2016年4月24日

2016年4月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、ナイアシンやフェノフィブリン酸の一部用法を取り消し
  • オプジーボ、頭頸部癌のデータ発表


【今週の話題】


FDA、ナイアシンやフェノフィブリン酸の一部用法を取り消し
(2016年4月18日発表)

FDAは、Niaspan(niacin)と Trilipix (fenofibric acid)の用法のうち、スタチン服用患者に追加投与する用法の承認を撤回した。同時に、ナイアシン・スタチン合剤であるAdvicor(lovastatin配合剤)、Simcor(simvastatin配合剤)、及びGE薬について、アッヴィ(NYSE:ABBV)とGE薬メーカーに承認撤回請求させた上で、承認を取り消した。

複数のアウトカム試験がフェールしたことが原因で、遅すぎると言っても良い位だが、行政の適正手続きを担保するために時間が必要だったのだろう。

高トリグリセライド値や低HDL-C値をナイアシンやフィブレート単剤で矯正することまで否定された訳ではないが、スタチンの成功に便乗して次はトリグリセライド、次はHDL-Cと先走る動きにはブレーキを掛けざるをを得ない。医療の目的は検査値を矯正することではなく、臨床的な転帰を改善することであることを忘れてはいけない。

Niaspanは米国で97年に承認され、09年には原発性高脂血症や混合異脂血症にsimvastatinあるいはlovastatinと併用する適応拡大が認められた。Advicorはスタチン第一号であるMSDのMevacor(lovastatin)の特許が切れた後の02年に、Simcorは同じくMSDのZocor(simvastatin)の特許失効後の08年に発売された。アッヴィはアボットからスピンアウトする前の06年にKOS Pharmaceuticalsを36億ドルで買収してこれらの製品を入手した。

順風満帆だったが、王様は裸であることが露呈した。NiaspanのAIM-HIGH試験が、フェールし、更に、MSDが開発したナイアシンの副作用を緩和する効果を持つlaropiprantとナイアシンの合剤、Cordaptive/Tredaptiveの心血管アウトカム試験、HPS2-THRIVEがフェールしたのである。

心筋梗塞歴またはリスク因子を持つ25000人を組み入れてsimvastatinだけの群とCordaptive併用群の心血管アウトカムを比較したところ、約4年間の累計リスク(カプラン・メイヤー推定)は14.5%で偽薬群の15.0%と大差なく、リスク・レシオ0.96、95%信頼区間0.90-1.03、ログランク・テストのp値0.29だった。一方、稀だが深刻な副作用は増加した。

Cordaptiveは08年にEUで承認されたが、HPS2試験がフェールしたため13年に販売中止となった。大型化が期待されていただけに残念な結果になった。アッヴィは道連れにされた格好だが、GE化した後なので財務的な打撃は限定的だっただろう。実力以上に売れていた訳だから、ラッキーだったとも言えるだろう。

リンク: AIM-HIGH試験の論文(N Engl J Med 2011、オープンアクセス)
リンク: HPS2-THRIVE試験の論文(N Engl J Med 2014、オープンアクセス)
リンク: 海外医薬ニュース2013年3月10日号

TriLipixはアボットがgroupe Fournier(後にソルベイが買収)から米国の権利をライセンスし93年に発売したTriCorの新製剤だ。米国は処方箋に商標名が記載されていてもGE品を患者に渡せる自動代替が普及しているため、GE薬メーカーは医師に販促する必要はなく、先発品をどんどん処方してもらうほうが都合がよい。このコバンザメ戦略を断ち切る対抗策を開発したのが当時のアボットで、特許が切れる頃に規格の異なる新製剤を投入し、それまでの商品の販売を止めることを繰り返した。

規格が違うと自動代替の対象にはならない。先発品の販売が中止されてもそれが効果や安全性の理由によるものでない限りGE薬の販売は可能だが、医師が処方しなくなったら自動代替できない。TriCorシリーズはロングヒットとなり、08年に承認されたTriLipixも成功した。だが、ここでも誤算はアウトカム試験のフェールだった。二型糖尿病のACCORD-Lipid試験がフェールしたのである。

リンク: ACCORD-Lipid試験の論文(N Eng J Med 2010、オープンアクセス)

この試験の被験者は承認されている用途の一部だけなので、他の患者に無効とは言えないと強弁できなくもない。実際、フィブレート系コレステロール治療薬自体の承認が取り消されたわけではない。だが、ネガティブなエビデンスがないことはポジティブなエビデンスとは違う。特有の副作用もあるので、細心の注意が必要だろう。

リンク: Federal Registar(適応一部撤回について)
リンク: Federal Registar(承認撤回について)

【新薬開発】


オプジーボ、頭頸部癌のデータ発表
(2016年4月19日発表)

BMSは1月にOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第三相頭頸部癌試験が中間解析で成功したことを発表したが、具体的なデータがAACRで公表された。

このCheckMate-141試験は再発性・転移性の頭頸部扁平上皮細胞腫で白金薬による前治療歴を持つ患者を組み入れて、Opdivo群と、医師が選んだ薬(methotrexate、docetaxelまたはcetuximab)を使う群の全生存期間を比較したオープンレーベル試験。結果は、メジアン生存期間が各7.5ヶ月と5.1ヶ月、ハザードレシオ0.70、97.73%信頼区間0.51~0.96、p=0.0101となり、実薬を有意に上回った。1年生存率は各36%と16.6%だった。

頭頸部癌はヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)感染との関連が探索課題になっている。この試験では、HPV陽性と陰性のサブグループ分析が行われたが、BMSのプレスリリースによると、陽性陰性に係らず有効だった。具体的には、陽性患者ではメジアン生存期間が9.1ヶ月対4.4ヶ月、ハザードレシオ0.56、95%信頼区間0.32~0.99。陰性では各7.5ヶ月、5.8ヶ月、0.73、0.42~1.25だった。陰性の信頼区間は1を跨いでいるが、検出力不足なのかもしれない。

PD-L1発現度によるサブグループ分析も行われ、プレスリリースによると、発現度に係らず有効だった。1%超であった患者ではメジアン8.7ヶ月対4.6ヶ月、ハザードレシオ0.55、95%信頼区間0.36~0.83。1%未満では5.7ヶ月対5.8ヶ月、0.89、0.54~1.45。

低発現では大差ない。実薬と大差ないなら合格と言えるかもしれないが、上記の三薬がPD-L1低発現癌に有効であることを確認したエビデンスはあるのだろうか?

忍容性面では、グレード3-4の治療関連有害事象の発生率は13.1%、対照群は35.1%だった。薬物関連死亡はOpdivo群で2例(肺炎と高カルシウム血症)、対照群は1例(肺感染症)だった。

ところで、本題とは全く関係ないが、最近HPV絡みのニュースを読んで思ったのは、効能については相対リスク削減率を用いて大きく見せ、副作用については発生率を用いて小さく見せるやり方は、私はしたくない。

リンク: BMSのプレスリリース




今週は以上です。

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