2015年10月25日

2015年10月25日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • エボラ治療の新しい候補薬が登場 
  • リリーのCETP阻害剤もフェール 
  • Tysabriの二次進行型試験はフェール 
  • エグゼリキシス、cabozantinibの適応拡大申請に着手 
  • FDA諮問委員会がURAT1阻害剤を支持 
  • CHMP、アムジェンのウイルス療法などに肯定的意見 
  • シャイア、ドライアイ治療薬が承認されず 
  • 低ホスファターゼ血症用薬が米国でも承認 
  • ヨンデリス、米国でも承認 
  • カリウム結合剤は他の薬とも結合? 
  • プラザキサ中和剤が米国で承認 
  • Cresemba、EUでも承認 
  • FDA、アッヴィの抗HCV薬の警告強化 
  • CHMP、TecfideraとCellCeptの警告強化


【今週の話題】


エボラ治療の新しい候補薬が登場
(2015年10月21日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、GS-5734が英国でエボラウイルス疾患(EVD)の患者に投与されたと発表した。効果のほどは未だ明らかではない。EVD治療薬候補としてはこれまでにモノクローナル抗体カクテル療法やRNA介入薬、RNAポリメラーゼ阻害剤、ヌクレオチド系薬などが浮上しているが、新たにGS-5734が加わった。

今回のEVDの流行は既に終わったようだが、中央アフリカでは数年おきにぶりかえしているので、次の流行に備えて治療法や封じ込め策の研究準備を進める必要がある。また、今回の英国人看護師のように、治癒して退院した人が数ヶ月後に再発症するケースも稀にあるようだ。目や精巣に隠れていたウイルスが再燃するらしい。エボラウイルスに感染したが命が助かった人は17000人と言われており、再発した時の治療法を用意しておく必要がある。

GS-5734はヌクレオチド系の抗ウイルス薬。米軍施設で実施された非ヒト霊長類試験でエボラウイルス感染後3日目から投与したところ、死亡例はゼロだったことが今年のIDWeek(IDSAなどの会議)で発表されている。

リンク: ギリアドのプレスリリース
リンク: Warrenらの抄録(2015IDWeek)

【新薬開発】


リリーのCETP阻害剤もフェール
(2015年10月12日発表)

イーライリリーは、LY-2484595(evacetrapib)の開発中止を発表した。2012年に急性冠症候群歴などを持つ患者の心血管疾患リスクを削減すべく第三相試験を開始したが、無益性が認定された。

LY-2484595のようなCETP阻害剤はHDL-Cを大きく増やしLDL-Cを減らす。前者はともかく、後者は心筋梗塞リスクを削減するのに寄与しそうなものだが、期待が裏切られ続けている。それどころか、ファイザーのtorcetrapibもロシュ(JT)のdalcetrapibも、心筋梗塞や全死亡が増加する懸念が浮上し開発中止になった。

まだ生き残っているのがMSDのanacetrapibだ。アウトカム試験の結果が17年に判明する見込みだが、組入れ数が3倍大きいので、良くても悪くても中間解析で結論が出ても不思議はない。第三相に入りそうなのがオランダのデジマファーマのDEZ-001だ。田辺三菱製薬のTA-8995をライセンスしたもので、デジマはベスト・イン・クラスと呼んでいる。今年9月にアムジェンがデジマを当初金と達成報奨金合わせて15.5億ドルで買収すると発表して期待が高まっていたところだが、冷や水を浴びせられた格好。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

Tysabriの二次進行型試験はフェール
(2015年10月21日発表)

バイオジェンは、Tysabri(natalizumab)の二次進行型多発性硬化症第三相試験がフェールしたと発表した。

Tysabriは再発寛解型の多発性硬化症の再発予防薬として承認されている抗アルファ4インテグリンヒト化抗体。市販後にPML(進行性多病巣性白質脳症)のリスクが表面化、一旦販売中止になったことがある。FDA諮問委員会にも上程されたが、第三者が意見を述べることのできるセッションで複数の車椅子の患者が諮問委員に訴えたことが効いたのか、適応範囲を限定して再発売することが認められた。

当時、私は、患者の期待に応えるべくキチンとした臨床試験を行うべきと書いた。Tysabriの臨床試験は歩行に補助が必要な進行した患者を除外していたからだ。今回の二次進行型は、再発寛解型の寛解期間が次第に短くなり殆どなくなった状態で、被験者の大半が歩行支援を必要としていた。期待を裏切る残念な結果になった。それでも、同社がやるべきことをやったことは評価すべきだろう。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

【承認申請】


エグゼリキシス、cabozantinibの適応拡大申請に着手
(2015年10月22日発表)

米国カリフォルニア州のエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)は、Cometriq(cabozantinib)を腎細胞腫の二次治療に用いる適応拡大に関するローリング承認申請に着手したと発表した。

VEGF受容体拮抗剤は腎細胞腫に有効で既に多くの製品がある。エグゼリキシスは切除不能甲状腺髄様癌をリード・インディケーションとして米国で12年に承認を取得。適応拡大試験も各種行ったが、結局、次に成功したのは腎細胞腫だった。他のVEGF受容体拮抗剤/抗VEGF抗体に反応しなくなった患者を組入れた二次治療試験で、PFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とeverolimus群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.58だった、

リンク: エグゼリキシスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がURAT1阻害剤を支持
(2015年10月23日発表)

アストラゼネカは、FDA関節炎諮問委員会が痛風治療薬RDEA594(lesinurad)を検討し14人の委員のうち10人が承認に賛成したと発表した。薬効のエビデンスについては全員が支持、安全性については7人が支持、6人が不支持、一人は棄権した。

RDEA594は12年に12.6億ドルで買収したArdea Biosciencesの開発品で、腎臓近位管で尿酸の排出を調停するトランスポーター、URAT1を阻害する。痛風の標準療法であるキサンチン酸化酵素阻害剤は尿酸の合成を阻害するので、作用機序的に補完性があっても不思議はない。第三相試験では200mgと400mgをテスト、尿酸管理奏効率は400mgの方が高そうだが腎臓や心血管系の有害事象が増える懸念が生じたため、200mgだけを承認申請した。

薬物動態には個人差があるのでセーフティマージンは大き目に取る必要がある。口で言うのは簡単だが判定が難しく、諮問委員も安全性に限定すると意見が二つに割れている。審査期限は12月29日。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

CHMP、アムジェンのウイルス療法などに肯定的意見
(2015年10月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会議で、アムジェンのImlygicの承認などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: CHMPのプレスリリース

Imlygic(talimogene laherparepvec)は切除不能なIIIB/IIIC/IVM1a期黒色腫に用いる。骨や脳、内臓に転移した患者は適応外。GM-CSFの遺伝子を導入した単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によるウイルス療法で、腫瘍に注射するとウイルスが増殖して癌細胞が崩壊、集まってくる免疫細胞をウイルスとGM-CSFが強力に刺激して他の癌細胞を攻撃させる仕組み。

第三相試験では持続的反応率が25.2%と、GM-CSFだけを投与した群の1.2%を上回った。全生存の解析は、僅かに有意水準に届かなかった。グレード3以上の有害事象では蜂巣炎が増加した。

アムジェンが11年にBioVexを達成報奨金と合わせて10億ドルで買収して入手したもの。それ以前はOncoVEX(GM-CSF)と呼ばれていた。

リンク: CHMPのリリース
リンク: アムジェンのリリース

適応拡大では、ノバルティスの抗IL-17A抗体、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第二選択薬として用いることが支持された。現在は尋常性乾癬の治療薬として承認されている。乾癬では一回150mgと300mgが承認されているが今回の用途は150mgだけのようだ。

リンク: ノバルティスのリリース

また、ファイザーのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を一次治療に用いることが支持された。ALKに活性化変異のある非小細胞性肺癌の二次治療薬として承認されているが、一次治療試験で化学療法薬より優れた進行抑制・延命効果が見られた。

シャイア、ドライアイ治療薬が承認されず
(2015年10月19日発表)

英国のシャイアはlifitegrastをドライアイ治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。一般に、承認を取得するためには二つの独立した薬効確認試験が成功する必要があるが、lifitegrastは一本だけなので、承認されなくてもやむを得ない。三本目の試験の結果が年内に判明する見込みであり、成功なら改めて承認を求める予定。

lifitegrastは白血球のLFA-1を阻害する小分子薬で、Tセルが角膜結膜組織に移行するのを妨げる。13年に買収したSARcode Bioscienceの開発品。

リンク: シャイアのプレスリリース(CRL受領、10/16付)
リンク: 同(今後の方針について、10/19付)

【承認】


低ホスファターゼ血症用薬が米国でも承認
(2015年10月23日発表)

FDAは、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のStrensiq(asfotase alfa、和名ストレンジック)を承認したと発表した。希少疾患である低ホスファターゼ血症(HPP)に用いる酵素補充療法。HPPのうち幼児期発症型は1歳まで生きられない患者も少なくないが、Strensiqの試験に参加した患者は97%が生存した。日本では今年7月、EUでは9月に承認されている。

アレクシオンは11年にEnobia Pharmaを達成報奨金と合わせて10.8億ドルで買収して入手した。米国承認に際して希少小児疾患優先審査バウチャーを取得したので、売却して何割かを回収することが可能だろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: アレクシオンのプレスリリース

ヨンデリス、米国でも承認
(2015年10月23日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのYondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)を軟組織肉腫の一部に用いることを承認した。末期の脂肪または平滑筋の肉腫に対するアンスラサイクリンの次の二次治療薬。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン4.2ヶ月とdacarbazine群の1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.55、統計的に有意だった。全生存期間は両群大差なかった。深刻な有害事象は好中球減少症性肺血症、横紋筋融解症、心筋症、肝障害、アナフィラキシー、皮膚壊死、胎毒性など。

ホヤの一種から発見されたアルカロイドを化学合成したもので、スペインのPharmaMarが開発、欧州などの権利をJNJにライセンスしたもの。EUでは07年に卵巣癌用薬として承認されたが、米国では承認されず、仕切り直しとなった。

海から生まれた軟組織肉腫用薬というとエーザイのHalaven(eribulin、和名ハラヴェン)も適応拡大試験が成功、日米欧で承認審査中で米国の審査期限は来年1月29日となっている。臨床試験ではPFSがメジアン2.6ヶ月でdacarbazine群と同じ、但し全生存期間の解析はメジアン13.5ヶ月対11.5ヶ月、ハザードレシオ0.768で統計的に有意だった。どちらが効果が高いのか、議論ができるほど大きな差はどちらにもなさそうだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: JNJのプレスリリース

カリウム結合剤は他の薬とも結合?
(2015年10月21日発表)

FDAは、Relypsa(Nasdaq:RLYP)のVeltassa(patiromer)を高カリウム血症の治療薬として承認した。この病気では50年ぶりの新薬になる。カリウム結合ポリマーで、食中に水に溶かして飲むと結腸でカリウムに結合、排泄される。主な有害事象は便秘や低マグネシウム血症など。即効性ではないので救急治療には向かない。

驚くべきことに、この薬は薬物相互作用試験でテストした薬の半分に結合した。薬の効果や安全性に影響する可能性があるため、他の薬と同時使用する時は6時間以上、離す必要がある。Relypsaは市販後に更に相互作用研究を行う。FDAは、Kayexalate(sodium polystyrene sulfonate)やそのジェネリックのメーカーにも同様な薬物結合試験の実施を要求した。

リンク: FDAのリリース
リンク: Relypsaのプレスリリース
リンク: FDAのリリース(Kayexalateの追加試験要請について、10/22付)

プラザキサ中和剤が米国で承認
(2015年10月16日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムのPraxbind(idarucizumab)を承認した。同社の直接的経口トロンビン阻害剤、Pradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)に結合する完全ヒト化抗体フラグメントで、緊急手術や大出血時の中和剤として用いる。89%の患者で抗凝固作用が4時間以内に解消する。有害事象は低カリウム血症、錯乱、便秘、発熱、肺炎など。

リンク: FDAのリリース

Cresemba、EUでも承認
(2015年10月16日発表)

スイスのBasilea Pharmaceutica(SWX:BSLN)は、Cresemba(isavuconazonium sulfate)がEUで承認されたと発表した。アゾール系抗菌剤で、侵襲性アスペルギルス症とamphotericin Bに不適なムーコル菌症の治療に用いる。米国ではライセンス先であるアステラス製薬が3月に承認を取得している。

【医薬品の安全性】


FDA、アッヴィの抗HCV薬の警告強化
(2015年10月22日発表)

FDAは、アッヴィ(NYSE:ABBV)の二種類の慢性C型肝炎治療製品について肝臓副作用に関する安全性警告を発出した。

一つはTechnivie(和名ヴィキラックス配合錠)でombitasvir、paritaprevir、ritonavirの合剤。もう一つはViekiraパックで、TechnivieとExviera(dasabuvir)を同梱したもの。開発段階から肝毒性の懸念が見られたため何れも中度以上の肝障害を持つ患者は禁忌、Technivieは肝硬変を合併する患者は適応外とされている。

14年12月にViekiraパックが発売されて以来、今年7月までの間に、薬物関連疑い例・可能例が世界で26例、報告された。16例は肝機能不全を伴い、10例は肝不全により死亡または肝移植を受けた。

FDAは禁忌の遵守と肝毒性の兆候の監視を強化するよう求めた。

リンク: FDAの安全性警告

CHMP、TecfideraとCellCeptの警告強化
(2015年10月23日発表)

CHMPは10月の会議で、バイオジェンの再発寛解型多発性硬化症用薬Tecfidera(dimethyl fumarate)とロシュのCellCept(mycophenolate mofetil)の安全性警告を強化するよう勧告した。

TecfideraはPML(進行性多病巣性白質脳症)のリスクに関する警告を強化。リンパ球減少症が持続した後に発症することが多いので定期的な全血球計算が有益と考えられるが、その頻度を、これまでは治療開始前と半年後、その後は6~12ヶ月置きとしていたものを、3ヶ月置きに短縮することを勧告。リンパ球減少が半年以上続いたら中止を検討しなければならない。PMLの診断に役立てるために治療開始前にMRI画像も撮っておく。

ノバルティスが田辺三菱製薬からライセンスして開発したGilenya(fingolimod)もリンパ球減少が見られるため全血球計算が必要だが、頻度は治療開始の3ヶ月後とその後は少なくとも年1回となっている。比較すると、Tecfideraの規制は厳しい。

リンク: CHMPのリリース(Tecfidera)

CellCeptは催奇性警告を強化。臓器移植後の拒絶反応を抑制する薬だが、服用者は男も女も妊娠しないよう避妊を行うことが必要。

リンク: CHMPのプレスリリース(CellCept)



今週は以上です。

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