2014年4月27日

海外医薬ニュース2014年4月27日号

【ニュース・ヘッドライン】




  • GSKとノバルティスがアセットスワップ
  • ワーファリンの遺伝子検査は不要?
  • ALSの臨床試験がまたフェール
  • アッヴィがC型肝炎の多剤併用療法を承認申請
  • キュービストが複合セファロスポリンを承認申請
  • CHMPがグラクソの抗癌剤などの承認を支持
  • FDAがイーライリリーの抗癌剤を承認
  • JNJの抗IL6抗体がキャッスルマン病に承認


【今週の話題】


GSKとノバルティスがアセットスワップ

(2014年4月22日発表)

グラクソ・スミスクラインとノバルティスは、グラクソがノバルティスに腫瘍学製品を145億ドル+達成報奨金15億ドルで売却し、ノバルティスはワクチン事業(インフルエンザ関連を除く)を52.5億ドル+達成報奨金18億ドル+売上ロイヤルティで売却、更に、両社のOTC事業をグラクソが63.5%保有する合弁会社化することで合意した。伸び悩んでいる事業を売却し得意分野を増強する。

ノバルティスはサンドとチバガイギーが95年に合併して以来、トップに君臨したダニエル・バゼラが退任し、新経営陣の下、事業領域の見直しを進めている。バゼラは医師出身で医療に必要なもの、社会的責任を果たすために必要な事業は網羅するという志から、呼吸器疾患やウイルス病、ワクチン事業などに積極的に取り組んできたが、カイロン社を買収して本格参入したワクチン事業は未だ大きな成果を上げていない。

グラクソは元々は吸入用薬や抗ウイルス薬など特殊医薬品を志向しニッチ分野で高いシェアを取る戦略だったが、歯磨きやスポーツ飲料、OTC薬など幅広い事業分野を持っていたスミスクラインと合併して以来、多角化経営を受け入れるようになった。新薬開発では高リスク高リターンのプロジェクトと低リスク低リターン・プロジェクトを組み合わせるポートフォリオ戦略を採用したが、前者は殆どがフェールし、二番煎じ、三番煎じの新薬を数多く発売する結果になった。

腫瘍学は殆どの大手製薬会社が最も重視する領域の一つで、研究が進み新薬開発のタネが数多く発見されている。価格が高く利益率が著しく高い。手放すのはもったいないようにも見えるが、グラクソは一部の製品を除けば先行品との差別化ができないものばかりなので拘る必要はないと判断したのだろう。新薬発売が活発な分、併用試験の費用もかさむ。研究開発は続けるので将来、本格復帰するかもしれないが、よほどの大型薬が登場しない限り、オプト・イン権を持つノバルティスに販売を委ね、研究開発も徐々に縮小するのではないか。

丁度、アストラゼネカが抗PD-L1モノクローナル抗体のMEDI4736で扁平上皮非小細胞性肺癌の第三相試験を開始したことを発表した。BMSが先鞭を付けた抗PD-1抗体ではMSDが一足先にローリング承認申請を開始し、受容体ではなくレガンドに結合する抗PD-L1抗体でも競争が激化してきた。アストラゼネカのように、先行する企業の治験成績と自社開発品の後期第一相試験の成績をブリッジングして一気に第三相に進む手法が一般化しており、腫瘍学でもパイオニアの先行利潤が小さくなってきているので、グラクソの決断も一理ある。

グラクソは売却資金を原資に40億ポンド(67億ドル)程度を自己株買いの形で株主に還元する。ノバルティスは動物薬事業をイーライリリーに54億ドルで売却することも決め、インフルエンザワクチン事業も独占禁止法上の問題が発生しない会社に売却するだろうから、資金支出は数十億ドル程度に留まることになる。

他社が動物薬や医療機器事業をスピンアウト・売却するのを静観していたノバルティスとグラクソがアセットスワップに乗り出したことで、大きな流れが固まった。次は、選択し集中する事業分野でどんな手を打つかだ。ファイザーがアストラゼネカに買収を打診した旨、報じられているが、本当にそれが次の一手になると考えているのか、事態の進展が注目される。

リンク:グラクソのプレスリリース

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ワーファリンの遺伝子検査は不要?

日本トリムの米国子会社が、ワーファリンの遺伝子検査の販売に苦戦しているようだ。無理もない。2013年のAHA米国心臓協会科学部会で発表された三本の前向き試験によれば、年齢や体重などの臨床的要素と遺伝子検査に基づいて治療開始時の用量を決定する手法は、何も考えずに決まった用量を投与するよりは優れているが、臨床的要素だけに基づいて決定する手法とは大差ない。費用と時間を掛けて遺伝子検査をしても、あまり価値が無いことになる。

数年前にMedicine Blogでプラビックス(clopidogrel)とCYP2C19多型との関連について取り上げたことがある。重要な学会・論文発表がある度にアップデートしたが、結局、明確な答えが得られないまま、議論や研究が下火になってしまった。プラビックスにせよ、ワーファリンにせよ、効果や副作用が代謝酵素の多型と関連しないはずはないのだが、個人差に関連する未知なものを含めた様々な要素の一つに過ぎず、医療において決定的に重要な要素ではないということなのだろう。

一円を笑う者は一円に泣くが、100円の飲料が101円になったからと言って一々気にはしていられない。但し、100万円が102万円になるのは話が少し違う。それでは、1000円が1020円の場合はどうか?結局、程度問題なのである。

ワーファリンは個人差が大きく、また、食物相互作用もあるので定期的に効き具合を検査して用量を変える必要がある。効きすぎると出血リスクが高まり、効かな過ぎると血栓性疾患のリスクが高まるからだ。治療開始当初は手探りになるので、結果的に過剰投与、過少投与のリスクが高まることになる。薬品の副作用による入院として一番多いのはアセトアミノフェンとワーファリンと言われており、有益な薬で服用患者が多いだけに、重要な課題になっている。

米国のワーファリンのレーベルによると、ワーファリンはS異性体とR異性体のラセミ体で、S異性体の方が抗凝固作用が2~5倍高い。S異性体を代謝する酵素の一つであるCYP2C9には多型があり、2型(アレル頻度はカフカス人の11%)や3型(7%)などを持つ人は1型だけを持つ人よりも代謝に時間が掛かる。また、ワーファリンの標的である蛋白複合体のVKORC1遺伝子の1636G>Aアレルを持つ人は、少ない用量で足りる可能性がある。

興味深いのは、FDAが、事前検査を義務付けも推奨もしていないことだ。遺伝子検査を行う場合と、行わない場合の夫々の用量決定方法を併記している。遺伝子検査のエビデンスがメタアナリシスだけなので、前向き臨床試験の結果が出るまでは医師の判断に委ねる姿勢なのだろう。

13年11月にAHA科学部会のレートブレーカーで発表され、New England Journal of Medicine誌に刊行された前向き試験三本の結果は意外なものだった。米国で実施されたCOAG試験と欧州で実施されたEU-PACT試験二本で、何れも、ワーファリン(一本はワーファリン誘導体)による治療を初めて受ける患者を対象に、臨床要素と遺伝子要素を考慮して開始用量を決定する群と臨床要素だけの群(EU-PACT試験の一本は年齢以外の臨床要素も配慮せず決まった用量で開始する群)のPTTRを比較した。

PTTRは、ワーファリンの効果の指標であるINRが望ましいレンジの中に納まっていた時間の比率を示す。高ければ高いほど、期中の過剰・過少服用リスクが小さかったことになる。

結果は、COAG試験では両群のPTTRに有意差は無かった。INRが10を超えたり、大出血を起こした患者の比率も大差なかった。但し、アフリカ系アメリカ人に関しては遺伝子検査を行った群の方が悪かった。EU-PACT試験では、臨床要素を配慮さえすれば遺伝子検査はやってもやらなくても大差ない、臨床要素を配慮しないのは不味い、という結果になった。

この三本の試験のデザインは十分ではない。PTTRは重要だが、本当に重要なのは大出血や脳梗塞のリスクであり、それを調べるには遥かに大規模な試験が必要だろう。それでも、複数の試験で同じような結果が出たことは重視せざるを得ない。ワーファリン治療を開始する前に遺伝子検査を行っても、手間や費用に見合った便益は得られないと考えざるを得ない。

リンク:米国のワーファリンのレーベル

リンク:2013年AHA科学部会のプレゼンスライド・アーカイブ(要登録)

リンク:COAG試験論文抄録(NEJM)

リンク:同、EU-PACT試験

リンク:同、EU-PACT固定用量対照試験

【新薬開発】


ALSの臨床試験がまたフェール

(2014年4月25日発表)

サイトキネティクス(Nasdaq:CYTK)は、tirasemtivの後期第二相ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験がフェールしたと発表した。ALSの臨床試験は殆どがフェールしており、一層の研究が望まれる。

同社によるとtirasemtivはカルシウム感受性を増強して筋骨格のトロポリン複合体を活性化する。前臨床や臨床初期試験で筋力を増強し疲労を緩和する作用が見られたようだ。今回の試験ではALSFRS-Rという機能評価スケールの変化を偽薬群と比較したが、平均で2.98ポイント低下と偽薬群の2.40ポイント低下と大差なかった(p=0.11)。呼吸機能など二次的評価項目の結果は区々だった。詳細は4月29日にAAN米国神経学会で発表される予定。

リンク:サイトキネティクスのプレスリリース

【承認申請】


アッヴィがC型肝炎の多剤併用療法を承認申請

(2014年4月22日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ABT-450などの開発品3品を慢性C型肝炎治療薬として承認申請したと発表した。一つはritonavir配合剤で、ribavirinを併用する方法も承認申請した模様なので、薬品数は3~4個だが実質的に4~5剤の併用療法となる。この多剤併用療法はFDAのブレークスルーセラピー指定を受けている。

奏効率は高く、I型感染者の殆どが奏功するが、新薬をふんだんに使うので薬剤費も殆どの患者が青ざめるだろう。ギリアッドのSovaldi(sofosbuvir)は12週間コースで84000ドルという信じられない価格で、14年第1四半期の売上高が23億ドルと、過去の全ての新薬と比べても空前の水準に達した。ファーマセットを110億ドルで買収して入手した薬なので高くしないとペイしないのだろう。

アボットの新薬もABT-450はEnanta社からのライセンス品だが、買収は少なくとも現時点では行っていないので、そこまで高くする必要はないはずだ。奏効率が高いと言っても、既存薬の組み合わせでも一定の患者には効くのだから、あまり高価にすると第二選択レジメンに格下げされかねない。

この3品は、ABT-450というプロテアーゼ阻害剤とritonavirの合剤、ABT-267(ombitasvir)というNS5A阻害剤、ABT-333(dasabuvir)という非核酸系ポリメラーゼ阻害剤で、全て経口剤。臨床試験ではribavirinを併用する群も設定されたが、奏効率は大差ないので、副作用を減らすために併用しない方が良いように見える。他の薬も含めて、全ての薬を併用する必要があるのか、もし一剤をオミットするとしたらどの組み合わせが至適なのか、検討の余地があるように思われる。

リンク:アッヴィのプレスリリース

キュービストが複合セファロスポリンを承認申請

(2014年4月21日発表)

キュービスト(Nasdaq:CBST)は、静注用複合セファロスポリンのCXA-201(ceftolozane/tazobactam)を米国でグラム陰性菌による複雑尿道感染症と複雑腹腔内感染症の治療薬として承認申請したと発表した。臨床試験では、既存の治療法と比べて奏効率が非劣性だった。下期にEUでも承認申請する予定。

ceftolozaneはアステラス製薬の創製で、キュービストは09年にCalixa Therapeuticsを買収して欧米などの権利を取得、13年には全世界での権利に拡大した。緑膿菌に対する活性が既存のセフェム系抗生剤より高い模様。QIDP指定を受けており、承認されたら特許期間が5年間、加算される。

リンク:キュービストのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがグラクソの抗癌剤などの承認を支持

(2014年4月25日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPが4月の会合でグラクソ・スミスクラインのMekinist(trametinib)の承認とバイエルのNexavar(sorafenib)やベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)の適応拡大承認に肯定的評価を出した。順調なら2~3ヶ月内に承認されることになるだろう。

MekinistはMEK1/2阻害剤で、V600変異型の切除不能・転移性黒色腫に用いる。BRAF阻害剤併用は認められなかったが、おそらくエビデンス不足が原因だろう。FDAは1月に併用と合わせて承認したので、EUでもやがて承認されるだろう。MekinistはBRAF阻害剤に反応しない患者の二次治療には効果が弱い模様なので、モノセラピーだけでは出番が限られるのではないか。

日本たばこの創製でGSKは06年にライセンスした。グラクソは腫瘍学製品をノバルティスに売却する予定。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:GSKのプレスリリース

Nexavarはアムジェンが買収したオニクスとの共同研究から生まれたVEGF受容体阻害剤で、腎細胞腫や肝細胞腫に承認されている。今回は分化甲状腺癌に対する有用性が認められた。進行が早い、局所進行性、あるいは転移性の癌で、放射性ヨウ素による治療に反応しない患者に用いる。VEGF受容体阻害剤が有効な癌だ。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:バイエルのプレスリリース

Pradaxaは経口直接的トロンビン阻害剤で、心房細動患者の脳梗塞リスク削減や、関節置換術後の深静脈血栓予防に承認されれているが、今回、深静脈血栓の治療と再発予防に用いることが支持された。Xa阻害剤も承認されているものがあるが、Pradaxaの場合は臨床試験のプロトコルに即して、治療開始当初は他の抗凝固剤を用い、6~11日後にスイッチする用法になるのではないか。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認】


FDAがイーライリリーの抗癌剤を承認

(2014年4月21日発表)

FDAは、イーライリリーの抗VEGFR-2完全ヒト化抗体、Cyramza(ramucirumab)を胃癌の二次治療薬として承認した。5-FUまたは白金系の化学療法に反応しない/再発した患者に用いる。致死的な出血のリスクが枠付警告された。

FDAのリリースはpaclitaxel併用試験の成功に言及しているが、今回はモノセラピーだけの承認。審査が間に合わなかったのだろう。モノセラピー試験のメジアン生存期間は5.2ヶ月、偽薬群は3.8ヶ月でハザードレシオ0.776、p=0.0473だった。p値があまりよくないので承認されるかどうか不安に思っていたが、paclitaxel併用試験が各9.6ヶ月、7.3ヶ月、0.807、0.0169という結果になりエビデンスが二本に増えたため承認に繋がったのだろう。

有害事象は高血圧、下痢、頭痛、低ナトリウム血症など。深刻な有害事象は貧血、腸閉塞など。臨床的に重要なもの蛋白尿、胃腸穿孔、点滴関連反応など。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:イーライリリーのプレスリリース

JNJの抗IL6抗体がキャッスルマン病に承認

(2014年4月23日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのSylvant(siltuximab)を多中心性キャッスルマン病の治療薬として承認したと発表した。キャッスルマン病というと日本では中外製薬のアクテムラを連想するが、SylvantはIL-6受容体ではなくIL-6に結合するキメラモノクローナル抗体。IL-6受容体はIL-6と複合体を形成して血液中にも分布していているので、似たようなものだ。多中心性はキャッスルマン病の特に重い病態で、米国の患者数は1100~1200人と推測されている。

JNJは抗IL-6完全ヒト化抗体のCNTO 136(sirukumab)でリウマチの第三相試験を実施中。他社の開発品も含めて、アクテムラ類似薬の開発が大詰めに入ってきた。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

今週は以上です。

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