2014年10月5日

海外医薬ニュース2014年10月5日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 発熱患者には渡航歴を尋ねよう
  • ESMO:抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体とMEK阻害剤のデータ発表
  • Xa阻害剤の解毒剤の第三相が成功
  • リリーは抗BLyS抗体の開発を中止
  • ギリアドの抗HIV薬が米国で承認


【今週の話題】


発熱患者には渡航歴を尋ねよう

(2014年10月3日発表)

ダラスに続いてトロントでもエボラウイルス感染症が疑われる患者が発生したようだ。日本に上陸し広がるのを防ぐ方法は四つある。第一は西アフリカでの流行を収めるべく支援すること。第二は不要不急な感染地域への渡航を避けること。第三は、流行地域から帰国後に発熱したら速やかに病院に行き、渡航の事実を告げた上で治療を受けること。第四は、医療従事者は発熱を訴える患者がいたら渡航歴を尋ねること。ダラスの事例は最後の二点に関する重要な教訓になりうる。

報道によると、この患者はリビエラから帰国して4日後に発熱し、その2日後に病院の救急部に行って診療を受けたが帰宅。更に2日後に入院するまでに数十人と接触してしまった。何故、診断が遅れたのか?

エボラは出血を合併するとは限らず、初期の段階では他の感染症と見分けるのが難しいため、渡航歴を尋ねることが重要だ。この症例でも看護師がアフリカ帰国者であることを聞き出し、EHR(電子医療記録)に記載したが、医師には伝わらなかった。看護師の入力内容は診断に必要ない事項も多く、渡航歴はそのような情報の一つとして扱われるため医師がすぐ気付くような形では表示されず、医師の側も看護師記録を読まない習慣があったからだ。

EHRの陥穽が露呈した格好だが、それ以前に、もし看護師が医師に直接伝えていれば、あるいは、もし医師が患者に渡航歴を尋ねていれば、多くの人が感染のリスクに曝されるのを防げたかもしれない。感染者の家族、友人もさることながら、自分自身や同僚、家族、そして病院にいる患者を守るために、発熱患者には渡航歴を尋ねよう。

リンク:MedPageの記事(要登録)

【新薬開発】


ESMO:抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体とMEK阻害剤のデータ発表

(2014年9月29日発表)

ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で、BMS/小野薬品やMSD、ロシュのPD-1/PD-L1を標的とする抗体医薬三品の様々な臨床成績が発表された。ロシュのMEK阻害剤の第三相結果と合わせて報告しよう。

BMSが小野薬品と共同開発している抗PD-1完全ヒト化抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)は欧米でも悪性黒色腫用薬として承認申請・受理されたところだが、薬効のエビデンスとなった第三相試験の中間解析結果が初めて公表された。9月に米国で承認されたMSDの抗PD-1完全ヒト化抗体、Keytruda(pembrolizumab)と概ね同じような成績だ。

このCheckMate-037試験は、BMSの抗CTLA-4完全ヒト化抗体Yervoy(ipilimumab)による前治療歴を持つ末期黒色腫患者を組入れて、Opdivoと医師が選んだ化学療法の効果や安全性を比較したもの。主評価項目はORR(客観的反応率)と全生存期間だが、中間解析はORRだけだったようだ。Opdivo群は32%(95%信頼区間24~41%)、化学療法群は11%(4~23%)。解析時点ではOpdivo群の95%の患者で反応が持続していた。

Keytrudaの単群試験のORRは24%(95%信頼区間15~34%)で数値上は見劣りするが、信頼区間が重なっているので効果は同程度と考えた方が良いだろう。この二本の試験はどちらもRECISTに基づいて評価、医師の判定を第三者が査読している。Yervoy前治療患者を対象としている点も同じ。大きな違いはKeytrudaは第二相単群試験であること。

リンク:BMSのプレスリリース(9/29付)

Keytrudaは驚くほど大規模な後期第一相試験が行われている。ESMOでは胃癌と膀胱癌のデータが初めて発表された。先ず、PD-L1陽性胃癌を組入れた試験はORRが31%と良さそうな結果が出た。胃癌は日本や韓国では診断・治療後の転帰が他の地域より良い傾向があり国際治験を行う上でかく乱要因になりうるが、Keytrudaの試験ではアジアもそれ以外の地域もORRは同程度だった。MSDは第二相に進む予定。

抗PD-1/PD-L1は腫瘍に対する免疫力を強化するので、IL-2やインターフェロン療法と似たところがある。悪性黒色腫や腎細胞腫、膀胱癌は免疫強化療法が有効な分野なので抗PD-1/PD-L1が効いても意外感はないが、胃癌は新鮮な驚きだ。

リンク:MSDのプレスリリース(9/28付)

膀胱癌の試験はORRが24%(29例中7例)で、完全反応率10%だった。抗PD-1/PD-L1抗体はPD-L1発現癌のほうが効果が高い可能性があるが、この解析は未だ行われていない模様だ。MSDは第三相へ進む予定。

リンク:MSDのプレスリリース(9/29付)

これらの試験は10mg/kgを2週間に一回投与した。悪性黒色腫の承認用法は2mg/kgを3週間に一回、7.5倍の量を使うので忍容性も注目される。胃癌では低酸素症で死亡した患者が医師に治療関連有害事象と判定された由。

ロシュのRG7446/MPDL3280Aは膀胱癌の第一相試験のアップデートが行われた。IHC法でPD-L1発現度が2または3と判定された患者はORRが52%(33例中17例)、0または1は14%(36例中5例)、PFS(無進行生存期間)のメジアン値は各24週間と8週間だった。やはり、膀胱癌に関してはPD-L1発現度に基づいてスクリーニングした方が良さそうだ。

リンク:ロシュのプレスリリース(9/29付)

悪性黒色腫の5割程度を占めるBRAFのV600変異型にはBRAF阻害剤のモノセラピーまたはMEK阻害剤併用が有効だ。グラクソ・スミスクラインはbraf阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)を13年に米国で発売。11年にbraf阻害剤Zelboraf(vemurafenib)を発売したロシュもエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からGDC-0973/XL518(cobimetinib)を導入、第三相試験を実施し、ESMOでデータ発表した。

デザインはMekinistの併用試験と同様で、Zelboraf単剤療法と比較。主評価項目のPFSはZelboraf・cobimetinib併用群がメジアン9.9ヶ月、単剤群は6.2ヶ月、ハザードレシオは0.51で統計的に有意だった。医師の判定を第三者が査読した解析でも類似した結果になった。BRAF阻害剤は皮膚の良性腫瘍を刺激するリスクがあるが、この試験でも、MEK阻害剤併用で発生率を引き下げることができた。

分子標的薬の弱点は標的分子又はその川下の腫瘍関連分子が変異して効かなくなることだ。BRAF阻害剤とMEK阻害剤は夫々の薬効に加えてシナジーも生んでいる可能性があり、併用療法の未来を示唆している。

リンク:ロシュのプレスリリース(9/29付)

Xa阻害剤の解毒剤の第三相が成功

(2014年10月1日発表)

続々と登場した抗凝固薬新薬の弱点の一つは、解毒剤がないことだ。ワーファリンほど作用のオフセットが遅くないので大きな問題にはなっていないが、事故や緊急手術を行う時にはあったほうが良い。注目されているのがPortola社(Nasdaq:PTLA)が開発している遺伝子組換え型ヒトXa因子、PRT4445(andexanet alfa)で、一本目の第三相試験成功が発表された。

高齢健常者にEliquis(apixaban、和名エリキュース)を4日間投与した後に、PRT4445をボラス静注したところ、抗Xa因子レベルや非結合apixabanレベル、トロンビン生成などの評価項目で偽薬群を有意に上回った。

PortolaはXa阻害剤メーカーと提携して様々な第三相を行っている。Eliquisについてはボラス後に2時間連続点滴する試験も実施中。バイエル/JNJのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)、第一三共のSavaysa/Lixiana(edoxaban、和名リクシアナ)、Portolaがミレニアム社から導入・開発しているXa阻害剤、PRT021/MLN-1021(betrixaban)などの解毒試験も実施中。

FDAからブレークスルーセラピー指定を受けている。対象薬が多く競合品は少ないのでニッチだが有望な開発品だ。PortolaはCor社の研究者がミレニアム・ファーマスーティカルズに買収された時に独立して創設した会社。

リンク:Portolaのプレスリリース

リリーは抗BLyS抗体の開発を中止

(2014年10月2日発表)

イーライリリーは抗BAFF完全ヒト化抗体LY2127399(tabalumab)の第三相全身性エリトマトーデス試験のフェールと開発中止を発表した。二本のうち一本では高用量群の奏効率が偽薬群を有意に上回ったが、もう一本は二用量ともフェールした。

BAFFはBLySの別名なので、LY2127399はグラクソ・スミスクラインが11年に発売したBenlysta(belimumab)と同じような薬である。関節リウマチも第三相がフェールしており、Benlystaの売上高も期待外れであることから、開発を続行しても商業的な価値が小さいと判断したのだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認】


ギリアドの抗HIV薬が米国で承認

(2014年9月24日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)の抗HIV薬Stribild(和名スタリビルド配合錠)は12年に米国で、13年には日欧でも承認されたが、配合四成分のうち、新規活性成分であるインテグラーゼ阻害剤elvitegravirと3A4阻害剤cobicistatの単剤は、欧州ではスンナリ承認されたが米国は遅れていた。FDAの承認薬データベース、Drug@FDAによると9月に承認されたが、ギリアドがプレスリリースを出していないため気付かなかった。

Vitekta(elvitegravir)は日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤。ピルバーデンを緩和するためにTybost(cobicistat)のような3A4阻害剤を併用する。Stribildはelvitegravirを150mg配合しているが、UGT1Aを阻害する薬と併用する場合は量を減らす必要があるため、Vitektaは85mgも商品化された。

TybostはBMSのプロテアーゼ阻害剤Reyataz(atazanavir、和名レイヤターズ)またはジョンソン・エンド・ジョンソンのPrezista(darunavir、和名プリジスタ)と併用する。両剤ともcobicistat配合剤が開発されている。アッヴィのベストセラー製品であるNorvir(ritonavir)は、遂に競合品が登場した。

リンク:Drug@FDAのリンク(Vitekta)

リンク:同(Tybost)

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿