2016年5月8日

2016年5月8日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • リジェネロン、抗NGF抗体の後期第二相・第三相結果を発表 
  • サン、抗IL-23抗体の第三相プラク乾癬試験が成功 
  • バイエル、スチバーガの肝癌適応拡大試験成功 
  • solithromycinが米国で承認申請 
  • Clovis、rociletinibの開発を断念 
  • ハラヴェン、EUで脂肪肉腫に承認 
  • FDAがエビリファイの安全性通知 


【新薬開発】


リジェネロン、抗NGF抗体の後期第二相・第三相結果を発表
(2016年5月2日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、抗NGF完全ヒト化抗体REGN475(fasinumab)の後期第二相・第三相難治性変形性関節炎試験の結果を発表した。薬効は4種類の試験用量すべてでp値が偽薬比0.05を下回った。一方で、忍容性は、今回もまた骨疾患の懸念が消えなかった。

NGFはジェネンテックが発見。ALS(筋萎縮性側索硬化症)治療試験で疼痛感受性が高まる副作用が見られたため、NGFをブロックするヒト化抗体を創製し鎮痛剤としての用途を探索した。中枢神経系事業は01年にスピンアウトされたが06年にファイザーが買収、tanezumabの変形性関節炎試験を推進した。

その後の歩みは紆余曲折した。後期第二相試験で疼痛緩和作用が確認されたが、RPOA(急進行性変形性関節炎)、無血管性骨壊死、関節置換術施行などの増加がみられたため、2010年にFDAが他社の開発品も含めてクリニカル・ホールド(治験許可停止)を命じた。その後、諮問委員会が治験再開を支持したが、前臨床で末梢神経系副作用が見られたため癌患者向け以外は再びホールドに。追加前臨床試験を経て、15年になってやっと、4ヶ月未満の連続投与試験が許可されたところだ。

ファイザーは治験再開を前にイーライリリーと開発提携することでリスクシェアを行った。ジョンソン・エンド・ジョンソンはアムジェンからインライセンスしたfulranumabの第三相試験を今年3月に中止、権利を返還した。安全性懸念が理由ではないとのことだが、このようなケースで安全性を理由にすることはあまりない。

さて、リジェネロンの試験は既存の鎮痛剤に十分に反応しない股関節・膝関節炎の患者約400人を対象に、1mgから9mgまでの4種類の用量を偽薬と比較した。4週間に一回のペースで3回皮注し、第16週にWOMACを用いて痛みを評価した。結果は、4群とも偽薬より大きく改善した。用量相関しているようには見えないので、もっと減らす余地がないのか、気になるところだ。

この試験では、当然のことながら、神経筋骨格系の有害事象が重点観察事項とされた。結果は、4群合計で発生率17%と偽薬群の6%を上回った。数は少ないがRPOA、軟骨下脆弱性骨折、骨壊死も増加した。

米国は麻酔麻薬系鎮痛剤が多く用いられている。遊びでオキシコドンを使って死亡する若者が多いため社会問題になっているが、医療目的と推測される事例でも、マイケル・ジャクソンに続いてプリンスの早逝も鎮痛剤に疑いが向けられているようだ。日本でも、日系企業のアメリカ人重役が不法にオキシコドンを入手して問題になったことがある。色々な制約やリスクがあっても使わざるを得ない人がいるのだから、代替的な選択肢が必要だ。

とは言え、関節痛治療薬の副作用が関節の悪化では適わない。発生頻度やリスク因子、発見・予防・治療法方法などを十分に探索する必要がありそうだ。

fasinumabは、日本では田辺三菱製薬が昨年10月に権利を取得した。

リンク: リジェネロンのプレスリリース(pdfファイル)

サン、抗IL-23抗体の第三相プラク乾癬試験が成功
(2016年5月4日発表)

インドのサン・ファーマは、tildrakizumabの第三相中重度プラク乾癬治療試験が成功したと発表した。100mgと200mgをテストしたが、後者の効果はetanercept(アムジェン/ファイザーのEnbrel)を投与した群を上回ったとのことだ。サンは承認申請に向かう予定。

IL-23のp19サブユニットに結合する抗体医薬で、14年9月にMSDからライセンスしたもの。抗IL-23抗体はベーリンガー・インゲルハイムやジョンソン・エンド・ジョンソン、アッヴィなども後期開発品を持っており、競争が激化している。

リンク: サンのプレスリリース(pdfファイル)

バイエル、スチバーガの肝癌適応拡大試験成功
(2016年5月4日発表)

バイエルは、VEGFR阻害剤Stivarga(regorafenib、和名スチバーガ)の第三相肝細胞腫試験の成功を発表した。数値は未発表。適応拡大申請に向かう予定。

バイエルのVEGFR阻害剤と言えばNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)が第一号。Stivargaは類縁体で、今はアムジェンの子会社となったオニクスと90年代に行った共同研究の成果だ。VEGFR阻害剤は社外競合も多いので予定適応症の選択に工夫が必要だが、肝細胞種はNexavarだけであるせいか、Nexavarによる前治療歴を持つ患者を対象に、最適支持療法だけの群と全生存期間を比較する試験を行った。用量用法は、既承認の結腸直腸癌やGIST(消化管間質腫瘍)と同じ。

リンク: バイエルのプレスリリース

【承認申請】


イーライリリー、抗PDGF受容体アルファ抗体を承認申請
(2016年5月4日発表)

イーライリリーは、第1四半期(1~3月)にLY3012207(olaratumab)を末期軟部組織肉腫用薬として欧米で承認申請し、どちらも優先審査されることを公表した。08年に65億ドルで買収したイムクローン社の開発品で、PDGF受容体アルファを標的とする完全ヒト化抗体。

薬効のエビデンスは第二相試験で、治癒目的の放射線療法・摘出術が望めない進行性患者にdoxorubicinと併用したところ、PFS(無進行生存期間)がメジアン6.6ヶ月とdoxorubicinだけの群の4.1ヶ月を上回った。階層化ハザードレシオ0.672、p値は0.0615なのであまり良くないように見えるが、100例程度の試験なのでやむを得ないのかもしれない。メジアン生存期間は未成熟だが中間解析で25.0ヶ月対14.7ヶ月と良さそうな数字が出ている。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

solithromycinが米国で承認申請
(2016年5月1日発表)

Cempra(Nasdaq:CEMP)は、CEM-101(solithromycin)のローリング承認申請が完了したと発表した。地域感染細菌性肺炎の治療に用いる。欧州でも6月までに承認申請される見込み。

fluoroketolide系の第一号で、リボソームの三つの部位に作用できるためマクロライド耐性菌にも活性を持つ模様。経口剤と静注用製剤の二種類用意されている。経口剤の試験では72時間後と治療終了の5~10日後の奏効率が何れもmoxifloxacin群と非劣性だった。静注試験でも72時間奏効率がmoxifloxacin比非劣性。有害事象は、マクロライド派生なので注射箇所の疼痛が増加。深刻有害事象発生率は6.9%でmoxifloxacinの5.4%より若干多かった。

solithromycinはOptimer Pharmaceuticalsからライセンスしたもの。Optimerは13年にCubistに買収され、Cubistは14年にMSDに買収された。日本の権利は13年に富山化学が取得。

リンク: Cempraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Clovis、rociletinibの開発を断念
(2016年5月5日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)はEGFR阻害剤CO-1686(rociletinib)をEGFR活性化変異とEGFR阻害剤による前治療歴、そしてT790M変異を持つ非小細胞性肺癌の薬として欧米で承認申請中だが、開発中止を発表した。

学会で良さそうな第二相試験結果が発表され注目されていたが、その後の分析では反応率が低下、眉唾度が高まっていた。4月の諮問委員会ではFDAが様々な欠陥・疑問点を指摘、13人の諮問委員のうち12人が加速承認に反対し、第三相試験の結果を待つべしと判定した。FDAから6月28日の審査期限より前に審査完了通知を出す旨の連絡があった模様。EUでも加速審査中だが、申請撤回する予定。

薬に自信があれば既に組み入れを開始した第三相試験を中止するはずがない。結局、Clovisの承認申請は初めからダメ元だったのだろう。今後は、ローリング承認申請に着手したばかりのPARP阻害剤、CO-338(rucaparib)に経営資源を集中する由だが、素直に聞ける人は少ないだろう。

リンク: Clovisのプレスリリース

【承認】


ハラヴェン、EUで脂肪肉腫に承認
(2016年5月6日発表)

エーザイはEUがHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の適応拡大を承認したと発表した。アントラサイクリン系抗癌剤を含む化学療法前治療歴を持つ手術不能/転移性進行性脂肪肉腫に用いる。三次治療試験ではメジアン生存期間が13.5ヶ月とdacarbazine群の11.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、統計的に有意な差があった。米国では今年1月、日本は2月に承認。

リンク: エーザイのプレスリリース(pdfファイル)

【医薬品の安全性】


FDAがエビリファイの安全性通知
(2016年5月3日発表)

FDAは、BMSが大塚薬品と共同開発した非定型向精神薬、Abilify(aripiprazole、和名エビリファイ)の副作用として強迫衝動障害を追加した。パーキンソン病に用いるドパミン作用剤と同様に、病的賭博行為が稀に見られることは前から分かっていたが、有害事象報告を分析した結果、大食や買い物依存、性衝動など様々な衝動制御障害が発生していることが判明した。

02年の発売以降の13年間余に、184例が報告された(米国が167例と殆どを占める)。病的賭博が164例と最も多く、性行動が9例、ショッピング4例、大食3例、複数症状が4例あった。何れも、衝動制御障害の病歴はなく、Abilify服用後に発症、服用中止・減量で軽快した。Abilifyは米国だけで年160万人が処方を受けているので、発生頻度は低い。

FDAは、高リスク患者を密接にモニターするよう推奨している。リスク因子は、強迫衝動障害の病歴または家族歴、衝動制御障害、双極障害、強迫性性格、アルコール依存、薬物乱用、その他の依存性障害。症状が見られたら減量・中止を検討する。

リンク: FDAのリリース




今週は以上です。

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