2016年1月31日

2016年1月31日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • BMS、オプジーボの頭頚部癌試験が成功 
  • MSD、C.ディフィシル再発予防薬を承認申請 
  • 第2のGC-C受容体アゴニスト 
  • ヴァリアント、抗IL-17受容体抗体を承認申請 
  • ジャディアンスの効能追加を申請 
  • CHMPがBMSの抗癌剤などに肯定的意見 
  • MSDの抗HCV薬が承認 
  • ハラヴェンの適応拡大 


【新薬開発】


BMS、オプジーボの頭頚部癌試験が成功
(2016年1月28日発表)

BMSは小野薬品と共同開発している抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の適応拡大試験の成功を発表した。白金薬による治療歴のある頭頚部扁平上皮腫の患者を組入れて延命効果を実薬と比較したCheckMate-141試験で、独立データ監視委員会が延命効果を認定、繰上げ終了して対照群の患者もOpdivoを使えるようにすることを勧告した。

抗PD-1抗体は至適用量が曖昧なところがあるが、この試験では3mg/kgを2週間に一回という悪性黒色腫に単剤投与する時と同じ用量・用法を採用している。対照群は担当医がErbitux(cetuximab)、MTX、Taxotere(docetaxel)などから選択した。

リンク: BMSのプレスリリース

BMSは、Opdivoの対象患者拡大がFDAに承認されたことも発表した。同社のYervoy(ipilimumab)と併用で野生BRAF型の悪性黒色腫の一次治療に用いることが昨年、承認されているが、今回、変異BRAF型に使うことも認められた。悪性黒色腫の5割が該当する。

直ぐに承認されなかったのは、BRAF阻害剤が先に承認されているからだろう。一次治療薬として承認されるためには延命又はそれに準じる効果が確立している必要がある。BRAF阻害剤より著しく劣るなら承認されないだろう。今回の承認は完璧ではないエビデンスに基づく加速承認なので、別途、無作為化対照試験で確認する必要がある。

リンク: 同(対象患者拡大承認、1/23付)

【承認申請】


MSD、C.ディフィシル再発予防薬を承認申請
(2016年1月27日発表)

MSDはMK-6072(bezlotoxumab)をクロストリジウム・ディフィシル感染症の再発予防薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。審査期限は7月23日。EUでも申請済み。

C.ディフィシルはグラム陽性桿菌で下痢や腸炎をもたらす。院内感染が増加しており、米国では年数十万件発生。抗菌剤による腸内細菌の勢力変化が関連していると言われている。

bezlotoxumabはC.ディフィシルが分泌する毒素Bの中和抗体で、一回投与する。第三相試験の一本では12週再発率が17%と偽薬群の27%を下回り、もう一本も15%対25%で下回った。尚、毒素Aに対する抗体を投与する群や併用する群も設定されたが、効果はなかった。点滴後4週間の深刻な有害事象の発生率は偽薬群と大差なかった。

Massachusetts Biologic Laboratoriesとトランスジェニックマウス法による完全ヒト化抗体の技術を持つメダレックス(後にBMSが買収)が開発し、09年にMSDにアウトライセンスしたもの。

リンク: MSDのプレスリリース

第2のGC-C受容体アゴニスト
(2016年1月29日発表)

ニューヨークのシナジー・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:SGYP)はSP-304(plecanatide)を慢性特発性便秘の治療薬として米国で承認申請した。

Ironwood(Nasdaq:IRWD)がアラガン(NYSE:AGN)と共同開発し2012年に承認されたLinzess(linaclotide)と同じGC-C受容体アゴニストで、小腸液の分泌を促進し吸収を阻害する。第三相試験では持続的全般的奏効率が21%と偽薬群の10%を有意に上回った。有害事象による治験離脱は5%と偽薬群の1%より高かった。

リンク: シナジー社のプレスリリース

ヴァリアント、抗IL-17受容体抗体を承認申請
(2016年1月25日発表)

ヴァリアント・ファーマシューティカルズ(NYSE:VRX)は、アストラゼネカがbrodalumabを中重度乾癬の治療薬として欧米で承認申請したと発表した。米国は受理され、審査期限は11月16日。日本でもライセンシーの協和発酵が昨年7月に承認申請している。

IL-17やIL-25の受容体の一部を構成するIL-17受容体Aを標的とする完全ヒト化抗体。アムジェンが創製し日本や中国などの権利を協和発酵に導出、それ以外の地域ではアストラゼネカと炎症疾患用抗体医薬領域で共同開発提携した。ところが、2000例に及ぶ臨床試験で数例の自殺思慮・試行が観察されたため、アムジェンが撤収。アストラゼネカも権利をヴァリアントに供与した。

乾癬は直ちに命に係わる病気ではないので、アムジェンやアストラゼネカの判断は首肯できる。一方、ヴァリアントは新興企業なので思い切った開発・販売が可能だ。大きな売上は見込めず、市販後に副作用渦に巻き込まれる可能性すらあるが、危険を犯す価値があるほど契約条件が良かったのだろう。

リンク: ヴァリアントのプレスリリース

ジャディアンスの効能追加を申請
(2016年1月25日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと開発販売パートナーのイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験のデータをFDAに追加申請したと発表した。

Jardianceは二型糖尿病患者の血糖治療薬。腎臓のトランスポータであるSGLT2を阻害して、一旦漉し取られた糖が尿から血中に戻るのを妨げる。FDAは糖尿病治療新薬について心血管安全性を確認するよう求めているため、両社は心血管疾患リスク因子を持つ7000人超を組入れてEMPA-REG試験を実施した。安全性確認試験なのでリスクが高まらなければ良いのだが、何と、心筋梗塞や心血管疾患死を防ぐ効果が示された。

血糖値を矯正するだけでは心筋梗塞などを予防することは出来ず、心血管アウトカム試験はActos(pioglitazone)のPROActive試験以外は全滅した。PROActive試験ではガイドラインに則った治療が行われたが偽薬群との間で血糖値に偏りがあった。Jardianceの試験では群間差がもっと小さかったので、血糖治療が効いたというよりは、Jardianceを使ったのが成功だったことになる。

効果は大きく、もし真実ならばSU剤やmetforminではなくJardianceを第一選択薬とすべきである。しかし、心血管疾患が減るメカニズムは不明のままであり、納得できない面もある。血圧が若干下がるが、降圧剤の直接比較試験のデータを見る限りでは、この程度の差では臨床的転帰は大きく変わらない。

分からないことはエキスパートの意見を聞くのが一番だ。治験実施施設の査察を含めて、治験データの分析・評価に卓抜した能力を持つFDAと、おそらく諮問委員会に上程されるだろうから、心血管分野のオピニオンリーダーの議論も聞くことができるだろう。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがBMSの抗癌剤などに肯定的意見
(2016年1月29日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPが、1月の例会で、BMSの抗癌剤やアクテリオンの肺動脈高血圧症治療薬などに肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになりそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース

今回の新薬は三剤とも希少疾患用薬だ。この分野の魁となった二社が名を連ねたのは印象深い。BMSは循環器系などで多くの画期的新薬を開発してきたが、業界に先駆けて開発方針を転換、癌やウイルス、免疫学など基礎科学が飛躍的に前進し新薬のネタが輩出する領域に特化した。その成果の一つが腫瘍学の抗体医薬、もう一つがOrencia(abatacept)など免疫学の抗体医薬、そして二つが重なった巨大交点がOpdivo(nivolumab)だ。

今回、肯定的意見を受けたEmpliciti(elotuzumab)は抗SLAMF7ヒト化抗体で、多発骨髄腫の二次治療薬。骨髄腫細胞のSLAMF7を標的にして、NK細胞による破壊を誘導する。08年にPDLからライセンスしたものだが、PDLの新薬開発部門を買収したアッヴィとの共同開発に今日では変わっている。

Revlimid(lenalidomide)とdexamethasoneを併用するRdレジメンに追加した第三相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月とRdレジメンだけの14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.7だった。点滴反応を緩和するためにH1ブロッカーやH2ブロッカー、acetaminophenでプリメディケーションする必要がある。

米国では昨年11月に承認。日本でも昨年12月に承認申請された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

アクテリオンは希少疾患用薬のスペシャリストだ。同社やアストラゼネカが買収したメディミューンは新しいビジネスモデルを開拓した。一国の患者は少なくても世界中を探せば増える。それでも需要は小さいが、値段を高くすれば投資を回収できる。支払い側にとっても、単価は高いが総額で見れば降圧剤やスタチン、血糖治療薬とは比べ物にならないくらい小さい。患者や製薬会社が喜び、社会負担も許容範囲という三方一両特を実現した。

今回、肯定的意見を受けたUptravi(selexipag) はIP受容体作動剤。肺動脈高血圧症の治療に、単剤又はエンドテリン受容体拮抗剤やPDE-5阻害剤に追加で用いる。プロスタサイクリンの受容体であるIP受容体を作動する薬は多数存在するが、経口剤は初めて。日本新薬からライセンスした。日本でも今年1月に承認申請された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アクテリオンのプレスリリース

Coagadexはヒト血液凝固第X因子で、第X因子欠乏症患者の出血の治療・予防に用いる。他の成分を含まないので使いやすい。英国のBio Products Laboratoryの製品。

同社は元々、英国の献血採取・製剤組織だったが、2013年に投資ファンドのベイン・キャピタルが株式の8割を2.3億ポンドで取得、民間企業となった。『輸入ワクチン・輸入血液製剤は一滴も入れさせない』と啖呵を切ってもニセモノを掴まされたのでは適わない。FDAは90年代に規制を激しく強化、世界中の血友病患者が必要な薬を入手できない事態になったが、薬の品質は向上した。患者にとってベストな方策という評価軸がぶれないようにしなければならない。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


MSDの抗HCV薬が承認
(2016年1月28日発表)

FDAは、MSDのZepatierをC型慢性肝炎の治療薬として承認した。NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤のgrazoprevirを100mg、NS5A複製複合体阻害剤のelbasvirを50mg、配合した合剤。適応は遺伝子型1型と4型だけで6型は承認されなかったが、6型の患者は多くない。治療期間はウイルス型や治療歴などに応じて変動するが、12週間が多い。1a型はNS5A変異が発生し始めた模様で事前に検査してから用量や期間を決定するよう推奨している。

肝機能検査値異常が発生することがあり、中度以上の肝機能低下は禁忌。併用禁忌はトランスポータのOATP1B1/3を阻害する薬や3Aを強く誘導する薬、そしてefavirenz。

C型慢性肝炎では画期的治療薬が続々と登場している。ギリアドのSovaldiや合剤、アッヴィのViekiraは極めて高価であるため米国でも日本でも衝撃を招いているが、Zepatierのリストプライスは12週間分が54600ドルと、先発三剤の8~9万ドルよりだいぶ低く設定された。尤も、先発三剤の実勢価格と同程度とのことなので、見掛けは安くても値引きが小さいのかもしれない。

リンク: FDAのリリース
リンク: MSDのプレスリリース

ハラヴェンの適応拡大
(2016年1月28日発表)

FDAは、エーザイのHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の適応拡大を承認した。アントラサイクリン系などの化学療法歴のある、手術不能または転移性の脂肪肉腫に用いる。海洋生物から発見されたハリコンドリンの誘導体で微小管伸長阻害作用を持つ。2011年に転移性乳癌用薬として初承認された。

今回の承認の根拠となった第三相試験では軟組織肉腫の三次治療薬としての効能をdacarbazineと比較したところ、全生存期間がメジアン13.5ヶ月で2ヶ月上回った。このうち、脂肪肉腫のサブグループは15.6ヶ月で7ヶ月上回った。軟組織肉腫で延命効果が確立されたのは初めて。深刻な有害事象は白血球減少症(致死例もあり)、末梢神経症、QTc延長(致死例あり)、胎児毒性など。

リンク: FDAのリリース
リンク: エーザイのプレスリリース(和文)



今週は以上です。

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