2015年6月14日

海外医薬ニュース2015年6月14日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • MERSは院内感染が中心
  • ADA:ジャニュビアは心血管疾患リスクを高めない
  • ADA:リキスミアは心血管疾患リスクを高めない
  • アーゼラの三剤併用CLL試験が成功
  • Pristiqの小児鬱病試験がフェール
  • 筋ジストロフィー薬がEUでも承認申請
  • FDA諮問委員会が抗PCSK9抗体の承認を支持
  • FDA諮問委員会が抗IL-5抗体の承認を支持

【今週の話題】


MERSは院内感染が中心
(2015年6月10日報道)

報道によると、韓国で開催されたWorld Conference of Science Journalistsで、Asan Medical CenterのSung-Han Kim教授がMERSの感染状況について報告した。新規症例はほぼ全てが院内感染。医療施設では患者一人につき平均6.7人に感染したが、院外では0.7人と少ない。SARSは感染者の20%が地域感染で、院外患者一人につき平均2~3人が感染した。前回書いたように、伝染力という点ではSARSほどではなさそうだ。

こうなると、身近に疑わしい患者がいる場合は早く専門施設に連絡を取り診断・治療を受けさせることが重要になる。自分で介護するのはリスクが高い。また、感染者が立ち寄った医療施設に不必要に近寄らないことも重要だろう。感染した可能性のある人は隔離された模様なのでリスクは小さいだろうが、念のため、新患なら別の施設に行き、見舞いなども避けた方が良いのではないか。特に、重い合併症のリスクを持つ慢性呼吸器疾患、糖尿病などの患者は自重が必要だろう。

一方で、普通に生活している分にはリスクが低いのだから、過度な心配は不要だろう。

韓国ではマスクをする人が増えたようだが、Kim教授は否定的なようだ。但し、呼吸器症状のある患者はそれがMERSだろうが只の風邪であろうがしたほうが良い、と推奨した由。新型インフルエンザの時に書いたように、ウイルスは小さいのでマスクの隙間から出てしまう。空気穴が小さいマスクもあるが、時間が経つと水蒸気が詰まり息ができなくなるので、一日に数回、交換しなければならない。

リンク: Scientific Americanの記事
リンク: MedPageTodayの記事(要登録)


【新薬開発】


ADA:ジャニュビアは心血管疾患リスクを高めない
(2015年6月8日発表)

MSDのDPP-4阻害剤、Januvia(sitagliptin、和名ジュニュビア)は二型糖尿病患者の心血管疾患リスクを高めないことが大規模なアウトカム試験、TECOS試験によって確認された。成功したこと自体はMSDが発表済みだが、具体的な内容がADA(米国糖尿病学会)とNew England Journal Of Medicine誌で発表されたもの。

TECOSは心血管疾患を合併する50歳以上の二型糖尿病患者約14000人をJanuviaを使う群と偽薬群に無作為化割付して、心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院の何れかが発生するリスクを比較したもの。デューク大学とオックスフォード大学の研究者がMSDの援助を受けて主導し、世界38ヶ国の673施設でメジアン3年間、実施した。

狙いは、Januviaの心血管リスクが偽薬群、つまりJanuvia以外の血糖治療薬と比べて著しく高くないことを確認すること。FDAなどの要求に応えるものだ。

結果は、ハザードレシオが0.98、95%信頼区間は0.88~1.09となり、リスクが1.3倍以上という仮説が棄却された。非劣性検定なのでper-protocolだが、intent-to-treatによる優越性解析でも同様な数値になっている。

他社のDPP-4阻害剤のアウトカム試験で心不全による入院が増加する可能性が浮上したが、TECOSではハザードレシオ1.00、100人年当り発生率はJanuvia群が1.07、非Januvia群が1.09となり、リスクは見られなかった。理論的にはクラスイフェクトと考える余地があったが、少なくともJanuviaに関しては心配する必要はなさそうだ。全死亡も群間差はなかった。

この試験の結果を受けて、これ以上、二型糖尿病薬の心血管アウトカム試験をやっても無駄という意見も出ているが、誤解だろう。第一に、この試験は血糖強化治療の有効性を検討したものではない。むしろ、血糖値の群間差が発生しないよう配慮しており、結果も、HbA1cで0.3%程度の差しかなかった(Januvia群のほうが低かった)。あくまて、Januviaと他の血糖治療薬の比較試験なのである。

また、様々な背景を持つ患者を組入れたので、例えば鬱血性心不全歴を持つ患者でも心血管疾患リスクは高まらないとかサブグループの情報も豊富だ。更に、稀だが深刻な有害事象についてもある程度のデータを得ることができた。DPP-4阻害剤や類似した作用機序を持つGLP-1作用剤は急性膵炎のリスクを高める懸念がある。TECOS試験ではJanuvia群で23例(0.3%)、偽薬群では12例(0.2%)発生した。p値が0.05を超えるので有意差はなかったが、数値上は倍近いのだから、リスクが無いとは言えないだろう。

それでも、筆者の計算ではNNHは2000人年に一人(2000人に1年間投与すると一人が被害を受け、それ以外の患者は投与しても発症しない、または、投与しなくても発症する)なので、リスクは決して高くない(勿論、油断せずに兆候に注意すべきである)。

新薬承認前に行われる無作為化対照試験は昔は3ヶ月、今日でも6ヶ月で足りる。1年、2年の直接比較試験も行われているが目的は販売促進または医学者や医療保険の要求に応えることで、義務ではない。しかし、患者は何十年も服用するのだから長期試験のエビデンスは長ければ長い方が良い。日本のように、二型糖尿病患者の死因として癌が多い国では癌のリスクが高まらないことを確認する必要があるが、そのためにはTECOS試験でも期間が短すぎるくらいである。血糖治療薬に限らず、慢性疾患用薬には長期大規模試験のエビデンスが不可欠だ。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: Greenらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

ADA:リキスミアは心血管疾患リスクを高めない
(2015年6月8日発表)

ADAではサノフィのGLP-1作用剤、Lyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)の心血管アウトカム試験であるELIXA試験の結果も発表された。二型糖尿病で急性冠症候群を発症してから70日以内(recent ACS)の患者約6000人をLyxumia群と偽薬群に無作為化割付してMACE(主要有害心血管事象・・・構成項目はTECOS試験と同じ)のリスクを比較したもので、主評価項目である非劣性解析が成功した。ハザードレシオは1.017(95%信頼区間0.886~1.168)だった。

心不全による入院はハザードレシオ0.96(95%CI0.75~1.23)。膵炎の発生率は0.2%と偽薬群の0.3%と大差なかった。この試験は症例数がTESCOの半分以下なので、稀な有害事象の検出力は弱いと考えた方が良いだろう。

FDAが血糖治療薬の心血管アウトカム試験を求めるようになったのは、rosiglitazoneの心筋梗塞リスク懸念が表面化したことが切っ掛けだ。薬効確認試験のメタアナリシスを行ってリスクがすごく高い可能性を検討し、もし疑いが残るなら承認前に、ある程度安心できるなら承認・発売後に心血管アウトカム試験を行って、最終的に、リスクが1.3倍以上である可能性を払拭する。Januviaは規制強化の前に承認されたので、時間が掛かっても長期大規模な試験を行うことができた。

一方、LyxumiaはFDAが承認前に実施するよう求めた。EUや日本では13年に承認されたが、審査文書を見るとハザードレシオ1.25(95%CI0.67~2.35)となっており、FDAの最初のハードルをクリアしていない。信頼区間が広いことから想像すると、発症例が少なすぎたのだろう。Recent ACSを対象にしたのは、元々の心血管リスクが高く必要症例数や実施期間が少なくて済むからだろう。

理屈の上ではどちらに転んでも不思議は無かったので、非劣性解析が成功したのはポジティブニュースだ。一番喜んでいるのはEUや日本で使っている患者や医師だろう。サノフィは7~9月期にFDAにデータを提出し承認を求める予定。

それにしても、何時まで経っても分からないのがActos(pioglitazone)のPROACTIVE試験だ。この試験も治療ガイドラインに則した治療が行われたのだが、Actos群の方がHbA1cが低かった。当時は血糖強化治療で心血管リスクを削減することが可能と考えられていたので特に違和感が無かったが、その後、幾つかの試験では強化治療が却って有害である可能性が浮上。振出しに戻って、Actos自体に特別な作用があると考えざるを得なくなった。

通常は他の患者サブグループや同じ作用機序を持つ他の薬の試験が行われてエビデンスを補強することができるのだが、PPAR作動剤は心不全リスクや膀胱癌の懸念からActos以外、開発・販売中止になった。このため、Actosの特別な作用がリアルなのかフェイクなのか、真相は闇のままだ。

リンク: サノフィのプレスリリース

アーゼラの三剤併用CLL試験が成功
(2015年6月12日発表)

ノバルティスのArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の第三相再発性CLL(慢性リンパ性白血病)三剤併用試験の結果がEHA欧州血液学学会で発表された。fludarabineとcyclophosphamideを併用するレジメンに更にArzerraを追加する効用を検討したオープンレーベル試験で、PFS(無進行生存期間)がメジアン28.9ヶ月と二剤だけの群の18.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.67、統計的に有意だった。

全生存の解析もメジアン56.4ヶ月対45.8ヶ月、ハザードレシオ0.78となったが、95%信頼区間で見てもログランクp値で見ても有意ではなかった。検出力が足りないのかもしれないが、オープンレーベル試験なので主観の入らない全生存解析を軽視することはできない。

グレード3以上の有害事象の発生率は74%対69%で、好中球減少症や注射箇所反応が増加した。

Arzerraはジェンマブが創製した抗CD20完全ヒト化抗体で、米国では09年にCLLのサルベージ療法としてモノセラピーで承認された。同じ抗CD20抗体であるロシュのRituxan(rituximab)やGazyva(obinutuzumab)が各種CLLに有効であることを考えれば今回の成功は意外ではない。元々はグラクソ・スミスクラインが開発販売していたが、アセットスワップによりノバルティスが抗癌剤事業全体を取得した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


Pristiqの小児鬱病試験がフェール
(2015年6月11日発表)

ファイザーは、抗鬱剤として欧米で承認されているPristiq(desvenlafaxine)の第三相鬱病青少年試験がフェールしたと発表した。fluoxetineを投与した群も偽薬比有意な差が見られかったので、薬ではなく試験がフェールしたと考えるべきだろう。抗鬱剤や向精神薬の試験がフェールすることは珍しくなく、第三相試験は三本、四本実施するのがルーチンである。Pristiqの小児試験も四本あるようなので、全てが開票するまで答えは出ないだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


筋ジストロフィー薬がEUでも承認申請
(2015年6月8日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)はdrisapersenをデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬としてEUに承認申請したと発表した。米国でも4月にローリング承認申請を完了しており、早ければ年内にも承認される可能性がある。

drisapersenはジストロフィン遺伝子のエクソン51が翻訳されるのを妨げるエクソン51スキッピング薬。正常なジストロフィンより短いがある程度機能する蛋白が作られるようになる。EUの23000人のDMD患者のうち3000人程度に有効と考えられている。

第二相試験で6分歩行テストが偽薬比35メートル改善したが、第三相では10メートルに留まりフェールした。開発者であるProsensaはグラクソ・スミスクラインが開発販売提携を解消した後もFDAやEUと粘り強く交渉を続けると共に、昨年、バイオマリンに身売りして開発販売体制を強化した。

同種の薬はSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)もエクソン51スキッピング薬eteplirsenを米国で5月にローリング承認申請開始。日本でも日本新薬などがエクソン53スキッピング薬を開発中。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が抗PCSK9抗体の承認を支持
(2015年6月9日発表)

FDAは6月9日と10日に内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、二種類の抗PCSK9完全ヒト化抗体について意見を聞いた。どちらも大多数の委員の支持を受けたが、対象を制限すべきという意見が意外に多かった。17年に心血管アウトカム試験の結果が出るまで第一選択薬と認めるべきではないという意見で、筆者も賛成だ。

高脂血症・混合異脂血症ではスタチンの数々の心血管アウトカム試験が成功。当初は家族性高脂血症の治療薬という位置付けだったが、今日では心筋梗塞の再発予防、初発予防目的で数千万人が服用する超大型薬に育った。平行して、LDL-C低下薬=心筋梗塞予防薬という公式が認知されるようになりFDAもLDL-Cが下がればそれで良しというスタンスを取るようになったが、CETP阻害剤やナイアシン、フィブレートといったLDL-C低下作用も持つ薬のアウトカム試験が続々とフェールしたため、振出しに戻って再考する必要が生じた。

抗PCSK9抗体は肝細胞のLDL-C受容体を零落させる酵素に結合・阻害し、血液中のLDL-Cの取込を促す。臨床試験ではLDL-Cが60~70%低下。著しく高値のホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)でも30%程度低下した(HoFHはLDL-C受容体の機能が低下していることが多いので、効果が減弱するのは作用機序的に止むを得ない)。9日はリジェネロンがサノフィと共同開発しているPraluent(alirocumab)、10日はアムジェンのRepatha(evolocumab)を検討した。

申請された適応・用法は原発性高脂血症と混合異脂血症の患者にモノセラピーとスタチンなどとの併用。投与頻度と用量は若干異なり、Praluentは75mgまたは150mgを二週間に一回、皮下注。Repathaは140mgを二週間に一回、または420mg(140mgを3回)を月一回、皮下注で、HoFHには420mgを二週間に一回という用法も申請された。Praluentは低量で開始して滴定が可能だが、月一回投与はできず、また、著高量を必要とする患者には足りないことになる。

今回の諮問委員会に特徴的な議題は、抗PCSK9抗体をスタチンの代わりに用いることを認めるべきか、という点だ。心血管アウトカム試験のエビデンスのない薬を第一選択薬として認めるにはLDL-C低下=心筋梗塞予防の公式が成立する必要があるが、上記のように、疑わしくなった。

スタチン不耐患者なら代替品になりうるが、ここで問題なったのが定義だ。Praluentのスタチン不耐患者を対象にした試験では、Lipitorに割付けられた患者の多くが途中で離脱しなかった。これは、スタチン不耐と分類される患者が本当はそうではないことを示唆している。リジェネロン/サノフィはスタチン不耐患者に、アムジェンは臨床的にスタチンが不適当な患者に用いることができるという文言を要求しているので、この問題に目を瞑ることはできない。

諮問委員会の採決は、Praluentは16人中13人が承認を支持した。しかし、賛成者のうち6人は家族性高脂血症に限定すべきとの考えを示した。更に、全ての委員が、心血管アウトカム試験の結果が出るまでは全ての混合異脂血症患者に認めるべきではない、と判定した。

Repathaは15人中11人が承認を支持したが、HoFHに関しては全員が支持した。ここでも、スタチンと同様な幅広い適応は認めるべきではないという意見が目立った。また、LDL-Cが下がり過ぎた時に減量できず、スタチンの減量で対処してしまうリスクを懸念する声があった。

Repathaは何故、低量規格が無いのか?70mgを二週間に一回投与した試験ではLDL-Cが40~50%低下と140mgより20ポイント程度小さく、Praluentの75mgと同じようなものだ。滴定のニーズを考えれば70mgも商品化した方が良かったのではないか。

さて、諮問委員会は適応を幅広くすることに慎重な意見が目立ったが、FDAが制限なしに承認する可能性は残っているだろう。結局のところ、様々な選択肢から目の前の患者に最適な治療法を選ぶのは医療従事者の仕事である。抗PCSK9抗体はバイオ薬なので価格が高いだろうから、誰でも気軽に使えるわけではなく、乱用のリスクは小さいだろう。

薬の値段が高いのは物質ではなく正しい使い方や効能、リスクに関する情報に価値があるから、というのが筆者の考えであり、抗PCSK9抗体はこの点で物足りない。アウトカム試験の結果が出るまでは価格に値しないと考える人も多いのではないか。

リンク: リジェネロン/サノフィのプレスリリース

FDA諮問委員会が抗IL-5抗体の承認を支持
(2015年6月11日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAの肺・アレルギー用薬諮問委員会がNucala(mepolizumab)を重度好酸球性喘息症の成人の維持療法薬として承認することを全員一致で支持したと発表した。一方、12~17歳の青少年に関しては賛成4人、反対10人で反対が上回った。治験の投与実績が16例と少ないことが理由のようだ。

Nucalaは抗IL-5完全ヒト化抗体で、好酸球の活性化、生存、肺移行に関わるIL-5をブロックする。2000年代に好酸球増多症候群の治療薬として欧州で承認申請されたが撤回となった。好酸球増多を伴う喘息症に対する期待は当時からあったが、呼吸能力改善が小さく大規模な試験を行って増悪予防効果を検討する必要があったためか、中々第三相入りしなかった。

適応は、吸入ステロイドなどを用いても喘息発作を十分に管理できない重度喘息症で、好酸球数が150セル/mcL超、または、過去1年間に300セル/mcL超だった患者。4週間に一回、皮下注射する。

アストラゼネカも協和発酵キリンからライセンスした抗IL-5ポテリジェント抗体、benralizumabの第三相試験を実施中。

リンク: GSKのプレスリリース


今週は以上です。

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