2014年11月16日

海外医薬ニュース2014年11月16日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • AHA2014の見どころ
  • エボラの臨床試験が12月に開始
  • デンドレオンが民事再生手続きを申請
  • アムジェンの抗IL-17A受容体抗体も第三相が成功
  • サノフィのLemtradaが米国でも承認
  • アバスチン、米でも卵巣癌承認


【今週の話題】



AHA2014の見どころ

本日11月16日からAHA米国心臓協会のサイエンティフィック・セッションが始まる。今年の注目は抗血小板薬とエゼチミブのアウトカム試験、そして新規のLDL-C治療薬である抗PCSK9抗体の第三相試験データだ。

日曜日のLate-Breaking Clinical Trialsでは、PCI(経皮的冠介入術)後のADP受容体拮抗剤の至適投与期間を検討した複数の試験の結果が発表される予定。

DES(薬物溶出ステント)は薬物を溶出しないステントよりも血栓リスクに長く晒されることが判明したため、Plavix(clopidogrel、和名プラビックス)のようなADP受容体拮抗剤をアスピリンと併用するDual Anti-Platelet Therapy(DAT)を1年以上続けて予防するのが一般的になった。しかし、費用や出血リスクも伴うので、大規模なアウトカム試験で便益と危険を定量化することが求められている。

AHAで発表されるDAPT試験はFDAと学会、メーカーが協力してデザインした大規模アウトカム試験なので、重要なエビデンスになるだろう。同様なテーマを追求したISAR-SAFEなどの結果も発表される予定。

月曜日は待ちに待ったIMPROVE-ITの結果が判明する。Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)のアウトカム試験で、急性冠症候群で再発リスクの高い患者1.8万人をsimvastatinだけの群とZetiaを併用する群に無作為化割付して、死亡・心筋梗塞・急性冠症候群による再入院・冠動脈再開通術のリスクを比較したもの。別途、投与期間中だけの解析結果も発表される模様(通常は投与中止後数日・数週間のイベントも含めて解析する)。

ZetiaのLDL-C低下作用は1割と小さいため、リスク削減率も小さいだろう。それでも、他のアウトカム試験やアテローム治療試験(ENHANCE試験)がフェールしたZetiaにとっては貴重なエビデンスになりそうだ。

結果は未公表だが、最悪の事態は回避したようである。Zetiaとsimvastatin配合剤VytorinはMSDがシェリング・プラウを買収して入手した製品で、無形資産がバランスシートに計上されているが、SECに提出された財務報告書によると、MSDはIMPROVE-ITの結果を評価した結果、この無形資産の減損を計上する必要はないと判断した由。つまり、IMPROVE-ITの結果が発表されても両剤の売上高が急減する可能性は無い。十分なエビデンスを持たない薬を12年間に亘り使い続けた医師には朗報だろう。

月曜日は、日本のJPPP試験の結果も発表される。アスピリンの一次予防アウトカム試験で、動脈硬化性疾患の危険因子を持つ60~85歳の患者1.5万人を組入れて、腸溶性アスピリン100mgの脳卒中・心筋梗塞予防効果を検討したもの。オープンレーベル試験であることが難点だが、客観性の高いハードなエンドポイントだけをカウントした模様なので、日本の他のアウトカム試験より優れている。

日本は高齢者医療のエビデンス作りで先陣を走るべきであり、JPPPはこの期待にも応えている。症例の過半が女性である点も好ましい。

更に、リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発している抗PCSK9抗体、REGN727/SAR236553(alirocumab)の数々の第三相試験の結果が発表される予定。

抗PCSK9抗体はLDL-Cを5割近く削減する効果を持つが、皮注であることのほかに、そもそもスタチンと同じような心血管疾患予防効果があるのかという疑問がある。ナイアシンやフィブラートの心血管アウトカム試験がフェールしたことから、LDL-Cが下がればそれで良いとは言えなくなった。alirocumabは第三相試験のポストホック分析で第三者査読によるMACE(主要有害心血管イベント)が対照群の半分で有意に少なかった。イベント数が少ないため未だ何とも言えない模様だが、各試験のデータが揃えばイメージが湧くだろう。

エボラの臨床試験が12月に開始

(2014年11月13日発表)

国境なき医師団(MSF)はエボラウイルス性疾患で初の臨床試験を12月に開始することを明らかにした。ワクチンを含めれば様々な臨床試験が進行中だが、MSFが治験に参加するのは珍しい。

一つはフランスの国立保健医療研究所の主導で、ギニアで200人の被験者に富山化学/富士フィルムのアビガン(ファビピラビル)を投与する。もう一つはオックスフォード大学主導で140人にChimerix(Nasdaq:CMRX)のbrincidofovirを投与する。治験実施施設は未定。更に、アントワープ熱帯病研究所の主導でエボラから回復した患者の回復期血漿をギニアの患者に投与する。何れも偽薬群は設定せず、14日生存率を主評価項目とする。

この二剤が選ばれたのは、どちらも別の適応症で開発が進められ、纏まった数の入手が可能だからだろう。偽薬対照試験ではないので本当の効果や安全性は確認できないが、サルの試験の結果が公表されれば、このようなケースで望むことができる最良のエビデンスを得ることができるだろう。

MSFは、治験薬を提供するメーカーに対して、試験の結果が判明する前に量産を開始して成功なら直ぐに配布できる体制を整えるよう要請した。治験のデザインを考えればもし効果が無くても悪い結果になる可能性は低いので、リーズナブルは意見だ。MSFは手の届く価格で提供することも求めた。11月2日号で書いたように、流行三ヶ国の一人当たりGDPは700~1400ドルで日本の26~53分の1である。タミフル並みなら一人1600円程度だが、数百円が求められるかもしれない。

リンク:MSFのプレスリリース

デンドレオンが民事再生手続きを申請

(2014年11月10日発表)

前立腺癌の細胞療法を実用化したことで有名なデンドレオン(Nasdaq:DNDN)が米国破産法の民事再生手続き、チャプター11の適用を申請した。Provenge(sipuleucel-T)の承認から4年、あまりにも早い転落だ。

Provengeは非症候性転移性去勢抵抗性前立腺癌の患者からアフェレーシスで採取した抗原提示細胞をPA2024腫瘍抗原とGM-CSFで感作し、体内に戻すもの。臨床試験では全生存期間のハザードレシオが0.775、p=0.032と統計学的にまあまあ有意な延命効果を示した。事業面では三種類の異なった課題に直面した。第一は、治療に必要な量を培養できるとは限らないこと。第二は患者一人当たり9.3万ドルと高価であること。第三は、その後に多くの新薬が承認され競争が激化したこと。

承認当時は年商10億ドル超の見方もあったが、3億ドル前後に留まった。最初の第三相試験を開始したのが2000年、フェールしたが二本目の試験のデータで承認申請したのが06年、承認が10年と、第三相からでも10年を掛けて開発した薬が行き詰ってしまったのは印象的だ。承認・発売はゴールではなく出発点に過ぎないことを改めて痛感する。

リンク:ウォール・ストリート・ジャーナルの記事

【新薬開発】


アムジェンの抗IL-17A受容体抗体も第三相が成功

(2014年11月11日発表)

アムジェンとアストラゼネカはAMG827(brodalumab)の二本目の第三相中重度乾癬試験が成功したと発表した。ジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab)を投与した群と比べても奏効率が高かった。AMG827はIL-17受容体のAユニットに結合する完全ヒト化抗体。IL-17Aを標的とする抗体医薬はノバルティスのCosentyx(secukinumab)が日米欧で承認審査中だが、こちらもアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より高い奏効率を示した。

主評価項目のPASI75奏効率は、偽薬、140mg、210mg、Stelaraの各群が6.0/69.2/85.1/69.3%となり、二用量とも偽薬を有意に上回った。Stelaraとの比較は奏功のハードルが高いPASI100で行われ、各群0.3/27.0/36.7/18.5%となりAMG827の勝ち。重篤な有害事象の発生率は1.0/1.6/1.4/0.6%で大差なかった。

AMG827はStelaraやCosentyxと同じ皮注用薬だが、投与頻度がAMG827は2週間に一回でStelaraの4週間に一回より多い。Cosentyxは最初は週一回で4回投与し、その後は4週間に一回。効果や忍容性だけでなく、この違いも重要なポイントになるだろう。

アムジェンは炎症領域の抗体医薬5品目に関してアストラゼネカと共同開発提携を結んでおり、AMG827はその一つ。日本や中国などでは協和発酵キリンが独占開発販売権を取得している。

Cosentyxは乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第三相も成功しており、IL-17RA/IL-17A介入薬の用途は多そうだ。イーライリリーも抗IL-17Aヒト化抗体LY2439821(ixekizumab)を15年に中重度乾癬治療薬として承認申請する予定。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


サノフィのLemtradaが米国でも承認

(2014年11月14日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、FDAがLemtrada(alemtuzumab)を再発寛解型多発性硬化症の維持療法として承認したと発表した。CD52を標的とするヒト化抗体で、点滴静注薬だが、5日連続投与すれば次は1年後に3日連続投与するだけで済む。

深刻な有害事象が枠付警告された。命に係る可能性もある自己免疫疾患や点滴箇所反応、甲状腺癌や黒色腫、リンパ増殖性疾患などだ。投与を完了した後も4年間、定期的に検査してこれらの副作用が発生していないかチェックする必要がある。

白血病ではCampath/MabCampath名で販売されていたが、需要が小さく、価格がLemtradaより割安であるため、サノフィは多くの国で販売を中止した。米国ではLemtradaの価格が2年分で15.8万ドルとなる模様だが、Campathを流用出来たら半額で済むはずだった。尚、マブキャンパスは9月に薬事・食品審議会医薬品第二部会を通過した。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

アバスチン、米でも卵巣癌承認

(2014年11月14日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Avastin(bevacizumab)が白金薬抵抗性卵巣癌の三次治療薬としてFDAに承認されたと発表した。paclitaxel、topotecan、PEG化リポソマルdoxorubicinの何れかと併用する。この抗VEGFヒト化抗体の適応症は結腸直腸癌、非小細胞性肺癌、腎細胞腫、神経膠腫、子宮頸癌と合わせて6種類となった。

卵巣癌は他の国では一次治療なども承認されているが、米国では今回が初承認となった。これらの試験ではPFS(無進行生存期間)が有意に延びたが、延命効果は確認されず、今回の承認の裏付けとなったAURELIA試験もハザードレシオ0.89でAvastinを併用しない群と有意な差が無かった。FDAは一次治療薬には延命効果を求めるが、三次治療なら進行が遅れるだけでも十分と判定したのだろう。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

今週は以上です。

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