2015年3月8日

海外医薬ニュース2015年3月8日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 科学か、知的財産か、投資家保護か、それが問題だ
  • アムジェンのKyprolisがVelcadeに勝った
  • ベーリンガーがプラザキサ中和剤を承認申請
  • BMS、米国でYervoyの適応拡大申請が受理
  • バシリア/アステラスの抗真菌薬が米国で承認
  • オプジーボの適応拡大が光速承認
  • 米国初のバイオシミラーが承認
  • セルジーン、EUでアブラキサンが適応拡大


【今週の話題】


科学か、知的財産か、投資家保護か、それが問題だ

(2015年3月3日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)が武田薬品と米国で販売している体重管理薬、Contrave(bupropionとnaltrexoneの徐放性合剤)について、ちょっとした議論が起きている。長期的な心血管安全性を確認するLIGHT試験の中間解析結果をオレキシジェンが公表したため、まだ進行中なのに治験の厳格性を損ねると批判が出ているのだ。報道によると、データ監視委員会の有力メンバーも、パートナーである武田も、眉をひそめている模様だ。

過去の経緯はこうだ。Contraveは米国で10年に承認申請されたが、血圧や心拍数の増加が見られたためFDAが心血管安全性確認試験の実施を要請、12年にLIGHT試験が開始された。9000人の肥満・高リスクオーバーウェート患者を組入れて心筋梗塞や脳梗塞、心血管死のリスクを偽薬と比較する。

開発をスピードアップするために、中間解析でリスクが著しく高い可能性を否定し最終解析でリスクが小さいことを確認する二段階方式が採用された。閾値は、中間解析はハザードレシオの95%上限が2未満、最終解析は1.4未満とされた。

この二段階方式はrosiglitazoneの心血管疾患リスク問題を契機に糖尿病新薬に心血管アウトカム試験が義務付けられて以来、広く採用されるようになった。長期大規模試験の完了を待っていたら新薬開発が遅れてしまうので妥協策として中間解析を使う。観察期間が短いとイベント発生数が少なくなり治験の検出力が低下するため、信頼区間が広くなる。そこで、第二の妥協策として、リスクが1.9倍であっても容認することになった。勿論、本当に1.9倍なら許容できないが、真偽は最終解析を待って判断する。

LIGHT試験は13年に中間解析が成功、その翌年にContraveが承認されたが、ここで最初の珍現象が起きた。FDAが心血管安全性確認試験をもう一本、実施するよう求めたのだ。中間解析結果を多くの関係者が知ったために治験の厳格性が損なわれることを懸念した。FDAの資料によると、オレキシジェンのCEOや幹事証券会社、武田の営業責任者など100人以上が知ることのできる立場にあった。

FDAは、同時に、LIGHT試験を最後まで実施することも求めた。新しい発見があるかもしれないし、もう一本の試験が順調に完了するとは限らないからだ。従って、中間解析の詳細を公表するのは好ましくないのだが、オレキシジェンが中間解析のデータに基づいて出願していた特許が発行され、明細書に記されていた治験データが白日の下に晒されてしまったのである。

更に、オレキシジェンは重要な情報を全ての投資家に公平に開示する意図で、データサマリーをSECに提出した。一見すると大変良さそうなデータであり、カプラン・マイヤー・カーブも信じられないほど早く、きれいに分離している。

具体的には、主要有害心血管イベントの発生数がContrave群は4455人中35人、偽薬群は4450人中59人、ハザードレシオは0.59、95%信頼区間は0.39~0.90、p値は0.0001未満。大きな差があったのは心血管死でハザードレシオ0.26、95%信頼区間0.10~0.70だった。データが100人以上に周知されたのは中間解析の後である模様なので、このデータ自体に疑惑が生じている訳ではない。公開後にオレキシジェンの株価が高騰したのは頷ける。

だが、投資家が希望の種を探し物事を楽観的に受け止める傾向があるのに対して、医学者や統計学者は効能については慎重に、リスクについては真剣に、受け止めなければならない。今回の中間解析は目標イベント数の1/4しか発生していない段階のものなので、数値が良くても悪くても元々が荒いデータなのだから信頼性は低い。最終解析がハザードレシオで1に近付いたり、有意性が失われたりすることも珍しくないのである。

この試験は、体重管理薬の一般的な用法に即して、体重が十分に減少しなかった患者は服用を止めるプロトコルが導入され、過半の患者が途中で服用を中止した。だから、上記のIntent-to-treat分析でこんなに良い数字が出るのは意外であり、両群のカプラン・マイヤー・カーブが1ヶ月も経たないうちに分かれていることにも違和感がある。心血管死だけが95%上限が1未満であったことも奇妙で、普通は、イベント数の多い心筋梗塞で1未満であっても心血管死では1を跨ぐことが珍しくない。

何故オレキシジェンは信頼性が高くない、そして公表すべきでないデータを公表したのか?Contraveの売上を増やすためなのか?おそらく、違うだろう。単に、治験の厳格性や統計学の基礎を知らないだけなのではないか。新興企業や有名な医学者でも時々見られることだ。宝くじに当たったからといって、自分を天才と思い込んで全財産を投じてはいけない。世の中は偶然に満ち溢れているのだから。

リンク:オレキシジェンが取得した特許

リンク:オレキシジェンのSEC提出文書

【新薬開発】


アムジェンのKyprolisがVelcadeに勝った

(2015年3月1日発表)

アムジェンは、多発骨髄腫の三次治療薬として承認されているKyprolis(carfilzomib)が二次治療直接比較試験の中間解析で武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)より優れたPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。数値はなかなか良く、留意すべき点はあるものの、進行中の一次治療直接比較試験に期待を持たせる。

どちらもプロテアソーム阻害剤で、発売が9年遅かった分、Kyprolisの売上高は見劣りするが、エビデンスが積み重なるにつれて差を詰めて行くだろう。今回のENDEAVOR試験の結果はASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表される予定で、Kyprolisの長所と見做されている末梢神経症の副作用に関する分析も公表されるようだ。

ENDEAVOR試験は多発骨髄腫二次治療の代表的レジメンの一つであるVelcade・dexamethasoneの併用と、Kyprolis・dexamethasoneの併用法のPFSを比較した。一次治療でVelcadeを使った患者も受け入れたので、Velcade群に不利であるように感じられる。通常は、このような患者の二次治療にはRevlimid・dexamethasoneのレジメンを使うのではないか。

Kyprolisは三次治療モノセラピーで承認されている用量用法より高量を用いた。28日サイクルでサイクル毎に6回投与する点では同じだが、承認用法は第1サイクルは一回20mg/m2を2~5分点滴、第2サイクル以降は27mg/m2に増量であるのに対して、30分点滴で第1サイクルの3回目から56mg/m2に増量した。

結果は、Kyprolis群のメジアンPFSは18.7ヶ月、Velcade群は9.4ヶ月、ハザードレシオ0.53、95%信頼区間0.44~0.65という実薬対照試験とは思えないほど大きな差があった。全生存期間の解析は未だ行われていない。忍容性は、有害事象による治験離脱や治療期間中の死亡は両群同程度だった。但し、心不全や腎不全はKyprolis群のほうが多かった由。

学会発表時には、一次治療でVelcade以外の薬を用いた患者のデータや、高集中度レジメンの忍容性、そして心不全や腎不全、末梢神経障害の発生頻度や重篤度がチェックポイントになりそうだ。

一次治療直接比較試験はMPレジメン(melphalanとprednisone)と併用するCLARION試験とRdレジメン(Revlimid<lenalidomide>と低量dexamethasone)と併用するECOG主導試験の二つが進行中で、開票は来年以降だろう。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


ベーリンガーがプラザキサ中和剤を承認申請

(2015年3月3日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Pradaxa(dabigatran etexilate mesilate、和名プラザキサ)に結合して作用を中和する完全ヒト化抗体フラグメント、idarucizumabを欧米カナダで承認申請したと発表した。FDAからブレイクスルーセラピー指定を受けており、優先審査になるのではないか。

Pradaxaのような直接的トロンビン阻害剤やXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)のようなXa阻害剤はワーファリンより薬物動態が優れているが、難点は、例えば事故に遭ったり緊急手術が必要になった時の解毒剤がないことだ。出番は決して多くないだろうが、万一の備えはあった方が良い。

Xa阻害剤の中和剤ではポートラ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:PTLA)が遺伝子組換え型ヒトXa因子、andexanet alfaを開発中。こちらもブレイクスルーセラピー指定されており、年末までに承認申請される見込みだ。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

BMS、米国でYervoyの適応拡大申請が受理

(2015年3月2日発表)

BMSは、末期黒色腫用薬Yervoy(ipilimumab)の適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。PDUFA審査期限は10月28日。ステージ3の癌を完全切除した後に、高リスク患者に対して施行するアジュバント療法で、治験データを見る限りでは有効だが忍容性に難がありそう。承認されたとしても特にリスクの高い患者に限定して用いられることになるのではないか。

YervoyはCTLA-4に結合する抗体医薬で、活性化した細胞傷害性Tセルが腫瘍細胞によって抑制されるのを妨げる。承認されている用量用法は3mg/kgを90分点滴静注、3週間毎に計4回だが、多くの試験では10mg/kgを採用しており、今回も同じ。初めは3週間毎、5回目からは3ヶ月毎に、最長で3年間投与した。

結果は、無再発生存期間のメジアン値が26.1ヶ月と偽薬群の17.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.75、95%信頼区間0.64~0.90だった。3年時点の無再発生存率は46.5%でこれも偽薬群の34.8%を上回った。全生存期間の解析結果は未だ発表されていない。

術後アジュバント療法はその時点では軽快した患者が対象なので、末期癌より高い忍容性が求められる。Yervoy群は半分の患者が薬物関連有害事象により治験を離脱、うち致死的な症例が5例(全体の1.1%)だった。

コース全体では、末期黒色腫の3倍以上の量を3~4倍の回数、投与するので、途中で離脱しなければ薬剤費が100万ドルを超える。大変高額な治療なので、一部の患者にしか使われなくても十分にペイするだろう。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認】


バシリア/アステラスの抗真菌薬が米国で承認

(2015年3月6日発表)

スイスのバシリア(SIX:BSLN)は、ライセンシーのアステラス製薬が米国で承認申請していたCresemba(isavuconazonium sulfate)がFDAに承認されたと発表した。アゾール系の抗真菌薬で、侵襲性アスペルギルス症やムーコル症の治療に用いる。静注用と経口剤がある。感染症製品認定を受けており、排他権が5年間、延長されることになる。この疾患は臓器移植や血液癌などの治療で免疫力が低下した患者が発症しやすく、アステラスには販売面のシナジーがある。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バシレアのプレスリリース

オプジーボの適応拡大が光速承認

(2015年3月4日発表)

FDAはBMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療に用いる適応拡大を承認した。BMSが申請受理を公表したのは2月末なのでビッグサプライズだ。光速承認の最大の立役者はBMSとFDAの努力だが、BMSの行動と広報にタイムラグがあったことも一因だろう。

Opdivoは米国では14年9月に末期黒色腫の二次治療薬として承認申請され、3ヶ月後に承認されたが、それに先立つ14年4月に再発性扁平上皮非小細胞性肺癌用薬としてローリング承認申請が開始されていた。承認申請に必要な三種類の文書が揃う前に、出来上がったものから提出して審査を開始してもらうもので、通常は、臨床試験のデータが最後に提出される。薬の特性や生産方法に関する審査が先に終わっていたから短期間で承認されたのだろう。

肺癌の申請は元々は第二相三次治療試験をエビデンスとするものだったが、昨年12月に第三相二次治療試験が中間解析で成功、同月中にFDAに報告され、二次治療薬としての承認に繋がった。この試験成功が発表されたのは1月18日なので、1ヶ月のタイムラグがあった。また、BMSはローリング承認申請が完了した12月ではなく受理されPDUFA審査期限が伝達された2月に公表したため、2ヶ月のタイムラグが生じた。

さて、承認されたレーベルによると、第三相二次治療docetaxel対照試験の中間解析でメジアン生存期間が9.2ヶ月とdocetaxel群の6.0ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.59、95%信頼区間は0.44~0.79だった。流石にこの試験に関する情報量は限られており、投与期間の実績や減量・離脱データ、有害事象に関する情報は記されていない。FDAは治験の最終報告書を提出するよう求めており、現段階では公表は早いと思っているのだろう。

OpdivoはTセルの抑制刺激受容体であるPD-1に結合して腫瘍細胞がレガンドを発現しTセルの増殖やサイトカイン放出を抑制するのを妨げる。作用機序から考えると応答性がPD-1やレガンドの発現状況と関連する可能性があり、この第三相試験でも評価項目の一つになっている筈だが、レーベルには言及されていない。おそらく、低発現症例でも無効ではなかったのだろう。

第二相三次治療単群試験ではメジアン生存期間が8.2ヶ月と、二次治療試験と同様な結果になった。グレード3以上の薬物関連有害事象の発生率は17%、有害事象による治験離脱12%、深刻な有害事象としては免疫調停性の肺炎、間質性肺疾患、大腸や肝臓、腎臓、ホルモン分泌腺の疾患が見られた。日本はEGFR阻害剤で間質性肺疾患が他の国より多く発生しているので、気を付けるべきだろう。

ライバルのMSDはKeytruda(pembrolizumab)を年央に非小細胞性肺癌二次治療薬として適応拡大申請する見込み。3ヶ月で承認されたとしてもBMSから半年遅れることになる。未承認でもASCOでデータを発表できれば普及し始めるが、タイミング的に間に合うとは思えず、間に合ったとしても承認されている薬があるのに敢えてKeytrudaを使う医師は少ないだろう。

但し、Opdivoが承認されているのは非小細胞性肺癌の25~30%を占める扁平上皮腫だけなので、全面的な競争が始まるのはKeytrudaの適応拡大が承認され、Opdivoのそれ以外のタイプを組入れた二次治療試験の結果が出てからだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:BMSのプレスリリース

米国初のバイオシミラーが承認

(2015年3月6日発表)

FDAは、ノバルティスのサンド部門が承認申請していた遺伝子組換え型G-CSF製品、ZarxioをアムジェンのNeupogen(filgrastim)のバイオシミラーとして承認したと発表した。米国は利害関係者の政治力が強くバイオシミラーの承認基準・法制が固まるまで時間が掛かったため、今回が初めての承認になる。

法制上は二種類のバイオシミラーが想定されているが、ZarxioはNeupogenと互換とは認定されていないので、小分子薬のジェネリックとは異なり、処方箋にNeupogenと記されていたらZarxioで代替することはできない。米国では既に複数のG-CSF製品が販売されているが大きな売上にはなっておらず、Zarxioも当初はゆっくりとしか普及しないだろう。複数の薬のバイオシミラーが承認されている欧州と同様に、医師は、誰かに先に使ってもらって感想を聞いてから使う、After youスタンスを取るだろう。

アムジェンは02年に持効性のNeulasta(pegfilgrastim)を発売、既に需要をシフトさせているが、カナダのApotex社が昨年12月にバイオシミラーの承認申請を行っており、こちらのほうが主戦場になりそうだ。

尚、FDAはZarxioの一般名をfilgrastim-sndzと表記しているが、このEUや日本と類似した表記を正式に決定した訳でなく、便宜的表記である由。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:サンドのプレスリリース

セルジーン、EUでアブラキサンが適応拡大

(2015年3月2日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、Abraxane(アルブミン結合paclitaxel、和名アブラキサン)がEUで非小細胞性肺癌の一次治療薬として承認されたと発表した。carboplatinと併用する。承認のエビデンスとなったpaclitaxel対照試験では、ORR(客観的反応率)が33%とpaclitaxel群を有意に上回った。

リンク:セルジーンのプレスリリース

今週は以上です。

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