2014年11月23日

海外医薬ニュース2014年11月23日号



(!! 来週は都合により休刊とさせていただきます。 !!!

【ニュース・ヘッドライン】




  • 優先審査バウチャーの市場価格は100億円以上
  • 抗PD-1抗体の延命効果が明確に
  • AHA:ゼチーアが穏やかな心血管疾患予防効果
  • AHA:DATは1年でも3年でも同じ
  • AHA:アスピリンの初発予防試験は日本もフェール
  • CHMPが8新薬の承認を支持
  • HarvoniがEUでも承認


【今週の話題】


優先審査バウチャーの市場価格は100億円以上

(2014年11月19日発表)

米国は採算の取れにくい病気の新薬開発を促進するために様々な制度を導入しているが、その一つが優先審査バウチャーだ。顧みられない熱帯病や小児の希少疾患に用いる薬の承認を取得すると交付され、別の薬を承認申請する時に優先審査を求めることができる。通常の審査期間は承認申請受理から10ヶ月間だが6ヶ月に短縮できれば開発競争の激しい分野では価値がある。自分で使っても良いし、第三者に譲渡することもできる。

では、どれくらいの価値があるのか?最初に表面化したのはバイオマリンのディールだ。モルキオA症候群治療薬Vimizim(elosulfase alfa)で獲得した希少小児疾患優先審査バウチャーをリジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィに6750万ドルで売却した。

両社は共同開発している抗PCSK9完全ヒト化抗体、alirocumabの承認申請に用いる予定だ。アムジェンが類薬を先に承認申請しており、差を縮めるための切り札にする。一方のバイオマリンは希少疾患治療薬の開発に特化しており、バウチャーが無くても優先審査されるだろうから、売却したのは自然の成り行きである。

今回、二つ目のディールが表面化した。ナイト・セラピュティクス(TSX:GUD)がリーシュマニア症治療薬Impavido(miltefosine)の承認で獲得した熱帯病優先審査バウチャーをギリアド(Nasdaq:GILD)に1.25億ドルで売却したのだ。ギリアドは使途を明らかにしていない。

新薬の開発コストは数億ドルとも十数億ドルとも言われるが、熱帯病や希少疾患領域は様々な公的・民間支援が得られるのでもっと少ないだろう。1億ドルは大きく、難病対策として有効な手法だ。

リンク:ナイト社のプレスリリース

【新薬開発】


抗PD-1抗体の延命効果が明確に

(2014年11月16日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発している抗PD-1ヒト化抗体、Opdivo(nivolumab)の治験論文がNew England Journal of Medicine誌のウェブサイトで先行公開されたと発表した。

BRAF変異型ではない末期黒色腫の一次治療薬としての延命効果をdacarbazineと比較した第三相試験で、今年6月に中間解析で主目的を達成したことが公表された。ハザードレシオ0.42、99.79%信頼区間0.25~0.73、p値は0.001を下回った。メジアン生存期間はOpdivoは未達、dacarbazine群は10.8ヶ月、1年生存率は各73%と42%だった。忍容性は対照薬より良好で、有害事象による治験離脱の発生率は6.8%対11.7%、G3/4有害事象は11.7%対17.6%だった。

米国ではBMSのYervoy(ipilimumab)が二次治療限定なしで承認されたため、別途、Yervoyと比較・併用する第三相試験が進行中。併用は忍容性が課題であるように感じられるので、単剤同士の比較が注目される。

抗PD-1療法は過去の免疫強化療法と異なり、反応率が比較的高く、多くの患者に延命効果をもたらす。今回のデータはこの期待を裏切らないものだった。応答性とPD-L1発現状況の関連性が注目されているが、今回の試験では陽性にも陰性にも有効であった模様だ。

電子刊行は学会発表に合わせたものだが、BMS/小野薬品と熾烈な開発競争を行っているMSDもKeytruda(pembrolizumab)の延命効果に関連する学会発表・プレスリリースを出した。Yervoyに反応しなかった患者を組入れた540人規模の大規模な第二相試験で、承認されている用量(2mg/kgを3週間に一回)と高用量(10mg/kg、3週間に一回)の延命効果とPFS(無進行生存期間)を医師の選んだ化学療法と比較したもの。

PFS(盲検による独立中央評価)のハザードレシオは承認用量が0.57、高用量0.50、何れもpは0.0001を下回り、用量間の差は有意ではなかった。もう一つの主評価項目である全生存期間のデータは未だのようだ。

抗PD-1療法は様々な癌に有効である可能性がある。化学療法を受けると免疫力が低下する可能性があるのでその前に一次治療で用いるほうが好ましいかもしれないが、そうなると、様々な一次治療薬との併用試験を行う必要があり、開発費が嵩む。先週もドイツのメルクとファイザーが抗PD-1/PD-L1療法領域で提携したが、このような提携戦略は活発に行われるだろう。、

リンク:
OpdivoのNEJM論文(オープンアクセス)


リンク:MSDのリリース(11/16付)

AHA:ゼチーアが穏やかな心血管疾患予防効果

(2014年11月17日発表)

MSDはezetimibeの心血管疾患予防効果を検討したIMPROVE-IT試験が成功したことを正式に発表した。AHA科学部会での発表に合わせたもの。LDL-C治療薬の心血管疾患抑制作用はLDL-C低下率と相関すると考えられているが、この試験でも概ね整合的な結果、即ち、穏やかなLDL-C低下作用に見合った穏やかな予防効果が示された。

この試験は急性冠症候群を発症して10日以内の患者を組入れて、同社のsimvastatin(40mg)とVytorin(simvastatinとezetimibeの合剤、前者は40mgを使用)の効果を比較した二重盲検試験。各群のLDL-C値は1年後に69.9mg/dLと53.2mg/dLに低下しており、70mg/dL以下に引き下げる強化治療の有効性を検討した試験の一つと考えることもできる。

当初の解析計画では1万人を2年間追跡してリスクを9.375%削減する効果を検出する予定だったが、途中で目標症例数と追跡期間が拡大され、結局、1.8万人をメジアン6年間追跡した。このため、開票が3~4年遅れることになった。ezetimibeと言えばENHANCE試験の結果が中々公表されずデータ隠しの疑いが浮上したことがあり、色々な意味で注目されていた。

結果は、ハザードレシオ0.936、p=0.016で高度ではないが有意な再発予防効果が示された。各群の発生率は7年時点のカプラン・マイヤー推定で34.7%と32.7%だった。死亡リスク削減効果は見られなかった。もう一つ重要な注目点であった癌の発生率は各群10%で大差なかった。

NNTは50となるが、年率だと350、つまり、350人に1年間投与すると一人を心筋梗塞・脳卒中・心血管死から救うことができる。Vytorinの価格を年2500ドルとすると一人を救うコストは87万ドル、約1億円。日本では承認されていないのでゼチーア(ezetimibe)の価格を使うと3000万円。医療予算は無限ではないので、この費用対効果を他の治療法や他の病気の治療コストと比べた上で適否を判断することになる。尤も、この試験では4割以上の患者が途中で服用を止めたので、実際の費用はもっと小さいかもしれないが。

ezetimibeは忍容性がスタチンより高く、スタチン不耐患者には重要な選択肢だ。しかし、この試験の対象であるスタチン耐用患者に関しては、simvastatinより効果の高いスタチンを使うという選択肢もありそうだ。尚、この試験は心筋梗塞リスクが高い既往患者が対象であり、未発患者にも強化療法が有益とは限らない。常識的に考えればNNTが更に低下するだろうから、否定的に考えた方が良さそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

AHA:DATは1年でも3年でも同じ

(2014年11月16日発表)

冠動脈介入術でDES(薬物溶出ステント)を留置した後のDual Antiplatelet Therapy(DAT:アスピリンとチエノピリジンの併用)は、12ヶ月間と30ヶ月間のどちらが至適か?FDAの問題提起に医学者とステントメーカー、製薬会社が呼応して実施したDAT試験の結果がAHAで発表され、New England Journal of Medicine誌に論文先行公開された。NEJMのウェブサイトによるとこの論文のアクセスは4万件以上、ランキング二位となっており、いかに注目されていたかが分かる。

結果は常識的なものであった。ステント血栓の発生率は30ヶ月群が0.4%、12ヶ月で止めた群が1.4%、ハザードレシオ0.29、pは0.001未満。もう一つの主評価項目である主要心血管脳血管有害イベントは各4.3%、5.9%、0.71、0.001未満。一方で、中重度出血の発生率は2.5%対1.6%、p=0.001。効果もあるがリスクもあることが確認された。心血管疾患死は各群大差なかった。

結局、心筋梗塞などのリスクが高くDATに耐容する患者はDATを長く続け、それほど高くない、あるいはDATに不耐/出血リスク因子を持つ患者は早めにアスピリンのみにする、と使い分けるのが至適ということになりそうだ。

この試験のデザイン上の制約は、第一に、12ヶ月間のDATを終えた患者を組入れたこと。DES留置後1年以内に血行再建術などを受けた患者は除外されたので、本当に高リスクな患者は対象外だったことになる。また、DESはCypherが47%、チエノピリジンはPlavix(clopidogrel)が65%、適応症は安定狭心症が37%を占めたが、他のDESやEfient(prasugrel)、心筋梗塞患者なども含まれているので、分かり難いところがある。

DAT試験は複数の試験を同一のデザインで実施し結果を統合したものだが、その一つであるTaxus LiberteとEfientの試験結果もAHAで発表された。効果はDAT試験全体と同様だったが出血リスクは高まらなかった。Efientなら効果も出血リスクも高まりそうなものだが、今後、他のサブスタディの結果が公表されれば、全体像が見えてくるだろう。

大規模アウトカム試験は重要なエビデンスだが、難しいのは、大規模長期試験を行っているうちに世の中が変わってしまうリスクがあることだ。NEJMのエディトリアルや医療メディア報道を読むと反応は結構冷淡。今日では3~6ヶ月で止めるのが一般的になりつつあるので、この手法と30ヶ月を比較すべきだったというのだ。また、DESも日進月歩なので、いつまで経ってもエビデンスが追い付けない状態になっている。

リンク:DAT試験論文(NEJM、オープンアクセス)

さて、この試験では大きな問題が浮上した。死亡率が2.0%対1.5%、ハザードレシオ1.36、p=0.05と高かったのだ。実数は98例対74例で24例の差。上記のように心血管疾患によるものは同程度だったが、癌による死亡が31例対14例、p=0.02、出血による死亡が11例対3例、p=0.06と増加し、この二つで差を説明できる。

癌死が多かったのは治験開始時点で既に癌だった患者の数に偏りがあったことが原因かもしれない。研究者らが行ったチエノピリジンの試験のメタアナリシスでは有意な差は無かった。しかし、Plavixの日本試験で癌の発生が、Efientの海外試験では癌の死亡が偽薬群より多かったことがあり、3年間追跡した大規模な試験は今回が初めてなので、軽々には結論を出せないだろう。FDAはこのデータを検討する旨、発表した。

リンク:FDAのリリース

AHA:アスピリンの初発予防試験は日本もフェール

(2014年11月17日発表)

JPPP試験の結果がAHAとJAMA誌で発表された。アスピリンの心筋梗塞初発予防効果を検討したもので、海外の試験と同様にフェールした。結果は残念だが、こういうキチンとした試験を行った経験は今後の臨床研究に役立つだろう。

JPPP試験は高血圧などのリスク因子を持つ60~85歳の患者14000人以上を組入れてアスピリン(100mg)の心血管疾患予防効果を検討したもの。急速に高齢化が進む日本にとって重要な試験だ。1007施設のプライマリーケア医が参加した。二重盲検ではないが、いわゆるソフトなエンドポイントは採用されず、担当医の評価を第三者が査読したので主観性・恣意性は高くない。この試験のもう一つの長所は、女性が過半を占めたこと。

結果は、中間解析で無益性が認定され、メジアン5年間の追跡で繰上完了した。心筋梗塞・卒中・心血管疾患死の発生率はアスピリン群が2.77%、対照群が2.96%、ハザードレシオは0.94で95%信頼区間は1を跨ぎ、p=0.54だった。非致死的な心筋梗塞のリスクは47%削減、有意だったが、輸血や入院を必要とする頭蓋外出血が1.8倍に増加、こちらも有意だった。結局、効果はあるがリスクも大きいことになる。

リンク:JAMA論文(オープンアクセス)

【承認審査・委員会】


CHMPが8新薬の承認を支持

(2014年11月21日発表)

EUの承認審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議で以下の8新薬に関して肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:EMAのプレスリリース

サノフィの子会社であるジェンザイムが開発したCerdelga(eliglustat tartrate)はI型ゴーシェ病の治療薬。グルコシルセラミド合成酵素阻害剤で、酵素補充療法とは異なり一日二回の経口投与で治療することができる。CYP2D6の機能が著しく高いultra-rapid metabolizersは適応外。EUのゴーシェ病患者は15000人と推測されている。米国では8月に承認された。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

アッヴィは二種類の慢性C型肝炎治療薬が支持された。一つはViekirax(paritaprevir、ritonavir、ombitasvir)で、NS5A複製複合体阻害剤と3A4阻害剤、そしてNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤の合剤。一日一回、経口投与する。ritonavir以外は新規活性成分。もう一つはNS5Bポリメラーゼ阻害剤Exviera(dasabuvir)で、一日二回経口投与。

遺伝子型1型と4型が適応になる模様だ。臨床試験はこの二剤だけあるいはribavirinと三剤併用で実施された。インターフェロンを必要としない経口剤だけの治療が可能。ギリアドのHarvoni(sofosbuvirとledipasvirの合剤)は一日一回一錠なので、利便性はやや見劣りする。

リンク:アッヴィのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib)は、9月に腺腫非小細胞性肺癌の二次治療薬として肯定的評価を受けたが、今度は特発性肺線維症用薬としての承認が支持された。VEGF受容体など、肺線維芽細胞の増殖に関わる受容体のキナーゼを阻害する。米国では10月に承認された。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

ノバルティスの抗IL-17A完全ヒト化抗体Cosentyx(secukinumab)は中重度乾癬の治療に用いる。既存薬不応だけでなく一次治療も可。300mg皮注。FDAの諮問委員会用資料によると、最初は週一回、5回目からは4週間に一回投与する用法のようだ。米国では10月の諮問委員会に上程され、全員の支持を得た。抗IL-17A抗体はTNF阻害剤と同様に様々な疾患に有効である模様で、Cosentyxは乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第三相試験も成功した。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:同(乾癬性関節炎試験の結果、11/16付)

リンク:同(強直性脊椎炎試験の結果、11/15付)

セルジーン(Nasdaq:CELG)のPDE-4阻害剤、Otezla(apremilast)は中重度の乾癬や乾癬性関節炎で紫外線療法や標準的な経口剤に十分に反応しない患者の二次治療に用いる。一日二回、経口投与する。米国では今年3月に乾癬性関節炎で、9月に乾癬でも、承認。

リンク:セルジーンのプレスリリース

塩野義製薬のSenshio(ospemifene、米国名Osphena)は閉経後の膣萎縮症でエストロゲンの局所性製剤が不適な患者に用いる、選択的エストロゲン受容体調節剤。QuatRx Pharmaceuticalsから北欧以外の権利をライセンスしたもの。

MSDのZontivity(vorapaxar)は心筋梗塞の再発予防に用いる。アスピリンと、適応になる場合はPlavixも併用する。米国では5月に承認された。PAR-1阻害剤で、トロンビンが血小板のPAR受容体に結合して活性を高めるのを阻害する。尚、Zontivityと前述のezetimibe、Keytrudaの三剤は何れもシェリング・プラウを買収して入手したものだ。

この他に、09年に承認されたLaboratoire HRA Pharmaの緊急避妊薬、ellaOne(ulipristal acetate)を処方箋の要らない店頭薬として販売することも支持された。レイプの被害者などが容易に入手できるようにする。既にlevonorgestrel配合剤が店頭薬として販売されているが、72時間以内の服用が必要。ellaOneは120時間以内。

リンク:EMAのプレスリリース

多くの新薬が承認された一方で、テバはEgranli(balugrastim)の承認申請を商業上の理由で撤回した。アムジェンのNeulasta(pegfilgrastim、和名ジーラスタ)とシミラーな持続性G-CSF製剤。CHMPは9月に承認を支持したが、米国は昨年、申請撤回された。テバはratiopharm買収で入手したLonquex(lipegfilgrastim)を13年にドイツなどで発売しており、拘る必要がなかったのだろう。

リンク:EMAのEgranilに関する質疑集

【承認】


HarvoniがEUでも承認

(2014年11月18日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、HarvoniがEUで遺伝子型1型と4型の慢性C型肝炎の治療薬として承認されたと発表した。NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirとNS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirの合剤で、後者は1月にSovaldi名で承認されている。一日一回、一錠を服用するだけで治療できるので簡便。治療期間は遺伝子型や治療歴や肝硬変の合併状況などに応じて8週コース、12週コース、24週コースの中から選択する。

リンク:ギリアドのプレスリリース

Harvoniは米国で12週間分の価格が9.5万ドルと大変高価な薬だが、案の定、欧州ではもう少し安くなるようだ。報道によるとフランスはSovaldiを26%引きの4.1万ユーロ、5.1万ドルで調達することでギリアドと合意した。米国でも大口割引はあるのだろうが、フランスの患者は20万人なので超大口割引を獲得。患者負担ゼロで提供する由だ。Harvoniも4.8万ユーロ、6万ドルで調達することで暫定合意した模様。

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿