2017年7月30日

2017年7月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 塩野義、インフルエンザ治療薬の第三相が成功 
  • アストラゼネカ、チェックポイント阻害剤の併用試験がフェール 
  • MSD、キイトルーダの頭頚部癌試験がフェール 
  • BMS、オプジーボの4週毎投与を承認申請 
  • HEPLISAV-B、今度こそ承認か 
  • EUがアッヴィとギリアドのC型肝炎治療薬を承認 


【新薬開発】


塩野義、インフルエンザ治療薬の第三相が成功
(2017年7月24日発表)

塩野義製薬は、S-033188の第三相インフルエンザ治療試験が成功したと発表した。日本やアジア、北米の施設でインフルエンザに感染した普段は健常な患者を組入れた試験で、症状が軽快するまでの期間を偽薬と比較したところ、有意に短かった。20~64歳の患者にはTamiflu(oseltamivir)群も設定され、副次的評価項目としてS-033188の優越性解析が行われたが、フェールした。ウイルス量などの指標では有意に優れていたが症状とはパラレルにリンクしないのだろう。

薬物関連副作用の発生率は偽薬群並み。副作用発生率はTamiflu群より低かった。

S-033188はCap依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤。インフルエンザの遺伝子の中で比較的変異が少なく創薬のターゲットとして適しているポリメラーゼを阻害することによって、ウイルス遺伝子の複製に必要なプライマーが宿主細胞のRNA前駆体のcap構造から切り出されるの妨げる。Tamifluのようなノイラミニダーゼ阻害剤とは作用部位が異なり、in vitroではノイラミニダーゼ阻害剤抵抗性ウイルスにも有効だった。経口剤で一回投与するだけで足りるので服薬コンプライアンスの心配がない。

弱点は、Tamifluは特許切れ時期を迎えているので、S-033188は価格競争力が弱くなりそうなこと。効果が高ければ良かったのだが、同程度ということになると、迷いが生じる。

第三相はもう一本、インフルエンザ合併症のリスクが高い患者(糖尿病患者など)を対象とした海外試験が進行している。罹病期間だけでなく、合併症のリスク抑制効果が確認されるようなら満点だろう。Tamifluはインフルエンザ罹病期間を短縮するが合併症のリスクを削減する効果は曖昧だからだ。尤も、罹病期間がTamifluと大差ないなら合併症リスクも同程度と予想するのが順当か。

日本は年度内に承認申請の予定。ロシュが権利を取得した海外市場では、18年に高リスク患者試験の結果が出てから承認申請されるのではないか。

リンク: 塩野義のプレスリリース

アストラゼネカ、チェックポイント阻害剤の併用試験がフェール
(2017年7月27日発表)

アストラゼネカは第三相MYSTIC試験のPFS(無進行生存期間)解析がフェールしたと発表した。抗PD-L1抗体のImfinzi(durvalumab)と、ファイザーからライセンスした抗CTLA4抗体、tremelimumabの併用療法を検討したもので、BMSが先行する抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用療法のme-tooレジメンと呼ぶことができるだろう。

対象は非小細胞性肺癌の一次治療。主評価項目は途中で変更されており、当初はPFSだけだったが16年に全生存期間が共同主評価項目となった。更に、今年初めにBMSが非小細胞性肺癌におけるOpdivo・Yervoy併用の用法追加申請を先送りすると発表した後に、PD-L1高発現(VENTANA社のSP263アッセイで発現率25%以上)だけの解析を行うことやImfinzi単剤投与群の組入れ数を増やすことが発表された。

残念なことにClinicalTrials.govの記述はアップデートが不十分で、PD-L1高発現/ITT、単剤/併用、PFS/OSの数多くのマトリクスがどのような順序で並ぶのか、そして多重性をどう回避するのか、明らかではない。

今回のプレスリリースによると、PD-L1高発現グループの併用群と標準療法群のPFSの比較がフェールした。Imfinzi単剤投与群のPFSのポストホック解析も閾値に達しなかった。

全生存の解析は18年に実施される予定。PD-1/PD-L1抗体はIL-2などと異なり延命効果だけでなく腫瘍縮小効果も化学療法なみに高いので、逆に言えば、PFSがフェールしたのにOSが成功するとは考えにくい。それでも、活性薬対照試験はハードルが高く成功とフェールが紙一重になりがちであること、本試験の点推定値やp値が未公表であること、多重性回避策として成否判定基準が高く設定されていた可能性があることなどを考えれば、結果を予測するにはまだ材料不足だろう。

今回の発表はOpdivo・Yervoy併用の成否を占う上でも重要だが、これら二種類の併用法は必ずしも同一視できないだろう。第一に、抗PD-1/PD-1と抗CTLA4の併用は有害事象リスクが高いため夫々の用量の選択が非常に重要だ。第二に、Yervoyは単剤で承認されているので情報や症例が豊富だが、tremelimumabは第三相が無益性で中止となりファイザーが開発を断念した過去を持つ。Imfinziとの併用試験がパーシャル・クリニカル・ホールドになったこともあり、私たちが知らないことがたくさんあったとしても驚きではない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

MSD、キイトルーダの頭頚部癌試験がフェール
(2017年7月24日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の頭頚部癌試験がフェールしたと発表した。米国で加速承認が取り消されるリスクが生じたが、まだ大丈夫のようだ。

このKEYNOTE-040試験は難治性転移性の頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)に対する延命効果をMTXやdocetaxelなどの標準的療法を施行する群と比較したもの。ハザードレシオは0.82(95%信頼区間0.67~1.01)、ログランクp値(片側)は0.03だった。安全性面はこれまでの試験と整合的だった。

日本と異なり、米国やEUで加速承認/条件付き承認された薬は、別途臨床試験を行って薬効や安全性を確認する必要がある。米国の場合、このフェーズIVコミットメントを袖にする製薬会社が少なくなかったため、制度設計・運用が厳格化され、アバスチンの乳癌のように実際に取り消されるケースも散発している。フェーズIVコミットメントの概要はFDAのウェブサイトでデータベース化され、ベンチャー企業が開示しなくても投資家自身が知ることができるようになっている。

Keytrudaは16年に今回の第三相試験と同じ内容で加速承認されたが、この時のフェーズIVコミットメントは通常とは異なり、特定の試験ではなく、延命効果が確認された臨床試験のデータを一本以上、18年3月までに出すというものだ。040試験がフェールしても、一次治療における効果を検討した048試験が18年3月までに成功すれば、約束を果たして本承認を取得できることになる。

再発治療がフェールした以上、一次治療に期待するのは難しいが、もし両方駄目でも、期限を延長して別の試験が成功するまで待ってもらうオプションもあるのではないか。

それにしても、抗PD-1/PD-L1と将棋の藤井四段は、無敵のような快進撃だが決して不敗ではない。臨床試験の場合、勝敗は統計学的な推定に依存するので、何回も繰り返せば偶然成功することもあるだろうし、逆に偶然フェールすることもあるだろう。

BMSのOpdivoは類似したデザインの第三相、CheckMate-141試験が中間解析で成功した。全生存のハザードレシオは0.70なのでKeytrudaより良いが、97.73%信頼区間(中間解析なので広い)は0.51~0.96となっており、かなりオーバーラップしている。中間解析で成功した試験は本解析で成功した試験より良い点推定値が出やすいという研究もあり、結局、この二本の試験の結果は矛盾してはいないのである。

優越性解析の相手が標準療法であった場合、フェールしても点推定値が標準療法薬並みならば、改めて非劣性試験を行って承認を得ることも可能だろう。その点でも、ギブアップするにはまだ早い。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボの4週毎投与を承認申請
(2017年7月24日発表)

BMSはOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の用法追加申請を米国で行ない受理された。480mgを30分以上かけて点滴、4週間毎に繰り返すというもの。用途は承認されている全ての適応。現在は、用量は適応に応じて240mg、1mg/kg、3mg/kgの三種類、点滴スピードは60分以上、頻度は殆どの用途で2週間に一回。審査期限は来年3月5日。

抗癌剤は寿命を延ばすが治癒する薬/病気は少ないので、患者は残された貴重な時間を有効に使いたいだろう。通院治療の手間暇(費用)は他の条件が同じなら軽いほうが良い。ライバルであるMSDのKeytrudaは投与頻度が3週間毎。現在はハンデだが、4週間毎が承認されれば逆転することになる。

但し、併用療法における不都合は続く。BMSのYervoyを始め、3週間毎の薬が多いので、他の条件が同じなら、同じ日に両方、投与を受ける方が都合がよい。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


HEPLISAV-B、今度こそ承認か
(2017年7月28日発表)

Dynavax Technologies(Nasdaq:DVAX)のB型肝炎ワクチン、HEPLISAV-Bが今度こそ米国で承認されることになりそうだ。

2012年に承認申請したが諮問委員会もFDAも支持せず、治験実施施設の査察で治験実施基準違反が発覚してEU申請も撤回することになった。追加試験を成功させたが16年に二回目の審査完了通知を受領。現在は三巡目で、FDAは慎重な姿勢を崩していない様子だが、諮問委員会は安全性について支持12人、反対1人、棄権3人と多数が支持した。効果については5年前の諮問委員会で支持を受けている。

HEPLISAV-BはB型肝炎ウイルスの表面抗原にアジュバントとしてTLR9アゴニストを添加したもの。既存製品であるGSKのEngerix-Bは6ヶ月間に3回接種だがHEPLISAV-Bは1ヶ月置いて2回で足りる。幼小児用で今からシェアを取るのは難しいこともあり、青年成人、特に流行地域への旅行者や医療従事者、軍人などの需要に期待しているようだ。

承認が遅れたのは安全性懸念が理由。ウェゲナー肉芽腫のリスクでクリニカル・ホールドになったり、心血管疾患の発症が対照群より多かったりした。後者は発生率自体は決して高くなく、対照群が偶々少なかったという可能性もありそうだ。

何れにせよ市販後監視は必要だが、8年後に心血管リスクに関する後顧的解析結果を報告という会社計画は支持されず、前向き研究でもっと早く安全性を確認すべきと主張する委員が多かった。修正して再提出するのに日数がかかるので、承認は審査期限である8月10日には間に合わないのではないか。

リンク: Dynavaxのプレスリリース

【承認】


EUがアッヴィとギリアドのC型肝炎治療薬を承認
(2017年7月28日発表)

6月のCHMPで肯定的意見を受けた二種類の慢性C型肝炎治療薬が承認された。

アッヴィのMaviret(glecaprevir、pibrentasvir)はEnanta Pharmaceuticals(Nasdq:ENTA)との研究開発提携の成果であるNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤とNS5A複製複合体阻害剤の合剤。1型から6型まで有効な汎遺伝子型直接作用性抗ウイルス剤で、初治療/再発治療を問わず、代償性肝硬変や重度慢性腎疾患にも有効。ribavirinを併用する必要がなく、治療期間は3型感染の治療経験者は16週間だが、新患で肝硬変合併前なら8週間で足りる。一日一回、三錠服用する。

リンク: アッヴィのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVoseviはSovaldi(和名ソバルディ)の活性成分であるNS5Bポリメラーゼ阻害剤、sofosbuvirと、汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤のvelpatasvir、そして新開発の汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤、voxilaprevirを配合。こちらも遺伝子型1~6型の初回・再発治療に一日一回経口投与。

米国では8週間コースは承認されなかったが、EUは、直接作用性抗ウイルス剤による治療を初めて受ける肝硬変のない患者向けなどに承認された。Maviretに対抗するために重要。

リンク: ギリアドのプレスリリース






今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿