2017年3月19日

2017年3月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:抗PCSK9抗体の心血管アウトカム試験が成功 
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤の適応拡大試験が成功 
  • Catalyst社、筋無力症の第三相へ 
  • アストラゼネカ、ZS-9は再び審査完了 
  • ノバルティスのCDK阻害剤が米国で承認 
  • キイトルーダもホジキン型リンパ腫に承認 
  • FDA、Viberziの禁忌を追加 


【新薬開発】


ACC:抗PCSK9抗体の心血管アウトカム試験が成功
(2017年3月17日発表)

アムジェンの抗PCSK9完全ヒト化抗体、Repatha(和名レパーサ)の心血管リスク削減効果を検討したアウトカム試験の結果がACC米国心臓学会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。ハザードレシオは0.85と、リスクが偽薬比有意に低下したが、NNT(number needed to treat)は約120人年で費用対効果の点では物足りないものだった。

抗PCSK9抗体はproprotein convertase subtilisin/kexin type 9が肝細胞のLDL受容体に結合して零落・リソソームで分解させるのを阻害する。効果は強力でLDL-Cを50~60%下げることができる。二週間に一回、皮注する(Repathaは四週間に一回皮注用の製剤もある)。

Repathaと、リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発販売しているPraluent(alirocumab、和名プラルエント)が15年に欧米で、16年には日本でも、承認された。ファイザーもPF-04950615/RN316(bococizumab)で第三相試験を行ったが、開発中止になった(後述)。

また、RNA介入技術を用いてPCSK9の合成を阻害するALN-PCSsc(inclisiran)もアルナイラム・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ALNY)がメディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)と共同開発している。これも皮注用薬だが、RNA介入の一般的なイメージとは異なり作用が長期間持続するため、2~6ヶ月毎の投与で足りる可能性がある。

今回のFOURIER試験は、心筋梗塞などの心血管疾患歴を持ち中度以上の力価のスタチンを服用しているLDL-Cが70mg/dL以上の患者約27000人を偽薬群とRepatha群に無作為化割付けして、メジアン2.2年間フォローした。主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症入院、冠血行再建術の複合評価項目。一般的な指標であるMACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)は主要副次的評価項目とされた。

結果は、主評価項目のハザードレシオが0.85、95%信頼区間0.79~0.92、p<0.001。カプランメイヤー推定による2年間の発生率は偽薬群10.7%、Repatha群9.1%だった。MACEは各0.80(0.73~0.88)、p<0.001、6.8%対5.5%となった。心筋梗塞、冠血行再建術、脳卒中がそれぞれ偽薬群より2割少なく、心血管死や不安定狭心症入院は各群大差なかった。

Repatha群のLDL-C値はベースライン時点の92mg/dLから30mg/dLに67%低下した。事前の予想以上だが、心血管リスク削減率は予想以下だった。

安全性面では深刻な有害事象、スタチンで見られる糖尿病や筋障害、白内障のリスク、毒性試験で浮上した懸念材料である神経認知有害事象、高分子薬のチェックポイントであるアレルギー反応の何れも、両群大差なかった。注射箇所反応は2.1%で発生、偽薬群の1.6%を少し上回った。良好な内容だが、スタチンのアウトカム試験の5年間追跡と異なり本試験は2年強なので、今後さらに追跡する必要があるだろう。

この試験は三つの点で意義がある。第一に、抗PCSK9抗体の心血管リスク削減効果を立証した。フィブレートのように期待外れな薬剤もあったので、確認することは重要だ。第二に、30~90mg/dLという超低域でもLDL-Cを引き下げれば心血管リスクを削減でき、副作用面では大きな問題はないことを明確にした。

第三に、但し、NNTは決して小さくはなく、Repathaがコレステロール治療薬としては著しく高価であることを考えると、費用対効果面で疑問が残った。日本の薬価ベースで計算すると、MACEを一例減らすために必要な薬剤費は1億円だ。

さて、上記のようにファイザーは昨年11月にbococizumabの開発中止を発表したが、ACCとNEJMで理由が明らかにされた。中和抗体リスクである。薬剤に対する抗体が48%の患者で発生、中和抗体発生率は29%で、発生した患者ではLDL-C低下作用が減衰した。第三相の心血管アウトカム試験二本のうち一本しか成功しなかったのは、中和抗体によるLDL-C治療の失敗が原因である可能性がある。

Repathaは抗体発生率0.3%、中和抗体はゼロだった。NEJMに掲載されたRothらのCorrespondenceによるとPraluentは各5%と1.3%だった。検査方法が違う模様なので比較は難しいが、bococizumabはヒト化抗体でマウス由来の塩基配列が少し残っていること、PraluentはIgG2ではなくIgG1型抗体であることを考えれば、リスクが違っていても不思議はない。

bococizumabの開発中止は、この薬剤に特有のリスクなのか、クラスイフェクトの可能性があるのかが重要な関心事だった。今回、三剤の開発に携わる製薬会社と研究者が夫々の知見を持ち寄って同じ学会、医学誌で発表したことは賞賛すべきである。医学は人類共通の財産だ。

リンク: アムジェンのプレスリリース
リンク: Sabatineらの治験論文(NEJM誌)
リンク: Ridkerらのbococizumabに関する治験論文(NEJM誌)

アストラゼネカ、PARP阻害剤の適応拡大試験が成功
(2017年3月14日発表)

アストラゼネカは昨年10月にLynparza(olaparib)の適応拡大試験成功を発表したが、具体的な内容がSGO(婦人科腫瘍学会)年次総会で明らかにされた。他社の開発品と見比べても良い結果だ。

LynparzaはDNA修復に係るポリ(ADP-リボース)合成酵素(PARP)を阻害する経口剤で、14年にBRCA変異型卵巣癌向けに承認されたが、EUがメーカーの申請通り、白金薬に反応した患者の維持療法として承認したのに対して、米国は、臨床試験のエビデンスが明確でないせいか、それとも血液癌による死亡例が散見されたせいか、サルベージ用途しか認めなかった。

今回のSOLO2試験は、生殖細胞性BRCA変異を持つ卵巣癌で白金ベースの二次治療に反応した患者の維持療法としての効果を偽薬と比較した。結果は、担当医評価PFS(無進行生存期間)がメジアン19.1ヶ月と偽薬群の5.5ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.30、p<0.0001だった。第三者が盲検で査読したPFSも各30.2ヶ月、5.5ヶ月、0.25、p<0.0001。G3以上の有害事象の発生率は36.9%対18.2%で、悪心嘔吐や疲労、骨髄抑制が増加した。

PARP阻害剤の開発はヒートアップしており、Clovis Oncologyはファイザーからrucaparibを導入、昨年12月にBRCA変異陽性卵巣癌の三次治療薬としてFDAの承認を取得した。Tesaro(Nasdaq:TSRO)はMSDからniraparibを導入して難治性白金感受性卵巣癌用薬としてFDAに承認申請した。Lynparzaのデータは、異なった試験のデータなので直接比較することはできないが、niraparibよりかなりよく見える。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


Catalyst社、筋無力症の第三相へ
(2017年3月15日発表)

Catalyst Pharmaceuticals(Nasdaq:CPRX)は、amifampridine phosphateの第二相重症筋無力症研究者主導試験の結果を発表した。ヘッドラインは良さそうだが小規模な試験なので何とも言えない。詳細は学会発表の予定。第三相ステージアップを決めたので、その結果を待ってから判断しても遅くないだろう。

amifampridine phosphateはカリウムチャネルブロッカーで、09年にEUでランバート・イートン筋無力症候群用薬として承認されたが、文献データに基づく、例外的環境規定による承認なので、エビデンスは明確ではない。米国はバイオマリンから権利を取得したCatalystが15年に承認申請したが受理されなかった。

今回の試験は、MuSK-MG(K筋特異的受容体型チロシンキナーゼに対する抗体を保有する重症筋無力症)の患者7名を組入れたクロスオーバー試験で、4週間のランイン期間に滴定し、1週間ずつ3回のクロスオーバーを行って、QMGスコアとMG-ADL総合スコアの変化を偽薬投与期間と比較した。何れもp値が0.001を下回っており、短期間で大きな効果が出たことになる。

Catalystは米国で多施設ピボタル試験を行う予定。

重症筋無力症はアセチルコリン受容体に対する抗体を保有している患者が多く、抗MuSK抗体保有は全体の数パーセント、米国では4500人と推測されている。

リンク: Catalystのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アストラゼネカ、ZS-9は再び審査完了
(2017年3月17日発表)

アストラゼネカはZS-9(sodium zirconium cyclosilicate)を高カリウム血症治療薬として承認申請中で、EUでは2月にCHMPの肯定的意見を得たが、米国は難航している。昨年5月に審査完了通知を受領、その後、問題点に回答したが、再び審査完了通知を受領した。ZS Pharmaを27億ドルで買収して入手したコンパウンドだけに遅延は痛い。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


ノバルティスのCDK阻害剤が米国で承認
(2017年3月13日発表)

ノバルティスはFDAがKisqali(ribociclib)をホルモン受容体陽性her2陰性閉経後乳癌の一次治療薬として承認したと発表した。アロマターゼ阻害剤と併用で、一日一回、21日連続で経口投与し7日間休むスケジュール。

第三相試験で同社のFemara(letrozole)と併用したところ、PFS(無進行生存期間)がFemaraだけの群より有意に改善した(ハザードレシオ0.556、p=0.000003、メジアンは未達でFemara群は14.7ヶ月)。WACは21日分が10950ドルである模様。

05年にAstex Pharmaceuticals(13年に大塚製薬が子会社化)と開始した細胞周期制御に関する共同研究の成果で、細胞周期進行に関わるCDK4/6を高度選択的に阻害する。ファイザーのIbrance(palbociclib)に次ぐセカンドインクラス。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

キイトルーダもホジキン型リンパ腫に承認
(2017年3月14日発表)

MSDはFDAがKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を難治性古典的ホジキン型リンパ腫の四次治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。ホジキン型リンパ腫のうち古典的は9割超を占める。200mgを3週間毎に投与したKEYNOTE-087試験では、ORR(総合反応率)が69%、完全寛解率は22%、反応患者のメジアン反応期間は11ヶ月だった。

BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)も日米欧で承認されており、先にOpdivoを使った患者が四次治療でKeytrudaを使う可能性は低いのではないか。

Keytrudaは高マイクロサテライト不安定性腫瘍の適応拡大も審査中だが、追加データ提出に伴い審査期限が6月9日に3ヶ月延期されたことも発表された。

リンク: MSDのプレスリリース(古典的ホジキン型リンパ腫承認)
リンク: MSDのプレスリリース(高マイクロサテライト不安定性腫瘍の審査期間延長)

【医薬品の安全性】


FDA、Viberziの禁忌を追加
(2017年3月15日発表)

FDAは、アラガン(NYSE:AGN)の下痢型過敏性腸症候群治療薬、Viberzi(eluxadoline)について、膵炎のリスクを改めて警告するとともに胆嚢を持たない患者は禁忌とすることを発表した。致死的あるいは入院に至る深刻な膵炎のリスクが高いため。既知のリスクだが、投与量を減らすだけでは足りないことが判明した。

15年5月の米国承認から17年2月までの期間に、FDAの有害事象報告システム(FAERS)に120例の深刻な膵炎・死亡例が報告された。76人が入院し、二人が死亡した。120例のうち6例はオディ括約筋の痙攣も、16例は腹痛も、併発していた。

胆嚢の状況が報告されている68例のうち、56例は胆嚢を持たない患者だった。うち44例は現在承認されている用量(75mg一日二回、標準用量は100mg一日二回)を用いていた。アルコールもリスク要因だが、胆嚢のない症例ではアルコール乱用ではないことが確認された症例も多い。一回目の服用で死亡した患者もいるようだ。

15年5月から16年7月までに米国で処方された患者は34000人。

Viberziはミューとカッパ型のオピオイド受容体にアゴニストとして、デルタ型にはアンタゴニストとして作用する。胃腸運動性を調節し、デルタ受容体を阻害することでミュー受容体作動による便秘副作用を中和する。麻薬取締局が管理物質指定(スケジュールIV)。ジョンソン・エンド・ジョンソンからライセンスして開発したFuriexをForestが買収、そのForestをActavisが買収、そのActavisがアラガンと合併という経緯。

リンク: FDAの安全性情報





今週は以上です。

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