2015年8月30日

2015年8月30日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ノボ、経口GLP-1作用剤を第三相へ
  • アムジェン、副甲状腺機能亢進症治療薬を承認申請
  • SareptaのDMD治療薬も承認申請受理
  • 抗CD38抗体のローリング承認申請が完了
  • BI、afatinibを扁平上皮非小細胞性肺癌に適応拡大申請
  • 第二の抗PCSK9抗体が米国で承認
  • FDA、DPP4阻害剤の関節痛リスクを警告


【新薬開発】


ノボ、経口GLP-1作用剤を第三相へ
(2015年8月26日発表)

ノボ ノルディスクはsemaglutideの第三相二型糖尿病試験中だが、経口製剤も第三相に進めると発表した。GLP-1作用剤では初。体重削減作用もあるので、こちらの開発も注目される。

Emisphere Technologies社の技術を用いて、受動的細胞内輸送によって吸収されるSNACというキャリアと共に錠剤化。吸収後に分離して作用、排泄される。第二相二型糖尿病試験では、一日2.5mgから40mgのレンジでHbA1cが0.7~1.9%用量依存的に低下、偽薬群の0.3%と比べて各用量とも統計的に有意だった。皮注用製剤(1mg週一回)を投与した群は1.9%低下。体重低下作用も見られた。GLP-1作用剤のボトルネックは悪心嘔吐だが、経口剤の最大用量は皮注用より発生率が高かった。

第三相試験では、3mg、7mg、14mgをテストする模様だ。FDAのガイダンスに基づき心血管アウトカム試験も実施する。

リンク: ノボのプレスリリース

【承認申請】


アムジェン、副甲状腺機能亢進症治療薬を承認申請
(2015年8月25日発表)

アムジェンはAMG 416(etelcalcetide)を米国で承認申請したと発表した。慢性腎疾患透析期患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に用いる。

慢性腎疾患では腎機能低下に対応して副甲状腺ホルモンが増加しカルシウムやリンの濃度を正常に維持するが、機能低下が進むと副甲状腺ホルモンが著しく増加しカルシウムやリンが過剰になってしまう。

AMG 416はカルシウム感受受容体を作動し副甲状腺ホルモンの分泌を抑制する。週三回の透析後に静注した第三相試験では、副甲状腺ホルモン抑制奏効率が74~75%と偽薬群の8~9%を有意に上回った。血清リン濃度もカルシウム濃度も有意に減少した。同社のSensipar(cinacalcet、和名レグパラ)と直接比較した試験では効果が非劣性だった。主な有害事象は低カルシウム血症。

アムジェンが2012年に3.15億ドルで買収したKAI Pharmaceuticalsの開発品。日本の権利は小野薬品が取得、ONO-5163として第三相試験中。

リンク: アムジェンのプレスリリース

SareptaのDMD治療薬も承認申請受理
(2015年8月25日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、米国でAVI-4658(eteplirsen)のローリング承認申請を完了しFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は16年2月26日。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のうち、ジストロフィン遺伝子のエクソン51などに疾病関連変異を持つタイプ(DMD患者の13%程度)に用いる。

DMDは新生男児の3500人に一人が罹患する遺伝子疾患で、ジストロフィンの遺伝子に塩基配列の重複や欠損が見られる。病状は様々だがDMDは他の型より進行が速い。eteplirsenはRNAのスプライシングに介入、不完全だがある程度機能するジストロフィンを作れるようになる。

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)も類薬であるdrisapersenを4月に承認申請、優先審査を受け審査期限は今年12月27日となっている。順調に進めば2ヶ月の間に続々と承認されることになる。

どちらも6分歩行検査で測定した治療効果は決して大きくないが、最近のFDAは、治療オプションが限られている領域では最低限必要な調査研究を行えば承認するスタンスのように見える。バイオマリンはFDAの要請に前向きに取り組んできた。SareptaもFDAに批判的なCEOが退任し協調路線に転じたようだ。

リンク: Sareptaのプレスリリース

抗CD38抗体のローリング承認申請が完了
(2015年8月27日発表)

デンマークの抗体医薬開発企業であるジェンマブ(OMX:GEN)は、抗CD38完全ヒト化抗体daratumumabの第二相多発骨髄腫試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に掲載されたことと、導出先であるジョンソン・エンド・ジョンソンが米国におけるローリング承認申請を完了したことを発表した。

承認申請のエビデンスとなったこの第二相試験では、三種類以上の前治療を受けた患者106人にdaratumumabを投与したところ、16mg/kgのコフォートで42人中2人が完全反応、ORR(客観的反応率)は36%だった。前治療歴がメジアン5レジメンで被験者のほとんどがプロテアソーム阻害剤にもRevlimid(lenalidomide)のような免疫調停剤にも抵抗性であったことを考えれば良好な結果だ。この用途でFDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。

daratumumabは多発骨髄腫で過剰発現しているCD38を標的とし、アポトーシスを誘導する。ジョンソン・エンド・ジョンソンが12年に世界独占開発販売権を取得。同時に、ジェンマブの株式の10%を取得した。ジェンマブの過去の創薬実績としては、ノバルティスの抗CD20完全ヒト化抗体Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)がある。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

BI、afatinibを扁平上皮非小細胞性肺癌に適応拡大申請
(2015年8月25日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムはafatinibを扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療薬として欧米で適応拡大申請し受理されたと発表した。不可逆的EGFR・her2阻害剤で、EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌の治療薬として13年に欧米で承認、米国ではGilotrif、EUではGiotrif名で販売されている。

今回の申請はTarceva(erlotinib)対照二次治療試験に基づくもの。PFS(無進行生存期間)がメジアン2.4ヶ月対1.9ヶ月、ハザードレシオ0.82で有意に上回り、全生存期間の解析もメジアン7.9ヶ月対6.8ヶ月、ハザードレシオ0.81だった。

Tarcevaは一次治療に関してはEGFR活性化変異を持つタイプが適応だが、二次治療に関しては変異を問わず適応になる。二次治療で承認された当時はEGFR活性化変異と応答性の関連が十分に検討されていなかったので、効かないというエビデンスがなかったから適応外にならなかったのかもしれない。EUのレーベルによれば、活性化変異のないタイプの二次治療における延命効果やそれ以外の重要な効能は確認されていない。

今回の試験の対象である扁平上皮腫はEGFR活性化変異が少ないと言われており、薬効を比較する対象として適切かどうかは議論の余地があるだろう。もし偽薬並みの延命効果しかなかったとすると、afatinibはメジアン1ヶ月上回るだけなのだから、効果は限定的だ。抗PD-1抗体の方が有望だろう。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース

【承認】


第二の抗PCSK9抗体が米国で承認
(2015年8月27日発表)

FDAはアムジェンの抗PCSK9抗体、Repatha(evolocumab)を承認した。7月に承認されたリジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィのPraluent(alirocumab)と似たような薬で、適応は若干広く、価格は若干安い。価格競争を予想する向きもあったが、過去の事例と同様に、最初の二社は喧嘩せず市場拡大を最優先する戦略を取った。

抗PCSK9抗体はLDL-C受容体の零落に関わるproprotein convertase subtilisin/kexin type 9をブロック、LDL-C値を55~75%削減する高い効果を持つ。難点は二週間に一回の皮注薬であることと、スタチンと異なり心血管疾患リスクを削減する効能は確認されていないこと。

それ以上に大きいボトルネックは価格が高いこと。Praluentは75mgと150mgのどちらもWAC(問屋取得価格)が560ドルで年間薬剤費は14600ドル、Repathaは140mgが542.31ドルで年14200ドル、ホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)の場合は年16500ドルと高価。

適応は、ヘテロ接合型家族性高脂血症(HeFH)またはアテローム性心血管疾患で運動療法に加えてスタチンの最大耐容用量を服用しているがLDL-C値をもっと下げる必要のある患者。RepathaはHoFHでLDL-C治療薬を服用しているが十分低下していない患者にも承認されているが、対象患者はそれほど多くなく、リジェネロン/サノフィは承認申請しなかった。

もっと下げる必要がある、という要件は定義が曖昧だ。米国の代表的なコレステロール管理ガイドラインは目標値を設定していないので、結局、個々の医師の判断になる。目標値が必要と考える医師は以前のガイドラインや欧州のガイドラインに則って適否を判定するのだろう。目標を70mg/dL以下と考えると、米国の対象患者数は1100万人程度と報じられている。

米国の医療保険は高齢者と低所得者以外は民間が担っている。大手医療保険会社であるAetnaはPraluentを事前承認の対象とし、承認された適応に加えて、高力価スタチンをezetimibeと併用しても不十分、別の高力価スタチンとezetimibeを併用しても不十分であった患者などに限定する方針のようだ。価格についても、C型肝炎治療薬と同様に、入札によって値引きを引き出す方法を取るのではないか。

リンク: FDAのリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース
リンク: AetnaのPraluent事前承認に関する情報ページ

【医薬品の安全性】


FDA、DPP4阻害剤の関節痛リスクを警告
(2015年8月28日発表)

FDAは、二型糖尿病の治療に用いるDPP4阻害剤が重度で行動制約的な関節痛を引き起こす可能性があることを警告した。トップシェアを持つMSDのJanuvia(sitagliptin)など、DPP4阻害剤を含有する薬のレーベルにリスクを記載した。

FDAの有害事象報告システムであるFAERSデータベースを検索したところ、Januviaが承認された06年10月から昨年末までの7年間に重度関節痛が33例、特定された。いずれも日常行動のレベルが低下し、10例は入院した。21例はステロイドや非ステロイド系鎮痛剤など薬物治療を受けた。

33例中22例はDPP4阻害剤の服用を止めてから1ヶ月以内に症状が解消。その後、同じまたは別のDPP4阻害剤を再開した患者では8例が再発した(ポジティブ・リチャレンジは当該薬剤が原因である可能性を示唆する)。DPP4阻害剤ではなく自己免疫疾患が原因である可能性も検討されたが、明確ではなかった。

発症のタイミングは治療開始から1ヶ月以内が22例だったが、数年後もあるようだ。

FDAはDPP4阻害剤を服用している患者に対して、勝手に服用を止めるべきではないと念を押した上で、もし重度関節痛が持続するようなら直ぐに医療専門家にコンタクトするよう推奨した。

DPP4阻害剤は広く用いられているので年4~5例なら発生頻度は決して高くない。しかし、頻度が低いだけにもし発生した場合に診断が遅れる可能性がある。糖尿病と関節痛は専門医が異なるので、もし整形外科などで診てもらう場合はDPP4阻害剤を服用していることを伝えることが重要だろう。

リンク: FDAの安全性通知


今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿