2014年5月18日

海外医薬ニュース2014年5月18日号

 



【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:nivolumabの株が下がる
  • ASCO:イーライリリーのnecitumumabの効果は限定的
  • ASCO:武田のTAK-700は二本とも第三相フェール
  • ファイザー、CDK4/6阻害剤を承認申請へ
  • イーライリリー、LY2605541がランタスに勝った
  • GSK、Lp-PLA2阻害剤は二本目の第三相もフェール
  • Kythera、二重顎治療薬を米国で承認申請
  • ノバルティス、serelaxinは承認されず
  • JNJ、ソブリアードがEUでも承認


【新薬開発】


ASCO:nivolumabの株が下がる

(2014年5月14日発表)

ASCOの抄録が一般公開され、各社がプレスリリースを出すと共に、メディア向けのマル秘ブリーフィングも行われたようだ。第一の注目は、BMSが小野薬品と共同開発した抗PD-1トランスジェニック・マウス抗体、BMS-936558/MDX-1106/ONO-4538(nivolumab)の後期第一相試験、第二相試験のデータ。非小細胞性肺癌については弱点も散見された。腎細胞腫については抗CTLA-4トランスジェニック・マウス抗体Yervoy(ipilimumab)併用で良さそうな結果が出た。

非小細胞性肺癌の後期第一相一次治療試験のうち、単剤投与群では、PD-L1陽性癌(20例中10例)のORR(反応率)が50%であったのに対して、陰性(7例、残りの3例は判定不能)ではゼロだった。同じ現象は他社の抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体でも見られるので、少なくとも肺癌に関しては、このタイプにしか効かないのだろう。

この弱点はYervoyを併用することで対応できるかもしれない。Yervoyを併用した群では用量の組み合わせや細胞の種類(扁平上皮腫/非扁平上皮腫)によってORRが7~25%となり、PD-L1発現状況との関連性は見られなかった模様だ。一方で、忍容性は良好とは言えず、G3以上の治療関連有害事象が22例、48%の患者で発生、16例は治験離脱となり、3例は致死的だった(呼吸不全、気管支肺出血、中毒性表皮剥離症)。

両剤の用量は、nivolumabが1mg/kgとYervoyが3mg/kgの群と、用量が逆の群が設定されていたが、昨年9月に1mg/kgずつ併用する群が追加された。どちらの薬も至適用量が明確になっていないので、減量することで忍容性を緩和し薬効は維持することができるかどうか、注目される(BMSのプレスリリースや抄録にはデータが出ていない)。尤も、併用群は症例数が少ないので信頼性は今一つ。

併用試験の難点は、どちらの薬の寄与なのか分かり難いことだ。PD-L1陽性でも陰性でも大差ないなら、PD-L1陽性には単剤投与で十分だろう。陰性に対する効果はYervoy単剤投与と同じ可能性も考えられるので、今後の報告が注目される。何れにせよ、肺癌未承認のYervoyとの併用で開発が先行というBMSのアドバンテージは、それほど重要ではなくなった。悪性黒色腫では承認されているので他社も自由に併用試験を行える。

腎細胞腫は後期第一相Yervoy併用試験と第二相単剤投与試験のORRが明らかになった。前者は治療未経験者と経験者が対象で、ORRは43~48%だった。後者は血管新生阻害剤による治療を経験済みの患者168人を組入れた比較的大きな試験で、ORRは20~22%だった。用量は三種類テストしたが用量反応相関は見られなかったようだ。どちらも中々良い。

nivolumabは扁平上皮非小細胞性肺癌の第二相単剤投与試験のデータに基づいてローリング承認申請される見込みだが、PD-L1陽性以外には効かないとなると、薬効を評価する上でPD-L1陽性例のサンプル数不足や、検査方法の妥当性・信頼性がボトルネックになるかもしれない。

様々な用途で第三相試験中なので、整理しておこう。非小細胞性肺癌の第三相は今のところ単剤投与だけで、扁平上皮腫とそれ以外の二次治療試験が進行中。前者は16年、後者は15年夏ごろに結果が判明するのではないか。どちらもdocetaxel併用試験なのでハードルは低くない。ここでも、PD-L1陽性癌だけの解析でも十分な検出力を持っているかどうかがポイントになりそうだ。一次治療試験と安全性試験(投与を1年で止める群と不応不適になるまで続ける群を設定)も今年、始まった。

悪性黒色腫ではYervoy経験者を対象とした単剤投与試験が15年下期に、一次治療試験は単剤投与試験が15年下期、Yervoy併用試験は16~17年頃に、結果が出るのではないか。腎細胞腫(血管新生阻害剤経験者)と扁平上皮頭頸部癌(白金薬経験者)は16年になりそうだ。

nivolumabは日本では小野薬品が昨年12月に第二相悪性黒色腫試験の結果に基づいて承認申請済み。

リンク:BMSのプレスリリース(非小細胞性肺癌)

リンク:ASCO抄録(非小細胞性肺癌単剤投与)

リンク:ASCO抄録(同、Yervoy併用)

リンク:BMSのプレスリリース(腎細胞腫)

リンク:ASCO抄録(腎細胞腫単剤投与)

リンク:ASCO抄録(同、Yervoy併用)

ASCO:イーライリリーのnecitumumabの効果は限定的

(2014年5月14日発表)

イーライリリーは、ASCOで発表されるnecitumumabの第三相試験の結果概要を発表した。イムクローン買収で入手した抗EGFR抗体で、第三相は扁平上皮非小細胞性肺癌とそれ以外の非小細胞性肺癌の二本の一次治療試験が行われ、後者は中止、前者は成功したことが既に発表されていた。

扁平上皮とそれ以外を分けるのは標準療法が異なるからだ。扁平上皮以外の試験はイーライリリーのAlimtaとcisplatinの併用群と更にnecitumumabを併用する群を比較したが、中間解析で血栓性疾患のリスクが見られ、効果も不十分であったため中止された。扁平上皮の試験はgemcitabineとcisplatinを併用する欧州的な標準療法と三剤併用を比較したところ、メジアン生存期間が9.9ヶ月と11.5ヶ月、ハザードレシオ0.84、p=0.012となった。

p値が0.05未満なので統計的には有意だが、それほど良い数値ではなく、再現性が確認されていない点も弱い。ORRは有意差なし、PFSはp=0.02で有意だがメジアン値の差は0.2ヶ月に過ぎないので、効果のほど満足できるものではない。扁平上皮非小細胞性肺癌に有効な薬は限られているので効果が小さくても価値があるのかもしれないが...

イムクローンは抗EGFRキメラ抗体Erbitux(和名エルビタックス、cetuximab)を結腸直腸癌や扁平上皮頭頸部癌に開発、米国ではBMS、欧州などではドイツのメルクと共同販売している。非小細胞性肺癌で複数の第三相試験が実施されたが結果は区々で、米国でも欧州でも承認されなかった。Dyaxのファージディスプレイ・ライブラリーを利用して開発されたnecitumumabが肺癌で承認されれば共存できることになるが、可能性は高くないのではないだろうか。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リンク:ASCO抄録

ASCO:武田のTAK-700は二本とも第三相フェール

(2014年5月16日発表)

武田薬品は非ステロイド系17.20-リアーゼ阻害剤のTAK-700(orteronel)で二本の第三相去勢抵抗性前立腺癌試験を行った。化学療法経験者のポスト・キモ試験は昨年、中間解析で打ち切られたが、経験前のプリ・キモ試験もフェールしたことが発表された。どちらも放射線学的PFSでは有意差があったが、全生存期間の解析はフェール。残念な結果になった。

ASCOでポスター発表だけが行われるポスト・キモ試験の地域別解析の抄録を読むと、欧州の施設では延命効果が見られなかったが、米国は症例数がもっとあれば有意差が出たかもしれず、それ以外の地域ではp=0.019なので決して悪くは無かった。これが実力なのか、ノイズなのか、興味のあるところだ。TAK-700はSWOGが新患の第三相アンドロゲン枯渇療法併用試験を実施しているようなので、この結果が出れば話が変わるかもしれないが、この分野は続々と新薬が登場しているので、被験者候補が他の試験に行ってしまうかもしれない。

リンク:
武田のプレスリリース(和文、pdfファイル)


リンク:ASCO抄録(プリ・キモ)

リンク:ASCO抄録(ポスト・キモ地域別解析)

ファイザー、CDK4/6阻害剤を承認申請へ

(2014年5月16日発表)

ファイザーはCDK4/6阻害剤PD-0332991(palbociclib)を米国で承認申請することを発表した。第1/2相試験のデータに基づくもので、FDAとの相談で感触が良かったのだろう。

CDK4/6はサイクリン4とサイクリン6を阻害して細胞周期がG1期からS期に進行するのを阻害する。この第1/2相試験の第2相ポーションでは、局所進行性/転移性乳癌でエストロゲン受容体陽性且つher2陰性の閉経後患者を対象に、Femara(letrozole)だけを投与する群とpalbociclibを併用する群を比較した。

ORRは各31%と45%、PFS(無増悪生存期間)はメジアン7.5ヶ月と26.1ヶ月でハザードレシオ0.37、p値は0.001未満と大変良い結果になった。全生存期間はメジアン33.3ヶ月と37.5ヶ月、ハザードレシオ0.813だったが、検出力不足でまだ有意差は出ていない(p=0.2105)。この成績に基づいてFDAのブレークスルーセラピー指定を受けている。

同じ内容の第三相試験と、fulvestrant併用で二次治療試験も進行中。経口剤なので早期乳癌切除術後のアジュバント療法にも適していそうだ。

リンク:ファイザーのプレスリリース

イーライリリー、LY2605541がランタスに勝った

(2014年5月12日発表)

イーライリリーは、Humalog(insulin lispro)の活性成分をPEG化したLY2605541(peglispro)を食事時インスリンではなく基礎インスリンとして開発しているが、二型糖尿病の第三相試験三本が成功したと発表した。

夫々、インスリン未経験者、基礎インスリン使用者、基礎インスリンと食事時インスリンの両方使用者を組入れて血糖管理をサノフィのLantus(insulin glargine)と比較したところ、非劣性であることが確認された。優越性解析も成功したので、Lantusに勝ったことになる。

有害事象は、夜間の低血糖や体重増加は有意に少なかった。脂質影響は若干大きいようだが、二型糖尿病試験の心血管メタアナリシスで95%上限が1.8を下回った(FDAが承認前に心血管アウトカム試験を実施するよう求める可能性は低いことを意味する)。ALT上昇例がLantus群より多かったが、Hyの法則該当例は無かった(総ビリルビン上昇を伴うなどの条件を満たす症例が発生した場合、FDAが承認しないリスクが高まる)。

インスリンの長所は効果が青天井であることなので、実薬対照試験で有意な差が出るのは違和感がある。夜間低血糖が少ない分、高量を投与できたのかもしれないが、併用薬の強度の違いなど、ノイズが発生した可能性もある。データは未発表なので、臨床的に重要な差ではない可能性も残っている。

イーライリリーは、一型糖尿病試験の結果を待って15年に承認申請する予定。

イーライリリーはベーリンガー・インゲルハイム(BI)と糖尿病分野で共同開発販売提携しているが、LY2605541はBIが権利を返還した。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

GSK、Lp-PLA2阻害剤は二本目の第三相もフェール

(2014年5月13日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Tyrisa(GSK480848、darapladib)の第三相急性冠症候群試験がフェールしたことを発表した。冠状心疾患安定期の患者を組入れた試験も昨年、フェールしており、おそらく開発中止になるだろう。

今回のSOLID-TIMI 52試験は、もう一本の試験で脳卒中を防ぐ効果が見られなかったため、主評価項目から脳卒中を除外して冠状心疾患死、非致死的心筋梗塞、そして緊急冠血行再建術だけをカウントしたが、駄目だった。結局、安定期試験で脳卒中以外は良い結果が出たのはノイズだったのだろう。ポストホック・サブセグメント分析は当てにならない。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認申請】


Kythera、二重顎治療薬を米国で承認申請

(2014年5月12日発表)

Kythera(Nasdaq:KYTH)は、ATX-101(deoxycholic acid)を米国でおとがい(頤)下脂肪治療薬として承認申請したと発表した。天然の脂肪分解物質であるデオキスコール酸の類縁体で、二重顎の原因になるおとがい下脂肪領域に月一回、最大で4回、注射する。第三相試験二本では、奏効率が67~70%と偽薬群の18~22%を有意に上回った。

バイエルの皮膚科用薬子会社が10年に欧州などの権利をライセンスしたが、14年に返還を受けた。

リンク:Kytheraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ノバルティス、serelaxinは承認されず

(2014年5月16日発表)

ノバルティスはserelaxinを急性非代償性心不全の治療薬として承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。第三相試験のデザインや結果が不適切で薬効のエビデンスとしては不十分と判定されたようだ。3月の諮問委員会で11人の委員全員が承認に反対したことや、欧州もCHMPが否定的意見を纏めたことを考えれば、予想された結果だ。追加試験が進行中なので、来年以降に結果が出るのを待つことになりそうだ。

serelaxinは遺伝子組換え型ヒトrelaxin-2。第三相試験の結果が学会発表された時は、急性心不全領域で久々の快挙と歓迎されたが、実際の効果はヘッドライン・データほど良くは無かったようだ。薬効判定方法や解析方法の妥当性は何十万頁という承認申請資料を読む承認審査機関にしか分からないので、こんなことも起きる。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【承認】


JNJ、ソブリアードがEUでも承認

(2014年5月16日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Olysio(simeprevir、和名ソブリアード)がEUでも1型と4型の慢性C型肝炎治療薬として承認されたと発表した。Medivirからライセンスしたプロテアーゼ阻害剤で、HIVに感染していない患者には、先に承認されたギリアッドのsofosbuvirと併用(ribavirinと三剤併用も可)で12週間、経口投与するだけで足りる。

HIVと共感染している患者は、PEG化インターフェロンとribavirinの三剤併用で24週間投与、但し、一次治療で一度も奏功しなかった患者の二次治療に用いる時は48週間投与する。

Olysioは昨年9月に日本で、11月には米国で、承認された。他のプロテアーゼ阻害剤と異なり一日一回服用であることが長所だが、NS3プロテアーゼのQ80K置換型には効果が弱い。米国の1a型ウイルスではしばしば見られる変異のようだが、欧州や日本ではどうなのだろうか。

リンク:JNJのプレスリリース

今週は以上です。

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