2014年8月10日

海外医薬ニュース2014年8月10日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • エボラの拡大と治療薬の開発状況(続報)
  • アムジェン、プロテアソーム阻害剤の二次治療試験が成功
  • ハラヴェンの肺癌第三相はフェール
  • ジェネンテックがルセンティスの適応拡大申請
  • 新規抗生剤が6年越しで承認
  • 筋ジストロフィー治療薬がEUで承認
  • アバスチンの卵巣癌適応がEUで拡大


【今週の話題】


エボラの拡大と治療薬の開発状況(続報)

(2014年8月8発表)

サブサハラ・アフリカ地域でエボラウイルス病が拡大している。WHOの8月6日付報告によると、4ヶ国の累計発生数は疑い例も含めて717人、うち298人が死亡。最初に発生が報告されたギニアでは495人が発症、367人が死亡した。首都のコナクリでも95人発症、42人死亡。ギニアの南に位置する国では、シエラレオネで717人発症、298人死亡。リベリアは各554人と294人。隣国ではないナイジェリアでも13人発症、2人死亡となっている。

WHOは緊急事態を宣言。患者治療中に感染した医療従事者が帰国しメディアの注目度が高まった米国では、CDC(疾病管理予防センター)が万一の事態に備えて対応を開始した。一つは、病気の患者が米国の空港に着く前に連絡を貰えるように航空関係者に要請し、着いたら直ぐに診断を行ない、必要なら隔離する水際作戦。もう一つは、診断・対策に関する中間ガイダンスを公表、ポスターも作成して医療機関に注意を呼び掛けた。

このガイダンスによると、診断・対処方法は症状とリスク要因に基づいて決定する。症状は発熱(38.6度以上)や頭痛、筋骨格痛、腹痛、衰弱、下痢、嘔吐、胃痛、食欲不振、等々。臨床検査値異常は血小板減少症(150,000/mcL以下)とトランスアミナーゼ上昇。リスク要因は、過去21日以内の感染発生地域への渡航歴や感染者とのコンタクト。

両方に該当する場合は調査対象(Person Under Investigation)となり、感染者とコンタクトのあった人は可能例(Probable Case)、ラボラトリー検査で確認されたら確認例(Confirmed Case)となる。

エボラ・ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期は2~21日と様々で、8~10日が一番多いようだ。エボラの特徴である出血性水疱や皮下出血は発症の3~5日後、場合によってはもっと後まで発症しないので、マラリアなど他の病気と見分けるのは難しい。結局、疑わしきは厳重監視する、という方法にならざるを得ないだろう。米国の医療施設が疑い例に迅速な対応を行ったが、結局エボラではなかった事例が報道されている。

発症するまでは人に移すリスクは無く、また、咳(空気感染)や飲食物による感染もない。高リスクなのは、患者の血液や体液、吐瀉物、便、創傷箇所などに接する医療従事者や介護者。唾液や汗、涙に触れて感染する可能性もあるようなので、口や目、鼻に触れないようにすべき。現地では埋葬儀式時の感染も危惧されているようだ。火葬せずに、遺体を清めて男なら髭を剃り女なら髪を編む風習があるようで、別れのキスをする場合もあるようだ。キャリアはコウモリという説が有力だが、齧歯動物や霊長類の可能性もあるようだ。

現地に応援に行っている医療従事者のジレンマは、自分が感染するリスクと、感染して帰国する場合の世間の反応だ。ナイジェリアの第一例がこのパターンで、病気を持ち込んだと糾弾されたようである。米国でも医師と看護師が感染した。善意で行ったのに、気の毒な話だ。現地はもっと深刻な模様で、医療従事者が治療を拒否したり、患者が世間体を気にして病院に行かない事態も発生している模様。

こうなると、患者が多発している3ヶ国には渡航しないことが一番のリスク管理になる。渡航者は、帰国時だけでなくしばらくの間、症状に注意が必要だ。医療施設は、可能性が低いとはいえ、万一の時に患者を見逃さないようにチェックポイントを再確認すべきだろう。

リンク:CDCの中間ガイダンス

リンク:国立感染症研究所のリスクアセスメント(和文)

さて、サブサハラ地域はHIV/AIDSなど様々な感染症の多発地域であり、今日のように異国間の交流が活発な時代には、日米欧にとっても人道上の問題だけではなくなっている。にも関わらず対策が進まないのはこれらの国々が医療費用を負担できないからだ。HIV/AIDSでもそうなのだから、エボラのように一部の地域だけで散発する疾患の治療薬を誰も開発しないのは当然のことだ。何億ドルも投じて開発しても宝の持ち腐れになる。

唯一の救いが米国国防省だ。生物兵器の対策や危険地域駐留兵士を守る目的で様々な病気の研究に従事・補助金を出している。エボラや肺炭疽のような致死性の高い疾患は臨床試験を行うのが難しく、ウイルスに感染させた後に試験薬又は偽薬を投与するサルの試験で薬効を確認するのが現実的だが、霊長類の試験はEUが禁止するなど世論の反発も大きいため、軍の施設が重要な担い手になる。

エボラ感染が増加したことを機に、サルやマウスの試験で効果の兆しを示した開発品が一躍注目されるようになった。最も注目されているのは抗体併用療法だ。リベリアで感染した米国の医療従事者二名に発症7~10日後に投与したところ、症状が軽快したと報じられている。但し、このZMAbが奏功したのかどうかは判然としない。

リンク:サン・ディエゴ ユニオン-トリビューン紙の報道(8月4日付)

ZMAbはカナダのDefyrusという会社が同国の公衆医療庁からインライセンスし、米国のMapp Biopharmaceuticalの子会社であるLeafBioにライセンスしたもの。抗体医薬はエボラには無効と考えられていたが、異なった標的に結合する抗体を併用するカクテル療法が有効であることが判明した。

リンク:DefyrusのZMAbアウトライセンスに関するプレスリリース(7月15日付)

ZMAbはザイール型エボラウイルスの異なった糖タンパクに結合する三種類の抗体を併用するもので、アルファ・インターフェロンの遺伝子をアデノウイルス・ベクターに組入れたDEF201と併用することで更にパワーアップしているようだ。サルの試験で良績を上げた。

尚、エボラの前臨床試験はザイール型ウイルスを用いているが、今回のウイルスは97%同じとのことなので、過去の試験成績がアテになりそうだ。

リンク:Qiuらのリサーチアーティクル(Science Translational Medecine)

リンク:Qiuらのもう一つのリサーチアーティクル(Science Translational Medecine)

Mapp Biopharmaceuticalは同社の抗体であるMB-003とZMAbを組み合わせたものをZMappとして開発する考え。このMB-003も前臨床論文が出ている。

リンク:Pettittらのリサーチアーティクル(Science Translational Medecine)

抗体カクテル療法は様々な組み合わせの候補がある模様で、Scripps Research Instituteが今年3月にNIHから5年で2800万ドルの補助金を受けて、関連15機関と共に研究を開始した。様々な大学に加えて、民間企業ではMapp Biopharmaceutical、Zalgen labs、Cangene(2月にEmergent Biosolutions(NYSE:EBS)が買収)が補助金を受けて参加している。

リンク:Scrippsのプレスリリース(3月20日付)

抗体カクテル療法では今のところ、Emergent Biosolutions以外に上場企業の名前はなく、国防省と密接な関わりを持っていそうな口の堅そうな会社が主役だ。

上場企業の動きでは、先週取り上げたTekmira(Nasdaq:TKMR、TSX:TKM)のTKM-Eboraは治験でサイトカイン放出症候群が発生しクリニカル・ホールドになっていたが、部分停止に緩和されたので、トリートメントIND(特定の医師が特定の患者の治療に使うことをFDAに許可申請する)の可能性が出てきた。エボラウイルスの異なった蛋白を標的とする三種類のsiRNA(短鎖干渉RNA)薬。

リンク:GeisbertらのTKM-Eboraの前臨床論文抄録(Lancet)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)も中断していたAVI-4658の開発再開に向けて動き出したようだ。これらのsiRNA薬は抗体医薬と異なり増産の余地があり、また、サルの試験だけでなく臨床第一相も終えていることが長所だ。

更に、富士フィルムの子会社である富山化学が開発したRNAポリメラーゼ阻害剤、favipiravirも米国の国防省がサルの試験を行う予定で、9月にも結果速報が期待されている。マウスの試験では有効性を示した。用量が異なるかもしれないが日本でインフルエンザのサルベージ療法薬アビガン錠として承認されており、米国でも年初に国防省が第三相試験を開始、他の開発品と比べて臨床症例が充実していることが長所。催奇性があるので気軽には使えないが、エボラのように致死率が高い疾患なら許容されるだろう。

リンク:Oestereichらの前臨床試験論文抄録(PubMed~Antiviral Research)

リンク:Smitherらの前臨床試験論文抄録(PubMed~Antiviral Research)

米国ではMedivectorが開発している模様だが、もし有効であった場合は、日本政府またはWHOが富山化学から購入してサブサハラ地域に寄付することを検討すべきではないだろうか。冒頭に書いたように、対岸の火事ではなくビジネスマンや観光客を通じて日本に上陸する可能性がゼロではない。日本国民を守り世界に貢献するためには、今から生産の準備を整えることが重要だ。政府がメディカル・ツーリズム政策を推進する上でも日本の技術力をアピールする良い機会である。

【新薬開発】


アムジェン、プロテアソーム阻害剤の二次治療試験が成功

(2014年8月4日発表)

アムジェンは、Kyprolis(carfilzomib)の第三相多発骨髄腫二次治療試験の成功を発表した。2012年に米国で三次治療として単剤投与することが承認されたが、今回は一次治療や二次治療の標準療法の一つであるRevlimid(lenalidomide)及び低量dexamethasoneのRdレジメンに追加する用法なので、出番が増えそうだ。来年上期に適応拡大申請するとともに、加速承認を本承認に切り替える考え。延命効果を示唆するエビデンスが出来たのでEUでも承認申請するのではないか。

発表によると、事前に予定されていた中間解析で成功認定された。三剤併用群のPFS(無増悪生存期間)はメジアン26.3ヶ月、Rd群は17.6ヶ月でハザードレシオ0.69、pは0.0001未満だった。全生存の解析は未だ成熟していないが、良いトレンドが見られたようだ。有害事象による治験離脱は両群同程度であった模様。詳細は年末のASH米国血液学会で発表される見込み。

Kyprolisは武田ミレニアムのVelcade(bortezomib)と同様なプロテアソーム阻害剤だが、化学構造や作用箇所が異なり、不可逆的に阻害する。Velcadeも三剤併用や四剤併用で良い成績を上げており、どちらが優れているのか気になるところ。三本の第三相直接比較試験が進行中。一本は16年にも結果が出そうだが、今回と同じ二次治療試験だがdexamethasoneだけの併用なので、決定的な解答にはならないのではないか。

開発者であるProteolixをオニクスが09年に8.1億ドルで買収し、そのオニクスをアムジェンが13年に104億ドルで買収という経緯。

リンク:アムジェンのプレスリリース

ハラヴェンの肺癌第三相はフェール

(2014年8月8日発表)

エーザイは、Halaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の第三相非小細胞性肺癌試験がフェールしたことを発表した。三次治療試験で、医師の選んだ薬を投与する群(docetaxelなど4剤から選択)と全生存期間を比較したが、どちらもメジアン9.5ヶ月、ハザードレシオ1.16、p=0.1343だった。

活性薬対照試験なので同等ならある程度の効果がありそうだが、ハザードレシオから推測すると95%上限値が高そうなので、乳癌二次治療のようにEUで承認される可能性は低そうだ。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認申請】


ジェネンテックがルセンティスの適応拡大申請

(2014年8月8日発表)

ロシュの子会社であるジェネンテックは、Lucentis(ranibizumab)を糖尿病性網膜症の治療薬として米国で適応拡大申請したと発表した。薬効のエビデンスは糖尿病性黄斑浮腫の承認を取った時と同じRISE試験とRIDE試験で、適応拡大というよりは効能追加、つまり、視力を改善するだけでなく、眼底撮影による網膜症病状評価も改善することをアピールする内容と推測される。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

【承認】


新規抗生剤が6年越しで承認

(2014年8月6日発表)

FDAは、メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)のOrbactiv(oritavancin)をグラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の治療薬として承認したと発表した。

イーライリリーが創製したバンコマイシン系点滴静注用抗生物質だが、開発主体はインターミューン、後にTargantaと変遷。08年に承認申請されたが、丁度FDAが抗生剤の臨床試験のデザインを見直している最中であったため、Targantaを買収したメディスンズ・カンパニーが第三相をやり直すことになった。結果、バンコマイシンとの非劣性が確認され、今回の承認に繋がった。

この試験ではバンコマイシン群は一日二回、7~10日間投与したが、oritavancin群は初日に1200mgを3時間点滴するだけで簡便。主な有害事象は頭痛、悪心嘔吐、手足の皮膚・軟組織膿瘍、下痢など。ワーファリンと相互作用がある。

今年は同様な理由で開発が遅れた急性細菌性皮膚皮膚構造感染症治療薬が続々と承認されており、Orbactivは3剤目。QIDP(認定感染症製品)指定を受けている薬の承認も3剤目。審査料の割引や特許期間の補填が受けられる。

リンク:FDAのリリース

リンク:MDCOのプレスリリース

筋ジストロフィー治療薬がEUで承認

(2014年8月4日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は、EUがTranslarna(ataluren)を条件付き承認したと発表した。ナンセンス変異によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーで歩行可能な5歳以上の患者に用いる。対象患者数は2500人程度と推定されている。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子の変異が関与している。変異の結果、遺伝子の翻訳中止箇所を意味する塩基配列(ストップ・コドン)ができてしまうのがナンセンス変異で、欧米の場合、13%程度を占めるようだ。Translarnaは翻訳複合体がストップ・コドンを読み過ごす(readthrough)するよう仕向ける核酸医薬で、不完全だがある程度機能するジストロフィンを作れるようになる。経口剤で、朝と昼に10mg/kg、夜は20mg/kgを投与する。

第二相試験がフェールしたため承認は無理と思われ、現に、FDAは承認申請を認めなかった。EUのCHMPも最初は否定的意見を出したが、再審査を経て5月に条件付き承認を認めた。進行中の第三相試験を完遂し、薬効や忍容性を確認する必要がある。

リンク:PTCのプレスリリース

アバスチンの卵巣癌適応がEUで拡大

(2014年8月6日発表)

ロシュは、EUがAvastin(bevacizumab)をプラチナ抵抗性卵巣癌に用いることを認めたと発表した。11年に一次治療に用いることが承認されている。米国は未承認だが、プラチナ抵抗性で承認審査中、11月に結論が出る見込み。

リンク:
ジェネンテックのプレスリリース

今週は以上です。

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