2014年5月4日

海外医薬ニュース2014年5月4日号


【ニュース・ヘッドライン】




  • ヴァーテックスがC型肝炎治療薬の開発を中止
  • イリノテカン新製剤の第三相試験が成功
  • BMS、年内にnivolumabの承認申請を開始へ
  • cangrelorは承認されず
  • エンドサイト/MSDの新薬、EU承認を前に黄信号
  • FDA諮問委員会はシングレアのOTCスイッチに反対
  • ノバルティス、ALK阻害剤が米国で承認
  • GSK、Incruseが欧米で承認
  • 大塚の抗結核薬がEUで承認


【今週の話題】


ヴァーテックスがC型肝炎治療薬の開発を中止

(2014年5月1日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は2014年第1四半期決算発表に合わせて、Alios BioPharmaからライセンスしたNS5Bポリメラーゼ阻害剤のALS-2200//VX-135をアウトライセンスする考えであることを明らかにした。プロテアーゼ阻害剤Incivek(telaprevir、和名テラビック)を開発した実績を持ち他にも複数のパイプラインを持っている同社の方針転換は、開発・販売競争の激化を示している。

Incivekは米国で2011年に発売。売上高は同年に9.5億ドル、12年には11.6億ドルに達したが、13年は4.6億ドルと半減、今第1四半期は300万ドル、前年同期比98%減少した。昨年4月にギリアッドのポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)が承認申請され、承認されるまで治療を待つ動きが広がったためである。米国外では日本は田辺三菱製薬、欧州などではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているが、後者のロイヤルティ権は売却してしまったので、今年以降は入らない。

一方、Kalydeco(ivacaftor)を筆頭とする膿胞性繊維症治療薬は同社の独壇場となっており、作用の異なる複数のコンパウンドが単剤、Kalydeco併用で開発に拍車がかかっている。競合が少なく同社に対する患者の期待も大きい分野に研究開発リソースを集中投入するのは自然な成り行きだろう。

リンク:ヴァーテックスの決算発表プレスリリース

【新薬開発】


イリノテカン新製剤の第三相試験が成功

(2014年5月1日発表)

Merrimack Pharmaceuticals(Nasdaq:MACK)は、MM-398の第三相膵癌二次治療試験が成功したと発表した。年内に米国で承認申請する予定。MM-398はirinotecannをナノパーティクル化してリポゾームに封入した、ドキシルのような製剤だ。

この試験では、gemcitabineベースのレジメン後の二次治療として5-FU及びleucovorinと併用したところ、メジアン生存期間が6.1ヶ月と5-FU/Lだけの群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.67、p=0.012となった。メジアン値の差は小さくp値もそれほど低くはないが、ハザードレシオは良い。尚、この試験は元々は単剤投与試験で併用群は途中で追加されたのだが、単剤投与群の方が効果が無く、投与量が80mg/m2(二週間に一回投与)ではなく120mg/m2(三週間に一回投与)であるせいか、有害事象の程度が併用群と比べても重かったようだ。

MM-398は台湾のPharmaEngine社からライセンスしたもの。不思議なのは、Merrimackのプレスリリースでは台湾以外の全世界の開発販売権を持つと記されているが、PharmaEngineのリリースには2011年にアジアと欧州の権利を供与したことしか記されていないことだ。Merrimackの10-K(年次報告書)によれば09年のHermes BioSciences買収で米国権も入手したとのことだが、見解の相違があるのかもしれない。

リンク:Merrimackのプレスリリース

リンク:PharmaEngineのプレスリリース(pdfファイル)

BMS、年内にnivolumabの承認申請を開始へ

(2014年4月29日発表)

ブリストル・マイヤーズ・スクイブは、2014年第1四半期の決算発表に合わせて、BMS-936558/ONO-4538(nivolumab)を扁平上皮性非小細胞性肺癌のサルベージ治療用薬として年内に米国でローリング承認申請を開始する予定であることを明らかにした。第二相試験のデータに基づくもので、結果をFDAに見せて相談した上で申請を決定した模様。

ローリング承認申請は承認申請に必要な三種類の資料のうち、出来上がったものから逐次提出して承認審査を受けるもので、例えば品質検査手法の妥当性検証が未了でも、治験報告が完成していれば着手することができる。第二相のデータがあるなら年内と言わずにもっと早い段階で申請開始できそうなものだ。何か公表されていないボトルネックがあるのかもしれない。

nivolumabは小野薬品との共同研究から生まれた抗PD-1完全ヒト化抗体。悪性黒色腫を始め様々な癌向けに大型化が期待されているが、MSDが類薬のローリング承認申請を既に開始している。それだけに、今回のBMSの発表は投資家にネガティブに受け止められた。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


cangrelorは承認されず

(2014年4月30日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は点滴用P2Y12阻害剤cangrelorをPCI補助療法として承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領した。CHAMPION PHOENIX試験で48時間虚血性イベントを有意に減らしたが、FDAは治験のデザインや実施内容、データ管理、フェールしたCHAMPION試験で用いられた製剤との生物学的同等性などに関して、エビデンスが不十分と判定した模様だ。2月の諮問委員会で反対が多数を占めたことを考えれば、驚きではない。

尚、Plavix(clopidogrel)を服用している患者が手術を受けるために休薬しなければならない時にclopidogrelで代用する手法も承認申請されたが、エビデンスが不十分であるため、承認されなかった。

リンク:メディスンズ・カンパニーのプレスリリース

エンドサイト/MSDの新薬、EU承認を前に黄信号

(2014年5月2日発表)

エンドサイト(Nasdaq:ECYT)と開発販売パートナーのMSDは、Vynfinit(vintafolide)の第三相試験が中間解析で無益判定されたことを明らかにした。3月にEUのCHMPが条件付き承認に肯定的評価を出したばかりだが、承認に黄信号が点った。

VynfinitはビタミンB9とアルカロイド系細胞毒を結合したもので、前者が腫瘍細胞の葉酸受容体に結合し、後者が腫瘍細胞選択的に攻撃する。葉酸受容体陽性のプラチナ抵抗性卵巣癌にDoxil(doxorubicin)と併用する効果を検討した後期第二相試験で、全標的病変が葉酸受容体陽性だった患者(全体の約4割)のPFS(無増悪生存期間)がメジアン5.5ヶ月とDoxilだけの群の1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.38、p=0.018と良い結果になった。

しかし、全生存期間の解析はフェールし、また、Doxilの投与量に群間の偏りがあるなど、はっきりしない点もあった。そもそも、このサブグループ分析の信頼性は高そうには見えない。十分なサンプルサイズを持つ前向き試験で確認すべきではないかと私は思っていたので、CHMPが肯定的意見を出したのは意外だった。

今回、事前に定められたプロトコルに則って第三相薬効確認試験の中間解析を行ったところ、続行しても成功する見込みは極めて小さいことが判明した。対象疾患も、用法も、評価項目も同じなので、結局、後期第二相試験のPFSデータがノイズに過ぎなかった可能性が高い。

バイオマーカーを用いて抗癌剤の応答性を予測する研究は活発なので、今回と同様なケースは今後も発生するだろう。CHMPは事後的分析のデータを受け入れることがしばしばあるが、FDAは十分な検出力を持つ前向き試験を行って確認することを求めることが多い。CHMPも今回のような経験を経て、考え方を変えるのではないだろうか。

リンク:両社のプレスリリース

FDA諮問委員会はシングレアのOTCスイッチに反対

(2014年5月2日開催)

FDAの非処方薬諮問委員会は、MSDが申請していたSingulair(montelukast)のRx-OTCスイッチを検討し、15人の委員中11人が承認に反対した。適応は成人のアレルギー性鼻炎だけで、処方薬の適応である喘息症や通年性アレルギー性鼻炎、幼小児アレルギー性鼻炎は対象外だが、諮問委員はこれらの患者が使ってしまうリスクや、近年注目されている精神学的有害事象リスクを懸念した模様だ。

この精神学的有害事象はリューコトリエン阻害剤のクラス・イフェクトと考えられていて、市販後有害事象報告の分析に基づいて09年に処方薬のレーベルが改定、事前注意事項として記載された。具体的には自殺思慮・行動、鬱病、不安症、振戦などで、薬物関連疑い例もあった模様だ。

【承認】


ノバルティス、ALK阻害剤が米国で承認

(2014年4月29日発表)

ノバルティスは、FDAがZykadia(ceritinib)を承認したと発表した。変異ALK陽性の非小細胞性肺癌で、ファイザーのALKALK阻害剤であるXalkori(crizotinib)に不応・不耐の患者に用いる。承認申請の根拠となった第二相試験では、反応率54%、反応持続期間はメジアン7.4ヶ月だった。一次治療試験も進行中。

ZykadiaはALK阻害剤で、染色体転座などにより活性が極めて高くなったALKを阻害、腫瘍の成長を妨げる。非小細胞性肺癌は肺癌の8~9割を占め、ALK陽性はその2~7%に過ぎない。ヒット率がこんなに低いと保険組織に検査しても無駄と言われかねないが、非小細胞性肺癌の分子標的薬はEGFRやkrasの変異状況に応じて薬を使い分ける時代になったことが追い風だ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

GSK、Incruseが欧米で承認

(2014年4月28日発表)

GSKは、Incruse(umeclidinium)がCOPDの維持療法薬として欧米で承認されたと発表した。吸入用長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)で、Ellipta吸入器を用いている。

同種の薬ではベーリンガー・インゲルハイムのSpiriva(tiotropium)が大成功しているが、今回の承認内容を見ると、注意すべき点も多いことが分かる。LAMAは不整脈のリスクがあり、Incruseの試験では重度心血管疾患を持つ患者は除外された。尿滞留や狭角緑内障の患者は病状が悪化する可能性があるので要注意。気管支拡張剤は逆に気管支収縮が発生することがあるので、発作が重かったり悪化している時は使うべきではない。Incruseはミルク蛋白に過敏反応を持つ患者は禁忌。

リンク:EU承認のプレスリリース(4/28付)

リンク:米国承認のプレスリリース(4/30付)

大塚の抗結核薬がEUで承認

(2014年4月30日発表)

大塚製薬は、Deltyba(delamanid)がEUで条件付き承認されたと発表した。既存薬に不応・不耐の多剤抵抗性肺結核の治療に用いる。細胞壁のミコール酸を標的とする新しいタイプの抗菌剤で、第二相試験のデザインがあまりキチンとしてなかったためCHMPは当初、否定的意見を出したが、その後、肯定的意見に転じた。第三相試験の結果は2016年の見込みで、成功なら本承認に切り替わることになる。

リンク:大塚製薬のプレスリリース(和文)

今週は以上です。

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