2015年3月1日

海外医薬ニュース2015年3月1日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • CROI:アビガンのエボラ試験データ
  • エーザイ、ハラヴェンの適応拡大試験が成功
  • アムジェン、AMG 416の直接比較試験が成功
  • イーライリリー、PEG化ヒューマログの開発遅延
  • BMS、オプジーボを米国で肺癌に適応拡大申請
  • CHMPがノバルティスの新薬などに肯定的意見
  • ノバルティスのHDAC阻害剤が逆転承認
  • アクタビスのベータラクタマーゼ配合剤が米国で承認
  • 新規MAO-B阻害剤がEUで承認
  • アイリーア、EUでBRVOが承認


【今週の話題】


CROI:アビガンのエボラ試験データ

(2015年2月25日発表)

favipiravir(富山化学のインフルエンザ治療薬、アビガンの一般名)のエボラウイルス疾患試験の中間解析データがCROI(レトロウイルス及び日和見感染会議)で発表された。高ウイルス量、高血中クレアチニン値の患者に対する効果は見られないが、中低ウイルス量の患者の死亡リスクを半減できる可能性が示唆された。今後は、高ウイルス量の患者には他の薬との併用が検討されることになるのではないか。

この第二相試験はMSF(国境なき医師団)とALIMA(Alliance for International Medical Action)のギニアの施設で実施されたもの。favipiravirの用法は、成人の場合、初日は6000mgを3回に分けて投与、その後は1200mgを一日二回、全部で10日間投与した(日本でインフルエンザに承認されている用量の2~3倍を倍の期間投与)。主評価項目は14日死亡率。対照群はこれらの二施設で昨年9月15日から12月14日までに治療を受けた患者。

今年1月にデータ監視委員会が成人青少年69人のデータを発表するよう推奨、CROIでの発表に至った。エンバーゴ(報道規制)が掛かっていたのか、事前にリークしたのは一部の報道機関だけで、筆者の知る限り日本では報道されなかった。

まず、全69例の死亡率は48%で、ヒストリカル・コントロールの57%と有意な差は無かった。しかし、ベースライン時点でCt値が20以上であった39例では15%対30%と半減した。p値は0.05なので有意性はあまり高くない。このサブグループはCt値が4日後にメジアンで12.3上昇した。一方、20未満の28例の死亡率は93%対85%と有意差は無かった。

Ct値はPCRでウイルスを増幅する時に、閾値に達するまでの増幅回数を示すらしい。Ct値20はウイルス量が1億コピー/mlに相当、Ct値の12.3上昇はウイルス量でいえば4log10の減少に相当する由。尚、被験者のCt値のメジアンは20なので、この閾値はデータマイニングで選んだものではなさそうだ。

抗ウイルス剤は高ウイルス量患者には効き難いものなので、今回の結果は納得のいくものだ。Ct20以上の患者を更に25未満と25以上に分けた解析でも前者は死亡率25%対37%、後者は0%対20%と、対照群の死亡率も薬の効き具合もウイルス量に相関している。

高ウイルス量の患者のケアが未解決だが、もしウイルス量の違いが発症から診断を受けるまでの時間の違いだとしたら、有望な治療法が現れれば患者が早く受入施設に向かうようになるだろうから、より多くの患者を救うことができるだろう。

MSF・ALIMAは引き続き試験が必要と考えている模様。

注記:ALIMAのサイトにアクセスしようとしたところウイルスバスターの警告が出たため止めました。

リンク:Sissokoらの抄録(CROI 2015)

【新薬開発】


エーザイ、ハラヴェンの適応拡大試験が成功

(2015年2月25日発表)

エーザイは、ハラヴェン(海外ではHalaven、一般名eribulin)の第三相軟部肉腫三次治療試験が成功したと発表した。データは学会で発表される模様。15年度上期に日米欧で適応拡大申請する計画。

ハラヴェンは転移性乳癌の三次治療などに承認されている。今回の試験は、anthracyclineを含む二次の治療を既に受け最終治療に抵抗性だった患者を組入れて、乳癌と同じ1.4mg/m2を21日サイクルで第1日と第8日にボラス点滴する群と、dacarbazineを投与する群に無作為化割付して、延命効果を比較したもの。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

アムジェン、AMG 416の直接比較試験が成功

(2015年2月25日発表)

アムジェンは、AMG 416の第三相cinacalset対照試験が成功したと発表した。慢性腎疾患透析期の二次性副甲状腺機能亢進症を治療する試験で、副甲状腺ホルモン削減奏効率が非劣性だった。

この疾患は透析期の患者の多くが合併する。腎機能低下に対応するために副甲状腺ホルモンの分泌が増えてカルシウムやリンのバランスを正常に維持できるようにするが、やがて分泌過剰になり高カルシウム血症、高リン血症を発症するようになる。cinacalsetはカルシウム受容体を作動する経口剤で、欧米ではアムジェンがSensipar名で、日本では協和発酵キリンがレグパラ名で販売している。

AMG 416はカルシウム感受受容体を作動する静注用薬で、日本では小野薬品がONO-5163として第三相試験中。アムジェンのプレスリリースを読むと、効果はcinacalsetと同程度で評価項目によっては優れている面もあるようだが、忍容性のデータはやや気がかりだ。治療時発現有害事象では症候性カルシウム血症の発生率が5%とcinacalset群の2.3%を上回り、心不全も3%対0.6%と多い。深刻有害事象は25.1%対27.3%でやや低かったが致死的有害事象は2.7%対1.8%でやや多い。

リンク:アムジェンのプレスリリース

イーライリリー、PEG化ヒューマログの開発遅延

(2015年2月23日発表)

イーライリリーはLY2605541(peglispro)の承認申請が2016年より後に遅れる見込みであることを明らかにした。当初の見込みでは14年、直近では15年第1四半期に承認申請する計画だった。

lisproは同社の速効性インスリン、Humalog(和名ヒューマログ)の活性成分で、遺伝子組換え型ヒトインスリン。これをPEG化して持効性にしたものがLY2605541で、サノフィのLantusの市場を狙った。

開発遅延の理由は明らかではないが、肝毒性懸念と推測される。2011年に第三相入りしたが、これまでの試験では肝機能検査値異常がLantus群より多く発生し、肝脂肪の増加も見られた。薬物誘導性肝障害リスクを評価する上で一般的に用いられているHyの法則に該当する症例はなかったが、新たに発生したのかもしれない。血糖治療薬では武田のTAK-475(lapaquistat)が08年に肝毒性懸念から開発中止になったことがある。

イーライリリーは糖尿病領域でベーリンガー・インゲルハイムと広範な開発販売提携を行っていて、LY2605541も対象だったが、2年前に単独開発に変更された。提携対象のLantusのバイオシミラーは日米欧で承認取得済み。他社も含めて、シミラーが発売されればLantusやLY2605541の価格も影響を受ける。バイオシミラーは小分子薬のジェネリックよりかなり高いので、特許性新薬開発会社にとってミー・ツー・ドラッグを苦労して開発するよりよっぽど有望な分野だ。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボを米国で肺癌に適応拡大申請

(2015年2月28日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を再発性扁平上皮非小細胞性肺癌用薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査指定され、審査期限は6月22日。申請の根拠となったCheckMate-063試験は三次治療試験だが、プレスリリースの適応症の箇所には前治療歴のある患者としか記されていないので、二次治療も含んでいるのかもしれない。

同じ抗PD-1抗体ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)が悪性黒色腫ではOpdivoより三ヶ月早く承認された。非小細胞性肺癌ではBMSが先に適応拡大申請したがMSDも今年年央に申請する予定。対象患者が若干異なり、MSDは扁平上皮腫以外も含む二次治療薬としての申請と推測される。扁平上皮腫は25~30%を占めるだけなのでKeytrudaの方が3倍多く、また、Keytrudaを二次治療に使った患者は三次治療にOpdivoを使わないだろうから、対象患者の細かな違いが重要な意味を持ちうる。

投与方法も若干異なり、Opdivoは二週間に一回の点滴静注、Keytrudaは三週間に一回。効果が同程度ならKeytrudaの方が便利だ。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがノバルティスの新薬などに肯定的意見

(2015年2月27日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、2月の会議で以下の新薬・適応拡大に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内のEU全域で承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

まず、ノバルティスのALK阻害剤、Zykadia(ceritinib)。ALK陽性の転移性非小細胞性肺癌で、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)による治療を既に受けた患者に用いる。第一相試験では反応率56%、反応持続期間はメジアン8ヶ月、第二相では各37%と9ヶ月。深刻な有害事象は肝毒性、胃腸有害事象、QT延長や徐脈、間質性肺疾患や肺炎、高血糖症など。対照試験の裏付けがないため条件付き承認を推奨した。米国では昨年承認。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:ノバルティスのプレスリリース

次に、大塚製薬のバソプレシン2受容体拮抗剤、Jinarc(tolvaptan)。急速進行性のADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)で腎機能が著しく悪化していないCKDステージ1~3の患者が対象で、嚢胞の進行や腎機能の低下を遅らせる。ADPKDは1万人に4人の希少疾患で、腎臓などに嚢胞ができ進行すると透析が必要になる。ADPKD治療薬として承認されれば初。臨床試験では腎臓量の増加やeGFRの悪化を抑制した。

この活性成分は抗利尿ホルモン不適合分泌症候群による低ナトリウム血症の治療薬、Samsca(和名サムスカ)として承認されているが、ADPKDは用量が数倍多いため、肝毒性が高まる。治験では深刻な肝障害が2.3%と偽薬の1.0%より高い頻度で発生した。このため、治療開始前と治療中定期的に肝機能検査を行う必要がある。

リンク:CHMPのプレスリリース

サノフィのToujeo(insulin glardine)は、同じ活性成分のLantusの新製剤で、mL当り100単位ではなく300単位含有。生物学的同等性は無く、Lantusからスイッチする時は用量を10~18%増やす必要がある。米国と異なり、低血糖のリスクがLantusより低いことが認められた。米国は先週承認(後述)。日本でも審査中。Lantusはバイオシミラーの発売が迫っているので重要な新製品。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

適応拡大では、ロシュのAvastin(bevacizumab)を難治性転移性子宮頸癌に用いることが支持された。paclitaxelとcisplatinまたはtopotecanの二剤と併用する。臨床試験ではメジアン生存期間が16.8ヶ月と二剤だけの12.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74だった。子宮頸癌予防用ワクチンは配合されている株のヒトパピローマウイルスによる悪性腫瘍は防ぐがそれ以外の株には弱いので依然として治療薬が必要だ。

リンク:ロシュのプレスリリース

意外だったのは、キサンチンオキシダーゼ阻害剤Adenuric(febuxostat、米国名Uloric、和名フェブリク)の新用途。痛風治療薬として承認されているが、CHMPが今回承認を認めた用途は、血液癌で化学療法を受ける、TLS(腫瘍崩壊症候群)のリスクが中高程度の患者の高尿酸血症の予防と治療。尿酸値を下げる薬なので効くのは当然だが、きちんと承認を取得しようとしていることは好感が持てる。febuxostatは帝人が創製、北米などでは武田薬品が、欧州ではメラリーニが販売している。

リンク:CHMPのプレスリリース

アムジェンのVectibix(panitumumab)をFOLFIRIレジメンと併用で一次治療に用いることも支持された。抗EGFR抗体で、野生RAS型の転移性結腸直腸癌に承認されているが、これまでは一次治療はFOLFOX併用だけだった。

FOLFIRIとFOLFOXはどちらもfluorouracilとleucovorinの二剤をベースとするレジメンで、前者はirinotecan、後者はoxaliplatinも併用する。 irinotecanを含む三剤はIFLというレジメンもあるが用量や投与スケジュールが異なり、今日ではFOLFIRIの方が効果が高いと考えられている。

リンク:アムジェンのプレスリリース

一方、Rienso(ferumoxytol、米名Feraheme)の対象患者拡大申請を撤回したことが発表された。慢性腎疾患患者の鉄欠乏性貧血症の治療薬として欧米で承認されている静注用鉄製剤。今回は慢性腎疾患以外に対象を広げるべくライセンサーであるAMAG(Nasdaq:AMAG)が米国で、欧州などの権利を持つ武田が欧州で申請したが、市販後に致死的な過敏反応が報告されるようになったことから、FDAは承認しなかった。武田は既に権利返還を決めている。

リンク:CHMPのプレスリリース

【承認】


ノバルティスのHDAC阻害剤が逆転承認

(2015年2月23日発表)

FDAは、ノバルティスのFarydak(panobinostat)を多発骨髄腫用薬として加速承認したと発表した。昨年11月の諮問委員会では7人の委員のうち5人が承認に反対し、前途が危ぶまれたが、諮問委員会で討議された二次治療ではなく標準治療薬二剤を既に使ってしまった患者の三次治療薬として承認された。昨年12月に米国で承認されたサノフィのPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)と同じパターンだ。米国は承認申請の途中で申請内容を変更できるため、このような逆転が起こりうる。

Farydakはヒストン脱アセチル化酵素を阻害、遺伝子の構造が緩んで転写されやすい状態になるのを間接的に助ける。同様な作用機序を持つ薬が末梢Tセルリンパ腫などに承認されているが、多発骨髄腫では初めて。

Velcade(bortezomib)及びdexamethasoneと三剤併用した第三相二次治療試験でPFS(無進行生存期間)を延長する効果が認められたが、全生存期間は大差なかった。投与中に7%の患者が癌以外の理由で死亡したことが影響したのかもしれない(二剤だけを用いた対照群では3.5%)。有害事象による治験離脱や深刻な有害事象も増加した。

今回の承認は、Velcade及びRevlimid(lenalidomide)やThalomid(thalidomide)のような免疫調停薬による前治療を既に受けた患者のサブグループ分析に基づくもので、PFSは10.6ヶ月対5.8ヶ月、客観的反応率は59%対41%となっている。重度な下痢と重度で致死的な心毒性が枠付警告された。Farydakは日本でも承認審査中。

リンク:FDAのリリース

リンク:ノバルティスのプレスリリース

アクタビスのベータラクタマーゼ配合剤が米国で承認

(2015年2月25日発表)

FDAは、アクタビス(NYSE:ACT)のAvycaz(ceftazidime-avibactam)を複雑腹腔内感染症と複雑尿道感染症(腎盂腎炎を含む)の治療薬として承認した。他の治療オプションが限られている時に用いる。承認されている第三世代セファロスポリンであるceftazidime(和名モダシン)とベータラクタムとは異なった構造を持つベータラクタマーゼ阻害剤であるavibactamの合剤。

感染症治療薬の開発インセンティブであるQIDP指定を受けているため優先審査され、承認後は5年間の排他権を得る。北米日本はアクタビス、それ以外はアストラゼネカが権利を持っている。

リンク:FDAのリリース



サノフィのToujeoが米国で承認

(2015年2月26日発表)

FDAはサノフィの持効性インスリン、Toujeo(insulin glargine)を承認したと発表した。上述のようにLantusの高濃度版で、mL当り300単位と3倍を含有している。臨床試験では血糖管理効果がLantusと非劣性で、低血糖は少なかった。ところが、米国のレーベルにはLantusより低血糖リスクが小さいとは記されていない。米国市場における販促はレーベルに即して行わなければならないので、最大のセールスポイントを語ることができないことになる。

理由は明らかではないが、上記のCHMPのリリースによるとToujeoとLantusは生物学的に同等ではない由であり、Lantusからスイッチする場合は10~18%増やす必要がある。臨床試験でこのことが徹底されなかったのかもしれない。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

新規MAO-B阻害剤がEUで承認

(2015年2月26日発表)

Newron Pharmaceuticals(SIX:NWRN)とイタリアのZambon社は、Xadago(safinamide)が特発性パーキンソン病のアドオン薬としてEUで承認されたと発表した。中程度以上進行した患者でlevodopaベースの治療だけでは足りない場合に追加投与する。

テバ/ルンドベックのAzilect(rasagiline)と同様なMAO-B阻害剤で、levodopaの代謝を遅らせる。Azilectは単剤投与も承認されているが、Xadagoは併用だけ。Newronは06年にセラーノにライセンスアウトしたが第三相の成績が今一つであったため権利返還となった。追加試験を行いZambonと提携して欧米で承認申請したが、米国は書類の不備などが原因で受理されなかった。日本はMeiji Seikaファルマがライセンス。

リンク:Zambonのプレスリリース

アイリーア、EUでBRVOが承認

(2015年2月26日発表)

バイエルは、Eylea(aflibercept、和名アイリーア)をBRVO(網膜静脈分岐閉塞症)による黄斑浮腫の治療に用いることがEUで承認されたと発表した。これまでに、加齢性滲出型黄斑変性、糖尿病性黄斑浮腫、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)による黄斑浮腫に承認されている。

リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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