2017年2月19日

2017年2月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 筋ジストロフィーの「新薬」が販売中断に 
  • セルジーン、ozanimodの第三相多発性硬化症試験が成功 
  • MSD、抗HIV薬の第三相が成功 
  • MSD、アルツハイマー病用薬の第三相の一つを中止 
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤の乳癌適応拡大試験成功 
  • tivantinib、肝細胞腫もフェール 
  • ルミセフが米国でも承認 
  • イーライリリーら、EUでJAK1/2阻害剤の承認を取得


【今週の話題】


筋ジストロフィーの「新薬」が販売中断に
(2017年2月13日発表)

米国イリノイ州の希少疾患用薬会社、Marathon Pharmaceuticalsは、先日FDAに承認されたばかりのデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬Emflaza(deflazacort)の販売を中断すると発表した。高薬価批判が原因のようだ。

DMDの治療にはステロイドがオフレーベル使用されている。代表的な製品であるprednisoneと比べてdeflazacortは副作用が少ないとされるが、米国では今月まで承認・販売されていなかった。発売は朗報だが年89000ドルという価格が反響を呼んだ。カナダなら1000~2000ドルで買える古い薬がなぜこんなに高価なのか、連邦議会議員が再考を促す書簡を送付する事態になった。

海外で安く入手できるといっても正式に承認されているわけではなく、厳格な審査で知られるFDAのお墨付きを得たことはエビデンス作りの観点から意義がある。しかし、価格を正当化するにはそれだけでは足りない。開発コストは画期的新薬より小さいだろう。投資リターンは、米国独自の制度である希少小児疾患用薬優先審査バウチャーを獲得できるので売却すればそれだけで数億ドル回収できるだろう。

前例を見ると、米国だけ未発売の薬を20年遅れ、30年遅れで発売したり、オフレーベル使用されている用途で少し異なった(知的所有権保護を受けることのできる)製剤を投入しても、失敗することが多い。お金をかけてエビデンスを構築すれば感謝されるが、既存のエビデンスのない薬や並行輸入品、調剤薬局品を使っている医師や患者は高価な「新薬」に中々乗り換えない。サリドマイドはFDAが厳格な処方制限を課したことが却って幸いしたが、日本はセルジーンとは異なる会社が生産販売、欧州は調剤薬局品を駆逐できていない。

結局、deflazacortの価格がカナダの数十倍というのは初めから高すぎた。値引きをオファーすることになるのではないか。

リンク: Marathonのプレスリリース

【新薬開発】


セルジーン、ozanimodの第三相多発性硬化症試験が成功
(2017年2月17日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、ozanimodの第三相試験成功を発表した。再発型多発性硬化症を対象に、0.5mgまたは1mgを一日一回、経口投与する群の年率再発率を実薬であるAvonex(interferon beta-1a、週一回筋注)と比較したところ、有意に優れていた。

ozanimodはsphingosine 1-phosphate(S1P)受容体の1と5を選択的に調整する小分子薬。ノバルティス/田辺三菱製薬のGilenya(fingolimod)のようなS1P1受容体だけを調整する薬より心肝安全性やリンパ球数回復の点で優れると考えられている。潰瘍性大腸炎でも第三相中。

リンク: セルジーンのプレスリリース

MSD、抗HIV薬の第三相が成功
(2017年2月14日発表)

MSDは、抗HIV薬MK-1439(doravirine)の第三相試験成功を発表した。初めて治療を受ける成人患者に、核酸系逆転写阻害剤二剤をバックボーンとしてMK-1439と実薬であるPrezista(darunavir)とritonavirの併用レジメンのウイルス抑制奏効率を比較したところ、各83.8%と79.9%となり、非劣性であることが確認された。CD4陽性細胞の回復も同程度だった。

一方、LDL-Cは若干低下し、Prezista群の上昇とは対称的だった。有害事象による治験離脱は2%対3%で大差なかった。

MK-1439は非核酸系の逆転写阻害剤で、efavirenzより安全性が高いとされる。また、耐性ウイルスのタイプが既存薬と異なるので補完的。

リンク: MSDのプレスリリース

MSD、アルツハイマー病用薬の第三相の一つを中止
(2017年2月14日発表)

MSDは、MK-8931(verubecestat)の第三相軽中度アルツハイマー病治療試験を中止すると発表した。独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定したため。安全性は特に問題なく、前駆アルツハイマー病の第三相は続行される。

MK-8931はBACE1阻害剤で、MSDが買収したシェリング・プラウとライガンド・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:LGND)の共同研究の成果。アミロイドベータの蓄積を予防したり除去したりする作用機序の薬は第三相が続々とフェールしている。

リンク: MSDのプレスリリース

アストラゼネカ、PARP阻害剤の乳癌適応拡大試験成功
(2017年2月17日発表)

アストラゼネカはLynparza(olaparib)の乳癌適応拡大試験が成功したと発表した。LynparzaはBRCA変異陽性などの卵巣癌を適応に14年に欧米で承認されたPARP阻害剤。今回の試験はBRCA1/2変異陽性のher2陰性転移性乳癌を組入れてPFS(無進行生存期間)を化学療法群(capecitabine、vinorelbine、eribulinの中から担当医が選ぶ)と比較したもの。アストラゼネカは承認申請に向けて当局と相談する予定。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

tivantinib、肝細胞腫もフェール
(2017年2月17日発表)

ArQule(Nasdaq:ARQL)と第一三共は、ARQ 197(tivantinib)の第三相試験がフェールしたことを公表した。末期肝細胞腫の二次治療偽薬対照試験で、好中球減少症が見られらことから途中で用量を引き下げている。

c-MET阻害剤で、過去には非小細胞性肺癌試験の第三相試験が日本(協和発酵キリンが実施)でも海外でもフェールしている。

リンク: ArQuleのプレスリリース

【承認】


ルミセフが米国でも承認
(2017年2月16日発表)

FDAは、カナダのValeant Pharmaceuticals(NYSE:VRX)のSiliq(brodalumab、和名ルミセフ)を中重度プラク乾癬の治療薬として承認した。他の全身的治療法や光学治療がフェールまたは反応しなくなった患者に用いる。自殺念慮・企図リスクが枠付き警告され、REMS(リスク評価低減戦略)が課せられた。クローン病治療試験で悪化が見られたためクローン病の患者は禁忌。17年下期に発売される予定。

アムジェンが開発したIL-17受容体Aを標的とする完全ヒト化抗体。臨床試験で自殺念慮・遂行が40例以上と多かったため、アムジェンは商業上の理由で開発から離脱、炎症用抗体領域でアムジェンと開発提携しているアストラゼネカも自社販売を断念し、米国などの権利はValeantに、欧州などはLEO Pharmaに、導出した。日本は協和発酵キリンが16年7月に承認を取得、9月に発売した。

リンク: FDAのリリース
リンク: Valeantのプレスリリース

イーライリリーら、EUでJAK1/2阻害剤の承認を取得
(2017年2月13日発表)

イーライリリーとインサイト(Nasdaq:INCY)は、Olumiant(baricitinib)がEUで抗リウマチ薬として承認されたと発表した。中重度活性期リウマチ性関節炎で、一つ以上のDMARDs(疾病装飾的抗リウマチ薬)に十分に反応しない、あるいは忍容しない患者に、単剤またはmethotexateと併用で、一日一回経口投与する。

MTX服用患者に追加投与した試験では、ACR20奏効率が偽薬を追加した群より高かっただけでなく、Humira(adalimumab)を追加した群と比べても有意に高かった(偽薬群40%、Olumiant群70%、Humira群61%でHumira群に対するp値は0.014)。

リンク: イーライリリーらのプレスリリース
リンク: Taylorらの治験論文(New England Journal of Medicine)





今週は以上です。

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