2017年3月5日

2017年3月5日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アムジェン、カイプロリスが全生存でもベルケイドに勝つ 
  • Kite PharmaのCAR-Tは反応率41% 
  • Juno、CAR-Tの一つを開発中止 
  • La Jolla、合成ヒトAT2の第三相が成功 
  • セルジーン、IDH2阻害剤をFDAに承認申請 
  • テバ、遅発性ジスキネジア治療薬を米国で承認申請 
  • 米国で夜間多尿用薬が承認 
  • 米国でカルチノイド症候群の下痢治療薬が承認 
  • ミティキュアダニ舌下錠が米国でも承認 



【新薬開発】


アムジェン、カイプロリスが全生存でもベルケイドに勝つ
(2017年3月3日発表)

アムジェンは、多発骨髄腫の二次治療における直接比較試験、ENDEAVORの全生存期間の解析結果をIMW(国際骨髄腫ワークショップ)で発表した。Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)は武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)を有意に上回った。この二剤のシェア動向に与える影響は明確ではないが、プラスにはなるだろう。最近の新薬に対抗する上でも役立つだろう。

ENDEAVORは、Kyprolisとdexamethasoneを併用するKdレジメンとVelcade・dexamethasoneのVdレジメンを比較した第三相試験。主評価項目であるPFS(無進行生存期間)は15年に中間解析で成功した。Kd群のメジアンは18.7ヶ月、Vd群は9.4ヶ月、ハザードレシオ0.53、95%信頼区間0.44~0.65だった。

G3以上の有害事象でKd群の発生率が高かったのは、高血圧が各群9%と3%、心不全4.7%と1.8%、急性腎不全4.0%と2.6%。G2以上の神経症は6%と32%で過去の試験と同様にVelcadeより低かった。

IMWで発表された全生存データは、メジアン値が47.6ヶ月と40.0ヶ月、ハザードレシオは0.79、95%信頼区間0.65~0.96、p=0.01。被験者の半分は一次治療でVelcadeを用いていたが、このサブグループのハザードレシオは0.84、未経験者では0.75だった。

一次治療で用いた薬をもう一度使うよりは違う薬、できれば異なった作用機序の薬を使うほうが有効だろう。ENDEAVOR試験のVelcade経験者のデータは、多発骨髄腫用薬の選択肢が増えた今日では、あまりインプリケーションがないのではないか。同じ作用機序のKyprolisを使うのと新作用機序の薬のどちらが適当か、エビデンスが欲しいところだ。

未経験者のデータは二次治療におけるKyprolisの優位性を示唆したが、一次治療での雌雄は決していない。melphalan及びprednisoneと併用する効用を比較したCLARION試験では有意差は出なかった。最近流行りのRevlimid・dexamethasoneとプロテアソーム阻害剤を三剤併用するレジメンではどちらが良いか、忍容性はボトルネックにならないか、も検討課題だ。

リンク: アムジェンのプレスリリース

Kite PharmaのCAR-Tは反応率41%
(2017年2月28日発表)

Kite Pharma(Nasdaq:KITE)は、KTE-C19(axicabtagene ciloleucel)のZUMA-1試験の解析結果を発表した。化学療法難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL、n=77)のコフォートではORR(客観的反応率)が82%、完全反応率は49%、転換濾胞性リンパ腫(TFL)と原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)のコフォート(n=24)では各83%と71%で、合計では各82%と54%となった。

これらのデータは反応の持続性は考慮していないのだろう。6ヶ月時点のORRと完全反応率はDLBCLでは36%と31%、TFL/PMBCLでは54%と50%、合計で41%と36%となっている。DLBCLはずいぶん低下するがそれでも良い数値であることに変わりはない。

G3以上の有害事象では、CAR-Tの特徴的な副作用であるサイトカイン放出症候群の発生率が13%、神経学的イベントが28%。治療時発現有害事象による死亡は3例で、血球貪食性リンパ組織球増多症とサイトカイン放出症候群発症患者の心停止、肺塞栓。

既にFDAにローリング承認申請を開始しており、今月中に今回のデータを提出して完了する予定。

KTE-C19はB細胞表面抗原であるCD19に結合する抗体の短鎖フラグメントと膜貫通ドメイン、そしてT細胞に活性化刺激を送るCD3ゼータとCD28で構成される。患者の血液細胞を採取してから加工・培養された薬剤が医療施設に届くまでの平均リードタイムは17日間、生産成功率は99%とされる。

日本での製造開発販売権は第一三共が取得した。

リンク: Kiteのプレスリリース

Juno、CAR-Tの一つを開発中止
(2017年3月1日発表)

Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、2016年12月期の決算発表と合わせてパイプライン・アップデートを行い、JCAR015の開発中止決定を明らかにした。

JCAR015は、上記のKite Pharma(Nasdaq:KITE)のKTE-C19や、ノバルティスがペンシルバニア大学からインライセンスし年内にB細胞性非ホジキン型リンパ腫及びB細胞性急性リンパ性白血病で承認申請予定のCTL019と同じ、B細胞の表面分子であるCD19を標的とするCAR-T療法。ファースト・イン・クラスの名誉と富を目指して開発競争は激烈だ。

Junoはセルジーン(Nasdaq:CELG)と開発販売提携を結んで2017年中の承認取得を目指してきたが、急性リンパ性白血病の第二相で脳浮腫による死亡が5例発生、FDAがクリニカルホールド(治験許可の停止)を命じたため、出遅れてしまった。

なぜ発生したのか?CAR-Tの組成、プリコンディショニングで用いた薬の種類や用量、など色々考えられるようだ。Junoはプロトコルを見直しプロセスを改善すれば対処可能と信じながらも、JCAR017などの次世代品にシフトすることを決めた。

JCAR017がJCAR015と異なる点は、副刺激ドメイン(CD28ではなく4-1BB、細胞の増殖が当初は穏やかだが長期持続的になる由)、細胞(CD4陽性のT細胞とCD8陽性のそれが1対1の割合)、製法(ナイーブ細胞や静止細胞が多い)、ベクター(ガンマ・レトロウイルスではなくレンチウイルスを使用)とのこと。

開発競争が激しいとフライングによる失敗も増える。一部企業がドロップアウトしても残りは無事ゴールインすることもあれば、一部企業の開発品で表面化したボトルネックが後にクラスイフェクトであることが判明することもある。CAR-Tは注目に値する新技術だけに、他山の石とすべきだろう。

リンク: Junoのプレスリリース

La Jolla、合成ヒトAT2の第三相が成功
(2017年2月27日発表)

La Jolla Pharmaceuticals(Nasdaq:LJPC)は、LJPC-501(合成ヒト・アンジオテンシンII)の第三相試験成功を発表した。カテコラミン抵抗性低血圧の重症患者を組入れて、昇圧剤に加えてLJPC-501を点滴静注したところ、3時間後の昇圧成功率が70%と偽薬群の23%を大きく上回り、検出力不足のため有意には届いていないものの死亡リスクが数値上22%小さかった。17年下期に承認申請すべくFDAと相談する考え。事前に特別プロトコル評価(SPA)を受けているので、安心感がある。

リンク: La Jollaのプレスリリース

【承認申請】


セルジーン、IDH2阻害剤をFDAに承認申請
(2017年3月1日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、FDAがCC-90007/AG-221(enasidenib)の承認申請を受理し、優先審査指定したことを発表した。審査期限は8月30日。IDH2(イソクエン酸脱水素酵素2)を阻害する経口剤で、変異IDH2型再発性難治性急性骨髄性白血病(AML)の治療に用いる。IDH2変異はAMLの8~19%とされる。判定に必要なアボットのm2000リアルタイム・システムもPMA(販売前承認)申請された。

同社がAgios Pharmaceuticalsと6年間に亘って行った癌代謝領域の戦略的協業の成果で、Agiosは達成報奨金と売上ロイヤルティを得る。

リンク: セルジーンのプレスリリース

テバ、遅発性ジスキネジア治療薬を米国で承認申請
(2017年2月28日発表)

テバ(NYSE:TEVA)は、deutetrabenazineを遅発性ジスキネジア治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査指定され審査期限は8月30日。VMAT-2(小胞モノアミントランスポーター2型)阻害剤でドパミンを抑制する。

ハンチントン舞踏病用薬として欧米で承認されているtetrabenazineの水素基を重水素基で置換し、不活化を遅らせることで半減期を伸ばすと共に、忍容性や代謝酵素に関わる個人差・薬物相互作用を改善した。15年に35億ドルで買収したAuspex Pharmaceuticalsの開発品。

15年にはハンチントン舞踏病治療薬として承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領した。代謝物に関する検討を要請された由であり、もし未回答であったならば、今回も同じ壁にぶつかるリスクがある。

VMAT-2阻害剤はNeurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)もIngrezza(valbenazine)を昨年8月に米国で遅発性ジスキネジア治療薬として承認申請しており、審査期限は来月11日。2月に諮問委員会の予定だったがキャンセルされた。

リンク: テバのプレスリリース

【承認】


米国で夜間多尿用薬が承認
(2017年3月3日発表)

FDAは、米国ペンシルバニア州のSerenity Pharmaceuticalsが夜間多尿治療薬として申請したNoctiva(desmopressin acetate)点鼻スプレーを承認した。一日一回、就寝30分前に用いる。腎臓で再吸収される水分を増やす作用があり、臨床試験では夜間の排尿回数を減らす穏やかな効果が見られた。

治療開始前に夜間頻尿の原因が多尿であることを確認する。低ナトリウム血症のリスクがあるため、治療開始前と開始後も定期的に検査し、高齢者など高リスク患者には低量で開始することが推奨されている。症候性鬱血性心不全や管理不良高血圧は病状が悪化するリスクがあるため禁忌。

Serenity社はNoctivaの開発販売でアラガンと提携している。

リンク: FDAのリリース

米国でカルチノイド症候群の下痢治療薬が承認
(2017年2月28日発表)

FDAは、米国テキサス州のLexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)がカルチノイド症候群の下痢の治療薬として申請したXermelo(telotristat ethyl)を承認した。ソマトスタチン・アナログによる治療だけでは不十分な患者に一日三回、経口投与する。

カルチノイド症候群は消化管などの神経内分泌腫瘍の1割程度で発症する疾患で、セロトニンが過剰に生産され重度の下痢や紅潮、長期的には栄養障害や心臓病を発症する。Xermeloはセレトニン生産の調律酵素であるTPH(トリプトファン水酸化酵素)を阻害する作用があり、第三相試験では腸の活動回数が29%減少した(偽薬群は17%)。

主な有害事象は重度の便秘。第三相では500mgを一日三回投与する群も設定されたが承認されたのは250mgだけだった。臨床試験で承認量を超えて投与したところ一人が便秘で入院、二人が腸の穿孔・閉塞を発症した由。

北米や日本以外の権利はイプセンが保有している。

リンク: FDAのリリース
リンク: Lexiconのプレスリリース

ミティキュアダニ舌下錠が米国でも承認
(2017年3月1日発表)

FDAは、Odactraをイエダニによるアレルギー性鼻炎の治療薬として承認した。ダニから抽出調製したエキスを舌下錠にしたもので減感作療法に用いる。

コペンハーゲン証券取引所上場のAlk Abelloが元々はシェリング・プラウに北米などの権利を導出したもので、同社を買収したMSDが承認申請したが、昨年7月に提携解消した。草アレルギー性鼻炎の減感作療法用舌下錠として承認されているGrazaxやRagwitekと同様に、宙に浮いた格好だ。

Odactraは欧州では15年にAcarizax名で承認。日本では鳥居薬品が導入してミティキュアダニ舌下錠として販売している。

リンク: FDAのリリース
リンク: Alk Abelloのプレスリリース






今週は以上です。

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