2015年3月29日

海外医薬ニュース2015年3月29日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、抗PD-1抗体がBMSの抗CTLA-4抗体に勝つ
  • ノボ、もっと速効性のインスリンの試験が成功
  • 抗CD25抗体を多発性硬化症用薬として欧州で申請
  • CHMPがエーザイのレンビマなどの承認を支持
  • ノボ、デグルデクのアウトカム試験の中間データを提出へ
  • 肺炭疽治療薬が米国で承認
  • オレキシジェン、EUで体重管理薬が承認
  • ノボの体重管理薬もEUで承認
  • FDA、抗HCV薬とアミオダロンの併用を禁忌に
  • CHMP、骨粗鬆症用薬の注意事項をアップデート


【新薬開発】


MSD、抗PD-1抗体がBMSの抗CTLA-4抗体に勝つ

(2015年3月24日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)が末期黒色腫一次治療試験でBMSのYervoy(ipilizumab)より大きな延命効果を示したと発表した。内容は4月19日にAACR米国腫瘍研究協会で公表される予定。

同じ抗PD-1モノクローナル抗体であるBMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)もdacarbazine対照試験で全生存期間ハザードレシオ0.42という良い結果を出しており、Yeovoy対照/併用試験も進行中。抗CTLA-4抗体のYervoyが米国で承認されてから4年、braf変異型を除いて悪性黒色腫の一次治療は抗PD-1抗体が主流になりそうだ。

このKEYNOTE-006試験は、末期黒色腫で薬物療法未経験、またはYervoy以外の一次治療を受けた患者を組入れて二剤の効果を比較した第三相オープンレーベル試験。Keytrudaは10mg/kgを二週間に一回点滴静注する用法と、三週間に一回の用法を検討した。二次治療で承認されているのは2mg/kgを三週間に一回なので5~7.5倍に相当する。Yervoyは承認用法通りで、3mg/kgを三週間に一回、90分点滴静注した。主評価項目はYervoy群に対する全生存期間とPFS(無進行生存期間)の両方。

抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体は何れも癌細胞がTセルの活性を抑制するために用いる表面分子に結合し、ブロックすることで免疫力を強化する。どちらも至適用量が良く分からず、Yervoyはdacarbazine併用一次治療試験で10mg/kgが有意な延命効果を示したが、この併用法は欧米の何れでも承認されていない。免疫調停性有害事象の増加が懸念されるところだ。

Keytrudaの指摘用法も依然として検討段階と言わざるを得ない。この試験でOpdivoと同じ二週間に一回投与をテストしたことは両剤の今後の競争力を考える上で重要であり結果を見てみたいが、そもそも、2mg/kgではダメなのか、この試験だけでは分からない。MSDのプレスリリースによるとKeytruda群の安全性プロファイルは過去の治験と類似していた由であり、本当にそうなら10mg/kgでも良いかもしれないが、過去の試験では10mg/kgのほうが有害事象が多かった。

薬は副作用だけでなく金銭的支出も伴う。投与量が5~7.5倍ということは年間の薬剤費が現行の15万ドルから75~113万ドルに増加することを意味するので、薄ら寒い。Yervoyは4回投与するだけだが抗PD-1は癌が進行、または有害事象に不耐となるまで続ける。これだけ高価になると、もう一つ、患者が破産するまでを追加しなければならなくなる。もし10mg/kgが至適となったら価格体系見直しを求める声が高まるだろう。

リンク:MSDのプレスリリース

ノボ、もっと速効性のインスリンの試験が成功

(2015年3月25日発表)

ノボ ノルディスクは、FIAspの第三相試験が二本とも成功したと発表した。15年末頃に欧米で承認申請する予定。このインスリンは、NovoRapid(insulin aspart、和名ノボラピッド)の作用のオンセットを更に早くしたもの。

第三相試験は一型糖尿病と二型糖尿病に分けて実施され、後者ではHbA1cの低下がNovoRapidと非劣性だった。一型糖尿病ではNovoRapidより有意に低下したが差は0.32%対0.17%なので小さい。食後に投与する群も設定され、NovoRapid比で非劣性だった(0.13%)。

NovoRapidのような短期作用性インスリンも、サノフィのLantus(insulin glargine)のような持効性インスリンも、近い将来にバイオシミラーが登場するだろう。新製剤を開発して既存製品との違いを十分に明確にしておくことが重要だ。

リンク:ノボのプレスリリース(pdfファイル)

【承認申請】


抗CD25抗体を多発性硬化症用薬として欧州で申請

(2015年3月27日発表)

バイオジェン(Nasdaq:BIIB…3月23日付で社名変更)とアッヴィ(NYSE:ABBV)は、Zinbryta(daclizumab)を多発性硬化症の維持療法薬としてEUで承認申請し受理されたと発表した。

この抗CD25ヒト化モノクローナル抗体はロシュがプロテイン・デザイン・ラボ(PDL)からライセンスし97年に臓器移植後の急性拒絶反応防止薬Zenapaxとして発売したが、あまり普及せず、販売中止となった。ロシュは自己免疫疾患での権利も取得したが06年に返還、PDLはバイオジェンを新たなパートナーとした。その後、PDLは新薬開発事業とヒト化抗体技術をライセンスする事業に分社化。前者はバイオジェンから買収オファーを受けたが拒否、結局、アッヴィが7億ドル余で買収した。

Zinbrytaの開発は決して順調ではなく、安全性に懸念がある。CHMPがどのように評価するか、米国でも承認申請するのか、続報に注目したい。

リンク:バイオジェンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがエーザイのレンビマなどの承認を支持

(2015年3月27日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは3月の会議でエーザイの抗癌剤などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

エーザイのLenvima(lenvatinib、和名レンビマ)は進行性の局所末期/転移性分化甲状腺癌で放射性ヨウ素に反応しなかった患者に用いる。臨床試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が偽薬比14.7ヶ月長かった。高血圧や蛋白尿による減量が多く、CHMPは開始用量の検討を要請した。

分化甲状腺癌は乳頭腺や濾胞腺などの癌で甲状腺癌の9割を占める。症状を伴わない緩徐なものが多く、また、切除や放射性ヨウ素が有効だが、これらの治療に反応しない進行性の癌は予後があまり良くない。LenvimaはVEGF受容体をブロックする小分子薬で、類薬は数多く存在するが、同じ用途で承認されているのはバイエルのNexavar(sorafenib)だけ。Nexavarの試験では偽薬群の患者が進行後にNexavarを用いることが認められたためか、延命効果が確認されなかった。Lenvimaはどうなのだろうか?

Lenvimaは米国では優先審査の対象になり2月に承認、日本では迅速審査を経て先週承認、EUでも加速評価の対象になっている。

リンク:CHMPのリリース

Helsinn社のAkynzeoも肯定的意見を得た。NK1拮抗剤のnetupitantと5-HT3受容体拮抗剤palonosetronの合剤で、癌の化学療法の副作用である悪心嘔吐を予防する。5-HT3受容体拮抗剤は遅発性悪心嘔吐を防ぐ効果が弱いため、NK1拮抗剤で補完するアイディア。米国では昨年10月に承認、米国の共同販促権を持つエーザイが販売している。

MSDのGardasil 9を9歳以上の男女に用いることも支持された。ヒトパピローマウイルスによる子宮頸部や外陰部、膣、肛門の癌や性器いぼを予防するワクチンで、Gardasilは4種類のウイルス型の抗原を含有しているが、9は9種類。子宮頸癌の原因ウイルスの87%をカバーできるようだ。男も適用になるのは性的感染するから。

Gardasilを接種した人はどうすればよいのか、CHMPのリリースには記されていない。

リンク:CHMPのリリース

ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのSynjardyも支持された。SGLT-2阻害剤empagliflozinとmetforminの合剤で、二型糖尿病でmetforminだけでは血糖値を十分に管理できない場合に用いる。

適応拡大では、ロシュのTamiflu(oseltamivir)を1歳未満のインフルエンザ患者の治療に用いることが支持された。

ノボ、デグルデクのアウトカム試験の中間データを提出へ

(2015年3月26日発表)

ノボ ノルディスクは、Tresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)とRyzodeg(degludecとaspartの合剤、和名ライゾデグ)の米国承認に必要な長期大規模試験の中間解析結果を4月に提出することを決めた。

EUや日本で承認されているが、米国は未承認。原因は明らかではないが、心血管安全性に関する米国独自の基準をクリアしていないのではないか。同社は13年にFDAから審査完了通知を受領した後に心血管アウトカム試験DEVOTEを開始、完了は16年下期の予定。事前に中間解析を行う旨定められていたが、当初は、中間解析をFDAに提出するか最終解析まで待つか、決めていなかった。

良好な内容なら年内に承認されることになる。尤も、ノボのプレスリリースは慎重なトーンだ。中間解析はイベント数が少ないため、偶然に良い数値や悪い数値が出てしまうリスクがある。そもそも、中間解析結果は一部の人たちしか知らず、経営陣も見ていない由。治験の厳格性を維持するために当然の措置だが、吉と出るか凶と出るか、分からないことになる。

リンク:ノボのプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


肺炭疽治療薬が米国で承認

(2015年3月25日発表)

FDAはAnthrasilを肺炭疽治療薬として承認した。炭疽菌を吸入してしまった患者に抗菌剤と併用する。エマージェント・バイオソリューションズ(NYSE:EBS)の開発品で、同社の炭疽ワクチンを接種した健常者から採取・精製した免疫グロブリンG。米国保健福祉省で細菌兵器などの治療法を研究しているBARDA生物医学先端研究開発局の補助金を得て開発したもので、主用途は国家備蓄になる。

肺炭疽は発生率が極めて低く、また、致死率が高いため偽薬対照試験を行うのは困難。このため、薬効のエビデンスはヒト以外の霊長類の試験だ。偽薬群は全て死亡したが、Anthrasil群は36~70%が生存し、高用量の方が生存率が高いトレンドが見られた由。

EBS社は13年にCangene社を2.2億ドルで買収して入手した。

リンク:FDAのリリース

リンク:EBS社のプレスリリース

オレキシジェン、EUで体重管理薬が承認

(2015年3月26日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)は、Mysimba(米名Contrave)がEUで体重管理薬として承認されたと発表した。bupropionとnaltrexoneの徐放性合剤で、肥満症または太り過ぎで心血管リスク因子を持つ患者に用いる。管理不良高血圧、癲癇、中枢神経系腫瘍、アルコールやベンゾジアゼピンの離脱を施行している患者、オピオイド依存、双極障害歴のある患者などは禁忌。米国では14年10月に共同販売権を持つ武田薬品が発売した。心血管アウトカム試験が進行中。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

ノボの体重管理薬もEUで承認

(2015年3月23日発表)

ノボ ノルディスクのSaxenda(liraglutide)もMysimbaと同様な適応症でEUで承認された。二型糖尿病薬Victozaの高用量版。ここ数年、次々と新しい体重管理薬が発売されているが、プレイヤーは日欧の大手製薬会社と米国の新興企業で、英米の大手製薬会社は静観している。各社の売上は今のところ低調だが、Saxendaは二型糖尿病薬の適応拡大なのでイメージは良い。

リンク:ノボのプレスリリース(pdfファイル)

【医薬品の安全性】


FDA、抗HCV薬とアミオダロンの併用を禁忌に

(2015年3月24日発表)

FDAは、NS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirを含有するSovaldi(和名ソバルディ)やHarvoni(ledipasvir配合剤)を抗不整脈薬amiodaroneと同時使用しないよう警告した。

SovaldiとHarvoniは13~14年に承認された慢性C型肝炎治療薬で、インターフェロンを併用しなくても経口剤だけで高い奏効率を期待できる。今回の警告は市販後に9例の徐脈の有害事象報告があったため。1例の転帰は心停止、3例はペースメーカー埋込を受けた。発生メカニズムも因果関係も確立していないが、6例は治療開始後24時間以内に発症、残りも二週間以内だった。また、amiodaroneだけを止めた1例では軽快し、sofosbuvirを止めた後に再開した3例では再び発症したため、関連性が疑われる。

9例中7例はベータブロッカーを同時使用していた。また、sofosbuvirだけでなくBMSのdaclatasvir(日本でC型慢性肝炎治療薬ダクルインザ名で承認)またはジョンソン・エンド・ジョンソンのOlysio(simeprevir、和名ソブリアード)などの直接作用的抗C型肝炎ウイルス剤を併用していた模様だ。

amiodaroneを同時使用しなければならない患者は多くないだろうが、該当する場合は要注意だ。

リンク:FDAのリリース

CHMP、骨粗鬆症用薬の注意事項をアップデート

(2015年3月27日発表)

CHMPは、ビスフォスフォン酸やアムジェンのdenosumabで稀に発生する顎骨壊死(ONJ)を防ぐための注意事項をアップデートした。稀とはいえ発生すると日常生活に大きな足枷となるので、治療開始前・治療中に注意すべき事項を纏めて、また、患者が忘れないようにするためカードを用意することも発表した。

内容は、治療前に歯や口腔内をチェックすること、衛生を保つこと、など。抜歯が切っ掛けで発生することがあるからだ。リスク要因としては、薬の力価(骨吸収阻害作用が高いほどリスクが高い)、投与経路(注射用薬の方が経口剤より高リスク)、累積投与量。患者側のリスク因子は、癌、貧血、凝固障害、感染症、喫煙など。併用薬で注意すべきなのは、コルチコステロイド、化学療法薬、血管新生阻害剤、頭頸部癌の放射線療法など。抜歯以外にも歯周病や不安定な義歯、歯の病歴もリスク因子とのこと。

リンク:CHMPのプレスリリース

今週は以上です。

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