2014年8月17日

海外医薬ニュース2014年8月17日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 訂正とお詫び
  • 心臓学会の注目演題
  • ヴァーテックスがテラプレビルを販売中止へ
  • Kyprolis、サルベージ試験がフェール
  • MSDの睡眠薬が米国で承認
  • 二週間に一回のベータ・インターフェロンが米国でも承認
  • アバスチン、子宮頸癌で承認


【今週の話題】



訂正とお詫び

8月8日号の「エボラの拡大と治療薬の開発状況(続報)」で、リベリアの米国人医療従事者二名に用いられた抗エボラ抗体をZMAbと書きましたが、ZMappの誤りでした。お詫びして訂正します。ZMappはカナダのDefyrusが同国の公衆医療庁からインライセンスし、米国のMapp Biopharmaceuticalの子会社であるLeafBioにアウトライセンスしたものに、Mappの抗体医薬MB-003を組み合わせたもの。ZMAbもZMappも複数の抗体の組み合わせですが、二名及び死亡した牧師に用いられたZMappがどのようなカクテルなのかは確認できませんでした。

心臓学会の注目演題

今月末に始まるESC欧州心臓学会と11月のAHA米国心臓協会科学部会の演題が発表された。一番の注目は11月17日にAHAのLate-Breaking Clinical Trialsセッションで発表される、IMPROVE-ITの結果。MSDがシェリング・プラウを買収して入手したコレステロール治療薬Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)をsimvastatinと併用する効果を、simvasatinだけの群と比較する、亜急性期急性冠症候群の心血管アウトカム試験だ。

米独で承認されてから既に12年経っており、もし効果が確認されなかった場合は、メーカーとZetiaを患者に飲ませている医師の倫理が厳しく追及されることになるだろう。また、アムジェンやリジェネロン/サノフィなどが開発している新規作用機序コレステロール治療薬、抗PSCK9抗体の承認審査や承認後の普及にも影響するだろう。

LDL-C低下薬の心血管疾患リスク削減率はLDL-C低下率と相関すると考えられているが、この算式に基づいてZetiaのリスク削減率を推定すると10%程度になる。小さな差でも有意差を出すためにはイベント数(心筋梗塞や急性冠症候群による再入院、血管再開通術施行など)を増やす必要があり、そのためには、組入れ患者数や観察期間を長く設定する必要がある。

IMPROVE-ITはリスク削減率が9.375%でも有意差が出るように目標症例数を1万人に設定した。05年に開始、当初は10~11年に目標イベント数に到達するはずだったが、途中で組入れを1.8万人に拡大したため遅延。12年3月に目標イベント数(5250例)の75%に達した時点の中間解析でも、13年3月の中間解析でも結論が出ず、今年の最終解析に至った。

スタチンの心血管疾患リスク削減率は20~30%なので10%は決して満足のいく水準ではない。中間解析でもっと良い結果が出て繰上終了となるのがベストケース・シナリオだったが、実現しなかった。これまでの流れはあまり感触が良くなく、私は楽観していない。

もう一つ気になるのは、治験の検出力を高めるとノイズを拾うリスクも高まることだ。症例・観察期間が長いだけに副作用症例も多いはずで、数多くの解析を行うと偶然に有意差が出るリスクが高まる。Zetiaの試験では癌の発生率に偏りが生じたこともあり、その一つはIMPROVE-ITの中間データだった。米国の場合で2017年まで特許が有効なので、好ましくない結果になった場合はMSDの業績にも響く可能性がある。

ESCの最大の注目は、8月31日にHot Lineセッションで発表されるPARADIGM-HF試験。心不全で駆出率低下の患者を組入れて、ノバルティスが開発したLCZ696とACE阻害剤enalaprilの心血管死・心不全入院防止効果を比較したもの。中間解析で主目的を達成したことが今年3月に発表された。

LCZ696はvalsartan(アンジオテンシンII受容体拮抗剤)とAHU-377(ANP/BNPの零落に係るネプリライシンを阻害するLBQ657のプロドラッグ)を一つの分子に纏めた新しいタイプの薬で、体内で分離する。

心不全は既に様々な薬による治療が行われているせいか、新薬開発が難航。LCZ696の成功は久々の快挙だ。この試験は心血管死という主観バイアスの影響を比較的受けにくい評価項目だけでも十分な検出力を持っているので、この解析結果も注目される。

抗PSCK9抗体では、リジェネロン/サノフィのalirocumabの各種第三相試験結果も発表される予定。ポストホックの中間心血管疾患解析で良いトレンドが見られた由なので、その概要が公表されるかどうかが注目だ。

リンク:AHA科学部会2014のサイト

リンク:ESC会議2014のサイト

ヴァーテックスがテラプレビルを販売中止へ

(2014年8月11日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、抗HCV薬Incivek(telaprevir、日本では田辺三菱のテラビック)の米国販売を10月に止めることを決定、8月11日付で医療従事者向け通知を発出した。

IncivekはC型肝炎ウイルスにプロテアーゼを阻害する、直接作用的抗HCV薬の第一号として11年に日米欧で承認された。既存の二剤併用療法に追加することによって奏効率を高め治療期間も短縮できる画期的な薬だったが、その後、類似した、あるいは画期的な作用機序の新薬が続々と発売。Incivekは皮膚毒性を持つため、売上高が13年第2四半期の2.1億ドルから14年第2四半期には0.2億ドルに激減した。

リンク:Incivekの米国向けサイト(ポップアップで販売中止予告が出ます)

【新薬開発】


Kyprolis、サルベージ試験がフェール

(2014年8月13日発表)

アムジェンは、Kyprolis(carfilzomib)の多発骨髄腫四次治療単剤投与試験がフェールしたと発表した。欧州で承認申請するための試験だったが、別途実施された2~4次治療三剤併用試験が成功したので、こちらのデータで申請することができるのではないか。

フェールした試験はなかなか厳しい内容で、同じ作用機序を持つ武田/JNJのVelcadeを含む三剤を既に経験した患者を組入れて、延命効果をステロイドなどのBSC(最善支持療法)と比較したもの。結果は全生存のハザードレシオが0.975、95%信頼区間は1を跨いだ。

四次治療モノセラピーで明確な延命効果を立証した薬は過去にも無いのではないかと思う。併用では欧米で13年に承認されたセルジーンの免疫調停薬、Pomalyst(pomalidomide)が、VelcadeとRevlimidの両方を経験済みの患者を組入れた試験で、dexamethasoneだけの群よりも併用群の方がPFS(無病生存期間)が有意に長かった。しかし、Kyprolisも2~4次試験のデータで対抗できるだろう。

Kyprolisの最大の敵はVelcade。直接比較試験が成功するなら造血幹細胞移植不適患者には有力な治療オプションになる。尤も、結果が出るのはまだ先だ。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認】


MSDの睡眠薬が米国で承認

(2014年8月13日発表)

MSDは、不眠症治療薬Belsomra(suvorexant)が米国で承認されたと発表した。オレキシンを阻害する経口剤。オレキシンは睡眠覚醒サイクルに係る、覚醒を維持させる物質。突然眠ってしまうナルコレプシーという病気は、オレキシンが関与していると考えられている。

FDAは睡眠薬の安全性分析に力を入れており、特に、夢遊病や自動車運転中の事故のリスクを厳しめに評価している。Belsomraの第三相試験は20mgと30mg(高齢者は15mgと20mg)をテストしたが、用量依存的な眠気や翌日効果が見られたため、FDAは10mgで開始、効果が不十分なら20mgまで増量可という用法しか認めなかった。潜時短縮効果は10~20分程度と元々それほど大きい訳ではないが、10mgの方が効果が小さいので、市場での競争力が低下することになる。

ナルコレプシーの患者は禁忌。強CYP3A阻害剤を同時使用する場合は減量する。飲酒、三環系抗鬱剤との同時使用、重度肝障害患者の使用は推奨しない。用量依存的に夢遊病や自殺思慮が増加するので注意する。20mgは翌日に車を運転すると眠気が残るリスクがあるので患者に予め警告する。

日本では今月、第一部会を通過したので1~2ヶ月後に承認されるだろう。成人は20mg、高齢者は15mgを服用する。米国と同様な安全性担保施策が導入されるかどうかは明らかではない。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

二週間に一回のベータ・インターフェロンが米国でも承認

(2014年8月15日発表)

バイオジェン・アイデックはPlegridyが米国で再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認されたと発表した。Avonexに用いられているインターフェロン・ベータ-1aをPEG化して半減期を長期化、Avonexは週一回筋注だがPlegridyは二週間に一回の皮注という違いがある。欧州では7月に承認されている。

インターフェロンはバイオシミラーが登場するリスクがあり、アルファはロシュやMSDがPEG化品を発売、初期の製品を駆逐した。ベータは遅れていたが、欧州でも未だシミラーは承認されていないので、間に合った。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

アバスチン、子宮頸癌で承認

(2014年8月15日発表)

ロシュは、Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)を難治性転移性子宮頸癌に用いることが米国で承認されたと発表した。cisplatinまたはtopotecanのどちらかとpaclitaxel、そしてAvastinの三剤を併用する。臨床試験では二剤併用と比べて全生存のハザードレシオが0.74、メジアン生存期間は16.8ヶ月と二剤併用の12.9ヶ月を上回った。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿