2017年5月28日

2017年5月28日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アムジェン、骨粗鬆症新薬に副作用懸念 
  • セルジーン、多発硬化症新薬の二本目の第三相も成功 
  • キイトルーダ、胃癌に適応拡大申請 
  • オプジーボ、肝癌で承認申請 
  • サン、抗IL-23抗体を米国で承認申請 
  • FDA諮問委員会、プーマの汎erbB阻害剤を支持 
  • FDA諮問委員会が19年ぶりの鎌状赤血球症治療薬候補を支持 
  • リジェネロンの抗IL-6受容体抗体が承認 
  • キイトルーダ、MSI-H/dMMR癌に承認 
  • アクテムラ、米国で巨細胞性動脈炎に承認 
  • ノバルティス、ジカディアの一次治療が承認 


【新薬開発】


アムジェン、骨粗鬆症新薬に副作用懸念
(2017年5月21日発表)

アムジェンは昨年7月に米国でEvenity(romosozumab)を骨粗鬆症治療薬として承認申請したが、最近開票したARCH試験で心血管疾患リスク懸念が浮上した。過去の試験では見られなかった由なので只のノイズの可能性もあるが、精査が必要だ。米国の審査期限は7月19日だが、アムジェンによると、年内の承認は期待できなくなった。日本ではアステラス製薬との合弁会社が昨年12月に承認申請しており、今後、機構と相談する。欧州は引き続き承認申請の準備を進める考え。

romosozumabは2002年にセルテック(後にUCBが子会社化)のCDP7851をライセンス、AMG785として開発したもの。抗体医薬で、Wntや骨形態形成蛋白のシグナル伝達パスウェイを阻害して造骨細胞の抑制をもたらすスクロスチンを阻害する。ビスフォスフォンなどの既存の骨粗鬆症治療薬は主として破骨細胞を抑制するタイプが多い。造骨細胞活性化薬は骨密度増強作用が高いが、腫瘍リスクを高めてしまう懸念があるため、1~2年間治療してその後はビスフォスフォン酸など破骨細胞抑制型にスイッチするのが一般的な用法だ。

Evenityの承認申請用第三相閉経後骨粗鬆症治療試験(FRAME試験)も、1年目はromosozumabまたは偽薬を投与し2年目は両群ともdenosumabにスイッチした。造骨細胞増強型である遺伝子組換え型副甲状腺ホルモン、Forteo(teriparatide)と比較した試験や、骨粗鬆症の男性を組入れた試験も実施されたが、どちらも治療期間は1年だった。

今回のARCH試験は、骨折リスクが高い閉経後骨粗鬆症を対象に、romosozumabを1年間、月一回皮注して2年目はalendronateの週一回投与製剤にスイッチする治療法と、2年間alendronate週一回投与を続ける群の骨損壊リスクを比較したもの。薬効の面では優れており、romosozumab群は2年間の新脊椎損壊が50%少なく、臨床的に重要な骨折に限定しても27%少なかった。QOLに大きな影響を与える、大腿骨骨折は有意な差はなかった。

心血管疾患の偏りは、1年間の心血管深刻有害事象発生率が2.5%でalendronate群の1.9%を上回った。臨床的に重要な骨折の発生率は未公表だが、FRAME試験では年1~2%だったので、number needed to treatもnumber needed to harmも大差なかっただろう。従って、看過できるリスクではない。

FRAME試験では群間の偏りはなかったとのことだ。ARCH試験の組入れは4093人、FRAME試験は7180人なので、FRAME試験のほうが信用できそうだが、イベントリスクの比較における検出力は組入れ数ではなくイベント発生数と相関するので、詳細が発表されるまでは何とも言えない。

リンク: アムジェンとUCBのプレスリリース

セルジーン、多発硬化症新薬の二本目の第三相も成功
(2017年5月22日発表)

セルジーンは、RPC1063(ozanimod)の二本目の第三相再発性多発硬化症試験が成功したことを発表した。Gilenya(fingolimod)と同様なスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節剤だがS1P1受容体とS1P5受容体に選択的に作用するので、新毒性や肝毒性が小さいようなら優良な代替薬になりうるだろう。15年にReceptosを72億ドルで買収して入手したパイプライン。

第三相は二本とも0.5mgまたは1mgを一日一回、経口投与する群の再発率をAvonexを週一回筋注する群と2年間に亘って比較した。結果は、両試験、両用量ともAvonex群より有意に小さかった。但し、障害進行抑制効果を検討するために行ったプール分析は、Avonex群も進行が小さかったせいか、フェールした。EDSSスコアで評価したものと推測されるが、あまり鋭敏なスコアではないので、これも、実際のデータやp値が公表されるまで何とも言えないだろう。

リンク: セルジーンのプレスリリース

【承認申請】


キイトルーダ、胃癌に適応拡大申請
(2017年5月23日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の適応拡大申請を米国で行い受理されたことを発表した。難治性・末期の胃・胃食道接合部腺癌の三次治療に用いるもので、優先審査を受ける。審査期限は9月22日。

第二相試験のコフォート1のデータに基づく申請で、259人(うち、57%がPD-L1陽性)のORR(客観的反応率)は11.2%、メジアン反応持続期間は8.1ヶ月。G3からG5までの治療関連有害事象発生率は16.6%で、うち2人は急性腎障害と腹水により死亡した。

リンク: MSDのプレスリリース

オプジーボ、肝癌で承認申請
(2017年5月24日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の適応拡大申請を米国で行い受理されたと発表した。末期肝細胞腫でNexavar(sorafenib)治療歴を持つ患者に用いるもので、優先審査を受ける。審査期限は9月24日。

第二相試験のsorafenib歴コフォートの解析では、第三者査読によるORR(客観的反応率)が15%だった。尚、この試験のsorafenib未経験者コフォートのORRは20%となっている。

リンク: BMSのプレスリリース

サン、抗IL-23抗体を米国で承認申請
(2017年5月24日発表)

インドのサン・ファーマシューティカルズは、MSDがtildrakizumabを中重度乾癬治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。サンは14年に世界での権利を取得しており、承認後はサンが開発販売する。欧州は昨年7月にサンから欧州における乾癬領域での開発商業化権を取得したAlmirallが承認申請、3月に受理されている。

MSDがMK-3222名で開発した抗IL-23p19抗体。第三相試験ではPASI75奏効率が60%台で、Enbrel(etanercept)を上回った。

ジョンソン・エンド・ジョンソンも抗IL-23p19抗体のCNTO 1959(guselkumab)を昨年11月に欧米で、今年4月には日本でも、承認申請しており、開発スピードでも、販売力でも、こちらの方が優勢のように見える。薬効の比較は直接比較試験が行われたわけでもないので難しいが、guselkumabも第三相試験で実薬であるHumira(adalimumab)を上回る効果を示した。

抗IL-23p19抗体はジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab)と異なりIL-12は阻害しないため、腫瘍リスクなど安全性面で優れる可能性があるが、稀な事象なので、臨床開発プログラム全体のデータを見ないと判定できない。FDAの分析結果が注目される。

リンク: サンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、プーマの汎erbB阻害剤を支持
(2017年5月24日発表)

FDAの腫瘍学薬諮問委員会は、プーマ・バイオテクノロジー(NYSE:PBYI)が承認申請したPB272(neratinib)を検討し、16人の委員のうち12人が便益がリスクを上回ると判定した。適応が制限される可能性が残っているものの、承認の可能性が高まった。

ワイスがHKI-272名で開発した不可逆的汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤で、ワイスを買収したファイザーが第三相まで持っていったがドロップ、11年にプーマに世界開発販売権を供与したもの。プーマの創立者は、クーガー・バイオテクノロジー社を設立して前立腺癌用薬Zytiga(abiraterone acetate)の開発を成功させ、会社ごとジョンソン・エンド・ジョンソンに売却した実績を持つ、元々はWells Fargoのアナリストだった人物だ。プーマ(ピューマ)はクーガーの別名らしい。

I-SPY 2試験で第三相試験の予想成功確率78%という大変良いデータが出て注目されたが、開発後期試験は一進一退で難航した。承認申請の根拠となったのは日本の施設も参加して行われた早期乳癌延長アジュバント試験、ExteNET試験だが、この試験もプロトコルが変遷した。

her2陽性の早期乳癌で摘出術後にHerceptin(trastuzumab)を含むアジュバント療法を受けた患者を対象に、更にneratinibまたは偽薬を投与したが、当初はステージ1~3でHerceptinを終えてから2年以内という条件だったが、ステージ2~3、1年以内に変更。追跡期間は5年から2年になりその後また5年に戻った。主評価項目もtime-to-eventではなく2年間のイベント発生率の分析に変わった。

結果は、2年経過時点の浸潤性乳癌無再発率(DFS)が94.2%と偽薬群の91.9%を上回り、ハザードレシオ0.66、p=0.008となった。事前に計画されたサブグループ分析では、ホルモン受容体陽性癌ではハザードレシオ0.49だったが、陰性では0.93で大差なかった。また、Herceptin終了後1年以内の患者ではハザードレシオ0.63だったが1年以上は0.92だった。承認に否定的な委員は一部の患者にしか効果が見られないことを重視した。肯定的な委員の中にも適応を狭めるべしという意見があった。

her2だけでなくEGFRも阻害すると下痢の副作用が顕著になる。neratinibは3分の2の患者が下痢で用量を減らしたり一時中断したりした。ロペラミドやブデソニドを用いて緩和することができる模様だ。

リンク: プーマ社のプレスリリース
リンク: Lancet誌の治験論文抄録(ExteNET Study Group)

FDA諮問委員会が19年ぶりの鎌状赤血球症治療薬候補を支持
(2017年5月24日発表)

FDA腫瘍学諮問委員会は、Emmaus Life Sciencesが鎌状赤血球症治療薬として承認申請したEndari(L-glutamine)を検討し、13人の委員のうち10人が便益がリスクを上回ると判定した。審査期限は7月7日。承認されれば、この病気では98年のヒドロキシウレア以来、19年ぶりの新薬になる。

医薬品として用いられている経口アミノ酸。酸化に弱い鎌状赤血球が抗酸化物質を作るのに必要なL-グルタミンを補充するアイディアに基づいて開発、第三相試験では、鎌状赤血球クリーゼ(急性増悪による痛みで治療を受ける)が48週間に平均3.2回と、偽薬群の3.9回より有意に少なかった。数字を見る限りではすごく効く訳ではなさそうだ。

リンク: Emmaus社のプレスリリース


【承認】


リジェネロンの抗IL-6受容体抗体が承認
(2017年5月22日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、FDAがKevzara(sarilumab)を承認したと発表した。中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として、単剤または併用で、200mgを二週間に一回皮注する。中外製薬/ロシュのActemra(tocilizumab)と同じIL-6受容体に結合する抗体医薬で、副作用の出方もよく似ている。米国でのWAC(問屋取得価格)は年39000ドルで既存のバイオ薬より3割安く設定した由。

リンク: 両社のプレスリリース

キイトルーダ、MSI-H/dMMR癌に承認
(2017年5月23日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab)をMSI-H/dMMR腫瘍のサルベージ療法として承認した。乳癌とか結腸直腸癌とか原発部位ではなく、遺伝子署名に基づいて適応を決めたのは今回が初めて。これまでにもHerceptinがher2陽性の乳癌と胃癌に承認されるなど、類似例はあったが、今回のように多種の癌に跨る適応が増えると、治療法を検討する前に様々な遺伝子プロファイリングを行わなければならなくなるだろう。

dMMRは遺伝子が複製される過程で必然的に発生する翻訳ミスが、修復メカニズムの機能不全により修復されず、癌細胞と他の細胞の遺伝子がマッチしない。マイクロサテライトと呼ばれる特定の塩基配列が何度も繰り返され複製ミスが起こりやすい箇所を比較するのが典型的な検査方法で、繰り返し回数が違うとMSI-Hと判定される。リンチ症候群患者の結腸直腸癌の研究から発展した手法で、切除不能転移性結腸直腸癌では5%程度が該当し、そのほかに内膜腫や胃癌、頻度は低いが乳癌や前立腺癌、膀胱癌、甲状腺癌などでも見られる由だ。

加速承認で、ORRは39.6%、78%は反応が6ヶ月以上持続した。小児にも承認したが薬効や安全性のエビデンスはない由。成人には200mgを3週間毎に30分点滴静注。小児の用量は2mg/kg。最長2年間まで投与できる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース(5/26付け)

アクテムラ、米国で巨細胞性動脈炎に承認
(2017年5月23日発表)

ロシュは、FDAがActemra(tocilizumab)を巨細胞性動脈炎の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。標準治療薬であるステロイドの用量を減らしながら寛解を目指すことが可能になる。日本では欧米に多い巨細胞性動脈炎だけでなくアジアや中近東で多い高安動脈炎も含めて、大型血管炎の治療薬として中外製薬が昨年12月に効能効果追加申請している。

リンク: ロシュのプレスリリース

ノバルティス、ジカディアの一次治療が承認
(2017年5月26日発表)

ノバルティスは、FDAがZykadia(ceritinib、和名ジカディア)をALK陽性転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いることを承認したと発表した。エビデンスとなったASCEND-4試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が16.6ヶ月と、pemetrexed・白金薬併用群(pemetrexed維持療法も可)の8.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.55、統計的に有意だった。脳転移にも効果が見られた。

尚、pemetrexedは扁平上皮性非小細胞性肺癌に対する効果が弱く、非扁平上皮性非小細胞性肺癌に用いられる。ASCEND-4試験もこのタイプ限定だが、Zykadiaの承認は限定されていない。もしpemetrexedの効果が偽薬並みであったとしてもそれを有意に上回るなら良し、という考え方なのだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース





今週は以上です。

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