2014年6月8日

海外医薬ニュース2014年6月8日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:抗PD-1抗体の期待と不安
  • ASCO:その他の主要な発表
  • ベーリンガー、特発性肺線維症用薬を欧州で承認申請
  • 長期作用性第VIII因子が米国で承認
  • EUも抗IL-6抗体をキャッスルマン病に承認
  • プラザキサの適応拡大


【新薬開発】


ASCO:抗PD-1抗体の期待と不安

(2014年6月2日発表)

ASCO米国臨床腫瘍学会が閉幕した。今週は、先週号で取り上げられなかった話題をフォローする。まず、BMS/小野薬品とMSDの抗PD-1抗体。黒色腫や非小細胞性肺癌に関する新しい知見や、腎細胞腫や頭頸部癌にも有望であることが報告された。

BMS/小野のBMS-936558(nivolumab)は日本で13年12月に悪性黒色腫用薬として承認申請された。BMSは今年中に扁平上皮性非小細胞性肺癌(SCNSCLC)の第二相試験に基づいて米国で承認申請する予定だが、厄介なのは、この用途ではPD-L1陽性腫瘍にしか効かない可能性が浮上したことだ。第一相試験の中間解析で、PD-L1陽性の非小細胞性肺癌(NSCLC)にはORR(客観的反応率)が9人中6人だったが、陰性では6人中ゼロだったのである。

リンク:ASCO抄録(No. 8024) 

第二相では事前スクリーニングを行わなかった模様だが、データが良好であったとしても全てのSCNSCLCに承認するのは拙速かもしれない。12年に開始された第三相試験では、サブスタディでPD-L1発現状況と薬効の関連性を調べている。Dako社のIHCアッセイを用いて、閾値は1%以上と5%以上の二種類を検討する。本当に陰性患者には効果がないのか?閾値は何パーセントが至適なのか?2016年頃に第三相が完了し答えが出るまで承認を待つのが合理的な対応であるように感じられる。

上記の試験は小規模だが、MSDのMK-3475(pembrolizumab、旧称lambrolizumab)の試験でも同様な現象が観察されている。今年のASCOではPD-L1陽性NSCLCの後期第一相一次治療試験の結果が発表されたが、ORRは42人中11人、26%だった。数値はBMSの方が高いが、スクリーニング方法やORRの定義が異なる可能性がある(BMSの試験ではPD-L1陽性は15人中9人、60%だがMSDの試験では78%となっており、BMSの方が奏功しそうな患者を厳選できていた可能性がある)。

リンク:MK-3475のASCO抄録(No. 8007)

リンク:MSDのプレスリリース

BMSの強みはYervoy(ipilimumab)の適応拡大試験とnivolumabとの併用試験を一遍に行うことができることだが、Yervoyは結腸炎、nivolumabは肺炎という重篤な副作用に気を付けなければならず、免疫刺激による副作用も多いので、併用する場合は特に至適な用量用法を慎重に探索する必要があるだろう。

このことを痛感させられたのがNSCLCの後期第一相一次治療併用試験だ。ORRは46例中22%(反応持続が確認された症例だけだと13%・・・残りは観察期間が足りないため、今後、反応例から除外される可能性もある)、PD-L1発現との相関性なしというもので、効果の点では概ね良好だった。しかし、忍容性は良好ではなく、G3以上の治療関連有害事象が48%の患者で発生、このうち72%は治験を離脱、治療関連死亡が3例で内容は呼吸不全、気管支肺出血、TEN(中毒性表皮剥離症)が各1例だった。

忍容性を改善すべく、両剤とも1mg/kgを投与する群を追加し、治験続行中だ。

リンク:Yervoy併用NSCLC試験のASCO抄録(No. 8023)

新しい用途では、nivolumabの第二相腎細胞腫二次治療試験の結果が発表された。168人を組入れて三種類の用量をテストしたところ、ORRは何れも20~22%となり、用量依存性は見られなかった。ORRは大したことないが、注目されるのは2mg/kg以上を投与した2群のメジアン生存期間が25ヶ月前後と、承認されている他の薬と見比べて良好であること。一方で、この二用量は副作用も多く、治療関連の深刻な有害事象が1割前後の患者で発生、治験を離脱することとなった。2012年に第三相試験入り、結果は2016年頃か。

リンク:腎細胞腫のASCO抄録(No. 5009)

腎細胞腫にYervoyを併用した後期第一相試験では、ORRは40~50%に上昇したが、ここでも深刻副作用発生率が上昇した。併用療法は年内に一次治療で第三相入りする見込み。

リンク:Yervoy併用のASCO抄録(No. 4504)

MK-3475はPD-L1陽性頭頸部癌の後期第一相試験の結果が発表された。スクリーニングでは78%の患者がPD-L1陽性と判定された。ORRは56例中11例、20%というもので、これも探索の余地がありそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

BMSはnivolumabで17種類の癌の臨床試験を進めている由。黒色腫や腎細胞腫はIL-2やインターフェロンが承認されている、免疫強化療法が効きそうな癌だが、肺癌は意外だ。ロシュの抗PD-L1抗体が膀胱癌に効果の兆しを示したように、今後も新しい有望分野が浮上しそうだ。

ASCO:その他の主要な発表

(2014年6月2日発表)

以下はポイントだけを記す。

Yervoyは末期悪性黒色腫向けに承認されているが、アジュバント療法に関する第三相試験の結果が発表された。10mg/kgを3週間に一回という承認されている用量(3mg/kg)より多量を使ったせいか、便益とリスクのバランスがあまりよくない。全生存の解析がどのような結果になるか、そもそも3mg/kgでは駄目なのか、という疑問を持つ。

この試験はステージ3の黒色腫で完全切除を受けたが再発リスクの高い患者を偽薬とYervoy群に割付けて再発予防効果を検討したもの。偽薬群の無再発生存期間はメジアン17.1ヶ月、Yervoy群は26.1ヶ月、ハザードレシオ0.75で統計的に有意という、良好だがインターフェロンと見比べて大差ない結果になった。

忍容性は、薬物関連有害事象による治験離脱が各群2%と49%、同じく致死例が0%と1.1%(結腸炎3例、心筋症1例、ギラン・バレー症候群1例)だった。

全生存の解析が出て、十分な延命効果が確認されるまでは、普及しないのではないだろうか。

リンク:
ASCO抄録(LBA9008)


アムジェンのウイルス療法であるtalimogene laherparepvecは、第三相末期黒色腫試験の詳細が発表された。主評価項目の持続的反応率はGM-CSFを皮注した群が2%、GM-CSFの遺伝子を組入れた1型単純ヘルペスウイルスを腫瘍内注射した群は16%と有意な差があったが、問題は、全生存期間の解析が僅かにフェールしたこと(ハザードレシオ0.79、p=0.051)。

学会発表で注目されたのは、遠隔転移していない患者や一次治療の患者には十分な効果がありそうだが、それ以外の患者には数値上はむしろ有害に見えることだ。非遠隔転移はハザードレシオが0.57、一次治療は0.50となっており、数値上は十分以上の効果が示唆されている。探索的サブセグメント分析なので信頼性は高くないが、承認されたとしてもこれらのタイプにしか使われない可能性がありそうだ。

リンク:ASCO抄録(No. 9008a)

同じくアムジェンのAMG 103(blinatumomab)は、第二相前駆B急性リンパ芽球性白血病試験の結果が発表された。完全寛解率34%、血液学的回復が部分的に留まる症例も含めると43%、メジアン生存期間6ヶ月というもので、承認申請に向けて当局と相談する考え。

BiTE抗体という新しいタイプの抗体医薬で、抗CD3抗体と抗CD19抗体の可変領域を持ち、TセルがBセルを攻撃するよう強力に刺激する。4週間連続点滴が必要であることと、熱性好中球減少症が25%の患者で発生したことが難。

リンク:ASCO抄録(No. 7005)

ノバルティスも様々な開発品の後期データを発表した。まず、LBH589(panobinostat)の第三相再発性/難治性黒色腫試験。Velcade(bortezomib)とdexamethasoneを併用する群と、LBH589も週3回経口投与する群を比較したもので、PFS(無進行生存期間)が各8.1ヶ月と12.0ヶ月、ハザードレシオ0.63、p<0.0001となった。延命効果はまだデータが成熟していない(死亡例が目標に到達していない)ため有意差が出ていない。メジアン30.4ヶ月と33.6ヶ月なので数値上も差が小さい。

LBH589は汎ジアセチラーゼ阻害剤。単剤での効果は弱いようで、今回の併用試験でも反応率の解析は一種類しか有意差がなかった。有害事象による治験離脱は20%対36%で多く、治療中の死亡も5%対8%で増加したので、因果関係をよく検討した上でリスクと便益のバランスを吟味する必要がありそうだ。5月に米国で承認申請が受理され、優先審査指定を受けた。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:ASCO抄録(No. 8510)

インサイト(Nasdaq:INCY)から米国外の開発販売権を取得した骨髄線維症治療薬、Jakafi(欧州名Jakavi、和名ジャカビ、ruxolitinib)の適応拡大試験の結果も発表された。真性赤血球増加症でヒドロキシウリアに不応不耐の患者を組入れた試験で、赤血球量の減少及び脾臓量の縮小に成功した患者の比率が21%と偽薬群の1%を上回った(p<0.0001)。症状改善効果も見られた。有害事象による治験離脱は3.6%、偽薬群は1.8%なのでそれほど変わらない。両社は日米欧で適応拡大申請する予定。

真性赤血球増加症は有病率が10万人に1~3人の超希少疾患で、このうちヒドロキシウリアに不応不耐なのは25%程度と推定されている。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:ASCO抄録(No. 7026)

【承認申請】


ベーリンガー、特発性肺線維症用薬を欧州で承認申請

(2014年6月5日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、nintedanibを特発性肺線維症治療薬としてEUで承認申請し受理されたことを発表した。昨年、非小細胞性肺癌の二次治療で欧州でも承認申請されている。VEGFやPDGF、FGFの受容体を阻害する血管新生阻害剤だが、特発性肺線維症に効果があったのは意外だ。第三相試験では肺機能の低下を有意に遅らせた。増悪予防効果は一本が統計的に有意、もう一本はフェールしたので明確ではない。

ベーリンガーは、加盟国政府の要請に応じてコンパッショネート・プログラムを開始する予定。患者は承認される前に服用することが可能になる。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認】


長期作用性第VIII因子が米国で承認

(2014年6月6日発表)

バイオジェン・アイデックは、長期作用性血液凝固第VIII因子、Eloctateが米国でA型血友病に承認されたと発表した。出血時の治療・予防、術中の出血管理などにも使えるが、一番有効なのはルーチン予防だろう。頻繁に出血を起こす患者に恒常的に点滴静注投与するもので、既存の製剤は二日に一回投与するが、Eloctateは3~5日に一回で足りる(治療開始時は4日に一回)。

Eloctateは第VIII因子と免疫グロブリンの固定領域を融合した蛋白。同様な技術を用いたB型血友病用の長期作用性第IX因子、Alprolixも3月に承認されている。

リンク:バイオジェンのプレスリリース

EUも抗IL-6抗体をキャッスルマン病に承認

(2014年6月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、EUがSylvant(siltuximab)を多中心性キャッスルマン病の治療薬として承認したと発表した。超希少疾患で、欧州の患者数は少なすぎて分からない由。Sylvantは抗IL-6キメラ抗体で、中外のアクテムラが日本でキャッスルマン症候群に承認されていることを考えれば、Sylvantが有効であっても不思議はない。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

プラザキサの適応拡大

(2014年6月日6発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Pradaxa(dabigatran etexilate、和名プラザキサ)を深静脈血栓や肺塞栓の治療と再発予防に用いることがEUで承認されたと発表した。米国でも4月に承認されている。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

今週は以上です。

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