2014年6月22日

海外医薬ニュース2014年6月22日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 拒絶反応治療薬が17年を経て多発性硬化症用薬として復活
  • アクテリオン、日本新薬から導入した肺動脈高血圧症用薬の第三相が成功
  • B株髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンを二社が承認申請
  • サノフィ、ランタスの高濃度製剤を承認申請
  • ベーリンガーとリリー、SGLT2阻害剤を再申請
  • Cubistの抗生剤が米国で承認


【新薬開発】


拒絶反応治療薬が17年を経て多発性硬化症用薬として復活

(2014年6月16日発表)

バイオジェン・アイデック(Nasdaq:BIIB)とアッヴィ(NYSE:ABBV)は、daclizumabの第三相再発寛解型多発性硬化症維持療法試験の成功を発表した。再発予防効果が既存薬と比べて有意に高かった。両社は承認申請に向けて当局と相談する考え。

daclizumabは活性化したリンパ球のIL-2受容体のアルファチェーン、CD25を標的とするヒト化抗体で、ロシュが腎移植後の拒絶反応予防薬Zenapaxとして97年に米国で承認を取得したが、09年に商業上の理由で販売中止した。

元々はプロテイン・デザイン・ラボ(Nasdaq:PDLI)が開発したもので、他の用途は紆余曲折を経て05年にバイオジェン・アイデックが取得。その後、PDLIは08年にバイオ薬部門をファセットという名前でスピンアウト。ファセットはバイオジェン・アイデックの買収提案を拒否、10年にアボットに買収された。このアボットが2013年にスピンアウトしたのがアッヴィだ。企業合併だけでなく事業領域を選択・集中するための企業分割も盛んなので、開発歴の長い薬は説明者にとって大変だ。

開発者にとって大変なのは知財対策だ。PDLIはZenapaxとは異なる高収量プロセス(HYP)と皮注用製剤の開発に遂に成功、承認申請用の後期第二相偽薬対照試験と今回の第三相試験を行った。150mgを四週間に一回投与した群の年率再発率は、前者の試験では偽薬比54%少なく、今回の試験ではAvonex(interferon beta-1a、和名アボネックス)を週一回筋注した群と比べて45%少なかった。尚、後期第二相では300mgもテストしたが、効果は150mgと大差なかった。

EDSS(症状診断スコア)の進行を遅らせる効果に関しては、偽薬対照試験(1年)では150mgで有意な差があったが300mgは有意差なし。Avonex対照試験(2~3年)では16%の差があったが有意ではなかった。

免疫抑制剤なのでインターフェロン・ベータより深刻な感染症のリスクがやや高まり、発生率は4%対2%だった。深刻な皮膚反応や肝機能検査値異常の発生率もやや高かった。

インターフェロン・ベータはかっては標準療法だったが、バイオジェン・アイデックのTecfidera(dimethyl fumarate)などの経口剤が登場し急速に普及している。daclizumabは効果の面ではTecfideraと遜色ないが、皮注であることや感染症などのリスクがあることから、代替的な治療法に留まるだろう。

リンク:両社のプレスリリース

アクテリオン、日本新薬から導入した肺動脈高血圧症用薬の第三相が成功

(2014年6月16日発表)

スイスのアクテリオン(SIX:ATLN)は、selexipagの第三相肺動脈高血圧症試験の成功を発表した。疾病進行あるいは死亡のリスクを削減する効果を検討するために1100人以上の患者を最長で4.3年間治療した試験で、アクテリオンにとってはOpsumit(macitentan)に次ぐ長期大規模試験成功となった。Opsumitの場合は死亡リスク削減効果は見られず通常の6分歩行試験と大差ない結果になったが、長期大規模試験は効果の持続性や忍容性を確認する上でも重要なエビデンスだ。

selexipag群の疾病進行・死亡リスクは偽薬比39%小さく、p値は0.0001を下回った。主要サブグループの分析でもコンスタントな効果が見られ由た。有害事象による治験離脱は14%と偽薬群の7%より高かった。この試験では80%の患者が他の経口剤を服用していたので、追加投与の有効性も確認されたことになる。Opsumitのリスク削減率は45%なので数字は見劣りするが、併用薬など試験の内容が異なり、そもそも、アウトカム試験では10ポイント程度の差は誤差の範囲内である。

selexipagは日本新薬が創製したプロスタサイクリンのIP受容体を作動する小分子薬。アクテリオンは08年に日本国外の開発販売権と日本の共同開発販売権を取得、開発を進めてきた。肺動脈高血圧は三種類のパスウェイが関与していると考えられていて、これまでにエンドテリン受容体拮抗剤やPDE-5阻害剤が実用化されているが、プロスタサイクリン作用剤は注射用薬や吸入用薬しかなかった。

しかし、昨年、ユナイテッド・セラピュティクスのOrenitram(treprostinil)錠が米国で承認されたのに続いて、selepaxigの第三相が成功。どちらも一日二回の経口投与で足りるので、複数の薬を併用している患者でも服薬負担が緩和される。

Orenitramのエビデンスはそれほど明確ではなく、主評価項目である6分歩行距離は三本の試験中一本では偽薬比23メートルの統計的に有意な差があったが、他の二本では11メートル前後の差しかなくフェールした。selepaxigのPOC試験でも24メートルの差しかなかった。第三相試験の詳細が学会発表されたら、複合評価項目のどの項目で効果があったのか、確認する必要があるだろう。

リンク:アクテリオンのプレスリリース

【承認申請】


B株髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンを二社が承認申請

(2014年6月17日発表)

ファイザーとノバルティスは、夫々、B群髄膜炎菌ワクチンを米国で承認申請したと同日に発表した。対象は10~25歳。どちらもFDAからブレークスルーセラピー指定を受けており、開発競争の段階から承認取得競争に進んだ。

髄膜炎は肺炎球菌によるものと髄膜炎菌によるものがあり、前者はファイザーのPrevnar(和名プレベナー)が世界的な大型製品になっている。髄膜炎菌ワクチンも普及しているが、カバーしているのはA、C、W-135、Yの四種類の株だけだ。B株ワクチンの開発が遅れたのは、様々なタイプを網羅することができなかったことと、感染者数が比較的少なかったことが理由だ。

しかし、細菌対策はイタチごっこで、髄膜炎菌ワクチンが普及し上記4株による感染症が減少するにつれて、B株の跋扈が目立つようになった。豪州、スペイン、英国などで主流になったことや、米国でもプリンストン大学などが13年に欧州で承認されたノバルティスのワクチンを治験申請し、学生が接種できるようにしたことは知っていたが、2012年に米国で報告された髄膜炎菌感染症の4割がB型とのことであり、全世界的になってきた。

このノバルティスのワクチン、Bexseroは様々なB株が持つ4種類の抗原をワクチン化したもので、07~08年に欧州で採取されたB株分離菌の8割をカバーしている。米国の承認申請は、FDAが幼児に用いる時の安全性のハードルを引き上げたことや、カバーされていないB株に関する調査を行うよう求めたことなどが原因で遅延。今回発表されたのはローリング承認申請の着手なので、ファイザーに先を越されたことになる。

ファイザーのrLP2086は、B株のうち1800種類以上で発現する表面蛋白であるLP2086(ファクターH結合蛋白)を抗原とする二価ワクチン。FDAが60日以内に受理するかどうかを決定する。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:ノバルティスのプレスリリース

サノフィ、ランタスの新製剤を承認申請

(2014年6月14日発表)

サノフィは、Toujeo(insulin glargine)の承認申請がEUに受理されたと発表した。米国でも受理待ち状態である模様だ。持効性インスリンのベストセラー製品であるLantus(和名ランラス)の新製剤で、薬物動態や薬力学的特性が向上、血中濃度が長期間安定的に維持されるとのこと。第三相試験では低血糖リスクがLantusより小さかった。ミリリットル当り300単位とLantusの3倍の量を含有している。

Lantusは特許切れが近付いており、イーライリリーがバイオシミラーを承認申請した。上手く需要を誘導して特許切れを克服できるかどうか、注目される。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


ベーリンガーとリリー、SGLT2阻害剤を再申請

(2014年6月17日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin)をFDAに再承認申請したと発表した。欧州では5月に承認されたが、米国はベーリンガーの工場の品質管理問題がボトルネックとなり、審査完了通知を受領した。この種の問題は解決に何年もかかることが多いが、今回は軽微であったのか、今月にFDA警告状が解除され、今回の再申請に至った。クラスIに分類される模様であり、順調なら2ヶ月以内に承認されるのではないか。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


Cubistの抗生剤が米国で承認

(2014年6月20日発表)

FDAは、Sivextro(tedizolid phosphate)を急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症(ABSSSI)の治療薬として承認したと発表した。黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、連鎖球菌、エンテロコッカス・フェカリスなどによる感染に用いる。Zyvox(linezolid、和名ザイボックス)と同じオキサゾリジノン系の合成抗菌剤で、第三相試験では効果が非劣性だった。静注用と経口剤の二種類ある。

韓国の東亜製薬(KSE:000640)から韓国北朝鮮以外の権利を取得し開発したTrius Therapeutics社を、昨年、承認申請の直前にCubist(Nasdaq:CBST)が買収した。QIDP(感染症用製品認定)を受けているため、排他権期間が5年間延長される。欧州でも承認審査中だが、欧州での適応症は伝統的な呼び方である複雑皮膚軟組織感染症となっている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Cubistのプレスリリース

今週は以上です。

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