2015年9月13日

2015年9月13日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 強化降圧治療試験が成功 
  • COPDの併用療法は死亡リスクを有意に削減しない 
  • 肺癌はYervoyではなくOpdivoが主役 
  • アストラゼネカ、EGFR-T790M阻害剤を承認申請 
  • ロシュ、アレセンサを米国でも承認申請 
  • daratumabがEUでも承認申請 
  • FDA、カナグルの骨損壊リスクを警告 

【今週の話題】


強化降圧治療試験が成功
(2015年9月11日発表)

米国国立医療研究所(NIH)は、SPRINT試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。強化降圧療法の臨床的転帰を標準療法比較した試験で、心筋梗塞や全死亡のリスクを削減できることが明らかになった。数値は一部しか公表されておらず、論文刊行・学会発表が待たれる。

SPRINT試験は、高血圧で50歳以上、且つ一つ以上のリスク因子(心血管疾患、慢性腎疾患、フラミングハム・リスク・スコアによる評価で10年間心血管疾患リスクが15%以上、または75歳以上)を持つ患者9361人を組入れて米国の施設で実施された無作為化割付PROBE法試験。主評価項目は心筋梗塞、急性冠症候群、卒中、心不全、心血管死の複合評価項目。

強化降圧群は収縮期血圧を120mm Hg未満に、標準療法群は140mm Hgに、管理した。薬剤の選択肢は広くアルファブロッカーも可。強化降圧群は平均三種類、標準療法群は二種類の降圧剤を併用した。

結果は、NIHのプレスリリースによると、心血管疾患が33%減少、全死亡は25%減少した。

降圧治療は収縮時血圧目標値が5mm Hg違うと心血管リスクに差が出ると考えられているので20mm Hgなら差が出て当然だが、一方で、Jカーブ効果が疑われており、実際、高齢者を組入れた試験では積極的降圧が却ってリスクを高めてしまう可能性が示唆された。SPRINT試験は75歳以上の患者も多く組入れた模様なので、詳細が発表された後に、様々なエビデンスを総合的に検討する必要がありそうだ。とかく評判の悪い米国の血圧治療ガイドラインを見直す材料にもなるだろう。

リンク: NIHのプレスリリース
リンク: SPRINT試験の治験登録(ClinicalTrials.gov)

COPDの併用療法は死亡リスクを有意に削減しない
(2015年9月8日発表)

グラクソ・スミスクラインと、COPD領域における共同開発パートナーであるセラバンス社(Nasdaq:THRX)は、Breo(fluticasone furoateとvilanterolの合剤、和名レルベア)のSUMMIT試験の結果を発表した。COPDで心血管疾患のリスクが高い患者を組入れて死亡リスクを削減する効果を偽薬と比較したが、有意な差はなかった。残念な結果だが、常識が覆った訳ではなく、また、リスクが高まったわけでもない。

この試験は16500人を吸入コルチコイドとベータ2作用剤の合剤であるBreo、各配合成分、偽薬の4群に割付けて、合剤と偽薬の死亡リスクを比較したもの。効果不十分の場合はSpiriva(tiotropium)を追加した。結果は、リスクが22.2%小さかったが、p=0.137と有意水準に達しなかった。

Advair(fluticasone fluticasoneとsalmeterol xinafoateの合剤、和名アドエア)のTORCH試験でもリスクが17.5%低下したがp=0.052と有意ではなかった。死亡リスクが高い患者をもっと沢山組入れて検出力を高めれば有意差が出るのではないかと期待されたが、駄目だった。

どちらもステロイドを配合しており、COPDは高齢者が多いので、肺炎や骨損壊のリスクが高まることに注意する必要がある。

リンク: 両社のプレスリリース

【新薬開発】


肺癌はYervoyではなくOpdivoが主役
(2015年9月7日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab)を併用した非小細胞性肺癌一次治療後期第一相試験のトップラインデータを発表した。併用療法は副作用も増強されるので場合によってはどちらかを減量する必要が生じる。この二剤の場合はOpdivoではなくYervoyの用量を減らす方が良さそうだ。

このCheckMate-012試験では、当初はYervoyを3mg/kgとOpdivoを1mg/kg、または各1mg/kgと3mg/kgを三週間に一回投与する用法をテストしたが、半分近い患者でグレード3以上の治療時発現有害事象が起き、その7割は治験を離脱、3名(全体の6%)が死亡した。1mg/kgずつ投与したりYervoyの投与間隔を伸ばしたりする群を追加して更に至適用法を探索した結果が今回のデータだ。

cORR(確認客観的反応率:反応が一定期間持続したものだけをカウント)は1mg/kgずつ併用した二群が13~25%、Yervoyは1mg/kg、Opdivoは3mg/kgを投与した二群は31~39%。グレード3以上の治療時発現有害事象の発生率は各29~35%と28~29%で大差なく、グレード5(死亡例)は無かった。一群30~40名の試験なのであまり明確ではないが、Yervoyは1mg/kgを12週間に一回、Opdivoは3mg/kgを2週間に一回、投与するスケジュールが良さそうに見える。

PD-L1発現状況(閾値は1%)と反応率の関連性も分析された。7割を占めた陽性患者では、1mg/kgずつの2群は8~24%、1mg/kgと3mg/kgを組み合わせた2群はどちらも48%だった。陰性では、それぞれ、14~15%と0~22%だった。陰性に効かない訳ではないが、この程度なら他の併用レジメンと大きくは変わらない。やはり、肺癌の場合はPD-L1陽性癌が至適なのだろう。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認申請】


アストラゼネカ、EGFR-T790M阻害剤を承認申請
(2015年9月8日発表)

アストラゼネカは、世界肺癌会議(WCLC)でのデータ発表に合わせて、AZD9291(osimertinib)を米国で承認申請し受理されたことを発表した。優先審査を受ける。

T790M変異型のEGFRに選択的に作用する小分子薬で、同社のEGFR阻害剤Iressa(gefitinib)などとは異なり、野生EGFRに対する活性を持たない。既存のEGFR阻害剤は活性化変異型のEGFRを発現する非小細胞性肺癌に有効だが、抵抗性変異を誘導するリスクがあり、その代表的なものがT790M変異だ。AZD9291はEGFR阻害剤による治療経験を持つT790M変異型に用いる。

承認申請の根拠となった第二相試験では、6~7割という高い反応率を示した。グレード3以上の有害事象は間質性肺疾患、QT延長、高血糖などが治験により0~3%の患者で発生した。

AZD9291は日本でも肺癌学会が7月に早期承認の要望を行った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(Business Wireのサイト)

ロシュ、アレセンサを米国でも承認申請
(2015年9月9日発表)

ロシュは、中外製薬からライセンスしたAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は16年3月4日。ALK阻害剤で、ALK阻害剤の第一号であるファイザーのXalkori(crizotinib)に不応不耐のALK陽性局所進行性・転移性非小細胞性肺癌に用いる。

申請の根拠となった第二相試験2本では、第三者放射線学的委員会の査読に基づく客観的反応率が47~50%、メジアン反応持続期間は一本が7.5ヶ月、もう一本は11.2ヶ月と長いが未成熟(まだイベント発生例が少なく統計学的な検出力が低い)である模様だ。特徴的なのは脳転移にも有効であること。脳血管から排出されにくいとのことだ。

日本では昨年7月に承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース

daratumabがEUでも承認申請
(2015年9月9日発表)

デンマークのジェンマブ(OMX:GEN)は、同社が創製した抗CD38完全ヒト化抗体、daratumabがライセンシーであるジョンソン・エンド・ジョンソンによってEUで承認申請されたと発表した。多発骨髄腫の4次治療薬として用いる(代表的な薬剤であるプロテアソーム阻害剤と免疫調停剤の両方に難治性だった患者は3次治療も可)。第二相試験の結果に基づくもので、米国でも7月にローリング承認申請を完了している。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、カナグルの骨損壊リスクを警告
(2015年9月10日発表)

FDAは、Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の骨折リスクを警告した。治療開始前に患者の骨損壊リスク因子を検討すると共に、患者に注意を促すべき。患者に対しては、医師に相談せずに勝手に服用を止めるなと呼びかけた。

Invokanaはジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したSGLT2阻害剤で、二型糖尿病の血糖治療薬。臨床試験でBMDの穏やかな低下が見られたため、13年に米国で承認された後に55~80歳の患者を組入れてBMD影響確認試験が実施された。2年後のBMD低下が部位により0.0~1.2%、偽薬より大きかった。また、これまでに実施された臨床試験では、100人年当り発生率が100mg群は1.4、300mg群は1.5と、偽薬・対照薬群の1.1を上回った。転倒時や、上肢の骨損壊が多いようだ。

米国では過去1年間に110万人が薬局でInvokanaの交付を受けている。年率0.3%の差とすると3000人程度が骨折する計算になるので、稀とはいえ影響は大きい。BMD低下はそれほど大きいようには感じられないが、股関節骨折という臨床的に重要なリスクに関連する全股関節BMDが偽薬比1%前後低下することは気に掛かる。

このリスクがInvokanaに固有なのか、クラス・イフェクトなのか、FDAが検討中。血糖治療薬ではActos(pioglitazone)のようなPPAR作動剤も骨損壊のリスクが高まることが明らかになっている。

SGLT阻害剤はJardiance(empagliflozin)の心血管アウトカム試験が成功し、注目を集めている。データは9月17日にEASDで公表される見込み。7000人規模の大きな試験なので骨損壊リスクについても何らかの手掛かりが掴めるかもしれない。

リンク: FDAのリリース


今週は以上です。

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