2016年10月16日

2016年10月16日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:MSDの抗PD-L抗体は肺癌一次治療試験成功 
  • ESMO:オプジーボの一次治療試験はフェール 
  • ESMO:ロシュの抗PD-L1抗体は二次治療試験成功 
  • ESMO:Cabometyxがスーテントに勝つ 
  • ESMO:スーテントのアジュバント試験成功 
  • ESMO:custirsenの第三相はフェール 
  • Alnylam、patisiranの第三相は続行 
  • サノビオン、ネブライザー用LAMAを米国で申請 
  • CHMP、Ocalivaなどに肯定的意見 


【新薬開発】


ESMO:MSDの抗PD-L抗体は肺癌一次治療試験成功
(2016年10月9日発表)

PD-L/PD-L1標的薬はこれまで様々な腫瘍の臨床試験で似たような成果を上げてきたが、どういう訳か非小細胞性肺癌はメーカーの開発方針も、治験結果も、食い違いが見られる。ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表された三剤のデータを順に見てみよう。

まず、MSDの抗PD-L抗体、Keytruda(pembrolizumab)。非小細胞性肺癌では二次治療に使うことが米国で承認されているが、PD-L1陽性癌である点がBMSのOpdivo(nivolumab)との違いだ。ESMOでは第三相一次治療試験の結果が発表されたが、このKEYNOTE-024試験もPD-L1高発現(Tumor Proportion Scoreが50%以上)だけが対象。

200mgを三週間に一回、点滴静注する群とプラチナ薬ベースの標準療法群のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、メジアン値は各10.3ヶ月と6.0ヶ月、ハザードレシオ0.50、95%CI0.37~0.68と大変良い結果が出た。全生存期間はどちらもメジアンに到達していないがハザードレシオ0.60、統計的に有意だった。

MSDは欧米で一次治療の適応拡大申請中。米国の審査期限は12月24日。Keytrudaの売上高はBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)に差を付けられているが、非小細胞性肺癌の一次治療では逆転するだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:オプジーボの一次治療試験はフェール
(2016年10月9日発表)

Opdivoも非小細胞性肺癌二次治療で承認されているが、Keytrudaとの違いは、投与頻度が二週間に一回であることと、PD-L1陰性でもある程度の効果が見られたためステータス不問、検査不要であること。Keytrudaが陰性癌に効かないというよりは両社の開発方針違いが反映されている。

Opdivoの一次治療試験であるCheckMate-026試験ではPD-L1陽性癌(1%以上)だけを組入れて、白金薬ベースの標準療法と施行する群とPFSを比較した。主評価項目はPD-L1発現5%以上のサブグループのみの解析。BMSも一次治療に関してはPD-L1発現度が反応予測因子になると考えているのだろう。

8月7日号で報告したように、この試験はフェールした。ESMOで詳細が発表されたが、メジアン4.2ヶ月と標準療法群の5.9ヶ月を下回り、ハザードレシオは1.15だった。主観バイアスのない客観的な指標である全生存期間のハザードレシオも1.02だった。二次的評価項目である全患者のPFSのハザードレシオも1.17で駄目。驚いたことにPD-L1高発現(50%以上)の症例だけの解析でも1.07と1を上回った。

高発現癌にも効果がないというのはKEYNOTE-024試験と大きく食い違うが、合理的に説明するのは難しそうだ。偶々フェールしたのかもしれない。いずれにせよ、別の試験が成功するまでは、非小細胞性肺癌の一次治療にOpdivoを使うのは困難になった。

MSDとBMSのPD-L1検査アッセイはメーカーは同じだが用いている抗体が異なるので、検査結果が食い違う可能性があるのではないか?誰かに検証してもらいたいものだ。

リンク: BMSのプレスリリース

ESMO:ロシュの抗PD-L1抗体は二次治療試験成功
(2016年10月9日発表)

ロシュのTecentriq(atezolizumab)はPD-1のレガンドであるPD-L1を標的としている点がKeytrudaやOpdivoとの違い。ロシュといえば分子標的薬の標的分子の発現状況を調べるコンパニオン・ダイアグノスティックスの大手でもあるが、Tecentriqの臨床試験で用いられているPD-L1検査アッセイも独自開発で、腫瘍細胞(TC)だけでなく腫瘍浸透細胞(IC)の発現度も調べている。

ESMOで発表された非小細胞性肺癌二次/三次治療試験は、PD-L1ステータス不問で組み入れたが発現度毎の解析も行われた。主評価項目の全生存期間はメジアン13.8ヶ月でdocetaxelを投与した対照群の9.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、95%信頼区間0.62~0.87と有意差が確認された。扁平上皮腫でもそれ以外でも0.73だった。

PD-L1発現度との相関性では、TCもICも1%未満(TC0/IC0)であった379例ではメジアン生存期間が各12.6ヶ月と8.9ヶ月、ハザードレシオ0.75で95%CI0.59~0.96。どちらかが1以上(TCまたはICが1/2/3の何れか)の463例では各15.7ヶ月、10.3ヶ月、ハザードレシオ0.74、95%CI0.58~0.93となっており、結局、大差ない。

尤も、評価最高値であるTC3/IC3の症例では20.5ヶ月対8.9ヶ月、ハザードレシオ0.41であったようなので、やはり、一番反応するのは高発現型なのだろう。

Tecentriqは再発性難治性尿路上皮癌向けに米国で承認。非小細胞性肺癌は二次治療向けに米国で申請済みで、審査期限は10月19日。申請の根拠となった第二相試験はPD-L1陽性患者が対象だったが、陰性患者も承認される可能性があるのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース

ESMO:Cabometyxがスーテントに勝つ
(2016年10月10日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)のVEGF受容体拮抗剤、Cabometyx(cabozantinib)が切除不能末期腎細胞腫の一次治療試験でファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)より高い効果を示したことがESMOで発表された。数あるVEGF受容体拮抗剤の中で一次治療薬として抜群の評価を得ているSutentを負かしたのだから、実力を見直さなければならないだろう。

このCABOSUN試験は同社とNCI(米国立がん研究所)の開発提携に基づいて実施された第2相試験で、中度・高度リスクの患者157人を組み入れたもの。成功したことは5月に発表済みだが今回、詳細が明らかになった。PFSはメジアン8.2ヶ月とSutentの5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、95%CIは0.48~0.99。ORR(客観的反応率)も46%対18%で上回った。

全生存期間の解析は未成熟だがメジアン30.3ヶ月対21.8ヶ月、ハザードレシオ0.80、信頼区間は1を跨いでいるが、正しい方向を向いている。

cabozantinibは12年に米国でCometriqカプセルの活性成分として甲状腺髄様癌向けに承認。他の用途の開発は難航したが、腎細胞腫二次治療試験が成功、Cabometyx錠として今年4月に承認された。今回のデータを用いて一次治療に適応拡大申請される見込み。VEGF受容体拮抗剤の本命用途である腎細胞腫が後回しになったのは、既に多くの薬が承認されていて出番が少ないからだが、今回の結果を見ると、もっと早く取り組むべきだったのかもしれない。

リンク: Exelixisのプレスリリース

ESMO:スーテントのアジュバント試験成功
(2016年10月10日発表)

そのSutentは、腎細胞腫切除術後アジュバント試験の成功がESMOで発表された。再発リスクが高い615人を組入れて50mgを一日一回、4週間連続服用して2週間休む末期腎細胞腫と同じ用法で1年投与したところ、DFS(再発・二次性腫瘍・死亡の何れかが発生するまでの期間)がメジアン6.8年と偽薬群の5.6年を上回り、ハザードレシオ0.761、95%信頼区間0.594~0.975だった。適応拡大申請に向かうのではないか。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ESMO:custirsenの第三相はフェール
(2016年10月13日発表)

OncoGenex Pharmaceuticals(Nasdaq:OGXI)は、custirsenの第三相非小細胞性肺癌二次治療試験がフェールしたと発表した。細胞のサバイバルに係るclusterinの発現を阻害するアンチセンス薬でdocetaxelのキモセンシタイザーとしての効果を期待したが、併用群のメジアン生存期間は9ヶ月とdocetaxelだけの群の7.9ヶ月と大差なく、ハザードレシオ0.915、有意差はなかった。

効果がこの程度でも大規模な試験なら有意差が出せるはずだが、先に開始した前立腺癌試験がフェールし運転資金が心許なくなったため、プロトコルを見直して前倒しで答えを出さざるをえなかった。

かって共同開発パートナーであったIonys Pharmaceuticalsもテバも去っていった。OncoGenexは代替戦略、即ち身売りを検討している模様だ。

リンク: OncoGenexのプレスリリース

Alnylam、patisiranの第三相は続行
(2016年10月10日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTR02(patisiran)の第三相遺伝性TTR調停アミロイドーシス性ポリニューロパシー試験のデータ監視委員会が治験続行を推奨したことを発表した。

10月9日号で書いたように、同社のrevusiranは第三相試験で死亡数に群間の偏りがあったことから開発中止となった。patisiranも作用機序が類似しているため、Alnylamがデータ監視委員会を招集、検討を依頼したという経緯。

リンク: Alnylamのプレスリリース

【承認申請】


サノビオン、ネブライザー用LAMAを米国で申請
(2016年10月14日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるサノビオンは、SUN-101/eFlowを中重度COPDの維持療法薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年5月29日。12年に買収したElevation社の開発品で、長期作用性ムスカリン阻害剤(LAMA)のglycopyrrolateをドイツのPari GmbHのeFlowという電子制御ネブライザーで吸入するもの。ネブライザー用のLAMAは初。

リンク: 大日本住友製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認審査・委員会】


CHMP、Ocalivaなどに肯定的意見
(2016年10月14日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会合でインターセプト社の胆汁性肝硬変治療薬やアッヴィの抗癌剤などの新薬と、BMSのオプジーボなどの適応拡大に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)のOcaliva(obeticholic acid)は原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療薬。ウルソデオキシコール酸(UDCA)だけでは足りない患者に追加で、あるいは不耐患者に単剤で投与する。胆汁酸誘導体で、FXR(ファルネソイドX受容体)アゴニストとしての力価がUDCAより高い。非アルコール性脂肪性肝炎でもフェーズIII段階。

PBCは主として40~60代の女性が発症する自己免疫疾患で、胆管が徐々に破壊され肝臓内に胆汁が滞留、肝障害を合併する。UDCAの奏効率は5割とされる。Ocalivaの第三相試験では、46%の患者がアルカリフォスファターゼ値正常化に成功した。偽薬群の成功率は10%だった。主な有害事象は掻痒や疲労、肝機能検査値異常など。稀に非代償性肝障害のリスクが見られたが、第三相の用量である一日10mgを超えて投与した症例が主だった。

代理マーカーを改善する効果に基づく条件付き承認なので、インターセプトは別途、臨床試験を行って臨床的な効用や安全性を確立する必要があり、結果次第では承認取消となる。

米国でも5月に同様な条件で加速承認され、患者一人当たり年6~7万ドルの価格で発売された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: インターセプトのプレスリリース

アッヴィとジェネンテックは07年にbcl-2阻害剤やVEGF受容体拮抗剤分野で共同開発提携を開始した。その最初の成果がbcl-2阻害剤のvenetoclaxで、今年4月に米国でVenclexta名で承認、EUでも今回、Venclyxto名でCHMPが肯定的意見を出した。第二相試験の反応率データに基づく条件付き承認の予定。

慢性リンパ性白血病用薬で、Bセル受容体パスウェイ阻害剤と化学免疫療法による治療がフェールした患者に用いる。17p欠損型やTP53変異型の患者は、化学免疫療法があまり有効ではないため、Bセル受容体パスウェイ阻害剤不応不適だけで使用できる。

主な深刻有害事象は肺炎、熱性好中球減少症、自己免疫性溶血性貧血、腫瘍壊死症候群など。少なくとも初回の投与は入院させて副作用を監視する必要がある。

米国は共同販売だが米国外はアッヴィが単独販売する。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース

Cystadrops(mercaptamine)も肯定的意見を獲得した。Orphan Europeという、イタリアのRecordatiグループの希少疾患用薬会社が承認申請した、シスチン症の治療に用いる点眼薬。角膜に蓄積したシスチン結晶をシステインなどに変換する。主な副作用は目の痛み、充血、痒み、霞み。

リンク: EMAのプレスリリース

診断薬で肯定的意見を得たのがSomaKit TOC(edotreotide)。GEP-NET(膵消化管神経内分泌腫瘍)の診断に用いるPET造影剤で、放射性核種で標識して投与するとソマトスタチン受容体に結合し、この受容体が過剰発現する腫瘍を浮き彫りにする。フランスのAdvanced Accelerator Applications社が承認申請したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を再発性古典的ホジキンリンパ腫(ホジキンリンパ腫の95%を占める)に用いることが支持された。自家造血幹細胞移植とAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を施行後に進行・再発した患者に用いる。臨床初期中期試験ではORR(客観的反応率)が65%、完全反応率は7%、反応持続期間はメジアン8.7ヶ月だった。米国では5月に加速承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

さて、新薬ではないがmetforminの禁忌を緩和することも決まった。二型糖尿病治療薬として長い歴史を持つが、腎機能低下患者は深刻な副作用であるラクティック・アシドーシスのリスクが高まるので注意が必要だ。EUでは中度以上(GFRが59 ml/分以下)が禁忌となっているが、科学的文献や臨床データ、疫学試験、学会などの治療ガイドラインを改めて検討した結果、重度(GFRが30 ml/分未満)だけに絞り込んだ。

リンク: EMAのプレスリリース

10月2日号で報じたように、アストラゼネカはRecentin(cediranib maleate)の承認申請を撤回したが、EMA側も経過を公表した。不当に不利益を与えたわけではないことを明確にすることによって行政手続きの透明性を担保する手段であり、FDAやPMDAも見習う余地があるのではないか。本稿の主題とは何の関係もないが、日本将棋連盟も倣うべきである。

EMAは薬効や安全性のエビデンスが不十分と考えているようだ。再発性プラチナ薬感受性卵巣癌を組み入れたICON6試験の結果に基づいてEUで承認申請されたのだが、第一に、医療施設の立ち入り調査で、GCPが十分に遵守されていない疑いが生じた。第二に、PFS(無進行生存期間)の延長効果が限定的。第三に、疲労や下痢による投与中止が多く、忍容性に疑問がある。アストラゼネカは、当面、承認は取れないと判断して撤回したのだろう。

米国では承認申請されていない模様。

cediranibはVEGF受容体拮抗剤。結腸直腸癌や非小細胞性肺癌など様々な用途で第三相が実施されたが、なぜか良い結果が出ていない。尚、製品名はRecentinではなくZemfirzaとして承認申請されていたことが判明した。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿