2016年5月1日

2016年5月1日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • CHMPが新薬6品を支持 
  • DMD用薬の諮問委員会は意見が分かれた 
  • パーキンソン性精神症状の治療薬が承認 
  • アストラゼネカ、COPD薬が承認 
  • VEGFR阻害剤が甲状腺癌に適応拡大 


【承認審査・委員会】


CHMPが新薬6品を支持
(2016年4月29日発表)

EUの薬品審査機関EMAの医薬品専門家委員会、CHMPは、4月の会合で、6種類の新薬について肯定的意見をまとめた。

リンク: EMAのプレスリリース

肯定的意見を獲得した薬は順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになるが、例外もある。まず、深刻な副作用や承認申請内容の欠陥、あるいは承認取得手続き上の問題が発覚した場合、承認が遅れたり見送られたりすることがある。また、どうしても承認したくない国が離脱することもある。逆に、EU以外の国が参加して歩調を合わせて承認することもある。

波及効果もある。承認審査機関を持たない多くの国は、EUや米国、日本、スイスなどの何れかで承認されている薬なら、あとは当該国固有の条件を満たすことで販売認可を取得できるのだ。EUにはこのシステムを一歩進めた58条申請という制度がある。WHOと連携してCHMPが低所得国の代わりに、EUでは使わないことを前提に、審査する。

前置きが長くなったが、今回58条申請に基づく肯定的意見を得たのがグラクソ・スミスクラインの新生児臍帯感染症予防薬、Umbipro(chlorhexidine digluconate)だ。WHOが2012年に認定した、普及させることによって最貧国の母親・新生児600万人以上の命を救うことができる13のコモディティー化した薬の一つで、ネパールやパキスタン、バングラディッシュのコミュニティ/プライマリーケア施設で実施された臨床試験では新生児の死亡を20~38%削減することができた。

この試験で用いられたのはマウスウォッシュ製剤だが、熱や湿度に強いゲル製剤として開発されたのが今回のUmbiproだ。CHMPの支持を受けたため、GSKはこの薬を必要とする国での承認申請に進む予定。同社はnot-for-profit priceで提供する。

リンク: GSKのプレスリリース

アストラゼネカのZaviceftaは第3世代セフェム系抗生薬ceftazidimeと新開発のベータラクタマーゼ阻害剤avibactamの合剤。複雑性腹腔内感染症、複雑性尿路感染症、院内感染肺炎、そして、適切な薬が限られている場合に限り、好気性グラム陰性菌感染症の治療に用いる。多剤耐性緑膿菌やカルバペネム抵抗性グラム陰性菌にも活性を持つ。

avibactamはアベンティスからスピンアウトした会社の開発品で、アストラゼネカが09年に企業ごと買収した。米国では、ライセンシーであるアラガンがAvycaz名で昨年2月に承認を取得している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Zinbryta(daclizumab)はバイオジェンとアッヴィ(NYSE:ABBV)が共同開発した抗CD25ヒト化抗体で、再発型多発硬化症の維持療法として月一回、皮注する。Avonex(インターフェロン・ベータ1a)対照試験で年率再発率が45%低かった。有害事象発生率は同程度で、Zinbryta群で多かったのは深刻感染症、深刻皮膚反応、肝機能検査値異常上昇、胃腸障害、うつ病。

daclizumabはPDLの開発品で、ロシュがライセンスして臓器移植に伴う拒絶反応予防薬Zenapaxとして開発・承認取得したが、普及せず、適応拡大を断念。PDLが皮注用新製剤を開発し新たにバイオジェンと提携して開発を進めた。PDLは後に新薬開発部門とヒト化抗体に係るIPの管理部門に事業分割され、前者を2010年にアッヴィが買収、という経緯。

バイオジェンも買収をオファーしたが成就しなかった。今日では、新興企業が大手とアウトライセンス契約を結ぶ時は敵対的買収禁止条項を設けることも珍しくなくなった。少しでも多くの会社と交渉したほうが高い値段で売れるからだ。

リンク: 両社のプレスリリース

ポルトガルのBial-Portela社のOngentys(opicapone)は、パーキンソン病治療に用いる末梢性選択的可逆的COMT阻害剤。レボドパなど二種類の薬を併用しても運動症状を十分に管理できない患者に用いる。主な有害事象はジスキネシア、便秘、不眠、ドライマウス、眩暈。

Aptalis(アラガンの子会社)のEnzepi(pancrelipase)はブタ由来の膵酵素。嚢胞性線維症などによる膵外分泌機能不全の治療に用いる。

リンク: アラガンのプレスリリース

ドイツのITG Isotope Technologies Garching社のEndolucinBeta(lutetium 177Lu chloride)は癌の治療に用いる放射性核種。キャリアと結合させて投与すると、ルテチウム177同位体がベータ線とガンマ線を放出する。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアド(Nasdaq:GILD)のOdefseyは、rilpivirine、emtricitabine、tenofovir alafenamide fumarateの三種類の逆転写阻害剤を配合。12歳以上かつ体重35kg以上のHIV感染者で非核酸系逆転写阻害剤やemtricitabine、tenofovir alafenamide fumarateに抵抗性を持たず、ウイルス量が10万コピー/mL以下の患者に用いる。rilpivirineの権利を持つジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発。

リンク: ギリアドのプレスリリース

以下のように、適応拡大も数多く肯定的意見を獲得した。

ロシュのGazyva(obinutuzumab)をbendamustine併用でrituximab難治性濾胞性リンパ腫に用いること。

ジョンソン・エンド・ジョンソン/ファーマサイクリクスのImbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病の一次治療に使用。

ノバルティスのAfinitor(everolimus)を胃腸または肺を原発部位とする切除不能/転移性進行性分化神経内分泌腫瘍の治療に。

ロシュのAvastin(bevacizumab)を末期/抵抗性/難治性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療にerlotinibと併用。

Apotex社のFerriprox(deferiprone)をサラセミアメジャー(重度の溶血性貧血症)の治療に他のキレーターと併用。

DMD用薬の諮問委員会は意見が分かれた
(2016年4月25日発表)

FDAの末梢中枢神経系諮問委員会はSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)がデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として承認申請したAVI-4658(eteplirsen)を検討したが、意見は分かれた。

薬効のエビデンスとしては代理マーカーであるジストロフィン量の変化を調べた試験と、6分歩行テストの変化を調べた小規模な試験のデータが提示されたが、FDAの分析・評価によると、前者は統計的に有意な差があったが小さいため臨床的な意義があいまい。後者は偽薬比有意ではなく、過去の観察的研究の自然病歴データと比べると良好だが、患者背景が異なる可能性がある。

FDAは、Sarepta社が医師や患者に十分な情報を提供せず、ミスリードしている可能性すら疑っているようだ。

票決は、ジストロフィン試験に基づく加速承認に賛成した委員は6名、反対は7名で票が分かれた。ヒストリカルコントロールに基づく承認に賛成は3名、反対7名、棄権3名で、否定的な意見が上回った。

FDA諮問委員会は委員以外の人が意見を述べる機会も用意されているが、eteplirsenは50人を超える患者や家族が治療薬の必要性を訴えたようだ。本人が望んだとしても効果のない薬が普及すると新薬開発の妨げになってしまう。そもそも、米国はプロフェッショナリズムの国なので、患者ではなく俳優が混じっている可能性も否定できない。色々と難しいところがあるため、常連の委員は彼らの主張を客観的に聞く。

一方、その委員会だけに招致された統計学者のような、普段は医療に係っていない委員は、動揺しやすい。今回も棄権した3人は患者に配慮して否と言えなかったようだ。数字以上に否定的な結果だったのである。

FDAは承認に否定的、諮問委員会も強く推奨しなかったのだから、承認される可能性は低そうだ。審査期限は5月26日。

リンク: Sareptaのプレスリリース

【承認】


パーキンソン性精神症状の治療薬が承認
(2016年4月29日発表)

FDAはACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)のNuplazid(pimavanserin tartrate)をパーキンソン病患者の幻覚妄想症状の治療薬として承認した。6月に上市される予定。

パーキンソン病の患者の5割程度は病歴のどこかの段階で幻覚や妄想のような精神症状を発症するとのことだ。pimavanserinは5-HT2Aインバースアゴニストで、ドーパミン受容体をブロックしないのでパーキンソン病自体の治療を妨げない。

有害事象は末梢浮腫、悪心、混乱。他の非定型向精神薬と同様に、高齢者認知症の精神症状の治療に用いると死亡リスクが高まることが枠付き警告された。

リンク: FDAのリリース
リンク: ACADIAのプレスリリース

アストラゼネカ、COPD薬が承認
(2016年4月25日発表)

アストラゼネカは、BevespiがCOPD維持療法薬としてFDAに承認されたと発表した。長期作用性ベータ2作用剤formoterol fumarateと長期作用性ムスカリン拮抗剤glycopyrrolateの合剤で、一日二回、吸入する。類薬は既に存在するが、pMDI(加圧噴霧式定量吸入器)製品は初。アストラゼネカは13年にPearl Therapeuticsを買収して入手した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

VEGFR阻害剤が甲状腺癌に適応拡大
(2016年4月25日発表)

エギゼリキシス(Nasdaq:EXEL)は、VEGFR阻害剤のCometriq(cabozantinib)を腎細胞腫二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。審査期限は6月なので2ヶ月強の前倒し。

臨床試験では、他のVEGFR阻害剤による一次治療を既に受けた患者に経口投与したところ、メジアンPFS(無進行生存期間)が7.4ヶ月とAfinitor(everolimus)群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.58となった。

腎細胞腫はVEGFR阻害剤の典型的な用途で既に数多くの製品が承認されており、ポテンシャルは小さそうだ。

リンク: エギゼリキシスのプレスリリース




今週は以上です。

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