2016年5月29日

2016年5月29日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、Gazyvaが再びリツキサンに勝つ 
  • CHMP、武田のNinlaroに否定的意見 
  • FDA諮問委員会がインスリン・GLP-1作用剤コンビ薬を支持 
  • アストラゼネカの高カリウム血症用薬は審査完了通知に 
  • インターセプト、胆管炎治療薬が米国で承認 
  • バイオジェン、多発性硬化症用薬が米国で承認 
  • インプラント用オピオイドが米国で承認 
  • ADA-SCID治療薬がEUで承認 
  • JNJ、DarzalexがEUで承認


【新薬開発】


ロシュ、Gazyvaが再びリツキサンに勝つ
(2016年5月27日発表)

ロシュはGazyva(obinutuzumab、欧州名Gazyvaro)がGALLIUM試験の中間解析でRituxan(rituximab、欧州名MabThera、和名リツキサン)を上回るPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。データは学会等で発表される予定。適応拡大申請に向かうだろう。

GazyvaはRituxanと同様にCD20を標的とする抗体医薬で、違いは、マウス由来のアミノ酸が少ないヒト化抗体であることと、通常は翻訳後装飾で付加されるフコースを持っていないこと。

抗体医薬はマウス抗体からキメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体と進歩してきた。ヒト化抗体はRituxanのようなキメラ抗体よりアナフィラキシーのような免疫原性副作用が小さい長所がある。一方、ヒト化抗体と完全ヒト化抗体の臨床効果の違いは明確ではなく、一つ一つ確認していく必要がある

フコース欠如抗体はNK細胞やマクロファージのFcガンマ受容体IIIa(CD16)との結合力が高く、ADCC(抗体依存性細胞傷害)活性が増強される。ロシュ/GlycArtや協和発酵/バイオワはそれぞれ異なった方法でフコース欠如抗体の開発に成功した。実用化第一号がロシュのGazyvaだ。13年に米国で慢性リンパ性白血病(CLL)の一次治療薬として、今年3月には濾胞性リンパ腫の二次治療薬として、承認された。

CLLの第三相試験ではchlorambucilと併用する効果をchlorambucilモノセラピーと比較するだけでなく、chlorambucilとRituxanの併用とも比較したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオがモノセラピー対比で0.14、Rituxan併用対比でも0.39と大変良い結果になった。

今回の試験は緩慢性非ホジキン型リンパ腫の一次治療試験で、化学療法(CHOP、CVP、またはbendamustine)とRituxanを併用する導入療法とその後にRituxanだけの地固め療法を施行する標準療法群と、Rituxanの代わりにGazyvaを用いる群を比較した。主評価項目は被験者の大多数を占める濾胞性リンパ腫の症例の、担当医判定に基づくPFS。二次的評価項目で第三者査読を経たPFSや全ユニバースの解析も行われる予定だ。

濾胞性リンパ腫では今のところRituxanに反応しなかった患者の二次治療しか承認されていないが、今回の成功で、第一選択薬に格上げされることになる。Rituxanのような初期の抗体医薬は特許が次第に切れ始めるためバイオシミラーにリプレースされるリスクが高まっている。サイトカイン系の一部ではPEG化技術で効果や利便性を高めることに成功、特許切れ対策となった。抗体医薬系ではフコース欠如抗体などの抗体改変技術に期待がかかる。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、武田のNinlaroに否定的意見
(2016年5月27日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、5月の会議で、三種類のFDC(固定用量配合)製品の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認される見込み。一方、武田薬品Ninlaro(ixazomib cirate)は薬効のエビデンスが不十分とみなされ、否定的意見となった。

リンク: EMAのプレスリリース

コンビ薬三剤のうち二剤は、複数の薬を併用するのが一般的な慢性C型肝炎の治療薬で、どちらも新規活性成分を用いている。まず、ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)のEpclusa。NS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirと新開発のNS5A複製複合体阻害剤velpatasvirを配合している。

前者は単剤でSovaldi(和名ソバルディ)として、及び、NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirとのFDCでHarvoni(和名ハーボニー)として、販売されている。NS5Bポリメラーゼ阻害剤は肝毒性で開発中止になったものが多く、貴重な選択肢だ。一方、後者のvelpatasvirはledipasvirと同じ作用機序なので使い分けることになる。

Harvoniは6種類の代表的なC型肝炎ウイルスのうち2型、3型、6型に関するエビデンスが不十分だが、Epclusaは6種類全てで90%以上の奏効率(SVR12)を上げており、専らこの3遺伝子型に用いられるのではないか。1型2型以外の感染者が少なくない国や遺伝子型検査が普及していない国でも有益だろう。

米国でも承認審査中で、審査期限は6月28日。

もう一つはMSDのZepatier。NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤grazoprevirとNS5A複製複合体阻害剤elbasvirのコンビ薬で、どちらも新規活性成分。米国と同様に1型と4型だけしか肯定的意見を受けなかった(3型や6型も申請)。臨床試験では90%以上の奏効率(SVR12)を示した。予後の悪い重度慢性腎疾患患者にも有効。

生産委託先で支障が生じている模様で発売は今年後半以降になる見込み。米国では今年1月承認された。日本でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

最後の一つはアストラゼネカのQternで、DPP4阻害剤saxagliptinとSGLT2阻害剤dapagliflozinを配合。二型糖尿病で、metforminやSU剤だけでは十分な血糖管理ができない患者に用いる。米国では承認が遅延している。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

武田が多発骨髄腫の二次治療薬として承認申請した経口プロテアソーム阻害剤、Ninlaro(ixazomib cirate)は、米国では昨年11月に審査期限よりだいぶ早く承認されたが、CHMPは否定的意見と評価が分かれた。

第三相試験では標準療法の一つであるRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneを併用するRdレジメンと更にNinlaroを用いる三剤併用のPFS(無進行生存期間)を比較、各群のメジアン値は14.7ヶ月と20.6ヶ月、ハザードレシオ0.74で、三剤併用群が有意に優れていた。 何が悪いのかよくわからない。武田は一次治療に難治性の患者の二次治療または三次治療以降に限定する代替案を提示したが、CHMPはエビデンス不足と判定した。

否定的評価を受けた場合、通知を受領してから15日以内なら再審査請求が可能。最近の例では、4月に否定的意見を受けたProveca社のよだれ治療薬、Sialanar(glycopyrronium bromide)の再審査請求が受理された。超希少疾患で治験症例数が少ないケースでは専門医の意見を聴取した上で意見を変えたことが何度かある。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(英文)
リンク: 治験論文抄録(New England Journal of Medicine)

適応拡大では、シアトルジェネティクス(Nasdaq: SGEN)が武田と共同開発販売しているAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を地固め療法に用いることが肯定的意見を得た。ホジキン型リンパ腫で自家造血幹細胞移植を受けた、再発リスクの高い患者に、3週間に一回投与、1年間のコースを施行する。臨床試験ではPFSが43ヶ月と偽薬群の24ヶ月を大きく上回った。

CD30に結合する抗体とMMAEと略称される細胞毒をリンカーで結合したADC(抗体薬物結合体)で、現在は、ホジキン型リンパ腫が再発した後に使う薬として承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(英文)

アッヴィのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)を非感染性中間部・後部全ブドウ膜炎の治療に用いることも肯定的意見を得た。ステロイドに十分に反応しない患者等に用いる。TNF阻害剤は適応の多さに圧倒される。

リンク: EMAのプレスリリース

参天製薬が非感染性ブドウ膜炎の治療薬として承認申請した注射用薬、Opsiria(sirolimus)は申請撤回となった。EMAは承認に否定的であった模様。単群試験で示された薬効が不明確であること(特に欧州の施設)、生産工程における減菌方法に疑問が生じたこと、などを指摘している。

リンク: EMAのプレスリリース

FDA諮問委員会、インスリン・GLP-1作用剤コンビ薬を支持
(2016年5月24日発表)

糖尿病治療薬の大手であるノボ ノルディスクとサノフィは、持効性インスリンやGLP-1作用剤の開発販売で鎬を削っているが、この二つのFDC(固定用量合剤)の開発もデットヒート状態だ。欧州ではノボが14年に承認を取得、先行したが米国は大きく遅延、昨年9月に承認申請したところ。サノフィは米国で昨年12月申請と3ヶ月遅れたが、レトロフィン社から2.45億ドルで取得した優先審査バウチャーを使ったので、先に承認される可能性もある。

意外なことに、FDAは内分泌代謝薬諮問委員会を招集し、24日はノボのIDegLira、25日はサノフィのLixiLanについて意見を聞いた。前者は16人の委員全員が、後者も票決に参加した14人中12人が承認を支持したので、おそらく順当に承認されるだろう。しかし、数年前に浮上した素朴な疑問がFDAにとっても疑問であることが確認されたので、釈然としない気持ちが強まった。

疑問の第一は、インスリン対照試験でインスリンが負けるという不思議な現象。インスリンの血糖降下作用は青天井のはずで、もし他の薬に劣後したとしたら、用量用法が不適切だったか、あるいは、低血糖が原因で用量を抑えざるを得なかったからだろう。GLP-1作用剤は低血糖が発生しにくいが、インスリンやSU剤と併用する場合はこれらの薬の低血糖リスクを増強するので、「低血糖リスクを高めずに血糖値を下げることが可能」とは考え難い。

第二は、用量の組み合わせがIDegLiraは一種類、LixiLanは二種類しかないこと。インスリンは血糖値をモニターして増減量するが、これらの製品はインスリンを増減するとGLP-1作用剤の用量も増減し、大きく増減するとGLP-1作用剤の量が承認範囲を逸脱してしまう。

LixiLanに配合されているinsulin glargineの場合、米国患者の多くが一日10~60単位を用いており、LixiLanを使う場合のGLP-1作用剤lixisenatideの用量は5~30mcgとなるので、lixisenatide単剤の承認用量である10~20mcgから大きく逸脱する訳ではない。しかし、5mcgでも本当に効くのか、30mcgでも本当に安全なのかは、個々の患者が自分でやってみるしかないだろう。

リンク: ノボのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース

アストラゼネカの高カリウム血症用薬は審査完了通知に
(2016年5月27日発表)

アストラゼネカはZS-9(sodium zirconium cyclosilicate)に関してFDAから審査完了通知を受領したと発表した。昨年11月に27億ドルで買収したZS Pharmaの開発品。承認前の工場検査で指摘事項があった模様。既に回答済みである模様なので年内に承認される可能性もあるだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


インターセプト、胆管炎治療薬が米国で承認
(2016年5月27日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、Ocaliva(obeticholic acid)が原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。これまでは唯一の治療薬であったウルソデオキシコール酸に十分に反応しない患者に追加、又は不耐患者に単剤投与する。ALP(アルカリフォスフォターゼ)低下作用に基づく加速承認なので、臨床症状改善作用や延命効果を別途、確認する必要がある。

PBCは主として40歳以上の女性が罹患する免疫性疾患で、合併症は命に係る。OcalivaはFXR(ファルネソイドX受容体)アゴニスト。ウルソデオキシコール酸の類縁体で力価を高めた。臨床試験ではALP正常化成功率が46%と偽薬群の10%を有意に上回った。主な有害事象は掻痒。非アルコール性脂肪性肝炎にも開発されている。

日本では大日本住友製薬がDSP-1747として非アルコール性脂肪性肝炎向けに開発している。

リンク: インターセプトのプレスリリース

バイオジェン、多発性硬化症用薬が米国で承認
(2016年5月27日発表)

バイオジェンは、アッヴィと共同開発したZinbryta(daclizumab)が米国で再発性多発性硬化症の維持療法薬として承認されたことを発表した。

PDLバイオファーマがヒト化技術を応用して創製した抗CD25ヒト化抗体で、ロシュが97年に臓器移植後拒絶反応予防薬Zenapaxとして発売したが商業上の理由で販売中止。その後、PDLが独自に皮注用製剤を開発し、Avonex(ベータインターフェロン1a)などの多発性硬化症用薬を持つバイオジェンと提携。PDLはその後、アッヴィに買収された。

Avonexと直接比較した第三相試験で再発リスクを45%削減しており、効果はここ数年の新薬に匹敵しそうだ。忍容性では深刻な肝毒性が枠付き警告された。毎月検査し、治療を終えた時も半年後に検査する必要がある。過敏反応なども見られたため、FDAは、2~3種類の薬を試しても上手く行かない難治性の患者に用いることを推奨している。

リンク: FDAのリリース
リンク: 両社のプレスリリース

インプラント用オピオイドが米国で承認
(2016年5月26日発表)

タイタン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:TTNP)は、FDAがProbuphine(buprenorphine)をオピオイド依存症治療薬として承認したと発表した。既存製品は舌下錠だが、患者が飲まなかったり子供が誤飲したりするリスクがある。Probuphineは初のインプラントで15分程度の施術で上腕皮下に留置すると効果が6ヶ月間持続する。Braeburn Pharmaceuticalsが販売する。

リンク: FDAのリリース
リンク: タイタンのプレスリリース

ADA-SCID治療薬がEUで承認
(2016年5月27日発表)

グラクソ・スミスクラインはStrimvelisがEUで承認されたと発表した。ADA-SCID(アデノシンデアミナーゼ欠損症による重症複合免疫不全症)の遺伝子療法で、HLA型適合の近親者ドナーがいない患者に用いる。

ADA-SCIDは免疫力が著しく弱く、日和見感染でも深刻な状態になるので、生涯を無菌室で過ごすことになる。遺伝子療法の代表的な用途と見なされてきたが、中々実現しなかった。Strimvelisは、患者から採取したCD34陽性細胞にレトロウイルス・ベクターを使ってヒトADAのcDNAを導入、6時間以内に患者に戻すと、正常な免疫細胞が作られるようになる。臨床試験では12人を治療したところ3年生存率100%、メジアン7年追跡した現在でも全員が生存している。

イタリアのFondazione TelethonやFondazione San Raffaele、Ospedale San Raffaeleなどが共同で開発に成功、GSKが権利を取得して承認取得手続きを行ったもの。当初はOspedale San Raffaeleで治療する。

リンク: GSKのプレスリリース

JNJ、DarzalexがEUで承認
(2016年5月23日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Darzalex(daratumumab)がEUで再発性難治性多発骨髄腫用薬として承認されたと発表した。代表的な治療薬であるプロテアソーム治療薬と免疫調停薬による治療を既に受けて最終治療に反応しなかった患者に用いる。加速評価による条件付き承認で、今後の試験で臨床的効用が確認されなかった場合は承認取り消しとなる。。

デンマークのジェンマブが創製した抗CD38完全ヒト化抗体。米国では昨年11月に承認された。今回はモノセラピーだが、VelcadeやRevlimidと併用した第三相試験も成功したので、早晩適応拡大されるだろう。

リンク: JNJのプレスリリース




今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿