米国でもまもなく申請予定だが、夫々の臨床試験のデータを見比べると、効果も忍容性もアルナイラムに軍配が上がりそうだ。

ローリング承認申請は米国の制度で、承認申請に必要な三種類の書類のうち完成したものから逐次提出して審査を開始してもらうもの。今回も、前臨床とCMC(化学、生産、管理)を提出。年内に臨床データを提出して申請を完了する予定。

欧州で年内に、日本やブラジルでは来年、開発販売権を持つサノフィのジェンザイム部門が承認申請する見込み。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

大塚、米国でトルバプタンの適応拡大に再挑戦
(2017年11月6日発表)

大塚製薬はバソプレシン2受容体拮抗剤のSamsca(tolvaptan、和名サムスカ)を三つの用途で販売している。心不全による体液貯留の治療、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群による低ナトリウム血の治療、そして常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の進行抑制だ。このうち、ADPKDは14年に日本で、15年にはJinarc名でEUでも承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。被験者の腎機能が元々それほど悪くなかったせいか臨床的な効用が明確ではなく、肝毒性も懸念されるためだ。

大塚は追加試験を実施、eGFR(推算糸球体濾過量)の低下が偽薬比有意に抑制されることを確認し、学会やNEJM誌で発表した。1年間の治療で偽薬群が3.61mL/分/1.73m2低下したのに対して、tolvaptan群は2.34mL/分/1.73m2の低下に留まり、統計的に有意な差があった。前回のTEMPO試験では各3.70mLと2.72mLだったので、tolvaptan群の成績が若干よかったことになる。ランイン期間中に投与して忍容した患者だけを組入れた工夫も寄与したかもしれない。

この結果を踏まえて米国で適応拡大申請し、受理された。審査期限は来年4月24日。

リンク: 大塚のプレスリリース

【承認】


ムコ多糖症VII型の治療薬が米国で承認
(2017年11月15日発表)

FDAはMepsevii(vestronidase alfa-vjbk)をムコ多糖症(MPS)VII型の治療薬として承認した。MPS VII型は患者数が世界で150人以下と推測される超希少疾患で、ベータグルクロニダーゼの欠乏によりグリコサミノグリカンが分解されず組織に蓄積、低身長や心弁異常、肝膵肥大など様々な症状をもたらす。

Mepseviiは希少疾患用薬の開発に特化した米国カリフォルニア州の医薬品会社、Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)の開発品。欠乏酵素を二週間に一回、補充する。臨床試験ではグリコサミノグリカンデルマタン硫酸の尿排泄量を主評価項目としたが、FDAは臨床的な効能とは見なさなかった模様で、プレスリリースには6分歩行テストの結果が記されている。第三相とEAP(早期アクセスプログラム)の症例では偽薬群を平均18メートル上回った。

主な有害事象は点滴箇所反応、下痢、ラッシュ、アナフィラキシーなど。

報道によると、Ultragenyxは年37.5万ドル程度の正味価格で発売する考えのようだ。超希少疾患なのでピーク年商は1億ドル行かない見込みだが、希少小児疾患優先審査証書(RPDPRB)を取得することができた。新薬開発を促すためのインセンティブで、次に承認申請する時に優先審査を受けることができる。審査が順調に進めば半年ほど早く承認取得できるので、激しい開発競争が繰り広げられている分野では大きな価値がある。譲渡も可能で、最近ではSareptaがギリアド・サイエンシズに1億2500万ドルで売却した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Ultragenyxのプレスリリース

日本発の抗体医薬が再び承認
(2017年5月16日発表)

FDAはHemlibra(emicizumab-kxwh)を第8因子インヒビターを持つA型血友病患者の出血予防薬として承認した。審査期限は来年2月だったが、近年のFDAは重要な薬や特に問題のない薬は早く承認する傾向がある。

A型血友病は遺伝子組換え型第8因子で出血を治療し、頻繁に出血する場合はルーチン投与して予防する。薬に対する抗体(インヒビター)ができて無効になった場合は、ノボ ノルディスクの遺伝子組換え型活性化第7因子や活性化プロトロンビン複合体製剤(シャイアの血漿由来製剤、FEIBA)を使う。

Hemlibraは血液凝固第IX因子と第X因子の二重特異性抗体で、第VIII因子に代わって活性化第XI因子による第X因子の活性化を架橋する。最初の4回は3mg/kg、その後は1.5mg/kgを週一回、皮注する。ロシュグループの中外製薬が創製、米国ではジェネンテックが販売する。

臨床試験で血栓性微小血管障害症(TMA)による死亡があったためFDAの評価や対処法が注目されたが、症例に即した順当な内容だった。枠付き警告によると、Hemlibra療法を施行中に出血しFEIBAでレスキュー治療する時は、TMAや血栓塞栓症を防ぐために、100単位/kg/24時間超のペースで24時間超投与するべきではない、症状が現れたらFEIBAを止める。

価格は44万ドル(初年度は48万ドル)程度に設定されるようだ。FEIBAはもっと高いが、Hemlibraはインヒビターを持たない患者向けにも第三相が進行中であり、長期作用性第8因子と比べて著しく割高にならないようにしたのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

ポテリジェント抗体が米国で承認
(2017年11月14日発表)

アストラゼネカはFasenra(benralizumab)が重度好酸球型喘息症の維持療法薬としてFDAに承認されたと発表した。好酸球などで発現するIL-5受容体のアルファチェーンを標的とする抗体。グラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab)やテバ・ファーマスーティカルのCinqair(reslizumab)の類薬だ。

こちらも日本のBioWa(協和発酵キリン・グループ)が創製したPOTELLIGENT抗体で、糖鎖にフコースがなく抗体依存性細胞毒性が増強されている。日本や欧州でも承認審査中。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

スーテント、腎癌アジュバント療法が承認
(2017年11月16日発表)

FDAはファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)を腎細胞腫の摘出術後アジュバント療法に用いる適応拡大を承認した。9月に開催された諮問委員会で賛否が真っ二つに分かれたことを考えると、審査期限まで2ヶ月残しての承認は意外だ。

根拠となったS-TRAC試験では、5年経っても再発したり死亡したりしなかった患者の比率が59%と偽薬群の51%より有意に高かった。この試験は延命効果の検出力を持たないが、5年生存率は81.4%対81.9%で大差ない。2019年の最終解析でもっと良い数字が出るか、注目される。

同様な用途ではSutentとバイエルのNexavar(sorafenib)を偽薬と夫々比較したASSURE試験はフェールした。Sutentは効く時も効かない時もある、なんてことはないだろうから、原因を解明してほしいものだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

センサー付き医薬品が承認
(2017年5月13日発表)

FDAはAbilify MyCiteを承認した。大塚の非定型向精神薬aripiprazoleの中にProteus Digital Health社のセンサーを埋め込んだ錠剤で、胃腸通過時に発するシグナルを体に張り付けたパッチ型ウェラブル端末が探知し、Wi-Fiとネット経由で情報をポータルサイトにアップロードする。医師や介護者が、患者の同意を得た上で、服薬状況を監視することができるようになる。

医薬品に本物であることを示すICタグを付けるとか、ウェラブルに血圧センサーを付けるとか、胃腸診断用カプセル型カメラとかはこれまでにもあったが、遂にセンサー付き錠剤が登場した。薬にもIoT時代の到来だ。尤も、大塚は直ぐに量販する考えはない模様。コストやニーズの面でまだ改良の余地があるのだろう。

非定型向精神薬は患者が飲みたがらないことがあり、急性治療用には経口剤だけでなく注射用が、安定期用には一日一回経口投与だけでなく1ヶ月以上持続する注射用製剤も商品化されている。センサー内包型は、患者のアドヒアランスを確認したり、臨床試験でデータの頑強性を検証する上で有益だろう。ちゃんと飲まないと、ばれる、というプレッシャーを与えることもできる。

但し、FDAのプレスリリースによると、実際に患者のコンプライアンス(アドヒアランス)が改善するかどうかは確認されていない。シグナルを探知できなかったり、遅れたりすることもあるのでリアルタイム監視には適さないと記されているので、頼りない印象だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Proteusのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、フェブリクの心臓疾患死リスクを通知
(2017年11月15日発表)

FDAは、Uloric(febuxostat、和名フェブリク、欧州名Adenuric)の心臓疾患リスクに関する安全性通知を発出した。武田薬品が実施したallopurinol対照安全性確認試験の予備的解析で、心臓関連死の増加が見られた由。データは未発表。最終解析を受領・分析した上でフォローアップする考え。

Uloricはキサンチンオキシダーゼ阻害薬。尿酸の合成を阻害し、高尿酸血による痛風を治療する。帝人が創製し日本で販売、米国はライセンシーの武田が09年に発売、最初に承認された欧州ではイプセンやメラリーニが販売している。

心血管リスク自体は既知だ。承認前の臨床試験では重要な心血管イベントの発生率(1000人年当り)が13と対照群の4倍以上だった。このため、FDAは承認に際してレーベルに記載するとともに、武田薬品に安全性確認試験の実施を要求した。

6000人以上の痛風患者を組入れて、MACE(主要心臓有害事象:心臓関連死、非致死的心臓発作、非致死的卒中、緊急血行再建術)を観察した試験の結果が承認から8年経って判明。MACE全体は増加しなかったものの、心臓関連死亡と全死亡のリスクが増加していた。

リンク: FDAのプレスリリース








今週は以上です。

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2017年11月12日

2017年11月12日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダのEU適応拡大申請撤回は症例数不足が遠因? 
  • ノバルティス、抗VEGF-A抗体のnAMD試験成功 
  • ノバルティス、CDK4/6阻害剤の閉経前乳癌試験成功 
  • ノバルティス、CAR-Tを欧州でも承認申請 
  • CHMPが抗IL-5抗体などの承認を支持 
  • MSDのCMV用薬が承認 
  • 第二のB型肝炎ワクチンが承認 
  • アドセトリス、CTCLにも承認 
  • ゼルボラフがBRAF-V600変異陽性エルドハイム・チェスター病に承認 
  • アレセンサも一次治療承認 


【今週の話題】


キイトルーダのEU適応拡大申請撤回は症例数不足が遠因?
(2017年11月10日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、承認申請が撤回された場合、審査状況を公表する。不当な審査をして撤回に追い込んだわけではないことを示す目的だろう。今回、MSDが抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の適応拡大申請を撤回したことに関する発表があった。

MSDは転移性非扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療にpemetrexed及びcarboplatinと三剤併用する適応拡大を欧米で承認申請し、米国では承認されたが、EUは申請撤回したことを10月に公表した。EMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、主臨床試験の症例数が限定的であるため不確実性が残っており、承認できないという暫定的意見だったことが今回、明らかにされた。

それ以上の詳細は不明だが、症例数が足りないために延命効果が統計学的に確認できず、PD-L1発現と応答性の関係も十分に検討できないという意味なのではないだろうか。

11月5日号で書いたように、この承認申請は第1/2相KEYNOTE-021試験のGコフォートのORR(客観的反応率)とPFS(無進行生存期間)に基づくもの。前者は55%とpemetrexedとcarboplatinの二剤だけを用いる標準療法の29%を有意に上回り、PFSのハザードレシオは0.53で統計的に有意、メジアンは13.0ヶ月対8.9ヶ月だった。治療関連深刻有害事象の発生率は39%対26%で副作用も増加した。

全生存期間はメジアン10ヶ月追跡時点のハザードレシオが0.90、14ヶ月時点は0.69、18ヶ月時点で0.59と徐々に良い数値に変わっていったが、検出力不足で18ヶ月時点でも95%信頼期間が0.34-1.05と広く、有意差が出ていない。点推定値は良好なので延命効果を疑う余地は小さいが、承認審査機関は一次治療用途に関しては拙速を慎むことが少なくない。

抗PD-1/PD-L1抗体は、幾つかの臨床試験ではPD-L1発現度合いと応答性に相関が見られ、幾つかでは大差なかった。Keytrudaは肺癌の一次治療と再発治療に単剤投与することが承認されているが、一次治療の適応になるのは著高発現(TPS≧50%)だけ、再発治療は高発現(TPS≧1%)だけと、異なっている。

今回の用途は発現状況不問と、更に異なっている。探索的解析で高発現(TPS≧1%)サブグループのORRは三剤併用群が54%、標準療法群は38%、低発現(<1%)サブグループは各57%と13%と、どちらもに差がなかったので、疑う余地は大きくはないが、他の用途との整合性をどう説明したらよいのか、悩ましい。PFSやOSのサブグループ分析を見てみたいものだが症例数が少なく患者背景に偏りがあっても不思議はないので意味のある解析はできないのかもしれない。

MSDは、021試験と類似した内容の第三相KEYNOTE-189の解析計画を変更し、PFSだけでなく全生存期間も主評価項目とすることを決定した。そのため、年内にデータベースロック、18年にも成否判明する予定が19年に遅れることになったが、570人を組入れるのでPD-L1低発現サブグループの症例数も各群100人前後が予想され、応答予測性の解析を行うのに十分ではないとしてもある程度信頼できるデータが出せるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: MSDの申請撤回通知(10月11日付)


【新薬開発】


ノバルティス、抗VEGF-A抗体のnAMD試験成功
(2017年11月10日発表)

ノバルティスは、RTH258(brolucizumab)の第三相nAMD(新生血管加齢性黄斑変性)試験二本が成功したと発表した。BCVA(最良矯正視力)の48週時点での改善が実薬であるafliberceptと比較して非劣性。二次的評価項目のうち16週時点の疾病活動性やIRF(網膜嚢胞液)/SRF(網膜下液)、網膜厚の解析は、RTH258の6mgを用いた群がaflibercept群より有意に良かった。

二本のうち一本は3mgもテストしたがもう一本は6mg群しか設定されておらず、おそらく、6mgを標準用量とする考えなのだろう。

臨床試験で用いたロットと量産ラインで生産するロットの同等性を確認し、18年に承認申請する予定。

RTH258は、aflibercept(リジェネロン/バイエルのEylea、和名アイリーア)やranibizumab(米国ではジェネンテック、それ以外ではノバルティスが販売するLucentis)と同様にVEGF-Aを標的とする抗体医薬。受容体に結合する可変領域の単鎖だけからなるフラグメントで、分子量が26kDaとafliberceptの115kDa、ranibizumabの48kDaより小さいため、分布や全身的曝露の面で優れる可能性がある。

臨床的な違いは投与頻度。afliberceptの承認用法は最初の三回は4週毎、その後は8週毎だが、RTH258の第三相は4回目からは12週毎(必要なら8週毎も可)という投与スケジュールを採用した。硝子体注射の頻度が少なく、一回当たりの薬価が同じなら年間費用が安くなる。実際の医療では病状が安定したら様子を見て悪化したら再治療というパターンが多いが、RTH258は網膜厚の悪化が少ないとのことなので、この治療方針でも投与頻度が少なくて済みそうだ。

RTH258はグループのアルコン社が09年にスイスのESBATech社を買収して入手したもの。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ノバルティス、CDK4/6阻害剤の閉経前乳癌試験成功
(2017年11月8日発表)

ノバルティスは、Kisqali(ribociclib)を閉経前転移性乳癌の治療に用いる第三相試験が成功したと発表した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の患者を組入れて、tamoxifen、letrozole、anastrozoleのうち何れかとgoserelinを併用する標準療法と、更にKisqaliを加える三剤併用両方のPFS(無進行生存期間)を比較したもの。データは未発表。

Kisqaliはホルモン受容体陽性、her2陰性の乳癌に用いるCDK4/6阻害剤で、今年、閉経後の患者の一次治療にアロマターゼ阻害剤と併用する薬として欧米で承認されたところ。売上面では発売が2年先行したファイザーのIbrance(palbociclib、和名イブランス)の後塵を拝しているので、適応は多いほうが良い。尚、日本では開発中止になった模様だ。

CDKは細胞分裂時の細胞周期の進行を調停する酵素。KisqaliはCDK4の結晶構造を解明したAstex Pharmaceuticals(後に大塚製薬が子会社化)との共同研究の成果。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


ノバルティス、CAR-Tを欧州でも承認申請
(2017年11月6日発表)

ノバルティスはCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞療法)のKymriah(tisagenlecleucel)をEUに承認申請した。米国では8月に再発・難治性急性リンパ性白血病用薬として承認され、10月には再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に適応拡大申請したところ。EUではこの二つの適応を申請した。

米国での発売はノバルティスが先行したが、対象患者数の多い後者の適応ではギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)が買収したKite社のYescarta(axicabtagene ciloleucel)が先に承認された。EUでもYescartaが7月申請と先行している。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPが抗IL-5抗体などの承認を支持
(2017年11月10日発表)

欧州の薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議で以下の新薬と適応拡大に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

まず、新規活性成分では、アストラゼネカグループのメディミューンが協和発酵キリングループのBioWaからライセンスした抗IL-5受容体アルファチェーンPOTELLIGENT抗体、Fasenra(benralizumab、協和発酵キリンの開発コードKHK4563)。好酸球増多型の重度喘息症で吸入ステロイドとベータ2作用剤を併用しても増悪を十分に防げない患者のステップアップセラピーに用いる。日米でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、Ocrevus(ocrelizumab)はロシュの抗CD20抗体トリオの第三弾。Rituxan(rituximab)は定常領域をヒトのアミノ酸配列に置換したキメラ抗体、Ocrevusは可変領域の一部も置換したヒト化抗体、Gazyva(obinutuzumab)もヒト化抗体だが結合するエピトープが異なり、また、BioWaのPOTELLIGENTと異なる技術を用いてフコースのない糖鎖を作り抗体依存的細胞毒性を向上、という違いがある。

適応は再発型あるいは一次進行型の多発性硬化症。Rituxanより免疫性副作用が小さいため、元々はリウマチ性関節炎など幅広い分野で臨床開発が行われたが、アジアの施設で日和見症候群が発生したのを機に戦線縮小した。再発型の臨床試験では再発率がアムジェンのAvonexより46%低く、一次進行型試験では12週間の障害進行リスクが偽薬比24%小さかった。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

シャイアが子会社化したバクスアルタのAdynovate(rurioctocog alfa pegol)はA型血友病の血液凝固第VIII因子補充療法。頻繁に出血する患者は定期的に投与するルーチン予防を受ける。同社のAdvateは週3~4回の投与が必要だが、Nektar(Nasdaq:NKTR)の技術を用いてPEG化したAdynovateなら週2回で足りる。もっと少ない製品も存在するが、Advateを使っている患者がスイッチするには適しているかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのCMV(サイトメガロウイルス)治療・予防薬Prevymis(letermovir)は前後して米国で承認されたため、後述する。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を再発性CD30陽性皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)に用いることが支持された。欧州などでの権利を持つ武田薬品が申請したもの。前後して米国で承認されたため、後述。

新製剤では、Dr. Falk Pharma GmbHのJorveza (budesonide)が好酸球性逆流性食道炎治療薬として支持された。様々な用途で用いられているステロイドの口内分散錠で、投与すると90%の患者で食道から好酸球がいなくなる。希少疾患用薬指定されており、加速評価を受けた。

リンク: EMAのプレスリリース

再審制度に基づき二回目の審査を受けた品目では、Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq: VNDA)の非定型向精神薬、Fanaptum(iloperidone)は、再び否定的意見となった。統合失調症治療薬として承認申請されたが、副作用や薬物相互作用リスクと効果のバランスを取るのが難しく、CHMPの評価によれば効果が小さく作用のオンセットが遅く、QT延長リスクがある。

FDAは09年に承認したが、QT延長リスクや用量漸増期間の長さを考慮して、他の薬の使用を先に検討するよう推奨した。

【承認】


MSDのCMV用薬が承認
(2017年11月9日発表)

MSDは、FDAがPrevymis(letermovir)をサイトメガロウイルス(CMV)治療・予防薬として承認したと発表した。12月に発売予定。

同種造血幹細胞移植を受けた、CMV抗体陽性の成人患者に一日一回、経口又は静注投与する。移植後約100日間続ける。臨床試験では臨床的に重要なCMV感染症の発生率(24週間)が37.5%と偽薬群の60.6%を下回った。死亡率は各群12%と28%だった。副作用は嘔吐と咳、末梢浮腫など。催不整脈性を持つ模様だ。

quinazolinesという新クラスの抗ウイルス剤で、CMVのテルミナーゼ複合体を阻害する。バイエルの感染症治療薬部門がスピンアウトしたドイツのAiCuris GmbHから12年に開発商業化権を取得した。

リンク: MSDのプレスリリース

第二のB型肝炎ワクチンが承認
(2017年11月9日発表)

Dynavax Technologies(Nasdaq:DVAX)は、FDAがHeplisav-Bを承認したと発表した。B型肝炎ウイルスの表面抗原とTLR9アゴニストを結合したワクチンで、18歳以上の大人が適応になる。B型肝炎ワクチンの承認はGSKのEngerix-B以来、四半世紀ぶり。

Dynavaxは07年にMSDにアウトライセンスしたが翌年、解消。臨床試験でウェゲナー肉芽腫が発生してクリニカルホールドになったり、心血管イベントに偏りが発生したりして開発や承認審査に時間がかかったが、承認申請から足掛け5年、やっと承認された。

Engerix-Bは市販歴が長く、新生児も含めて乳幼児にも使えるので、Heplisav-Bの対象は、接種歴を持たない、二型糖尿病などの高リスク患者ということになる。長所は、3回接種ではなく2回接種で同程度の予防効果を期待できること。

リンク: Dynavaxのプレスリリース

アドセトリス、CTCLにも承認
(2017年11月9日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を再発性の原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫やCD30陽性菌状息肉腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。どちらも皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の一般的なサブタイプ。上記のEMAのプレスリリースでは皮膚T細胞リンパ腫と記されているが、米国はシアトル・ジェネティクスが承認申請した時のプレスリリースも今回もこの二タイプを特定しており、FDAに適応を削られた訳ではなさそうだ。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

ゼルボラフがBRAF-V600変異陽性エルドハイム・チェスター病に承認
(2017年11月6日発表)

FDAは、ロシュのZelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)をBRAF-V600変異を持つエルドハイム・チェスター病(ECD)の治療に用いる適応拡大を承認した。ECDは白血球の一種である組織球が異常増殖する超希少疾患で米国の患者数は500人以下とされる。V600変異は二人に一人が該当する。ZelborafはPlexxikon(後に第一三共が買収)からライセンスしたBRAF阻害剤で11年にBRAF-V600変異を持つ転移性切除不能悪性黒色腫用薬として承認されている。

適応拡大の根拠となったバスケット試験はBRAF-V600変異を持つ癌を発生部位を問わずに組入れたもの。ECD患者では最良総合反応率が54.5%だった。Keytrudaのマイクロサテライト不安定性腫瘍のように、原発部位ではなく遺伝子シグナチュアに基づいてスクリーニングする手法が少しずつ出始めている。今回のような超希少疾患の場合は、様々な病気を一度に試験することで開発費用や期間を効率化できるのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

アレセンサも一次治療承認
(2017年11月7日発表)

ロシュは、Alecensa(alectinib、和名アレセンサ)をALK陽性の局所進行性転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。臨床試験ではPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価委員会が査読)がメジアン25.7ヶ月と、一次治療が承認されている類薬であるファイザーのXalkori(crizotinib)の10.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.50、統計的に有意だった。

Alecensaは中外製薬が創製したALK阻害剤で、ALK阻害活性や中枢神経移行性がXalkoriより高く、特に脳転移に対する効果が高い。

リンク: ロシュのプレスリリース






今週は以上です。

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2017年11月5日

2017年11月5日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 先天性TTRアミロイドーシス用新薬二剤の第三相が成功 
  • アストラゼネカの抗IL-13抗体も第三相フェール 
  • ノバルティス、CAR-Tの適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会が長期放出性ブプレノルフィンを支持 
  • MSD、キイトルーダの適応拡大申請を撤回 
  • アストラゼネカのBTK阻害剤が米国で承認 
  • ボシュロム、緑内障治療薬が米国で承認 


【新薬開発】


先天性TTRアミロイドーシス用新薬二剤の第三相が成功
(2017年11月2日発表)

遺伝子アンチセンス技術に基づく新薬開発で鎬を削る二社が、先天性トランスサイレチン(hATTR)アミロイドーシス治療薬の第三相試験を相次いで成功させた。米国東海岸ケンブリッジのAlnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)と西海岸のIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)だ。どちらも2018年に欧米で発売される可能性がある。データを見比べるとAlnylamの開発品のほうが効果や安全性が高そうにみえる。

。hATTRアミロイドーシスは遺伝子変異したトランスサイレチンが様々な臓器に蓄積し障害を与える。AlnylamのALN-TTR02(patisiran)はsiRNA。特定のメッセンジャーRNAを沈黙させることでトランスサイレチンの生産を抑制する。治験では一回投与で最大94%減少した。

第三相試験はポリニューロパチーを合併するステージI/IIの患者225人を試験薬群2、偽薬群1の割合で無作為化割付して、mNIS+7(Modified Neuropathy Impairment Score)やQOL-DN(Norfolk-Quality of Life-Diabetic Neuropathy)の変化などを比較した。試験薬は0.3mg/kgを三週間毎に70分点滴静注。日本の大学病院も参加した模様だ。

結果はパリで開催された第一回欧州ATTRアミロイドーシス患者医師会議で発表された。主評価項目のmNIS+7は試験薬群が6.0ポイント低下(改善)、偽薬群は28.0ポイント増加、治療効果は34.0で統計学的に有意。二次的評価項目であるQOL-DNは各6.7ポイント低下と14.4ポイント上昇で治療効果21.1、統計的に有意。深刻な有害事象の発生率は36.5%で偽薬群の40.3%を上回らなかった。下痢、心不全、起立性低血圧、肺炎、心室ブロックなどが中心で、下痢以外は試験薬関連とはみなされなかった。

Ionisの開発品は後述のように肝腎毒性や血小板減少リスクが見られるが、patisiranの試験では見られなかった。

Alnylamは年内に米国で、来年には日本やブラジルでも、承認申請する予定。希少疾患用薬の研究開発でサノフィのジェンザイム部門と協業しており、patisiranは北米や欧州ではAlnylamが、日本などそれ以外の地域はジェンザイムが、開発販売を担当する。

リンク: Alnylamのプレスリリース

IonisのIONIS-TTRRx(inotersen)はトランスサイレチンの遺伝子翻訳を阻害するアンチセンス薬。こちらの第三相もポリニューロパチーを合併する患者を試験薬群と偽薬群に2対1割付して、mNIS+7とQOL-DNの変化を比較した。組入れは約170人、投与方法は週一回皮注。

15ヶ月治療後の治療効果は、共同主評価項目の一つであるmNIS+7が19.7ポイント。もう一つのQOL-DNは11.68ポイントで、試験薬群は0.99ポイント増加、偽薬群は12.67ポイント増加した。

二本の試験のQOL-DNに注目すると、偽薬群の数値は大差ないので患者背景が大きく異なるとは考えにくい。patisiranとinotersenの差はinotersenと偽薬の差とそれほど変わらないので、もし直接比較試験が行われたならば統計的に有意な差が出るかもしれない。

もう一つ差があるのが安全性。inotersenの試験では試験薬群で5人死亡、偽薬群はゼロだった。5人中4人は病気の進行に伴うもので試験薬との関連はないと判定されたが、頭蓋内出血後の死亡例は関連が疑われる。深刻な有害事象は血栓性血小板減少症や腎障害が数例報告されたが、早期に発見し対応するプロトコルの導入後は深刻例が稀になったとのこと。

Ionisは欧州で承認申請した。米国でも申請する予定。開発販売提携も模索する考え。10年にグラクソ・スミスクラインがライセンス・オプションを取得したが、研究開発分野を絞り込む戦略変更に伴い、行使しなかった。

リンク: Ionisのプレスリリース
リンク: 同(欧州承認申請、11/3付け)

セルジーン、S1PR1/5調節剤の第三相成功
(2017年10月28日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、S1PR1/5調節剤ozanimodの第三相再発型多発性硬化症試験、RADIANCEの結果をECTRIMS-ACTRIMSで発表した。0.5mgまたは1mgを一日一回投与する二群の年率再発率(ARR)をAvonex(interferon beta-1a)と比較したところ、各0.22、0.17、0.28となり、両用量とも有意に少なかった。

類似した内容のSUNBEAM試験も成功しており、二本の独立した試験で再発予防効果が確認されたことになる。一方、障害の進行を遅らせる効果を確認する目的で行われた二本の試験のプール分析は、3ヶ月EDSS進行率が各群6.5%、7.6%、7.8%となり、有意差がなかった。セルジーンは年内に承認申請する計画。

15年にReceptos社を72億ドルで買収して入手したコンパウンドで、S1PR調節剤の第一号であるノバルティス/田辺三菱のGilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)と異なりS1PR3作用を持たないため、心血管・肝臓副作用が小さい可能性がある。EDSS進行抑制作用はベータインターフェロンと大差ないようだが、Gilenyaの試験も有意差がなかったので、減点にはならないだろう。

リンク: セルジーンのプレスリリース

アストラゼネカの抗IL-13抗体も第三相フェール
(2017年11月1日発表)

アストラゼネカはCAT-354(tralokinumab)の第三相喘息症試験が二本ともフェールしたと発表した。

以前に実施した第三相試験のサブグループ分析でFeNO(呼気一酸化窒素)上昇患者では増悪が減少したため、このタイプだけを組入れて新たに増悪予防試験と経口ステロイド減量試験を開始した経緯がある。CAT-354はIL-13を標的とする抗体医薬なので、IL-13の活動性更新と関連するFeNO値に基づいてスクリーニングするのは一理あったのだが、奏功しなかった。

抗IL-13抗体ではロシュのRG3637(lebrikizumab)も喘息症第三相試験が一勝一敗だった。ペリオスチン濃度を応答性予測因子に使えるという話もあったが、ワークしなかったのか、この用途は開発中止になった。

どちらもアトピー性皮膚炎など皮膚学用途で他社がインライセンスし開発中。今年、欧米でアトピー性皮膚炎薬として承認されたリジェネロン/サノフィのDupixent(dupilumab)はIL-4とIL-13の受容体の共通部位を標的としており、抗IL-13抗体もメカニズム的には可能性がありそうだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


ノバルティス、CAR-Tの適応拡大申請
(2017年10月31日発表)

ノバルティスはKymriah(tisagenlecleucel)を再発性難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に用いる適応拡大をFDAに承認申請した。8月に米国で難治性再発性の前駆B急性リンパ性白血病(Pre-B ALL)に承認されたばかり。

キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法と呼ばれる新しいタイプの薬で、B細胞特異的に発現するCD19に結合する抗体の単鎖可変領域やTCR共刺激伝達領域を患者から採取したT細胞に導入して、体内に戻すと、抗原提示不要でB細胞を攻撃する。ノバルティスはペンシルバニア大学から開発販売権を取得した。

ライバルはギリアド・サイエンシズが119億ドルで買収したKite PharmaのYescarta(axicabtagene ciloleucel)で、10月に再発性難治性DLBCL用薬として承認されたところ。市場性はこの用途のほうが大きく、ノバルティスはキャッチアップする恰好だ。

Kymriahの薬剤費は47.5万ドル。寛解率が高く、費用も骨髄移植は80万ドルとのことだが、悩ましいほど高価だ。ノバルティスは1ヶ月以内に癌が反応しなかったら無料というPay-for-Performanceディールを米国の医療保険向けにオファーしており、日本でも検討している模様。DLBCL用途は反応率がPre-B ALLより低いのでノバルティスは別のアレンジメントを考えている模様だが、ギリアドの出方に左右される面もありそうだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が長期放出性ブプレノルフィンを支持
(2017年10月31日、11月1日発表)

FDAの精神薬理学薬諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会は、オピオイド使用障害(OUD)の治療補助薬として承認申請されたブプレノルフィンの長期管理放出製剤二剤を検討し、過半数の委員が承認を支持した。

米国はオピオイド系鎮痛剤が大量に消費されており、多くは疼痛治療目的ではなく遊びやオピオイド依存と言われる。キチッと規制すれば良さそうなものだが、医療や薬局の規制は州政府の管轄であり、規制の緩い一部の州にオピオイド処方箋数が集中しているらしい。過剰投与による死亡も多く、50歳以下の死因としては一番多いとのことだ。

薬物療法で良く用いられるbuprenorphine舌下錠の代替として開発されたのが今回の二剤。英国のIndivior社(LSE:INDV)が承認申請したRBP-6000は月一回皮注のデポ製剤で、サノフィのEligard(leuprolide、日本ではアステラスのエリガード)などと同じATRIGEL管理放出技術を用いている。諮問委員会では18人が承認を支持、1人が反対。300mgをずっとではなく、3回目からは100mgに減らす用法が支持された。審査期限は11月30日。

尚、Indiviorはレキット・ベンキーザーでbuprenorphine舌下錠などを販売していた部門が14年にスピンアウトして設立された会社。

リンク: Indiviorのプレスリリース(10/31付け)

米国のBraeburn Pharmaceuticalsが承認申請したCAM2038は体内で液体から結晶性ゲルに変わり、徐々に分解して内部の活性成分を放出する。14年にスエーデンのCamurus AB(NASDAQ STO: CAMX)からインライセンスした。週一回または月一回、皮注。諮問委員会では17人が一部の用量を除いて承認に賛成、3人が全用量反対だった。審査期限は来年1月19日。

リンク: Braeburnのプレスリリース(11/1付け)

MSD、キイトルーダの適応拡大申請を撤回
(2017年10月27日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療にpemetrexed及びcarboplatinと併用する適応拡大を欧米で承認申請し、米国では5月に承認されたが、EUは撤回した。承認後薬効確認試験のデザインを変更し全生存期間の解析を共同主評価項目にしたことも公表されたので、おそらく、EUは延命効果が未確認であることに難色を示しているのだろう。

この承認申請はKEYNOTE-021試験のGコフォートのORR(客観的反応率)とPFS(無進行生存期間)に基づくもので、前者は55%とpemetrexedとcarboplatinの二剤だけを用いる標準療法の29%を有意に上回り、PFSのハザードレシオは0.53で統計的に有意、メジアンは13.0ヶ月対8.9ヶ月だった。治療関連深刻有害事象の発生率は39%対26%で副作用も増加した。

全生存期間はメジアン10ヶ月追跡時点のハザードレシオが0.90、14ヶ月時点は0.69、18ヶ月時点で0.59と徐々に良い数値に変わっていったが、検出力不足で95%信頼期間は0.34-1.05と広く、有意差が出ていない。

抗癌剤は深刻な副作用リスクを伴うので体の一部に過ぎない腫瘍部位だけを見て功罪を判定することはできない。副作用で死亡するリスクと天秤にかけるためには、功罪差し引きで寿命が延びることを証明するのが望ましい。再発治療に関しては贅沢を言えないかもしれないが、一次治療で既に薬が存在するなら明確な延命効果が欲しいところである。

しかし、FDAは近年、今回のKeytrudaのようにPFSだけで承認するケースが増えてきた。癌の種類や治療段階、その医薬品の他の治療段階における効果などに基づいてケースバイケースで判断しているのだろう。決め打ちすれば空振りも増加するので善し悪しである。例えば、Keytrudaは頭頚部癌の承認後薬効確認試験がフェールしてしまった。難しい判断なので承認審査機関によって異なっても不思議はない。

MSDは、021試験と類似した内容の第三相KEYNOTE-189の解析計画を変更し、PFSだけでなく全生存期間も主評価項目とすることを明らかにした。年内にデータベースロック、18年にも成否判明するはずだったが、19年に遅れることになった。

KeytrudaはBMSのOpdivo(nivolumab)と並ぶ抗PD-1抗体の双璧だが、肺癌一次治療ではOpdivoに差を付けており、Keytrudaの米国需要の過半を占めるようになった。それだけに、Opdivoやロシュやアストラゼネカの抗PD-L1抗体には追い付くチャンスが生まれた。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


アストラゼネカのBTK阻害剤が米国で承認
(2017年10月31日発表)

FDAはアストラゼネカのCalquence(acalabrutinib)をマントル細胞リンパ腫の二次治療薬として加速承認した。承認申請受理が8月、審査期限は来年第1四半期だったのでスピード承認だ。第二相試験の独立評価委員会評価に基づくORR(客観的反応率)に基づくもので、完全寛解率40%、部分反応率41%、合計81%だった。深刻な有害事象は出血、感染症、心房細動、二次性原発腫瘍など。bendamustine及びrituximabと併用で承認後薬効確認試験が進行中。

15年にAcerta Pharmaを子会社化して入手したBTK阻害剤で、B細胞の増殖、移行、走化性、接着に関わるBruton tyrosine kinaseを阻害する。一日二回、経口投与。BTK阻害剤としては13年に米国で承認されたジョンソン・エンド・ジョンソン/アッヴィのImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)に次ぐ第二号だが、マントル細胞リンパ腫におけるORRはImbruvicaの試験より高く、忍容性も上回るように見える。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ボシュロム、緑内障治療薬が米国で承認
(2017年11月2日発表)

Valeant Pharmaceuticals(NYSE:VRX)の完全子会社であるボシュロムとフランスの眼科用薬開発会社Nicox(Euronext Paris:COX)は、FDAがVyzulta(latanoprostene bunod)点眼液を承認したと発表した。開放隅角緑内障または高眼圧症の眼内圧治療に用いる。第三相試験ではtimolol maleateと降圧作用が非劣性で、優越性の解析でもpが0.05を下回った。

点眼後にプロスタグランジンF2アルファと酸化窒素に分離する、NO供与薬。2010年にボシュロムがライセンスしたもので、NicoxのNO供与技術を用いた薬が米国で承認されたのは初めて。

リンク: Valeantのプレスリリース






今週は以上です。

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