2014年8月31日

海外医薬ニュース2014年8月31日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ZMappのサル試験論文が公開
  • ESC:ノバルティスの心不全治療薬が場外ホームラン
  • アムジェン、抗PCSK9抗体を米国で承認申請
  • アムジェン、Ifチャネル阻害剤が優先審査指定
  • ダクルインザがEUでも承認
  • レボレードが再生不良性貧血に承認


【今週の話題】


ZMappのサル試験論文が公開

(2014年8月29日発表)

Mapp Biopharmaceuticalの子会社であるLeafBioがエボラ感染症治療薬として開発しているモノクローナル抗体カクテル療法、ZMappの非ヒト霊長類試験論文が、Nature誌のウェブサイトで公開された。Near-final versionと記されているので最終稿ではないのだろうが、謎に包まれていた概要が明らかになった。

ZMappはこれまでに7人に投与され、米国の医療従事者二人は回復、スペインの牧師とリベリアの医療従事者は死亡した。死亡率3割以下というのはギニア、シエラレオネ、リベリア3ヶ国における40~70%と比べて良好な成績だが、良くデザインされた対照試験ではないので薬効を評価するには不十分である。支持療法だけでも救命効果があるが現地ではリソース不足に陥っているという指摘もある。

だが、エボラのような突発的な、そして致死率の高い疾患で偽薬対照試験を行うのは非現実的であり、だからこそ、今回の試験は重要だ。FDAが非ヒト霊長類試験の成績に基づいてフルオロキノロンやグラクソ・スミスクラインのABthrax(raxibacumab)を肺炭疽の治療薬として承認した前例もある。

ZMappはカナダのDefyrus社がカナダ公衆医療庁からライセンスしMapp社にライセンスしたZMAbと、Mapp社がアメリカ陸軍伝染病医学研究所からライセンスしたMB-003の夫々に含まれるモノクローナル抗体を様々に組み合わせて最も効果の高いカクテルを開発したもの。3種類のキメラ抗体(13C6、2G4、4G7)をブレンドしている。ドイツのIcon Genetics社が開発したベクターを用いてベンサミアナタバコに遺伝子を導入、Kentucky BioProcessing社が培養量産した。

この試験では、エボラウイルスの一つであるZaire型Kikwit株をアカゲザルに感染させ、その3~5日後から3日毎に3回、ZMappを投与したところ、18頭全てが生存した。コントロール群の3頭は8日後までにエボラウイルス感染症により倒れた。現在流行しているギニア型に関しても、in vitroで効果が見られた。忍容性は悪くなかったようだ。

抗ウイルス剤はin vitroのデータの信頼性が高く、臨床入り後に開発中止になるのは副作用、または、ウイルスのいる場所に十分な量を届けることができない薬物動態が原因であることが多い。前臨床ではサルのデータが一番信用できるので、今回のデータは優れたエビデンスだ。但し、抗体医薬の場合はヒトとサルで薬物動態や免疫反応が異なる可能性がある。また、エボラは感染の8~10日後に発症することが多いと言われるので、5日後に治療開始するのは非現実的かもしれない。

残念なことに、ZMappは在庫切れで、供給が可能になるのは来年のようだ。それまでは、他の様々な治療薬をテストして代替的な治療法を探索することになりそうだ。

リンク:Qiuらの論文(Nature、オープンアクセス)

【新薬開発】


ESC:ノバルティスの心不全治療薬が場外ホームラン

(2014年8月30日発表)

ノバルティスは4月にLCZ696の第3相心不全試験の成功を発表したが、具体的な内容がESC欧州心臓学会のプレスブリーフィングと、New England Journal of Medicine誌のホームペイジに掲載された治験論文で明らかになった。

標準療法薬であるACE阻害剤enalaprilと比べて、心血管因による死亡や心不全入院のリスクを20%削減という大変良い内容で、細部に問題が無いようならば広く用いられることになるだろう。ノバルティスは年内に米国で、来年初めにEUで承認申請する計画。日本はこの試験に参加しておらず、承認申請されるかどうか不明。

このPARADIGM-HF試験の対象は、NYHAクラスII~IVの慢性心不全で左室拠出率40%以下(途中で35%以下に変更)、そしてBNP値またはNT-proBNP値が一定以上、且つACE阻害剤またはARBによる治療を受けている18歳以上の患者。除外条件は症候性低血圧症や腎濾過率低下、高カリウム血、血管浮腫歴、ACE阻害剤/ARB不耐など。血管浮腫を除外したのはリスクが懸念されるから。それ以外は常識的なものだ。

10521人を対象にランインを開始。最初の2週間はenalaprilの標準用量(10mg一日二回)を、次の2週間はLCZ696(200mg一日二回、但し当初は半量)を投与し忍容性を確認した。この段階で各剤5%程度の患者が有害事象を理由に離脱した。

無作為化割付二重盲検試験に進みintent-to-treat解析の対象となったのは8399人。患者背景は、平均63歳、女性22%。人種は白人/アジア系/黒人が66/18/5%、治験実施施設は中欧/西欧アフリカ/アジア太平洋/ラテンアメリカ/北米が各34/24/18/17/7%で、北米とアフリカ系は少ない。NYHAクラスはI/II/III/IVが4/70/24/1%で、IとIVが少ない。Iがいるのはスクリーニング時にはIIだったのが無作為化割付までに改善したようである。

心不全治療薬の使用状況は、利尿剤80%、ジギタリス29%、ベータブロッカー93%、アルドステロン阻害剤54%。埋込型除細動器は14%と少ない。

主評価項目は心血管因による死亡または心不全による入院の複合評価項目で、time-to-event分析。治験医の判定を第三者委員会が盲検で査読した。解析計画上は心血管因死亡が最重点項目のようで、enalapril群の発生率を年7.0%、LCZ696の相対リスク削減率を15%と前提、検出力80%を確保した。中間薬効解析は当初の計画では2回だったが2013年3月のプロトコル変更で3回に増やされ、2回目以降におけるp値要件が若干緩和された。

治験実施委員会がスポンサーであるノバルティスと共同で治験を立案、監督。データの回収、管理、分析はノバルティスが実施。グラスゴー大学の統計学者が別途、検証のための解析を行った。独立データ安全性監視委員会が中間データに基づき安全性や薬効の解析データを監視。14年3月に3回目の中間解析で成功が認定され、最終的な解析に進んだ。メジアン追跡期間は27ヶ月間、追跡不能は20例と大変少ない。

心血管因死亡・心不全の発生率はLCZ696群が21.8%、enalapril群は26.5%で、ハザードレシオ0.80(95%CI0.73、0.87)、p<0.001。心血管因死亡は各558人(13.3%)と693人(16.5%)、ハザードレシオ0.80(0.71、0.89)、p<0.001、治療効果の大きさを表現する指標であるNNTは32で、enalaprilの代わりにLCZ696を32人に27ヶ月投与すると一人を心血管死から救うことが出来る勘定になる。

サブグループ分析は概ね一貫しているが、クラスIII/IVや黒人、アジア人、糖尿病患者のデータはあまり鮮明ではない。また、多くの患者を組入れた西欧・アフリカ地域のデータも明確ではない。

忍容性は、有害事象による治験離脱がLCZ696群10.7%、enalapril群12.3%で、若干良かった。有害事象はLCZ696の方が降圧作用が高いせいか症候性低血圧が増加したが、血清クレアチニン上昇や咳は少なかった。

類似した作用を持つomapatrilatの試験では血管浮腫が増加した。LCZ696は19例のみで、enalapril群の10例より多いもののサンプル数が少ないせいか統計的に有意な差はなかった。尤も、この試験は血管浮腫歴を持つ患者は除外し、アフリカ系人種(血管浮腫のリスクが白人より高い)を少ししか組入れていないので、何とも言えないだろう。

LCZ696はARBのvalsartan(和名ディオバン)とネプリライシン阻害剤sacubitrilを一つの分子に纏めた新しいタイプの薬。ネプリライシンはBNPやブラディキニンなどを零落する中性エンドペプチダーゼで、omepatrilatのようなACE阻害作用も持つ薬ではなくアンジオテンシン受容体阻害作用と組み合わせることによって、血管浮腫のリスクは高めずに心血管保護作用を増強することを意図した。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:McMurrayらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

リンク:Jessupのエディトリアル(NEJM、オープンアクセス)

【承認申請】


アムジェン、抗PCSK9抗体を米国で承認申請

(2014年8月28日発表)

アムジェンは、AMG145(evolocumab)を米国で承認申請したと発表した。欧州でも9月中に、日本は15年に、承認申請する計画。抗PCSK9完全ヒト化抗体で、高脂血症を治療する。スタチンによる治療を受けている患者を組入れた試験でも、2週間に一回、または月一回の皮注でLDL-Cを5~6割削減した。心血管疾患リスクを削減する効果は確認されていない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

アムジェン、Ifチャネル阻害剤が優先審査指定

(2014年8月27日発表)

アムジェンは、フランスのセルビエからライセンスしたIfチャネル阻害剤、ivabradineを慢性心不全治療薬として米国で承認申請し、FDAが受理して優先審査指定したことを発表した。

EUでは05年にProcoralan名で慢性安定性狭心症などに承認されている抗不整脈薬だが、慢性心疾患に承認用量より若干多い量を投与した試験で症候性狭心症患者の心血管死・非致死的心筋梗塞が有意に増加したため、CHMPが再評価中。このSIGNIFY試験の結果はESCで本日31日に発表される予定だが、欧米で審査中であるせいか、プレスブリーフィングでは取り上げられなかった。スポンサーがデータについてコメントすることを禁じた模様だ。欧州で服用している患者はどうしたら良いのだろう?

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認】


ダクルインザがEUでも承認

(2014年8月27日発表)

BMSは、NS5A複製複合体阻害剤Daklinza(daclatasvir、和名ダクルインザ)がEUで慢性C型肝炎治療薬として承認されたと発表した。日本でも薬価収載されたところだが、I型感染者に同社のNS3Aプロテアーゼ阻害剤スンベプラ(asunaprevir)と併用する用法ではなく、EUではI~IV型にギリアッドのNS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)あるいはribavirinやPEG化インターフェロン・ベータと併用することが認められた。

リンク:BMSのプレスリリース

レボレードが再生不良性貧血に承認

(2014年8月26日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAがPromacta(eltrombopag、和名レボレード)の適応拡大を承認したと発表した。重度再生不良性貧血症で免疫抑制剤に十分に反応しない患者に用いる。米国では年300~600人が発症、命に係る出血や感染症のリスクが高い。免疫抑制剤に反応するが、不応患者は死亡率も高いようだ。米国医療研究所が実施した試験では4割の患者が反応した。2割程度の患者で染色体異常が発生した模様なので、要注意。

Promactaは08年に特発性血小板減少性紫斑症治療薬として米国で承認されたスロンボポイエチン受容体作動剤で巨核球が血小板に分化するのを促す。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年8月24日

海外医薬ニュース2014年8月24日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • 経口剤のファブリー病治療試験が成功
  • 抗IL-17A抗体の乾癬試験がまた成功
  • ベータラクタマーゼ阻害剤配合剤の第三相が成功
  • PEG化第VIII因子のルーチン予防試験成功
  • ファイザー、CDK4/6阻害剤を承認申請
  • エーザイ、lenvatinibを欧米でも承認申請
  • ジェンザイム、経口ゴーシェ病治療薬が米国で承認
  • フルチカゾンの新分子が米国で承認
  • dolutegravir配合剤が米国で承認
  • エリキュース、静脈血栓塞栓治療に適応拡大
  • ランタスのバイオシミラーが仮承認


【新薬開発】


経口剤のファブリー病治療試験が成功

(2014年8月20日発表)

アミカス・セラピュティクス(Nasdaq:FOLD)は、migalastatの第三相試験が成功したと発表した。酵素補充療法を受けている患者をmigalastatにスイッチする群と酵素補充療法を継続する群に無作為化割付して18ヶ月間治療したところ、腎濾過率の変化が両群同程度だった。GL-3削減効果を主評価項目とした偽薬対照試験はフェールしたので難しいところだが、今回の試験はEUのアドバイスに基づいて実施したものなので、少なくともEUで承認申請することは可能なのではないか。

ファブリー病はアルファ・ガラクトシダーゼAという酵素の遺伝子異常が原因でグロボトリアオシルセラミド(GL-3)が分解されず臓器に蓄積、機能障害を齎す。治療薬はジェンザイムの酵素補充療法、Fabrazyme(agalsidase beta)が2001~2004年に欧米日で承認された。二週間に一回点滴静注する。

アミカスは、折り畳み異常の蛋白に結合してその蛋白が働くべき場所(アルファ・ガラクトシダーゼAの場合はライソゾーム)に移行するのを助ける、ファーマシューティカル・シャペロンの開発に特化している。経口投与できることが長所で、migalastatは150mgを一日二回服用する。

ファブリー病の遺伝子変異は様々なタイプがありmigalastatに反応する患者としない患者があるようだ。第三相試験では事前にヒト胎児由来腎臓細胞アッセイを用いて薬物応答性を調べ、一定以上の改善を示した患者だけを組入れた。治験中にGLP(医薬品試験実施基準)に対応したアッセイが開発されたため途中で切り替えた。ファブリー病患者の3~5割が応答するようである。今回の試験は二種類の方法で腎濾過率を測定・推測したが、どちらも酵素補充療法群と大差なかった。

FDAとの相談に基づいて実施した第三相偽薬対照試験は腎臓間質性毛細血管におけるGL-3蓄積量の変化を観察したが、主評価項目の半減達成率も二次的評価項目のメジアン減少率も有意ではなかった。観察期間が6ヶ月では足りなかったのか延長試験は良好な結果になったが、途中でアッセイを変えたことが影響している可能性もあり良く分からない。

アミカスの社長は、映画「小さな命が呼ぶ時」の主人公のモデルになったジョン・クラウリー。娘がポンぺ病を発症したためブリストル・マイヤーズ・スクイブを辞めて治療薬の研究者を探し、研究開発資金を集めて、開発に成功した。ジェンザイムが06年に発売したMyozyme(alglucosidase alfa)である。クラウリーは開発の目処が立った段階で事業をジェンザイムに売却し03年にオレキシジェンの社長に、その後05年にアミカスの社長に、就任した。

アミカスでは07年にシャイアと開発販売提携したが権利返還、10年にはグラクソ・スミスクラインと開発販売提携したがまた返還と、紆余曲折している。臨床開発品第一号のisofagamineはゴーシェ病試験がフェールし開発中止になった。第二号の首尾はどうなるか、クラウリーの物語は未だ終わらない。

リンク:アミカスのプレスリリース

リンク:ファブリー病の解説(難病情報センター)

抗IL-17A抗体の乾癬試験がまた成功

(2014年8月21日発表)

イーライリリーは、LY2439821(ixekizumab)の第三相中重度乾癬試験が成功したと発表した。偽薬だけでなく、アムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)を投与した群と比べても奏効率が有意に優れていた模様だ。15年上期に承認申請する予定。

LY2439821は抗IL-17Aヒト化抗体で、角化細胞の過剰増殖や活性化に係るIL-17Aに選択的且つ高親和性をもって結合する。抗IL-17A抗体は様々な会社が先陣争いをしていて、ノバルティスのAIN457(secukinumab)は日米欧で承認審査中。アストラゼネカと炎症治療用抗体領域で共同開発提携を結んでいるアムジェンも、IL-17受容体Aに結合する完全ヒト化抗体、AMG827(brodalumab)の第三相試験を進めている。

各社、リウマチなど様々な用途を開発しており、上手く行けば、第二のTNF阻害剤になるかもしれない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

ベータラクタマーゼ阻害剤配合剤の第三相が成功

(2014年8月19日発表)

アストラゼネカとアクタヴィス(NYSE:ACT)は、CAZ-AVIの第三相複雑腹腔内感染症治療試験が成功したと発表した。15年第1四半期にアストラゼネカがEUで承認申請する計画。米国は明らかではないが、複雑尿道感染症試験も進行しているのでデータが出揃った段階で承認申請するのではないか。

CAZ-AVIはグラム陰性菌に活性を持つ第三世代セフェム系抗生剤のceftazidimeと、ベータラクタムとは異なった構造を持つ新規ベータラクタマーゼ阻害剤avibactamの合剤。FDAから感染症製品認定(QIDP)を受けている。avibactamはアベンティスからスピンアウトした会社が開発し北米の権利をフォレストにライセンス、その後アストラゼネカがこの会社を買収し、フォレストはアクタヴィスと合併した。

今回の試験ではmetronidazoleと併用で、入院患者に2時間点滴静注して臨床的治癒率をmeropenem30分点滴静注群と比較した。二本の試験のデータをプールして分析している点が奇異だが、事前にFDAやEMAの同意を得ている由だ。FDAとEMAの要求が異なるため三種類の解析が行われたが、何れも非劣性であることが確認できた。ceftazidime抵抗菌に対する効果もmeropenemと同程度であった模様。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

リンク:アクタヴィスのプレスリリース

PEG化第VIII因子のルーチン予防試験成功

(2014年8月21日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)は、BAX 855の第三相A型血友病ルーチン予防試験が成功したと発表した。A型血友病で重い出血を頻繁に経験する患者は定期的に第VIII因子の投与を受けて予防するのが一般的。BAX 855は同社のAdvateの活性成分をネクター(Nasdaq:NKTR)の技術でPEG化し半減期を1.4~1.5倍に長期化したもので、投与頻度を減らすことができる。

今回の試験では、45IU/kgを週二回投与したところ、出血エピソードがメジアンで年率1.9回となり、出血時に治療する群の41.5回と比べて有意に少なかった。出血時の治療も96%の症例は1~2回の投与で奏功した。インヒビターは発生しなかった。バクスターは年内に米国で承認申請する予定。EUは12歳歳以下の患者の治験を完了してから承認申請へ。

Advateをルーチン予防に用いる場合は週2~4回投与する模様であり、PEG化しても週2回というのは案外だ。今年承認されたバイオジェン・アイデックのEloctateも4日に一回なのでそれほど変わらない。第VIII因子の作用長期化は難しいのだろう。

異なったメカニズムでは中外製薬の抗第IX因子/第X因子ヒト化バイスペシフィック抗体ACE910が週一回投与で注目される。活性型第IX因子と第X因子の両方に結合し、第VIII因子に代わって第X因子の活性化を促す。血液凝固因子に作用する薬は安全性が特に重要なので、長期投与試験のデータが待望される。

リンク:バクスターのプレスリリース

【承認申請】


ファイザー、CDK4/6阻害剤を承認申請

(2014年8月18日発表)

ファイザーは、PD-0332991(別名PD-991、palbociclib)を米国で承認申請したと発表した。第二相試験のデータに基づくもので、エストロゲン受容体陽性・her2陰性の閉経後局所進行性/転移性乳癌の一次治療にFemara(letrozole)と併用する。この第二相試験ではPFS(無増悪生存期間)がメジアン20.2ヶ月とFemaraだけの群の10.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.488、統計的に有意だった。全生存期間は37.5ヶ月対33.3ヶ月、ハザードレシオ0.813、p=0.21と検出力不足で有意差は出ていないが効果を否定するデータではない。

ファイザーが買収したワーナー・ランバートとアムジェンが買収したオニクスの共同研究が礎となって創製されたCDK4/6阻害剤で、細胞周期がG1期からS期に進行するのを阻害する。CDK4/6はエストロゲン陽性乳癌で活性化が見られ、in vitro試験でFemaraとpalbociclibのシナジーが見られた。経口剤で、一日一回、3週間服用して1週間休む用法。別途、第三相薬効確認試験が進行中。

ファイザーは、EAP(早期入手プログラム)の開始も発表した。命に係る病気に係る未承認の薬を有償または無償で提供するもの。野放図に提供すると偽薬対照臨床試験に参加する患者がいなくなって開発に差し障るため、米国では承認申請と前後して開始することが多い。患者が欲しいのは新薬ではなく効く薬なので、期待を裏切らないように、効果と安全性をキチンと確認することが重要だ。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:EAPに関するリリース(8/21付)

エーザイ、lenvatinibを欧米でも承認申請

(2014年8月18日発表)

エーザイはE7080(lenvatinib)を日本に続いて欧米でも承認申請したことを発表した。VEGFR阻害剤で、進行性放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺癌に用いる。承認されれば、バイエルのVEGFR阻害剤Nexavar(sorafenib)に次ぐ第二号となる。甲状腺癌の多くは放射性ヨウ素に反応するため、市場性は小さい。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

【承認】


ジェンザイム、経口ゴーシェ病治療薬が米国で承認

(2014年8月19日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、FDAがCerdelga(eliglustat)をI型ゴーシェ病治療薬として承認したと発表した。Cerezyme(imiglucerase)など酵素補充療法が承認されているが、経口剤は初めて。報道によると価格はCerezymeと同程度になる模様だ。

I型ゴーシェ病はライソゾーム疾患の一つで、米国の患者数は6000人と推定されている。グルコセレブロシダーゼの遺伝子異常が原因で、グルコシルセラミドが分解されず組織に蓄積、機能不全を齎す。Cerdelgaはグルコシルセラミド合成酵素を阻害する新作用機序を持つ。臨床試験では脾臓量が偽薬比有意に減少し、スイッチ試験では酵素補充療法を継続した群と効果が非劣性だった。

薬物動態面で注意が必要。CYP2D6の機能が著しく高いウルトラ・ラピッド・メタボライザーは十分な効果を得られないので適応外。それ以外のタイプも薬物相互作用に注意。血中濃度が高まると不整脈のリスクが高まるからだ。CYP2D6のエクステンシブ・メタボライザーやインターメディエイト・メタボライザーは、2D6と3Aを中強度に阻害する薬を両方同時使用するのは禁忌。インターメディエイト・メタボライザーとプアー・メタボライザーは3Aを強度に阻害する薬の同時使用は禁忌。

エクステンシブ・メタボライザーが一番多く他のタイプは数%、十数%を占める程度のようだが、エチオピアやサウジアラビアではウルトラ・ラピッド・メタボライザーが2~3割というデータもある。希少疾患で治療薬自体が高価なので、事前検査が課せられても特別な負担にはならないだろう。それにしても、薬物代謝酵素多型に応じて禁忌がここまで細かく変わる薬は初めて見た。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

フルチカゾンの新分子が米国で承認

(2014年8月20日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAがArnuity(fluticasone furoate)を喘息症の維持療法として承認したと発表した。Flovent(fluticasone propionate、和名フルタイド)の活性成分の新しい塩で、ELLIPTAという新しい吸入器を用いている。

この吸入用コルチコイドはBreoの活性成分の一つとしてCOPD向けに既に承認されている。Breoは欧州ではCOPDと喘息症、日本では喘息症に承認されており、米国でも喘息症適応拡大申請が審査中。普通は単剤の開発が先行するが、おそらく市場のニーズを考慮して、合剤を優先したのだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

dolutegravir配合剤が米国で承認

(2014年8月22日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAがTriumeqをHIV-1感染症の治療薬として承認したと発表した。三種類の抗HIV薬の合剤で、インテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤dolutegravirと、核酸系逆転写阻害剤のabacavir及びlamivudineを配合、一日一回一錠の服用で足りる。

dolutegravirは他のインテグラーゼ阻害剤に抵抗性を持つウイルスでもある程度の活性を持つが、ウイルスの遺伝子型によっては用量を増やしたり、無効だったりする。Triumeqは用量の組み合わせが一種類だけなので、増量の必要な患者には適さない。また、HLA-B*5701という多型を持つ患者はabacavirによる深刻な過敏反応のリスクが高いため、適さない(患者の8%程度が該当する模様)。

リンク:GSKのプレスリリース

エリキュース、静脈血栓塞栓治療に適応拡大

(2014年8月21日発表)

BMSとファイザーは、FDAがEliquis(apixaban、和名エリキュース)を静脈血栓塞栓の治療と再発予防に用いることを承認したと発表した。第三相試験では、最初はenoxaparin、その後はワーファリンで治療した群と効果が非劣性で、重要な出血のリスクは有意に小さかった。最初の一週間は10mgを一日二回、その後は5mgを一日二回、服用する。心原性脳卒中予防に次いで大きな市場なので重要な適応拡大だ。

治療完了前に服薬を中止すると血栓性疾患のリスクが高まることや、脊椎硬膜外麻酔や脊椎穿刺を受ける時のリスクが枠付警告された。

リンク:両社のプレスリリース

ランタスのバイオシミラーが仮承認

(2014年8月18日発表)

イーライリリーは、FDAが持効性インスリンBasaglar(insulin glargine)を仮承認したと発表した。サノフィのベストセラーであるLantusのシミラーで、サノフィが特許侵害で提訴したため30ヶ月ステイの対象になり、紛争が決着するか16年央にステイが終了するまでFDAは承認することができない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年8月17日

海外医薬ニュース2014年8月17日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 訂正とお詫び
  • 心臓学会の注目演題
  • ヴァーテックスがテラプレビルを販売中止へ
  • Kyprolis、サルベージ試験がフェール
  • MSDの睡眠薬が米国で承認
  • 二週間に一回のベータ・インターフェロンが米国でも承認
  • アバスチン、子宮頸癌で承認


【今週の話題】



訂正とお詫び

8月8日号の「エボラの拡大と治療薬の開発状況(続報)」で、リベリアの米国人医療従事者二名に用いられた抗エボラ抗体をZMAbと書きましたが、ZMappの誤りでした。お詫びして訂正します。ZMappはカナダのDefyrusが同国の公衆医療庁からインライセンスし、米国のMapp Biopharmaceuticalの子会社であるLeafBioにアウトライセンスしたものに、Mappの抗体医薬MB-003を組み合わせたもの。ZMAbもZMappも複数の抗体の組み合わせですが、二名及び死亡した牧師に用いられたZMappがどのようなカクテルなのかは確認できませんでした。

心臓学会の注目演題

今月末に始まるESC欧州心臓学会と11月のAHA米国心臓協会科学部会の演題が発表された。一番の注目は11月17日にAHAのLate-Breaking Clinical Trialsセッションで発表される、IMPROVE-ITの結果。MSDがシェリング・プラウを買収して入手したコレステロール治療薬Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)をsimvastatinと併用する効果を、simvasatinだけの群と比較する、亜急性期急性冠症候群の心血管アウトカム試験だ。

米独で承認されてから既に12年経っており、もし効果が確認されなかった場合は、メーカーとZetiaを患者に飲ませている医師の倫理が厳しく追及されることになるだろう。また、アムジェンやリジェネロン/サノフィなどが開発している新規作用機序コレステロール治療薬、抗PSCK9抗体の承認審査や承認後の普及にも影響するだろう。

LDL-C低下薬の心血管疾患リスク削減率はLDL-C低下率と相関すると考えられているが、この算式に基づいてZetiaのリスク削減率を推定すると10%程度になる。小さな差でも有意差を出すためにはイベント数(心筋梗塞や急性冠症候群による再入院、血管再開通術施行など)を増やす必要があり、そのためには、組入れ患者数や観察期間を長く設定する必要がある。

IMPROVE-ITはリスク削減率が9.375%でも有意差が出るように目標症例数を1万人に設定した。05年に開始、当初は10~11年に目標イベント数に到達するはずだったが、途中で組入れを1.8万人に拡大したため遅延。12年3月に目標イベント数(5250例)の75%に達した時点の中間解析でも、13年3月の中間解析でも結論が出ず、今年の最終解析に至った。

スタチンの心血管疾患リスク削減率は20~30%なので10%は決して満足のいく水準ではない。中間解析でもっと良い結果が出て繰上終了となるのがベストケース・シナリオだったが、実現しなかった。これまでの流れはあまり感触が良くなく、私は楽観していない。

もう一つ気になるのは、治験の検出力を高めるとノイズを拾うリスクも高まることだ。症例・観察期間が長いだけに副作用症例も多いはずで、数多くの解析を行うと偶然に有意差が出るリスクが高まる。Zetiaの試験では癌の発生率に偏りが生じたこともあり、その一つはIMPROVE-ITの中間データだった。米国の場合で2017年まで特許が有効なので、好ましくない結果になった場合はMSDの業績にも響く可能性がある。

ESCの最大の注目は、8月31日にHot Lineセッションで発表されるPARADIGM-HF試験。心不全で駆出率低下の患者を組入れて、ノバルティスが開発したLCZ696とACE阻害剤enalaprilの心血管死・心不全入院防止効果を比較したもの。中間解析で主目的を達成したことが今年3月に発表された。

LCZ696はvalsartan(アンジオテンシンII受容体拮抗剤)とAHU-377(ANP/BNPの零落に係るネプリライシンを阻害するLBQ657のプロドラッグ)を一つの分子に纏めた新しいタイプの薬で、体内で分離する。

心不全は既に様々な薬による治療が行われているせいか、新薬開発が難航。LCZ696の成功は久々の快挙だ。この試験は心血管死という主観バイアスの影響を比較的受けにくい評価項目だけでも十分な検出力を持っているので、この解析結果も注目される。

抗PSCK9抗体では、リジェネロン/サノフィのalirocumabの各種第三相試験結果も発表される予定。ポストホックの中間心血管疾患解析で良いトレンドが見られた由なので、その概要が公表されるかどうかが注目だ。

リンク:AHA科学部会2014のサイト

リンク:ESC会議2014のサイト

ヴァーテックスがテラプレビルを販売中止へ

(2014年8月11日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、抗HCV薬Incivek(telaprevir、日本では田辺三菱のテラビック)の米国販売を10月に止めることを決定、8月11日付で医療従事者向け通知を発出した。

IncivekはC型肝炎ウイルスにプロテアーゼを阻害する、直接作用的抗HCV薬の第一号として11年に日米欧で承認された。既存の二剤併用療法に追加することによって奏効率を高め治療期間も短縮できる画期的な薬だったが、その後、類似した、あるいは画期的な作用機序の新薬が続々と発売。Incivekは皮膚毒性を持つため、売上高が13年第2四半期の2.1億ドルから14年第2四半期には0.2億ドルに激減した。

リンク:Incivekの米国向けサイト(ポップアップで販売中止予告が出ます)

【新薬開発】


Kyprolis、サルベージ試験がフェール

(2014年8月13日発表)

アムジェンは、Kyprolis(carfilzomib)の多発骨髄腫四次治療単剤投与試験がフェールしたと発表した。欧州で承認申請するための試験だったが、別途実施された2~4次治療三剤併用試験が成功したので、こちらのデータで申請することができるのではないか。

フェールした試験はなかなか厳しい内容で、同じ作用機序を持つ武田/JNJのVelcadeを含む三剤を既に経験した患者を組入れて、延命効果をステロイドなどのBSC(最善支持療法)と比較したもの。結果は全生存のハザードレシオが0.975、95%信頼区間は1を跨いだ。

四次治療モノセラピーで明確な延命効果を立証した薬は過去にも無いのではないかと思う。併用では欧米で13年に承認されたセルジーンの免疫調停薬、Pomalyst(pomalidomide)が、VelcadeとRevlimidの両方を経験済みの患者を組入れた試験で、dexamethasoneだけの群よりも併用群の方がPFS(無病生存期間)が有意に長かった。しかし、Kyprolisも2~4次試験のデータで対抗できるだろう。

Kyprolisの最大の敵はVelcade。直接比較試験が成功するなら造血幹細胞移植不適患者には有力な治療オプションになる。尤も、結果が出るのはまだ先だ。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認】


MSDの睡眠薬が米国で承認

(2014年8月13日発表)

MSDは、不眠症治療薬Belsomra(suvorexant)が米国で承認されたと発表した。オレキシンを阻害する経口剤。オレキシンは睡眠覚醒サイクルに係る、覚醒を維持させる物質。突然眠ってしまうナルコレプシーという病気は、オレキシンが関与していると考えられている。

FDAは睡眠薬の安全性分析に力を入れており、特に、夢遊病や自動車運転中の事故のリスクを厳しめに評価している。Belsomraの第三相試験は20mgと30mg(高齢者は15mgと20mg)をテストしたが、用量依存的な眠気や翌日効果が見られたため、FDAは10mgで開始、効果が不十分なら20mgまで増量可という用法しか認めなかった。潜時短縮効果は10~20分程度と元々それほど大きい訳ではないが、10mgの方が効果が小さいので、市場での競争力が低下することになる。

ナルコレプシーの患者は禁忌。強CYP3A阻害剤を同時使用する場合は減量する。飲酒、三環系抗鬱剤との同時使用、重度肝障害患者の使用は推奨しない。用量依存的に夢遊病や自殺思慮が増加するので注意する。20mgは翌日に車を運転すると眠気が残るリスクがあるので患者に予め警告する。

日本では今月、第一部会を通過したので1~2ヶ月後に承認されるだろう。成人は20mg、高齢者は15mgを服用する。米国と同様な安全性担保施策が導入されるかどうかは明らかではない。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

二週間に一回のベータ・インターフェロンが米国でも承認

(2014年8月15日発表)

バイオジェン・アイデックはPlegridyが米国で再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認されたと発表した。Avonexに用いられているインターフェロン・ベータ-1aをPEG化して半減期を長期化、Avonexは週一回筋注だがPlegridyは二週間に一回の皮注という違いがある。欧州では7月に承認されている。

インターフェロンはバイオシミラーが登場するリスクがあり、アルファはロシュやMSDがPEG化品を発売、初期の製品を駆逐した。ベータは遅れていたが、欧州でも未だシミラーは承認されていないので、間に合った。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

アバスチン、子宮頸癌で承認

(2014年8月15日発表)

ロシュは、Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)を難治性転移性子宮頸癌に用いることが米国で承認されたと発表した。cisplatinまたはtopotecanのどちらかとpaclitaxel、そしてAvastinの三剤を併用する。臨床試験では二剤併用と比べて全生存のハザードレシオが0.74、メジアン生存期間は16.8ヶ月と二剤併用の12.9ヶ月を上回った。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年8月10日

海外医薬ニュース2014年8月10日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • エボラの拡大と治療薬の開発状況(続報)
  • アムジェン、プロテアソーム阻害剤の二次治療試験が成功
  • ハラヴェンの肺癌第三相はフェール
  • ジェネンテックがルセンティスの適応拡大申請
  • 新規抗生剤が6年越しで承認
  • 筋ジストロフィー治療薬がEUで承認
  • アバスチンの卵巣癌適応がEUで拡大


【今週の話題】


エボラの拡大と治療薬の開発状況(続報)

(2014年8月8発表)

サブサハラ・アフリカ地域でエボラウイルス病が拡大している。WHOの8月6日付報告によると、4ヶ国の累計発生数は疑い例も含めて717人、うち298人が死亡。最初に発生が報告されたギニアでは495人が発症、367人が死亡した。首都のコナクリでも95人発症、42人死亡。ギニアの南に位置する国では、シエラレオネで717人発症、298人死亡。リベリアは各554人と294人。隣国ではないナイジェリアでも13人発症、2人死亡となっている。

WHOは緊急事態を宣言。患者治療中に感染した医療従事者が帰国しメディアの注目度が高まった米国では、CDC(疾病管理予防センター)が万一の事態に備えて対応を開始した。一つは、病気の患者が米国の空港に着く前に連絡を貰えるように航空関係者に要請し、着いたら直ぐに診断を行ない、必要なら隔離する水際作戦。もう一つは、診断・対策に関する中間ガイダンスを公表、ポスターも作成して医療機関に注意を呼び掛けた。

このガイダンスによると、診断・対処方法は症状とリスク要因に基づいて決定する。症状は発熱(38.6度以上)や頭痛、筋骨格痛、腹痛、衰弱、下痢、嘔吐、胃痛、食欲不振、等々。臨床検査値異常は血小板減少症(150,000/mcL以下)とトランスアミナーゼ上昇。リスク要因は、過去21日以内の感染発生地域への渡航歴や感染者とのコンタクト。

両方に該当する場合は調査対象(Person Under Investigation)となり、感染者とコンタクトのあった人は可能例(Probable Case)、ラボラトリー検査で確認されたら確認例(Confirmed Case)となる。

エボラ・ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期は2~21日と様々で、8~10日が一番多いようだ。エボラの特徴である出血性水疱や皮下出血は発症の3~5日後、場合によってはもっと後まで発症しないので、マラリアなど他の病気と見分けるのは難しい。結局、疑わしきは厳重監視する、という方法にならざるを得ないだろう。米国の医療施設が疑い例に迅速な対応を行ったが、結局エボラではなかった事例が報道されている。

発症するまでは人に移すリスクは無く、また、咳(空気感染)や飲食物による感染もない。高リスクなのは、患者の血液や体液、吐瀉物、便、創傷箇所などに接する医療従事者や介護者。唾液や汗、涙に触れて感染する可能性もあるようなので、口や目、鼻に触れないようにすべき。現地では埋葬儀式時の感染も危惧されているようだ。火葬せずに、遺体を清めて男なら髭を剃り女なら髪を編む風習があるようで、別れのキスをする場合もあるようだ。キャリアはコウモリという説が有力だが、齧歯動物や霊長類の可能性もあるようだ。

現地に応援に行っている医療従事者のジレンマは、自分が感染するリスクと、感染して帰国する場合の世間の反応だ。ナイジェリアの第一例がこのパターンで、病気を持ち込んだと糾弾されたようである。米国でも医師と看護師が感染した。善意で行ったのに、気の毒な話だ。現地はもっと深刻な模様で、医療従事者が治療を拒否したり、患者が世間体を気にして病院に行かない事態も発生している模様。

こうなると、患者が多発している3ヶ国には渡航しないことが一番のリスク管理になる。渡航者は、帰国時だけでなくしばらくの間、症状に注意が必要だ。医療施設は、可能性が低いとはいえ、万一の時に患者を見逃さないようにチェックポイントを再確認すべきだろう。

リンク:CDCの中間ガイダンス

リンク:国立感染症研究所のリスクアセスメント(和文)

さて、サブサハラ地域はHIV/AIDSなど様々な感染症の多発地域であり、今日のように異国間の交流が活発な時代には、日米欧にとっても人道上の問題だけではなくなっている。にも関わらず対策が進まないのはこれらの国々が医療費用を負担できないからだ。HIV/AIDSでもそうなのだから、エボラのように一部の地域だけで散発する疾患の治療薬を誰も開発しないのは当然のことだ。何億ドルも投じて開発しても宝の持ち腐れになる。

唯一の救いが米国国防省だ。生物兵器の対策や危険地域駐留兵士を守る目的で様々な病気の研究に従事・補助金を出している。エボラや肺炭疽のような致死性の高い疾患は臨床試験を行うのが難しく、ウイルスに感染させた後に試験薬又は偽薬を投与するサルの試験で薬効を確認するのが現実的だが、霊長類の試験はEUが禁止するなど世論の反発も大きいため、軍の施設が重要な担い手になる。

エボラ感染が増加したことを機に、サルやマウスの試験で効果の兆しを示した開発品が一躍注目されるようになった。最も注目されているのは抗体併用療法だ。リベリアで感染した米国の医療従事者二名に発症7~10日後に投与したところ、症状が軽快したと報じられている。但し、このZMAbが奏功したのかどうかは判然としない。

リンク:サン・ディエゴ ユニオン-トリビューン紙の報道(8月4日付)

ZMAbはカナダのDefyrusという会社が同国の公衆医療庁からインライセンスし、米国のMapp Biopharmaceuticalの子会社であるLeafBioにライセンスしたもの。抗体医薬はエボラには無効と考えられていたが、異なった標的に結合する抗体を併用するカクテル療法が有効であることが判明した。

リンク:DefyrusのZMAbアウトライセンスに関するプレスリリース(7月15日付)

ZMAbはザイール型エボラウイルスの異なった糖タンパクに結合する三種類の抗体を併用するもので、アルファ・インターフェロンの遺伝子をアデノウイルス・ベクターに組入れたDEF201と併用することで更にパワーアップしているようだ。サルの試験で良績を上げた。

尚、エボラの前臨床試験はザイール型ウイルスを用いているが、今回のウイルスは97%同じとのことなので、過去の試験成績がアテになりそうだ。

リンク:Qiuらのリサーチアーティクル(Science Translational Medecine)

リンク:Qiuらのもう一つのリサーチアーティクル(Science Translational Medecine)

Mapp Biopharmaceuticalは同社の抗体であるMB-003とZMAbを組み合わせたものをZMappとして開発する考え。このMB-003も前臨床論文が出ている。

リンク:Pettittらのリサーチアーティクル(Science Translational Medecine)

抗体カクテル療法は様々な組み合わせの候補がある模様で、Scripps Research Instituteが今年3月にNIHから5年で2800万ドルの補助金を受けて、関連15機関と共に研究を開始した。様々な大学に加えて、民間企業ではMapp Biopharmaceutical、Zalgen labs、Cangene(2月にEmergent Biosolutions(NYSE:EBS)が買収)が補助金を受けて参加している。

リンク:Scrippsのプレスリリース(3月20日付)

抗体カクテル療法では今のところ、Emergent Biosolutions以外に上場企業の名前はなく、国防省と密接な関わりを持っていそうな口の堅そうな会社が主役だ。

上場企業の動きでは、先週取り上げたTekmira(Nasdaq:TKMR、TSX:TKM)のTKM-Eboraは治験でサイトカイン放出症候群が発生しクリニカル・ホールドになっていたが、部分停止に緩和されたので、トリートメントIND(特定の医師が特定の患者の治療に使うことをFDAに許可申請する)の可能性が出てきた。エボラウイルスの異なった蛋白を標的とする三種類のsiRNA(短鎖干渉RNA)薬。

リンク:GeisbertらのTKM-Eboraの前臨床論文抄録(Lancet)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)も中断していたAVI-4658の開発再開に向けて動き出したようだ。これらのsiRNA薬は抗体医薬と異なり増産の余地があり、また、サルの試験だけでなく臨床第一相も終えていることが長所だ。

更に、富士フィルムの子会社である富山化学が開発したRNAポリメラーゼ阻害剤、favipiravirも米国の国防省がサルの試験を行う予定で、9月にも結果速報が期待されている。マウスの試験では有効性を示した。用量が異なるかもしれないが日本でインフルエンザのサルベージ療法薬アビガン錠として承認されており、米国でも年初に国防省が第三相試験を開始、他の開発品と比べて臨床症例が充実していることが長所。催奇性があるので気軽には使えないが、エボラのように致死率が高い疾患なら許容されるだろう。

リンク:Oestereichらの前臨床試験論文抄録(PubMed~Antiviral Research)

リンク:Smitherらの前臨床試験論文抄録(PubMed~Antiviral Research)

米国ではMedivectorが開発している模様だが、もし有効であった場合は、日本政府またはWHOが富山化学から購入してサブサハラ地域に寄付することを検討すべきではないだろうか。冒頭に書いたように、対岸の火事ではなくビジネスマンや観光客を通じて日本に上陸する可能性がゼロではない。日本国民を守り世界に貢献するためには、今から生産の準備を整えることが重要だ。政府がメディカル・ツーリズム政策を推進する上でも日本の技術力をアピールする良い機会である。

【新薬開発】


アムジェン、プロテアソーム阻害剤の二次治療試験が成功

(2014年8月4日発表)

アムジェンは、Kyprolis(carfilzomib)の第三相多発骨髄腫二次治療試験の成功を発表した。2012年に米国で三次治療として単剤投与することが承認されたが、今回は一次治療や二次治療の標準療法の一つであるRevlimid(lenalidomide)及び低量dexamethasoneのRdレジメンに追加する用法なので、出番が増えそうだ。来年上期に適応拡大申請するとともに、加速承認を本承認に切り替える考え。延命効果を示唆するエビデンスが出来たのでEUでも承認申請するのではないか。

発表によると、事前に予定されていた中間解析で成功認定された。三剤併用群のPFS(無増悪生存期間)はメジアン26.3ヶ月、Rd群は17.6ヶ月でハザードレシオ0.69、pは0.0001未満だった。全生存の解析は未だ成熟していないが、良いトレンドが見られたようだ。有害事象による治験離脱は両群同程度であった模様。詳細は年末のASH米国血液学会で発表される見込み。

Kyprolisは武田ミレニアムのVelcade(bortezomib)と同様なプロテアソーム阻害剤だが、化学構造や作用箇所が異なり、不可逆的に阻害する。Velcadeも三剤併用や四剤併用で良い成績を上げており、どちらが優れているのか気になるところ。三本の第三相直接比較試験が進行中。一本は16年にも結果が出そうだが、今回と同じ二次治療試験だがdexamethasoneだけの併用なので、決定的な解答にはならないのではないか。

開発者であるProteolixをオニクスが09年に8.1億ドルで買収し、そのオニクスをアムジェンが13年に104億ドルで買収という経緯。

リンク:アムジェンのプレスリリース

ハラヴェンの肺癌第三相はフェール

(2014年8月8日発表)

エーザイは、Halaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の第三相非小細胞性肺癌試験がフェールしたことを発表した。三次治療試験で、医師の選んだ薬を投与する群(docetaxelなど4剤から選択)と全生存期間を比較したが、どちらもメジアン9.5ヶ月、ハザードレシオ1.16、p=0.1343だった。

活性薬対照試験なので同等ならある程度の効果がありそうだが、ハザードレシオから推測すると95%上限値が高そうなので、乳癌二次治療のようにEUで承認される可能性は低そうだ。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認申請】


ジェネンテックがルセンティスの適応拡大申請

(2014年8月8日発表)

ロシュの子会社であるジェネンテックは、Lucentis(ranibizumab)を糖尿病性網膜症の治療薬として米国で適応拡大申請したと発表した。薬効のエビデンスは糖尿病性黄斑浮腫の承認を取った時と同じRISE試験とRIDE試験で、適応拡大というよりは効能追加、つまり、視力を改善するだけでなく、眼底撮影による網膜症病状評価も改善することをアピールする内容と推測される。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

【承認】


新規抗生剤が6年越しで承認

(2014年8月6日発表)

FDAは、メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)のOrbactiv(oritavancin)をグラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の治療薬として承認したと発表した。

イーライリリーが創製したバンコマイシン系点滴静注用抗生物質だが、開発主体はインターミューン、後にTargantaと変遷。08年に承認申請されたが、丁度FDAが抗生剤の臨床試験のデザインを見直している最中であったため、Targantaを買収したメディスンズ・カンパニーが第三相をやり直すことになった。結果、バンコマイシンとの非劣性が確認され、今回の承認に繋がった。

この試験ではバンコマイシン群は一日二回、7~10日間投与したが、oritavancin群は初日に1200mgを3時間点滴するだけで簡便。主な有害事象は頭痛、悪心嘔吐、手足の皮膚・軟組織膿瘍、下痢など。ワーファリンと相互作用がある。

今年は同様な理由で開発が遅れた急性細菌性皮膚皮膚構造感染症治療薬が続々と承認されており、Orbactivは3剤目。QIDP(認定感染症製品)指定を受けている薬の承認も3剤目。審査料の割引や特許期間の補填が受けられる。

リンク:FDAのリリース

リンク:MDCOのプレスリリース

筋ジストロフィー治療薬がEUで承認

(2014年8月4日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は、EUがTranslarna(ataluren)を条件付き承認したと発表した。ナンセンス変異によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーで歩行可能な5歳以上の患者に用いる。対象患者数は2500人程度と推定されている。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子の変異が関与している。変異の結果、遺伝子の翻訳中止箇所を意味する塩基配列(ストップ・コドン)ができてしまうのがナンセンス変異で、欧米の場合、13%程度を占めるようだ。Translarnaは翻訳複合体がストップ・コドンを読み過ごす(readthrough)するよう仕向ける核酸医薬で、不完全だがある程度機能するジストロフィンを作れるようになる。経口剤で、朝と昼に10mg/kg、夜は20mg/kgを投与する。

第二相試験がフェールしたため承認は無理と思われ、現に、FDAは承認申請を認めなかった。EUのCHMPも最初は否定的意見を出したが、再審査を経て5月に条件付き承認を認めた。進行中の第三相試験を完遂し、薬効や忍容性を確認する必要がある。

リンク:PTCのプレスリリース

アバスチンの卵巣癌適応がEUで拡大

(2014年8月6日発表)

ロシュは、EUがAvastin(bevacizumab)をプラチナ抵抗性卵巣癌に用いることを認めたと発表した。11年に一次治療に用いることが承認されている。米国は未承認だが、プラチナ抵抗性で承認審査中、11月に結論が出る見込み。

リンク:
ジェネンテックのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年8月3日

海外医薬ニュース2014年8月3日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • エボラ出血熱の感染者は過去最高規模に
  • JNJが電動細切器を自主回収
  • 優先審査バウチャーを買って抗PCSK9フルヒト抗体を承認申請へ
  • アーゼラのメンテナンス療法試験が成功
  • イナビルの海外第二相はフェール
  • バクスター、FDA諮問員会がHyQviaを支持
  • ベーリンガー/リリーのSGLT2阻害剤が米国で承認
  • ベーリンガーのLABAが米国で承認
  • Btk阻害剤の適応・効能追加
  • FDA、Lumizymeの用途限定を解除
  • 欧州でロシュのCLL用薬などが承認


【今週の話題】


エボラ出血熱の感染者は過去最高規模に

(2014年7月31日発表)

WHO、CDC(米国疾病管理予防センター)、外務省などが、相次いで、西アフリカにおけるエボラ出血熱の発生を警告している。CDCは7月31日にギニア、リベリア、シエラレオネに対する渡航注意をレベル3に引き上げた。外務省は従来から政情不安を理由に渡航延期を勧告しているが、エボラ出血熱に関する情報も追加した。WHOによるとナイジェリアでも死亡者が出たようだ。

エボラ出血熱はウイルス感染症で、1976年にザイール(現在はコンゴ)やスーダンで確認され、431人が死亡した。95年以降も数年おきに比較的大きな感染が発生、95~97年は318人、2000~04年は486人、07~09年は239人が死亡した。これまではコンゴ周辺が多かったが、今回は今年3月にギニアで発生、周辺国に広がり7月27日現在で1323人が感染、729人が死亡と過去最大規模だ。76年以来の死亡者は1789人に達した。

病原性が高く、1976年のケースではザイールの死亡率88%、スーダンは53%だった。今回もギニアは73%、リベリアは47%となっている。死亡率に差がある原因は明らかではない。感染が広がるうちに毒性が低下するのかもしれないが、こういう病気・データは監視体制、医療の充実度、全般的な衛生水準など色々な要素が影響するので何とも言えない。ウイルス検査が行われない症例もあるだろうし、発症しない感染者もいるかもしれない。

米国人も三人が感染したが、うち二人は医療従事者。周辺国でも救援に行って感染した例があるようなので、言うまでもないことだが、十分な注意が必要になる。エボラウイルスは空気感染や飲食による感染のリスクは小さいと言われているので、感染者の血液や体液に触れないことが最重要になる。感染していても症状のない人からはうつらないと言われているが、分かったものではないだろう。

予防・治療薬はない。患者によっては出血防止や電解質補充といった対症療法で助かる場合もあるようだ。

新薬では、猿の試験で良績を上げたものが三種類ある。何れも米国防衛相の補助金を受けている。論文刊行時に大いに注目されたRNA介入薬二剤は順調には進んでいない。一つはSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のAVI-6002で、第一相試験に進んだが、補助金打ち切りで開発ストップ。もう一つのRNA介入薬がTelmira Pharmaceuticals(Nasdaq:TKMR)のTKM-Eboraで、第一相に進んだが、サイトカイン放出症候群が見られたため、7月にFDAが治験中断を求めた。

その中で希望が寄せられているのがバイオクリスト(Nasdaq:BCRX)のadenine系抗ウイルス薬、BCX4430だ。エボラに類似したウイルスであるMarburgウイルスに感染させ24時間後に投与したところ、6頭中6頭が30日以上生存。対照群は6頭とも12日以内に死亡した。48時間誤投与でも30日生存率は6頭中5頭だった。

in vitroの試験ではエボラに対してもMarburgの半分程度の力価を示した由であり、一方、正常細胞に対する安全性マージンは10~50倍あるとのことなので、人間の治療にも効く可能性がありそうだ。

問題は、臨床試験のエビデンスに乏しいこと。エボラは米国ではほとんど発生しないのでアフリカで治験するしかないが、深刻な疾患なのでキチンとした臨床試験を行うのは難しいだろう。何とか上手い開発方法を見つけてほしいものだ。

承認されている薬の適応拡大に関する前例では、肺炭そに対するフルオロキノロンは、サルの試験だけに基づいて薬効が認められた。また、アレキシオン(Nasdaq:ALXN)の抗C5ヒト化モノクローナル抗体Soliris(eculizumab、和名ソリーアリス)は、ドイツで非定型溶血性尿毒症症候群が多数発生した時にオフレーベルで使用されたようだ(後に正式承認)。

リンク:エボラ発生状況に関する報告(WHO)

リンク:CDCのエボラ出血熱に関する情報サイト

リンク:CDCの渡航延期勧告(ギニアなど)

リンク:外務省のギニアに関する渡航情報

JNJが電動細切器を自主回収

(2014年7月30日発表)

ロイターの報道によると、ジョンソン・エンド・ジョンソンは腹腔鏡下電動細切除去器の自主回収を始めた。FDAが安全性の再検討を始めたことから4月に販売を中断していた。

4月20日号に書いたように、米国では年間25~30万件の子宮筋腫摘出術が施行され、うち10%強は腹膜鏡下電動細切術だ。非侵襲的な治療法として広く利用されていたが、もし細切した腫瘍に悪性腫瘍が混じっていた場合、裁断された腫瘍が腹腔や骨盤に散らばってしまうリスクがある。FDAの推定によると、子宮・子宮筋腫摘出術を受ける女性の350人に一人の割合で、平滑筋肉腫などの子宮肉腫が発見される。確率としては決して高くはないが、母集団が大きいだけに軽視できない。

一部の医療施設は袋の中で裁断することで飛散を防ぐ工夫を行っているが、これなら安全とは言えないようだ。

リンク:ロイターの報道(2014年8月3日アクセス)

【新薬開発】


優先審査バウチャーを買って抗PCSK9フルヒト抗体を承認申請へ

(2014年7月30日発表)

リジェネロン(Nasdaq:RGEN)と開発販売パートナーであるサノフィは、抗PCSK9完全ヒト化抗体であるREGN727/SAR236553(alirocumab)の9本の第三相試験が成功したことと、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)から6750万ドルで購入した希少小児疾患優先審査バウチャーを用いて年内に欧米で高脂血症治療薬として承認申請する予定であることを発表した。

アムジェンも年内に同じ抗PCSK9完全ヒト化抗体であるAMG145(evolocumab)を承認申請する予定。どちらも優先審査の可能性があるように思われるが、より確実な手段を選んだのだろう。67億円は大きな金額だが、第三相試験の費用全体と比べれば大したことない。

今回の発表で注目されるのは、全ての被験者で1年以上投与した段階で行われた心血管メタアナリシスだ。MACE(心臓死、心筋梗塞、卒中、入院が必要な不安定狭心症;第三者が診断を検証した)の発生状況を対照群と比較したところ、有意に少なかった由。全般的な安全性の解析は事前に設定されたものだがMACEの解析はポストホックである由なので信頼性は十分ではないが、12年に開始された急性冠症候群歴を持つ患者の心血管アウトカム試験に期待を持たせる内容だ。18年頃に結果が判明する見込み。

米国は希少疾患や感染症薬を開発するインセンティブとして、新薬が承認された後で優先審査バウチャーを交付する制度を導入した。通常は承認審査が受理されてから合否が判明するまで10ヶ月掛かるが、このバウチャーを使えば6ヶ月に迅速化される。自社が承認申請する時に使っても良いし、他社に売っても良い。どの程度の金銭的価値があるのか興味を持っていたが、意外に高かった。ケースバイケースなのだろうが、開発競争が激化しているのは抗PCSK9抗体だけではないので、今後はもっと値上がりするのではないか。

リンク:両社のプレスリリース

リンク:承認申請に関するプレスリリース

アーゼラのメンテナンス療法試験が成功

(2014年7月31日発表)

グラクソ・スミスクラインとジェンマブ(OMX: GEN)は、抗CD20完全ヒト化抗体のArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の第三相慢性リンパ性白血病維持療法試験が成功したと発表した。再発時の治療に反応した患者に、Arzerraを8週間に一回の頻度で最長2年間、投与したところ、中間解析でPFS(無増悪生存期間)が何もしなかった患者を有意に上回った。

現在承認されている用法は、一次治療が月一回で最長1年、二次治療は倍の量を月一回、最大4サイクル。患者一人当たりの薬剤費は大差ないかもしれないが、出番が増えるだろう。メンテナンス療法以外では競合品が増えたので尚更重要だ。

リンク:両社のプレスリリース

イナビルの海外第二相はフェール

(2014年8月1日発表)

オーストラリアのBiota Pharmaceuticals(Nasdaq:BOTA)は、laninamivir octanoateの第二相試験がフェールしたと発表した。12ヶ国639人の患者を偽薬、40mg、80mgの三群に無作為化割付してインフルエンザ罹病時間を比較したところ、メジアンで各群104.1時間、102.3時間、103.2時間となり有意な差が見られなかった。同社は自社単独での開発を断念した。

この吸入用長期作用性ノイラミニダーゼ阻害剤は第一三共との共同研究・開発の賜物で、2010年に日本でイナビルとして承認された。日本で成人治療に承認されている40mg以上を使ったのに何故、海外ではフェールしたのか?理由はいろいろ考えられる。第一は、インフルエンザ治療薬の効果は穏やかなので何かの拍子に有意差が出ないこともあるだろう。

第二は治験が行われた時期の違い。イナビルやラピアクタのタミフル(oseltamivir)対照非劣性試験が実施された頃はタミフル抵抗性を持つウイルスが少なくなかったため非劣性のハードルが低かった可能性がある。2009年以降に流行した新型H1N1ウイルスでは未だ少ないため、今実施すれば違った結果が出るかもしれない。

第三は、海外でフェールした薬が日本では試験が成功し承認されるということは時々起きる。ノバルティスのディオバンのアウトカム試験が一例だ。

勿論、人種の違いも影響したかもしれない。吸入用薬なので経口剤よりも個人差が出やすいだろう。

リンク:Biotaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


バクスター、FDA諮問員会がHyQviaを支持

(2014年7月31日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)は、FDAの血液製剤諮問委員会がHyQviaの承認を賛成15人、反対1人で支持したと発表した。米国の諮問委員会は特定の問題を議論するだけで強制力はないが、他の会社にもインプリケーションがあるので、FDAの最終判断が注目される。

HyQviaは原発性免疫不全症候群の治療薬で、ヒト血漿由来の免疫グロブリンと、ハロザイム社(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼ(rHuPH20)のセット製品。初めにrHuPH20を皮注すると細胞外基質のグリコサミノグリカン・ヒアルロンが一時的に零落し、免疫グロブリンを皮注する時の投与可能量や生物的利用率が向上する。生物学的製剤は皮注に適さないものが多いが、この技術を使えば静注用薬を皮注で使うことができるかもしれない。

欧州では2013年12月に一部の二次性低ガンマグロブリン血症向けと合わせて承認された。一方、FDAは、rHuPH20に対する抗体ができるリスクを懸念しているようだ。単剤投与時には稀だが、生物学的製剤と同時に使うと発生率が高まることがあるようで、Viropharma(Nasdaq:VPHM)が実施した遺伝性血管浮腫治療薬Cinryzeの第二相rHuPH20併用皮注試験で多発し、2013年に開発中止になったことがある。ヒアルロニダーゼに対する抗体ができると正常な組織に悪影響を与えるかもしれない。

FDAの要請により実施された前臨床試験では深刻なリスクは見られず、理論的な懸念に留まっている模様だ。それでもFDAが警戒しているのは、おそらく、潜在的なリスクと見返りに得られるものが利便性だけであり便益が危険を上回るという承認基準とそぐわないからだろう。

rHuPH20は、欧州で承認された、ロシュのHerceptinの皮注用製剤にも使われている。30分点滴静注の薬が5分で皮注できるので、早期乳癌の摘出に成功しアジュバント治療を受ける患者には便利だ。再発リスクが残るとはいえ癌ではなくなった患者が対象なので、通勤したり日常生活を円滑に行う便益は重要である。もしrHuPH20の安全性が確認されるならば、応用範囲が広いので、他の会社にもインプリケーションがある。

リンク:バクスターのプレスリリース

リンク:Cinryzeの試験に関するHalozymeのリリース(2013年8月1日)

【承認】


ベーリンガー/リリーのSGLT2阻害剤が米国で承認

(2014年8月1日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムが代謝学分野のパートナーであるイーライリリーと共同開発したSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)を二型糖尿病薬として承認したと発表した。工場の品質管理問題が原因で遅れていたが、6月に警告状が解除され、承認にたどり着いた。腎臓で血液から濾し取られたグルコースがSGLT2により再び血液に輸送されるのを阻害する経口剤。尿道のグルコースが増加するせいか、泌尿器や性器の感染症が増加するリスクがある。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:両社のプレスリリース

ベーリンガーのLABAが米国で承認

(2014年7月31日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムのStriverdi Respimat(olodaterol、吸入用)をCOPD治療薬として承認したと発表した。一日一回吸入して呼吸能力の悪化を遅らせる。長期作用性ベータ2作用剤で、作用のオンセットも早い。他のLABAと同様に、喘息症の患者に用いると増悪による死亡リスクが高まるという枠付警告が付与された。

リンク:FDAのプレスリリース

Btk阻害剤の適応・効能追加

(2014年7月28日発表)

FDAは、ファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発したImbruvica(ibrutinib)の適応・効能追加を発表した。審査期限は10月だったが2ヶ月早かった。このBtk阻害剤は13年にマントルセルリンパ腫に、今年2月には再発性慢性リンパ性白血病に承認されているが、今回、後者の効能にPFSや全生存期間の延長効果が追加され、また、17p欠損型に有効であることが明記された。

何れもofatumumab(和名アーゼラ)対照試験の結果に基づくもので、この用途に用いられている薬同士の比較でありながら、PFSハザードレシオが0.215、全生存は0.434で統計的に有意という、大変良い結果になった。被験者391人中127人を占めた17p欠損型のPFSは0.25と全体の解析と大差ない。このタイプは標準療法に反応しにくいので重要な発見だ。

この試験で見られた重度以上の有害事象は肺炎(10%)など。過去の試験も含めて、5%の患者が有害事象を理由に治験を離脱した。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

FDA、Lumizymeの用途限定を解除

(2014年8月1日発表)

FDAは、Lumizyme(alglucosidase alfa)の用途限定を解除した。サノフィの子会社であるジェンザイムのポンぺ病治療薬で、2010年に承認された時点では遅発性の8歳以上の患者だけに限定されていたが、今回、幼児発症型や8歳未満の患者に用いることも認められた。ジェンザイムが提出した資料により、06年に承認されたMyozymeとの同等性が確認されたからである。

バイオ薬の同等性は難しい問題で、だから、バイオ後続品はバイオセイムではなくバイオシミラーと呼ばれる。元々良く分からない薬なので後続品が同じであることを証明するのが難しい。これは、創製した企業の製品でも同じで、生産方法やパッケージを変えると臨床的効果や安全性が変わる可能性がある。一例はエポエチンだ。

アムジェンのライセンスでジョンソン・エンド・ジョンソンが生産した製品で欧州でPRCAという副作用が多発したことがある。米国で販売されているアムジェンの製品では多発しなかった。シーリングが原因であった模様で改良後は聞かなくなったが、学会には異論もありようだ。

Myozumeの場合、歩留まりを上げるために生産プロセスを改善し、FDAの承認を取ろうとしたが、FDAは力価が異なることを理由に中々承認しなかった。別途、品質管理問題が発生し世界的に品不足になったこともあり、Myozymeとは異なる商品名で承認を取得したのがLumizymeだ。08年に承認申請、Myozymeとの同等性が認められたのが14年。この問題の解決は6年掛かりということになる。

リンク:FDAのプレスリリース

欧州でロシュのCLL用薬などが承認

(2014年7月29日、31日発表)

5月のCHMPで肯定的評価を受けた新薬や適応拡大が、EUで承認された。

ロシュのGazyvaro(obinutuzumab)は慢性リンパ性白血病で集中療法に適さない患者の初度治療としてchlorambucilと併用する。同社のRituxan(rituximab)と同じ抗CD20抗体だが、フコース欠如型なのでマクロファージなど免疫細胞との連携力(ADCC活性)が高い。直接比較試験で勝ったので、この用途ではRituxanに取り替わるだろう。米国では昨年11月にGazyva名で承認された。

リンク:ロシュのプレスリリース(7月29日付)

適応拡大では、ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)のKalydeco(ivacaftor)をG551D型以外のゲーティング変異による6歳以上の膿胞性線維症患者に用いることが認められた。希少疾患の更に一部なので、欧州で新たに適応になるのは250人程度。

膿胞性線維症はCFTRという蛋白の遺伝子変異が関与しており、Kalydecoは不完全なCFTRの機能を向上するポテンシエイターとしての作用を持つ。膿胞性線維症の二人に一人で見られるホモF508欠損型には十分な効果は無いが、作用機序の異なる他の開発品との併用試験が進行中。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース(7月31日付)

また、BMSがファーザーと共同開発販売しているEliquis(apixaban、和名エリキュース)を深静脈血栓の治療と再発予防に用いることも承認された。投与期間が長いため、経口抗血栓薬の用途としては心房細動患者の脳卒中予防に次ぐ、主用途。

リンク:両社のプレスリリース(7月29日付)

更に、リジェネロンとバイエルが共同開発販売しているEylea(aflibercept)を糖尿病性黄斑浮腫の治療に用いることも承認された。ロシュ/ノバルティスのLucentis(ranibizumab)に類似した作用を持つヒトVEGFR融合蛋白で、最初は月一回、眼球に注射するが、半年経ったら二ヶ月に一回で足りる。

リンク:両社のプレスリリース(7月29日付)

今週は以上です。

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