2016年7月24日

2016年7月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Gazyva、今度はリツキサンに勝てず 
  • プーマ、汎erbB阻害剤を承認申請 
  • アムジェン/UCB、抗Sclerostin抗体を骨粗鬆症に承認申請 
  • オプジーボ、頭頸部癌に適応拡大申請 
  • メルク、cladribineを欧州で再申請 
  • CHMPがIBS-D治療薬などに肯定的意見 
  • FDA諮問委員会、ルミセフの承認を支持 


【新薬開発】


Gazyva、今度はリツキサンに勝てず
(2016年7月18日発表)

ロシュはGazyva(obinutuzumab)の第三相GOYA試験が成功しなかったことを明らかにした。データは未発表。

GazyvaはCD20を標的とするフコース欠如ヒト化抗体。同社の抗CD20キメラ抗体であるRituxan(rituximab、和名リツキサン)よりマウス由来のアミノ酸が少なく、翻訳後装飾でフコースが付加されていないためNK細胞やマクロファージのFcガンマ受容体IIIaとの結合力が高く抗体依存性細胞傷害活性が優れている。13年に米国で、14年には欧州でも承認された。

開発戦略で特徴的なのは、Rituxan直接比較試験が数多く行われていること。狙いは、フコース欠如抗体技術の優秀性を確立することと、Rituxanの特許切れ対策と推測される。過去の成果は見事なもので、慢性リンパ性白血病の一次治療としてchlorambucilと併用した試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン26.7ヶ月とchlorambucil・Rituxan併用群の15.2ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.39だった。

もう一つの適応である非ホジキン型リンパ腫でも、濾胞性リンパ腫の一次治療として化学療法と併用したGALLIUM試験の中間解析で、PFSがRituxan・化学療法併用群を上回り、成功認定された(データは未発表)。

今回のGOYA試験も非ホジキン型リンパ腫のRituxan対照試験で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一次治療として、化学療法4剤とRituxanを使うR-CHOPレジメンと、Rituxanに代えてGazyvaを用いるG-CHOPを比較した。似たような内容なので優越性が出なかったのは意外だ。この二つの試験の詳細が発表された段階で、何が異なり何が同じなのか、検討されることになるだろう。

非ホジキン型リンパ腫のうち、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は約3割、濾胞性は2割程度を占める。前者は進行が速いが薬物療法応答性が高く、寛解の可能性がある。後者は低悪性度だが薬物療法応答性はやや劣る。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


プーマ、汎erbB阻害剤を承認申請
(2016年7月21日発表)

プーマ・バイオテクノロジー(NYSE:PBYI)は、PB272(neratinib)をher2陽性早期乳癌の術後延長補助療法として米国で承認申請したと発表した。EUでも6月に申請済み。

ワイスがHKI-272として開発していた不可逆的汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤。ワイスを買収したファイザーが11年にライセンスアウトした。プーマは、クーガー・バイオテクノロジーの創業者がZytiga(abiraterone、和名ザイティガ)の前立腺癌治療薬としての開発に目途を立て企業ごとジョンソン・エンド・ジョンソンに9.7億ドルで売却した後に設立した会社。第三相は末期乳癌で複数開始されたはずだが、まだ朗報は聞こえてこない。

承認申請の根拠になった第三相ExteNET試験は、her2陽性早期乳癌の切除術後にHerceptin(trastuzumab)による附随療法を受けた患者を組み入れて、偽薬またはneratinib(240mgを一日一回、経口投与)を1年間投与して浸潤性乳癌の再発リスクを比較したもの。日本の施設も参加した。結果は、主評価項目である2年後の浸潤性乳癌無再発生存率が93.9%と偽薬群の91.6%を上回り、ハザードレシオは0.67、95%信頼区間0.50-0.91、ログ・ランクp値0.009となり、成功した。

ホルモン受容体陽性サブグループや、セントラルラボでher2陽性であることが再確認されたサブグループでも有意差があった。主な有害事象は下痢など。

リンク: プーマ社のプレスリリース

アムジェン/UCB、抗Sclerostin抗体を骨粗鬆症に承認申請
(2016年7月21日発表)

アムジェンとUCBは、AMG785/CDP7851(romosozumab)を米国で承認申請したと発表した。Wntや骨形態形成蛋白のシグナル伝達パスウェイに介入して造骨細胞を抑制するsclerostinを標的とするヒト化抗体で、閉経後骨粗鬆症で骨折リスクの高い患者に用いる。210mgを月一回、皮注する。

アムジェンは抗RANKL抗体Prolia(denosumab、和名プラリア)も持っているため、romosozumabのコースの前、あるいは後にProliaを投与するシーケンシャル用法も検討されている。作用機序の違いが効果や安全性にどう影響しているか、詳細分析が待望される。

日本ではアムジェンとアステラス製薬の共同開発提携の対象。

リンク: 両社のプレスリリース

オプジーボ、頭頸部癌に適応拡大申請
(2016年7月18日発表)

BMSは、抗PD-1抗体のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を再発性転移性のSCCHN(頭頸部扁平上皮腫)用薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査で審査期限は11月11日。第三相のCheckMate-141試験では、白金薬による前治療歴を持つ患者を組み入れて3mg/kgを二週間に一回投与し、医師の選んだ薬を投与する群と全生存期間を比較したところ、中間解析でメジアン7.5ヶ月対5.1ヶ月、ハザードレシオ0.70となり、成功認定された。

サブグループ分析では、ヒトパピローマウイルス陽性でも陰性でも、あるいは、PD-L1陽性1%以上でも未満でも、ハザードレシオは1を下回ったが、症例不足なのか信頼区間が1を跨いでいるものもある。

リンク: BMSのプレスリリース

メルク、cladribineを欧州で再申請
(2016年7月18日発表)

独メルクは、cladribineを再発寛解型多発性硬化症用薬として欧州で再申請し受理されたと発表した。深刻な副作用の発生率が許容できる範囲なのか、注目される。

cladribineはプリン類縁体でDNA合成を阻害する。ジョンソン・エンド・ジョンソンが93年に有毛細胞性白血病用薬として発売したが、やがて、多発性硬化症に効く可能性が浮上した。アイバックス社(後にテバが買収)が開発した経口剤をセラノ(後にメルクが買収)がインライセンス、2005年に第三相試験を開始した。投与スケジュールが珍しく、年に一回、4~5日連続服用する。

複数の第三相が成功し再発リスク削減効果が確認されたが、腫瘍リスクが浮上した。白血病治療でもリスクが見られ、用量は経口剤でも実質的に大差ないので、危惧された通りと言っても良いだろう。メルクは欧米で承認申請を断行したが、承認されなかった。これも、予想された通りと言って良いだろう。

メルクは追加試験・分析を行い、今回の再承認申請に至った。今回も、予想された通りと言わなければならない結果になるのか、注目される。

リンク: メルクのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがIBS-D治療薬などに肯定的意見
(2016年7月22日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、7月の会合でIBS-D治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Aptalis Pharma SASのTruberzi(eluxadoline)は局所作用性オピオイド受容体作動剤。オピオイド受容体のうちミューとカッパ受容体にはアゴニストとして作用するが、デルタに対してはアンタゴニストなので便秘のような副作用が緩和される由。IBS-D(下痢主導型過敏性腸症候群)の治療に用いる。臨床試験では、EU基準の奏効率が偽薬群は20%前後であったのに対して75mg群(一日二回経口投与)は23~30%、100mg群は25~29%だった。主な有害事象は便秘、悪心、腹痛など。

Aptalisはアラガンのグループ会社。eluxadolineはジョンソン・エンド・ジョンソンから権利を取得して開発したFuriex Pharmaceuticalsがフォレストに買収され、フォレストはアクタビスに買収され、アクタビスがアラガンと合併と変遷した。米国では昨年5月にViberziというブランド名で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

二種類のVEGF受容体阻害剤も肯定的意見を受けた。フランスのイプセンが米国のエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスして承認申請したCabometyx(cabozantinib)とエーザイのKisplyx(lenvatinib)で、どちらも活性成分は甲状腺癌用薬として承認されているが、新たに、他のVEGF受容体阻害剤による前治療歴を持つ腎細胞腫に用いることが支持された。

Cabometyxは錠剤で60mgを一日一回経口投与。甲状腺癌用の製品名はCometriqカプセルで140mg一日一回。Kisplyxは18mgカプセルを一日一回。腎細胞腫用はブランド名Lenvimaで24mg一日一回。米国のブランド名はLenvimaで統一されている。

甲状腺癌は患者数が比較的少ないため価格を高く設定しないとペイしないが、腎細胞腫は他にも多くのVEGF受容体阻害剤が承認されているので高いと売れない。新製品という位置づけになっているのは、おそらくこれが理由だろう。

Cabometyxは単剤投与する。ノバルティスのmTOR阻害剤であるAfinitor(everolimus)と直接比較した試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月対3.8ヶ月で上回り、ハザードレシオ0.58だった。KisplyxはAfinitorと併用する。臨床試験ではPFSがメジアン14.6ヶ月対5.5ヶ月で上回り、ハザードレシオ0.40だった。少なくとも効果の点ではKisplyx・Afinitor併用のほうが高そうだ。

リンク: EMAのプレスリリース

英国の小児用薬会社、Proveca社のSialanar(glycopyrronium bromide)はPUMA(小児用販売承認)の肯定的意見を受けた。慢性的神経学的疾患の3歳以上の患者の、重度流涎症状を治療する。CHMPは、安全性に関する検討が不十分でありQOL改善作用も確立していないことを理由に4月に否定的意見を出したが、再審請求・専門家諮問を経て、重度患者に短期間使うことを認めた。

PUMAは07年に導入された制度で、既に特許が切れた活性成分でも、新たに小児用製剤を開発し臨床試験を行ってPUMAを獲得すれば、新規活性成分と同様に10年間の市場独占権が与えられる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Proveca社のプレスリリース

バクスアルタのOnivydeは、トポイソメラーゼI阻害剤irinotecanのPEG化リポソーム製剤。転移性膵腺腫に肯定的意見を受けた。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、ギリアド・サイエンシズの抗HIV薬Truvada(tenofovir DFとemtricitabineの合剤)をHIV/AIDSの曝露前予防(PrEP)に用いることが支持された。感染者と性交渉を持つ男女が予防のために常用する。米国では12年に承認された。耐性ウイルスが増えるのではないかとか、油断する、金が掛かるなど反対意見も多いが、米国に続いてEUでも承認されればPrEPが大勢に変わる。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)をROS1陽性末期非小細胞性肺癌に用いる適応拡大も支持された。承認用途であるALK活性化変異型は非小細胞性肺癌の1~7%が該当、ROS1再構成型は1%程度と少ない。非小細胞性肺癌は特定のサブタイプだけに強い薬が多いので、様々な分子発現検査が必須になった。

リンク: EMAのプレスリリース

FDA諮問委員会、ルミセフの承認を支持
(2016年7月19日発表)

FDAの皮膚学眼科用薬諮問委員会が中重度乾癬治療薬として承認申請されたbrodalumabについて検討し、18人全員が便益がリスクを上回ると判定した。承認に一歩近づいたが、類薬が複数存在する中、どの程度普及するか、不透明だろう。審査期限は11月16日。

brodalumabはIL-17受容体を標的とする完全ヒト化抗体。受容体ではなくIL-17を標的とする抗体医薬としては、ノバルティスが15年にCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を、イーライリリーが今年、Taltz(ixekizumab)を、発売している。

アムジェンが開発、日本周辺の権利は協和発酵が取得し、それ以外の地域ではアストラゼネカと共同開発していたが、15年にアムジェンが降りた。臨床試験で自殺思慮・自殺行動(SIB)が多数発生したため、レーベルに警告が記載されれば販促面で不利と判断したことが理由のようだ。アストラゼネカは単独で商品化を検討したが、結局、米国などの開発販売権をヴァレアントに、欧州はLEO Pharmaに、供与した。

諮問委員会で詳細が開示されたが、SIBは40例、うち完成自殺は6例とのこと。偶然なのだろうが、気持ち悪い。抗IL-17抗体でも同様なリスクがあるのかもしれないが、今のところ、brodalumabだけである。専門医は乾癬が改善すれば精神学的副作用のケアは精神科医に任せればよいが、患者はどちらも自分のことなので人任せにできない。悩ましいところである。

brodalumabは日本で今年7月にルミセフという製品名で承認された。

リンク: ヴァレアント社のプレスリリース




今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿