2016年10月23日

2016年10月23日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • GSK、米国でサーバリックスの販売を中止 
  • PTCの筋ジストロフィー用薬の審査状況 
  • MSD、CMV予防薬の第三相が成功 
  • ギリアドがまたまたHCVの新コンビ薬 
  • MSD、キイトルーダの膀胱癌試験が成功 
  • fostamatinibの二本目の第三相はフェール 
  • リジェネロンは抗NGF抗体の開発を続ける計画 
  • MSD、CDI再発予防薬が米国で承認 
  • イーライリリー、新規抗癌剤が承認 
  • ロシュ、抗PD-L1抗体の適応拡大承認 


【今週の話題】


GSK、米国でサーバリックスの販売を中止
(2016年10月21日報道)

グラクソ・スミスクラインがCervarix(和名サーバリックス)の米国での販売を8月に中止していたことが判明した。FiercePharmaの報道によるもので、下記のページにGSKが8月に発出した販売中止通知のリンクもある。安全性や薬効面で問題が浮上した訳ではなく、純粋に商業上の理由、つまり、売れなくて採算が取れないからのようだ。

Cervarixは子宮頸癌の原因になりうるヒトパピローマウイルスのうち16型と18型の遺伝子組換え型抗原を配合した、子宮頸癌予防用ワクチン。既に持続感染している人に対する効果が明確でないため感染リスクの小さい9~10歳前後の時に接種するのがベストだが、キャッチアップ需要もあるため、他の年代の人が接種することも認められている。テイラーメイド・メディスンの観点からは事前に感染検査したほうが良いのではないかと思われるが、義務付けられていない。費用や手間、感染と診断された時の心理的ダメージに配慮したのだろう。

MSDのGardasilは遺伝子型のカバレッジが広いという重要な長所を持つが、上記の弱点・事情は同じだ。この二薬は06年以降、各国で逐次、承認・発売されてきたが普及率は国によってかなり異なる。健康保険のカバレッジ、医師の取り組み、国民の教育水準、副作用問題に対する当局や学会、報道機関の対処などの違いが影響したのだろう。欧州の一部の国では接種回数を三回から二回に減らすことで手間やコストを引き下げた。米国もGardasilの二回接種を認める方向のようだ。しかし、普及を促進するためにはこれだけでは不十分だろう。

一昔前だったら、米国の大統領選や予備選挙の時期になるとどの候補が製薬業界に一番有利か、話題になった。今日では、製薬業界に好意的な候補は直ぐ選挙戦から脱落するので、問題は、誰が大統領になったら一番不利かだ。子宮頸癌ワクチンのような一般大衆が自己の判断で接種する製品を普及させるためには、製薬会社のイメージをもっと向上する必要があるのではないだろうか。

リンク: FiercePharmaの記事

PTCの筋ジストロフィー用薬の審査状況
(2016年10月17日発表)

米国のPTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)は、ナンセンス変異型デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬Translarna(ataluren)の承認審査状況についてアップデートした。米国は承認されなかったことに対する不服申立てが認められなかった。次の再検討請求手続きに向かう考え。

不服申立て中にSarepta Therapeutics(Nasdaq: SRPT)のExondys 51(eteplirsen)が承認された。審査チームの評価は否定的だったが、FDAの小分子薬評価研究センターのヘッドが鶴の一声を発した。財務面で厳しい状態にあるPTCにとっては天から降りてきた蜘蛛の糸に見えるだろう。

だが、見通しが明るくなったわけではないだろう。FDAはExondys 51を前例としない考えだからだ。先日、FDAのホームページにExondys 51の臨床成績を説明する新設のページを発見した。審査チームのモチベーションはまだ下がっていないのだろう。

一方、14年に承認されたEUでは、年次更新手続き中。条件付き承認なので第三相試験などを行って薬効や安全性を確認する必要があり、PTCは第三相のACT試験を行ったが15年にフェールしてしまった。このため、EUはもう一度試験を行うことを条件に販売許可を更新するか、承認を取り消すか、どちらかを選ぶことになるだろう。PTCは前者を期待しているようだ。

日米欧の何れも条件付き承認制度を導入しているが、欧米は承認後に行われる第三相試験で薬効や安全性が確認されなかった場合、承認を取り消すことができる。患者が欲しているのは新薬ではなく自分に効果があってそこそこ安全な薬であることを考えれば、当然の措置だが、今回のように欧州と米国で判断が異なる場合もあるので運用は難しい。結果論でいえば、EUはFDAと同様に第三相試験の結果が出るまで承認するべきではなかったのだが、効くと効かないは紙一重なので話は単純ではない。。

リンク: PTCのプレスリリース

【新薬開発】


MSD、CMV予防薬の第三相が成功
(2016年10月19日発表)

MSDは、MK-8228(letermovir)の第三相試験成功を発表した。成人同種造血幹細胞移植を受けるサイトメガロウイルス(CMV)抗体陽性の患者を組入れて、CMVの再活性化を予防する効果を検討したもの。データは今後の学会で発表される予定。

MK-8228は、バイエルが感染症用薬部門をスピンアウトして設立したドイツのAiCuris HmbHから12年に権利を取得したもの。quinazolinesという新しいクラスの抗ウイルス剤で、既存のCMV治療・予防薬と異なり、terminase複合体を阻害する。この試験では、移植後約14週間に亘って一日一回、静注または錠剤で投与して、臨床的に重要なCMV感染症の発生を24週間、追跡した。

ClinicalTrials.govによると第3相はこの試験だけ。おそらく、第二相試験のデータと合わせて承認申請に向かうのではないか。

リンク: MSDのプレスリリース

ギリアドがまたまたHCVの新コンビ薬
(2016年10月20日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)はHIVやHCVの抗ウイルス薬分野で次々と新薬と新コンビ薬を開発・投入している。今回は、プロテアーゼ阻害剤の新薬をポリメラーゼ阻害剤及び複製複合体阻害剤と組み合わせた慢性C型肝炎治療用コンビ薬の第三相試験結果を発表した。既存の自社製品と直接比較した試験もあり、臨床上の位置付けが分かり易い。遺伝子型一型(GT1)は既存薬で十分なので、難治性患者や他の遺伝子型に用いることになるのだろう。また、遺伝子型検査が普及していない国にはこちらのほうが向いているだろう。

この新コンビ薬は、Epclusaの配合成分であるsofosbuvir(NS5Bポリメラーゼ阻害剤、単剤でもSovaldiとして販売)とvelpatasvir(汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤)に更にvoxilaprevir(汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤)を加えたトリプルコンビ。第三相試験はGT1からGT6までの6遺伝子型を対象に、一次治療、NS5A阻害剤経験者の二次治療、それ以外の二次治療などに分けて実施された。

結果は、まず二次治療試験二本では12週間の治療で奏効率(SVR12:投与完了後12週経った段階でウイルス不検出)が96~97%。NS5A阻害剤経験者試験の対照群は偽薬で奏効率は0%、それ以外の二次治療試験は対照群がEpclusaで90%だった。この二本の被験者は4割が肝硬変合併。

直接的抗ウイルス剤(DAA)による治療を初めて受ける患者の一次治療試験は、8週間の治療で奏効率95%。Epclusaを12週間投与した群は98%で、主評価項目である非劣性解析がフェールした。フェールはこの試験だけ。GT3感染で肝硬変を合併する患者を組入れた試験では8週間の治療で96%、Epclusa群は12週間投与で96%となり、非劣性解析が成功した。

二次治療は治療期間が3ヶ月から2ヶ月に短縮するのは良いが薬が二剤から三剤に増えるので副作用も増えるだろう。効果が大差ないならどちらも良し悪しで、値段次第だろう。一方、一次治療は期間が短く、効果が若干高いので、価格が著しく高くない限り、良さそうだ。

リンク: ギリアドのプレスリリース

MSD、キイトルーダの膀胱癌試験が成功
(2016年10月21日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の尿路上皮腫瘍の第三相試験、KEYNOTE-045が成功したと発表した。二次治療、三次治療を受ける患者を組入れて、3週間毎に200mgを投与する群と、paclitaxelなど三剤の中から担当医が選んだ薬を投与する群の延命効果を比較した試験で、独立データ監視委員会が中間解析結果に基づいて成功認定したもの。

データは未発表。主評価項目は全生存期間とPFS(無進行生存期間)の二つだが、今回は中間解析であるためか全生存期間の解析が成功したことしか記されていない。

リンク: MSDのプレスリリース

fostamatinibの二本目の第三相はフェール
(2016年10月20日発表)

Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)は、R788(fostamatinib disodium)の二本目の第三相慢性/持続性免疫性血小板減少症(ITP)試験がフェールしたと発表した。当局と今後を相談する考え。

R788はマスト細胞やマクロファージ、B細胞などのIgG受容体の細胞内シグナル伝達に係わるSYK(spleen tyrosine kinase)を阻害する経口剤。リウマチ性関節炎などの自己免疫疾患をターゲットに開発され、6年前にアストラゼネカがライセンスしたが返還。RigelがITP用途の開発を進めてきた。

第三相試験では100mgを一日二回投与する群の安定的血小板反応率(最後の6回の検査のうち4回以上で血小板数が5万個/uL以上であった患者の比率)を偽薬と比較した。9月に結果が出た一本目は18%対0%で、著効という感じはないが、p=0.026で統計学的には有意だった。今回の二本目は18%対4%でp=0.152とフェールした。

実数を見ると、R788群は一本目が51人中9人反応、二本目は50人中9人反応で、大差ない。偽薬群は25人中ゼロと24人中一人で、反応者数の違いは倍率では無限大だが差はたった一人だ。臨床試験成績の有意性を議論する時にしばしば用いられる、もし奏功者が一人多かったり少なかったりしたらどうなるか、というテスト方法の例題そのものである。

結局、効くにせよ効かないにせよボーダーライン上、と受け止めるのが妥当だろう。

リンク: Rigelのプレスリリース

リジェネロンは抗NGF抗体の開発を続ける計画
(2016年10月17日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発パートナーのテバ・ファーマシューティカル(NYSE:TEVA)は、REGN475(fasinumab)の後期第二相慢性腰痛試験を中止したことを明らかにした。高用量で関節毒性が見られたことから、FDAがクリニカルホールド(治験許可停止)を告げた。

REGN475はNGFを標的とする完全ヒト化抗体。NGFは神経成長因子で、ジェネンテックが発見しALSなどの神経性疾患での用途を探索したが、疼痛感受性が高まる副作用が発覚。一転して、抗NGF抗体を鎮痛剤として開発することになった。その後、スピンアウトされた中枢神経系部門を買収したファイザーがtanezumabの第三相変形性関節炎試験を行ったが、病状の急速な悪化や無腐性骨壊死などのリスクが表面化、2010年に複数の会社の開発品が治験停止となった。

その後は行ったり来たりで、FDAが2012年に招集した諮問委員会では21人全員が開発続行を支持。しかし、某社が行った前臨床毒性試験で末梢神経性有害事象が見られたため末期癌患者の疼痛緩和など一部の用途を除いて再び治験停止に。その後、毒性確認試験が良い結果になったのか、15年3月に解除され、ファイザーがイーライリリーとリスク・シェアリングして開発を再開。リジェネロンは15年に田辺三菱製薬に日本周辺の開発販売権を、16年9月にテバにそれ以外の地域の権利を供与して開発をステップアップした。

一方、ジョンソン・エンド・ジョンソンと武田薬品は、夫々が地域別に保有するAMG 403(fulranumab)の開発販売権をアムジェンに返還しており、抗NGF抗体に対する評価は分かれているように感じられる。

副作用の原因は明らかではないが、痛みを感じなくなると前より活発に動くようになりがちだから、関節損傷が進んでも不思議はない。神経成長因子をブロックすることが骨の新陳代謝に悪影響を与える可能性も考えられるだろう。

副作用リスクがあるのは明らかなので、開発の成否は用量を減らすことでどれだけ緩和できるかだろう。REGN475の変形性関節炎試験では、偽薬、1mg、3mg、6mg、9mgを4週間に一回、皮注したが、各群の関節症発生率は1%、2%、5%、7%、12%だった。慢性病の薬なので、リスクが投与年数と相関しないかどうかも確認すべきだろう。

リジェネロンとテバは、低用量で第三相試験に向かう考え。腰痛用途では変形性関節炎を併発する患者は除外する考え。変形性関節炎試験も行うのだから変な話だが、もしもこちらの用途がダメだった場合でも慢性腰痛で承認が取れるように、ヘッジを掛けるのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


MSD、CDI再発予防薬が米国で承認
(2016年10月21日発表)

MSDは、FDAがZinplava(bezlotoxumab)をクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の再発リスクを削減する薬として承認したと発表した。

重い下痢などの症状を起こす細菌で、抗生物質乱用の弊害なのか、深刻な院内感染が年々、増加している。Zinplavaはこの細菌が産生するB毒素の中和抗体で、治療は抗菌剤で行う。再発リスクの高い患者を組入れた二本の第三相試験では、偽薬群の12週再発率が25~27%であったのに対して、Zinplavaを一回点滴投与した群は15~17%だった。尚、A毒素の中和抗体を単剤投与と併用する二群も設けられたが、効果がなかった。

投与後4週間の深刻有害事象は偽薬群と大差なかったが、心不全歴を持つ患者では深刻な心不全増悪が12%で発生(偽薬群は4%)、死亡率も19%と高かった(偽薬群12%)。

この抗体医薬はマサチューセッツ医科大学の研究者がメダレックス(後にBMSが買収)と共同開発、09年にMSDに世界開発販売権を供与したもの。MSDは来春までに発売する計画。EUでも承認審査中。

リンク: MSDのプレスリリース

イーライリリー、新規抗癌剤が承認
(2016年10月19日発表)

イーライリリーが08年に65億ドルで買収したイムクローン・システムズは、抗EGFR抗体Erbitux(cetuximab)の後も多くの抗体医薬を生み出した。創業者がインサイダー取引事件で逮捕されなければ買収されることもなかっただろうし、ジェネンテックとは言わないまでも、抗体医薬系新興医薬品開発企業の代表格の一つになっていただろう。

今回、FDAが承認したLartruvo(olaratumab)もイムクローンがIMC-3G3として開発した抗PDGFRアルファ完全ヒト化抗体。適応はPDGFRアルファが高発現・過活動している軟組織肉腫で、治癒的放射線療法・切除術に適さない進行癌のうち、アントラサイクリン系の抗癌剤が適切と判定された場合に、doxorubicinと併用する。

第二相試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン6.6ヶ月とdoxorubicinだけの群の4.1ヶ月より長く、ハザードレシオ0.672、p=0.0615なので一般的な解釈では有意ではない。全生存期間の中間解析は26.5ヶ月対14.7ヶ月、ハザードレシオ0.463で統計的に有意だった。G3以上の有害事象は好中球減少症、感染症、点滴反応など。

加速承認で、第三相試験が別途進行中。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

ロシュ、抗PD-L1抗体の適応拡大承認
(2016年10月19日発表)

ロシュは、抗PD-L1ヒト化抗体のTecentriq(atezolizumab)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。非小細胞性肺癌の二次治療(EGFR活性化変異又はALK変異を持つ癌の場合はそれぞれの分子標的薬を用いた後)に用いる。第三相試験では全生存期間がdocetaxelを有意に上回った。扁平上皮腫でも、それ以外でも、PD-L1陽性でも陰性でも、docetaxelを上回った。

抗PD-1抗体の非小細胞性肺癌適応拡大レースでは、MSDのKeytrudaがPD-L1高度発現型だけだが二次治療に承認、一次治療試験も成功と先行している。一方、BMS/小野のOpdivoは二次治療にPD-L1不問で承認され悪性黒色腫だけでなく非小細胞性肺癌でもトップシェアとなったが、一次治療試験がフェールしたため、MSDやロシュにも逆転の可能性が出てきた。

リンク: ロシュのプレスリリース



今週は以上です。

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