2016年10月9日

2016年10月9日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:ノバルティスのCDK4/6阻害剤も第三相が成功 
  • ESMO:PARP1/2阻害剤がBRCA変異のない卵巣癌にも有効 
  • ESMO:Clovis、PARP阻害剤のP2データを発表 
  • ESMO:キイトルーダの膀胱がんデータ発表 
  • Alnylam、RNAiの一つの開発を中止 
  • ブリリンタ、もう一つの適応拡大試験もフェール 
  • 点滴用カルバマゼピンが米国で承認 
  • C型肝炎治療薬がB型肝炎ウイルスを活性化するリスク 


【新薬開発】


ESMO:ノバルティスのCDK4/6阻害剤も第三相が成功
(2016年10月8日発表)

ノバルティスのCDK4/6阻害剤、LEE011(ribociclib)の第三相試験結果がESMO(欧州臨床腫瘍学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。閉経後のHR陽性her2陰性末期・転移性乳癌の一次治療薬としてletrozoleと併用投与したもので、今年5月に中間解析で目的を達成したことが公表された。

主評価項目であるPFS(無進行生存期間)はletrozole単剤投与群に対するハザードレシオが0.556、p=0.000003。中間解析で成功認定するための基準はハザードレシオが0.56以下、pは0.0000129未満なので、ギリギリでクリアしたことになる。PFSのメジアン値は未達、letrozole群は14.7ヶ月。

PFSハザードレシオは先輩格であるファイザーのCDK4/6阻害剤、Ibrance(palbociclib)と大差ない。有害事象による治験離脱(7.5%、letrozole単剤投与群は2.1%)はIbranceより若干多いが、直接比較試験ではないので小さい差を重視すべきではない。経口剤で一日一回、21日服用して7日休む用法はどちらも同じ。全体的に大差ないことを考えると、米国では昨年2月に承認されEUでも年内承認が見込まれるIbranceのほうが先行者利益があるそうだ。

LEE011はAstex Pharmaceuticals(現在は大塚製薬の子会社)との細胞周期制御分野における共同研究の成果で、細胞周期進行に関わるキナーゼを阻害する。因みにIbranceもファイザーが敵対的に買収したワーナー・ランバートとアムジェンの子会社になったOnyxの共同研究の成果である。

CDK4/6阻害剤ではイーライリリーもLY2835219(abemaciclib)の第三相試験を実施中。忍容性に優れ休薬期を設ける必要がないため効果の高さが期待されているが、fulvestrant併用二次治療試験の中間解析はハードルをクリアできず、17年上期に予想される最終解析の結果待ちだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: Hortobagyiらの治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

ESMO:PARP1/2阻害剤がBRCA変異のない卵巣癌にも有効
(2016年10月8日発表)

TESARO(Nasdaq:TSRO)がMSDからライセンスして開発しているPARP1/2阻害剤、MK-4827(niraparib)の第三相卵巣癌試験の結果がESMOとNEJM誌で発表された。類薬ではアストラゼネカのLynparza(olaparib)が14年に欧米で承認されているが、 今回の試験は生殖細胞系BRCA(gBRCA)変異のない患者にも有効であることを示唆している点が画期的だ。

BRCAとPARPは夫々、別々の遺伝子変異修復メカニズムに関与している。両親から受け継いだBRCA遺伝子が共に変異している人は卵巣癌や乳癌のリスクが比較的高いが、発症した時にPARPも阻害してやると、癌細胞で発生しがちな遺伝子複製ミスの修復を妨げ、アポトーシスを誘導できる可能性がある。

今回のENGOT-OVA16/NOVA試験は、難治性卵巣癌で白金薬による治療に反応した患者をniraparibを一日一回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したもの。PFSは第三者が査読した。主評価項目の解析対象はgBRCA変異を持つ201人のコフォートと変異はないが類似したフェノタイプであるHRD型(相同組換え不全)コフォートで、後者が成功した場合はHRD型以外も含めたgBRCA非変異型345人全員のシーケンシャル解析を行うプロトコル。

結果は、gBRCA変異コフォートのハザードレシオが0.27、メジアンPFSは21.0ヶ月で偽薬群は5.5ヶ月。HRD型コフォートは各0.38、12.9ヶ月、3.8ヶ月。非変異コフォート全体では0.45、9.3ヶ月、3.9ヶ月となり、何れも統計的に有意だった。サブグループ分析でも偏りは見られなかった。G3以上の有害事象は骨髄抑制が増加した。

リンク: TESAROのプレスリリース
リンク: Mirzaらの治験論文(NEJM誌)

ESMO:Clovis、PARP阻害剤のP2データを発表
(2016年10月7日発表)

米国コロラド州の新興薬品開発会社であるClovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、ESMOでCO-338(rucaparib)の二本の第二相試験のプール分析データを発表した。何れもBRCA変異型卵巣癌の三次治療試験で、600mgを一日二回、経口投与した症例106例をプール分析したもの。RECIST基準のORR(客観的反応率)は54%で、完全反応が9例、部分反応が48例。メジアン反応持続期間は9.2ヶ月間だった。

G3以上の治療時発現有害事象発生率は61%。8%の患者が有害事象により治験を離脱、理由は疲労、小腸閉塞、悪心など。2%の患者が有害事象により死亡した。

ファイザーがAG-014699/PF-01367338などのコードで開発していた小分子薬で、PARP-1、PARP-2、PARP-3を阻害する。Clovisはこれらのデータに基づいて米国で今年6月に承認申請した。優先審査で、PDUFAは来年2月23日。

二本目の試験のデータは今回が初お披露目だったが、株式市場の反応は厳しかった。アストラゼネカのLynparza(olaparib)と比べて特によいデータではなかったことや、新薬のニーズが高い白金薬抵抗性患者に対するORRがゼロであったことが嫌気されたようだ(後者は症例数がたった7例なのであてにならないが)。

リンク: Clovisのプレスリリース

ESMO:キイトルーダの膀胱がんデータ発表
(2016年10月8日発表)

MSDは抗PD-1モノクローナル抗体であるKeytruda(pembrolizumab)の第二相切除不能・転移性尿路上皮腫瘍一次治療試験の中間データをESMOで発表した。cisplatinに適さない患者を組入れて、体重に関わらず200mgを3週間に一回投与した試験で、目標症例数350人中100人のデータが出そろった段階でPD-L1の閾値を決定する目的で中間解析を行ったもの。

結果は、ORR(客観的反応率)が24%、完全反応率6%。ORRはPD-L1発現が1%未満のサブグループでは18%、1%以上10%未満では15%、10%以上では37%だった。

PD-1やPD-L1を標的とする抗体医薬はPD-L1高発現癌のほうが効果が高いように感じられるが、低発現でも効かないわけではなさそうだ。難しいのは、効くと効かないの境界線が曖昧で、そもそも、どの程度効けば合格なのかという基準もあまり客観的とは言えないこと。有効な薬がなければORR10%でも良いが、30%の薬が増えれば10%では物足りなくなる。

尿路上皮腫瘍では、この用途で最初に承認されたTecentriq(atezolizumab)は二次治療試験でPD-L1高発現癌のほうがORRが高かったが低発現に使うことも承認されており、検査不要だ。欧州で適応拡大承認審査中であるBMSのOpdivo(nivolumab)も二次治療試験のORRが発現度1%未満グループで16%、5%以上は28%となっている。

非小細胞性肺癌では二次治療と一次治療で結論が異なる可能性が浮上したが、今回のデータを見ると、尿路上皮腫瘍に関しては二次治療でも一次治療でもPD-L1不問ということになりそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース

Alnylam、RNAiの一つを開発中止
(2016年10月5日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTRsc(revusiran)の開発を中止すると発表した。

同社はRNAi(RNA介入)技術を元にアミロイドーシスやRSVなどの治療薬を開発している。revusiranはTTR調停家族性心臓アミロイドーシスを治療する第三相試験が進行していたが、第二相で末梢神経症の発症や悪化が発見されたことからデータ監視委員会が盲検解除されたデータを精査、末梢神経症については問題なかったが、死亡者数に群間の偏りがあったため、中止を勧告した。

新しい技術だけに、深刻な懸念が浮上すると、その技術や作用機序に付随するクラス・イフェクトではないのかという疑惑も浮上する。Alnylamは否定的に考えている模様。他の開発品は新しい技術を用いているため用量や曝露が小さくて済むことが根拠だ。

それでも、もし著高量で深刻な副作用が発生する懸念があるならば、セイフティマージンを確保できているか十分に検討しなければならないだろう。

リンク: Alnylamのプレスリリース

ブリリンタ、もう一つの適応拡大試験もフェール
(2016年10月4日発表)

アストラゼネカは、ADP受容体拮抗剤Brilinta(ticagrelor)の適応拡大試験、EUCLIDがフェールしたと発表した。症候性末梢動脈疾患の患者13885人を組み入れて心血管アウトカムをclopidogrelと比較したもの。データは11月のAHA科学部会で発表される予定。

3月には急性脳卒中/TIAに対するモノセラピー、アスピリン対照試験もフェールしている。特許切れまでは超大型薬であったPlavix(clopidogrel)に代わる大型薬候補として期待された抗血小板薬だが、この分野でも、もうそろそろ、限界収穫逓減減少が見られるようになった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


点滴用カルバマゼピンが米国で承認
(2016年10月8日発表)

ルンドベックは、Carnexiv(carbamazepine)がFDAに承認されたと発表した。特定のタイプの癲癇の患者が、一時的な理由で経口剤を使えない時に、最長7日間まで使うことができる。

活性成分の経口剤はノバルティスのTegretolとして長い市販歴を持ち既に特許切れしたが、点滴静注用は今回が初。経口剤の7割の量を一日4回に分けて6時間毎に30分点滴する。

09年に買収したOvation Pharmaceuticalsの開発品。

リンク: ルンドベックのプレスリリース

【医薬品の安全性】


C型肝炎治療薬がB型肝炎ウイルスを活性化するリスク
(2016年10月4日発表)

C型肝炎の治療は、DAA(直接作用性抗ウイルス剤)の登場で様変わりした。C型肝炎ウイルスの遺伝子に含まれる再生産に必要な酵素を阻害する薬で、奏効率や治療期間、忍容性を大きく改善した。ところが、不思議なことに、DAA治療を受ける患者の一部でB型肝炎の再燃が報告されるようになった。FDAによると、今年7月までの31ヶ月間に24例がFDAや文献に報告され、うち2例は死亡、1例は肝臓移植が施行された。このため、FDAは警告を発出すると共に、レーベルで枠付き警告することを決めた。

医療従事者は、治療開始前にB型肝炎検査を行う。感染歴のある患者は医師に伝える。治療中に肝炎の症状兆候が現れたら直ぐに医療従事者に伝える。服用中の患者は医師に相談せずに勝手に止めてはいけない。

対象は、販売されているDAAの全て。MSDのVictrelis(boceprevir)とバーテックスのIncivek(telaprevir)は米国では商業上の理由で販売が中止されたためリストに収載されていないが、この二剤はインターフェロンやribavirinと併用するレジメンなので、もし販売されていたとしても例外扱いされたかもしれない。

再燃増悪の原因は不明。臨床試験では発生していない。B型肝炎ウイルス感染経験は除外条件なので、発生しなくて当たり前である。

リンク: FDAの安全性警告



今週は以上です。

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