2015年9月20日

2015年9月20日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • EASD:SGLT阻害剤のサバイバル・ベネフィット 
  • イムブルビカ、高齢CLLの一次治療に適応拡大申請 
  • FDA、新規向精神薬を承認 

【今週の話題】


EASD:SGLT阻害剤のサバイバル・ベネフィット
(2015年9月17日発表)

EASD欧州糖尿病研究学会とNEJM誌で発表されたJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験のデータは、驚くべきものだった。心筋梗塞や脳卒中を防ぐ効果は限定的で後者は数値上はむしろ増加したが、何故か心血管疾患による死亡や全死亡が有意に減少した。

過去のエビデンスと照らし合わせると、血糖値を正常水準まで矯正した強化療法は心筋梗塞のような大血管疾患を有意に防ぐことはできず、却って寿命を縮めてしまう懸念も浮上した。今回のEMPA-REG試験はHbA1cの群間差が小さいので、猶更、血糖値強化療法が延命に寄与したとは思えない。但し、同様に群間差が小さかったADVANCE試験は、心筋梗塞や脳卒中は余り減らず心血管死・全死亡だけ減少と似たような結果になった。闇雲に7%を目指すと患者が早死するが無理のない範囲なら有効、ということを示唆しているのかもしれない。

血糖値だけでなく血圧やコレステロールなどを多面的に治療する集学的療法が有効であることを考えれば、JardianceのようなSGLT2阻害剤が持つ利尿作用が寄与したのかもしれない。しかし、血圧や体重に与える効果は決して高くないし、もし降圧の寄与なら心筋梗塞や脳卒中がもっと減少しそうなものである。

心不全による入院が有意に減少したのは利尿作用の寄与なのだろうが、それだけで延命効果を全て説明するのは難しいのではないか。

優越性解析のp値は決して高くないので、偶然の可能性を否定することはできない。しかし、二次的評価項目である心血管死や全死亡は大変良いp値が出ている。心血管死は主評価項目の構成要素なので誤診・誤報告のリスクは小さいだろう。全死亡も同じだ。結局、メカニズムは分からないが何らかの延命効果があると考えざるを得ない。

このようなデータを見る度に頭の中で鳴り響くのが、Puff the magic drug onのメロディーだ。本当なのか、それともただの都市伝説なのか?真実が判明する日が来るのか、来ないのか?それまでの間は、思い切って吸い始めるべきなのか、歌うだけに留めるべきなのか?

素直に受け取れないのは、アウトカム試験が大成功したのに、その後に不正の疑いや頑強性に関する懸念が浮上して、結局有耶無耶になったケースは少なくないからだ。査読誌と言っても権限には限度があり、況してや今回のような学会発表と同時刊行の場合は、解析結果を著者や査読者が十分に吟味検討する時間があったのか疑問に思う。EMPA-REG試験の解析はベーリンガー・インゲルハイムが行ったが、アカデミアが別途、検証を行ったので、例えば日本のvalsartan三試験よりは信用できそうだ。

EMPA-REG試験はグローバル試験なので、FDAが頼りになるだろう。もし米国で効能追加申請が行われるならば、治験実施施設を査察したり、個々の症例報告の妥当性をチェックしたり、様々な感受性分析を行ったりして、解析の頑強性を精査してくれるだろう。諮問委員会が招集されるだろうから、審査官や諮問委員の意見も知ることができるだろう。

もう一つ注目されるのは、他のSGLT2阻害剤の心血管アウトカム試験。結果が出るのは数年後からだが、もし複数の試験で裏打ちされれば頑強性が高まる。もし異なった結果なら、クラス・イフェクトではない可能性も含めて、再検討すればよい。一昔前なら、SGLT2阻害剤の延命効果が明確になったのに偽薬を投じる可能性のある試験を続行するのは倫理に反するので中止すべき、という議論が起きたかもしれないが、今日の研究者は、結論を急ぐのは却って危険であることを知っているだろう。

Jardianceは血糖降下作用を超える長寿作用を持つ魔法の薬なのか?3~4年経てば真実にもう少し近づくことができるだろう。

既に大きく報じられているので後回しにしたが、EMPA-REG試験の概要は以下の通り。
  • 無作為化割付二重盲検試験。対象は、冠動脈疾患を持つ、または高リスクの二型糖尿病患者7000人超。8割の患者が冠動脈疾患歴。過半が糖尿病歴10年以上。ベースライン時点のHbA1cは8%強、血糖治療薬はmetformin、インスリン(5割弱が使用)、SU剤などを使用。また、7~8割の患者がACE阻害剤又はARBの何れか、そしてスタチンを服用していた。
  • 介入方法は、偽薬、10mg、25mgの何れかを一日一回、経口投与。メジアン3.1年間治療。偽薬群のHbA1cは治験期間中、安定的に推移。試験薬群は低下したため、0.4~0.5%の群間差が生じた。期中の増量・追加投与状況は不明。他のリスク因子の期中の治療方法も不明。スタチンは成分・用量によって心筋梗塞抑制効果が異なるはずだが、他の試験と同様に一絡げにしている。
  • 主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中(3P)の複合評価項目。Jardianceの二群合計と偽薬群を比較する。非劣性解析だが対象はper protocolではなくintent-to-treat。主要二次的評価項目は上記三項目に不安定狭心症による入院を加えた(4P)もの。
  • 多重性を回避するために、最初に主評価項目(3P)の非劣性解析、それが成功したら4Pの非劣性解析、次いで3Pの優越性解析、そして4Pの優越性解析という序列が付けられた。
  • 結果は、非劣性解析はどちらも成功。優越性解析は成功だがp値はボーダーライン上だった。具体的には、3Pの発生率が10.5%と偽薬群の12.1%を下回り、ハザードレシオ0.86、95.02%信頼区間0.74-0.99だった。項目別では心血管死が3.7%対5.9%、HR0.62(95%CI0.49-0.77)と大変良く、一方、心筋梗塞は有意差に届かず。脳卒中も有意差なしだが数値上は増加した。
  • このほかに、全死亡が5.7%対8.3%、HR0.68(0.57-0.82)、心不全による入院2.7%対4.1%、HR0.65(0.50-0.85)だった。深刻な有害事象の発生率は38%対42%、有害事象による治験離脱は17%対19%でどちらも偽薬群を下回った。性器感染症は増加した。急性腎不全や腎障害は両群大差ないが絶対数が少ないので明確ではない。

リンク: ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース
リンク: Zinmanらの治験論文(NEJM誌、オ-プンアクセス)

【承認申請】


イムブルビカ、高齢CLLの一次治療に適応拡大申請
(2015年9月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imbruvica(ibrutinib)の適応拡大申請をFDAに行った。CLL(慢性リンパ性白血病)やSLL(小リンパ球性リンパ腫)、マントルセルリンパ腫の二次治療薬として承認されているが、新たに65歳以上のCLL/SLLの一次治療薬としての承認を求めた。

Imbruvicaはファーマサイクリクスからライセンスしたbtk阻害剤。このファーマサイクリクスをアッヴイが210億ドルで買収したのは、Imbruvicaのピーク年商が100億ドルを超えるという期待に基づくようだ。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認】


FDA、新規向精神薬を承認
(2015年9月17日発表)

FDAは、フォレスト社のVraylar(cariprazine)を統合失調症や双極障害の躁症状や混合症状の治療薬として承認した。非定型向精神薬は神経伝達物質や受容体に対する作用が様々で、効果や副作用の出方も異なる。VraylarはドーパミンのD3とD2受容体及びセロトニンの5-HT1Aを部分作動し、5-HT2Aや2B受容体を拮抗する。

ハンガリーのGedeon Richterからフォレストが北米の権利を取得したもの。フォレストはその後、アクタヴィス、そしてアラガンの傘下に入った。日本周辺は田辺三菱製薬が導入。

リンク: FDAのリリース
リンク: アラガンのプレスリリース

今週は以上です。

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