2014年11月2日

海外医薬ニュース2014年11月2日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国のエボラ症例の概要
  • エボラ流行三ヶ国の概要
  • BMS、オプジーボの肺癌データを公表
  • FDA諮問委員会、リクシアナの承認を支持したが...
  • B群髄膜炎菌ワクチンが米国で承認


【今週の話題】


米国のエボラ症例の概要

米国のエボラ感染者に関する報道を読んでいて印象的なのは、転帰がそれほど悪くないことと、実名報道の多さだ。断片的ではあるものの、個々の患者の治療法も報じられている。そこで、新聞報道を元に、症例概要を纏めてみた。

その過程で感じた重要な教訓は、エボラウイルス疾患は治療することができるということだ。米国では5名が現地で医療従事中に感染、うち10月に感染したばかりの患者2名以外は既に治癒して退院した。感染後に米国で発症したリベリア人は診断・治療が遅かったせいか死亡したが、この患者のケアを行った2名の看護師は無事退院できた。現地取材中に感染したフリーランスカメラマンも退院した。入院中の2名を除くと、死亡は7人中1人、1割だけである。

三ヶ国での死亡率と比べて低いのは何故か?異なった国の医療を比較するのは困難であり、専門家にとっても難問のようだが、治癒例と死亡したリベリア人には幾つかの大きな違いがある。第一は、生存患者は深刻な伝染病の治療に習熟した医療施設で治療を受けたこと。第二は、患者自身が医師や看護師で感染症に対処する知識を持っていた、または、現地取材に際して十分なブリーフィングを受けていたと考えられること。だから、多少の紆余曲折はあったにせよ、早い段階で自己申告して治療を受けることができた。

治療法としては、下痢や嘔吐による脱水が激しい模様なので、水分補給や不足した電解質を補給する支持療法が有効である模様だ。効果のほどはまだはっきりしないが、多くの患者が回復期血漿や開発中の抗ウイルス剤を用いており、アベイラビリティの問題はあるものの、現時点での標準療法になりつつあるように感じられる。

次項で紹介するように、流行三ヶ国は貧しく、医師や医療施設が足りず、一方、患者数ははるかに多い。米国とは話が全く違うのだが、日本にとっては流行防御策も含めて米国のほうが参考になるのではないだろうか。私が提案したいのは、エボラは治療できることを広く知らしめることだ。

日本がエボラの拡散を防ぐ上で重要なのは、流行三ヶ国から来た人が発熱した場合に、速やかに自己申告することだ。ところが、最近は自己申告を妨げるような出来事が増えている。例えば、NY州は三ヶ国から来た人を強制隔離する措置を打ち出した。オーストラリアやカナダのように、三ヶ国からの渡航を拒否する国も出てきた。これだけ忌み嫌われたら、米国人でも流行国に滞在したことを隠そうとするかもしれないし、最初に嘘をつくと、発熱しても直ぐには病院に行き難くなるだろう。

エボラ患者として治療を受けるとマスコミが殺到して患者の状況をスクープしようとする。病気に関する情報は機微情報だがジャーナリストは気にしない。プライバシーをズタズタにされるリスクも自己申告を躊躇する理由になりうる。ここで明記したいのは、米国でも匿名のままの患者がいることだ。日本のジャーナリストは、エボラならプライバシーを破っても許されると誤解してはならない。新型インフルエンザの初症例のように、未成年者を追い掛け回すのは人間として最低、ジャーナリストとしても標的を間違えている。

一般的な認識は、エボラは死亡率が高く治療法はない。それなら隔離されて寂しく死ぬよりも残された時間を有効に使う方を選ぶかもしれない。だが、治る可能性が高いなら話が違う。早期治療が重要であることを知っていれば直ぐに自己申告するだろう。エボラは治療できる。早期治療が重要。今日ではSNSのような民間主導の情報伝達手段もあるのだから、この二つのメッセージを広く伝えることが重要だ。

米国のエボラ症例

Kent Brantly:リベリアでSamaritan's Purseの一員としてエボラ治療に携わり7月に感染、ZMappを使用、8月に帰国してアトランタのEmory University Hospital(以下、エモリー病院)で治療、発症から4週間後に退院。回復期血漿(感染から回復した患者の血清:ウイルスに対する抗体が含まれている可能性が高い)による治療を受け、自身も回復後に血漿を血液型の合う患者に提供。

Nancy Writebol:リベリアでServing in Missionの一員としてエボラ患者のケアに携わり7月に感染、ZMappを使用、8月に帰国してエモリー病院で治療、その後退院。回復期血漿を他の患者に提供。

Rick Sacra:リベリアでServing in Missionの一員として産婦人科医療に従事中に感染、9月に帰国してオマハのNebraska Medical Center(以下、ネブラスカMC)で治療、帰国の21日後に退院。Brantlyの回復期血漿とTekmira(Nasdaq:TKMR)のTKM-Ebolaを使用。

匿名患者:シエラレオネでWHOの下で勤務中の10月に感染、帰国してネブラスカMCで治療。英国人Will Pooleyの回復後血漿を使用した模様。

Craig Spencer:Doctors Without Borders(国境なき医師団)の一員としてギニアでエボラ治療に携わり、帰国の7日後に発症、ニューヨークのBellevue Hospital Centerに入院。Writebolの回復期血漿とChimerix(Nasdaq:CMRX)のCMX001(brincidofovir)を使用。発症前にあちこち出掛けたため、NY州が規制強化する契機となった。

Thomas Duncan:リベリア人。訪米の4日後に発症、翌日にTexas Health Presbyterian Hospital(以下、THP病院)の救急科に行ったが抗生剤を貰って帰宅、その3日後に救急車で搬送され、入院。激しい嘔吐や下痢が見られた。発症の2週間後に当たる10月8日に死亡。brincidofovirを使用したが発症の10日後で既に呼吸不全、臓器不全の状態だった模様。

リベリア出国時には発熱もエボラ患者接触歴もないと回答したため、リベリア大統領が帰国したら処罰すると非難。THP病院は当初、最初の来院時にリベリア渡航者であることを見落としたのは電子カルテシステムのせいと発表したが、後に訂正。

Nina Pham:THP病院でDuncanのケアを行った後、Duncan死亡の2日後に発症、翌日に陽性判定、その翌日の検査でも陽性となり診断確定、その4日後にNIHクリニカルセンターに転院、発症の2週間後、転院の8日後に当たる10月24日に退院。Brantlyの回復期血漿を使用。二次感染が発生したためプロトコルや器具、CDC(疾病管理予防センター)の対応に関する議論を呼んだ。

Amber Vision:THP病院でDuncanのケアを行った後、Duncan死亡の6日後に発症、翌日に陽性判定、エモリー病院に入院、発症の2週間後に退院。当初、彼女が発熱にもかかわらずクリーブランド発ダラス行きの飛行機に乗ったのは無分別という批判があったが、実際には搭乗前にCDCに相談、熱が基準より低かったため容認された経緯が判明、一転してCDCが批判を受けることになった。日本でエボラを疑われた患者が37度台に過ぎなかったのに一時隔離されたのは、この前例を参考にしたのではないか。

Ashoka Mukpo:フリーランスカメラマン。NBCの取材チームの一員としてリベリアで取材中に感染、帰国してネブラスカMCで治療、発症の19日後に退院。Brantlyの回復期血漿とbrincidofovirを使用。

それ以外の欧米等の症例

Patrick Sawyer:リベリアから米国に帰化。リベリアからナイジェリアに出張した7月20日に発症、5日後に死亡。治療に当たった医療従事者数人が二次感染で死亡。ナイジェリア政府がエボラを持ち込んだと非難。

Manuel Viejo:聖職者。シエラレオネでボランティア活動中に感染、スペイン帰国の4日後に当たる9月25日に死亡。69歳。

Miguel Pajares:聖職者。リベリアでボランティア活動中に感染、スペイン帰国の6日後に当たる8月12日に死亡。ZMappを使用。75歳。

Teresa Romero:アフリカ以外での最初の感染者。マドリッドのCarlos III HospitalでViejoとPajaresの看護を行なう。10月6日に陽性判定が出て隔離、10月19日にウイルス消失。カトリック尼僧の回復期血漿と抗ウイルス剤(病院側は公表していないが富山化学のfavipiravir(和名アビガン)と報じられている)を使用。ZMappの類似品であるZMabの提供をオファーされたが、医師が副作用を懸念して使わなかったと報じられている。

Will Pooley:英国人で初の感染者となった男性看護師。シエラレオネで看護従事中の8月24日に発症。死亡した感染者の子供(後に発症して死亡)と遊んでいて感染した可能性。8月25日に英国に搬送されRoyal Free Hospitalに入院、直ぐにZMappを長時間連続投与したところ軽快、入院の9日後に退院。嘔吐や出血症状は無かった模様。

匿名フランス人患者:国境なき医師団の一員としてリベリアで医療に従事中に感染、9月18日に帰国し軍の病院で治療、16日後に退院。favipiravirを使用。

ドイツ症例:ドイツは自国民以外の受け入れを表明した唯一の国である由。セネガル、ウルグアイ、スーダンの疫学者、医師、国連職員の3名が搬送され、一人は退院、一人死亡。

エボラ流行三ヶ国の概要

米国は一日に27.5万人が飛行機で来訪するが、そのうちギニア、リベリア、シエラレオネの三ヶ国は150人以下とのことだ。旅行者経由で持ち込まれる可能性は低く、一番気を付けなければならないのは現地で医療に携わる人たちの帰国後と考えていたが、上記のように、懸念された通りの結果になっている。

私たちにはあまり縁のない国だが、HIV/AIDSのような、アフリカの貧しい国で育ったウイルスが世界に拡散する事態を防ぐためには、これらの国の医療や経済を支援することが重要だ。情けは人の為ならず、向こうの国が援助頼みになり自立心を失わせる結果になるかもしれないが、私たち自身にとって必要なのである。

そういう私自身、最初はリベリアとリビアを混同していたくらいで知識がない。そこで、以下、外務省やCIAの資料を纏めてみた。

三ヶ国とも元植民地で、ギニアは1958年にフランスから独立。リベリアは1947年に米国から、シエラレオネは1961年に英国から独立したが、元々は解放された奴隷の移住地として開発された地域とのことだ。人種差別を止めて奴隷を故郷に帰すのは極めて人道的な行為だが、50~170年経っても国は貧しいままである。民族間宗教間の対立による内乱、戦争、政治不信、伝染病。エボラは国民の不幸の一つにしか過ぎない。

表にするとレイアウトが崩れる可能性があるため、以下、ギニア、リベリア、シエラレオネの順にデータを列挙する。カッコ内は日本。

人口:1170万人、430万人、610万人 (12710万人)

メジアン年齢:18歳、18歳、19歳 (46歳)

一人当たりGDP(PPP):1100ドル、700ドル、1400ドル (37100ドル)

医師数(人口千人当たり):0.1人、0.01人、0.02人 (2.14人)

病床数(同):0.3、0.8、0.4、13.7

HIV/AIDS罹患率(成人):1.7%、0.9%、1.5%、0.1%未満

進出日本企業数:なし、1社、なし

在留邦人:30人、7人、19人

在日当該国人:314人、34人、50人

サハラアフリカでは珍しくないことだが、メジアン年齢の低さには愕然とする。壮年・高齢者はどこに行ったのか?伝染病か、戦乱か、貧困か?ギニアはボーキサイト、リベリアやシエラレオネはダイアモンドが主要産品となっている。国民を豊かにする方法はあるのではないかと思われるが、何とかならないのだろうか。

【新薬開発】


BMS、オプジーボの肺癌データを公表

(2014年10月30日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発している抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第二相肺癌試験のトップラインデータを、学会(Chicago Multidisciplinary Symposium in Thoracic Oncology)とプレスリリースで公表した。良好な内容であり、細部に悪魔が潜んでいなければ、来年にも米国で承認されるだろう。

Tセルは活性化刺激や抑制的刺激を受け止める表面分子を持っている。PD-1は活性化したTセルが発現する抑制的刺激受容体。癌細胞はレガンド(PD-L1)を発現してTセルを鎮静化させてしまうので、抗体医薬を結合させてブロックしてしまうアイディアが抗PD-1抗体だ。9月にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が米国で末期黒色腫のサルベージ療法として承認された。Opdivoも同じ用途で欧米で承認申請され、米国は3月までに審査結果が出る見込み。

今回の肺癌は、3月にローリング承認申請を開始。おそらく今回のデータを提出して承認申請完了、間に合えば第三相試験のデータを追加提出ということになりそうだ。MSDも肺癌でブレークスルーセラピー指定を取得したばかりだが、肺癌に関してはBMSの方が先行しているので重要な適応症になる。

このCheckMate-063試験は、扁平上皮非小細胞性肺癌で白金薬を含む二次治療以上の治療歴を持つ患者117人を組入れた単群試験。用量は悪性黒色腫と同じで、3mg/kgを二週間に一回、静注点滴した。単群試験なので主評価項目はORR(客観的反応率)。RECIST 1.1版を用いて評価し、独立放射線学的委員会が担当医の評価を検証した。

結果は、ORR15%、95%信頼区間8.7~22.2、反応持続期間のメジアンは未達(全患者を11ヶ月以上追跡)。肺癌の試験としては良好な結果である。IL-2やインターフェロンのような免疫強化療法薬は反応率が低くても反応した患者は効果が持続する傾向がある。今回の試験でも、1年生存率が41%と、扁平上皮非小細胞性肺癌三次治療の文献データである5~18%と比べて良好だった。但し、生存期間は患者背景に左右されるので、無作為化割付対照試験のデータほどは信頼できない。

抗PD-1抗体はPD-L1発現状況が反応予測因子になりうるが、この試験では相関性が見られなかった模様だ。陽性/陰性の閾値を変えても相関しないのかどうかは不明。

抗PD-1抗体は免疫刺激による副反応など多くの副作用を持つ。この試験ではG3/4の薬物関連有害事象が17%の患者で発生した。内容は疲労、肺炎、下痢など。薬物関連死亡は2例。元々色々な症状があるOpdivoに反応しなかった患者である由だが、精査が必要だろう。免疫刺激による副作用は奏功例ほど多いかもしれないが、もし反応率が低く副作用の多いサブグループが発見出来たら患者にはメリットがある。上記のPD-L1も含めて、承認後も検討が必要だろう。

非小細胞性肺癌の第三相試験は、扁平上皮腫とそれ以外を夫々に対象とした二次治療docetaxel対照試験が進行中。どちらも主評価項目は全生存期間で、二次的評価項目としてPD-L1発現とORR、PFS(無進行生存期間)、全生存期間との関連性も検討する。扁平上皮腫の方は米国承認前に成否が判明するだろうから、承認内容にも影響しそうだ。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、リクシアナの承認を支持したが...

(2014年10月31日発表)

FDAは10月30日に心血管腎臓薬諮問委員会を招集し、第一三共が承認申請したSavaysa(edoxaban、和名リクシアナ)の適応症の一つである非弁性心房細動(NVAF)のデータについて検討させた。10人中9人の委員が承認に賛成したが、対象が腎機能低下患者に限定される可能性がありそうだ。

Savaysaは過去6年間に続々と登場した経口抗凝固薬の一つ。これまでにベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)、BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)が承認されている。ファースト・イン・クラスの薬は承認のハードルが低いが、2番目、3番目と進むにつれて上がっていく。症例が積み重なるにつれ欠点も表面化するからだ。

Savaysaは日本では11年に下肢整形外科手術時の静脈血栓塞栓(VTE)予防で初承認、14年にNVAFの脳卒中予防と症候性VTE治療に適応拡大したが、欧米では今年1月にNVAF、症候性VTE治療、VTE再発予防(長期治療)の三用途で承認申請された。今回の諮問はNVAFだけで、委員会を招集したのは、承認審査に関わる部署の間の意見対立が背景であった模様。

事の発端は、第三相ENGAGE AF-TIMI 48試験のサブグループ分析で、腎機能が正常な患者に関する効能が明確でなかったこと。試験全体では60mg群の脳卒中リスクがワーファリン群と比べて非劣性、二次的評価項目の優越性解析では有意水準には届かなかったが優れるトレンドが見られた。しかし、腎機能が正常な患者(全体の1/3を占める)だけの解析ではハザードレシオ1.41と点推定値上はリスクが高く、95%信頼区間は0.97~2.05とリスクが倍以上である可能性が否定されなかった。

ワーファリンは脳卒中のリスクを6割削減する。Savaysaのリスクがもしワーファリンの2倍だとしたら、殆ど効果がないことになる。この種のサブグループ分析は慎重に考える必要があり、また、症例数が少ないので信頼区間は広くなる。しかし、こういう場合の鉄則は、薬にとって都合の良いことは懐疑的に受け止め、薬効不足や副作用のような不都合な事実は真剣に受け止めることだ。既に三種類の薬が存在し、独自の長所を持っているわけでもないので尚更である。

このデータは偶然かもしれないが、薬物動態的に説明できないでもない。edoxabanは半分が尿から、半分は糞便から排泄されるので、腎機能低下患者では血中濃度が上昇する。このため、CrCLが15~50mL/分の中度腎障害患者は量を半減する用法が採用された(体重60kg以下や薬物相互作用のある薬を服用する患者も半減する)。50~80mL/分の軽度腎障害患者は用量調整不要だが、薬物動態試験では、80mL/分以上の腎機能正常患者よりも暴露が1.4倍大きかった。

このことは、60mgは軽度腎障害患者には適切だが、正常腎患者には足りないことを示唆している。FDAの統計学的評価を行う部門がモデル分析に基づき正常腎には75~90mgを承認すべきと主張、意見対立が発生した。第三相試験でテストされた用量より多い量を承認するのは珍しいが、プラザクサの市販製剤は第三相試験で用いられた製剤より最大10%暴露が大きい由で、前例がない訳ではない。しかし、プラザクサはこの程度なら差が無いという判断、Savaysaは臨床的な差があることを前提とした議論なので、同一視すべきではないだろう。

FDAは承認すること自体には異論はないようだ。諮問委員も10人中9人が賛成した。問題は、第一に、対象を軽中度腎機能障害を持つ患者に限定すべきかどうか。第二に、正常腎も適応にする場合は用量を60mgより増やすべきかだ。

正常腎には薬効不足というサブグループ分析を偶然と判定したのは5人、リアル(現実)と考えたのは5人と、意見が分かれた。軽中度患者限定を支持したのは2人。正常腎に用量を増やすことに賛成したのは二人だけで、そのうち一人は、増やさないのだったら正常腎を適応とすることに反対と表明した。

FDA諮問委員会は、EUのCHMPと異なり、承認の是非を決める権限は持たない。諮問されたことについてだけ検討し意見を述べるだけだ。採決結果はあくまで参考に過ぎず、FDAは、採決結果に従うことも、その後のメーカー側との検討などに基づいて異なった判定を行うこともある。賛成率90%は良い数値だが、元々の重点議題である正常腎への対応に関しては反対意見も多かったので、最終的に、腎機能低下だけに承認される可能性が残っているだろう。

対象患者数が3~4割減少することになるが、おそらく、それ以上の影響があるだろう。医師にしてみれば様々な薬が存在する中で一部の患者にしか使えない薬をわざわざ選択する理由がない。そもそも、治療中に腎障害が中度に進行したり体重が60kg以下になったら用量を半減するというSavaysaの用法は面倒だ。患者にベストな医療を提供する上では重要な用法であり、もしかしたら他の薬も同じ用法を採用すべきなのかもしれないが、一般のパーセプションは、薬物動態が特殊だから格別の手間が必要と受け止めるのではないか。

FDAは、腎機能低下だけに承認する場合の選択肢として、誤って正常腎に用いないよう処方流通管理策を導入することを示唆している。実現した場合、医師の面倒がまた一つ増えることになる。

正常腎にも承認されたとしても4番目の薬なので市場性は大きくないが、軽中度腎機能低下だけに承認された場合は競争条件が大きく悪化するだろう。

リンク:第一三共のプレスリリース(和文)

【承認】


B群髄膜炎菌ワクチンが米国で承認

(2014年10月29日発表)

FDAは、初のB群髄膜炎菌ワクチンであるTrumenbaを承認したと発表した。ファイザーの開発品で、審査期限より3ヶ月早いスピード承認だ。髄膜炎菌は肺炎球菌と同様に髄膜炎を起こす。A、C、W、Y群のワクチンが普及し感染者が減少したが、近年はB群感染症例が増加、米国でも2012年は4割を占めるようになった。欧州では13年にノバルティスのBexseroが承認されたが、米国は遅れ、結局ファイザーの開発品が先に承認された。

B群は種類が多く、BexseroもTrumenbaも万能ではないが、後者の場合、米国に多い4種類の株に対する抗体が82%の患者で誘導できた。10~25歳の人が半年間に三回接種する。将来的には他の髄膜炎菌ワクチンなどとの複合ワクチンが開発されるのではないか。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ファイザーのプレスリリース

今週は以上です。

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