2014年10月12日

海外医薬ニュース2014年10月12日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • テキサスのエボラ患者、電子カルテに問題は無かった
  • エボラウイルス疾患の新たな治療薬候補
  • Sunesis、第三相がフェールも欧州で承認申請へ
  • BMS、スンベプラの承認申請を米国で撤回
  • Prosensa、アンチセンス薬の承認申請手続きを開始
  • Harvoni承認でC型肝炎の治療も一日一回、一錠の時代に
  • 米国でエーザイの制吐剤合剤が承認
  • ベルケイド、MCL一次治療に承認


【今週の話題】


テキサスのエボラ患者、電子カルテに問題は無かった

(2014年10月3日発表)

10月5日号で記載した、テキサス州の病院がエボラウイルス疾患を見落とし帰宅させてしまった事件の原因は、電子医療記録のシステム上の不備ではなかった。病院側が訂正したもので、医師が感染地域渡航歴を知ることのできる状態にあった。油断としか考えられず、この油断は、どの国のどの医師でも犯しうる。万が一に備えて、発熱患者には渡航歴を訊こう。

リンク:NY Timesの報道

エボラウイルス疾患の新たな治療薬候補

(2014年10月6日発表)

ノースカロライナ州の抗ウイルス薬開発企業、Chimerix(Nasdaq:CMRX)は、CMX001(brincidofovir)をエボラウイルス疾患の治療に用いるための緊急治験薬申請(EIND)がFDAに承認されたと発表した。報道によるとTexas Health Presbyterian Hospitalの患者に用いられたようだ。残念ながら不幸な転帰になったが、もっと早く投与できれば違った結果になったかもしれず、また、用量が足りなかったのかもしれない。

brincidofovirは、ギリアドのCMV網膜症治療薬、Vistideの活性成分であるcidofovirをリピッドと結合することによって抗ウイルス活性を増強し、経口投与を可能にし、腎毒性を緩和したもの。in vitroでヒトに感染する二重連鎖DNAウイルス全てに活性を示した。エボラは単鎖RNAウイルスだが、CDC/NIHのin vitro試験で同様な活性が認められたようだ。エボラの動物試験が進行中で、臨床試験もデザイン検討中。

この薬の良いところは、CMV網膜症などに900以上の臨床投与例を持っていること。造血細胞移植を受けた患者のCMV感染症予防で2013年に第三相試験に進んだ。先週、アデノウイルス感染症の第三相試験パイロット試験の結果が発表されたが、死亡率37%と文献データである80%よりかなり良いものだった。

勿論、in vitro試験と臨床は異なる。富山化学のアビガン(ファビピラビル)のように、ウイルスが異なれば至適用量が全然違うこともありうる。しかし、brincidofovirの場合はin vitroのEC50がアデノウイルスやCMVに対するそれと大差ないとのことなので、クリアしなければならなハードルの数が少ない。

それにしても、brincidofovirは三面記事ネタになる薬だ。薬効・忍容性を確認するには偽薬対照二重盲検試験が不可欠だが、命に係る疾患の場合、偽薬割付けは医療倫理に反する可能性がある。かと言って、望む患者に治験外で提供していたら、臨床試験に参加する患者がいなくなってしまう。エボラの臨床試験をどのように実施すべきなのかは現在でも議論の的である。

brincidofovirは既に洗礼を受けている。アデノウイルス感染症の子供の両親が、提供を断られて、ネットやメディアを巻き込んでキャンペーンを行い、コンパッショネート・プログラムという通常の臨床試験と異なる形で未承認薬を入手することに成功したのだ。少年は無事、退院できたようである。世間に知れ渡ったこと、結果が出たことで、偽薬対照試験を行うことが一層困難になった。

リンク:Chimerixのプレスリリース

【新薬開発】


Sunesis、第三相がフェールも欧州で承認申請へ

(2014年10月6日発表)

Sunesis Pharmaceuticals(Nasdaq:SNSS)は、Qinprezo(vosaroxin)の第三相急性骨髄性白血病二次治療試験がフェールしたことを発表した。欧州で承認申請に向かう計画。米国もFDAと今後を相談する考え。欧州はサブセグメント分析に基づいて条件付き承認をすることがあるが、現時点では薬効確認試験が予定されていないので、承認申請が受理されても承認はされないだろう。

この試験は、白金薬による前治療歴を持つ患者にcytarabineと併用する効果を検討した偽薬対照試験。主評価項目の全生存期間は併用群のメジアン値が7.5ヶ月、偽薬群が6.1ヶ月、ハザードレシオは0.865、p値は0.06でフェールした。

一方、事前に設定されていた、幹細胞移植を受けた患者を追跡打切りとする解析では各6.7ヶ月、5.3ヶ月、0.809、p=0.02となり、p値が0.05を下回った。同様に、事前に設定されていた60歳以上と未満のサブグループ分析では、60歳以上で各7.1ヶ月、5.0ヶ月、0.755、0.006という結果になった。おそらく、このサブグループ分析に基づいて、承認を求める意図なのだろう。711名というかなり大きな試験なので、サブグループ分析の症例も少なくはないだろう。

しかし、p値が0.06でも0.02でも統計的な有意性が高くないことに変わりはない。0.006は良い数値だが、主評価項目がフェールした後の解析なので、厳格な統計学では有意とは言えない。また、併用群の重篤有害事象発生率は55.5%と偽薬群の35.7%をかなり上回っており、体力の劣る60歳以上では偏りがもっと大きいと推測される。これらのことを考えると、欧州でも承認される可能性は低いのではないだろうか。

Qinprezoは03年に第日本住友製薬からライセンスしたキノロン誘導体で、DNA介入とトポイソメラーゼII阻害の二つの作用を持つとされる。

リンク:Sunesisのプレスリリース

BMS、スンベプラの承認申請を米国で撤回

(2014年10月7日発表)

BMSは、慢性C型肝炎治療薬BMS-650032(asunaprevir、和名スンベプラ)の米国の承認申請を撤回したことを明らかにした。理由は不明だが、おそらく、Ia型のウイルスに対する活性が低いからだろう。このNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤は、7月に日本でIb型に同社のDaklinza(daclatasvir、和名ダクルインザ)と二剤併用する用法で承認された。日本はIb型が7割を占めるので、ribavirinやインターフェロンに不耐不適な患者向けに役に立つという判断なのだろう。

ギリアドが昨年、NS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)を発売して以来、C型肝炎治療薬の開発競争に鎮静化の兆しがある。NS5A複製複合体ledipasvirを配合したHarvoniが先週、米国で承認されたことによって、この一剤を一日一回、8~24週間服用するだけで9割以上の患者が完解するのだから、最早、生半可な新薬はいらないと言っても過言ではない。一世を風靡したアルファ・インターフェロンも、ribavirinも、そしてプロテアーゼ阻害剤すら、一次治療薬としては役割を終えてしまった。

sofosvirはギリアドが2011年にファーマセット社を110億ドルで買収して入手したもの。入札で価格が吊り上がったと当時は報じられたが、投資に見合う大きな成功を収めた。ポリメラーゼ阻害剤は短期間で強力にウイルスを抑制できるが、耐性ウイルスが生じるリスクが比較的高い。ポリメラーゼ阻害剤はウイルス消失まで時間が掛かるが耐性ウイルスが出にくい。難点は副作用で、これまでに多くが胃腸や心臓、肝腎の副作用で開発中止になった。狭き門を潜り抜けたのがsofosvirで、それだけに、強い。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認申請】


Prosensa、アンチセンス薬の承認申請手続きを開始

(2014年10月10日発表)

Prosensa(NASDAQ:RNA)は、米国でPRO051(drisapersen)のローリング承認申請を開始したと発表した。欧州でも来年、承認申請の予定。2011年に第三相試験がフェールし今年に入ってグラクソ・スミスクラインが共同開発販売権を返還したため前途が危ぶまれたが、意外な展開になった。

エクソン・スキッピングという新しい作用機序を持つオリゴヌクレオチド薬で、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として開発されている。DMD患者の多くは筋細胞膜の維持に必要なジストロフィンの遺伝子に欠損や塩基配列重複などを持ち、正常なジストロフィンを産生できない。このうち、エクソン51に変異を持つ患者向けに開発されているのがdrisapersenで、RNAのスプライシングに介入し、短いがある程度の機能を持つジストロフィンが作られるようになる。

第三相試験では186人の小児患者を組入れて6分歩行試験で薬効を評価したが、偽薬群との差は10メートルに留まり、フェールした。二次的評価項目の解析もフェール。忍容性面では皮注箇所反応が78%で発生(偽薬群は16%)、腎有害事象も46%で発生した(同25%)。ジストロフィン量は増加するので効果はあるはずなのだが、臨床的転帰を改善できるだけの力が無いのかもしれない。そもそも、ジストロフィン量の計測が正しくないのかもしれない。

深刻な疾患なのでProsensaやSarepta社、あるいは日本新薬が開発しているエクソン53スキッピング薬が効いてほしいと思うが、今のところ、十分に納得できるエビデンスはないように感じられる。

リンク:Prosensaのプレスリリース

【承認】


Harvoni承認でC型肝炎の治療も一日一回、一錠の時代に

(2014年10月10日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、FDAがHarvoniをI型慢性C型肝炎の治療薬として承認したと発表した。昨年承認されたNS5Bポリメラーゼ阻害剤、Sovaldi(sofosbuvir)の活性成分と、NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirを配合している。C型肝炎のコンビ薬は初。インターフェロンやribavirinを併用しないレジメンの承認も米国では初。

ギリアドと言えばHIV/AIDSのコンビ薬の開発で大きな成果を上げ、場合によっては一日に10以上のピルを服用しなければならない多剤併用療法を、一日一回、一錠飲むだけに変えた。Harvoniの承認で、C型肝炎の治療も一日一回一錠の時代に入った。

報道によると、価格は8週間コースで63000ドル、12週間コースは94500ドル。Sovaldiはインターフェロンなど3剤合計で94726ドルとされるので、薬剤費全体では同等以下ということになる。治療期間はウイルス量の変化を見て決定することになるのだろうが、患者の半分程度は8週間で足りる模様。インターフェロンとribavirinを1年間(日本では不応なら延長)投与していた時代とは様変わりだ。日本でも9月に承認申請された。

リンク:ギリアドのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

米国でエーザイの制吐剤合剤が承認

(2014年10月10日発表)

FDAは、Akynzeo(netupitant, palonosetron)を化学療法誘導性悪心嘔吐の予防薬として承認したと発表した。

配合二成分は何れもスイスのHelsinn社の開発品で、5-HT3受容体拮抗剤palonosetronはMGIファーマが米国で2003年に発売、化学療法施行後早い段階で発症する悪心嘔吐を抑える。NK1拮抗剤netupitantは今回が初承認、翌日以降に発症する遅発性悪心嘔吐を抑える。MGIを買収したエーザイが合剤の米国共同販促権を取得したもの。

NK1阻害剤はMSDが11年前にEmend(aprepitant、和名イメンド)を発売、来年にはGE化する見込みだが、エーザイは、コンビ薬であることや薬物相互作用が小さいことをアピールして、『アカンぜよ』と言われるのを防ぐことになりそうだ。

リンク:FDAのプレスリリース

ベルケイド、MCL一次治療に承認

(2014年10月9日発表)

武田薬品の子会社であるミレニアム・ファーマスーティカルズ社は、FDAがVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)をマントルセルリンパ腫の一次治療に用いることを承認したと発表した。03年に再発性・難治性の多発骨髄腫に、06年には再発性・難治性のマントルセルリンパ腫に承認されたプロテアソーム阻害剤が、また一つ用途を広げた。

予後の悪い難病なので、一次治療は多剤併用になる。第三相試験ではRituxan(rituximab)など5剤を併用するR-CHOPレジメンと、vincristineの代わりにVelcadeを用いるVcR-CAPレジメンのPFS(無進行生存期間)を比較したところ、メジアン14ヶ月対25ヶ月、ハザードレシオ0.63と大きな差があった。

リンク:ミレニアムのプレスリリース

今週は以上です。

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