2014年4月5日

海外医薬ニュース2014年4月5日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ノバルティス、心不全治療薬の第三相が成功
  • アムジェン、ウイルス療法薬の全生存解析は惜しくも未達
  • GSK、癌治療用ワクチンの肺癌試験を中止
  • JNJ、プリジスタ配合剤を承認申請
  • アステラス、EUでイクスタンジの適応拡大申請
  • FDA諮問委員会が吸入用インスリンを支持
  • FDA諮問委員会がキュービストとDurataの抗生剤を支持
  • GSK、ヴォトレントの卵巣癌適応拡大申請を撤回
  • 減感作療法用の舌下錠が米国にも上陸
  • バイエル、EUがAdempasを承認


【新薬開発】


ノバルティス、心不全治療薬の第三相が成功

(2014年3月31日発表)

ノバルティスは、LCZ696の第三相試験のデータ監視委員会が中間解析で主目的達成と認定、繰上完了を勧告したと発表した。慢性心不全で駆出率減少の見られる患者8436人を組入れた大規模な試験で、心血管疾患による死亡あるいは心不全による入院のリスクをACE阻害剤enalaprilと比較したもの。データは未公表だが、もし標準療法やenalaprilの投与がキチンと行われているようならば、そして臨床的に意味のある治療効果が確認できたのならば、一歩前進だ。ノバルティスは当局と今後を相談する考え。

LCZ696は同社のDiovanの活性成分であるvalsartanとAHU-377を一つの分子にしたもので、服用後に分離し前者はアンジオテンシンII受容体拮抗剤として、後者は活性代謝物LBQ657が中性エンドペプチターゼ(NEP)阻害剤として作用する。第三相試験で用いられた200mg(一日二回服用)は、アンジオテンシンII受容体拮抗力ではvalsartanの320mg(一日一回)と同程度だが、降圧は上回る。

両群の血圧に差があった場合、アウトカム改善作用が降圧によるものなのか、試験薬の臓器保護作用によるものなのかが議論になるだろう。他の降圧剤の併用状況に偏りがあった場合、医師が各地域の治療ガイドラインに則った最適な治療を行ったかどうかも検証されることになるだろう。

NEP阻害剤はブラディキニンを増やすので血管浮腫に気を付ける必要がある。BMSが開発したACE/NEP阻害剤のVanlev(omapatrilat)は、稀だが深刻な血管浮腫が特にアフリカ系人種で見られたため、FDAが承認せず開発中止になった(死亡・心不全入院予防効果がenalaprilを上回らなかったことも承認されなかった理由だが)。ACE阻害剤もブラディキニンを増やすので悪いシナジーが生まれたのかもしれない。

LCZ696の過去の試験では見られなかった模様だが、今回のデータで確認する必要があるだろう。グローバル試験はアフリカ系の人種構成が米国のそれより低くなりがちなので、全体の発生率ではなくアフリカ系のデータが重要だ。

今回の試験は検出力が高いため、三回目の中間解析で心血管死・心不全入院の有意差を確認できたこと自体は驚きではない。注目は、心血管死予防効果だ。この試験は十分な検出力を持っているが、一部報道によれば、データ監視委員会が中止勧告をしたのは心血管死予防効果が確認されたからだという。もし本当ならば、そして、上記の点に問題が無いならば、慢性心不全の標準療法薬としてマストになる可能性が高い。

慢性心不全の患者は欧米で2000万人以上。半分の患者で駆出率減少が見られるとのことだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

アムジェン、ウイルス療法薬の全生存解析は惜しくも未達

(2014年4月4日発表)

アムジェンは、talimogene laherparepvecの全生存解析がフェールしたと発表した。

この薬はGM-CSFの遺伝子を組込んだ遺伝子組換え型単純ヘルペスウイルスで、腫瘍内に直接注射すると、増殖して腫瘍細胞を破壊する。やがて細胞外に飛び出しGM-CSFを分泌して免疫刺激するため、周辺の腫瘍細胞にも効果があるようだ。正常の細胞では増殖しないようだ。

第三相試験では、切除不能でステージIIIB、IIIC、IVの悪性黒色腫を組入れてGM-CSF皮注群と持続的反応率を比較したところ、16%対2%で有意に上回った。副次的評価項目であり抗癌剤にとって最も重要な全生存の解析は、その時点ではハザードレシオ0.79だが有意差は未だ出ず、13年11月に発表された中間解析でもHR0.79、p=0.07、メジアン生存期間23.3ヶ月対19.0ヶ月だった。

今回もp=0.051で有意水準に届かなかった。HRやメジアン値の差は中間解析と大差なかったようだが、延命効果が確認されなかった以上、この試験のデータを元に承認を取得するのは容易ではないだろう。持続的反応率の改善が生活品質の向上に繋がることを立証し、深刻な有害事象の発生率が26%対13%と高く、奏効した人よりも多いことを正当化する必要がありそうだ。

リンク:アムジェンのプレスリリース

GSK、癌治療用ワクチンの肺癌試験を中止

(2014年4月2日発表)

グラクソ・スミスクラインは、MAGE-A3ワクチンの非小細胞性肺癌第三相試験を中止すると発表した。三種類の主評価項目のうち、全ユニバース及び化学療法未施行サブグループにおける無病生存期間延長効果の解析がフェールしたことは先に発表済みだが、今回、特定の遺伝子シグナチュアを持つ患者の解析も断念した。解析を担当する治験から独立した第三者が、治療効果が不十分で解析のやりようがないと判定した様子だ。

MAGE-A3は癌の表面抗原であるMAGE-A3を配合したワクチンで、悪性黒色腫でも第三相試験が行われたが、延命効果は確認されず、もう一つの主評価項目である特定の遺伝子シグナチュアを持つ患者の解析が2015年に予定されている。こちらの試験は続行されるようだ。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認申請】


JNJ、プリジスタ配合剤を承認申請

(2014年4月1日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、抗HIV薬Prezista(darunavir、和名プリジスタ)とギリアッドからライセンスした3A4阻害剤cobicistatの合剤を米国で承認申請した。EUでも承認審査中。

Prezistaのようなプロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低く、多くの量を一日に何回も服用する必要があったが、アボットの抗HIV薬ritonavirを少量併用することで代謝を遅らせ効果を長持ちさせるritonavirブーストという手法が広がり、ピルバーデンが改善した。アボットは新開発のプロテアーゼ阻害剤との合剤、Kaletra(lopinavir・ritonavir合剤、和名カレトラ)を発売し更に改善したが、他社はギリアッドがcobicistatを開発するまで追随できなかった。

ギリアッド自身に加えてBMSもcobicistat配合剤を開発しており、今後の主流になるだろう。

リンク:JNJのプレスリリース

アステラス、EUでイクスタンジの適応拡大申請

(2014年4月3日発表)

アステラス製薬は、メディベーション(Nasdaq:MDVN)からライセンスした経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を化学療法施行前の去勢抵抗性前立腺癌に用いる適応拡大申請を行った。第三相試験では全死亡のハザードレシオが偽薬比0.71で統計的に有意な差があった。

メディベーションと共同販売する米国でも申請されるだろう。日本で3月に承認されたが、添付文書に化学療法施行前の患者に対する有効性や安全性は確立していないと記されているので、恐らく日本でも適応拡大申請されることになるだろう。

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が吸入用インスリンを支持

(2014年4月1日発表)

FDAの内分泌学代謝薬諮問委員会は、マンカインド社(Nasdaq:MNKD)が糖尿病薬として承認申請した吸入用インスリン、Afrezzaを検討、一型糖尿病については賛成13名、反対1名、棄権1名の多数で、二型については賛成14名、棄権1名で、承認を支持した。無事承認されれば、ファイザーが07年にExuberaの販売を中止して以来7年振りの注射の要らないインスリン製品となる。

ファイザーの販売中止は商業的な理由だが、副作用被害を受けた患者が続々と提訴して巨額の訴訟費用や損害賠償金を負担するリスクも商業的な理由と言えないことはないので、真意は分からない。何れにせよはっきりしているのは、吸入インスリンに肺がんリスクがあるのかないのか、確認できなくなってしまったことだ。

数年前に持効性インスリンの疫学的試験で懸念が浮上したことがある。その後の各種疫学的試験では確認されず否定されたが、インスリンは細胞成長因子なので、細胞を癌化するリスクが無かったとしても、運悪く癌になった人の寿命を短くするリスクはあるかもしれない。吸入用インスリンの場合は肺癌が特に注目される。Exuberaの試験では、100人年当り0.13例と対照群の0.02例より6倍多かったので、疑う理由はある。FDAや諮問委員もリスクが無いとは思っていないようなので、安全性の挙証は市販後にマンカインド、医師、患者が負うことになる。

リンク:マンカインドのプレスリリース

FDA諮問委員会がキュービストとDurataの抗生剤を支持

(2014年3月31日発表)

FDAの抗感染症薬諮問委員会は、キュービスト(Nasdaq:CBST)とDurata(Nasdaq:DRTX)が夫々に承認申請した抗生物質を検討、全員一致で承認を支持した。

キュービストのSivextro(tedizolid phosphate)は、韓国の東亞製薬(Dong-A Pharmaceuticals)から韓国北朝鮮以外の地域での権利を取得してグラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の治療薬として開発したもの。ファイザーのZyvox(linezolid)の第二世代品とされ、静注用製剤と経口剤が用意されている。MRSAにも活性を持つ。

第三相試験のうち経口剤試験は、200mgを一日一回、6日間投与したところ、Zyvoxを一日二回、10日間投与した群と臨床的反応率が非劣性だった。点滴用製剤同士の比較も非劣性だった。公認感染症用医薬品(QIPD)資格を持っており、承認されたら排他権期間が通常より5年間、延長される。

リンク:キュービストのプレスリリース

DurataのDalvance(dalvancin)はバンコマイシン系の点滴用抗生物質で、MRSAにも活性を持つ。ファイザーが企業買収によって入手し承認申請したが再試験を求められ、09年にDurataに開発販売権を譲渡した。グラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の第三相試験が二本実施され、何れもZyvoxと非劣性だった。初日と第8日に30分点滴投与する。

リンク:Durataのプレスリリース

GSK、ヴォトレントの卵巣癌適応拡大申請を撤回

(2014年3月31日発表)

グラクソ・スミスクラインはVEGFR阻害剤Votrient(pazopanib、和名ヴォトリエント)をステージII~IV卵巣癌の一次治療奏功者の維持療法としてEUで承認申請していたが、撤回した。第三相試験ではPFS(無増悪生存期間)のハザードレシオが0.77、メジアン値が17.9ヶ月と偽薬群の12.3ヶ月を上回ったが、その時点では延命効果が見られなかった。

未成熟(有意差を出すために必要なイベント数に到達していない)ことが原因である可能性もあったが、二回目の中間解析でもHR1.076、p=0.49となり、最終解析で良い結果が出る可能性が乏しくなった。

PFSという評価項目は広く用いられているが、必ずしも延命効果に結び付くとは限らない。進行後の生存期間が長い癌の場合はその後の治療も影響するが、PFSが長いということは次の治療を開始する時期は遅くなることを意味する。治療の副作用が発生すると、その後の治療の選択肢が狭まる。薬のタイプにもよるのだろうが、VEGFを阻害する薬ではPFSが延びたが延命効果は確認できず、というケースが増えてきている。

評価を客観的に行うために腫瘍の大きさなど定量的な指標に基づいて判定されるので、PFSは必ずしも症状の改善を意味せず、その意味で、無増悪生存期間という呼び方は適切ではない。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認】


減感作療法用の舌下錠が米国にも上陸

(2014年4月1日発表)

フランスのStallergenes社は、OralairがFDAに承認されたと発表した。アレルギー性鼻炎(結膜炎合併例も含む)の減感作療法で、アレルゲンを少量ずつ毎日投与することで免疫寛容を目指す。注射用製剤が一般的だが、欧州では舌下錠も普及し始めており、米国はOralairが初承認。

ルガヤ、カモガヤ、多年生ライ麦、チモシー、ケンタッキー青草の5種類から抽出されたアレルゲンを含有しており、これらにアレルギーを持つ患者が、シーズンの40日前から一日一回、シーズンが終わるまで服用する。命に係ることもあるアナフィラキシーが発生する可能性もあるので、初回は医療施設で服用し、30分間様子を観察する。二回目以降は在宅服用が可能だが、万が一アナフィラキシーが発生した時に備えて、エピネフィリン(アドレナリンの米名)のオートインジェクターも処方し患者に使い方を教えておく必要がある。

MSDもデンマークのAlk Abelloからライセンスした舌下錠を二種類、承認申請したが一つはチモシー、もう一つはブタクサだけを含有している。塵ダニ用も開発中。欧米の患者はチモシー、ブタクサ、イエダニが多いので、対象患者合計数はOralairと大差ないかもしれない。日本人としてはスギ花粉アレルギー用の開発状況が気になるが、夫々のライセンシーである塩野義製薬と鳥医薬品が取り組んでいる模様だ。

画期的な薬が登場するとメディアが賛美するが、不都合な真実は語られない傾向があるので、私たちは気を付けなければならない。日本でも健康バラエティ番組で減感作療法舌下錠の話を聞くようになったが、アナフィラキシーのリスクは聞いたことが無い。注射用より発生率が低いのかもしれないが、ゼロではない。既知のリスクから目を背けると、子宮頸がんワクチンの二の舞になる心配がある。

リンク:Stallergenesのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース(4/2付)

バイエル、EUがAdempasを承認

(2014年3月31日発表)

バイエルは、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤Adempas(riociguat)がEUで二種類の肺高血圧症に承認されたと発表した。一つは手術不能または手術不応・再発の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)。もう一つは肺動脈高血圧症。CTEPHは肺血栓内膜摘除術が有効だが、薬物療法の選択肢が承認されたのは初めて。



リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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