2016年12月25日

2016年12月25日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 中外、A型血友病薬の第三相が成功 
  • Ionis、高TG血症治療薬の第三相が成功 
  • 二剤だけのHIV治療レジメン 
  • アッヴィ、汎遺伝子型抗HCV薬を米国申請 
  • Sarepta、筋ジストロフィー用薬をEUでも承認申請 
  • FDAが脊髄性筋萎縮症用薬を承認 
  • 第2のPARP阻害剤が米国で承認 



【新薬開発】


中外、A型血友病薬の第三相が成功
(2016年12月22日発表)

中外製薬とロシュは、ACE910/RG6013(emicizumab)の最初の第三相試験が成功したと発表した。第VIII因子インヒビターを持つA型血友病の患者109人を組入れて、それまでバイパス製剤によるルーチン予防を受けていた患者はACE910によるルーチン予防群に、受けていなかった患者はACE910によるルーチン予防を受ける群と受けない群に2対1割付けして、後二群の出血頻度を比較したもの。

有害事象では、血栓塞栓イベントが2例、血栓性微小血管症も2例、発生した。何れもルーチン予防群で、出血治療として活性化プロトロンビン複合体を投与した症例とのことなので、ACE910の副作用ではないかもしれない。転帰は悪くなさそうで、2例は投与を再開した。

どの程予防できたのかは未公表。インヒビターを持つ患者は第VIII因子が使えないので効果が小さくても意味はあるが、今後開票するインヒビターのない患者を対象とした試験は、長期作用性第VIII因子のルーチン予防試験と同程度の成績を上げないと、需要に響く。

血液凝固カスケードでは様々な凝固因子が連鎖反応的に活性化していって最後にフィブリンが形成される。その一つである第VIII因子が欠乏しているのがA型血友病で、出血時には遺伝子組換え型第VIII因子などを補充して止血する。頻繁に出血する患者は2~4日に一回、定期的に投与するルーチン予防療法を受ける。

補充療法を行ううちに第VIII因子に対する抗体(インヒビター)ができてしまうことがあり、その場合は、様々な凝固因子等の混合物であるバイパス製剤や活性化第VII因子を用いて治療する。

ACE910は活性化第IX因子と第X因子の両方に結合する二重特異性ヒト化抗体で、前者と後者をバイパスすることによって、第VIII因子がなくても第X因子を活性化できるようにする。週一回の皮注用薬なので投与も簡便。もう一本の第三相では二週間に一回投与もテストしている。中外製薬がロシュと共同開発している。

リンク: ロシュのプレスリリース

Ionis、高TG血症治療薬の第三相が成功
(2016年12月19日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)はアンチセンス薬の老舗で、最初の製品であるVitravene(fomivirsen)はあまり売れず販売中止になったが、 13年に高脂血症治療薬Kynamro(mipomersen sodium)が承認され、先週は後述の脊髄性筋萎縮症用薬が承認された。前後して、次のパイプラインであるISIS-APOCIIIRx(volanesorsen)の第三相高トリグリセライド(TG)血症試験成功が発表された。

血漿TGのクリアランスを制御する肝臓の蛋白、ApoC-IIIの生産を抑制するアンチセンス薬で、TGが減少しHDL-Cが増加する一方でLDL-Cは増加しないという特徴を持つ。

今回の第三相試験COMPASSは、TGが880mg/dLを超える重度高TG血症の患者114人を偽薬群と300mgを週一回皮注する群に無作為化割付して13週間治療したもの。偽薬群はTGが0.9%しか減らなかったが、試験薬群は71.2%減少し、有意に上回った。

有害事象による治験離脱は20%でその6割弱は注射箇所反応が原因。症状や不快感を伴わない疾患なので、コンプライアンスがあまり良くないようだ。

リンク: Ionisのプレスリリース

二剤だけのHIV治療レジメン
(2016年12月19日発表)

HIV/AIDSの治療は3種類以上の薬を併用するHAART(Highly Active Antiretroviral therapy)が一般的だ。ウイルスが一つの薬に耐性を獲得しても他の薬が攻撃するので耐性ウイルスの増殖を招きにくい。治療に成功しウイルスが検出不能になった後も副作用の多いHAARTを続けなければならないのか?どうもそのようだ。薬物療法を一定の期間休止するドラッグ・ホリディ手法を検討した試験の成績が芳しくないからである。

次の検討材料が、ジョンソン・エンド・ジョンソンとグラクソ・スミスクラインが共同開発している二剤併用による維持療法だ。前者の非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineと後者のインテグラーゼ阻害剤dolutegravirを用いる。三剤併用でウイルス抑制に成功した患者を組入れた、第三相スイッチ試験を二本実施していたが、両方成功し、ウイルス抑制成功率が3~4剤併用を続行した群と比べて非劣性であったことが発表された。両社はコンビ薬として承認申請する予定。

更に、長期作用性インテグラーゼ阻害剤cabotegravirとrilpivirineの筋注用ナノサスペンション製剤を併用する、4週間または8週間に一回の投与で足りるレジメンも開発中で、HIV感染予防用途で第三相入りした。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認申請】


アッヴィ、汎遺伝子型抗HCV薬を米国申請
(2016年12月19日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ABT-493(glecaprevir)とABT-530(pibrentasvir)の二剤併用レジメンを遺伝子型1~6型のC型肝炎ウイルス感染症の治療法として米国で承認申請した。前者はNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤、後者はNS5A複製複合体阻害剤。臨床試験でのSVR12(治療終了の12週間後における持続的ウイルス学的奏効率)は、肝硬変を伴わない患者の一次治療試験が8週間の投与で97.5%。重度慢性腎疾患を伴う患者を組入れた試験では12週間の治療で98%だった。

DAA(直接作用性抗ウイルス剤:プロテアーゼ阻害剤、NS5A複製複合体阻害剤、NS5Bポリメラーゼ阻害剤)による治療歴を持つ遺伝子型一型の治療法としてFDAがブレークスルー・セラピー指定している。ABT-493はEnanta Pharmaceuticalsから共同開発提携に基づきライセンスしたもの。

リンク: アッヴィのプレスリリース

Sarepta、筋ジストロフィー用薬をEUでも承認申請
(2016年12月19日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、Exondys 51(eteplirsen)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬としてEUで承認申請したことを発表した。米国では様々な議論を経て今年9月に承認されている。

DMDの多くは遺伝子変異が原因でジストロフィンが欠乏している。患者の13%程度は、遺伝子の51番目のエクソンに問題があり、そこで翻訳が終わるなどしてしまう。Exondys 51はこのエクソン51が翻訳されないように仕向けるエクソン・スキッピング薬。臨床的な効用は明確ではなく、投与症例数も十分とは言えないため、FDAは承認の条件として薬効確認試験の実施を求めた。

リンク: Sareptaのプレスリリース

【承認】


FDAが脊髄性筋萎縮症用薬を承認
(2016年12月23日発表)

FDAはSpinraza(nusinersen)を脊髄性筋萎縮腫(SMA)用薬として承認した。Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製しBiogen(Nasdaq:BIIB)と共同開発したアンチセンス・オリゴヌクレオチドで、髄腔内投与する。神経系組織での半減期が長く、当初の3回は2週間毎投与だが、4回目は30日後、その後は4ヶ月に一回で足りる。希少小児疾患用薬優先審査バウチャーが交付される。

SMAはSMN1遺伝子の欠損が関与していて、I型(生後6ヶ月までに発症)やII型(小児発症)では95%に欠失が見られる。キャリアは50人に一人と多いが、両親から引き継ぐと発症する。日米欧の患者数は3~3.5万人と推定されている。

SMN1と類似した遺伝子であるSMN2はエクソン7に問題がありそこで翻訳が止まるためSurvival Motor Neuronを生成できない。このSMN2のエクソン7をスキッピングさせるのがSpinrazaで、アンチセンス変異をアンチセンスすることでマイナスの札をプラスに変える、アンチセンス薬としても珍しい薬だ。

主としてI型患者を組入れた試験では中間解析で運動機能奏効率が40%となり、シャム(髄腔内投与は危険なので偽薬は使わず針で刺すだけ)群の0%を有意に上回った。死亡率は23%でシャム群の43%を下回った。尚、中間解析を行うよう要請したのはFDAであることが今回のリリースで明らかにされた。

深刻な有害事象では無気肺が見られた。血小板減少や腎毒性も警告されている。

この試験には日本の施設も参加しており、日本でも今月、承認申請された。

リンク: FDAのリリース
リンク: バイオジェンのプレスリリース

第2のPARP阻害剤が米国で承認
(2016年12月19日発表)

FDAは、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のRubraca(rucaparib)を卵巣癌用薬として承認した。審査期限は来年2月なので2ヶ月前倒しとなった。損傷や翻訳複製ミスによる遺伝子変異を修復する二つのメカニズムの一つに係る、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)を阻害する小分子薬で、300mgを一日二回、経口投与する。

適応となるのはBRCA遺伝子に有害変異を持つ末期卵巣癌の三次治療。BRCAはもう一つの修復メカニズムに関与しており、有害変異があると癌のリスクが高まる。癌細胞は活発に遺伝子翻訳・複製しているため複製ミスが発生しやすいが、PARPを阻害してやると修復できなくなる。変異は生殖細胞系(卵巣癌患者の18%を占める)でも癌細胞における体細胞性変異(7%を占める)でもよい。同時に承認されたFoundation Medicine(Nasdaq;FMI)のFoundationFocus CDx-BRCAコンパニオン・ダイアグノスティックで事前に検査する。

第二相試験では反応率が54%、反応持続期間はメジアン9.2ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は61%、有害事象による治験離脱は8%だった。

Clovisが11年にファイザーからライセンスしたコンパウンド。

PARP阻害剤はアストラゼネカのLynparza(olaparib)が欧米でBRCA変異陽性卵巣癌に承認されているので、Rubracaは第2号となる。第3号になりそうなのはTesaro(Nasdaq:TSRO)がMSDからライセンスしたMK-4827(niraparib)で、10月に米国で承認申請された。白金薬感受性卵巣癌の維持療法試験では、BRCA変異が陽性ではない癌にも有効だったことが注目される。

リンク: FDAのリリース
リンク: Clovisのプレスリリース
リンク: Foundation Medicineのプレスリリース





今週は以上です。

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