2015年11月15日

2015年11月15日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • AHA:降圧目標は120mmHgの方が良い
  • アストラゼネカのT790Mキラーが米国で承認
  • ロシュのMEK阻害剤も米国承認
  • バクスアルタ、A型血友病用薬が欧米で承認
  • ハーボニーが適応拡大

【今週の話題】


AHA:降圧目標は120mmHgの方が良い
(2015年11月9日発表)

AHA米国心臓協会の科学会議とNew England Journal of Medicine誌でSPRINT試験の結果が発表された。高血圧の強化療法を検討した米国の心血管アウトカム試験で、収縮時血圧140mmHg以下を目標とするより120mmHg以下の方が良いことが示された。細かい点で違和感もあるが、心血管疾患による死亡や全死亡が減少しており説得力がある。治療ガイドラインの見直しにつながる重要なエビデンスになりそうだ。

SPRINTはNIH米国医療研究所がスポンサーとなって行われた研究者主導の無作為化割付オープンレーベル試験だ。PICOを纏めると、患者(P)は収縮時血圧が130~180mmHgで心血管リスクが高い50歳以上の9361人。糖尿病と脳卒中既往は除外した。介入方法(I)は収縮時血圧を120mmHg未満に下げる強化療法(実際には、一年後の平均血圧は121.4mmHgだった)。対照群(C)は140mmHg未満に下げる標準療法(同136.2mmHg)。

降圧剤はアルファブロッカーを含め様々な薬剤を許容したが、米国の治験らしく、サイアザイド系利尿薬が第一選択。また、ARBの標準薬が心血管アウトカム試験のデータが他のARBに見劣りするlosartanと、裏付けのないazilsartan(武田などが寄付した)であることが印象的。

主評価項目(O)は複合評価項目で、心筋梗塞、それ以外の急性冠症候群、脳卒中、急性非代償性心不全、心血管疾患による死亡をカウント。心筋梗塞はサイレントMIも可。心不全は入院・救急治療例のみ。担当医が3ヶ月に一回、患者から発生の有無をヒアリングし、発生例は委員会が盲検方式で査読した。

中間解析でデータ安全性委員会が成功認定し、予定より1年早く、メジアン追跡期間3.26年で終了した。標準療法群の主評価項目発生率は年2.19%で、ほぼ事前の解析計画通りだった。強化療法群は年1.65%で、ハザードレシオは0.75(95%信頼区間0.64、0.89)、p値は0.001未満だった。

各評価項目のハザードレシオを見ると、心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中は0.8~1.0で有意な差は無かった。一方、心不全は0.62、心血管疾患死は0.57、二次的評価項目である全死亡は0.73で、何れも95%上限が1を下回りp値は0.01未満だった。

標準療法群の心筋梗塞と心不全の発生数は大差なく、前者で有意差が出なかったのは検出力不足が原因ではないだろう。素直に、心不全が減少するが心筋梗塞はあまり減らないと受け止めたい。あとは、強化降圧の便益がどの範囲まであてはまるかだ。

75歳以上のサブグループではハザードレシオ0.67と75歳未満より良い数値が出ているが、忍容性のサブグループデータも欲しいところだ。全ユニバースでも深刻な低血圧や失神が増加したので、高齢者ではもっと増えたかもしれない。Jカーブを示唆するエビデンスとの整合性も検討すべきだろう。

二型糖尿病は対象外だったが、二型糖尿病で高血圧を合併する患者を組入れたACCORD試験が参考になる。有意差は出なかったがトレンドは見られた。尤も、心筋梗塞が有意に減少した一方で心不全は減らず、SPRINT試験と合致しない点もある。

心不全合併患者の降圧目標も議論になりそうだ。

リンク: SPRINT試験論文(NEJM、15/11/15時点ではオープンアクセス)

【承認】


アストラゼネカのT790Mキラーが米国で承認
(2015年11月13日発表)

FDAはアストラゼネカのTagrisso(osimertinib、開発コードAZD9291)を承認した。非小細胞性肺癌でEGFR阻害剤による前治療を受けた、EGFRにT790M変異を持つ患者が適応になる。

EGFR阻害剤はEGFRが活性化変異したタイプに有効だが、過半はやがてT790M変異が発生し抵抗性を生じる。TagrissoはT790M変異型や野生型にも活性を持つことが特徴。臨床試験ではORR(客観的反応率)が一本は57%、もう一本は61%だった。二次治療や一次治療でも延命効果確認試験中。

主な有害事象は下痢や皮膚毒性。深刻有害事象は間質性肺疾患や不整脈、胎毒性。

日本でも8月に承認申請された。日本肺癌学会が厚労省に早期承認を要請している。

リンク: FDAのリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ロシュのMEK阻害剤も米国承認
(2015年11月10日発表)

FDAはロシュのCotellic(cobimetinib)を承認した。BRAFにV600変異を持つ切除不能転移性黒色腫に同社のBRAF阻害剤、Zelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)と併用する。臨床試験では全生存期間のハザードレシオがZelboraf単剤投与群と比べて0.63だった。主評価項目のPFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.56、メジアンは12.3ヶ月で単剤群は7.2ヶ月。主な重度有害事象は心筋症、横紋筋融解症など。

cobimetinibはエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスしたMET阻害剤。同じパスウェイの川上と川中に同時介入することによって、標的の変異による影響を受け難くするアイディアで、皮膚扁平上皮腫のような副作用を抑える効果もありそうだ。同様な併用法ではノバルティスも一足先にMET阻害剤MekinistとBRAF阻害剤Tafinlarを販売している。価格競争を期待したいところだが、薬品業界では二社だけなら喧嘩しない。

リンク: FDAのリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

バクスアルタ、A型血友病用薬が欧米で承認
(2015年11月13日発表)

バクスアルタ(NYSE:BXLT)は二種類のA型血友病用薬が一つは米国で、もう一つはEUで承認されたと発表した。米国で承認されたのはAdynovate(開発コードBAX 855)。全長第VIII因子をPEG化して半減期を長期化したもので、出血事故を予防する用途では週二回の投与で足りる。既存製品である同社のAdvate(和名アドベイト)は週3~4回とされるので、患者の負担が若干緩和される。日本でも4月に承認申請された。

EUで承認されたObizur(susoctocog alfa)は、遺伝子組換え型のブタ第VIII因子で、インヒビターを持つ後天的A型血友病患者の止血に用いる。12年に会社更生法を申請したインスピレーション社から買収したもの。米国では昨年、承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: バクスアルタのプレスリリース(米承認)
リンク: 同(EU承認)

ハーボニーが適応拡大
(2015年11月12日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はFDAがHarvoni(sofosbuvirとledipasvirの合剤、和名ハーボニー)の適応拡大を承認したと発表した。

昨年10月に遺伝子型1型の慢性C型肝炎の治療薬として承認。今回、遺伝子型4型、5型、6型も対象になった。HIV共感染患者に用いることも認められた。更に、肝硬変を合併する1型患者の二次治療では24週間服用する必要があるが、ribavirin併用12週間コースも承認された。

リンク: ギリアドのプレスリリース



今週は以上です。

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