2014年9月28日

海外医薬ニュース2014年9月28日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ESMO:ゼローダとアバスチンの適応拡大試験
  • 抗IL-17A抗体が乾癬性関節炎の試験も成功
  • ビリアード後継薬の第三相が成功
  • BMS、オプジーボを欧米で承認申請
  • アムジェン、急性リンパ芽球性白血病用薬を承認申請
  • CHMPが新薬5品などの承認を支持
  • セルジーン、Otezlaの適応拡大承認


【新薬開発】


ESMO:ゼローダとアバスチンの適応拡大試験

(2014年9月25日発表)

ロシュはESMO(欧州臨床腫瘍学会)でXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)とAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の適応拡大試験の結果を発表することを明らかにした。欧州時間本日28日に発表される。Xelodaのデータは大変良く、Avastinは統計的には有意だか効果自体は小さい。

XelodaのIMELDA試験は、her2陰性の転移性乳癌でdocetaxelとAvastinによる一次治療を受けて癌が進行しなかった患者に、AvastinとXelodaによる維持療法を施行して、Avastinだけの維持療法を受ける群とPFS(無進行生存期間)を比較したオープンレーベル試験。

結果は、メジアンPFSが各群11.9ヶ月と4.3ヶ月、ハザードレシオ(HR)は0.38、pは0.001未満となり成功した。転移性乳癌のPFSはあまりアテにならないが、二次的評価項目である全生存期間も夫々39.0ヶ月、23.7ヶ月、0.43、0.001未満と統計学的にも臨床的にも意味のある延命効果が見られた。

乳癌は効果の確立していない薬も含めて多数の選択肢があり、5次治療、6次治療を受ける患者も少なくないようだ。薬物療法のコースを終えて癌の進行をある程度制御できていたら、しばらく様子を見て、進行後に次の治療を開始するというのが一般的な方針で、抗癌剤の副作用から回復する時間的な余裕を与えるメリットもある。しかし、短期間で再燃する癌の場合は、そして、効果が大きい場合は、維持療法は有力な選択肢になる。

もう一本のTANIA試験は、転移性乳癌の一次治療でAvastinを併用した患者に二次治療を行う時に、もう一度Avastinを併用する便益を検討したオープンレーベル試験。主評価項目のPFSは6.3ヶ月と、化学療法だけの群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.75、p=0.0068と統計学的には大変有意なデータが出たが、たった2ヶ月と言えないことも無い。2015年に全生存期間の解析結果が出るまでは何とも言えないだろう。

Avastinは乳癌ではPFSが延びるものの延命効果は確認されておらず、米国のように承認を取り消した国もある。

リンク:ロシュのプレスリリース

抗IL-17A抗体が乾癬性関節炎の試験も成功

(2014年9月25日発表)

ノバルティスは、AIN457(secukinumab)の第三相乾癬性関節炎試験が成功したと発表した。抗IL-17A抗体はプラク乾癬の試験で良績を上げているが、合併症である乾癬性関節炎の第三相が成功したのは初。AIN457は2013年に日米欧で承認申請されたが、2015年に乾癬性関節炎でも適応拡大申請される予定。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ビリアード後継薬の第三相が成功

(2014年9月24日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、GS-7340(tenofovir alafenamide fumarate:略称TAF)を配合した固定用量コンビ薬の第三相HIV/AIDS治療試験二本が成功したと発表した。

この合剤は、elvitegravir(インテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤)、cobicistat(3A4阻害剤)、emtricitabine(核酸系逆転写阻害剤)も配合しており一日一回服用で足りる。2012~13年に日米欧で承認されたStribild(和名スタリビルド配合錠)の成分のうち、tenofovir disoproxil fumarate(TDF)をTAFに置き換えた格好だ。

TAFとTDFはどちらもtenofovirのプロドラッグだが、TAFの臨床用量は10mgとTDFの300mgよりだいぶ小さく、コンビ薬を開発する上で都合が良い。また、腎副作用が比較的小さいため対象患者が広がる可能性がある。更に、TDFはテバが2017年に米国でGE薬を発売する見込みなので、Viread(TDF、和名ビリアード)やTDFを配合する数多くの医薬品の特許切れ対策にも有効だ。

新薬の販売促進活動は第三相試験のデザインを決める段階から始まっている。米国は製薬会社がレーベルに記載されていない用途や効能・特性を宣伝することを規制しているので、臨床試験でキチンと確認してレーベルに記載できるようにすることが重要なのだ。今回の試験も販促に役立つ内容となった。

具体的には、ウイルス消失奏効率が91~93%でStribild群の88~92%と比べて非劣性。過去の試験ではやや弱そうだったので、一安心。有害事象による治験離脱や安全性プロファイルは同程度。腎副作用はeGFR低下がStribuild群より有意に小さく、骨代謝に与える影響も腰椎や股関節の骨塩密度低下が有意に小さかった。但し、差は決して大きくなく臨床的にどの程度の意義があるのかは良く分からない。

ギリアッドは他の試験の結果を待って2014年末までに承認申請する予定。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボを欧米で承認申請

(2014年9月27日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を欧米で末期黒色腫用薬として承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査指定とブレークスルーセラピー指定を受け、審査期限は15年3月30日。EUも優先審査指定。第三相CheckMate-037試験の中間解析結果に基づくもので、データはESMOで現地(スペイン)の29日朝のプレスブリーフィングで明らかにされる予定。

この試験は同社のYervoy(ipilimumab)及び、brafV600変異型の場合はbraf阻害剤による治療を受けて再発した患者を組入れて、Opdivo(3mg/kg)を二週間に一回点滴静注する群と、dacarbazine又はcalboplatin・paclitaxel併用を三週間に一回静注する群の客観的反応率と全生存期間を比較したもの。今年4月に中間解析成功が発表された、米国の施設が参加していないCheckMate-066試験とは違う試験だ。

対象患者は今月承認されたMSDのKeytruda(pembrolizumab)と重なるが、037試験で延命効果が確認されたのだとしたらエビデンス面で上回ることになる。客観的奏効率の解析結果しかないのだとしたらKeytrudaと対等で、全生存期間の解析結果が出るのが先か、Keytrudaの第三相一次・二次治療試験の結果が発表されるのが先かという競争になる。

両剤とも他の薬との併用や他の癌の開発が活発に行われており、当面は、他社の開発品を含めて、デッドヒートが繰り広げられることになりそうだ。Opdivoは肺癌でも米国でローリング承認申請を開始、年内に完了する見込み。Keytrudaは三週間に一回の投与であることが他の薬と併用する上で有利。肺癌などではPD-L1の発現状況が応答性に関連している可能性があり、閾値をどこに置くかということも含めて開発者の腕の見せ所だ。

リンク:BMSのプレスリリース

アムジェン、急性リンパ芽球性白血病用薬を承認申請

(2014年9月22日発表)

アムジェンは、AMG 103(blinatumomab)を米国で承認申請した。フィラデルフィア染色体陰性の前駆B急性リンパ性白血病の成人に用いる。承認申請の根拠となった第二相単群試験では再発・難治性患者の34%が完全寛解、メジアン生存期間は6ヶ月だった。主な有害事象は熱性好中球減少症など骨髄抑制と、脳症も見られたようだ。6週サイクルで4週間、連続点滴静注する。

2012年に11.6億ドルで買収したドイツのマイクロメット社の開発品で、Bispecific T cell Engager(BiTE)抗体技術を用いて、二種類の抗体の短鎖可変領域をポリペプチドで結合した。片方はBセルが発現するCD19に結合し、もう片方は細胞傷害性TセルのCD3エプシロンに結合。Fcガンマ受容体を持たないため通常の抗体が結合できない細胞傷害性Tセルを活性化し、腫瘍を攻撃させる。

急性リンパ芽球性白血病は米国で年6000人、EUでも7000人が診断される癌で、再発・難治性患者のメジアン生存期間は3~5ヶ月とされる。blinatumomabの6ヶ月というのは決して効果が高い訳ではなく、化学療法によるサルベージセラピーと大差ない模様だが、選択肢の一つにはなるだろう。慢性骨髄性白血病やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病におけるabl阻害剤のように、病気の根幹に介入する治療法を発見するための一里塚になるかもしれない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

リンク:ASCO Daily News(14/6/23)

【承認審査・委員会】


CHMPが新薬5品などの承認を支持

(2014年9月26日発表)

EUの医薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、9月の月例会議で、新薬5品を含む15品の承認と3品の適応拡大・対象人口拡大に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

新薬では、まず、アストラゼネカのMoventig(naloxegol oxalate、米国名Movantik)。オピオイド系鎮痛剤の副作用で慢性便秘になり、緩下剤に十分反応しない患者に用いる。ネクター社が創製したPEG化naloxoneで、naloxoneより浸透性が低くP輸送蛋白の基質となるため脳血管関門通過性が低く、末梢選択的にミュー・オピオイド受容体を阻害、オピオイドの鎮痛効果は妨げずに便秘副作用だけを中和する。一日一回服用。米国では今月、承認された。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

ギリアッドのHarvoniは、NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirとNS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirの合剤で、慢性C型肝炎の治療に用いる。I型ウイルス感染者の初治療試験では合剤を一日一回8週間服用するだけで99%の患者が奏功した。ribavirin不耐患者にとっては貴重な治療手段になる。日本でも第三相が成功、今月、承認申請された。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:ギリアッドのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのnintedanib(製品名は未決定の模様)は肺癌用薬で、局所進行性、転移性、または局所再発性の腺腫の二次治療にdocetaxelと併用する。腺腫以外も組入れた第三相試験では全患者で主評価項目のPFS解析が成功、解析計画に基づいて全生存の解析も行われ、腺腫ではHR0.83、p=0.0359と統計学的にも臨床的にもマージナルな差が見られたが、全患者の解析はフェールした。

扁平上皮以外の患者にAlimta(pemetrexed)と併用した第三相は無益性で打ち切られており、その意味でも、効果は限定的。

nintedanibはVEGFR、PDGFR、FGFR1を阻害する小分子薬。難病である特発性肺線維症の第三相が成功しており、商業的にはこちらの方が有望なのではないか。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

イーライリリーのCyramza(ramucirumab)は抗VEGFR-2完全ヒト化抗体。末期癌で白金薬と5-FUによる前治療を既に受けた患者に用いる。paclitaxelと併用するが、不耐ならモノセラピーも可。米国では4月に承認された。併用試験ではメジアン生存期間がpaclitaxel群の7.4ヶ月から9.6ヶ月に延長、ハザードレシオ0.807、モノセラピー試験では支持療法だけの群の3.8ヶ月から5.2ヶ月に延長、HR0.776だった。

同じくリリーのTrulicity(dulaglutide)は週一回投与型のGLP-1作用剤。食後の血糖値上昇時にインスリンの分泌を促進し、グルカゴンの分泌を抑制する作用も持つ。二型糖尿病の治療に、metforminなどに併用するが、metformin不耐不適はモノセラピー可。米国では今月承認された。

適応拡大的な新製品では、ノバルティスのSignifor(pasireotide)の月一回筋注用製剤を先端巨大に用いることが支持された。切除やSandostatin(octreotide)など既存のソマトスタチンに不適・不応の場合に用いる。即放性製剤は2012年にクッシング症候群の治療薬として承認された。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

GE化した活性成分の適応拡大という珍しいパターンが、HRA社のKetoconazole HRA。クッシング症候群に用いることが加速審査を経て支持された。ketoconazokeは抗真菌剤として長い市販歴を持つが、肝毒性を持つためCHMPは2013年に経口剤の承認停止を勧告した。その結果、30年以上に亘ってオフレーベルのまま使っていたクッシング症候群の患者が使えなくなってしまったため、今回、公知申請された。

リンク:CHMPのプレスリリース

新コンビ薬では、スペインのAlmirall社が開発しアストラゼネカが関連事業を取得した吸入用長期作用性ムスカリンaclidiniumとベータ2作用剤formoterolの合剤、Brimica/DuaklirがCOPDの維持療法として支持された。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのRezolstaはHIV/AIDS治療用の合剤で、非ペプチド系プロテアーゼ阻害剤darunavirとギリアッドの3A4阻害剤cobicistatを配合、後者が前者の代謝を妨げるため服用量・頻度を削減することができる。アッヴィのritonavirは抗HIV薬としてよりも他の抗HIV薬のピルバーデンを改善する用途の方が主流になったが合剤は同社のKaletraしかない。ギリアッドがcobicistatを開発したおかげで他社も3A4阻害剤合剤をラインアップできるようになった。

テバのEgranli(balugrastim)が化学療法誘導性好中球減少症の治療薬として支持された。アムジェンのNeulasta(pegfilgrastim、和名ジーラスタ)と同様な長期作用性G-CSF。米国でも承認申請されたが撤回された。

CHMPのプレスリリースには記されていないが、アストラゼネカのIressa(gefitinib、和名イレッサ)の適応を判定する検査法を追加することも支持された由だ。即時発効。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤はEGFRに活性化変異を持つ腫瘍が適応になる。従来は切除術などで採取した腫瘍を遺伝子検査して判定していたが、標本がない場合はctDNA(血中循環腫瘍のDNA)を代用できることになった。アストラゼネカはQiagen社とコンパニオン・ダイアグノスティックの開発で提携したばかり。

ct細胞/DNAは癌を発見する代理マーカーとして注目されているが、薬物応答性検査に用いるのは目新しい。her2など他の検査・薬にも使えるのか興味がわく。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

一方、ロシュのAvastinの神経膠腫適応拡大は再び否定的意見となった。臨床試験では画像診断に基づいて効果を判定したが、VEGF阻害剤を用いると血管の浸透性が低下し造影剤が染み出しにくくなるため、実態以上に腫瘍が小さくなったように見える可能性がある。PFSが延びたのに全生存期間が延びなかったことはこの仮説と符合する。EUは二次治療(モノセラピー)も一次治療化学療法併用も認めなかった。米国は二次治療モノセラピーだけ承認した。

日本は両方承認した。欧米の加速審査は、後に本承認に切り替える手続きが導入されていて、もし薬効確認試験がフェールした場合は承認取消になる。日本はこの辺がいい加減なので、医師や患者は本当に効くのか疑いながら使わなければならない。

【承認】


セルジーン、Otezlaの適応拡大承認

(2014年9月23日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、PDE4阻害剤Otezla(apremilast)を中重度乾癬の治療に用いることが米国で承認されたと発表した。今年3月に乾癬性関節炎の治療薬として承認されている。経口投与できることが長所だが効果は穏やか。副作用は下痢、悪心、頭痛など。体重が減少する可能性があるのでモニターする。鬱病のリスクがあり鬱病患者は禁忌。催奇性を持つ可能性がある。

リンク:セルジーンのプレスリリース

今週は以上です。

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