2016年7月17日

2016年7月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Juno、CAR-Tの治験を再開へ
  • ウルトラジェニクス、MPS VIIの第三相試験が成功
  • イデベノン、FDAは承認申請を認めず
  • FDA、シャイアーのドライアイ治療薬を承認
  • アムジェン、レパーサの月一回自己注用ディバイスが承認


【新薬開発】


Juno、CAR-Tの治験を再開へ
(2016年7月12日発表)

Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、FDAがJCAR015の第二相試験のクリニカルホールドを解除したと発表した。患者組入れを再開する予定。

JCAR015はキメラ抗原受容体=T細胞(CAR-T)と呼ばれる新しいタイプの細胞療法。再発性難治性急性リンパ芽球性白血病の第二相試験、ROCKET試験で脳浮腫による死亡が三例発生したことから、FDAが治験許可停止を通知していた(16年7月10日号参照)。

CAR-Tを施行する時は制御的T細胞が増殖を妨げないように事前にcyclophosphamideなどの化学療法剤でプリコンディショニングする。ROCKET試験は当初は単剤投与だったが、増殖速度が高まるfludarabine併用を開始した途端、脳浮腫死亡が発生した。これ以外の共通点は年齢が20代半ば以下であることだけである模様。

副刺激受容体として4-1BBを使った他のCAR-T(JCAR014と推測される)でも併用で脳浮腫死亡が発生したことがある模様なので、結局、これが一番怪しい。このため、治験再開後は単剤投与に戻す。

もう一つのCAR-TパイプラインであるJCAR017の場合は、併用でプリコンディショニングする時のcyclophosphamideの用量がJCAR015のケースより少なく、今のところ、忍容性は良好である模様。今後、JCAR015でも探索される可能性がありそうだ。但し、Kite Pharma(Nasdaq:KITE)との開発競争に負ける訳にはいかないので、当面は単剤プリコンディショニング法で全力を尽くすのだろう。

リンク: Junoのプレスリリース

ウルトラジェニクス、MPS VIIの第三相試験が成功
(2016年7月14日発表)

米国カリフォルニア州の希少疾患用薬開発会社であるウルトラジェニクス・ファーマスーティカル(Nasdaq:RARE)は、UX003の第三相試験結果を第14回MPS関連疾患国際シンポジウムで発表するとともに、トップラインデータをプレスリリースで公表した。17年上期の承認申請を目指して当局と相談する予定。超希少疾患なので治療効果を定量的に測定する方法が確立しておらず、組入れ数も少ないので、評価が難しく承認の見通しを立て難い。

この試験は、ムコ多糖症VII(MPS VII、別名Sly症候群)の患者12人を4群に割り付けて、遺伝子組換え型ヒト・ベータグルクロニダーゼであるUX003による酵素補充療法の効果を検討したもの。各群、最初の0、8、16、24週間は偽薬、その後はUX003(4mg/kg)を二週間に一回投与した。一群3人と少なく、年齢も5歳から35歳までと幅がある。各群のデータをどのように集計したのかはリリースに記されていない。

主評価項目はGAG(グリコサミノグリカン)の尿排泄量の減少。二次的評価項目はMDRI(複数ドメインレスポンダーインデックス)で、6分歩行テストやFVCなど様々な症状ドメイン毎に、臨床的に最低限必要と考えられる程度に改善したら1点を付与して算出した。前者は症状改善や合併症リスク削減につながるのか、臨床的な意義がよく分からない。後者は、無理にひとまとめにしないほうが分かり易いのではないか。

事前相談では、EMAは主評価項目で効果が確認されれば条件付き承認の可能性があると判定したが、FDAはどちらも不適切であり治験結果全体を総合的に評価して承認の当否を判断すると回答した模様。

結果は、24週間の治療でGAG尿排泄量が64.8%低下、pは0.0001未満だった。MDRIは平均0.5ドメインの改善で、標準偏差はプラスマイナス0.8、p=0.0527だった。6分歩行テストが改善した9例では平均20m改善した。一方で、患者の状態が不適で検査できなかった項目も少なくなかった模様であり、この評価項目の価値を一層引き下げている。

主な有害事象は点滴反応など。

リンク: ウルトラジェニクスのプレスリリース

イデベノン、FDAは承認申請を認めず
(2016年7月14日発表)

サンセラ・ファーマシューティカルズ(SIX:SANN)はidebenoneをデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬として承認申請するべくFDAに相談したが、否定的な回答を得たことを明らかにした。欧州では別の適応症で承認されDMDでも審査中だが、米国の新薬承認申請は2019年以降になりそうだ。

idebenoneは武田薬品が創製し、1986年に日本で脳卒中後遺症治療薬アバンとして承認されたが、薬効再確認試験が成功せず98年に販売中止となった。欧州の一部の国では利用されていたが、サンセラ社が改めてミトコンドリア異常に関連する疾患の治療薬として用途を探索、ついに、2015年に、LHON(レーバー遺伝性視神経萎縮症)治療薬としてEUの例外的条項に基づく承認を取得した。

DMDは14年に臨床試験が成功、1年間の呼吸能力(PEF%予測値)低下が偽薬群より小さかった。差は5.96%、pは0.04なので十分に小さいとは言えない。組入れ・除外条件を反映して、呼吸機能が低下し始めた、ステロイドを服用していない患者を適応として、5月にEUで承認申請し、受理された。それだけに、FDAが第三相SIDEROSの結果が19年下期に出るまで承認申請を認めなかったのは意外な感じを受ける。

リンク: サンセラのプレスリリース

【承認】


FDA、シャイアーのドライアイ治療薬を承認
(2016年7月12日発表)

FDAは、シャイアーがドライアイ治療薬として承認申請していたLFA-1阻害剤、Xiidra(lifitegrast)を承認した。臨床試験の成績は百戦百勝ではなかったが、ドライアイの兆候と症状を治療するという効能が認められたので販促面で有利になった。

13年に1.6億ドル及び達成報奨金と引き換えに買収した SARcode Bioscienceの開発品。白血球の接着分子であるLFA-1を阻害して、ドライアイの患者の角膜結膜組織で過剰発現しているICAM-1との交互作用を妨げる。一日二回、点眼する。

リンク: FDAのリリース
リンク: シャイアーのプレスリリース(7/11付)

アムジェン、レパーサの月一回自己注用ディバイスが承認
(2016年7月11日発表)

アムジェンは、Repatha PushtronexがFDAに承認されたと発表した。8月4日に発売する予定。

Repatha(evolocumab、和名レパーサ)はPCSK9(プロタンパク転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)に結合する完全ヒト化抗体で、LDL-C受容体の零落を妨げることによって血清LDL-Cを削減する。15年に欧米で、今年1月には日本でも承認された。

高脂血症の患者は140mgを二週間に一回または420mgを月一回、皮注する。後者は競合品であるリジェネロン/サノフィのPraluent(alirocumab、和名プラルエント)にはない差別化ポイントだが、140mgを三回皮注するので一ヶ月の注射回数は増加する。今回の420mg規格の承認・発売が注目されていたが、意外に複雑な製品だった。

一回分の薬剤が入ったカートリッジを装着したディバイスを注射箇所に張り付け、青のランプが点滅しているのを確認してスイッチを押すと緑の点滅に変わり、薬剤が29ゲージ針を通じて9分かけて点滴皮注される。終了すると緑のランプが点灯に変わる。使用中でも、歩いたり、手を伸ばしたり、体を折り曲げたりする程度なら可能。価格はWAC(問屋取得価格)ベースで14000ドルとなり、既存の製剤と同じ。

このディバイスはWest Pharmaceutical ServicesのSmartDose技術を用いたとのこと。皮注薬は深刻なアナフィラキシーのようなリスクがない限り自己注が可能だが、時間をかけて投与する薬の自己注は珍しく、もし点滴用薬に適用できるなら面白くなる。

リンク: アムジェンのプレスリリース



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿