2015年7月20日

2015年7月20日号

【ニュース・ヘッドライン】


  • ロシュの抗PD-L1抗体、膀胱癌で承認申請か
  • 武田、経口プロテアソーム阻害剤を米国で承認申請
  • イレッサが米国で再承認
  • EUがBMSのHIV/AIDSコンビ薬を承認
  • EMAがHPVワクチンの稀な有害事象を検討へ

【新薬開発】


ロシュの抗PD-L1抗体、膀胱癌で承認申請か
(2015年7月13日発表)

ロシュは、RG7446/MPDL3280A(atezolizumab)の膀胱癌第二相試験で腫瘍縮小効果が見られたことを発表した。データは未公表だが、承認審査機関と今後を相談すると書いているので、少なくとも米国では承認申請の可能性がありそうだ。FDAから膀胱癌とPD-L1陽性非小細胞性肺癌の二次治療でブレークスルー・セラピー指定を受けているからだ。

atezolizumabはPD-L1を標的とするヒト化抗体で、定常領域を修飾して最適化した由。Opdivo(nivolumab)やKeytruda(pembrolizumab)が細胞傷害性Tセルの表面分子であるPD-1を標的にするのに対して、腫瘍細胞が発現してTセルの活性を抑制するレガンド側をブロックする。臨床的な違いは良く分からず、現時点では大差ないと考えておいて良さそうだ。

第三相試験は膀胱癌に加えて非小細胞性肺癌、トリプルネガティブ乳癌、腎細胞腫などが進行中。リード・インディケーションは尿路上皮膀胱癌の二次治療で、化学療法対照試験の結果が17年初めにも判明しそうだ。

今回の第二相は局所進行性・転移性の尿路上皮膀胱癌の患者439人に1200mgを3週間に一回、静注し、一次治療と再発治療のコホートのORR(客観的反応率)を検討したうち、最初に結果が出た再発治療コホートに関するもの。ORRはPD-L1発現度合と関連していた由。第一相でもPD-L1強陽性群は33人中52%、陰性は36人中14%と大きな差があった。

OpdivoやKeytrudaとのもう一つの違いは、ロシュがPD-L1発現検査方法を独自開発していること。腫瘍細胞のPD-L1だけでなく腫瘍に浸透したTセルの発現状況も調べることで応答性予測精度を向上できる可能性がある。各社が第三相を実施している非小細胞性肺癌のデータが揃えば検査手法の優劣が明確になるかもしれない。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


武田、経口プロテアソーム阻害剤を米国で承認申請
(2015年7月15日発表)

武田薬品は、MLN9708(ixazomib cirate)を米国で承認申請したと発表した。同社のVelcade(bortezomib)と同じプロテアーゼ阻害剤だが経口剤であることが特徴。多発骨髄腫は薬の数が増え併用療法が活発に探索されるようになったが、MLN9708が加われば経口剤だけの三剤併用が可能になる。

承認申請の根拠となった第三相試験は、多発骨髄腫で2~4次治療を受ける患者を組入れて、セルジーンのRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneの低用量を併用するRdレジメンと更にMLN9708(4mgを週一回、3連続週投与して1週休む)を投与する三剤併用療法のPFS(無進行生存期間)を比較した。今年2月に独立データ監視委員会が中間解析で成功を認定。データは未公表。

この試験の制限は、第一に、前治療でRevlimidやプロテアソーム阻害剤に難治性を示した患者は対象外。全員がアスピリン(325mg、一日一回)を服用した。CYP1A2を強度阻害する薬やCYP3Aを強度阻害・誘導する薬の同時使用は不可。

MLN9708は新患や維持療法の第三相も進行中。また、全身性軽鎖アミロイドーシス(免疫グロブリン性アミロイドーシス)でも第三相中。VelcadeもRd併用で良い成績を上げており、将来的には自社競合も発生しそうだ。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)

【承認】


イレッサが米国で再承認
(2015年7月13日発表)

FDAはアストラゼネカのIressa(gefetinib、和名イレッサ)をEGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌の一次治療モノセラピーとして承認した。2001年に非小細胞性肺癌の三次治療薬として承認されているので厳密には適応拡大だが、薬効確認試験がフェールしメーカーが自主的に販売を止めていたため、リバイバルということになる。

EGFRにエクソン19欠損またはエクソン21のL858R置換を持つ場合に適応になる。臨床試験ではORR(客観的反応率)が50%、メジアン反応持続期間は6ヶ月だった。carboplatinとpaclitaxelの併用と比較した試験のサブグループ分析でもこのタイプにはPFS(無進行生存期間)が上回った。主な有害事象はラッシュ、下痢、悪心嘔吐など。二人(1.9%)が深刻な薬物関連有害事象を経験、四人が薬物関連有害事象で治験を離脱した。深刻な副作用は間質性肺疾患、肝障害、胃腸穿孔、重度下痢、視覚異常などがある。

Iressaが日米で承認された時の位置付けは効果は穏やかだが忍容性に優れ経口投与可能な抗癌剤というものだった。その後、EGFR活性化変異型にしか有効でないことが判明し潜在市場規模が縮小したが、代わりに得たものは高い有効率だ。三次治療のORR10%と今回の50%では大きな違いである。なぜもっと早く気付かなかったのか、残念なことだ。充足されないニーズに応えることを急ぐあまり、拙速になってしまったのではないだろうか。

製薬会社側にも、医療や患者側にも、開発を急ぐインセンティブがある。応答予測因子を研究するインセンティブを与えてバランスを取るためには、例えば、有効率の低い薬の薬価を低くする方法が考えられる。対象患者が1000人でORR10%の薬も、対象患者が100人でORR50%の薬も、便益を享受する人数、即ち生み出す価値はそれほど変わらない。副作用で苦しむ人や対策費が少なくて済む分、良い薬ということもできる。

ASCOが行っているような抗癌剤のコストパフォーマンスを定量化する試みは、薬価抑制だけでなく新薬開発戦略にも好影響を与えうるだろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

EUがBMSのHIV/AIDSコンビ薬を承認
(2015年7月16日発表)

BMSはEUがEvotazをHIV/AIDS治療薬として承認したと発表した。同社のプロテアーゼ阻害剤Reyataz(atazanavir、和名レイヤターズ)の活性成分とギリアド(Nasdaq:GILD)からライセンスした3A4阻害剤cobicistatの合剤で、後者が前者の代謝を阻害するため、投与頻度が一日一回一錠で足りる。米国では今年1月に承認された。

同様なコンビ薬ではアッヴィのKaletra(lopinavir、ritonavir)がある。atazanavirやlopinavirのようなプロテアーゼ阻害剤はバイオアベイラビリティが低いため多くのピルを一日に何度も服用しなければならなかったが、ritonavirの3A4阻害作用を利用することでピルバーデン軽減に成功した。ritonavirは抗HIV/AIDS薬Norvirとして製品化されているため、他の薬と組み合わせるritonavir-boostという手法も普及した。

3A4阻害剤はritonavirだけ、コンビ薬はKaletraしかなかったが、ギリアドがcobicistatを開発し自社製品だけでなく他社にもコンビ薬開発権を与えたことから、Evotazの上市が可能になった。

リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMAがHPVワクチンの稀な有害事象を検討へ
(2015年7月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、GardasilやCervarixのような子宮頸癌予防ワクチンとCRPS(複合性局所疼痛症候群)やPOTS(体位性起立性頻脈症候群)の関連性を検討すると発表した。便益が危険を上回るかを検討するものではないと念を押しており、発生頻度や因果関係、もし副反応ならば転帰や対処方法を検討するものと推測される。

CRPSは手足の重度疼痛や腫脹、皮膚の温度や色の変化などを特徴とする疾患で、怪我や注射のトラウマで痛みに対する感受性が増す神経性疼痛と考えられている。POTSは体を起こした時に心拍数が増加するもので、交感神経の失調が原因と考えられている。後者はデンマークや米国などの症例が多い模様だが、報告数は世界で66例、接種は7200万人なので、発生頻度は低い。

これほど稀な有害事象を検討するためには、HPVワクチンを接種していない人たちにおける発生率をきちっと調べる必要がある。発生メカニズムについても探索が必要だ。このような基礎研究は次に同様な事態が発生した場合に応用できるのだから、手間を惜しんではならない。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Danish Health and Medicines Authorityのリリース
リンク: BrinthらのHPVワクチンとPOTSに関する論文抄録(Vaccine誌、リンクはPubMed)


今週は以上です。

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