2016年11月6日

2016年11月6日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティスがCDK4/6阻害剤を承認申請 
  • メルク、抗PD-L1抗体をEUでメルケル細胞腫に承認申請 
  • 皮注用リツキサンを米国でも承認申請 
  • FDA諮問委員会、solithromycinの評価は分かれた 


【承認申請】


ノバルティスがCDK4/6阻害剤を承認申請
(2016年11月1日発表)

ノバルティスはLEE011(ribociclib)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。ファイザーのIbrance(palbociclib)と同じCDK4/6阻害剤で、細胞周期進行に関わる酵素の機能を妨げることによって癌細胞の増殖を抑制、アポトーシスを誘導する。適応はホルモン受容体陽性、her2陰性の進行性転移性閉経後乳癌。一次治療薬として、アロマターゼ阻害剤Femara(letrozole)と併用で600mgを一日一回、3週間経口投与して1週間休む。

第三相試験ではPFS(無進行生存期間)をletrozole単剤投与群と比較したが、中間解析でハザードレシオ0.556、p=0.000003、サブグループ全てで改善し、独立データ監視委員会が成功認定した。グレード3以上の主な有害事象は骨髄抑制と肝機能検査値異常上昇。軽度の不整脈も見られるようだ。

乳癌用薬の市場は早期乳癌の術後補助療法向けが一番大きいが、切除が成功し治癒した患者が対象なので高い安全性が求められる。LEE011はどうだろうか。

LEE011はノバルティスがAstex Pharmaceuticals(後に大塚製薬が買収)と行った細胞周期制御に関する共同研究の成果。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

メルク、抗PD-L1抗体をEUでメルケル細胞腫に承認申請
(2016年10月30日発表)

ドイツのメルクと米国のファイザーは、MSB0010718C(avelumab)を転移性メルケル細胞腫用薬としてEUに承認申請し、受理されたと発表した。メルケル細胞腫は進行性の皮膚癌の一種で、5年生存率は20%以下といわれる。希少疾患でEUの推定患者数は2500人。

avelumabはPD-L1を標的とする完全ヒト化抗体。承認申請の根拠となった第二相の二次治療試験では、88人に10mg/kgを二週間に一回投与したところ、独立放射線学委員会の査読に基づく確認客観的反応率(cORR)が31.8%、完全反応8人、部分反応20人だった。深刻な治療関連有害事象は腸炎、点滴反応、アミノトランスフェラーゼ上昇、軟骨石灰化症、滑膜炎、間質性腎炎など。尚、この試験はPD-L1陽性でない患者も組み入れた。

この二社は2年前からPD-1/PD-L1を標的とする抗体医薬のパイプラインを持ち寄って共同研究・開発を行っている。巨大な経営資源を生かして、非小細胞性肺癌や胃癌、腎細胞腫、卵巣癌、尿路上皮癌など多数のavelumabの第三相試験を実施中。

リンク: 両社のプレスリリース

皮注用リツキサンを米国でも承認申請
(2016年11月3日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Rituxan(rituximab、和名リツキサン)の皮注用新製剤を米国で承認申請し受理されたことを発表した。Rituxanは米国で97年に承認された抗CD20キメラ・モノクローナル抗体で、非ホジキン型リンパ腫や慢性リンパ性白血病、リウマチ性関節炎などの治療に用いられる。血液癌では維持療法も承認されているが、点滴静注に2時間以上かかることがネックだ。皮注用は5分で、ready-to-useなので利便性が高い。

皮膚は強力な外敵排除機構が存在するため高分子薬を投与してもブロックされてしまう。皮注用RituxanはHalozyme(Nasdaq:HALO)が開発した遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロン酸分解酵素、rHuPH20を同時に投与することで速やかな吸収を可能にした。EUでは14年に承認。her2陽性乳癌用薬Herceptin(trastuzumab)もrHuPH20を用いる皮注用製剤が13年にEUで承認された。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、solithromycinの評価は分かれた
(2016年11月4日発表)

Cempra(Nasdaq:CEMP)はCEM-101(solithromycin)を市内感染細菌性肺炎の治療薬として欧米で承認申請中。FDAは11月4日に抗微生物薬諮問委員会を招集したが、賛成7人、反対6人と意見が分かれた。効果があることでは全員一致したが、肝毒性の検討が不十分であることも一人を除く全員が同意した。

経口剤と静注用の二製剤が承認申請され前者の審査期限は12月27日、後者は28日となっているが、Ketek(telithromycin、和名ケテック)の苦い経験があるので、FDAは慎重なスタンスを取るのではないか。

Ketekはアベンティスが創製した抗生薬で、マクロライド系の派生であるケトライド系の第一号とされた。01年にドイツ、03年に日本、04年に米国で市中感染肺炎や急性気管支炎、急性副鼻腔炎などの治療に承認されたが、疫学研究で他の抗生薬より肝不全リスクが高い疑いが浮上、意識喪失などの深刻な有害事象も見られっため、用途が限定された。

FDAの承認がEUや日本より遅かったのは、肝毒性を懸念してアベンティスに2万例以上の大規模な臨床試験を行わせてリスクが既存薬と比べて著しく高くないことを確認させたからだが、この試験に多くの患者をエントリーした医師が不正報告を行い真実を覆い隠してしまった。アベンティス側は早い段階で不正に気付いていたがFDAに報告しなかった、という報道を当時、読んだことがある。

ひどい話だ。バルサルタンは特別な長所がないだけでARBとしての効能は確立している。それに対して、深刻な副作用の隠蔽は人類全体、後世も含めれば何十億人、何百億人に対する犯罪であり、罪ははるかに重い。

solithromycinはOptimer Pharmaceuticalsからライセンスしたフルオロケトライド系の抗生物質。日本は富山化学が導入し第三相試験中。リボソームの結合箇所がマクロライド系は一ヶ所、Ketekは二ヶ所であるのに対して、三ヶ所あり、マクロライド耐性菌にも効果が期待できる。力価自体もin vitroでazithromycinの16倍と高いようだ。

第三相市中感染細菌性肺炎試験ではフルオロキノロンのmoxifloxacinを対照薬として細菌学的反応率や臨床的奏効率が非劣性だった。治療関連有害事象の発生率は34%対13%で高かったが、マクロライド系と同様に点滴箇所痛が目立ったようだ。肝機能検査値異常の発生率も若干高く、FDAの分析によると、Ketekと比べても高い。このため、FDAは、Ketekと同様な大規模な試験の実施を求める可能性がありそうだ。

画期的な抗生薬が登場してもしばらくすると耐性菌が見つかる、という状態なので新薬のニーズは高い。しかし、深刻な副作用があるならば、メリットも確実であることが望まれる。上記のように抗生剤の臨床試験は非劣性試験が多いが、もしmoxifloxacin耐性菌が多いならば、新薬のほうが奏効率が高くなるはずだ。本当にキノロンやマクロライドが効かない菌に有効なのか?奏効率が同じだということは、キノロンやマクロライドほど効かない菌もあるのだろうか?

リンク: Cempraのプレスリリース




今週は以上です。

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